『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第百三十六話  戦士達、陣を破るのこと

 司馬尉達はだ。十絶陣の中でのそれぞれの攻防を見てだ。
 そのうえでだ。危機を感じつつそこにいた。
 ミヅキがだ。眉を顰めさせて司馬尉に問うた。
「よいのか。このままでは」
「陣が破られるというのね」
「陣にある力を入れるべきではないかしら」
「それができればね」
 苦労しないと。司馬尉はその曇った顔で述べるのだった。
「あの陣の力はどれも絶大なものだけれど」
「これ以上の力は?」
「そうよ。込められないわ」
「今で限界だというのね」
「私の力でもね」
 九頭の九尾の狐、リョウシツのその力でもだというのだ。
「これが限界よ」
「そう。限界なのね」
「ええ。そしてね」
 司馬慰は今度はその顔を苦々しげなものにさせて話した。
「あの陣はあまりにも特殊なものだから」
「力を入れられるのも」
「私だけよ。そして一旦陣を築いたら」
 そうなればというのだ。
「もう力を込めることもできないのよ」
「限界まで入れてそれでなの」
「ええ、終わりのものなのよ」
「そう。それじゃあ今は」
「見ているだけしかできないわ」
 それぞれの陣の中での攻防、それをだというのだ。
「忌々しいけれどね」
「残念ね。けれどこのままだと最悪」
 陣が破られる、ミヅキは最悪の事態を想定した。
 そしてそのことをだ。司馬尉に述べたのである。
「陣を破られてその力が」
「私達のところに来るわね」
「その場合のことは考えているわよね」
「十絶陣は絶対に破られるものじゃない」
 こんなことを言う司馬尉だった。最初はだ。
 だがそれと共にだ。彼女はこう言ったのだった。
「けれど今はその危険を感じるから」
「だからこそなのね」
「考えているわ」
 今現在はそうしているというのだ。
「このまま十絶陣の力を受ければ。軍は壊滅するわ」
「ええ。どうするかね」
「だから。今のうちに」
 どうするべきかをだ。司馬尉はミヅキに述べた。
「結界を張るべきね」
「結界を」
「ええ。今のうちにね」
 そうするべきだと述べてだ。今度はだ。
 己の後ろに控える司馬師、司馬昭の二人にだ。こう告げたのであり。
「いいわね」
「はい、では今から」
「陣全体を守る結界を張りましょう」
「ええ。そうするわ」
 司馬尉自身もだ。結界を張るというのだ。
 そのことを告げてだ。実際にだ。
 三姉妹は呪文を詠唱し結界を張りにかかる。それを見てだ。
 ミヅキもだ。朧に声をかけたのだった。
「いいわね」
「ふむ。結界じゃな」
「このままだと最悪十絶陣は破られるから」
「だからこそじゃな」
「結界を張って私達を護りましょう」
「さもなければじゃな」
 どうなるか。これはもう言うまでもなかった。
 だから朧も頷きだ。そして言うのだった。
「では今よりじゃ」
「私達も結界を張るわ」
「そして他にもじゃな」
「無論だ」
「私達もですね」
 刹那とゲーニッツも応えた。こうしてだ。
 それぞれが結界を張りだ。十絶陣の中の中央の、彼等とその軍勢がいる陣に結界を張るのだった。彼等とて愚かではなくまさに今のうちにというのだった。
 そしてそれを見てだ。孔明が顔を曇らせて言った。
「はわわ、向こうも事態を想定しだしました」
「陣が破られた時に備えて結界を張りだしました」
 鳳統も困った顔で言う。
「それで損害を軽減させようとしています」
「これは厄介です」
「敵も愚かではないのう」
 厳顔もその敵陣を見て述べる。
「備えてきおったわ」
「はい、ですから陣を破ってもです」
「この戦いはそれで勝敗が決した訳ではなくなります」
「彼等の軍勢が健在である限りは」
「勝敗を決したことにはなりません」
「ではじゃ」
 それならばどうするかとだ。厳顔は述べるのだった。
「その敵を粉砕するだけじゃな」
「はい、まずは十絶陣を破りです」
「そこからです」
 軍師二人はすぐに普段の彼等に戻って述べたのである。
「既に包囲していますし」
「一斉に攻め込みましょう」
「既に有利には立っておるのじゃ」
