『黄金バット』




            第二十六話  落雷を前にして

 この日千葉マリンスタジアムではとあるアイドルグループのコンサートが行われていました、球場は今日はマリーンズサポーターではなくアイドルグループのファン達で一杯でした。
 グループの歌とダンスが球場の熱狂を湧き起こしファン達も熱い声援を送っています、ですがグループの曲が一曲終わった時にです。
 ふとです、ファンの人が夜空を見上げて言いました。
「あれっ、おかしいな」
「どうしたんだよ」
 隣の人がファンに尋ねました。
「一体」
「いや、今夜の千葉の天気予報は快晴だったよな」
「ああ、そうだよ」
 その通りだとです、隣の人は答えました。
「もう雲一つないってな」
「そう出てたよな、けれどな」
 ファンの人は自分の場所から夜空を見上げたまま言うのでした。
「雲が増えてきたぞ」
「あっ、そういえばな」
「大丈夫か?降らないよな」
「それ心配だよな」
「ああ、降るならまだしもな」
「ここはマリンスタジアムだからな」
 それでとです、隣の人も応えました。
「それこそ急にな」
「気候が変わるからな」
「ああ、風だって変わるしな」
 マリンスタジアムの風の強さは有名です、この風をどう使うかがこの球場で試合をするにあたってとても大事なことだと言われています。
「そうなるからな」
「だからだよ」
 それでというのです。
「不安だな」
「急に雨が降ったりか」
「霧が出ることもあるしな」
「それでシリーズで一回試合がコールドになったしな」
 阪神との日本シリーズです、このシリーズのことは今も語り草になっています。
「雨とか霧とかな」
「出るかも知れないな」
「それが心配だな」
「終わるまで何もないといいな」 
 こう思うのでした、本当に雨や雪が降らないならいいとです。
 ですがコンサートが進む間にお天気はどんどん悪くなってです、夜空の雲が星空を完全に覆ってしまい。
 雨は降りませんが徐々にでした。
 ゴロゴロと鳴りだしました、それでなのでした。
「雷か?」
「雷落ちるのか?」
「本当にコンサート終わるまで待ってくれよ」
「あと少しだぞ」
「アンコールだけだぞ」
 もう歌うと発表している曲は全部終わっています、本当に後はアンコールだけです。それで皆思うのでした。
 ですがそこにです。 
 夜空に稲光が見えていよいよという気配になってきました、こうなるとコンサートを動かしているスタッフの人達も心配になってきました。
「まずいな」
「後はアンコールだけなのに」
「もたないか?」
「ここまできて中止にはしたくないぞ」
「多少の雨ならいいが」
「大雨や雷がひっきりなしに落ちたら」
「そうなったら」
 あと少しで終わるコンサートを中止にしないと行けない、こう思ってです。
 スタッフの人達もファンの人達と一緒に不安で仕方なくなっていいました、誰もが不安になっていました。
「千葉マリンスタジアムだからな」
「ここの気候は本当に変わりやすいんだ」
「悪くなる時は本当に悪くなる」
「風が強いだけじゃないんだ」
「凄い濃霧が出る時もある」
「雨や雷だってあるんだ」
 大雨や大雷の可能性もあるというのです。
「本当にどうなるんだ」
「もう少し待ってくれ」
 こう思っていても夜空からはゴロゴロと不気味な音と稲光が見えてきました、それでいよいよアンコールがはじまろうという時に。
 大雨と大雷の音が聞こえてきました、そして一斉にでした。
 千葉マリンスタジアムに降り注ごうとしてきました、避雷針があるので落雷を受ける心配はなくてもです。
 それでもです、とんでもない音と共に雨と雷が出て来て皆もうコンサートはおしまいだと思いました。
 ですがここで、でした。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
 この笑い声と共にです。
 チバマリンスタジアムの一番上に黄金の姿をした怪人が現れました、その怪人こそは。
「黄金バットだ!」
「黄金バットが出て来たぞ!」 
 黄金バットは両手を腰の横に当てたいつものポーズで立っていました、そして右手からステッキを出してです。
 そのステッキを天高く掲げますと。
 コンサート会場である球場を襲っていた大雨と雷が全てステッキの上に落ちました。そうしてでした。
 雨も雷もなくなりました、一瞬とはいえ大雨なので会場も皆も濡れてしまいました。ですがそれでもです。
「雨は降らなくなったぞ」
「黄金バットが雨も雷もステッキで受けてくれたからだな」
「コンサートは最後まで続けられるぞ」
「最後の最後まで」
 アンコールが終わるまでとです、皆このことがわかりました。
 そしてアンコールは無事に行われてでした、コンサートは無事に終わりました。それを受けてでした。
 皆コンサートが終わってアイドルグループの人達が全員ステージに出て笑顔で言いました。
「ファンの皆さんスタッフの皆さん黄金バット有り難う!」
「お陰で最高のコンサートを最後まで出来ました!」
 言ったのはお礼の言葉でした、そしてです。
 ファンの皆もスタッフの皆も黄金バットにお礼を言いました、ですが。
 黄金バットはコンサートが終わるとでした、何処かへと飛び去ってしまいました。そして皆で思うのでした。
「皆を助けてくれてもそれは当然で」
「誇ることはしない」
「だからもう去ったんだな」
「僕達の他に困っている人達を助ける為に」
「その為に」
「何で素晴らしいヒーローなんだ」
 心から思うのでした、誰もが。
「あれこそが本当のヒーローだ」
「皆が困っている時に現れて助けてくれる」
「そしてまた困っている人達を助けに行く」
「黄金バットこそが本当のヒーローだ」
「何と言っても」
 皆心から思うのでした、そして最後の最後までコンサートが行われた千葉マリンスタジアムを後にするのでした。千葉にまた雨と雷が降ったのは明け方近くになってからで明け方まで降って静かに止みました。


黄金バット  第二十六話   完


                   2019・1・6








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