『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                             第百二十三話  黄蓋、策を見破るのこと

 いよいよだった。真夜中になっていた。
 その夜の闇の中でだ。程cが仲間達に話していた。
「間も無くですね」
「ああ、今頃奴等はね」
「我々のすぐ傍まで来ている」
「間違いなくな」
 ジョーカーのゴズウ、メズウが応える。
 彼等も闇の中を見ている。そうして程cに応えるのである。
「この長江からね」
「来る」
「何をするかはわからないが」
「そうです。それでなのですが」
 ここでだ。程cは眉を顰めさせた。そうしてだ。
 そのいささか不機嫌そうな顔でだ。こう言ったのである。
「風が出てきましたね」
「んっ、そういえば」
 カズウもここで気付いた。その風にだ。
 それでだ。カズウはこう程cに対して尋ねた。
「この場所、赤壁では風はこう吹くのか」
「南東から北西にですね」
「敵陣からこっち側に?」
 ジョーカーはこう言った。
「そう吹くものなの?」
「いえ、これまでは逆の方向でしたね」
 程cもそのことはわかっていた。伊達に軍師を務めているわけではない。
 それでだ。こう言うのだった。
「こんなに急に風が変わることは」
「ええと。ここは揚州だけれど」
 ここからだ。ジョーカーは考える顔、メイクの下でそうなりながら言った。
「だから詳しい人は」
「はい、私達ですか?」
「我々に何か」
 諸葛勤と揚奉がここで彼等のところに出て来た。
「この風のことですよね」
「急に風向きが変わって」
「そうだ。この風はこの場所ではこうなのか」
「赤壁では」
「いえ、私もこの州に長い間いましたが」
「私もこの辺りにはよく来ていましたが」
 諸葛勤と揚奉は怪訝な顔になってゴズウとメズウに答えた。
「それでもこの風は」
「ありませんでした」
「ではこの風は」
 カズウは彼の仮面の下から警戒する声を出した。そしてだ。
 怪訝な調子で周囲を見回しだ。言ったのである。
「敵か」
「ですね」
 程cの眉が顰められる。またしても。
「間違いなく」
「御主等そこにおったのか」
 彼等のところにだ。黄蓋が来た。そのうえで言ってきたのである。
「この風はまさかと思うが」
「はい、おそらくですが」
 程cはその顰められた眉のまま黄蓋に述べる。
「敵の策です」
「風。敵陣からこちら側に吹いておる」
 そこからだった。黄蓋も考えだ。そうしてだった。
 急にその顔を険しくさせた。まるで豹の様になった。
 その豹の顔をあげてだ。彼女は叫んだ。
「皆の者、すぐに水を用意せよ!」
「水!?」
「水をですか」
「そうじゃ、急げ!」
 こうだ。諸葛勤と揚奉にも告げた。
「さもなければ間に合わぬぞ!」
「水、火ですか」
 程cはすぐに察して言った。
「それが来ますか」
「ここで火計を仕掛けられればどうなる」
 黄蓋のその束ねられた白髪もだ。今は風で大きくなびいていた。
 それは闇夜の中でも白く映える。艶のあるその髪を揺れ動かしてだ。
 彼女はだ。再び言うのだった。
「我等は焼き尽くされるぞ。急げ!」
「わかりました。それではです」
 程cも言う。
「すぐに今から」
「とにかく急ぐのじゃ、それにじゃ!」
 黄蓋の言葉は続く。
「火を消す為にじゃ。布を用意せよ」
「それで上からはたいてか」
「火を消すんだな」
「そうじゃ。そうするのじゃ」
 まさにそうだと答える黄蓋だった。
「よいか、ここが正念場じゃ急げ!」
「はい、わかりました!」
「それではすぐに!」
 諸葛勤と揚奉が応えてだ。すぐにだった。
 全軍で水を用意前線に持って来た。そして風に乗ってだ。
 一隻の船が来た。その船を見てだ。
 黄蓋はだ。また言うのだった。
「あの船じゃ。あれこそがじゃ」
「!?あの船は」
 呂蒙はその左目、片眼鏡をかけたその目で見て言った。
「何か多くのものを積んでいるのでは」
「そうじゃな。それもじゃ」
「ここで来るということは」
「燃えるものを多く積んでおるぞ」
「おい、この時代にはないものを積んでるぜ」