 布陣的にはそうだった。まさにだ。
 だがそれでも油断せずにだ。厳顔はその巨砲を手に二人に述べた。
「しかし。奴等も正念場じゃ、ならばじゃ」
「激しい戦いになります」
「瞬間移動して後ろに来ることも考えられます」
 鳳統はこの事態を想定した。
 だがそのことについてはだ。軍師二人がすぐに述べた。孔明も交えてだ。
 それでだ。二人で話すのだった。
「ですからそれを使わせる心理的な余裕をです」
「彼等に与えないべきです」
「ならばどうするかじゃな」
 厳顔もだ。考える顔になって述べる。
「やはり始終総攻撃をかけてじゃな」
「包囲していることはそれだけで心理的な圧迫を加えています」
 孔明がこのことを指摘した。
「彼等も無意識のうちにそれを感じています」
「そしてそれに加えてじゃな」
「はい。十絶陣も破り」
 彼等が頼むそれを。今の様に攻めながらだというのだ。
「そしてです」
「一斉に攻撃を仕掛ければ」
「心理的にかなり追い詰められます」
「それで瞬間移動等を使わせぬか」
「妖術の類を使わせず」
「そしてです」
 今度は鳳統が話す。
「白装束の一団は独特の身のこなしですが」
「それに対してじゃな」
「これまでは個人と個人でぶつかることが多かったです」
「しかしそれをあらためてか」
「はい、集団で向かいます」
 白装束の者達にだ。そうすべきだというのだ。
「一本の剣に集団の槍で向かうのです」
「ふむ。ではわし等もじゃな」
「個々の将も一人一人で向かわれるのではなく」
「集団でか」
「あちらの世界にはキングオブファイターズという武道大会がありますが」
 鳳統はこの大会のことから話した。
「それに倣ってです」
「キングオブファイターズ?それはわしも聞いておるぞ」
「ではおわかりですね」
「三人一組か四人一組で戦うのじゃな」
「はい、一人で戦うよりもさらに強い力になりますから」
「一本の弓矢は容易に折れる」
 今度はこんなことを言う厳顔だった。
「しかし三本ならばじゃな」
「そう簡単には折れませんから」
「ふむ。ではじゃ」
「はい、私達も最後の戦いです」
 それならばだと言う鳳統だった。
「念には念を入れてです」
「戦をすべきじゃな」
「これでどうでしょうか」
「よいと思うぞ」
 確かな顔でだ。厳顔は軍師二人の策に頷いた。
 そしてそのうえでだ。また言う彼女だった。
「では桃香様にそのことをお話するか」
「はい、ではそうして」
「すぐに桃香様にお話しましょう」
 こう話してだった。それでだ。
 十絶陣を破った後のことを決めたのだった。そのうえでだ。
 劉備にだ。関羽がだ。張飛と共に真剣な顔で言って来た。
「我々はまずは司馬尉に向かいます」
「五虎全員で向かうのだ」
「ですから義姉上は暫くはです」
「于吉に向かっては駄目なのだ」
「桃香様、警護はお任せ下さい」
 今も彼女の傍らにいる魏延が劉備に言う。彼女も真剣な面持ちだ。
「この焔耶、例え何があろうとも御護りします」
「蒲公英もいるからね」
 馬岱もだ。劉備の傍らにいて言う。彼女が劉備の右にいて魏延は左にいる。
 そしてそのうえでだ。こう言って来たのだ。
「桃香様には指一本触れさせないから」
「おっぱいは何があっても護られるにゃ」
 そうなるとだ。猛獲も今は真剣な顔である。
 そしてだ。トラにミケ、シャムもだった。
 三人でだ。猛獲と共に話すのだった。
「おっぱいは守るにゃ」
「ミケ達も頑張るにゃ」
「ここで勝って後はおっぱい祭りにゃ」
「御主等は朱里達を頼む」
 厳顔は猛獲達に孔明達の護衛を頼むのだった。
「あの者達と共にいれくれるにゃ」
「おっぱいじゃないにゃ?」
「胸は後じゃ」
 何気に孔明達のない胸のことが話される。
「ない胸で我慢してくれるか」
「ない胸にゃ」
「そうじゃ、ない胸じゃ」
 このことが妙に念入りに話される。
「そうしてくれるか」
「美衣はない胸は好きじゃないにゃ」
「トラもにゃ」
「ミケもじゃ」
「勿論シャムもじゃ」
 そしてそれは三人も同じだった。
 だがそれでもだ。猛獲達は明るく笑ってこう応えたのだった。
「けれど朱里達は嫌いじゃないにゃ」
