『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                              第百九話  張三姉妹、呼ばれるのこと

 出陣の準備が進められる。その中でだ。
 孫策も孫権も木簡にだ。次々に決裁を書いていた。その中でだ。
 孫策は大きく背伸びをしてだ。こう言ったのだった。
「もういい加減ね」
「御疲れですか?」
「元々私こうした仕事は好きじゃないのよ」
 こう言うのだった。
「座ってする仕事はね」
「それは私も知っていますが」
「それでもだというのね」
「はい、今は我慢して下さい」
 孫権はこう姉に話す。
「しないといけないことですから」
「わかってるわ。けれどね」
「それでもですか」
「やれやれよね」
 苦笑いを浮かべながらだ。木簡に書いていく。
「本当にね」
「それでもこれが終わればです」
「あれよね。出陣よね」
「はい、そうです」
 だからだとだ。妹は姉に話す。
「戦ですから」
「そうね。戦ね」
 ここでだ。孫策の目が光る。
 そしてだ。彼女はこう言ったのだった。
「あの忌々しい連中と思う存分戦えるのね」
「ですからそれを待ってです」
「今は我慢ね」
「その仕事をされて下さい」
 机に座っての仕事をだというのだ。
「じっくりと」
「そうさせてもらうわ。仕方ないわね」
「そうです。それにしても」
「それにしても?」
「姉上は机のお仕事は嫌いだと仰いますが」
 それでもだというのだ。
「中々。速いですね」
「仕事がだというのね」
「それに正確ですね」
 ただ速いだけではないというのだ。
「御嫌いだと言っても」
「雪蓮様はやればできる方なのです」
「そうなのです」
 ここで話したのは二張だった。丁度姉妹の補佐役なのだ。
 その孫家の長老達、黄蓋と並ぶ彼女等が話すのだった。
「そうした政についてもです」
「戦と同じく」
「それでどうして」
「だから。せせこましい仕事は好きじゃないの」
 孫策が言うのはこのことだった。
「だからなのよ」
「そう仰いますか」
「どうしても」
「子供の頃からね。小さなことより大きなことをがつんとやりたいのよ」
 実に孫策らしい言葉をだ。孫策自身が言う。
「だからなのよね」
「全く。そのことは変わりませんね」
「御幼少の頃から」
「それは婆や達もじゃない」
 孫策は少し苦笑いになって二張に返す。
「全く。私が赤ん坊の頃からお母様と一緒にいたのよね」
「はい、祭殿と共に」
「大殿様とも」
「私や蓮華が赤ん坊の頃からずっといてくれて」
 そしてだ。その頃からだというのだ。
「口煩いんだから」
「諫めるのも臣下の務めです」
「ですから」
「はいはい、わかってるわよ」
 二人にはだ。孫策も弱い。
 それでだ。仕事を続ける。その中でまた言う彼女だった。
「ただ。それにしてもね」
「それにしても」
「休まれるのは少し後にして下さい」
「そうじゃなくて。何か気分転換が欲しいのよ」
 孫策が今言うのはこのことだった。
「なにかしらのね」
「気分転換ですか」
「それをですか」
「ええ。何かないかしら」
 孫策は書きながら首を少し捻って言う。
「楽しいことがね」
「では歌でも聴かれますか?」
「袁術殿の」
「それもいいけれどね」
 袁術の歌は定評がある。だからそれは望むというのだ。
 しかしだ。それと共にだった。孫策はこんなことも言った。
「ただ。あの娘の歌以外にもね」
「お聴きになりたい」
「左様ですか」
「誰かいたわよね」
 ここでだ。孫策が言うとだった。
 孫権がだ。彼女達の名前を出してきた。
「それではですが」
「蓮華は誰か心当たりがあるの?」
「はい、あの三姉妹はどうでしょうか」
 こう名前を出すのだった。
「張三姉妹は」
「ああ、あの娘達ね」
「今は確か長安の方にいます」
 国のあちこちを回っている彼女達はだ。今はそこにいるというのだ。
「そこから呼びますか」
「そうね。長安でやることが終わったらこっちに来てもらえるかしら」
