『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                             第十五話  黄忠、思わぬ仕事をするのこと

「アチャ、アチャチャチャチャ!」
「ピギャーーーーーーーーッ!」
 長安の郊外で奇声が響いていた。
「飛燕斬!」
「あーーーーーーーざーーーーーーーみーーーーーーーーーっ!!」
 不知火幻庵が吹き飛ばされる。キムが鳳凰脚を叩き込んだのだ。
 彼はそのまま地面に叩き付けられる。完全に白目を剥いている。
「砂時計一個分の遅刻だ!」
「ち、遅刻でここまでするケ・・・・・・」
「無論!一分たりとも遅れてはならないのだ!」
 こう力説するキムだった。
「だからこそだ。わかったな!」
「お、鬼だケ・・・・・・」
 かくして強制労働に従事させられる幻庵だった。彼の他にはアースクエイクや山崎達もいる。当然チャンとチョイも健在であり労働に従事している。
 その中でだ。アースクエイクが幻庵に言ってきた。
「なあ」
「何だケ?」
「俺達ここから出られるのか?」
「ああ、それな」
「諦めた方が精神衛生上いいでやんすよ」
 チャンとチョイが穴を掘りながら二人に言ってきた。幻庵達も同じことをしている。どうやら今は灌漑にあたっているらしい。キムとジョンが怖い顔で監督している。
「俺なんかもうどれだけいるんだか」
「十何年はいるでやんすよ」
「おい、何だよそれ」
 山崎がそれを聞いて思わず声をあげた。
「刑務所でもそこまで長いのは滅多にねえぞ」
「刑務所の方がずっといいからな」
「刑務所にはあの旦那達はいないでやんすよ」
 二人は衝撃の事実を語った。
「それ考えたらここはな」
「刑務所よりも酷いでやんす」
「えっ、じゃあ俺達は」
「ずっとここかよ!」
「何てこった!」
 何処かで見た三人組はチョイの今の言葉に驚いた顔になる。
「あの旦那達とずっとかよ」
「幾ら元山賊でもそりゃないだろ」
「何であんな旦那達になっちまったんだよ」
「ああ、それな」
「知ろうと思ったことはないでやんす」
 チャンとチョイがこう述べた。
「元からああだったんじゃねえのか?」
「多分でやんすが」
「あんな無闇に正義感が強くてかよ」
「しかも諦めることを知らねえ性格にかよ」
「ああ、なったんだよ」
「悲しいことでやんす」
 こう言ってであった。しかもそこにだ。
「こら、そこ!」
「さぼるのは許しませんよ!」
 キムだけでなくジョンまでいた。
「今は労働奉仕の時間だ!」
「頑張っていきましょう!」
「頑張らないとあれだよな」
「今さっきのわしだケ」
 アースクエイクと幻庵が述べる。
「だよな、容赦なく超必殺技を浴びせられてな」
「身体で覚えさせられるケ」
「鬼だな」
 山崎は今は一輪車を持っていた。
「二十四時間超必殺技かよ」
「ああ、悲しいことにな」
「何かがおかしいでやんすよ」
 こんなことを言いながら泣きながら強制労働に従事する彼等だった。その彼等を見る者もいた。そして彼女はこう張遼に対して言うのだった。
「やり過ぎじゃないかしら」
「そう思うか?」
「ええ、幾ら何でも」
 薄紫の長い髪を後ろで団子にしてまとめている。顔は董卓に非常によく似ているがさらに一歳か二歳幼く見える。黒い上着と丈の短いスカートである。生足が白い。そこに白いブーツを履いている。マントは黒であり紫の冠を被っている。その彼女が張遼に対して言っていた。
「キム=カッファンとジョン=フーンだけれど」
「あの二人かいな」
「何かあったらすぐに折檻だし」
「体罰の限界超えてるわな」
「確かに元山賊だけれどやり過ぎじゃないかしら」
 こう言うのである。
「強制労働と修行ばかりよね」
「あれな。うちもちょっとなあ」
 張遼も困ったような顔で首を傾げながら言うのであった。
「やり過ぎや思うけれどな」
「そうね。じゃあ姉様に言ってみるわ」
「ああ、それは止めた方がええで」
 張遼は彼女が行くというのはそれは止めた。
「ちょっとな」
「止めた方がいいの」
「そや、それは止めた方がええで」
 また言う張遼だった。
「月はそういうの敏感やからな。凄い気にするで」
「姉様は優しい方だから」
 少女もまた困った顔になるのだった。
「どうしてもね」
「そや。それに詠もおるんやで」
「詠さんもね。いたのね」
「そや。詠がまた騒ぐで」
「姉様と詠さんが政治をやってくれてるけれど」
「董白ちゃん、あんたもな」
「日でいいわ」
 それでいいと返すのだった。
「真名でいいわ」
「それでええんかいな」
「ええ、それでいいわ」
 実際にそれでいいというのだった。
「それでな」
「そやったらええれどな。じゃあ日ちゃん」
「ええ」
 名前を言われてだった。そうしてである。
 その少女董白は張遼に対してさらに話した。
「このことは放っておくしかないで」
「それしかないの」
「まず第一にあの二人は人の話を絶対に聞かん」
 このことを見事なまでにわかっている張遼だった。
「何があってもや。己の正義しか聞かん」