 ラルフがその船を見て顔を強張らせた。
「火薬だな。どっさり積んでるぜ」
「おい、あの船沈めないとやばいぜ」
 クラークもだ。サングラスを外してしかと見ていた。
「さもないと燃やされるぜ、俺達がな」
「幾ら水を用意しても」
 レオナは見た。その船が一隻でないことを。
「あれだけの火がくれば」
「危険ですね」
 ウィップも言う。
「早く何とかしなければ」
「僕が行くよ」
「俺もだ」
「私もね」
 アルフレドに乱童、それに眠兎がだ。すぐに飛んでいった。そうしてだ。
 すぐに空から攻撃を仕掛けてだ。その船を次々に沈めていった。
 それで船はかなり減った。しかしだった。
 黄蓋はそれでもだ。その船達を見て言うのだった。
「まずいぞ、これは」
「えっ、けれど船は減ってるけれど」
「それでも!?」
「奴等は侮れぬ」
 船は沈んでいき消えていっていた。夜目の中でそれが見える。
 しかしそれでもだ。黄蓋はこう言うのだった。
「一隻でも残ればじゃ」
「そこからか」
「火が起こるってんだな」
「その通りじゃ。危うい」
 楽観していなかった。決してだ。
 そして彼女の言うことにだ。孫策も頷いて言う。
「祭の言う通りね。敵にはオロチがいるから」
「左様、それでなのじゃ」
 黄蓋も主君の言葉に応えた。
「風も火も使える。それで火薬に火を点けさせては」
「大変なことになるわね」
「まずはそれを避けることじゃ」
 あらためて言う彼女だった。そうしてだ。
 その弓を引き絞りだ。そのうえで。
「むん!」
 気を込めて放ちだ。船のうちの一隻を沈めた。
 そしてまた放ちもう一隻だった。それを見てだ。
 黄忠も弓をつがえそうしてだった。
 彼女も矢に気を込めて放ちだ。船を沈めたのだった。そうしてだ。
 こうだ。仲間達に言うのだった。
「火は駄目でも気なら大丈夫よ」
「よし、それなら!」
「俺達も!」
 気を使える面々がだ。次々と気を放ってだった。
 船を沈めていく。そしてその中でだ。
 夏侯淵もだ。己の弓矢に気を込めてつがえる。その彼女にだ。
 夏侯惇がだ。こう言うのだった。
「秋蘭、いけるな」
「任せてくれ姉者」
 狙いを定めながらだ。妹は姉に応える。
「船はこれで沈められる」
「そして私もだな」
 夏侯惇もだ。剣を構えた。大刀をだ。
 そうしてだ。彼女はそれを両手に持ち下から一気に上にあげた。それでだった。
 衝撃波を放ちだ。それで船を撃ち沈めたのだった。彼女もそうした。
「私もだ。これならだ!」
「いけるか姉者」
「やる!勝利の為だ!」
 再び衝撃波を放ちまた一隻沈めて言う夏侯惇だった。
「私もだ!」
「では姉者、いいな」
「うむ、やってやる!」
 こうしてだった。彼女も船を沈めていくのだった。
 その他の者達もだった。船を沈めていく。呂布もだった。
 呂布もその方天戟を振るい衝撃波を放つ。それを見てだった。
 傍らにいる陳宮がだ。こう言うのだった。
「恋殿、お願いします」
「ねね、大丈夫」
 こうだ。呂布はその陳宮に述べる。
「恋、船を全部沈める」
「はい、それでは」
「ねねも皆も恋が護る」
 表情は変わらない。しかしだった。
 呂布は今は正面を見てだ。そのうえで敵の船を沈めていっていたのだ。
 目は強い光を放っていた。その輝きは夜でも映えている。
 そしてだった。また衝撃波を放ち言うのだった。
「ねね、この戦いが終わったら」
「はい、どうするのです?」
「これまで以上に動物達を集めて」
 そうしてだというのだ。
「二人でずっと一緒に暮らそう」
「ねねと恋殿が」
「そう。ねね恋を助けてくれた」
 かつてのだ。関でのことだった。
「そのこと忘れない」
「恋殿・・・・・・」
「恋ねねのこと好き」
 このことも言うのだった。
「そしてねねも恋のことが好きだから」
「ねねは何時までも恋殿と一緒なのです」
 陳宮もだ。そのことは強く言った。両手が拳になっている。
「恋殿の為なら全てを賭けるのです!」
「そう。だから一緒にいよう」
 こう言ってだった。呂布は再び衝撃波を出してだった。
「ずっと。この戦いの後でも」
「わかったのです。この戦いに勝ってなのです」