「いつもお菓子作ってくれるにゃ」
「御勉強も教えてくれるにゃ」
「とてもいい娘達にゃ」
 だからだと言ってだ。そしてだった。
 厳顔のその頼みにだ。快く頷くのだった。
「わかったにゃ。それならにゃ」
「ずっと朱里達と一緒にゃ」
「おっぱいはその後でのお楽しみにゃ」
「そうするにゃ」
 こう言ってだ。次に瞬間にだ。 
 トラ達が無限増殖に入った。その圧倒的な数で孔明達を囲んだのである。
 そうして護りを固めてだ。決戦に備える彼等だった。
 しかしだ。一人だけだ。孤立している者がいた。
 公孫賛は慌てふためいて出て来てだ。それで一同に言うのだった。
「待て、私は誰と一緒なのだ?」
「誰じゃ、御主は」
 厳顔もだ。公孫賛に目をしばたかせつつ問い返した。
「見たことのない顔じゃがのう」
「そうだな。怪しい者ではないのはわかるが」
「士官の人?」
 魏延も馬岱も当然の様にだ。彼女を知らなかった。
 それでだ。こう言ったのである。
「我が軍の将なのか?」
「ええと。誰なの、それで」
「公孫賛だ。だから何故またこうなるのだ」
 誰にも覚えてもらっていないことにだ。公孫賛は落ち込みつつもだ。
 そのうえでだ。こう言うのだった。
「誰は誰と組めばいいというのだ」
「だから誰じゃ御主は」
 まだ彼女のことを知らない厳顔だった。真剣そのものの顔で彼女に言うのだった。
「見ない顔じゃがまた急に出て来たのう」
「公孫賛だ。今も名前を言ったぞ」
「だからその名は知らん」
 本当に知らない。そこに悪意はない。
「公孫賛のう。名前だけ聞けば幽州かとも思うが」
「そうだ、生まれはそこだ」
「あの地は袁紹殿が治めているが」
「その幽州の前の牧だ。本当に知らないのか?」
「あれっ、ですが幽州の牧は」
 徐庶もだ。首を傾げさせて言う。
「ずっと空席で袁紹さんが烏丸や匈奴征伐の功で任じられていますが」
「そうじゃ。前の牧がおったのは随分前じゃぞ」
「はい、それで前の牧というのは」
「自称ではないのか?よくないのう」
「だから朝廷から正式に任じられたのだ」
 必死であった。公孫賛もだ。
 それでだ。こう一同に話すのだった。
「何進大将軍に直々に任じられた。何故それを知らないのだ」
「呼んだか?」
 その話になるといきなりだった。その何進が出て来た。実は彼女も一将として参戦しているのだ。
 その彼女がだ。公孫賛を見つつ言うのだった。
「ふむ。知らんな」
「左陽ですか」
「うむ。わらわが幽州の牧に任じたのは袁紹じゃ」
 彼女もこう言う始末だった。
「公孫賛?知らぬのう」
「ではこのこの者の言っていることは一体」
「嘘はよくないぞ。騙りは」
「うう、何故何進殿まで覚えておられないのだ」
 公孫賛にとってはさらに辛いことだった。
「私のことを」
「名前はわかった」
「そのことはな」
 厳顔も何進もそれはだというのだ。
「しかし。嘘を吐くのはじゃ」
「よくないぞ」
「ではこれを見てくれ」
 たまりかねてだ。公孫賛は今度はだった。
 懐からあるものを出してきた。それはだ。
 書だった。そこにはだ。
 彼女を幽州の牧に任じると書いてあった。しかもだ。
 何進の名で印も押されだ。尚且つ。
 先帝、霊帝の書と印もあった。それを見てだ。
 何進が目を瞠りだ。こう言ったのである。
「それはわらわの印じゃな」
「それに筆もですね」
「間違いない。わらわのじゃ」
「ではこれで信じて頂けますか」
「袁紹の前に幽州の牧を任じておったのか」
 今本人も気付いた衝撃の事実だった。
「成程のう。そうだったのか」
「何故覚えておられなかったのですか」
「いや、そうだったのか」
 本当に何も覚えていない何進だった。
「いやはや、これは何ともじゃ」
「だから覚えておいて下さい」
「わかった。では公孫賛じゃな」
「はい、そうです」
「御主はわらわと共におるか」
 そのだ。何進と共にだというのだ。
「張三姉妹とも一緒じゃが」
「あの三姉妹とですか」
「張角だけは劉備殿と一緒におるそうじゃがな」
 彼女はそうなるというのだ。
「後の二人はじゃ」
「むっ、ここでもか」
 張角の話を聞いてだ。公孫賛はだ。