 実際にだ。孫策もこのことを望んで述べた。
「そうしてね」
「はい、気分転換に」
「確かに。三姉妹の歌には絶大な力がありますし」
「兵達の癒しにもなりましょう」
 二張もだ。三人のことは知っていた。
 だからだとだ。賛成したのだった。
「ですから」
「いいと思います」
「わかったわ。じゃあ劉備にも話してね」
 摂政である彼女に話してだというのだ。
「そうしましょう」
「ではその様に」
「話を進めていきましょう」
 こう話してだった。三姉妹を呼ぶことがだ。劉備にも伝えられた。そうして話を聞いた劉備もだ。
 笑顔でだ。こう言うのだった。
「いいことよね」
「はい、そう思います」
 魏延、いつも劉備を護る彼女が最初に頷く。
「桃香様も最近お疲れですし」
「私が?」
「そうです。近頃は出陣の準備にかかりきりですね」
「書いてるだけだけれど」
「それがかなりの量になっています」
 劉備にだ。両手を前にやって動かしながら話す魏延だった。
「朝から夜まで働いておられますし」
「ううん、それはそうだけれど」
「ですから。ここはです」
「三姉妹を都に呼んで?」
「はい、音楽を聴きましょう」
 こう言うのである。
「是非共」
「ううん、ちょっと」
「焔耶さんは」
 しかしだ。ここでだった。
 孔明と鳳統はだ。難しい顔になって言うのだった。
「何気に何を出されているんですか?」
「その服は」
「ステージ衣装だ」
 そうだとだ。魏延はその手にやたらと派手で露出の多い服を持っている。それを手にしながらだ。劉備に熱い視線を向けているのだ。
 そのうえでだ。こう言うのだった。
「桃香様にも歌って頂きだ」
「やっぱりそうですか」
「桃香様にも」
「駄目か、それは」
 まだ言う彼女だった。
「私としてはだ。桃香様のお歌も」
「それを言うなら炎耶さんもです」
「折角ですから」
 軍師二人はここで言う。
「歌われてはどうですか?」
「歌と踊り得意ですよね」
「いた、私はいい」
 何故かだ。魏延本人はだ。
 あまり浮かない顔でだ。こう言うのだった。
「あれだな。袁術殿や郭嘉殿と組んでだな」
「それか張勲さんですね」
「その方々とは」
「私とて歌って踊りはしたい」
 それはだとだ。魏延長も言うには言う。
 しかしだ。それでもこうも言うのだった。
「だがそれは狙い過ぎではないか?」
「まあそうですけれど」
「それは」
「そうだ。だからそれは止めたい」
 そしてこうも言うのだった。
「どうせなら桃香様と共にだ」
「やっぱりそこですか」
「歌うのならですね」
「私のささやかな願いだが駄目か」
「ううん、何といいますか」
「余計に妖しいので」
 駄目だと話してだった。軍師二人はそのデュエットには難色を示すのだった。
 そのやり取りからだった。魏延は。
 困った顔でだ。また言うのだった。
「私の衣装も用意していたのだがな」
「男ものですよね、それって」
「あの、余計に妖しいので」
「何っ、あちらの世界の宝塚は駄目か」
 それだった。言うのは。
「宝塚は駄目か」
「ですから妖しいのは遠慮して下さい」
「困りますから」
 こう話してだった。軍師二人は何とか魏延は止めたのだった。
 しかしだ。三姉妹を呼ぶことはだ。二人も言うのだった。
「ですが三姉妹はです」
「是非呼びましょう」
「あの歌は素晴らしいです」
「ですから」
「そうよね。それじゃあね」
 劉備も笑顔で応える。こうしてだった。
 三姉妹を都に呼ぶことが正式に決まった。そうしてすぐにだ。
 使者の舞が長安に向かう。そこにだ。 
 三姉妹はいた。しかし今丁度だった。
「あれっ、出発するところだったの」
「うん、そうなの」
 張角がだ。舞に答える。三人は下喜達の助けを借りてだ。
 そのうえで次の旅に出ようとしていた。舞はそこに来たのだ。
 それでだ。丁度何もかもをしまっている最中だったのだ。
 車にあらゆるものを入れている。その彼女達を見てだ。
 舞はだ。こう言うのだった。
「次は何処に行くの?」
「あっ、実はね」