「そうしよう」
 こう話しながらだ。彼女達も戦っていた。そしてだ。
 船は遂にその殆どが沈んだ。残るは一隻だった。その一隻を見てだ。
 張飛がだ。大きく叫んだ。
「後はあれを沈めれば終わりなのだ!」
「よし、それじゃあな!」
 馬超が己の十字槍を右に構えた。そこから左に大きく振ってそうして衝撃波を出すつもりなのだ。今そうしようと構えていたのである。
 それで放とうとした。しかしだった。
 その船にだ。彼がいた。
「!?あいつは」
「ゲーニッツなのだ!」
 張飛も見た。彼をだ。
「あいつがいるのだ!」
「丁度いい!ここであいつごとな!」
「船を沈めるのだ!」
 馬超だけでなくだ。張飛もだった。
 その船に衝撃波を放とうとする。しかしだった。
 ゲーニッツはその衝撃波をだ。両手からそれぞれ竜巻を出して打ち消してしまった。
 そのうえでだ。船の上で悠然と笑って言うのだった。
「御見事です。しかしです」
「あたし達の衝撃波を消したってのか」
「何て奴なのだ」
「私の風には何ものも退けられませんよ」
 こう言うのだった。
「無駄なことです」
「そうはいかないよ!」
 そのゲーニッツにだ。アルフレドが急降下攻撃を仕掛ける。しかしだった。
 その彼にだ。ゲーニッツは無数の鎌ィ足を放ってだ。
 その攻撃を防いだ。アルフレドは慌てて上昇してそれをかわした。
「危ない、まさか僕にも気付いて」
「無論です。この程度ではです」
「気付くっていうんだね」
「はい、その通りです」
 上空のアルフレドを見上げてだ。悠然と答えるアルフレドだった。
「残念でしたね」
「うう、この男を倒さないと」
「さて、この船には火薬が積まれています」
 ゲーニッツは今自分が乗る船について話をはじめた。
「これに火を点ければどうなるか」
「そう、僕の火をね」
 船の上にだ。今度はクリスが出て来た。
 彼はゲーニッツの横に来てだ。楽しそうに笑って言うのである。
「点ければ。わかるよね」
「そんなことはわかっておるわ!」
 黄蓋が弓をつがえつつ二人に言い返す。
「だから今倒してやるわ!」
「はい、どうやらこのままでは」
「僕達の失敗に終わるね」
 ここでこう言う二人だった。そうしてだ。
 周りのだ。彼等を取り囲む面々を見て言うのだった。
「これだけの攻撃を受ければ私達もです」
「防ぎきれないからね」
「なら早く観念しろ!」
 関羽も己の得物を構えながら告げる。
「貴様等の企み、断じてさせん!」
「ではクリス、ここはです」
「諦めるべきだね」
 二人は顔を見合わせてこんなことを言った。
「ではですね」
「ここは下がろう」
「はい、では」
「こうして」
 二人でだった。顔を見合わせてだ。
 そのうえで船の上から姿を消した。それを見てだ。
 孫策は顔を顰めさせてだ。こう言ったのだった。
「逃げた!?こんなにあっさりと?」
「どうも腑に落ちませんが」
「それでもですね」
 二張も主に応える。
「あの船はとりあえずは」
「沈めるべきですね」
「アルフレド、罠はあるかしら」
 孫策は慎重にだ。船の上を飛ぶアルフレドに尋ねた。
「その船には」
「ええと、僕からは見られません」
 こう答えるアルフレドだった。
「全くです」
「ああ、俺達も何も感じないぜ」
「ただの火薬を積めただけよ」
 乱童と眠兎も言う。
「沈めても全くな」
「問題ないよ」
「わかったわ。それじゃあね」 
 孫策は自分がその剣に気を込めてだ。そうしてだった。 
 そのうえで剣を振ってだ。気を放ってだった。
 船を撃ち沈めた。これで全ての船は沈んだ。それを見てだ。
 誰もがだ。こう言って安堵したのだった。
「これで一件落着か?」
「敵の攻撃は防いだし」
「じゃあ今夜の戦いは勝った」
「そうなるのかしら」
「いえ、まだです」
 しかしだった。ここでだ。
 郭嘉がだ。こう一同に言ってきたのである。
「敵はまだ来ます」
「敵が来る!?」
「まだ!?」
「来るんですか」
「はい、来ます」
 こうだ。仲間達に話すのだった。真剣そのものの顔で。
「船の火が失敗してもです」」
「まだ来るのか」
「そうです。今は南東から北西に来ました」