 眉を少し鋭くさせてだ。こう言ったのだった。
「あの者は桃香と共にいるのか」
「そうじゃ。それでじゃが」
「何かの策か」
「おそらくはそうであろうな」
「だが。影武者は前に一度したが」
 公孫賛もそのことは覚えていた。
「于吉や司馬尉に同じ策を二度してもだ」
「まあその辺りはわらわも知らん」
「だがそれでもですか」
「そうじゃ。二人で何かする様じゃな」
「張角は武器も使えるが」
 鋸や鉈である。他には刀も使う。
「だからだろうか」
「だからわらわもその辺りは知らん」
「それでもですか」
「うむ、御主は三姉妹の他の二人とわらわと共におれ」
「わかりました。それでは」
「さて、では決戦じゃ」
 何進はその手に串を何本も出して言った。
「わらわも戦うとするか」
「将軍は武器は」
「これじゃ。この串じゃ」
「それは肉屋で使う串では?」
「これが中々使えるのじゃ」
 そうだとだ。何進はその串をそれぞれの指の間に挟んで構えていた。
 その構えを取りながらだ。彼女は言うのだった。
「手裏剣としてのう」
「ううむ、将軍も武芸ができたのですか」
「そうでなくて大将軍が務まるか?」
「それはその通りですが」
「そう言う御主は何を使うのじゃ」
 今度は何進が公孫賛に問う。
「見たところそれなりの武芸が出来る様じゃが」
「剣を使います」
「ふむ。それか」
「はい、この剣を」
 腰の左のところにあるその剣を見つつだ。公孫賛は述べた。
「使いますので」
「見たところ並の剣じゃな」
 何進はその剣がどういったものかすぐにわかった。
「銘もないか」
「それはその通りですが」
「ううむ、何処までも地味な奴じゃ」
 何進は眉を顰めさせつつ公孫賛に述べる。
「そこそこは出来る様じゃが全てそこそこじゃな」
「ですからそれは言わないでくれますか?」
「何なら包丁を持ってみたらどうじゃ」
「将軍もそう仰るのですか」
「どうもそう言いたくなるのじゃ」
 公孫賛を見ているとだというのだ。
「不思議にのう」
「そのこともいつも言われています」
「そうじゃろうな。しかし戦力にはなるのう」
 あくまでそこそこであってもだ。
「後は歌もある。わらわ達もやるぞ」
「はい、わかりました」
 こうしてだった。彼女達もだ。
 組んでそのうえで戦いに備える。最後の決戦に。
 十絶陣の中の攻防は続いていた。その中でだ。
 ストラウドも戦っていた。その彼にだ。
 共にいる李がだ。こう言って来たのだった。
「徐々にですが」
「うむ、それでもだ」
「押してきていますね」
 それぞれの力を両手で前に出してだ。陣の前から来るその衝撃に対してだ。李は言うのだった。
「本当に徐々にですが」
「確かに。しかしだ」
「はい、勝てますね」
 李の言葉がここで変わった。
「このままいけば」
「どうやら陣の術の力は今が限度だ」
 だが、だ。それに対してだった。
「しかし俺達はだ」
「もう一ついけますね」
「そうだ、いける」
 こう言うのだった。それでだ。
 彼等はさらにだ。その全身に力を込めた。その力をだ。
 前に出す。思いきりだ。するとだ。
 陣の力が押された。それを見てだった。
 李はだ。またストラウドに言った。
「今です!」
「うむ!」
 こうしてだ。彼等はだ。
 その渾身の力を出した。それでだ。
 陣の術の力をだ。思い切り押し出した。そしてそれは。
 全ての陣でそうなっていた。十絶陣の力はだ。
 押し出された。遂にそうなった。そしてだ。
 それを見た華陀はだ。意を決した顔になりだ。
 共にいる二匹の妖怪達にだ。こう言ったのだった。
「よし、今だな!」
「ええ、ダーリンそれならね」
「お願いするわよ」
「わかっている、受けろ!」
 十本の針をだ。一度に右手に持ってだ。
 構えを取りそしてだ。陣の上に押し出されたそのそれぞれの力に向かって投げたのだ。
 十本の針達は黄金の光を放ちつつ術に向かいだ。そしてだった。
 それぞれの力に突き刺さった。その瞬間だ。
「行けーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
 華陀は叫んだ。まるで針にさらに力を込める様に。それを受けたかの様に。