「残念ながらその通りね」
「そや。しかもや」
「しかも?」
「絶対に諦めへん」
 さらに悪いことだった。
「そやからや。放っておくしかあらへん」
「じゃああの人達は」
「可哀想やがな」
 目を閉じての言葉だった。
「遠い星になったんや」
「無茶しやがってなのね」
「そや。それはそうとや」
「ええ」
「白ちゃん、あんたも治安維持頼むで」
「ええ、そうね」
「今文官は三人おる」
 張遼は微笑んでこう述べた。
「月ちゃんに詠に音々音や」
「そして武官は」
「呂布にうち、それに華雄や」
「私はどっちもいけるけれど」
「そやから今は治安頼むわ」
 あらためてこう言うのであった。
「頼むで」
「ええ。涼州から姉様のところに来たけれど人材も豊かになっているみたいね」
「そやな。最初は三人だけやったらしいけどな」
「姉様と詠と華雄だけだったわね」
「涼州からのな。けれどあんた涼州から出てんな」
 張遼はこのことも言った。
「それ何でや?」
「姉様が困ってるって聞いたし。それに」
「それに?」
「馬騰さんもそうだったけれど袁紹さんもね」
「合わんかいな」
「合わないわね。特に袁紹さんはね」
 そうだというのである。
「奇矯な振る舞いのある人だし」
「まあ変な人やのは聞いてるからな」
「だから姉様のところに来たのよ。勝手も知ってるし」
「そやったんかいな」
「そういうこと。しかし擁州っていうのは」
 今度はその擁州についても話すのだった。
「結構ややこしい場所みたいね」
「そやな。まあそれでも最近結構ましになったらしいで」
「そうなの」
「人材が増えたさかいな。うちもあんたも来たしな」
「姉様の頼りになってるのならいいわ」
 董白はこう言って微笑みもした。
「それでね。じゃあ後は」
「ああ、治安維持に山賊退治やな」
「行きましょう」
 こんな話をしてであった。二人も忙しく動いていた。
 擁州が次第に人が集まってきていたその時。関羽達は予定通り南に向かっていた。そして徐州を越えようという時にであった。
「ここはどうもな」
「そうね」
「あまりいい場所ではありませんでしたね」
 舞と香澄がキングの言葉に応えて言うのだった。
「太守がいないせいだな」
「これといった統治者がいないのが問題みたいね」
「誰かいないのでしょうか」
「どうやら曹操殿も二つの州の統治で大変らしいからな」
 ここで関羽が三人に述べた。
「それで徐州まではだ」
「そうなのか」
「あの袁紹さんも忙しいみたいだしね」
「だからこの徐州までは」
「そのかわりにですね」
 孔明がここで話す。
「張三姉妹っていうグループの活動が盛んですね」
「ああ、あの三人な」
 馬超もその三姉妹の話に応える。
「何か凄い人気だよな」
「ここに来るまでも名前を何度か聞いているしな」
 趙雲も話す。
「かなり有名な旅芸人だな」
「そうですね。機会があれば私達も」
 ナコルルは考える顔で述べた。
「一度聴いてみたいですね」
「鈴々もそう思うのだ」
 張飛もこう述べる。
「是非一度なのだ」
「路銀に余裕があればそうしたいな」
 関羽も少し考える顔で述べた。
「一度な」
「そうですね。ところでそろそろ揚州ですよ」
 孔明がここで場所について話した。
「そろそろですけれど」
「離しなさいよ!」
 しかしここでだ。前から声がした。
「んっ!?」
「何だ?」
 一同はその声を聞いてそれで前を見るとだった。そこには。
 白と淡いピンクのドレスを思わせる上着に丈の短いスカートだ。上着の丈は短く臍が見えている。肌はやや黒い。目は見事な青であり紫の長い髪を左右でリングにしている。白いリボンが目立つ。胸には赤いリボンだ。顔立ちは幼く背も幼い幼女である。しかしその顔立ちは明るく可愛らしいものだ。その青い目が大きくかなり目立っている。
 その彼女を見るとだ。髭の親父に手を掴まれていた。
「ちょっと、何するのよ!」
「ええい、離してたまるか!」
「私に何するのよ!」
 見れば上着の袖はかなり広くなっている。あまり動くのに適している服ではないようだ。
 その幼女を見てだ。張飛が最初に動いた。
「悪者なのだ!」
 こう言って早速髭の親父を蛇矛の柄で殴り飛ばした。それで終わりだった。
「早く逃げるのだ!」
「え、ええ」
 幼女はそれに応えて何処かに逃げ去った。そして一行で親父を取り囲むとだった。
「幼い女の子を捕まえて何をしようとしていた」
「何をだって!?」
「そうだ、何をするつもりだった」
 関羽が親父に対して問う。
「一体な」
「ああ!?勘定払わせるつもりだったんだよ」
「勘定!?」
「勘定って」
「あの娘食い逃げしようとしてたんだよ」
 こう言うのである。
「だからだよ。捕まえようと思ってな」
「それでか」
「それでだったんですか」
「ほい、それでな」
 親父は憮然とした顔でだ。一行に対して右手の平を差し出してきた。
「代わりに払ってもらおうか」
「代わりに?」
「代わりにって?」
「あの娘の代わりにだよ。お勘定をだよ」
「何で私達がなのだ!」
 関羽はすぐに抗議した。