 郭嘉はこう魏延に答えた。
「それなら今度はです」
「南西から北東か」
 魏延も馬鹿ではない。すぐにこう察したのである。
「そう来るか」
「そうです。ですから」
「すぐに移るわよ」
 郭嘉の言葉を受けてだ。曹操がすぐに指示を出した。
「ここには物見の兵だけを置いてね」
「はい、そうしてですね」
「南西から来る敵に備えますね」
「ええ、急ぐわよ」
 今度もだ。そうしなければならなかった。
「さもないとまた攻撃を受けるわ」
「また船で来るのかよ」
 火月、火を使うので今回は出番がなかった彼が曹操に尋ねた。
「火薬を満載したあの船で」
「いえ、おそらく今度はです」
 郭嘉の読みが続く。
「人です」
「人!?」
「人が乗ってくる?船に」
「そうなるってのかよ」
「はい、彼等は既に多くの火薬を使っています」
 船に積んでいたその火薬のことだった。
「その量をみますと」
「そうね。流石にこれ以上の火薬を出すことはね」
「できません。それにです」
 曹操に応えながらだ。郭嘉は話していく。
「彼等も間違いなく兵を出していますから」
「そしてその兵であらかじめ切り込む為にも」
「既に動かしてきている筈です」
 そしてその兵がだというのだ。
「ですから」
「よし、人か!」
「それならそれでやってやる!」
 こうしてだった。彼等はだ。
 すぐにそちら側に向かった。そのうえで護りを固める。
 そこの港には主だった面々が揃っていた。その中でだ。
 魏延がだ。こう劉備に言った。二人もいるのだ。
「桃香様、ここはです」
「うん、敵が来たらね」
「桃香様は私が御護りします」
 ここでも劉備第一の魏延だった。そうしてだ。
 さらにだ。彼女はこうも劉備に話した。
「そして敵が来ればです」
「倒すしかないわね」
「私の傍から離れないで下さい」
 それは絶対にだというのだ。
「決して」
「うん、じゃあ焔耶ちゃんも」
「私のことは御心配なく」
 劉備に言われてだ。実は飛び上がらんばかりに嬉しかった。それは顔にも出てしまっていた。そしてそのうえでさらに言うのであった。
「ここで死ぬことはありません」
「絶対によね」
「はい、何があっても」
 こう言ってだった。その得物の金棒を手に敵を待っていた。そしてだ。
 無数の船達が来た。その数は。
「さっきより多いな」
「それもずっと」
「何だよこの数」
 あの三人組がこうぼやいていた。
「これは水際で全部退けるとかは無理だな」
「まず無理ですぜ」
「そう、どう考えても」
 いつも真ん中にいる無精髭にチビとデカが言う。
「けれどここで死んでもですぜ」
「そんなの嫌だ」
「そうだよ。生き残る為に戦わないとな」
 この三人にしても戦う理由があった。そしてその彼等にだ。
 張遼がだ。こう声をかけたのである。
「あんた等、死んだらあかんで」
「へい、それはわかってます」
「俺達もそれは嫌ですから」
「そや。その域や」
 張遼は彼等の生きようという考えを認めてこう述べた。
 しかしだ。同時にこんなことも言うのだった。
「ただ。あんた等絶対に生き別れの兄弟何人もおるやろ」
「えっ、あっし等にですか?」
「生き別れの兄弟がでやんすか?」
「それが」
「そや。そっくりな奴しょっちゅう見るからな」
 張遼にしてもその経験があったのだ。それで言うのである。
「そこんとこどないや」
「そんなのいませんけれど」
「なあ、妹はいるけれどな」
「おで弟がいる」
 三人はそれぞれ言う。本当に知らないことだった。
 だが何はともあれだった。彼等もだった。
「じゃあ戦いやす」
「張遼の旦那も頼みますよ」
「任せとき!うちは愛紗と一緒になるまで死なんで!」
「だから何でそこで私なんだ」
 たまたまいた関羽がすぐに突っ込みを入れる。
「全く。何故御主はいつも私なんだ」
「決まっとる。好きやからや」
「好きというがだ。私はそうした趣味はだ」
「うちかてまだ経験ないで。おのこの方もな」
 張遼の返事は実に明るい。笑顔も屈託がない。
「そやからどないや?はじめて同志」
「だから私はだ。はじめてもそれからもずっと一人の殿方とだ」
「その純情なところがまたええんや」
