『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                            第十話  張飛、また馬超と会うのこと

 関羽達は洛陽に入った。しかしそこは。
「ううむ」
「ここは一番酷いのだ」
 関羽も張飛も洛陽の街を見て顔を曇らせていた。
「どうなのだ?この寂れようは」
「寂れるというか荒れているのだ」
 店は何処も荒れており行き交う人々の顔も暗く貧しい身なりである。そんな街中を見てだ。一行はその顔を曇らせていたのである。
「袁紹殿や董卓殿のところは栄えていたのにな」
「それにだ」
 キングも言ってきた。
「曹操だったな。そこの領地もよかったが」
「ええ、もうかなり栄えていてね」
「こことは全く違いました」
 舞と香澄もそれを言う。
「こんな荒れ果てた様子ではなかったわよ」
「もう全く別でした」
「都は今荒れている」
 趙雲も言ってきた。
「皇室の外戚にして大将軍の何進殿と宦官達の争いが続いている」
「それで内政にまで手が回っていないのだな」
「そうだ」
 こう関羽に対しても答える。
「その通りだ。その結果だ」
「そうか」
「政治は行われているがそうした政治は行われてはいない」
 こうも言うのだった。
「それが影響してだ。徐州や益州、交州にも牧が回されていない」
「大変な状況なんですね」
「そうだ、曹操殿や袁紹殿は何進将軍の側だが」
 ナコルルに対しても話す。
「しかし二人共それぞれの領地で内政や異民族の討伐に専念している。宦官達を抑えるだけの武力は今の大将軍にはないのだ」
「董卓殿はどうなのだ?」
「あの方がこうした抗争を好まれるか?」 
 また関羽対して述べた。
「思わないな」
「そういうことか」
「袁術殿は自分のことにかかりきりだ。そして江南の孫策殿は」
 他の領主達の話も出た。
「江南、揚州全域の掌握に懸命になっておられるという。それに」
「それに?」
「あの地域にも異民族がいる」
 異民族のことも言うのだった。
「山越がな。そうした意味では袁紹殿と同じだ」
「ああ、袁紹ね」
 舞も彼女の名前は知っていたのだった。
「確かあれよね。北の方の」
「そうだ、今四つの州を掌握し異民族の討伐を続けている」
 それが今の袁紹の動きだった。
「匈奴やそうした者達をだ。もっぱら武力は使われずに帰順させそのうえで鍬を持たせているらしい」
「あれっ、異民族を討伐しないのですか?」
 香澄は趙雲の話を聞いてふと問うた。
「学校の授業で習ったことですけれど漢王朝も異民族には苦労していたって」
「それは事実だ。だが何も戦うだけではない」
 趙雲はその香澄にも話した。
「帰順させ自らの中に取り込むのも手だ」
「そうなんですか」
「袁紹殿はそれにより多くの民を手に入れ」
 さらにであった。
「兵も手に入れている。異民族の精悍な兵をだ」
「じゃあ袁紹はかなり強くなっているのだ?」
「そうだな。匈奴達の兵が加われば強いな」
 関羽もそれを言う。
「四つの州に異民族の兵が加われば」
「もう敵なしなのだ」
「しかし曹操殿もその基盤を確かなものにしてきている」
 趙雲は曹操のことも話した。
「あの方の掌握している二つの州は元々豊かな場所だ。袁紹殿に次ぐ勢力を築き上げることも可能ではある」
「そのお二人が何進将軍についているのは将軍にとっては有り難いですか?」
 ナコルルがふと言った。
「それなら」
「そうかもな。だが宦官達は宮廷に隠然たる勢力を誇る」
 趙雲の次の話は宦官についてだった。
「帝の御傍にいつもいる。そして陰謀にも長けている」
「予断は許さないか」
 関羽もその事情はわかった。
「宮廷は混沌としているのだな」
「それが今都や司隷にも及んでいる」
 そうなっているというのだ。
「それでこの有様だ」
「そうなのか」
「けれどそれでもなのだ」
 張飛はそれでも明るいものを見つけてはいた。
「ちゃんと催しも開かれているのだ」
「あっ、これですね」
 ナコルルは街の壁に貼られている掛け紙を見た。そこには三人の可愛らしい女の子達の絵が描かれている。そこにはこう書かれていた。
「数え役満☆シスターズですか」
「張三姉妹なのだ」
 張飛もその紙を見て言う。
「歌を歌うみたいなのだ」
「歌か。そういえば」
 関羽が歌と聞いてある者達を思い出した。
「アテナ殿達も元気かな」
「むっ、アテナ達とも会っていたのか」 
 キングは今の関羽の言葉にすぐに顔を向けた。
「そうか。この世界に来ていたのか」
「そうだ。いい人達だった」
 関羽は微笑んでこのことも語った。
「また会いたいものだな」
「縁があれば会えるわよ」 
 舞は明るく話した。
「その時を楽しみに待っていればいいわ」
「そういうことですね。それで」
 ナコルルの言葉だ。
「路銀はどうしますか?」