 それはどうかとだ。舞は答える。
「決まっていないの」
「あら、そうなの」
「そうなの。だから何処に行くかは」
「これから決めるとことだったのよ」
 張梁が言ってきた。
「東に行くか西に行くかね」
「身支度が出来たところで」
「そこに舞さんが来たの」
 張宝も来て話す。
「何かいい場所を知ってるかしら」
「私は賑やかなところに行きたいけれど」
 張角はそうした場所がいいと言う。
「何処がいいかな」
「じゃあ大きな町よね」
「そうなるわね」
 妹達も姉に対して言う。
「じゃあ許昌とか南皮とか」
「そうしたところかしら」
「建業もいいし」
「成都も」
「成都かなあ」
 張角は視線を上にやって少し考える顔になって言った。
「それじゃあ」
「そうよね。あそこの料理って辛くて凄く美味しいらしいし」
「それならね」
「じゃあそこね」
「今から向かいましょう」
「そういうことだから」
 張角は笑って舞に述べた。
「今から成都に行くから」
「劉備さんに宜しく言っておいて」
「あの人は確か益州の牧でもあられるから」
 そうした伝言もだ。三姉妹は舞に伝えた。しかしだ。
 その舞がだ。三姉妹に言った。
「ここまで話してだけれど」
「うん、何かあるの?」
「洛陽は一つも出てないわよね」
 舞が言うのはこのことだった。
「それどうしてなのかしら」
「あっ、そういえばそうね」
「言われてみれば」
 ここでだ。張梁と張宝も気付いた。舞に言われてだ。
「そういえば最近洛陽にも行ってないし」
「都には」
「だからどうかしら」
 舞は笑顔で話す。
「都にね。来てくれる?」
「別にいいけれど」
 張角は特に思うことなく答えた。
「成都には何時でも行けるし」
「決まりね。実はね」
「都で私達に来て欲しい理由があるのね」
 張宝はいつもの淡々とした調子で舞に尋ねた。
「歌で元気を出して欲しいとか」
「具体的に言えばそうよ」
 まさにそうだとだ。舞は答えた。
「隠すつもりはなかったけれど言うのが遅れたわね」
「それは別にいいわよ」
 張梁がそれはいいとした。
「ただね」
「ただ?」
「あれよね。あたし達を都に呼んで歌わせて」
 張梁も察していた。呼ばれる理由を。
「大きなことの前に士気を鼓舞するのね」
「えっ、じゃあそれって」
 それを聞いてだ。張角がだ。
 おっとりとしているが驚きも入った声でだ。こう言ったのだった。
「まさか戦があるとか」
「そうじゃないの?何か都であって」
「そのせいで」
「ああ、気付いたわね」
 舞は三姉妹がそれぞれ言うのを聞いて自分からも言った。
「まあね。ちょっと出陣があるのよ」
「やっぱりそうなの」
「ひょっとしてって思ったけれど」
「そうなのね」
「そうよ。それであんた達の歌でね」
 三姉妹の歌には絶大な威力がある。それは黄巾の乱において証明されている。しがない旅芸人だったことはもう過去のことだ。
「もう士気を全開にしてね」
「戦に向かうのね」
「そうしたいのよ。どうかしら」
 あらためてだ。舞は三姉妹に尋ねた。
「劉備さん達も他の皆もね」
「来て欲しいのね」
 張宝が言う。
「皆が」
「ううん、何か物騒な状況みたいだけれど」
 張梁は腕を組み少し難しい顔で述べた。
「それでも。劉備さんに呼ばれてるのならね」
「そうよ。劉備さんお姉ちゃんにそっくりだし」
 張角が言うのはこのことからだった。
「それじゃあ是非助けないと」
「お姉ちゃんにそっくりなのは理由にならないんじゃないの?」
「確かに声以外本当にそっくりだけれど」
「性格も似たところあるし」
「違うのは中の人だけかしら」
「はい、中のお話は禁句ね」
 舞はそれは止めさせた。
「言い出すと皆ダメージが出てしかも終わらないから」
「確かに。あたしも結構」
 張梁もこのことには心当たりがあったりする。
「くるものがあるし」
「そういうことよ。私だってナコルルやキングさんと似てるって言われるしね」
 それは舞もであった。彼女自身もなのだ。
「だからよ。終わらせてね」
「そうするのがいいわ」