「全く、何故だ」
「あんた達のおかげでこうなったんだからな」
 だからだという親父だった。
「ほい、じゃあな」
「うう・・・・・・」
「仕方ないわね」
 舞が苦い顔で述べた。
「今回は私達のミスなんだし」
「だよな。しかしこれ物置か?」
 馬超は茶店の横にある小屋を見て言うのだった。
「随分と古い場所だな」
「ああ、そこは昔の店だよ」
 親父は関羽から金を受け取りながら馬超に応える。
「近いうちに取り壊すつもりなんだよ」
「そうなのか」
「ああ、まあそっちは気にしないでくれ」
 そんな話をしていた。そうしてであった。
 その娘の代わりに金を払ってだ。一行はあらためて揚州に入った。そこに入るとであった。
「ちょっと」
「んっ?御前は」
「待ちなさいよ」
 あの娘だった。こう言いながら一行のところに来た。そうしてだ。
「あんた達旅の武芸者よね」
「それがどうかしたのだ?」 
 張飛はむすっとした顔で娘に問う。
「御前のせいでお金を支払う破目になったのだ」
「そう、有り難う」
「有り難うではないのだ。全く御前のせいで」
「それはわかったわよ。ただ」
「ただ?」
「あんた達武芸者ならね」
 こう言うのである。
「私の家来になりなさい」
「何でそういう理屈になるの?」
 今の言葉に香澄もいぶかしむ顔になる。
「理屈がわからないけれど」
「理屈はいいのよ」
「よくないわよ」
 今度は舞が突っ込みを入れる。
「っていうかあんた誰?」
「私?私はね」
 娘は舞の問いにだ。胸を張ってこう答えた。
「孫家の末娘よ」
「孫家!?」
「っていったら揚州の」
「そうよ。名前は孫尚香」
 胸を張ったままである。
「覚えておいてね」
「孫家の末娘ってよ」
「何故こんなところにいるのだ?」
 馬超と趙雲がそれを聞いていぶかしむ。
「それって滅茶苦茶嘘臭いだろ」
「全くだな」
「あんた何でここにいるのかしら」
 キングはかなりダイレクトに問うた。
「そもそも」
「そうですよね。お姫様がこんな場所に?」
「ちょっと考えられませんね」
 ナコルルと孔明もこう話す。
「はい、ですから」
「若しかして」
「何よ、間違ってもね!」
 だがここで孫尚香は言うのだった。
「お城の暮らしがきつくて。張昭と張紘達が口煩くて逃げたわけじゃないわよ」
「ああ、そうだったのか」
「これでわかったのだ」
 それを聞いてすぐに頷いた関羽と張飛だった。
「全く。何かと思えば」
「家出少女だったのだ」
「うっ、何でわかったのよ」
「自分で言ってますよ」
 速攻で突っ込みを入れる孔明だった。
「それはもう」
「うう、しまったわ」
「まあとにかく。女の子一人旅は危ないわ」
 香澄は常識の観点から述べた。
「だから今は」
「ええ、それはね」
「その通りだな」
 皆それを聞いて香澄の言葉に頷いた。そうしてだった。
 関羽がそれを聞いてだ。こう孫尚香に言ってきた。
「よかったら一緒に来るか?」
「ええ、家来にしてあげるわ」
 まだこう言うのだった。
「シャオのね」
「一々口の減らない娘なのだ」
「そういえば聞いてたよ」
 馬超が少しうんざりとした顔で話を出してきた。
「孫家の末娘は我儘だってな」
「何よ、我儘っていうの?」
「自覚はないみたいだな」
「そうですね」
 ナコルルが溜息と共にキングの言葉に頷く。キングは腕を組んで呆れた顔になっている。
「全く。どういう人間だ」
「困った娘みたいですね」
「はい、じゃあ行きましょう」
 まだこんなことを言う孫尚香だった。こうして彼女達は城に入った。しかしその門を入るのにだ。
「また随分とな」
「はい、警護が厳重ですね」
 孔明が関羽に述べる。
「一体何があるのだ?」
「揚州は山賊も少なく治安がいいと聞いてましたけれど」
「河賊もかなり減ったわよ」
 孫尚香がこう言ってきた。
「姉様達が討伐したから」
「姉様達?」
「ああ、こいつの二人の姉なんだよ」
 馬超がナコルルに対して話す。
「孫策に孫権っていうんだよ」
「そうなんですか。二人ですか」
「上の姉が今のここの牧だったな」
 馬超はこうも話した。
「母親の跡を継いでな」
「母親?」
「堅母様のことよね」
 孫尚香が言ってきた。
「そうよね」
「ああ、あの人のことだよ」
「今はもういないけれどね」
 孫尚香はここでは寂しい顔になって俯いた。
「母様は」
「そういえば異民族との戦闘で死んだのだったな」
「前ね。山越にね」
「山越か」
 趙雲がその名前を聞いて考える目になった。
「あの者達はあまり攻撃的ではなかったと思うが」
「最近かなり凶暴なのよ。それで揚州を治める立場としてはね」
「討伐に向かったんですね」
「途中まで勝っていたけれど急に石弓が来てね」
「石弓!?」
 石弓と聞いてだった。孔明はふといぶかしむ顔になるのだった。
 そしてだ。孫尚香はまた言うのだった。
「そうよ。それに頭を撃たれて死んだのよ」
「何で石弓なんでしょうか」
「おかしいのだ?それが」
「山越って石弓は持っていない筈ですけれど」
「それ姉様達も言っていたわよ」
 孫尚香もそれを言う。