「そうですね。とりあえず何処か働かせてもらえる場所は」
「若しくはまた歌うか」
 関羽はこれを考えた。
「そうするか」
「それもいいけれど」
 ここで舞が提案した。
「私達の芸を見せるのもいいんじゃないかしら」
「武芸やそういったものをか」
「ええ。それでもお金は貰えそうよ」
 こう言うのである。
「例えば私の扇とか火とか使った忍術とか」
「そうですね。私も技を出せますし」
「ママハハもいます」
 香澄とナコルルも芸を持っていた。
「それを皆さんに見せれば」
「確かに暗い街ですけれど仮にも都ですし」
「そうだな。悪くないな」
 趙雲も己の左手を顎に当てて述べた。
「では今回はそれでいくか」
「そうですね。後は私の笛も」
 ナコルルは笛も持っていた。
「色々ありますから」
「よし、決まりだな」
 関羽が頷いた。
「それでな」
「よし、それなら」
「そうしようか」
「鈴々も何か探すのだ」
 張飛は自分で探すと述べた。
「また武闘大会があればそれで優勝するのだ」
「そうだな。ではそうしてだ」
「皆で路銀を手に入れるのだ」
 こう話をしてそれぞれ路銀を手に入れる為に動きだした。そしてその張飛はである。都の中を少し歩いてある立て看板を見つけた。
「ええと、何々」
「大食い大会か」
 その横で声がした。
「本日開催、飛び入り歓迎か」
「よかったですね」
 声は一つではなかった。
「路銀手に入るわよ、姉様」
「そうだな、蒲公英」
「その声は」
 張飛の覚えている声だった。それを見ると。
 馬超がいた。そしてその横には小柄で可愛らしい少女がいた。白い半ズボンにオレンジの上着、肩と手の覆いは黒だ。茶色の髪を左で縛っている。明るく利発そうな顔をしており目は茶色である。
 その少女を見てだ。張飛は少し怪訝な顔になり尋ねた。
「御前は誰なのだ?」
「馬岱です」
 少女は明るく名乗ってみせた。
「馬超姉様の従妹なんです」
「あたしあれから涼州に帰ってさ」
 馬超が事情を話してきた。
「母ちゃんのことな。そうしたら一族も納得してくれてな」
「殆どの人はそのまま残って袁紹さんにお仕えしたんですけれど」
「あたしとこいつはさ。それも何かって思ってさ」
「武者修行をしています」
「そういうことさ。宜しくな」
「そうだったのだ」
「まあ路銀には困ってるな」
 このことも言う馬超だった。
「それで大食い大会にはな」
「鈴々も出るのだ」
「まあ優勝するのはあたしさ。食べる方にも自信があるんだよ」
「姉様ったら凄いのよ」 
 馬岱が両手を拳にして語る。
「もう馬みたいに食べるんだから」
「それって褒めてるのか?」
「一応は」
 こう従姉に返す馬岱だった。
「褒めてるつもりよ」
「そうか?」
「そうよ。私はあまり食べられないから」
 出ないというのだ。
「姉様、頑張ってね」
「負けないさ、絶対にな」
「それは鈴々の台詞なのだ」
 張飛も強気で返す。
「何があっても」
「よし、勝負だ」
「それならなのだ」
 こうして大食い大会に出た。二人はあらゆるものを凄まじい勢いで食べていく。
「ラーメンに水餃子に豚足に」
「焼売に炒飯、メニューも多いのだ」
「しかしな」
 馬超がここで言う。
「あたしは食べることで負けたことはないんだ!」
「鈴々もなのだ!」
 二人は横に並んで座って貪っていた。
「絶対に勝つ!」
「負けないのだ!」
「さあ、いよいよ最後のメニュー!」
 食べているうちにであった。今は唐揚げを食べていた。その前は青梗菜であった。とにかく何でも貪っている二人であった。
「饅頭です!」
「むっ、饅頭!?」
「大好物なのだ!」
 二人はそれを聞いても動じていない。
「それならな」
「どんどん来るのだ!」
「姉様頑張れ!」
 観客の席から馬岱の声がする。
「おしっこは漏らしても食べることは残すな!」
「おしっこは関係ないだろ!?」
 すぐにむっとした顔で返す馬超だった。
「全くよ」
「姉様は着替えるともう凄く奇麗なんだよ」 
 馬岱は勝手にそんな話もした。
「ワンピースとゴスロリも凄いんだから」
「ああ、そういえばそうだよな」
「あの娘かなり可愛いよな」
 他の観客達も馬超の優れた容姿を見て言う。
「スタイルもいいしな」
「美人だよな」
「そうよ。セーラー服もブルマもビキニも」
「この時代そういう服あったのかよ」
 誰かが突っ込みを入れた。
「どういう世界なんだ?」
 見れば白い髪に赤い服と白いズボンの逞しい男である。
「まあ楽しい世界なのは確かだな」
「凄く似合うんだから」
 馬岱の言葉は続く。
「武芸と食べるだけじゃないのよ」
「鈴々はどっちも負けないのだ」
 張飛はその馬超の横で言う。
「さあ、お饅頭食い尽くすのだ」
「さて、残るは後三人!」
 武闘大会の時と同じ解説者だった。
「さて、誰が勝つでしょうか!」
「何っ、あたし達だけじゃないのか」
「誰なのだ!」
「僕だよ」