 張宝も頷く。
「それじゃあ」
「来てくれるかしら」
「だから劉備さんの御願いなら」
「喜んでよ」
「都に行かせてもらうわ」
 三姉妹の返答は決まっていた。こうしてだった。
 彼女達は下喜達を連れて洛陽に向かうことにした。舞は彼女達より前に都に戻る。そうしてすぐに劉備に対して報告したのだった。
 その報告を聞いてだ。劉備は笑顔で言った。
「よかったわ。それじゃあね」
「舞台の用意ね」
「うん、その用意しよう」
 笑顔でこう言うのである。
「早速ね」
「はい、では今からすぐに」
「舞台の用意をはじめます」
 劉備の左右に控える孔明と鳳統が言う。
「張三姉妹の人達だけでなく」
「他の人達も歌えるものを」
「じゃあ袁術ちゃん達よね」
 劉備はすぐに彼女の名前を出した。
「あの娘達が」
「はい、郭嘉さんと張勲さんもです」
「あの方々にも」
「あの娘達歌凄く上手だから」
「郭嘉さんなんかもう歌手でも大成功間違いなしだと思います」
「張勲さんの本気は最強です」
 彼女達の歌にも定評があるのだ。
「袁術さんは音に慣れるまでに少し時間がかかりますが」
「あの人も」
 とにかくだ。三人の歌唱力はかなりのものだ。
 それでだ。この三人もだというのだ。
「ちょっと。袁術さんと張勲さんが郭嘉さん取り合ってますけれど」
「郭嘉さんは袁術さんが大好きですし」
「関係がかなり妖しいですけれど」
「それが楽しいですけれど心配にもなります」
「何か薄い絵本が出てるっていうけれど」
 劉備は三人についての噂を口にした。
「陸遜ちゃんが凄く嬉しそうに読んで集めてるのは」
「はい、本当です」
「陸遜さんが御自身でも描いておられます」
 そうしたこともしているというのだ。陸遜は。
「私達も楽しませてもらってます」
「最高の書です」
「どうした書なのかしら」
 劉備はその薄い書については全く知らない。それで目をしばたかせながら言うのだった。
「気になるけれど」
「あっ、それはですね」
「また今度のお話ということで」
 軍師二人は失態に気付いて慌てて取り繕った。
「とにかくですね。他にもです」
「歌える人はいますし」
「多いのね。歌える人」
「呂蒙さんも歌えますよ」
「あの人もかなり」
「他にも夏侯惇さんと夏侯淵さんも」
 この姉妹もだった。
「孫策さんと孫権さんもお見事ですし」
「曹操さんもですね」
「歌える娘って多いのね」
 劉備もこのことを認識することになった。
「ううん、意外っていうか」
「そうですね。私達もですね」
「歌えますし」
 孔明と鳳統もだった。
「五虎の方もですし」
「ああ、大喬さんに小喬さんもですね」
「周泰さんもですし」
「呉の方々も」
「冥琳ちゃんもだったわよね」
 劉備は彼女の真名を出しながら話した。
「何かもう大会出来る位に多いわよね」
「あちらの世界にもおられると思いますし」
「それではですね」
 二人はここで閃いた。
「いっそのこと大会を開かれますか」
「歌の大会を」
「そうね。面白そうね」
 劉備もだ。それに乗ろうと思った。それでだ。
 舞にもだ。尋ねたのだった。
「舞ちゃんはどう思うかしら」
「私もね。面白い音楽知ってるわよ」
 舞も笑顔で劉備の言葉に応える。
「ヘビメタだけれどね」
「ヘビメタ?」
「そう、それが好きなのよ」
 笑顔で自分の音楽の趣味を話す彼女だった。
「ヘビメタがね」
「どんな音楽なの、それって」
「ええと、楽器はここの世界にないわね」
 それは仕方なかった。時代も国も違うからだ。
「だからアレンジはするけれど」
「けれど舞ちゃんも歌うの」
「よかったらね」
 あくまで許可を得ればだというのだ。
「歌っていいかしら」
「もうこうなったら徹底的に楽しくしない?」
 今度は劉備がだった。笑顔で提案する。
「皆で歌い合って」
「そうですね。折角ですし」
「出陣の前の余興として」
 それでだとだ。孔明と鳳統も乗ってだ。
 そうしてだった。話は決まったのだった。
 三姉妹の到着と合わせて歌の大会が開かれることが決まった。それを聞いてだ。
