『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第十六話  孫策、刺客に狙われるのこと

「うわ、凄いね」
「全くなのだ」
 木の船、しかもかなり大きなそれに乗りながらだ。馬岱と張飛は驚きの声をあげていた。
「黄河も凄いけれど」
「この長江もかなりのものなのだ」
「確か中国の二大河川でしたよね」
 香澄もここで言う。
「確か」
「そうよね。何回か見たことがあるけれど」
「そうなんですか」
「タンさんや秦兄弟と戦った時に見たのよ」
 舞はこう香澄に話す。
「その時になのよ」
「あの人達とですか」
「そうなの。タンさん達も普通にこの国にいるのかしら」
「タンさんっていいますと」
 ここで周泰が二人に言ってきた。
「タン=フー=ルーさんのことですか?」
「ええ、そうだけれど」
「御存知なんですか?」
「最近一緒に戦ってくれることになったんですよ」
「あら、そうだったの」
「タンさんもですか」
「他にもダックキングさんやビッグベアさんも」
 彼等もだというのだ。
「皆さんとてもいい人達ですよ」
「ちょっと癖のある面々ね」
「そうかも知れませんね」
 舞と香澄はその三人の名前を聞いて述べた。
「けれど元気でいるのね」
「この世界に」
「はい、揚州もいい人達が来てくれています」
 そんな話をしていた。その中でだ。
 陸遜は黄忠と話していた。その刺客の話だ。
「ではその男の人は」
「不思議な事に姿を消していました」
 その殴り飛ばした男がというのである。
「私がそうしたらすぐに」
「そうですか」
「おかしなことですね」
「そうですねえ。逃げたんでしょうか」
「逃げるにしても早過ぎないか?」
 馬超がそこに突っ込みを入れた。
「黄忠さんが殴ってすぐだったんだよな」
「その状況では狼狽しているのが普通だがな」 
 趙雲も腕を組んで述べた。
「それですぐに消えられるか?」
「相当な手繰れか。黄忠殿を襲ったのは」
「真名で呼んでいいわよ」
 二人に対してだけでなく一行に告げた言葉だった。
「紫苑でね」
「ああ、じゃああたしは翠」
「星という」
「愛紗だ」
 二人だけでなく関羽も名乗った。
「宜しく頼む」
「ええ。それにしてもあの刺客は一体」
「普通に考えて宮廷の宦官の人達ですけれどお」
 陸遜は右手の人差し指を自分の口に当ててだ。そのうえで言うのだった。
「何かおかしいですねえ」
「おかしいですか」
「あの人達は普通に自分達の刺客を送り込んでくるんですよお」
「普通にか」
 キングがそれを聞いて剣呑な顔になった。
「随分と厄介な連中だな」
「それで孫策様も孫権様も大変なんですよ」
「じゃあシャオちゃんも危ないんじゃないの?」
 馬岱がこのことを指摘してきた。
「それだったら」
「はい、それでなんです」
「私達も心配していたんです」
 陸遜と周泰がここで言う。
「まだ小蓮様に刺客が来たことはありませんけれど」
「何時来るかわかりませんから」
「そうだな。十常侍は孫家そのものを敵視していたな」
 関羽もそれを指摘する。
「他にも曹家や袁家もだな」
「あの人達も何進様に近いですからあ」
「孫策様と同じ位狙われてるみたいですね」
「母ちゃんのところにも来たしな」
 馬超は自分の母のことも話した。
「誰のところにも来るんだな」
「そうですよねえ。ただ、本当に何か妙に思えるんですよ」
「妙ですか」
「あの人達って自分のそうした密偵を一杯持ってるんですよお」
「わざわざ紫苑さんを雇う必要はないんですね」
 孔明もこのことを察した。
「それじゃあ」
「それにです」
「それに?」
「あの人達って弓とかは使わない傾向があるんですよね」
 陸遜の指摘は武器にまで及んでいた。