「そう。おぼこい娘とはいいものだ」
 今度は趙雲が出て来てだ。妖しい笑みで言うのだった。
 そしてそのうえでだ。隣にいる馬超にそっと囁いた。
「日増しに美味そうになってきているからな」
「待て、ここでもあたしかよ」
「胸も尻も脚もいい」
 馬超のその鍛錬と戦で作り上げられたその肢体を見ての言葉だ。
「顔立ちもだ。髪も艶がある」
 妖しい目で見ての言葉が続く。
「どうだ。戦の後で風呂にでも入り」
「馬鹿、あたしだってそういうことは一人だけなんだ」
「では生涯私とだけだな」
「それでどうしてそうなるんだよ」
「いいではないか。実は私も純情でな」
 何気に本当に自分を言う趙雲だった。
「おなごもおのこも一人だけでいいのだ」
「それであたしだっていうのかよ」
「愛紗も捨て難いがな」
 その言葉にだ。関羽が顔を向けてきた。彼女の貞操の危機はここにもいた。
「御主は私もなのか」
「星もいいがその熟れきった肢体は見事だ」
「何故そこで胸を見る」
「尻もいい」
 見れば確かにだ。丈の短いスカートに覆われたそこもかなりのものだった。そして趙雲は彼女の黒髪を手に取りだ。こうも言うのだった。
「碧とどちらがいいかな。夜に見るのは」
「この黒髪は私の命だが」
「命だけあって見事だ」
 相変わらずその髪を見続けている。
「碧も愛紗もどちらもな」
「待て、御主は本当にどっちなのだ」
「そうだよ。蒲公英にも声かけるしよ」
「一人にしなければならないが誰にするべきか」
 こんなことも話していた。そうしてだった。
 全軍でだ。敵を待っていた。その敵達がだ。
 遂に弓の間合いに入った。それを見てだった。
 袁紹がだ。即座にだった。
「弓、宜しいですわね!」
「はい、わかりました!」
「それじゃあ!」
 高覧と審配が応えてだった。すぐにだ。
 弓兵達が弓をつがえだ。一斉に放ってだ。
 船とその上にいる白装束の者達を次々に射抜く。そうしてだ。
 彼等を次々と射抜きだ。そのうえでだった。
 川に落としていく。闇の中に重いものが落ちていく音がしていく。
 船も沈みだ。敵の数が減っていっていた。しかしだ。
 袁紹はさらにだ。こう全軍に命じた。
「先程と同じく。いいですわね」
「はい、衝撃波や気で」
「敵をさらに撃ちますね」
「そうしますわ。では!」
 袁紹の剣が振り下ろされだ。気や衝撃波での攻撃も繰り出されだ。
 敵の船がさらに沈められる。だが敵の数は多い。
 船は数を頼りにさらに近付く。そしてだった。
 港に強引に接近してきて。遂にだった。
「さて、我々がか」
「上陸一番乗りとなったな」
 ネスツの二人がまずだった。港に降り立った。それに続いてだ。
 白装束の者達も来る。一人、また一人と。
 そして瞬く間に港の一角を占拠してだ。そこからだった。
 連合軍に攻め寄せてきた。それを見てだった。
 今度は曹操がだ。己の大鎌を手に言うのだった。
「来たわね、それならね!」
「はい、我々も!」
「行きます!」
「弓兵は船を狙う者達と上陸した者達それぞれに分けるわ!」
 つまりだ。二手に分けるとだ。こう述べてだ。
 傍らにいる曹仁と曹洪にだ。言ったのである。
「私達も行くわ」
「はい、左右はお任せ下さい」
「華琳様は私達が御護りします」
「ええ。さて、問題は麗羽だけれど」
「もう敵に突っ込んでおられますが」
「剣を手にして」
「やっぱりね。本当に戦いになると真っ先に突っ込みたがるんだから」
 袁紹の悪癖が出てしまっていた。見事なまでに。
「どうせ顔良達が言っても聞かなかったんでしょ」
「はい、それであの娘達が左右の護衛についてです」
「麗羽殿を御護りしています」
「あの二人がいるのなら大丈夫だけれど」
 曹操は顔良と文醜がいるのならとまずは安心した。
 しかしだ。この戦局にはだった。
「けれど。敵が上陸してきたからにはね」
「はい、油断できません」
「オロチ一族も来ていますし」
「あとアッシュだったかしら」
 曹操にとっては見慣れない者達もいた。その彼等も戦っている。
「あの連中もいるしね」
「はい、敵の勢力が全て来ています」
「これは激しい戦いになります」