「おかしいって。賊にしても山越の勢力圏にいる筈がないって」
「孫堅殿の敵ではないのか?」
 ここでやっと城に入られた。その中で趙雲が述べた。
「あの方も朝廷の宦官達とは仲が悪かったのではないのか?」
「けれどよ。あの連中でも山越の勢力圏まで来ないだろ」
 馬超がそれはどうかと言ってきた。
「どうせならそこで補給減らさせるとかそういう嫌がらせして死なせるだろ」
「それもそうか」
「だよな。嫌がらせでな」
「じゃあ何なのでしょうか」
 孔明も首を捻るばかりだった。
「その石弓の主は」
「それで今は孫策姉様が牧なのよ」
 孫尚香はこう話す。
「跡を継いでね」
「そうなのか」
「そうよ。それでお金だけれど」
「ああ、御前ないのだったな」
「そうよ」
 ここでもまた偉そうに張飛に応える。
「わかったわね、おチビその二」
「御前に言われたくないのだ、おチビは朱里なのだ」
「あの、鈴々ちゃん」
 だがここでその孔明が苦笑いをして張飛に言ってきた。
「今その二って言われましたけれど」
「それがどうしたのだ?」
「その場合私が一で鈴々ちゃんがその二ですけれど」
「こいつもチビなのだ」
「私はいいのよ」
 孫尚香はここで強引に言い切る。
「私はね。それにお金がないのはね」
「それはどうしてだ?」
「これ買ったのよ」
 その金の眩く輝く小さな髪飾りを見せての言葉だ。見ればそれは小さな花を模したものだった。
「これをね」
「ひょっとしてそれにお金全部使ったのか?」
「何考えてるのよ」
 馬超だけでなく馬岱も呆れた顔になる。
「本当に我儘過ぎるっていうかよ」
「今それにお金使って何になるのよ」
「お金なんて全然気にすることないじゃない」
 天真爛漫ですらある言葉だった。
「そうでしょ?別に」
「いや、それは違うぞ」
「そうよ」
 馬超と馬岱はすぐに反論する。
「幾ら何でもな」
「家出して旅してるんなら」
「お金なんてどうにもなるものじゃない」
 やはり孫尚香はわかっていなかった。あっけらかんとした顔をしていることにそのことがこのうえなくはっきりと出てしまっていた。自覚はないがだ。
「そうでしょ?幾らでも」
「孫家ってどういう生活をしているのだ?」
「名門ではありますけれど」
 関羽も孔明も流石に呆れていた。
「それでも。ここまで甘やかしてな」
「大丈夫なのでしょうか」
「甘やかされてはいないわよ」
 それはすぐに否定する孫尚香だった。
「全然ね。婆や達が五月蝿いもの」
「その張昭殿達だな」
「もう忠義一徹でしかも頭もいいし」
 そういう人材もいるらしい。趙雲に応えて自分で言うのだった。
「もうね。大変なのよ」
「そういえば揚州には忠義一徹の者が多いそうだな」
 趙雲がここでこう言った。
「何でも団結はかなり強いらしいな」
「そうよ。孫家はしっかりしてるのよ」
 孫尚香もそれは言う。
「策姉様と権姉様もいるし」
「どうも姉二人の教育に問題があるみたいだな」
「そうみたいですね」
 馬岱が関羽の言葉に応えて言う。
「甘やかしているな」
「その張昭さん達に任せた方がいいと思います」
「勝手なこと言わないでよ。あんな怖いの二人にいつも傍にいられたらたまったものじゃないわ」
 孫尚香はそのことは全力で嫌がった。
「もうね。口煩いったらありゃしないんだから。シャオは野原とかで虎とかパンダと一緒にいたりする方がずっと好きなのよ」
「野生児なんですね」
「何か鈴々と似てるのだ」
 孔明と張飛がこう思った時だった。その時だ。
 上で目が光った。そうしてだ。
「!?」
「あれは」
 烏が来た。そして孫尚香がまだその手に持ってみせていた髪飾りを取って行った。それはまさに一瞬のことだった。
「えっ、何よいきなり!」
「烏かよ」
「うっかりしてたらね」
 馬超と馬岱がその烏を見て言う。
「光るもの好きだからな、烏は」
「どうする?捕まえる?」
「何なら扇放つわよ」
「ママハハに行ってもらいますか?」
 舞とナコルルが名乗りを挙げる。
「今なら間に合うけれど」
「どうしますか?」
 こう申し出たその時だった。不意にだ。
 烏が飛んで来たその建物の二階からだった。不意に何かが飛んだ。そうしてだ。
「外した!?」
 関羽が思ったその瞬間にだ。弓矢が烏を掠めてだ。それで気絶させたのである。
 急所を掠められて気絶した烏はそのまま落ちた。髪飾りは彼が持ったまま孫尚香の手に落ちた。孫尚香はそれで髪飾りを取り戻したのである。
 それを手に持ってだ。彼女は笑顔になった。だが烏はすぐに意識を取り戻し飛び去ってしまった。
「ちょっと、謝りなさいよ!」
「それは無茶よ」
 馬岱が文句を言う彼女に言う。
「幾ら何でもね」
「何でよ」
「烏に人間の言葉がわかる筈ないじゃない」
「ナコルルのママハハはわかってるじゃない」
「一緒にしないの、ママハハと」
 こう孫尚香に返すのだった。だが何人かは気付いていた。
「今のは」
「ああ、そうだな」
「わざと掠めたわね」
「それで烏を殺さずに」
 ナコルルの言葉にキングも舞も香澄も真剣な顔で応える。