 まずはしゃいだのはだ。やはり郭嘉だった。
 話を聞いていきなりだ。妄想を爆発させた。
「ああ美羽様いけません」
「またなのね」
「妄想状態に突入ね」
 そんな彼女を見ていささか唖然として言う曹仁と曹洪だった。
「私は華琳様の忠実な家臣。ですから」
「いや、目が喜んでるし」
「顔は真っ赤だし」
 実際にだ。手は拒むふりをしているが顔は笑みである。
 その笑顔でだ。郭嘉は続ける。
「せめて接吻で許して下さい。その頬の」
「もうやってるじゃない」
「酔ってね」
「他にももう感性で袁術殿が何を言うかわかるとか」
「何処まで仲がいいのよ」
「それに七乃殿、人がいますので」
 郭嘉は彼女とも仲がいいのだ。
「そこまで積極的になられると困ります」
「だから中身出し過ぎよ」
「何処まで出てるのよ」
「華琳様お許し下さい、私はいけない家臣です」
「見ているだけで面白いからいいけれどね」
 当の曹操もいるが彼女は至って冷静である。
 むしろそんな郭嘉を見て楽しみながらだ。こう言うのだった。
「歌の大会ね。面白そうね」
「では華琳様もですね」
「参加されますね」
「そのつもりよ。それでだけれど」
 ここでだ。曹操はさらに話す。
「あちらの世界の面々も歌える者が多いわよね」
「んっ、呼んだか?」
 ここでだ。不意にだ。丈が出て来た。
 それでだ。嬉しそうに曹操達に言うのだった。
「俺も歌えるぜ」
「東殿の好きな音楽ですが」
「何なのでしょうか」
 曹仁と曹洪はその丈に尋ねた。
「あちらの世界の音楽ですね」
「どういった音楽でしょうか」
「貴方はあの華陀と声が似ているけれど」
 さりげなくこんなことも言う曹操だった。
「華陀も歌えたわよね」
「ああ、確かな」
「じゃあ貴方も歌えるわよね」
「俺は演歌だ」
 自信満々にだ。丈は言った。
「演歌が好きなんだよ」
「演歌って?」
「ああ、こんな感じなんだよ」
 ここで実際にだ。丈は拳を入れて身振りまで入れて熱唄する。それを聞いてだ。
 曹操もだ。納得した顔で言うのだった。
「結構いい感じね」
「ああ、気に入ってくれたか」
「というか貴方結構歌上手いわね」
「はい、確かに」
 真面目に戻った郭嘉も頷いて言う。
「御見事です」
「俺の他にも歌える奴いるしな」
「そう。じゃあ貴方達にも期待させてもらうわね」
「是非共な。そうしてくれよ」
「大会があらためて楽しみになってきたわ」
 曹操は期待している笑みで述べる。しかしだ。
 その中でだ。ふとこうも思って言うのだった。
「けれど。気になるのは」
「気になるのは。何だよ」
「リョウよ。彼何か音楽は苦手だっていうけれど」
 曹操は既にそのことを聞いていた。
「どうなのかしら」
「ああ、あいつ音楽はわからないってな」
「やっぱりそうなのね」
「とりあえずあいつは今回はなしな」
 最初から数に入れるなというのだ。
「あとアンディもな。静寂がいいっていうしな」
「彼らしいわね」
「ただダックは別な」
「確かに。ダック殿は我等もわかる」
「あの御仁の舞は見事だ」
 曹仁も曹洪も彼のラップダンスは何度か見て知っている。彼は時間があるといつもその見事なダンスを披露しているからである。
「それもあるか」
「尚更いいな」
「俺達の世界の人間も多彩だからな」
 それでいいというのだ。
「俺も楽しみにしているからな」
「ええ、お互いに楽しみましょう」
 こうしてだった。曹操達も大会のことを期待していた。その中においてだ。
 怪物達はまだ都にいた。そして姿を現わすだけでだ。
 その都度大爆発を引き起こしていた。都ではいらぬ騒乱も起こっていた。
 その騒乱の中でだ。彼女達は話す。
「何か面白いことになってきたわね」
「そうね」
 こう話しているのだ。
「張三姉妹だけじゃなくて皆が歌うって」
「最高の催しよ」
「それじゃあ是非ね」
「あたし達もね」
 話があってはならない方向に向かう。
「参加させてもらいましょう」
「是非ね」
「そうだな。誰もが参加できる大会みたいだしな」