 いたのは一人の女の子だった。
「僕がいるから」
「むっ、誰だ?」
「御前誰なのだ?」
 二人も相手を見た。
「気付いたらもう一人いるけれどよ」
「この展開は予想していなかったのだ」
「っていうかお決まりじゃないの?」
 また観客席から馬岱が言う。少し冷めた目だ。
「こういう展開って」
「さて、最後だけれど」
 ピンクの縮れた髪の毛を上で左右に角の様にしている。顔は明るくはっきりとしたものだ。淡いピンクの半ズボンと上着がよく似合っている。腕のところと腰や肩を覆う護りは紫色だ。その女の子である。
「頑張るぞーーーー」
「こいつ、手強いのだ」
「尋常な奴じゃないな」
 張飛も馬超もそれは嫌になる程わかっていた。彼女を強い目で見据えている。
「けれど負けないのだ」
「饅頭はあたしも好物だしな」
「さっきの麻婆豆腐もよかったけれど」
 その少女は余裕であった。
「このお饅頭も美味しそうだよね」
「それでは勝負」
 司会者がここで言う。
「はじめ!」
「よしなのだ!」
「食うぞ!」
 こうして最後の戦いがはじまった。三人は早速皿の上にうず高く積まれたその饅頭を勢いよく食べて行く。だがその中でまずは。
「うっ・・・・・・」
「おおーーーーーっと馬超選手!」
 司会者は馬超の動きが止まったのを見逃さなかった。
「ここで動きを止めた!」
「そろそろ限界だ・・・・・・」
 青い顔になっていた。そして今まで食べたものが走馬灯の様に湧き起こる。
「駄目だ、しかし」
 踏ん張ろうとする。だがどうしても身体が動かない。
 荒れ果てた戦場を彷徨う自分が見えた。そうして。
 そのままゆっくりと前に崩れ落ちた。それが最期だった。
「翠が遂に倒れたのだ」
 こう言う張飛も顔が青い。
「そして鈴々もそろそろ」
「おい、あれはもう無理だろ」
「兄さんでもそう思うんだ」
「ああ、絶対に無理だな」
 黒いテコンドーの服の茶色がかった黒髪をやや立たせた明るい精悍な顔の若者が青っぽいテコンドーの服の女性的な流麗な顔の若者に応えていた。
「あそこまではな」
「食べられないんだ」
「ちょっとな。それでジェイフン」
「うん、ドンファン兄さん」
「これからどうするんだ?」
 こう弟に尋ねるのである。
「これからな。どうするんだ?」
「そうだね。ここにいても仕方ないし」
「ああ」
「擁州は兄さんは絶対に駄目だよね」
「何で親父が若い姿のままでいたんだよ」 
 ドンファンは怒った様な顔でなって言った。
「しかもチャンさんやチョイさんもな」
「それにジョンさんもね」
「ジョンさんまでいるんだぞ、だったらな」
「だから駄目だね」
「ああ、他の場所に行くぞ」
 それでこう言うのであった。
「東か北にな」
「曹操さんか袁紹さんのところだね」
「話を聞くとな」
 ドンファンはここで腕を組んで述べた。
「袁紹さんの方が面白そうだな」
「面白そうなんだ」
「曹操さんの方も捨て難いけれどな」
「兄さんってグラマーな人好きだったね」
「あの人小柄だしな。左右にいる赤い人と青い人はいいんだがな」
「曹操さんのところにはシャルロットさんがいるし」
 何故か彼女のことを聞いているジェイフンだった。
「あの人厳しいよ」
「ああ、怒られるのも嫌だから袁紹さんだ」
 物凄い理由だった。
「あそこもあそこで問題ありそうだがな」
「とりあえず食べないといけないしね」
「ああ、北に行こうぜ」
「そうだね」
「少なくとも西は絶対に嫌だからな」
 それは言うのだった。
「親父とジョンさんの二十四時間修行と強制労働地獄なんてよ」
「けれどチャンさんやチョイさんもずっと大変だね」
「あの人達何年ああやってるんだ?」
「さあ。僕達が子供の頃からだけれど」
 その頃から地獄を味わっているのである。
「多分というか絶対一生あのままだろうね」
「悲劇だな、あの人達にとってはよ」
「北朝鮮に送られた方がましだって二人共泣きながら言っていたし」
 その飢餓地獄の方がというのだ。
「壮絶なのは見てもわかるしね」
「ああ、じゃあ今から行こうぜ」
「うん、北にね」
 こうしてこの兄弟は袁紹のところに向かうのだった。彼等もまたこの世界に来ていたのだ。だがそれがどうしてなのかはまだ二人にはわかっていなかった。
 大食い競争は張飛と少女の一騎打ちになっていた。張飛は苦しみながらも尚も食べていた。
「くっ、こいつ・・・・・・」
 その女の子を見ながら呟いた。
「まさに化け物なのだ」
 何と張飛以上の食欲で食べていた。両手を縦横無尽に繰り出しだ。
「しかし鈴々も負けないのだ」
 こう言ってであった。
「意地でも・・・・・・むっ!?」
 ここで少女を見た。見れば動きが止まっている。
「遂にあいつも限界みたいなのだ。それなら!」
 一気に攻勢に出た。そうしてだった。
 己の皿のそれを食べ尽くす。これで勝ったと思った。
 だが少女は己の皿の上の饅頭を流し込んでだ。そして言うのだった。