 力はそのままだ。敵陣の中央の本陣にだ。一気に進みだ。派手に衝撃を放った。
「やったか!」
「いえ、結界があるわ」
「それがあるから」
 怪物達が華陀に応える。見ればだ。
 実際にだ。その結果によりだ。術の衝撃は防がれていた。
 黒い、闇の衝撃に覆われた本陣の中でだ。于吉は左慈に言っていた。
「結界を張って正解でしたね」
「そうだな。十絶陣の力をそのまま受ければな」
「軍は壊滅状態に陥っていました」
「こうして結界を張って何よりだ」
「しかしです」
 だがそれでもだとだ。于吉は落ち着いた声で言った。
「この結果でもです」
「駄目だな。そろそろもたないな」
「はい、そしてです」
「衝撃が来る」
 左慈は闇のカーテンの向こうに空けて見える紅い血を見て言った。それは紅水陣の力だった。
「術の力がだ」
「やはり軍は損害を受けますね」
「一割程度か」
 左慈はその損害を述べた。
「やられるな」
「そうですね。そして衝撃は受けますから」
「そこに隙ができる」
 陣全体、彼等にそれはなくともだ。
 それができると述べてだ。それで言ったのだった。
「残念だがな」
「はい、彼等はそこに来ますね」
「さて、どういう戦いになるかだな」
「衝撃が来てそこからですね」
「敵が来る。迎え撃つぞ」
「運命の決戦です」
 こうしてだった。彼等も決戦に備えるのだった。そしてだ。
 闇の硝子の天幕はだ。次第にあちらこちらにヒビが入りだ。遂にだった。
 一つ、また一つと割れていきだ。それを合図としたかの様に。
 一気に崩れた。そしてそこにだ。
 十絶陣の衝撃が白装束の者達に襲い掛かる。それを受けてだ。
 闇の軍勢に様々な色の嵐が起こった。術の衝撃の嵐だ。それがだ。
 白装束の者達を襲い吹き飛ばし血水に変えていく。だがその中でもだ。
 数は思ったよりも減らずだ。そしてだ。
 主だった面々はだ。一人もだった。
 だがその彼等もだ。やや苦々しげに言うのだった。
「やられたもんだな」
「ええ、やっぱりね」
「完全には防げなかったわね」
 社にバイスとマチュアが言う。
「予想はしていたけれど」
「十パーセントってところかしら、損害は」
「そんなところだな。さて」
 社は立っていた。まさに仁王立ちだ。その仁王立ちでだ。
 戦場を見ていた。見れば軍全体が荒れてしまっていた。
 そして動きが止まっていた。それを見てだった。彼は言うのだった。
「この状況だからな」
「敵ね」
「遂に来るわね」
「楽しみだよな」
 実際に楽しげに笑って言う社だった。
「来るぜ、奴等がな」
「さて、それなら」
「戦うわよ」
 バイスとマチュアも楽しげに応えてだ。そうしてだった。
 彼等は身構える。そのうえで来るであろう連合軍を待っていた。
 しかし十絶陣の衝撃を受けて軍全体は動きが止まっていた。損害以上にだ。
 動きが止まり白装束の者達は呆然となっていた。そしてそれをだ。
 孔明は見逃さなかった。彼女はすぐにだった。
 鳳統と顔を見合わせ頷き合いだ。そしてすぐに劉備に言った。
「今です!」
「勝利の時です!」
「ええ、わかったわ!」
 そしてだ。劉備もだ。
 二人の言葉に強い表情で頷きだ。こう全軍に告げた。
「全軍攻撃です!」
「わかりました!」
「わかったのだ!」
 関羽と張飛が同時に頷きだ。そのうえでだ。
 全軍が一気に動く。まさに大地が動いた。
 そしてその大地が大きく揺れつつだ。白装束の軍勢に殺到するのだった。
 まずは弓が放たれる。そしてそれぞれの気や術が。
 その中でだ。アクセルもだ。
 両手をこれでもかと振り回しだ。トルネードアッパーを繰り出しつつ叫んでいた。
「これで終わりだ!」
「ああ、行くぜアクセル!」
 隣にいるマイケルもだ。同じ様に竜巻を繰り出しつつアクセルに応える。
「この戦いでな!」
「全て終わりだ!」
 こう叫びつつ竜巻を繰り出してだ。白装束の者達を撃つ。そしてだ。
 騎馬隊も突っ込む。その先頭には夏侯姉妹がいた。
 妹は隣にいる姉にだ。こう言った。
「姉者、この戦はだ」
「わかっている、全力でだな」
「我等の全ての力を出す。そしてだ」