「激しい戦いになっても勝つわよ」
 それは絶対というのだった。
「いいわね、それじゃあ」
「はい、それではです」
「私達も」
 こうしてだった。曹操は二人の従姉妹を従えて敵に斬り込む。戦いは誰もがそれぞれの得物や技で戦っていた。その中でだった。
 李典もだ。そのドリルの槍を手にだ。敵を倒していた。 
 しかしだ。その中でだった。こうぼやくのだった。
「滅茶苦茶多いな、いっこも減らんで」
「言ってる傍から次から次で来るの!」
 于禁もここで言う。
「何かこのままだと」
「数で押し切られかねんな」
「というかどれだけいるの?」
 于禁は白装束の者達をその双刀で斬っていた。
「沙和達より多いの?」
「そうかもな」
 楽進もここで言う。
「百万はいるか」
「百万って一口に言うけどな」
 李典はうんざりとした口調になって述べる。
「うち等もそれ位おるけど洒落にならん数やで」
「そうだ。それ位はいるな」
「白装束の連中いつも出る時はわんさとやしな」
「真桜、何かいいからくりないの?」
 于禁が李典に問う。
「このままじゃ押し切られるの」
「からくりな。ここまで混戦やとな」
 どうかというのだ。李典は難しい顔で言う。
「うちのこのドリルだけやな」
「それならそれで戦い方がある」
 楽進が両手から気を出しそれで敵をまとめて薙ぎ払いながら李典に返す。
「敵をまとめてだ。こうして」
「吹き飛ばすんやな」
「こうして少しずつでも数を減らしていく」
 地道なやり方がだ。楽進らしかった。
「それでいいと思うがな」
「ううん、うちはどかんとやるのが好きやけれどな」
「沙和もなの」
 この辺りは二人の違いが出ていた。見事なまでに。
「けど一人一人よりこうして何人かまとめて吹き飛ばしてるし」
「ならそれで満足するべきなの?」
「それしかない」
 楽進の言葉は真面目なままだった。
「では地道にだ」
「ほな地道に派手にや!」
「頑張るの!」
 二人は楽進を中央に置き三人でだ。まとめて技を出し。
 敵を次々と倒していく。そうしたのだ。
 誰もが奮闘していた。そしてだ。
 八神はだ。アッシュの面々を前にして言うのだった。
「貴様等のことは忘れていない」
「ああ、力が戻ったんだ」
「そうなのだな」
「見ての通りだ」
 こう返す八神だった。その鋭い目で。
「それは戻っている。それならだ」
「俺達を倒す」
「そうするつもりか」
「俺は受けた仕打ちは忘れはしない」 
 アッシュの者達を見ながら言っていく。
「では覚悟はいいな」
「よし、じゃあやろうか」
「こちらも楽しませてもらう」
 八神はアッシュの者達と戦う。その戦いは彼等だけでなくだ。
 神楽もだ。ゲーニッツを前にしていた。そしてだ。
 彼に対してだ。緊張している面持ちで告げる。
「今度こそ。貴方は私が」
「封じるというのですね」
「ええ。姉さんの仇」
 左手を前に出した独特の構えでの言葉だった。
「それを今」
「それはもう果たされたと思いますが」
「いえ、あの時は貴方は逃げたわ」
「天に召されたことによってですか」
「だから今度こそ」
 それでだというのだ。神楽も意地を見せる。
「貴方を封じます」
「いいでしょう。それではです」
 神楽に対してだ。ゲーニッツは竜巻を繰り出してきた。
「そこですか?」
 神楽はその竜巻をかわしだ。それが合図になりだ。
 彼等の闘いもはじまる。オロチの闘いが。
 そしてオロチの闘いはそれだけではなくだった。
 草薙、二階堂、大門はだ。それぞれクリス、シェルミー、そして社と対峙していた。夜の港の中でだ。彼等は対峙していたのである。
 その対峙の中でだ。まずは社が言った。
「何ていうか因縁の対決だな」
「うむ、確かにな」
 大門が厳しい声で彼の言葉に頷く。
「わしの地震の力に貴殿の大地の力か」
「ああ。ここでもそれだな」
「そうなのよね。私の雷に」
「俺だな」
 二階堂はシェルミーを見据えていた。
「俺とあんたも結構以上に因縁があるからな」
「同じ雷としてね」
「運命か」
「そういうやつか?」
 大門と二階堂はここでこう言った。
「我等がそれぞれ同じ力の持ち主と戦うのは」