「あんな弓の腕を持っている人は」
「まずいないね」
「神技ってところね」
「はい、本当に」
「愛紗、あれは」
「そうだな」
 関羽はその窓を見ながら張飛の言葉に頷いていた。二人も真剣な顔だ。
「相当な手繰れだな」
「あそこまでやれる奴はそうはいないのだ」
「天下に五人いるかどうかだな」
「そこまでの腕だよな」
 趙雲と馬超もその窓を見ていた。
「あそこまでの弓の腕はな」
「その域だよな」
 彼女達にはわかることだった。そこまでのものだった。
 だがとりあえず今は落ち着くことが必要だった。一行は孫尚香が見つけてきた店に入ってである。それで昼食を採るのだった。
「美味しかったですね」
「はい、本当に」
「そうでしょ?だってシャオが見つけたお店なんだもん」
 その孫尚香が明るい笑顔で孔明とナコルルに話していた。
「美味しくない筈がないわ」
「直感でわかったんですか?」
「それは」
「ああ、匂いでわかったのよ」
 それでだというのだ。
「それでなのよ」
「匂いで、ですか」
「そうよ。美味しいものは匂いでわかるわ」
 まさにそうだというのである。
「それでね」
「何か犬みたいなのだ」
 張飛は孫尚香のその言葉を聞いてこう言った。
「とはいっても鈴々もそうだから人のことは言えないのだ」
「そうよね。鈴々ちゃんも匂いとかでわかるわよね」
「匂いは大事なのだ」
 こう馬岱に帰す。
「それで味も大体わかるのだ」
「そういうものなのね」
「その通りなのだ。しかしこいつは」
「シャオのことよね」
「そうなのだ。直感で何かをするタイプなのだ」
「ええ、そうよ」
 実際に本人もそうだというのであった。
「孫家は元々そういう血筋なのよ」
「天才肌の家系ってことか?」
「そうよ。お勉強なんてしなくてもいいのよ」
 こう馬超にも返す。
「権姉様は少し違うけれどね」
「それでも学問は多少でも必要だろう」
 関羽は真面目にこう述べた。
「鈴々も直感ばかりだが」
「それが悪いのだ?」
「直感に頼り過ぎるのもよくない」
 まさにそうだというのだった。
「朱里を見ろ、直感だけではなく学問もだな」
「うむ、それも一理あるな」
 趙雲は相変わらずラーメンのメンマを楽しそうに食べながら述べていた。
「やはりそうした知識も必要だ」
「シャオにはあまり関係ないけれど」
「孫家ってどういう家なのだ」
「そうよね。直感だけって」
「幾ら天才の系列でも」
「それでいいのよ」 
 こうキングや舞、香澄にも返す孫尚香だった。彼女は今はその髪飾りを見ていた。その黄金の五つの花びらの中央に青いサファイアがある髪飾りをだ。
 そして街に出るとだ。あらためて街の賑やかさに気付いたのだった。
「何か凄いけれど」
「何かあるのでしょうか」
「ああ、実はな」
 舞とナコルルにだ。街の男が応えてきた。
「今ここに一人凄い人が来てるんだよ」
「凄い人って?」
「誰、それ」
「それって」
「ああ、揚州の姫様でな」
 こう一同に話してきた。
「二番目の姫様なんだよ」
「あれ、権姉様?」
 孫尚香は二番目の姫と聞いてすぐにこう言った。
「その方が主催の催しを開くってことでな。この街で」
「あれ、権姉様がなの」
 孫尚香はそれを聞いて今度はきょとんとした顔になった。
「策姉様じゃなくて」
「孫家は美人揃いだからね。皆その姫様を見ようって今から集まってるのよ」
「そうなんですか」
「今は」
「そうなんだよ。ただね」
 しかしここで男は困った顔になって言った。
「何でも姫様を暗殺しようっていう奴もいるらしくてね」
「またなの?」
 孫尚香の顔が今度は曇った。
「また暗殺なの」
「また?」
「またとは」
「最近策姉様を暗殺しようって奴がいるのよ」
 舞と香澄に顔を顰めさせて言うのだった。
「今度は権姉様なんて」
「何か揚州も大変ですね」
「そうですね」
 そんな話になっていた。そして関羽はここでだ。あの建物の中に入った。するとそこには紫の長い見事な髪を持った妙齢の美女がいた。濃い青の瞳を持ち少し垂れ目の優しげなものである。左の見には白い羽飾りがあり薄紫のスリットが深いドレスを思わせる服を着ている。肩には緑のカーディガンを羽織り同じ色の腕の覆いをしている。豊かな胸が半分露わになっている。
 その美女のところに来てだ。そうして言うのだった。
「先程のことですが」
「あの烏のことですか」
「はい、連れの者が助かりました」
 微笑んでこう述べるのだった。
「お陰で」
「いえ、気になっただけで」
「それだけですか」
「はい、どうもそういうものは見ていられない性格で」
 美女はこう答える。答えながら関羽に席を勧めてだ。二人で向かい合って話すのだった。
「関羽といいます」
「黄忠です」
 こうそれぞれ名乗るのだった。
「字は雲長です」
「字は漢升といいます」
 お互いに字も名乗った。そしてここで、であった。
 関羽は窓を見てだ。その上で言うのだった。
「いい場所ですね」
「はい、ここからの眺めはとても」
「それにです」 
 さらに話す関羽だった。
「大通りが奇麗に見えますね。遠くまで」