「勝つ!」
 その大刀を手にだ。言う夏侯惇だった。
「そして天下に泰平をもたらす!」
「そうだ、行くぞ!」
「はい、必ず!」
「ここまで来たらやるぜ!」
 顔良に文醜もだ。夏侯姉妹と共にだ。
 騎馬隊を率いて敵陣に突撃する。曹仁や高覧達もだ。
 その騎馬隊の総指揮はだ。袁紹と曹操が務めていた。その二人もだ。
 陣頭に立ちだ。それぞれの剣や鎌を手にしてだ。駆けていた。
「行きますわよ華琳!」
「ええ、麗羽わかってるわ!」
 曹操もだ。今は顔が上気していた。
 そして鎌を手にして突撃しながらだ。こう言うのだった。
「だから貴女もね」
「死ぬな、ですわね」
「死んだら絶対に許さないわよ」 
 敵軍を見据えながらだ。袁紹に言うのだった。
「これからもずっとね」
「一緒ですわね」
「宦官の家の娘も」
「妾の娘も」
「ここまでなれたんだから」
「ですわね。だからこそ」
 今となってはだ。その出自もだった。
 完全にではないがこれまでよりは楽なものになっていた。だからこそだ。
 彼女達も晴れて戦えていた。これまでのことでそうなれていた。
 孫策もだ。敵陣に突き進んでいた。その左右には妹達がいた。
 孫権は姉にだ。こう言うのだった。
「姉上、遂にですね」
「そうよ。長かった戦いもね」
「終わりますね」
「ええ。けれど私はね」
 ここでだ。姉はだ。次妹の顔を見た。
 そしてそのうえでだ。こう告げたのだった。
「貴女達がいて気が楽だったわ」
「私がいてですか」
「そうよ。随分楽だったわ」
 微笑みだ。こう話すのだった。
「孤独って感じたことはなかったわ」
「そうですか」
「その点は助かったわ。後はね」
「後は?」
「最後の最後まで生き残りましょう」
 こう孫権に言いだ。そしてだ。
 孫尚香にも顔を向けてだ。彼女にも言った。
「シャオも少しは大人になったかしら」
「大人も大人よ」
 白虎に乗りながらだ。孫尚香は長姉に文句をつける。
「シャオだって何時か姉様達みたいに胸も大きくなってね」
「そしてなのね」
「もっと大人になるから」
 こう言うのだった。
「だからやるからね」
「ええ、この戦いにね」
「勝って。後で皆で大騒ぎするから」
 彼女もだ。自ら虎を駆り戦いに向かっていた。そうしてだ。
 連合軍は敵陣に突入した。その瞬間にだ。
 神楽がだ。袁術達に言った。
「ではお願いするわね」
「うむ、わかったのじゃ!」
 左右に郭嘉と張勲を置いている袁術は既に舞台衣装に着替えている。それは二人も同じだ。その袁術が神楽の言葉に応えてだ。そのうえでだった。 
 左右にいる郭嘉と張勲にだ。こう告げたのだった。
「凛!七乃!よいな!」
「はい、凛様」
「歌で戦いましょう」
「歌は力じゃ!わらわ達はそれで戦うのじゃ!」
 宝貝を手にだ。袁術は言った。
 そしてそのうえでだ。三人は歌いはじめた。その歌の力が闇の軍勢を打つ。
 その歌は彼女達だけでなくだ。大喬と小喬もだった。彼女達の舞台からだ。
 歌をはじめた。そしてそれもだ。
 敵陣を打つ。彼女達の歌もそうしていた。
 歌いながらだ。彼女達はこう話していた。
「こうして雪蓮様達と一緒にね」
「そうね。一緒にいたいわよね」
 歌の合間にだ。兵達に語り掛ける様に二人で話すのだった。
「だから絶対にね」
「うん、勝とうね」
「ああ、わかってるさ!」
「俺達はやるぜ!」
 兵達もだ。その彼女達の言葉にだ。
 その士気をさらにあげてだ。戦いに赴くのだった。
 当然ながら張三姉妹も歌う。しかしだ。
 張梁と張宝は舞台で二人だった。二人で歌っていた。
 その彼女達を見てだ。兵達はいささか残念そうに述べた。
「ちょっとなあ」
「そうだよな」
「やっぱり天和ちゃんもいないとな」
「残念だよな」
 こう話すのだった。戦いに向かいながらだ。
 やはり三姉妹は三人いればこそだった。だからこそ寂しく思っていた。そして実際にだ。
 二人だけだと力に限りがありだ。敵陣への衝撃もだ。
 三人の時よりも弱くだ。今一つな感じだった。それを見てだ。
 馬岱もだ。言うのだった。
「何か少し物足りないけれど」
「そうだな。だが、だ」
