『黄金バット』




            第十六話  竜巻を止めろ

 近頃日本の気候がおかしなことになっていました。
「何でこんなに竜巻が多いんだ?」
「大きな竜巻がしょっちゅう起きるな」
「何でも気象がそうした状況で」
「そのせいらしいがな」
 今回は怪人達の仕業ではない様です。
「暫くこの状況が続くみたいだし」
「被害が出ない様にしないとな」
「何かあってからじゃ遅い」
「備えあれば憂いなしだ」
「被害が出た時にどうするかだ」
「被災者や被災した建物のことを考えておこう」
「大きな竜巻が出た時の為に」
 皆はこんなことをお話していました、台風程ではありませんが竜巻も問題です。ですから皆備えを考えていました。 
 まだ竜巻での被害は出ていませんでした、ですが皆警戒はしていました。それは京都市でも同じでした。 
 市役所の人達は会議室においてです、その竜巻のことをお話していました。
「起こってからじゃ遅いですしね」
「京都市で起こった場合も考えておきましょう」
「竜巻注意報が出たらです」
「避難勧告も出しまして」
「大きなものでしたら学校の体育館や公民館に避難してもらって」
「被災した建物の修理のことも考えていきましょう」
「自衛隊や消防署の人達にも強力してもらいましょう」
 本当に竜巻、それも大きなものが出た時はです。
「とにかく今からです」
「今からどんどん考えていきましょう」
「そして竜巻が起こったら」
「その時はすぐに動きましょう」
 避難勧告やその後のこともというのです、そうしたお話をしていてでした。 
 実際に京都市でも竜巻への対策も検討されて決められました、そうして備えに入っていたまさにその時にです。 
 京都の気象局の人がです、京都市の気象状況を見て仰天して言いました。
「今日は大変なことになりそうです」
「大変なこと?」
「そういいますと」
「はい、今現在気圧配置等が日本全体で異常な状態にありますが」
 だから竜巻も多いのです。
「今日の京都市とその近辺はです」
「特にですか」
「異常ですか」
「はい、大型の竜巻が幾つも出来るかも知れません」
 この可能性を指摘したのです。
「ですから今のうちに対策を取るべきです」
「では竜巻注意報を出しますか」
「いや、警報の方がいいかも知れませんね」
「危険な地域にいる市民の人達には避難してもらって」
「自衛隊や消防署の出動も検討しましょう」
「何かあればすぐにです」
「すぐに動ける様にしましょう」 
 皆でお話してでした、そのうえで。
 この日京都市は竜巻に備えました、特に危険な地域の人達は実際に学校の体育館の建物等に避難しました。
 小学校の体育館の中で、です。まだ幼稚園位の小さな女の子がお母さんに聞きました。
「台風が来るの?」
「違うわ、竜巻が来るの」 
 そうだとです、お母さんは女の子に答えました。
「とても大きなね」
「だからなのね」
「そうよ、こうして今は体育館に避難しているの」
「そうなの」
「ここにいたら大丈夫だから」
 お母さんは女の子に笑顔を向けてこうも言いました。
「だから安心してね」
「うん、お母さんもお父さんもお兄ちゃん達もいるしね」
 女の子は自分の家族を見回して笑顔になりました。
「だったらね」
「そうよ、自衛隊や消防署の人達もいるし」
「今日はここで皆と一緒にいるのね」
「お握りを食べてね」
 お母さんは女の子の大好物のこの食べものも出しました、そうして自分もお握りを食べるのでした。他の人達も同じでした。
 避難した市民の人達は落ち着いていました、ですが。
 出動した自衛隊や消防署の人達は堤防や大事な建物を見て回って警戒していました、警察の人達もこうした時に悪いことをする人達に備えて待機しています。
 自衛隊の人達の中には銀閣寺の方にいる人達もいました、この近くにも大きな竜巻が出ると言われていたからです。 
 それで警戒していたのですが。
「若しあの台風が来たら」
「大変なことになりますね」
「その時は」
 隊長さんに部下の人達が言ってきました。
「銀閣寺にぶつかったら」
「庭園も荒らされましたら」
「本当に大変ですよ」
「ここは特別な場所ですから」
「そうだ、銀閣寺を守らないといけない」
 隊長さんは決死のお顔で言うのでした。
「守れるのならな」
「はい、可能な限りですね」
「銀閣寺自体もお庭も守りましょう」
「そしてそのうえで」
「何かあれば」
 こうお話してでした、そのうえで。
 自衛隊の人達は銀閣寺もお庭も必死に守っていました、相手が自然現象なので出来るかどうか不安でしたが。
 するとです、よりによってでした。その銀閣寺の近くにでした。
「竜巻が発生しました!」
「かなり大型です!」
 この報告が来ました。
「こちらに向かっているそうです!」
「それも一直線に!」
「何っ、それは大変だ!」 
 隊長さんもその報告を聞いて声をあげました。
「この銀閣寺の方に来ているか!」
「強さは小型の台風程とのことです!」
「大きさもかなりです!」
「そんなものがここに来たら」
 銀閣寺にとです、隊長さんは自分達の後ろに控える銀閣寺の見事な建物を見てそのうえでまた言いました。
「銀閣寺も庭園も」
「壊されますね」
「それも滅茶苦茶に」
「台風みたいな竜巻が来たら」
「それこそ」