 そしてだ。華陀の器は無意味なまでに大きい。
「二人も参加するんだな」
「ええ、そうしたいと思ってるわ」
「実際にね」
「ああ、じゃあ参加するべきだ」
 華陀は彼女達のテロ、それも無差別のそれを容認した。
「俺はどうもその暇はないみたいだがな」
「ダーリンは都の人達の怪我や病を癒すのに忙しいからね」
「そちらに専念してなのね」
「ああ、俺はそちらだ」
 医師としてだ。治療に専念するというのだ。
「だから観にも行けないが」
「頑張ってね。それじゃあ」
「ダーリンの本分をまっとうしてね」
「是非ね」
「そうする。それにしても」
 ここでだ。華陀は言った。
「あちらの世界の医学は凄いな」
「特に未来のね」
「それがなのね」
「ああ、リーさんにも教えてもらったが」
 リー=パイロンである。
「かなりのものだな」
「ダーリンの針とどちらが凄いかしらね」
「果たして」
「俺のものよりも凄いな」
 華陀はこのことを素直に認めた。
「あれはな。俺もまだまだだ」
「そこでそう言うのが凄いのよ」
「ダーリンはね」
 二人はそんな華陀を褒めて言う。
「己を知りさらに学ぶ」
「だからこそ医者王なのね」
「俺はまだ登りはじめたばかりだ」
 ここで熱血にもなる。
「この医者坂という果てしない坂をな」
「ここで未完になるのよ」
「そこ重要だから」
「ああ、永遠の未完だ」
 華陀も乗る。実に乗りがいい。
「だからこそ俺は登るんだ」
「じゃああたし達もね」
「一緒に登るわ」
「ダーリンと同じ坂を」
「何処までも」
「悪いな」
 ここでも器の大きい華陀だった。
「なら俺達もだ」
「ええ、歌いましょう」
「芸術をね」
 こうしてだ。彼等も参加すると言うのである。しかしだ。 
 今は誰もこのことを知らない。それでだった。
 関羽はだ。困った顔で張飛に話していた。
「ううむ、困った」
「何が困ったのだ?」
「義姉上に言われたのだが」
「お姉ちゃんも歌うのだ?」
「そうだ、そう言われた」
 劉備にだ。言われてはだった。
「出るがだ」
「それでもなのだ?」
「私が歌っていいのだろうか」
 こう言ってだ。関羽は難しい顔をしているのだ。
 そしてだ。彼女はこんなことも言った。
「しかしだ」
「しかしなのだ?」
「私なぞよりもだ」
 こう言ってだ。出す名前は。
「やはり袁術殿や郭嘉殿の方が」
「それと張勲なのだ」
「あの方々の方が凄い」
 やはり歌といえば彼女達だった。
「しかし私なぞはだ」
「お姉ちゃんも歌は上手いのだ」
「そうか?私は」
「大丈夫なのだ。お姉ちゃんはいけるのだ」
「そうだといいのだが」
「自信を持つのだ。お姉ちゃんは歌もいけるのだ」
 張飛はこう言って次姉に太鼓判を押す。
「何の心配もいらないのだ」
「そうだといいのだが」
「ついでに言うと鈴々も歌うのだ」
「そうだ、御主と義姉上と私でだ」
「三人で歌うのだ」
 この組み合わせがもう決まっているのだ。
「だから頑張るのだ」
「そうだな。ではそうしよう」
「後は朱里と雛里も二人で歌うのだ」
 彼女達はそうなっているのだ。
「ただ朱里は他にもなのだ」
「確か翠ともだったな」
「あと孫権と三人なのだ」
「妙に弱い顔触れだな」
 その三人の顔触れについて関羽はこうも言った。
「何かな」
「弱いのだ?」
「受けというのか?」
 関羽はまた言う。
「そうした感じだが」
「ううん、よくわからない話なのだ」
「ついでに言えば私もだ」
 関羽もだというのだ。
「御主、姉上と共にだ」
「他の組み合わせもあるのだ?」
「そうだ、星に曹操殿に」
 そしてだ。もう一人は。
「恋とだ」
「何か妙に攻撃的な顔触れに思えるのだ」
「そうだな。しかし私はだ」
 関羽自身はどうかというとだ。
「その中に入っていいのだろうか」
「少なくともね」
 キングがひょっこり出て来てその関羽に話す。
「関羽はその中ではましね」
「ましなのか」
「ええ、ましよ」
 こう言うのである。
「所謂サドね」
「確かそれは」
「そう、好きな相手を責めて喜ぶ人を言うのよ」