「うん、蒲公英達何でここにいるかな」
「それがわからない」
 見れば馬岱と魏延はだ。その張梁と張宝の舞台の傍にいた。そしてそこにはだ。
 何進と公孫賛、張梁と張宝と共にいる筈の彼女達もいた。その二人も言うのだった。
「何か話が少し違うのう」
「そうですね。何故我等もここに?」
「しかも劉備殿の姿が見えん」
「張角もだ」
 二人がいぶかしんでいるとだ。不意にだった。
 舞台の上からだ。張梁と張宝がこう言って来た。
「今日のあたし達は違うわよ!」
「ここで凄いことになるから」
 こう言うのだった。
「そう、もう二人来るのよ!」
「それで四姉妹になるの」
「何っ、四姉妹だと?」
 それを聞いてだ。まずは魏延が声をあげた。
「馬鹿な、あの姉妹は三人だけだった筈だ」
「そうよね。だから数え役萬三姉妹なのに」
 馬岱も首を傾げさせる。
「それで何で四姉妹なの?」
「そんな話は聞いたこともないぞ」
 二人には全く訳のわからない話だった。そしてだ。
 何進もだ。驚いた顔で言うのだった。
「どういうことじゃ、四人じゃと!?」
「そんな。こんなことはです」
 公孫賛も驚きを隠せない。
「今はじめて聞きました」
「ううむ、これは一体」
「どういうことでしょうか」
 このことには誰もが驚いた。連合軍の面々も闇の面々もだ。
 左慈もだ。本陣の中央において于吉に問うた。
「そんな話は聞いていたか」
「いえ」
 于吉も今はいぶかしむ顔になっている。その顔で答えたのである。
「初耳です」
「そうだな。全く聞いたことがないな」
「あの三姉妹はずっと三人でしたから」
「生き別れの姉妹がいたのか?」
 かなり真剣に考えて言う左慈だった。
「そうだったのか?」
「さて、それはわかりませんが」
「何者だ。それで」
「それはわかりません。しかしです」
 それでもだとだ。ここでだ。
 于吉はすぐに余裕のあるいつもの笑顔になってだ。こう左慈に言うのだった。
「この戦いに勝つことはこの状況でも容易です」
「そうだな。あの女を始末すればいいだけだからな」
「はい、劉備玄徳を」
 まさにだ。彼女をだというのだ。
「あの娘の首を取ればいいだけですから」
「それを考えれば楽だな」
「まことに」
 こう言ってだ。于吉は余裕を見せるのだった。
「それだけのことです」
「それで劉備は何処にいる?」
 左慈は周りに問うた。
「この戦場にいるのは間違いないにしろだ」
「それがです」
「他の者達は確認できるのですが」
 しかしだとだ。周りの白装束の者達が左慈に話す。
「劉備と張角はです」
「何処にも姿が見えません」
「あの二人がだと?」
 そう聞いてだ。左慈はだ。
 まずはいぶかしく顔になりだ。こう言うのだった。
「また替え玉を使ってくるというのか」
「ははは、だとすれば愚かなことですね」
 左慈のその話を聞いてだ。于吉はだ。
 軽く笑ってだ。こう述べたのだった。
「一度使った策は最早通じませんよ」
「その通りだな。まさかとは思うがな」
「それはないでしょう」
 こう予想して言う于吉だった。
「幾ら何でも」
「そうだな。では何だ?」
「さて。何でしょうか」
「貴様でもわからないか」
「どうにもです」
 怪訝な顔でだ。左慈に返す。
「これは読めません」
「しかし俺達に対して仕掛けて来ることは間違いないな」
「何かしらの手段で」
 そのことは間違いないと述べる于吉だった。
「そうしてくるでしょう」
「それなら守りは一層だな」
「はい、固めましょう」
「さて、どんなことをしてきてもだ」
「守りましょう」
 こう話してだった。彼等はだ。
 守りを固めようとしていた。敵は武力で攻撃をしてくると見ていたのだ。しかしだ。
 張梁と張宝はだ。笑顔で一同に言うのだった。
「さあ、いいわね!」
「今からとっておきのことが起こるから」
「さあ、準備万端!」
「出て来て」
 二人が言うとだ。舞台の中央が開きだ。
 その中からせり上がってくる形でだ。二人が出て来た。
 一人は張角だった。黄色い奇麗な舞台衣装を着ている。そしてだ。
 もう一人は劉備だった。彼女は桃色の舞台衣装だ。
 そのそれぞれの服で出て来てだ。そうしてだった。