「おかわり!」
「何だって!?」
「今おかわりって言ったけれど」
 丁度会場を後にしようとするドンファンとジェイフンが唖然となっていた。
「あの女の子何だ!?」
「あそこまで食べるなんて」
 それで唖然となるのだった。
「この世界もとんでもないのが一杯いるな」
「本当にね」
「グリフォンマスクさんとどっこいどっこいか?」
「勝てるかも」
 また新しい名前が出ていた。二人はそのまま袁紹の方に向かった。
 戦いは終わった。優勝はその少女だった。
 張飛と馬超は敗れた。だが満足はしていた。
「負けたのは残念なのだ」
「それでもな。たっぷり食ったし賞金も貰えたしな」
「まずはよかったのだ」
 二人はこう話をして道を歩いている。
「それで馬超にそっちは」
「馬岱だよ」
 馬岱はあらためて張飛に対して名乗ったのだった。
「蒲公英って呼んでくれていいからね」
「わかったのだ。なら蒲公英」
「うん、鈴々」
 馬岱もまた張飛の真名を呼んでみせた。
「どうしたの?」
「これからどうするのだ?」
 こう二人に対して問うのだった。
「とりあえず旅を続けるのだ?」
「そうだな。二人でもいいけれどな」 
 馬超は張飛の言葉に応えて言ってきた。
「よかったらそっちと一緒になっていいか?」
「鈴々達と一緒に?」
「ああ。旅は多い方が楽しいしな」
 だからだというのである。
「それならどうだ?」
「鈴々はそれでいいのだ」
 張飛はそれで異論なかった。
「それなら」
「ああ、宜しくな」
「こちらからもなのだ」
 こうして馬超と馬岱は張飛達に加わることになった。そしてその三人の前に。
「あっ、あんた達は」
「むっ、御前は」
「さっきの大食い大会の」
「そうだよ。また会ったね」
 あの少女だった。鳶色の目の光が奇麗である。
「さっきは凄かったね。僕あんなに食べる人達はじめて見たよ」
「それはこっちの台詞なのだ」
「まさかあそこまで食うなんてな」
 二人はその少女に対して述べた。
「鈴々もはじめて負けたのだ」
「あたしもだよ。本当によく食ったな」
「そうだね。けれどここでまた会ったのも何かの縁だよね」
 少女の言葉は明るい。
「どう?今から何か食べに行かない?」
「何っ、まだ食うのだ!?」
「よくそんなに食えるな」
「賞金もあるしね」
 それもあるというのである。
「だから。どうかな」
「うう、食べるのはもういいのだ」
「お茶ならいいんだけれどな」
「じゃあコンサートはどうかな」
 女の子はこちらも誘うのだった。
「張三姉妹のコンサートだけれど」
「ああ、それなら」
「あたしもお金あるしな」
「お金は僕が持ってるよ」
 ここでも少女の言葉は明るい。
「優勝したしね」
「それでも自分の分は出すのだ」
「ああ、あたしもな」
「そうなんだ。ああ、あと僕の名前だけれど」
 少女は今度は自分の名前も話してきた。
「許緒っていうんだ」
「許緒なのだ」
「へえ、いい名前だな」
「有り難う。真名も言おうかな」
 その少女許緒は笑いながらこうも言ってきた。
「真名は季衣だよ」
「鈴々なのだ」
「あたしは翠」
「私は蒲公英よ」
 三人共名乗ったのだった。こうして意気投合した四人はコンサートに向かおうとする。しかしここでその四人の目の前にだった。
「話が違うぞ!」
「違うんだよ」
「借金には利息ってのがあるんだよ」
 男の子の声と下卑た声が聞こえてきた。見れば三人の粗暴な男達が小さな男の子を囲んで脅すようにして言ってきた。その三人は。
「あの三人は」
「ああ、前に見たな」
「ここに来るまでも会ったよ」
 何と三人共見ている顔であった。
「また出て来たのだ」
「というか絶対に別人なのにな」
「声も外見も同じなんて」
 張飛達もそれがどうしてかわからなかったが。それでも言うのであった。
「まあとにかくなのだ」
「悪い奴等なのは間違いないしな」
「ここは助けないと」
 それぞれの得物を構えて前に出ようとする。それは許緒も同じだった。
「ねえ、そういうこと止めない?」
「んっ、何だおめえは」
「女ばかりじゃねえか」
「何しに来たんだ?」
「子供いじめるのはよくないよ」
 こう三人に言うのである。
「だからここは帰ってくれないかな」
「そうなのだ、借金取りの様だが」
「あまり無茶なことはしないでおこうな」
「ここはね」
 張飛達も言う。そしてその何処かで見た三人組は彼女達に対して言うのだった。
「こっちも慈善事業じゃねえんだよ」
「そうさ、女ばかりだが邪魔するなら容赦はしねえぜ」
「特にそこのちっこいの」 
 小さいのが言ってきた。
「手前は大人しくしてな」
「ちっこいの?」
「ちっこいのっていったら」
 ここで張飛と馬岱が顔を見合わせた。
「蒲公英のことなのだ?」
「鈴々じゃないの?」
 お互いにこんなことを言い合う二人だった。
「鈴々小さくないのだ」
「私だってそうよ」