「そういうやつっていうのか」
「まあそうだろうな」
「それもね」
 大門と二階堂の緊張した面持ちに対してだ。社とシェルミーは明るい。
 そしてその明るさにだ。社は不敵な笑みを加えて告げた。
「じゃあやるか、金メダリストさんよ」
「その雷久し振りに見せてもらうわ」
「うむ、それではだ」
「遠慮はしないぜ」
 二人は応えてだ。それからだった。
 互いの相手と戦いに入る。草薙とクリスもまた。
「喰らえーーーーーーーーっ!」
「おっと」
 跳びだ。クリスは草薙の闇払いをかわした。しかしそこにだ。
 同じく跳んだ草薙がだ。朧車を空中で仕掛ける。
 三連続の蹴りがクリスを襲う。しかしそれもだった。
 クリスはその手で受け止め防ぐ。そして着地した時にだ。
「下です」
 着地した草薙の足下を狙いだ。攻撃を仕掛ける。青い炎をその身にまとい。
 そうして狙う。だがそれはだ。
 草薙は防ぐ。かがみだ。
 両者の攻防はまずは互角だった。そしてすぐにだ。
 草薙は再び攻撃を加える。今度の攻撃は。
 拳に紅蓮の炎をまとわせそうしてだった。
「ボディがらあきだぜ!」
 拳を続けて繰り出す。それで防いだのだ。
 しかしだ。それを受けてもだった。
 クリスは退かない。それどころかだ。
 彼も青い炎を繰り出す。赤と青の炎が激突していた。
 その二色の炎の中でだ。クリスは言うのだった。
「僕としてはここでね」
「俺を倒してか」
「この陣を燃やしたいんだけれどね」
「悪いがそれは無理だな」
 草薙は強い声でクリスのその願いを否定した。
「俺が手前を倒すからな」
「だからなんだ」
「あと手前はオロチにはさせねえ」
 それも防ぐというのだ。
「諦めろ。それもな」
「諦めるって僕達の目的を?」
「そうだよ。俺は命までは取らねえ」
 その考えはだ。草薙にはなかった。
「手前等が諦めるんならそれでいいからな」
「言うねえ。けれどね」
「手前は諦めないっていうんだな」
「うん、そうだよ」
 その通りだとだ。クリスは悠然と笑って返す。
「何があってもね」
「なら仕方がねえな。俺もだ」
「やるんだね。闘いを」
「オロチは俺が倒す」
 再びだ。その両手に炎をまとい言う草薙だった。
「この炎で払ってやる」
「草薙の剣。二千年前から同じだね」
「その剣がこの世界でも手前等を払う」
 草薙の言葉は強い。その目も。
 そしてその目でだった。クリスに再びだ。
 闇払いを繰り出しそうしてだ。闘うのだった。
 闘いは五分と五分だった。連合軍は強く数も多い。しかしだ。
 白装束の者達は次々に上陸してきてだ。闇の中でだ。刺客の様に攻めてきていた。その彼等との戦いの中でだった。
 命はだ。月に言っていた。
「彼はまだですか」
「はい、姿は見せません」
 月は薙刀を振るいつつ彼を探していた。
「この戦いにも参加していることは間違いありませんが」
「そうですね。既に羅将神ミヅキは来ています」
 見ればだ。ミヅキは天草と闘っていた。しかしだった。
 月の探す刹那はだ。今は戦場にいなかったのだ。それで言う月だった。
「ですがそれでもです」
「見つければその時」
「今度こそ」
 月の顔が強張る。決意によって。
「私がこの力で」
「ですがそれは」
「はい、お兄様達は仰いますが」
「それならです。軽挙は慎むべきです」
 それは決してだとだ。命も彼女を止める。そうしてだった。
 刹那を探していた。しかしだ。
 彼の姿はまだ見えない。それで言うのだった。
「例え見つけてもです」
「私の命はですか」
「はい、粗末にしてはいけません」
 命自身も言うのだった。彼女を止める為に。
「私もいます。ですから」
「ですからですか」
「守矢さんと楓さんのお話を御聞き下さい」
「そうするべきですか」
「この戦いでは多くの戦士達が集っています」
 命が言う根拠はここにあった。
「貴女だけが背負うものでないのですから」
「私だけが」
「貴女は生きられます」
 封じることによってだ。命を捨てることもないというのだ。
「私にはそれが見えます」
「私は、生きる」
「そうです。貴女の命は消えていません」
 命も巫女だ。だからこそ見えるのだった。 