「皆、大好きーーーーーーーっ!」
「今から歌うわ!」
 張角と劉備が横に並んで宝貝を手にしてだ。
 空いている方の手を振りつつだ。将兵達に言うのだった。
「私達の歌聴いてね!」
「それじゃあ!」
 こうしてだった。二人は張梁、張宝とだ。
 四人になって歌う。それは三人でいるよりもだった。
 歌の力が違っていた。連合軍の士気を奮い立たせるだけでなくだ。
 白装束の者達を撃ちだ。その動きを止めていた。
 そこにだ。連合軍の兵達が襲い掛かるのだった。
「今だ!攻めろ!」
「各個に倒していけ!」
 こう言い合いながらだ。そのうえでだった。
 彼等は一気に攻めてだ。戦局をさらに進めた。それを見てだ。
 馬岱と魏延がだ。驚いた顔で言い合った。
「まさか桃香様が自らなんて」
「張三姉妹と共に歌うとはな」
「確かに桃香様と張角さんはそっくりだけれど」
「この展開は考えていなかった」
「はい、そこです」
「誰も考えないことだからです」
 それ故にだとだ。ここで孔明と鳳統が出て来てだ。
 そのうえでだ。二人に話したのだった。
「桃香様を三姉妹の方々と一緒にです」
「歌って頂くことにしました」
「三姉妹の歌ってただでさえ凄い威力があるけれど」
 馬岱が言うのには根拠があった。伊達に黄巾の乱を起こした訳ではないのだ。
「そこに桃香様まで加わったら」
「そうです。歌の威力が倍になります」
「ただ戦場に出られるより効果があります」
 歌の力、それに注目してのことだったのだ。
「これならです。絶対にです」
「いけると思いました」
「そして実際に敵の動きが止まりましたし」
「こちらの士気も普通にやるよりあがりました」
 まさにだ。孔明達の読み通りだった。それでだった。
 だがここでだ。孔明と鳳統はこんなことも言った。
「ですが。それ故にです」
「彼等もこの舞台を狙って来ることが考えられます」
 敗因になるものは潰しておく、戦における鉄則だった。
 だから闇の勢力もだ。そうしてくることが考えられるというのだ。
「今こうして総攻撃で彼等の考える余裕、戦場全域を見る余裕を奪っていますが」
「ですが少しでも気付かれればです」
 ここに攻めて来ることもだ。考えられるというのだ。
 そしてだ。軍師二人はさらに話すのだった。
「司馬尉仲達ならそこにです」
「気付くことが考えられますので」
「そうよね。あいつ頭だけはいいから」
 馬岱はあえて嫌悪を込めて述べた。
「それも考えられるわよね」
「そうだな。しかも駒はある」
 魏延もここで言う。
「あの女には妹達もいる」
「ええ、司馬師と司馬昭がね」
「来るならだ」
 魏延はここで己の金棒を握った。馬岱もその槍を握る。
 そうしてだ。猛獲もここで言うのだった。
「何か気配を感じるにゃ」
「えっ、気配!?」
「ではまさか」
「何か物凄く嫌な気配を感じるにゃ」
 こう軍師二人に話すのだった。
「だからにゃ。ここは気をつけるべきにゃ」
「そうね。敵にとって私達の今の歌はかなり辛いから」
「桃香様だけじゃなくて袁術さん達もね」
 彼女達への襲撃もだ。考えられるというのだ。
 それでだ。余計にだった。
「それなら。舞台の警護を今まで以上に固めて」
「備えないと」
 こう話してだ。彼女達も敵に備えるのだった。後方にいながらだ。戦いは佳境になろうとしていた。そして後方でもだ。戦いとは無縁ではなかったのだ。


第百三十六話   完


                          2012・1・12



公孫賛、哀れ。
美姫 「と言うか、彼女も参戦してたのね」
ひ、酷いな、お前も。
美姫 「いや、だってねぇ」
確かに出番はあまりなかったけれどさ。
美姫 「まあ、シリアスの所で余計な力は抜けた感じで良かったじゃない」
ともあれ、どうにか陣は破れたか。
美姫 「でも、敵もちゃんと返されても良いように咄嗟に対処したのは流石ね」
だな。いよいよ、両軍がぶつかって。
美姫 「果たしてどうなるのかしら」
次回も待ってます。



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