「そこの手前だよ」
「ピンクの角のよ」
「一番のチビがよ」
「チビ!?」
 ピンクでわかった。誰がどう聞いても許緒である。それを聞いた彼女の様子が変わった。
「チビって言ったな」
「ああ、言ったぜ」
「それがどうしたってんだ?」
「わかったならとっとと帰りな」
「ママのミルクでも飲んでな」
「許さないぞ!」
 顔をあげてだ。怒った顔で何処からか出してきた銀色の鉄球を振り回してきた。鎖で手にあるけん玉につながれている。巨大な鋼のけん玉だった。鉄球には無数の棘まである。
 それを振り回してだ。そうして三人に襲い掛かる。
 鉄球が三人の前に落ちるとだった。それで終わりだった。
「ひ、ひいい!」
「こいつ等、それなら!」
「覚えてろよ!」
 三人はそれを見てすぐに逃げ去る。後に残ったのは男の子だけだった。男の子は四人に対して事情を話した。
「お金は借りて利子も払ったんだ」
「それでもだというのか?」
「何か利子がまだあるとか言ってね」
「典型的な悪徳高利貸しじゃないか」
 話を聞いて言う馬超だった。今一行は男の子に案内されて彼の家に向かっている。御礼におもてなしをするというのである。
 洛陽の郊外だった。そこまで行く間に許猪は次々に食べ物を見つけてそれを背中の篭に背負っていた。様々な茸や野菜等である。
「随分とあるのだ」
「僕食べ物を見つけるのが得意なんだ」
 笑顔で張飛にも話す。
「食べるからね。だからその為にこうしたことを身に付けたんだ」
「便利な特技なのだ」
「そうかもね。この子のプレゼントにね」
「有り難う」
「しかし。悪い奴は何処にでもいるね」 
 許緒の言葉がここで変わった。
「高利貸しだなんて」
「そうだよね。けれど連中すぐにまた来るんじゃないかな」 
 馬岱はそう見ているのだった。
「それだったら」
「そうなのだ。用心の為に鈴々達が家で張っているのだ」
「ああ、用心棒とかいそうだしな」
 張飛と馬超もそうするというのだ。
「だからここは任せるのだ」
「誰が来てもな」
「本当にいいの?」
 男の子は二人の言葉を聞いて申し訳なさそうな顔になった。
「そんなことまで」
「いいよ。困った人を助けるのは当然のことだよ」
 こう言うのである。
「だからね」
「よし、それならなのだ」
「任せな、悪党退治はな」
 こう話してだった。一行は男の子の家に入った。そこはごく普通の民家だった。中には黒髪の楚々とした美女がいて出迎えてきた。
「そうですか、御聞きしたのですか」
「そうなのだ」
「大変だな」
「あの連中借金のカタに姉ちゃんを貰うって言ってるんだよ」
 男の子はその民家の中でも話した。
「お金を払ったのに」
「最初からそれが狙いだったんじゃないかな」
 馬岱はここまで話を聞いて見抜いた。
「それでお金を貸したとか?」
「だとしたら余計に許せないね」
 許緒もその顔をむくれさせていた。
「それだったら」
「どうせすぐに来るのだ」
 張飛はこのことをここでも言った。
「その時にギッタンギッタンにしてやるのだ」
「そうだな。そろそろ来るんじゃないのか?」
 馬超も言う。
「それじゃあな」
「うん、構えておくかな」
 許緒も言った。丁度その時だった。
「やいやいやい!」
「大人しく出て来い!」
 聞き慣れたその声だった。
「今度こそまとめて払ってもらうか!」
「いいな!」
「本当にもう来たね」
 馬岱がそれを聞いて述べた。
「それじゃあ行こう」
「用心棒は鈴々がやっつけるのだ」
 後の三人はというのだ。
「それじゃあ行くのだ」
「おい、用心棒はあたしが相手をするぞ」
「鈴々がやっつけるのだ!」
 そんな話をしながら家を出る。するとそこに。
「さあ先生!」
「是非やっておくんなせい!」
「ああ、ほな行かせてもらうで」
 紫の長い髪を後ろで束ねている紫の目の強い顔の女だった。不敵な笑みを浮かべ薄い紫の眉の下の緑の目が凛々しい。口は小さく引き締まっている。
 胸は白いさらしだけであり下は黒い袴だ。青い上着を袖を通さず羽織っている。そしてその手にあるのは。
「青龍偃月刀なのだ!?」
「ああ、これな」
 張飛の言葉に応えて言ってきたのだった。
「結構気に入ってるんや。何か噂で聞く黒髪の山賊退治の女武芸者の話を聞いて撃ちも持ってみたんや」
「そうだったのだ」
「うちの名前は張遼」
 自分の名前を名乗ってきた。
「字は文遠や」
「それがあんたの名前か」
「仕事はこうして日銭を稼ぐ剣客をしてるんや」
 今度は馬超への言葉だった。
「それで今はこの連中の用心棒をしてるんやけれどな」
「じゃあ先生」
「やって下さい」
「そういうことや。あんた等には恨みはないけれどな」
「相手をするっていうのね」
「そういうこっちゃな」
 馬岱に対してもそのまま言葉を返す。
「ほなやろか」
「それなら!」
 最初に動いたのは許緒だった。
 すぐにその鉄球を振り下ろしてきた。そのまま張遼の頭を砕かんとする。