 そのことを月自身に伝えてだ。戦いながら言うのである。
「誰かが。貴女を助けてくれます」
「それは一体」
「それが誰かまではわかりません。けれどです」
「それでもなのですね」
「そうです。貴女を助ける為にその方が来られます」
 そう言ってだった。命は今は月の傍にいた。彼女達も戦っていたのだ。
 その中でだ。華陀はだ。
 戦場に赴きだ。そうしてだった。
 傷ついた者達を癒していた。あの術で。
「光になれーーーーーーーーーーーーっ!!」
「よし、これでまたな!」
「戦えるな」
「ああ、大丈夫だ」
 臥龍が彼に威勢よく応える。
「あんた、本当に凄い医者だな」
「俺のこの針に治せないものはない」
「刀傷でもなんだな」
「刀傷でも何でも治せる」
 それが彼の針だった。
「だから安心してくれ」
「ああ、怪我をしてもだな」
「俺の針がある」
 こうだ。華陀は光の針を手に言った。
「それこそ首が飛ばない限りはいける」
「流石にそれは無理か」
「それができるのは黒子さんだったな」
 生き返りは彼の担当だというのだ。
「俺じゃない」
「まあそれにしてもだな」
「怪我なら任せてくれ」
 それは大丈夫だというのだ。
「何度でも治してやるからな」
「悪いな、本当に」
「それではまた行くか」
 戦場に赴く臥龍への言葉だ。
「そして戦うんだな」
「正直逃げたいとも思うさ」
 臥龍は笑ってこんなことも話した。
「それでもな。意地があるからな」
「それでか」
「戦ってくるな」
 こう話してだった。臥龍も戦場に赴く。そしてだった。
 華陀の左右にだ。それぞれあの妖怪達が出て来てだ。こんなことを言った。
「ううん、凄い戦いになってるわね」
「最初の決戦だけれどね」
「いきなりもう天王山って感じ?」
「壮絶なことになってるけれど」
「だが勝てる」
 華陀は強い顔で言い切った。
「流れがそうなっているからな」
「ええ、この戦いは勝てるわ」
「間違いなくね」
 二人にもそのことはわかった。戦局も読めるのだ。
 そしてその目でだ。妖怪達はこうも言った。
「けれどここは第一の戦いでしかないからね」
「次もあるのよ」
「次か。あの場所だな」
「そう、あの場所でこそね」
「最後の戦いが行われるのよ」
 怪物達はこう華陀に話すのだった。ここでだ。
 しかしだ。それと共にこんなことも言った。
「それにあの人もね」
「もうすぐ来るから」
「いつも話してたあの人だな」
「娘さんを助けにね」
「ここに来るのよ」
 妖怪達はここで言った。
「だからその人とも合流してね」
「戦うわよ」
「前に会ったな」
 華陀はこうも話した。
「あの人も来るんだな」
「あの人も戦う為にね」
「来るからね」
 こう話すのだった。そして華陀はだ。
 二人にだ。こうも話した。
「ただ。あんた達は今は戦わないんだな」
「あたし達はそれぞれの世界を護ることが役目なのよ」
「だから過度の干渉はしちゃいけないの」
 そうだとだ。怪物達は華陀に話す。
「この世界はあの娘が護るものだから」
「あまり過度に干渉すると駄目なのよ」
「そうね。わかったわね」
 そんなことを話してだった。妖怪達は今は静観していた。それが今彼等がすることだった。


第百二十三話   完


                         2011・11・10



黄蓋によって策を読まれたな。
美姫 「前哨戦はまずは劉備たちが無事に収めた感じだったけれど」
流石にあれだけでは終わらなかったな。
美姫 「あちこちで戦いが始まったものね」
でも、既にこの地が決着の場ではないと察している者もいたし。
美姫 「まあ、あの二人の言動は除外しても良いと思うけれどね」
まあな。激しい激突が起こっているけれど、これでもまだラストとはならないなんてな。
美姫 「とりあえずはこの場を勝利しないと何にもならないって事よね」
さあて、どうなるのかな。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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