「!?」
「普通の者ならとても届かないでしょう。しかし」
「しかし?」
 黄忠の顔が強張っていた。関羽はそれに気付かないふりをしながら話を続ける。
「あの李広の様な腕の者なら間違いなく」
「くっ!」
 黄忠は関羽の言葉を受けて咄嗟に傍に立てていた薙刀を手に取ろうとする。しかしであった。
 その前にだ。関羽が弓矢を持ってだ。それを制していた。
「うっ・・・・・・」
「薙刀も使えるとはな」
 関羽は黄忠の整った顔が強張るのを見ながら言葉を返した。
「だが。こうなってはな」
「何故このことを」
「こちらが聞きたい。鈴々」
「わかったのだ」
 ここで張飛達が部屋に入って来た。そうしてであった。
 そのうえで黄忠の話を聞くその話はだ。
「何っ、娘さんをか」
「はい・・・・・・」
 張飛の他に孔明に趙雲、それと馬超と孫尚香がいた。そのうえで話を聞いていた。
「主人に先立たれて娘と二人で暮らしていたのですがある日」
「誘拐されたってのかよ」
「そうです。それで脅されて」
「どんな奴なのだ、それは」
「顔はわかりません」
 それはだというのだった。
「顔は。全く」
「そうですか」
「しかし。娘の命を助けたければと」
 こう一同に話すのだった。
「孫権殿を」
「権姉様を暗殺するなんて絶対に許さないわよ」
 それは怒った顔で言う孫尚香だった。
「まあ脅されてだから仕方ないけれど」
「娘は私の全てです」
 俯いた顔で言う黄忠だった。
「暗殺は武芸者のすることではありません。ですが」
「卑怯な奴もいるな」
「しかし。誰だそれは」
 馬超と関羽がここで言う。
「またあれか?宦官か?」
「十常侍か」
「それはわかりません。顔は仮面で隠していました」
 黄忠は俯いたままこう述べた。
「ですが。娘の絵を持ってきて安全を保障をしたうえで」
「それ、絶対にまずいですよ」
 孔明は強い顔で言ってきた。
「多分仕事の後で娘さんも黄忠さんも」
「そうだよな。暗殺をした人間なんてな」
「口封じをすることが常だからな」
 馬超と趙雲もそのことはよくわかっていた。
「その後だとな」
「間違いないな」
「それでその絵だが」
 関羽はその絵のことを問うた。
「今ここにあるのか」
「はい、ここに」
 こう言って何枚かの絵を出してきた。その中にある一枚の絵を見てだ。孫尚香が言ってきた。
「えっ、これって」
「どうしたのだ?」
「あの店の親父じゃないかしら」
 こう張飛に言葉を返す。自分の手で絵を持って見せながらだ。
「これって」
「んっ、そういえば」
「その通りだな」
「はい、間違いありません」
 孔明もそれを見て言う。
「それならここはまずは」
「まずは?」
「おじさんのところに戻りましょう」
 こう一同に言うのだった。
「あそこに古い建物がありました。娘さんは多分あそこにいます」
「よし、馬だな」
 馬超がここですぐに決断を下した。
「あそこなら馬だったらすぐだ」
「そうだな、よし今はだ」
「すぐに行くぞ」
 関羽と趙雲が席を立ってだ。すぐに外に向かう。
 その時にだ。孔明が黄忠に話す。
「黄忠さんはここで待っていて下さい」
「ここで」
「はい、街にも私達の仲間達がいますので」
「馬岱やキング達が他の賊をやっつけているのだ」
 彼等がそうしているというのである。
「だから安心するのだ」
「はい、それでは」
「行くぜ、皆」
 馬超がこう言ってだ。全員で部屋を出る。そうして馬で親父の場所に戻った。そうして親父にそのことを話すのだった。
「あの中にかよ」
「そうだ、それでだ」
「ああ、それで?」
「貴殿に協力してもらいたい」
 関羽がこう話す。
「少しだ。いいか」
「俺がか」
「シャオが一肌脱ぐわよ」
 孫尚香が言ってきた。そうしてであった。
 まずは一同隠れた。そして孫尚香が店の前で親父と向かい合うのだった。
 建物の中には三人いた。古ぼけ今にも崩れ落ちてしまいそうな部屋の中で紫の短い髪に同じ色の服を着た幼女を囲んでいた。幼女は俯いている。
「おい、何かよ」
「何だ?」
「店の方が騒がしいぜ」
 それぞれこう言うのだった。そして隙間から店を見るとだ。
「だから御前だろうがよ」
「何よ、疑うっていうの!?」
「ああ、そうだよ」
 親父が孫尚香に対して言っていた。
「御前この前だってな」
「この前はこの前よ」
「それで今もだろうがよ」
「今は違うわよ」
 こんなやり取りをしていた。そうしてだ。
 親父はだ。孫尚香に対してこう言ってみせた。
「それならだ」
「それなら?」
「見せてもらおうか」
 孫尚香を見据えての言葉だった。
「今からな」
「証拠をってこと?」
「そうさ、証拠をな」
 まさにそれだというのであった。
「見せてもらおうか」
「ええ、わかったわよ」
 演技で売り言葉に買い言葉をやっていた。そうしてだ。
 まずは上着を威勢よく脱いでみせたのだった。そこから白地に横に薄い赤のラインが入ったストライブのブラが出て来た。やはり胸は小さい。
「これでどう?」
「お、おい」
「ああ。脱いでるぜ」
「これはいいな」
