『黄金バット』




            第二十話  フーマンチュー博士奈良での死闘

 今奈良の街は普段の静けさは何処かに完全に吹き飛んでしまっていました、何とあのフー=マンチュー博士が突如として奈良の街、それも市民達だけでなく鹿達の憩いの場でもある奈良公園に姿を現したのです。
 突如現れた博士に皆は仰天しました。
「な、何だ!?」
「フー=マンチュー博士が出たぞ!」
「いきなり何の用だ!」
「また悪いことをしに来たのか!?」
 奈良の人達も観光客の人達もびっくりして博士の周りから去りました、鹿達も危険を察して一斉にそうしました。
 博士の周りには誰もいなくなりました、そうして博士の動向を見守っていますと。
 博士はゆっくりと東大寺の方に歩いていってその正門の前まで来ると空に舞い上がりました、そのうえで東大寺正堂の屋根の上に立って言いました。
「明日の昼の十二時にこの正堂を完全に破壊する!」
「な、何だって!?」
「東大寺の正堂をか!」
「あの正堂には大仏さんがあるんだぞ!」
「奈良の大仏さんが!」
 皆は博士の言葉に仰天しました。
「駄目だ、そんなことは許さないぞ!」
「大仏さんは奈良の誇りだ!」
「日本の誇りなんだぞ!」
「神聖な大仏さんを護れ!」
「そんなことはさせないぞ!」
 皆博士の言葉に何とかしようと決意しました、それで奈良県の知事さんもすぐに警察の人達を総動員して自衛隊の人達も呼んでです。
 東大寺にいる博士を包囲しました、博士は今も本堂の屋根の上に悠然と立っています。
 夜になり朝になっても博士はそこにいます、動く気配はありません。
「今日の十二時か」
「その時になればか」
「博士は本堂を破壊するのか」
「そして大仏さんも」
「そうするつもりなのか」
 皆その博士を見て固唾を飲んでいます。
「どうすればいいんだ」
「ここは」
「派手な攻撃すればその本堂も巻き込んでしまうぞ」
「かといって生半可な攻撃でやっつけられる相手じゃないぞ」
「フー=マンチュー博士も魔人の一人だ」
「魔人がそんな簡単にやっつけられるものか」
「しかし何とかしないと本堂が破壊されてしまう」
 皆何とかしたいけれどどうにも出来ない状況でした。
「魔人は言ったことは本当にやる」
「あの博士も同じだ」
「だから今日の十二時になれば本当にだ」
「博士は本堂を破壊してしまうぞ」
「あの大仏さんも何もかもがだ」
「歴史ある素晴らしいものが破壊されてしまう」
 皆困り果てていました、その中で。
 奈良県の知事さんはご自身が現場に行ってです、決死の顔で言いました。
「説得が通じる相手じゃない」
「はい、あの博士は」
「そうした相手ではないです」
「相手は魔人です」
「魔人に説得は通用しません」
「通用するなら最初からしていません」
 その能力を使って悪いことをすることはです、見れば東大寺の周りに無数のキョンシー達が出て来ています。キョンシーはとてつもない怪力を持っているので彼等のそれで本堂を破壊してしまうつもりでしょうか。
 そのキョンシー達も見てです、奈良県の役人の人達は知事さんにさらに言いました。
「キョンシー達も大勢います」
「若し十二時になれば」
「キョンシー達を暴れさせて本堂を破壊してしまうのでしょう」
「勿論本堂の中の大仏さんも」
「そして四天王の像も」
「大変だ、あんなに大勢のキョンシーがいれば」
 それこそとです、知事さんもキョンシー達を見て思いました。
「本堂なんてあっという間にだ」
「破壊されてしまいますね」
「それも何も残らないまでに」
「キョンシーには普通の銃や武器は通じないですし」
「どうすれば」
「我々が何とか」
 ここで東大寺のお坊さん達が言ってきました、他ならぬこの人達のお寺のことなので一番心配しています。
「キョンシー達を退けます」
「では」
「はい、キョンシーは魔物です」
 言うならば吸血鬼です、キョンシーは人の血を吸う中国の妖怪なのです。死者からなるのでアンデットの中に入ります。
「ですからここはです」
「貴方達がですか」
「これから我々全員でお経を唱えます」
 東大寺のお坊さん全員でというのです。
「そうします、そうしてです」
「キョンシー達をですか」
「退けます、お任せ下さい」
「しかしです」
 知事さんは真剣な顔でお坊さん達に言いました。
「キョンシー達の数はあまりにも多いですが」
「しかしやらないとどうにもなりません」
 お坊さんの中で一番お年寄りの人が答えました。
「ですから」
「お経を唱えてですか」
「キョンシー達を退け御仏をお護りします」
 東大寺の大仏さんをというのです、こう言って東大寺のお坊さん皆でお経を唱えてキョンシー達を退けようとしましたが。
 そこにです、何と春日大社や奈良市の神社仏閣から多くの宮司さんやお坊さんが集まってきました。巫女さんや尼僧さんそれに天理教の人達に奈良市にあるキリスト教の教会の神父さんや牧師さん達まで来ています。
 その人達がです、東大寺のお坊さん達に言いました。
「及ばずながら助力します」
「皆で祈り唱えましょう」
「神仏の言葉を」
「そうしてキョンシー達を退けてです」
「本堂も大仏さんも護りましょう」
 こう言うのでした。
「皆で力を合わせればです」
「それは大きな力になる筈です」
「ですからここはです」
「宗派や宗教の違いなぞありません」
「皆でキョンシー達を退けましょう」
「おお、いいのですか」
 東大寺の一番年配のお坊さんも他のお坊さん達も驚いて集まってきた人達に応えました。
「貴方達は直接関係ないというのに」
「そうした問題ではありません」
