『黄金バット』




            第三十四話  メンインブラック和歌山城の攻防

 この時まで和歌山はとても平和でした。
 ですが突如です、和歌山城の天主閣の屋根の上に黄金バットが出てきました。皆黄金バットを見て首を傾げさせました。
「どうして黄金バットが出て来たんだ?」
「また急に」
「今は災害も起こっていないし魔人も出ていないのに」
「どうしてなのかしら」
 皆その黄金バットを見て首を傾げさせました、それは和歌山市の市長さんも同じでした。市長さんはテレビで和歌山城の天守閣の最上階の屋根の上に両手を腰に当てて仁王立ちしている黄金バットを観つつ言いました。
「黄金バットは何をしたいんだろうか」
「わからないですね」
「いつもは災害が起こったり魔人が出てきたら姿を表しますけれど」
「それで困っている人達を助けてくれますけれど」
「どういうつもりでしょうか」
「今回は」
「それにどうして和歌山城なんだろう」
 市長さんはまた首を傾げさせて言いました。
「それも気になるよ」
「そうですよね」
「それがわからないですよね」
「一体何を考えているのか」
「ただ黄金バットはそこにいるだけですし」
「だから余計にですね」
「わからないですね」
 市役所の人達も首を傾げさせました、本当にどういうつもりなのか誰もわかりません。黄金バットはお昼に姿を表しましたが。
 天守閣から全く動きません、そうして夕方もそこにいて夜もでした。皆夜の天守閣の上に黄金色に輝く黄金バットを観てまた言いました。
「夜もいるけれど」
「ずっといるのはどうしてなんだ?」
「今もいる理由は」
「どういうつもりなのかしら」
 本当にわからなくてです、和歌山だけでなく日本の誰もが黄金バットがずっと和歌山城の天主閣の屋根の上にいるのか考えていました。インターネットも巷でもあれこれとお話する人が沢山いました。ですが。
 その中で、です。ふと。
 黄金バットは右手を上に突き出しました、そこには彼がいつも持っているステッキがあって宝玉が先にあります。
 そのステッキにです、ふとです。
 とんでもない量の水が注がれて宝石に受け止められました。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
「何だあの水は」
「空から来たぞ」
「一体どういうことなんだ」
「あの水は何なんだ」
 皆その水を見て何かと思いました、黄金バットは笑いながらその水を受け続けています。そしてです。
 水が終わって黄金バットがステッキを持つ手を下した時に彼の前にある男が姿を現しました。宙に浮かんでいるその男は誰かといいますと。
「メンインブラック!?」
「間違いないぞ」
「黄金バットの次はあいつか」
「あいつが出て来たんだ」
 皆その彼を見て言いました。
「となると」
「今のお水はまさか」
「メンインブラックの力か」
「突如大雨を降らして和歌山市を水浸しにしてその中に沈めるつもりだったが」
 メンインブラックは自分の前に立つ黄金バットを見据えて自分が何をしようとしていたのかを言いました。
「まさか先にここに来て私の雨をステッキで受け止めて防ぐとはな」
「・・・・・・・・・」
「流石黄金バットだ」
 その黄金バットに言います、黄金バットは何も言いませんがそれでも彼に言うのでした。
「見事、だが私もそれだけで終わりはしない」
「・・・・・・・・・」
「次は私が相手をしよう」
 メンインブラックはこう言うとでした、右手にです。
 剣を出しました、そうしてです。
 黄金バットに向かいました、黄金バットもステッキの先の尖った方をフェシングの様に持ってです。
 和歌山城の天主閣上空で激しい一騎打ちに入りました、王銀バットもメンインブラックもお互いに一歩も譲らず一騎打ちは五分と五分の勝負を続けました。ですが。
 夜が更けて明け方近くになり空が白くなってくるとでした。メンインブラックは忌々し気に言いました。
「これ以上闘っても意味がない、今回も貴様の勝ちにしておこう」
「・・・・・・・・・」
「雨は止められて一騎打ちもこの通りだ、忌々しいが敗北を認める」
 何も語らない黄金バットに言うのでした。
「だが次こそは必ず私が勝つ」
「・・・・・・・・・」
「その時までさらばだ」
 最後にこう言ってでした、メンインブラックは影が光を受けた時の様に姿を消しました。そうしてでした。
 黄金バットはメンインブラックが姿を消すとそれを見届けたかの様に昇りはじめた朝日に向かって飛び立ちました。和歌山城の闘いはこれで終わりました。
 闘いが終わってからです、人々は言いました。
「そういうことか」
「黄金バットはメンインブラックが和歌山で大雨を降らせることを事前に察していたんだ」
「それで待っていたんだ」
「それでお昼から和歌山城にいたんだ」
「大雨が来ることを」
「そういうことだったんだな」
「何でいるのかと思っていたら」
 しみじみとして思い言うのでした。
「成程な」
「魔人の行動を今回は先に読んだんだな」
「そんなことが出来るなんてな」
「流石黄金バットだ」
「今回も黄金バットに助けられたな」
「本当によかったよ」
「皆で黄金バットに感謝をしよう」
 市長さんも言ってでした、そうしてです。
 皆で黄金バットに感謝の言葉を贈りました、人々を助けてくれた素晴らしいヒーローに対して。


黄金バット第三十四話   完


                2020・5・10








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