 それがサドだとだ。キングは関羽に話す。
「逆に責められて喜ぶのは」
「何というのだ?」
「マゾというのよ」
 キングは真顔で張飛にも答える。
「馬超達はマゾね」
「それは何となくわかるな」
 関羽はキングの説明に納得した顔で頷いて述べた。
「翠に朱里もな」
「確かに。あの二人はそっちなのだ」
「孫権殿もな」
「孫権ちゃんはしっかりした娘だけれど」
 キングは腕を組み微笑んで話す。
「それでも結構ね」
「うむ、真面目が昂じてな」
「何処かそうしたところがあるのだ」
「可愛い娘ね」
 キングは微笑んでだ。孫権についてこう言った。
「性格が」
「可愛いのか」
「そうなのだ」
「ええ、そうよ」
 まさにそうだというのである。
「ああした娘は私も嫌いではないわ」
「そういえばキング殿はその話だとだ」
「サドになるのだ」
「私はそちらなのね」
「優しいがそれでもな」
「シャルロットや舞もそうなのだ」
 この二人もそうだというのだ。
「それにマリー殿もな」
「そちらになるのだ」
「今気付いたが貴殿等の声は似ているな」
「あとナコルルもなのだ」
 彼女達の声からだ。そう言われていく。
「ううむ、声には何かあるのか」
「サドやマゾにもなのだ」
「私は最初男で通していたしね」
 キングは笑ってこんなことも言った。
「結構女の子にももてたし」
「そうなのか。おなごにか」
「もてたのだ」
「男と思われていた時も」
 そしてだった。さらに。
「今もね」
「今もか」
「女の子にもてもてなのだ」
「そうなのよ。シャルロットもそうみたいだけれど」 
 そしてだ。キングはこの話を出した。
「宝塚みたいと言われるわ」
「宝塚?ああ、貴殿等の世界のか」
「女だけでやるお芝居なのだ」
「ええ、それにね」
 見られ言われるというのだ。
「背も高いこともあって」
「そうなのだ。おまけに胸も大きいのだ」
 キングはスタイルもいい。
「羨ましいのだ」
「胸の話もするのね」
「鈴々は大きなおっぱいが欲しいのだ」
 彼女にとっては実に切実な願いである。
「だからなのだ。羨ましいのだ」
「胸、ね。そういえば」
 ここでキングは彼女達の名前を出していく。
「馬超も趙雲も立派な胸ね」
「何をどうしたらああした胸になるのだ」
「黄忠さんに厳顔さんも」
「あれはもう反則なのだ」
 憮然としながら言っていく張飛だった。
「あんな胸が欲しくて仕方ないのだ」
「劉備さんなんかも」
 彼女の名前も出した。
「かなり立派よね」
 こう言ってだ。さらにだ。
 関羽も見る。当然胸をだ。そのうえでの言葉だった。
「関羽の胸はかなり」
「肩が凝って仕方がないのだ」
 そうだとだ。関羽は困った顔で答える。
「義姉上達もそうだというが」
「胸が大きいと肩が凝るのだ?」
「そうだ、凝る」
 こう言うのである。
「私の悩みの一つだ」
「どんな悩みなのだ」
 そう言ってもだ。張飛は。
 憮然とした顔になる。それで言うのだった。
「胸が大きいと肩が凝るなんてないのだ」
「しかしだ。実際に私は」
「じゃあお姉ちゃんもなのだ?」
「そうだ。当然義姉上もだ」
 肩が凝るというのだ。
「よく言っておられるぞ」
「そこまで胸が大きかったら悩みにならないのだ」
「私の胸の話が出たけれど」
 ふとだ。キングがまた言ってきた。
「舞なんか凄いわね」
「あれはもうバインバインなのだ」
 また不機嫌な顔で言う張飛だった。
「暴力なのだ」
「胸が大きいのは暴力なの」
「そう、暴力に他ならないのだ」
「胸か。そういえば」
 ここで関羽はあることに気付いて言う。
「よく呂蒙殿や郭嘉殿が言われるが」
「あの二人は中身ね」
「それと袁術殿もだ」
 彼女の名前も出る。
「胸が大きいことを自慢する者は駄目だと」
「あの三人最近貧乳教の幹部になったそうね」
「それはどうなのだ」
「あの三人が正しいのだ」
 張飛は彼女達の側につく。
「胸が大きいことはそれだけで駄目なのだ」
「中もそうなるのか?」
「無論なのだ。中の人も大事なのだ」