「奈良の大仏は奈良ひいては日本を護ってくれています」
「その大仏さんを護らずしてどうするのですか」
「日本を護ってくれている大仏さんは我々が護りましょう」
「そうあるべきです」
「そうですか、では」
 東大寺のお坊さん達も感激して頷きました、そしてでした。
 奈良のあらゆる宗派、宗教の人達が思いを一つにして祈り唱えました、するとキョンシー達は次々と崩れ落ちていき灰となって消えていきました。邪悪なキョンシー達が神仏の力で浄化されたのでしょうか。
 そうして十二時前にはです、キョンシー達は一人もいなくなっていました。知事さんはそれを見て唸りました。
「皆が力を合わせればか」
「はい、それによってですね」
「あれだけのキョンシー達も退けられる」
「全員消え去りましたね」
「ではこれで」
「後はですね」
「あの博士だけだ」
 博士は今も本堂の屋根の上にいる博士を見上げました、キョンシー達は消えても博士は悠然としています。
「とはいってもあの博士もな」
「はい、非常にです」
「強力な相手です」
「あの博士自身をどうにかしないと」
「どうしようもありません」
「そうだ、あと少しで十二時だ」
 知事さんは自分の左手の腕時計を見ました、もう十一時四十五分を回っています。本当に十二時まであと少しです。
「今何とかしないと」
「どうしましょう」
「あの博士自体は」
「銃では倒せません」
「ミサイルなんて使っても無傷でしょうし」
「ましてやミサイルなぞ使えば」
 自衛隊の人達が既にそうしたものを撃つ用意もしています、お空にはヘリもあります。
「本堂も巻き込んでしまいます」
「ですから迂闊には攻撃出来ません」
「一体どうすればいいでしょうか」
「博士自体は」
 皆どうしようかと思っていました、そうこうしているうちに時間ばかりが過ぎていきます。ですが十二時まであと少しとなったところで。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
 あの高笑いが聞こえてきました、そして皆がその笑い声がした東大寺の本堂の隣を見るとそこにでした。
 黄金バットがいました、マントをたなびかせ両手を自分の腰の横に置いてそのうえで高笑いをしています。
 その黄金バットを見てです、皆は言いました。
「黄金バットだ!」
「今回も来てくれたのか!」
「魔人を退けに」
「我々を助けに来てくれたんだ!」
 皆その黄金バットを見て思いました、そして黄金バットはです。
 先がレイピアの様に尖ったステッキを持って空に舞い上がりました、そうして博士のところに飛んで行ってです。
 宝剣を出して迎え撃つ博士と一騎打ちを演じました、一騎打ちは暫く続きましたがそうしているうちにでした。
 十二時をとっくに過ぎてしまってです、博士もこのことに気付いて言いました。
「十二時を過ぎた、それで目的を達成出来なかったからな」
「去るというのか?」
「魔人は言ったことは絶対に守るからな」
「自分が言ったことを必ずやろうとするのが魔人だ」
「悪いことでもそれは守る」
「それが出来ないと諦めて去る」
「それが魔人だからな」 
 皆もその魔人を見て思うのでした。
「だからか」
「ここは帰るのか」
「諦めて」
「そうしてか」
 博士は皆に答えませんでした、ですが黄金バットとの戦いを中断して黄金バットにまた会おうと言ってでした。
 今度は筋斗雲を出してそれに乗ると何処かに飛び去ってしまいました、博士がいなくなると黄金バットもでした。
 何処かへと飛び去ってしまいました、こうして東大寺の大仏さんの攻防は終わりました。そうしてでした。
 知事さんは危機が去った東大寺の本堂そしてその中に鎮座している大仏さんを見て東大寺を守ろうとしていた皆に言いました。
「黄金バットに助けられたな」
「はい、まことに」
「本当によかったです」
「あと少しで危ないところでした」
「フー=マンチュー博士に本堂を破壊されていました」
「大仏さんも何もかもが」
「そうならなかったのは神仏に仕える人達が祈り唱えてくれて」
 そうしてキョンシー達を成仏させてというのです。
「黄金バットもいてくれてだ」
「そうしてですね」
「今回の危機は退けられましたね」
「一時はどうなるかと思いましたが」
「そうなる、本当にな」
 それこそというのです。
「もし東大寺の人達が立ち上がらず他の神社仏閣の人達も駆け付けてくれずな」
「そうしてですね」
「黄金バットが来てくれないと」
「その時はですね」
「大仏さんはなくなっていましたね」
「今頃は」
「そうなっていた、今回立ち上がってきてくれた人達皆にだ」
 神社仏閣の人達にも黄金バットにもというのです。
「奈良県知事として感謝する、今は去ってしまった黄金バットにもな」
「何処から来て何処に去るのかわかりませんが」
「その正体さえも」
「それでもですね」
「感謝せずにはいられませんね」
「心から感謝する」
 こう言うのでした、黄金バットが去った後の奈良のお空は何処までも青く澄んでいました。危機が去った後には清らかなお空がありました。


黄金バット第二十話   完


                  2017・12・21



今回は博士の登場。
美姫 「場所は奈良だったわね」
ああ。今回はキョンシー退治は皆で。
美姫 「でも、博士の相手は黄金バットじゃないとね」
だな。今回も無事に黄金バットによって助かった。
美姫 「良かったわね」
投稿ありがとうございました。
美姫 「ありがとうございました」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る