 三人はそのやり取りを見ながら神経を娘から離していた。
「どうなるんだ?これから」
「あの娘可愛いよな」
「ちょっと幼いけれどな」
 こんなことを言いながらも見ていく。そうしてだ。
 親父はさらにだ。孫尚香に対して言ってみせた。
「それだけでわかるかよ」
「まだ隠してるっていうのね」
「小銭なんか何処にでも隠せるだろうがよ」
 あくまでこう言うのであった。怒った顔もしてみせている。
「だからだよ。信じられるかよ」
「わかったわよ」
 孫尚香も合わせてみせる。
「それならね」
「おいおい、いったぜ」
「下もだよ」
「脱いだよおい」
 三人の注目はいよいよ孫尚香に注目する。そうしてだった。
 注意を完全にそっちに向けていた。そこでだ。
「よし」
 それを見ていた孔明が言う。
「今です!」
「よし!」
「行くのだ!」
 四人が一斉に建物の中に飛び込んだ。関羽が閉じられている窓を蹴破ってだ。そのうえで部屋の中に飛び込んできたのである。
「誰だ!」
「誰だ手前は!」
「普段なら名乗るところだが」
 こう返す関羽だった。
「貴様等下郎に名乗る名前はない!」
「何っ!」
「言ったまでだ!覚悟!」
 瞬く間に三人を吹き飛ばす。一人目を拳で、二人目を蹴りでだ。三人目は肩から体当たりをしてだ。それで一瞬のうちに終わらせてしまった。
「うっ・・・・・・」
「つ、つええ・・・・・・」
「何だってんだ・・・・・・」
「またこの三人か」
 関羽はここであらためてその三人を見て呟いた。
「同じ顔がよくもこれだけいるものだ」
「三人以外にはいなかったのだ」
 張飛がここでこのことを告げてきた。
「それ以外は」
「そうか、この三人だけか」
「ああ。しかしこいつ等」
「本当によく見る顔だな」
 馬超と趙雲も関羽と同じことを言った。
「あたし何回か見てるぜ」
「私もだ」
「そうだな。だが何はともあれだ」
「この娘ですね」
 ここで孔明も来てだ。そのうえで言うのであった。
「黄忠さんの娘さんは」
「お母さんのこと知ってるの?」
 見ればまだあどけない顔である。母親の艶はない。ピンクの地に紅の大輪が描かれた上着に下は丈の短いスカートである。ショートの左右をテールにもしている。
「お姉さん達」
「そうだ、すぐに母上のところに戻ろう」
「急ぐのだ」
 関羽と張飛が急ぐ声で告げる。
「いいな、それで」
「お母さんのところなのだ」
「そこに連れて行ってくれるの」
「ああ、馬も用意してあるからな」
「急ぐぞ」
 馬超と趙雲も言ってきた。
「はい、それなら尚香さんと一緒に」
「行くとしよう」
 関羽は倒れている三人を親父に任せてそのうえで孫尚香に服を着させてそのうえでだ。急いで馬を飛ばす。そしてそのうえですぐに街に戻ったのであった。
 街ではだ。今その孫権の行列が来ていた。そして黄忠にもだ。
 人相が見えない、まるで人形の様な男が彼女の背中から声をかけてきていた。
「いいな」
「ええ」
「孫権を射ろ」
 こう彼女に言うのである。
「いいな」
「・・・・・・もうすぐ来るのね」
「そうだ」
 まさにその通りだというのである。
「間も無くだ」
「そして孫権を」
「御前なら確実に仕留められるな」
「ええ」
 男を見ようとはしない。しかし頷いたのは確かだ。
「その通りよ」
「わかっているとは思うが」
 男はこうも言ってきた。
「娘のことはだ」
「ええ、わかっているわ」
 黄忠の言葉が険しいものになった。
「それはね」
「それならだ。外すなよ」
「私が弓を外したことはないわ」
 黄忠はこう返してみせた。
「今まで一度もね」
「では見せてもらおう」
 男は言った。
「それをな」
「わかったわ。それじゃあね」
 こうしてであった。弓がつがえられる。そして遠くを見る。その彼女が見たものとは。
「!!」
 大通りのところにだ。何と娘がいたのだ。関羽によって大きく掲げられている娘のその姿をだ。己の目に確かに見たのである。
「璃々!!」
 それを見てだ。黄忠の表情が一変した。
 顔をはっとしたものにさせてだ。そうしてだった。
 動きを止めた。するとすぐに男の声が来た。
「おい、何をやってるんだ?」
「もうこんなことをする必要はなくなったわ」
「何!?どういうことだ」
「こういうことよ!」
 こう言ってであった。振り向きざまにだ。その拳を繰り出した。
 それで男の頬を思いきり殴り飛ばした。それで吹き飛ばした。
 これで終わりだった。暗殺はしなくて済んだ。黄忠はその孫権が立ち去ったのを見届けてからそのうえで関羽達と会うのであった。
「有り難うございます」
「娘さんのことですか」
「はい、お陰で璃々が助かりました」
 娘の手を持ったうえでの言葉だった。
「本当に」
「いや、貴殿が同じ立場でもそうしたのではないか?」
「そうでしょうね。同じ娘を持つ者同士」
「えっ!?」
 その言葉を聞いてだった。関羽は驚いた声をあげた。
 そしてだ。思わず問い返した。
「今何と」
「そこの赤い髪の娘は」
「鈴々のことなのだ?」
「ええ、随分大きな娘さんね」
 こう言うのである。