「そうだ、しかし何としてもだ」
 隊長さんは部下の人達にさらに言いました。
「銀閣寺を守るんだ」
「はい、そうしましょう」
「銀閣寺は貴重な建物です」
「歴史と芸術そのものです」
「足利義政公が建てさせた」
「そうした建物ですから」
「そうだ、壊させる訳にはいかない」
 建物もお庭もです。
「絶対に、だからだよ」
「はい、本当にですね」
「どれだけ大きな竜巻でもです」
「銀閣寺は守りましょう」
「何があっても」
 部下の人達も強く言います、そしてです。
 そこにいた自衛官の人達全員で銀閣寺を守ろうと警戒していました、そこに本当に竜巻が来ました。見れば。
 もう竜巻とは思えない位の大きさでした、空まで届いていてです。
 凄まじい唸り声をあげていました、それを見てでした。隊長さんは真っ青になって言いました。
「何て竜巻だ」
「あの、凄いですね」
「とんでもない大きさですね」
「唸り声みたいな音を立てて」
「あんなのが銀閣寺に来たら」
「もうそれこそ」
「そうだ、怯んではいけない」
 何があってもというのです。
「銀閣寺を守るぞ」
「はい、何があっても」
「銀閣寺を守りましょう」
「命にかえても」
「銀閣寺は日本の財産だ」
 そう言ってもいい位のものだからです。
「絶対に守るぞ」
「そうしましょう」
「何があっても」
 皆必死にです、銀閣寺を守ろうとしていました。
 しかし台風はあまりにも大きくて普通の人達ではどうにもならないのは明らかでした。しかしそこにでした。
 突如としてです、あの声が聞こえてきました。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「!あの声は!」
「まさか!」
 その声は銀閣寺の方からでした、自衛官の人達はそちらを見ますと。
 銀閣寺の一番上のところにでした、黄金バットがいました。いつもの様に仁王立ちでマントをたなびかせ両手は腰にあります。
 そしてです、そこから颯爽と飛び上がってでした。そうしてです。 
 竜巻に向かっていってでした、その右手にステッキを出して先から銀色に輝く光線を放ちました。その光線がです。
 竜巻を直撃しました、すると。
 巨大な竜巻が一瞬にしてでした、消え失せてしまいました。自衛官の人達もそれを見て目を丸くさせました。
「あの竜巻が一瞬でか」
「一瞬で消えてしまったぞ」
「いつもながら何て力だ」
「何という不思議で凄い力なんだ」
 誰もが驚きました、そして。
 竜巻を消し去った黄金バットは何処かへと飛び去ってしまいました、やはりいつもの様に誰も知らない場所に。
 自衛隊の人達はその黄金バットが飛び去った方を見て暫し呆然となっていました、ですが。
 暫く経ってからです、隊長さんが言いました。
「これはだ」
「はい、またですね」
「黄金バットが助けてくれましたね」
「銀閣寺を」
「そうしてくれましたね」
「そして我々もだ」
 隊長さんは部下の人達にこうも言いました。
「助けてくれた」
「若し竜巻があのまま来ましたら」
「その時は」
「もうどうなっていたか」
「それをだ」
 まさにというのです。
「黄金バットは助けてくれたんだ」
「まさに風の様に出て来て」
「そして不思議な凄い力でですね」
「しかもそのことを誇ることなく」
「何処かに去って行きましたね」
「正体は誰も知らないが本当に素晴らしい」
 隊長さんのこのお言葉はしみじみとしたものでした。
「まさに我々の救世主だ」
「全くですね」
「何処の誰かは誰も知らないですが」
「黄金バットは我々の救世主です」
「危機に現れてくれて救ってくれる」
「最高のヒーローです」
「全くだ、そして」
 見ればです、竜巻が消えて。
 それまで暗く重くまるでこの世の終わりの様になっていたお空がすっかり晴れ渡っていました、まるで台風が終わった後の様に。
 そのお空を見てです、隊長さんは言いました。
「空も変わったな」
「警報は解除されました」
「全ての地域の警報、注意報が今しがた解除されました」
「日本の気圧配置も変わりました」
「通常に戻りました」
 次々とです、報告が届きました。
「もう竜巻は起こらないです」
「これでもう」
「そうか、全て終わった」
 しみじみとしてです、隊長さんはこうも言ったのでした。
「今回の危機はな」
「最後に黄金バットに救われて」
「そうして」
「そうだな、危なかったが助かってだ」
 そしてというのです。
「本当によかったな」
「全くです」
 自衛官の人達は黄金バットが飛び去ったその方を見ていました、晴れ渡った青空には雲一つなくです。何処までも澄んでいました。


第十六話   完


                       2017・2・24



今回は自然災害か。
美姫 「みたいね」
敵が竜巻を起こしたのかと思ったけれど。
美姫 「違ったみたいで良かったわね」
とは言え、大きな竜巻みたいだったから、直撃してれば危なかったようだが。
美姫 「まさか、竜巻を一瞬で吹き飛ばすとはね」
流石だな。
美姫 「無事で何よりだわ」
うんうん。
美姫 「投稿ありがとうございました」
ありがとうございます。



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