 だが速かった。張遼は素早く後ろに跳び退いてそれをかわしたのだ。
「僕の鉄球をかわした!?」
「ほう、かなりやるやんか」
 張遼は着地してから述べた。
「ただの日銭稼ぎかと思うてたらこれは中々」
「行くのだ!」
 次は張飛だった。
 蛇矛を手に突き進んでだ。そうしてその矛を激しく繰り出す。
 張遼はそれを自分の得物で防ぐ。次は。
「むっ!?」
「あたしもだ!」
 馬超の槍も受ける。その速さにも驚く張遼だった。
「三人共この強さは」
「ここにもいるぞ!」
 そして馬岱も槍を出してきた。それを受けても言うのだった。
「このお嬢ちゃんも。若いけれどかなり」
「この家は守るからね!」
 許緒はまた鉄球を振り回す。
「絶対に!」
「おっと、そうはいかねえよ」
「残念だったな」
 しかしであった。ここで後ろからその三人の声がしてきた。
 見るとだった。あの三人が男の子と姉を捕まえてだ。不敵な笑みを浮かべてきていた。
「こっちにも都合があってな」
「金を手に入れないとな」
「卑怯なのだ!」 
 張飛がその彼等に対して叫ぶ。
「よくもそんな卑怯なことをして平気でいられるな」
「へっ、卑怯もヘチマもあるか」
「要は目的を達成できたらそれでいいんだよ」
 三人は馬超に対しても返した。
「さて、大人しくしろよ」
「さっさと金をよ」
「どうせお金なんか最初から目的じゃないんでしょ」
 馬岱は三人に対して自分の考えを言ってみせた。
「その美人のお姉さんが目的なんでしょ」
「へっ、どうとでも言いな」
「言ったって何もならないからな」
 しかし三人の態度は居直りであった。
「こうなったらこっちの勝ちだからな」
「残念だったな」
「甘いな」
 しかしここで。もう一人の声がした。
「悪党は滅びる運命にあるのだ」
「何っ!?誰だ!?」
「誰だってんだ!」
「この声は」
 悪党共は周囲を見回す。だが馬超だけはその声を聞いて気付いた様に呟いた。
「まさかあいつかよ」
「誰なの?あいつって」
「ああ、すぐにわかるさ」
 こう馬岱にも返す。
「すぐにな」
「すぐになの」
「何か変わったところのある奴だったけれどな」
 馬超は彼女についてこんなことも言った。
「今度は一体何をするっていうんだ?」
「とうっ!」
 いきなり白い影が現われた。そのうえでそれは姉と弟を助け出してそのうえで家の上に跳んだ。見ればその顔には黄色い鮮やかな蝶の仮面があった。だがどう見ても彼女は。
「手前誰だ!」
「誰だってんだ!」
「悪のあるところ現われる」
 その美女が言う。
「愛と正義の使者」
「愛と正義の使者!?」
「だから誰なんだ!」
「人呼んで華蝶仮面!」
 そして今その名前を名乗った。
「この仮面の輝きを恐れぬのならかかって来るがいい!」
「っておい」
 馬超が呆れながら彼女を見上げて突っ込みを入れる。
「あんたどう見てもよ」
「誰か知ってるの?」
「ああ、知り合いでな」
 呆れ果てながら許緒に対しても答える。
「まさかこんな趣味があるなんてな」
「変な人だよね」
「ああ、あらためてそう思うよ」
「御前は誰なのだ!」
 だが張飛ぶその彼女を指差して問う。
「そんな変な格好をして!」
「何っ?」
「殆ど変態なのだ!」
 見事に言ってはならないことを言う。
「変態仮面なのだ!おかしいのだ!」
「変態だと」
 それを聞いた一応趙雲ではないことになっている彼女のオーラが一変した。
「しかもおかしいだと」
「そうなのだ、変態にしか見えないのだ!」
 まだ言う張飛だった。
「それで何がしたいのだ!変態ごっこに付き合うつもりはないのだ!」
「変態ごっこか」
「まずいな、こりゃ」
 馬超はわかっているだけに気まずかった。
「完全に怒ってるなありゃ」
 オーラだけではなかった。表情も不機嫌そのものになっている。その様子を見てすぐに察したのである。
 しかしである。人質は救出された。それは大きかった。
「姉様、何はともあれ」
「人質の心配はなくなったよ」
 馬岱と許猪がこのことを言う。
「もう一気にさ」
「やっつけちゃおうよ」
「ああ、そうだな」
 馬超も形勢逆転ははっきりとわかっていた。
「それならな。あの用心棒を退けてな」
「その心配はもういらんで」
 その張遼からの言葉だ。
「ちょっとやることができたわ」
「やること?」
「ああ、そや」
 言いながら前に出るのだった。
 そうしてである。何と馬超達の前をそのまま通り過ぎてしまった。四人も彼女があまりにもあっさりと通り過ぎたので何もできなかった。
「例え雇われても身内は身内や」
「身内っていうと」
「そこの三人?」
 馬超と馬岱が尋ねた。
「いつも見る顔だけれどさ」
「その連中?」
「そや。おどれ等」
 そのいつもの三人の前に来ての言葉である。
「よおもやってくれたな」
「な、何だよ急に」
「その態度はよ」