「結婚されたのが早かったのね」
「うむ、こう見えても愛紗は随分早熟でな」
「変なことを言うな、私はまだ」
「ふむ、そうだったのか」
「そうだ。そうした経験は一切ないっ」
 顔を赤らめさせて趙雲に抗議する。
「まだだ、そんなことはだ」
「あら、じゃあ一体」
「義姉妹だ」
 そうだというのである。
「私と鈴々はだ」
「そうなのだ」
 そして張飛はよくわからないまま言うのだった。
「愛紗と鈴々は床の中で誓い合った仲なのだ」
「あら」
 それを聞いてだ。黄忠は両手で口元を軽く覆ってだ。そのうえで言うのだった。
「そうあったの、御二人は」
「おい、変なことを言うな」
 また抗議する関羽だった。
「私はだ。別に」
「それでなんですが」
 二人の話が複雑になると見てだ。孔明が言ってきた。
「黄忠さんはこれからどうされるんですか?」
「これからですか」
「はい、どうされますか?」
 こう黄忠に問うのである。
「これから」
「とりあえず郷里に戻ろうと思ってますが」
「そうですか」
「よかったらなんですが」
 今度は馬岱が言ってきた。
「私達と一緒に旅をしませんか?」
「一緒に」
「はい、よかったら」
「そうね。郷里でも特にすることはないし」
 それは否定するのだった。
「それじゃあ」
「ああ、宜しくな」
 馬超が微笑んで応えた。
「それじゃあな」
「あとね」
 黄忠が加わったところでだ。今度は舞が言ってきた。
「シャオちゃん、いいかしら」
「どうしたの?」
「お姉さんが来てるわよ」
 こう言ってきたのである。
「ここにね」
「えっ、権姉様が!?」
「そうよ。ほら、ここに」
 そうして来たのはである。
「小蓮さまあ、駄目ですよお」
 のんびりとした声でだ。エメラルドグリーンの長いやや癖が見られる髪に青い垂れ目のおっとりとした顔立ちの美女が出て来た。にこりと笑っていて優しそうな顔だ。小さい眼鏡が印象的である。
 赤く袖の広い、臍も脚も丸出しの服である。しかも胸もかなり露わになっていてその胸がかなり巨大である。襟や胸、肩の部分は白でありブーツも同じ色だ。
 その美女が来てだ、孫尚香に対して言ってきたのだ。
「家出なんかしたら」
「あっ、穏」
「はい、私ですう」
「御前真名小蓮っていうんだな」
 馬超がこう孫尚香に声をかけた。
「そうだったのか」
「しかし。凄い服の人ですね」
「この人がお姉さんですか」
 ナコルルと香澄がその彼女を見て言う。
「孫権さんですか」
「そうなんですね」
「違うわよ」
「違いますよお」
 だがそれは二人同時に否定された。
「この娘は穏っていうの。陸遜っていうのよ」
「はい、陸遜といいます」
 自分からも言ってきたのだった。
「宜しく御願いしますね」
「孫権殿ではないとすると」
「影武者か?」
「実は小蓮様をお探しする仕事を仰せつかっていまして」
「それで私達がここに来ました」
 髪がかなり長い少女もいた。見事な黒髪である。
 小柄で胸も小さい。半袖のダークパープルの服からは素足が露わになっている。太目の眉に切り揃えられた前髪が初々しさを見せる。黒く大きな目ににこやかで素朴な笑顔を見せている。
「穏さんがこうしたら小蓮様は絶対に出て来られると仰いまして」
「貴殿は?」
「周泰といいます」
 関羽に応えて名乗ってきた。見れば背中には刀を背負っている。
「宜しく御願いしますね」
「こちらこそな」
「それで小蓮様あ」
 また陸遜が孫尚香に言ってきた。
「帰りますよお」
「帰るって?」
「ですから揚州に」
 そこにだというのである。
「帰りましょう」
「姉様達が仰ってるの?」
「はい、そうなんですう」
「私達も心配で」
「心配なんかいらないのに」
 こまっしゃくれた態度で返す孫尚香だった。
「別に」
「いえ、そういう訳にはいきませんから」
「一緒に帰りましょう」
 二人は優しかった。
「孫策様も孫権様も心配されてますよ」
「他の方々も」
「皆が心配してるの」
 それを聞くとだった。孫尚香も悲しい顔になった。そうしてだった。
「わかったわ」
「では揚州に帰るのだな」
「ええ、建業にね」
 こう趙雲にも答えたのだった。
「今からね」
「家出はこれで終わりなのだ」
 張飛が笑って言う。
「では行くのだ」
「何かすぐに帰ることになったわね」
「はい、それじゃあ」
 陸遜が応えてだった。こうして一行は今度は揚州に入るのだった。そこでも新たな出会いと騒動があるのだった。


第十五話   完


                           2010・5・21



黄忠に孫尚香の登場。
美姫 「一方は家出してたみたいだけれどね」
あの元気さは鈴々と確かに似ている部分があるな。
美姫 「確かにね。今回は暗殺という場面に出くわしてしまったけれど」
どうにか無事に事態を収める事が出来たようだな。
美姫 「良かったわね。さて、次回はどうなるのかしらね」
次回も待っています。



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