 張飛の主張はここにも及ぶ。しかしだ。
 中の話ではだ。関羽はこう言うのだった。
「私はそれを言えばだ」
「どうなのだ?」
「低いぞ」
 そうだというのだ。
「意外に思うかも知れないがだ」
「そうなのだ?そうは見えないのだ」
「一五四程だ」
「こちらの世界の単位ではね」
「そうだ。私はあまり大きくはないぞ」
 関羽は自分のことをこう話す。
「それとだ」
「それとなのだ?」
「義姉上はより小さい」
 劉備もだ。中はそうだというのだ。
「私よりもさらにだ」
「ううむ、そういえば呂蒙も」
「あの御仁も中はそうだ」
「あとは曹操のところの猫耳軍師もなのだ?」
「そうだな。かなりな」
「胸だけでなく背もあるのだ」
 中の話はさらに続く。
「けれど背はあれなのだ」
「どうだというのだ?それは」
「意外と甘寧が大きそうなのだ」
「そうだな。甘寧殿はどうやらだ」
 どうかとだ。関羽は話す。
「あちらの世界で言うと百七十はあるな」
「女にしては大きいのだ」
「中の話をすると止まらないわね」
 キングは苦笑いと共に述べた。
「さっきは私の話だったし」
「ううむ。胸や背の話もだな」
「どうしてもそうなるのだ」
 そんな話もする彼女達だった。彼女達にとってみれば切り離せない話だった。
 しかしその中でだ。闇の中では。
 ゲーニッツがだ。笑いながら言うのだった。
「どうやら気付かれた様ですね」
「この赤壁にですね」
「俺達がいることがだな」
「はい、どうやら」
 こうだ。彼は于吉と左慈に話す。
「それで今出陣の用意をしています」
「ではですね」
「俺達もだな」
「はい、楽しむ用意をしましょう」
 ゲーニッツはまた言った。
「私の術を見せましょう」
「風だな」
 左慈が言う。
「あんたのその術を使ってか」
「ああ、今回はな」
「私達もね」
「思いきり楽しませてもらうよ」
 社にだ。シェルミー、クリスまで出て来て言う。
「その私達の力を使ってです」
「ここに来る連中を一人残らずな」
「倒すわ」
「そうするよ」
 これがオロチ一族四天王の決定だった。
「私はです」
 ゲーニッツの目が蛇のものになる。その青い不気味な目になりだ。
 彼はだ。こう言うのだった。
「あちらの世界もこちらの世界も嫌いではありません」
「楽しんでいますね」
「はい、そうです」 
 まさにそうだとだ。ゲーニッツは左慈に答える。
「これでも楽しむ性格です」
「そうですね。貴方はそうした方ですね」
「オロチは何かを楽しむものです」
 自分達のそうした性質についても話すのだった。
「それが戦いであってもです」
「楽しみそうしてですね」
「目的を達成するものです」
「俺もあれだぜ」
 社も言う。
「旅は楽しんでだな」
「その旅で私達を見つけてきたのよね」
「それが目的だったしね」
 シェルミーとクリスは笑って社に応える。
「けれどその旅行もね」
「楽しんでいたよね、社は」
「俺達は確かに普通の人間じゃないさ」
 それは違うことはだ。自覚している。
 しかしだ。それでもだと社は話すのだ。
「けれどな。半分は人間だからな」
「半分はですか」
「あれだぜ。半分は人間で半分はってやつさ」
「楽しむところは人間ですね」
 笑ってだ。于吉は話す。
「そういうことですね」
「それだよ。オロチは楽しむからな」
「もっとも。山崎はね」
「僕達には絶対につかないけれど」
「まあ一人位はああいう奴もいるさ」
 社は彼についてはこれで終わらせる。
「それでも俺達は大抵そうさ」
「生きることは楽しんでか」
「そこはちゃんと言うぜ」
 こんな話もする彼だった。そんな話をしてだ。
 彼等はだ。赤壁での戦のことをだ。楽しみにしていた。
 闇の者達も動いていた。そうしてだった。戦いの用意はだ。少しずつ進められていっていた。お互いに。


第百九話   完


                        2011・9・12







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