 見れば張遼の表情が一変している。目は吊り上がり怒らせたものになっている。憤怒と言っていい表情だった。
「だから俺達にも都合があるんだよ」
「それ言ったじゃねえか」
「人質取るなんてふざけた真似しおって」
 その憤怒の顔での言葉だった。
「そこまで腐った奴等やったとはな」
「な、何だよ」
「俺達だって都合があるんだよ」
「そうか。都合か」
 張遼の背中には炎があった。その炎を背負っての言葉である。
「じゃあうちの都合も言うな」
「い、言ってみろよ」
「聞いてやるからな」
「ああ、何でもな」
「何でもかい」
 三人の言葉を聞く。見れば三人は完全に気圧されている。最早彼女の言葉が全て通るのは一目瞭然であった。人の質が違っていた。
「言うたな。そやったらや」
「そやったら?」
「じゃあ何だ?」
「借金の証文出し」
 こう言ってきたのである。
「証文な。今すぐな」
「これかよ」
 のっぽが出してきた。紛れもなく証文である。
「これがどうしたってんだよ」
「よお持っときや」
 また彼に告げてであった。その得物を動かした。
 一瞬であった。その一瞬で証文は切り刻まれた。そうして只のゴミになってしまった。
「お、おいこれじゃあよ」
「もう騙せねえじゃねえかよ」
「折角あの娘売り飛ばそうと思ったのによ」
「自分で言っているのだ」
「まあそうだと思ってたけれどな」
 張飛と馬超の声は醒めている。
「けれどこれで証文はなくなったのだ」
「自白もしたしな」 
 形成がはっきりとしたのだった。もう三人には何もできなくなっていた。
 そしてである。張遼もその三人に対してまた告げた。
「さっさと去ね」
 一言であった。
「もうあの姉弟の前に出るんやないで!」
「は、はい!」
「わかりました!」
 三人は背筋を伸ばして敬礼して応えた。そのうえで逃げ去ったのだった。こうして姉弟は助かったのであった。
 だが二人は屋根の上にいたままだ。いるのは二人だけだった。
「あれ、何時の間にかいないね」
「そうよね」
 馬岱が許緒の言葉に頷く。
「気付いたら何時の間にか」
「何処に行ったのかな」
「まあそのうち出て来るさ」
 馬超は誰かわかっていたので落ち着いたものだった。
「すぐにな」
「しかしおかしな奴なのだ」
 張飛はまだわかっていなかった。顔がいぶかしむものになっている。
「風の様に現れて風の様に消えたのだ」
「ってまだわからないのかよ」
 その張飛に少し呆れて返す馬超だった。しかし何はともあれ話は終わった。 
 そしてここでだ。関羽とナコルルが一行のところに来た。
「ああ、ここにいたのか」
「探しましたよ」
 二人は一行のところに来て言ってきた。
「だがどうやらいいことをしたみたいだな」
「それに馬超さんもおられたのですね」
「ああ、久し振りだな」
 馬超もナコルルを見て言葉を返す。
「あんた達もいたのか」
「はい、お元気そうで何よりです」
「それに他にもいるな」
「うむ、そうだな」
 今度は趙雲がさりげなくを装って出て来た。
「見たところ皆武芸者だな」
「私は馬岱」
「僕は許猪だよ」
 まずは二人が名乗った。
「馬超姉様の従妹です」
「僕は旅の武芸者だよ」
「それでうちは張遼や」
 彼女も名乗ってきた。
「うちも旅の武芸者や」
「そうなのか」
 関羽が彼女を見てふと言った。
「貴殿もなのか」
「そや。しかしこれからどないするかやな」
 張遼は今度は自分の身の振り方について考えた。
「何時までも旅の武芸者なのもあれやし。そろそろ誰かに仕官しようかいな」
「誰にするの?」
「そやな。何か最近擁州におもろい面々が集まってるらしいし」
 許緒に応えての言葉だった。
「そこの領主さんのところにいこかいな」
「じゃあ僕も誰かのところに行こうかな」
 も彼女の言葉を聞いてふと考えたのだった。
「曹操さんのところがいいっていうし。そこに行こうかな」
「そうか。そやったらここでお別れやな」
 張遼は許緒のその言葉を受けて顔を向けた。
「縁があったらまた会おな」
「うん、またね」
 許緒は明るく言葉を返した。
「皆、機会があったらまたね」
「再会の時を楽しみにしてるで」
 許緒は手を振って、張遼は涼しい笑みでそれぞれ姿を消した。そしてノ追った面々はというと。
「そうか、貴殿達も一緒なのか」
「ああ、それでいいかな」
「うむ、旅は多い方が楽しい」
 関羽も馬超と馬岱に明るい言葉で返す。
「これから宜しくな」
「ああ。しかし何か増えたな」
 馬超はここでキング達を見て言った。
「あんた達もやっぱりあれか?他の世界から来たのか」
「ええ、そうよ」
 舞が笑顔で馬超に対して答えた。
「日本っていう国からね」
「っていうとナコルルと同じか」
「同じだけれど時代が違うのよ」
 舞はこう話した。
「大体二百年は違うのよ」
「そうなんですよね。まさか時代の違う人達と一緒になるとは思いませんでした」
 ナコルルも言う。
「不思議ですよね、これも」
「本当に。私達だけではありませんし」
 香澄も加わってきた。一行はまた旅を続けている。洛陽を出てまた新たな道を進んでいた。
「テリーさん達もおられるのですよね」
「そうだな。是非会いたいものだな」
 キングも腕を組んで言ってきた。
「懐かしい顔触れが揃っているのならな」
「それでこれから何処に行くの?」
 馬岱は一行の行く先を尋ねた。
「洛陽にはもう寄らないんだよね」
「そうだな。南に行くか」
 趙雲がここでこう提案してきた。
「南にだ。そこでどうだ」
「南か」
「北も行ったし西も行った」
 関羽に応えながらこれまで行った場所も話す。
「今度は南でどうか」
「そうだな。悪くないな」
 関羽も趙雲のその言葉に頷いた。
「ではそこに行くか」
「南か。いいな」
「そこもそこで面白いことがありそうだしね」
 キングと舞もそれに賛成した。
「では今からそこにな」
「行きましょう」
「ここから南というと」
 張飛は話を聞きながらまた述べた。
「荊州なのだ」
「そうだ。どうも今一つ治安がよくないらしいがな」
 関羽はそのことを不安に思っていた。
「だがそれでもだ。行って損はないだろうな」
「また出会いがありますね」
 香澄はこのことをもう予感していた。
「今度は誰でしょうか」
「感じるのですが」
 ここで言ったのはナコルルだった。
「これまで武芸や格闘技に長けた方ばかりでしたが」
「今度は違うのか」
「はい、違うものを持った方と出会うと思います」
「ふむ。一体誰なのかだな」
 関羽はナコルルの話を聞きながら考えていた。
「楽しみではあるな」
「では南に向かいましょう」
 ナコルルも南と言った。
「これから」
「うむ。行くか」
 こうしてだった。一行は南の荊州に向かう。そこでまた新たな出会いがあるのだった。
 その頃ある場所ではだ。ある者達が話をしていた。そこは闇の中で話している者達の姿は見えない。だがそれでも話はされていた。
「そうですか。そうした存在も来ていましたか」
「始末しておきました」
 一人が答えていた。
「既に」
「始末ですか」
「処理と言ってもいいでしょうか」
 実に素っ気無い言葉だった。
「所詮は妖怪です」
「そうですね。妖怪は妖怪です」
 話を聞く方の返答も素っ気無いものであった。
「妖怪なぞ。我々の目的を理解できる筈もありません」
「ましてや餓えに敗れ人を捨てた者」
 今の言葉には侮蔑がこもっていた。
「その程度の輩なぞ同じ世界にいるだけで邪魔です」
「我々の手駒を害される危険もありますしね」
「だからです。今のうちに始末しておきました」
 また始末だと言うのであった。
「芽は摘んでおきました」
「お疲れ様でした」
「ところで」
 ここで声は問うてきた。
「あの三姉妹はどうしているでしょうか」
「彼女達ですか」
「私の同胞が二人ついたそうですが」
「今のところは何の動きもありません」
 こう返答が来た。
「残念ですが」
「そうですか。何もですか」
「もっと動くかと思ったのですが」
「見込み違いですか」
「まだその判断は早いでしょう」
「ふむ。ではまだ引き上げるのは早いですか」
 話を聞いての言葉だった。
「見たところあまり何も考えていない無邪気な三人ですが」
「しかし成功への欲は深いです」
 それは見抜いているのだった。
「それを動かせば面白いことになるでしょう」
「わかりました。しかし三人だけではどうかと思います」
「他の方々もそれぞれ動かれていますね」
「はい、よく」
 今闇の中にいる彼等の他の存在についても話される。
「動かれています」
「北もですね」
 今度は場所のことも話に出た。
「北の方も」
「匈奴等は取り込まれていますので使えませんが」
「しかし北は匈奴だけではありませんね」
「烏丸もいます」
「では彼等を動かしますか」
「ええ。ではそちらは」
「一人行ってもらいます」
 こう言われた。
「それでどうでしょうか」
「ええ。ではそれで」
「まずは乱れさせること」
 声が楽しむものになっていた。
「ですから」
「そうですね。手駒も作っていきましょう」
「我等の目的の為に」
 闇の中でのやり取りだった。この国で何かが起ころうとしていた。それは闇の中から起こるものだった。何も見えないその中から。


第十話   完


                                         2010・4・25



ナコルルの予言めいた言葉が気になるな。
美姫 「確かにね。それに馬超も同行者に加わったみたいね」
戦力的には増強された感じだけれど。
美姫 「これから先、何が待っているかよね」
だな。次回も待っています。
美姫 「待ってますね」



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