「毒や暗器が多くて」
「あれっ、ですが」
「はい、孫堅様のことですよね」
「すいません、御言葉ですが」
「冥琳様とお話したんですけれどおかしいって」
「やっぱりそうですか」
「山越の人達も石弓は使いませんし」
 彼女もこのことを言うのであった。
「ですから」
「そうですよね。やっぱりおかしいですよね」
「はい。黄忠さんの弓の腕は私達も聞いています」
「それ程だったのですか」
 黄忠本人が陸遜のその言葉を聞いて述べた。
「私のことは」
「国で知らない人はいないと思いますよお」
 にこやかに笑って彼女に告げる。
「黄忠さんのことは」
「どうも」
「ですが。あの人達はあくまで宮中のそうした自分達の手駒を使う人達ですから」
「考えれば考える程ですか」
「これまで十常侍の人達からの刺客も沢山来ました」
 来ることは来ているのだという。
「ですから行動パターンはもうわかっています」
「ううん、じゃあ誰なんでしょう」
「曹操殿や袁紹殿でもないしな」
「御二人もそういうことはされないですしい」
 そのこともわかっている陸遜だった。
「袁術さんは悪戯ばかりされますが」
「そういえば孫家は袁家本家とは仲が悪かったな」
「はい、あまりよくはありません」
「しかし暗殺はしないのか」
「袁術さんも暗殺とかはしない方ですよお」
 少なくともそうした人間ではないというのである。
「董卓さんとはそもそも縁がないですしい」
「じゃあ普通は十常侍しかないよな」
「そうなるな」
 馬超と趙雲はこう言いはするがそれでも自分達でそれは違うと思っていた。二人はその直感からそう悟っているのである。
「しかし。奴等じゃないってなると」
「誰なのか」
「ですよねえ。本当に誰の手の者でしょうか」
「何か不吉な気配は感じますけれど」
 ナコルルが顔を曇らせて述べた。
「何か。アンブロジアにも似た」
「アンブロジアか」
「オロチ・・・・・・はないですか」
 関羽がいぶかしんだところで香澄はその名前を出した。
「あの一族は滅んだ筈ですし」
「そちらの世界のことはタンさん達から御聞きしていますけれど」
 周泰の言葉である。
「色々とある世界なのですね」
「それは事実だ。特にサウスタウンはな」
「凄い物騒な街だったから」
 キングと舞はサウスタウンの話をした。
「野心も渦巻いていた」
「ギース=ハワードのことは」
「聞いてます。この世界にいたら覇者になっていましたね」
 周泰は少し真剣な顔になって述べた。
「そこまでの力があれば」
「死んだことにはなってるけれどね」
「物凄く強くてしかも切れ者だったから」
「サウスタウンですかあ」
 陸遜は少し憧れる様にして述べた。
「私も一度行ってみたいですねえ」
「そうですね。物騒ですけれど楽しそうな街ですよね」
 周泰もにこやかに笑って述べる。
「そこも」
「ですよねえ。だから一度」
「私も行ってみたいわ」
 孫尚香も言ってきた。
「アメリカって国自体にね」
「それより御前は家出から帰るのだ」
 張飛がその彼女に言う。
「全く。家出するお姫様なんて何処のお話なのだ」
「ここにあるぞーーー」
 馬岱が冗談で言った。
「ここのお姫様だよ」
「そうですよお。今度から駄目ですよお」
「怒られますよ」
 陸遜と周泰がここで主の娘に言ってきた。
「張昭さん達に」
「物凄く」
「大丈夫よ」
 しかし孫尚香は腕を組んで言う。
「こんなことで怒られたりしないわよ、あの二人にも」
「張昭殿といえばだ」
「そうだな」
「天下に鳴り響いた石頭だよな」
 関羽、趙雲、馬超がここでひそひそと話す。
「揚州の三長老の筆頭格としてな」
「相当おっかないと聞いたが」
「どうなるかな」
 しかももう一人いる。そしてであった。
「小蓮様!」
「一体何処に行っておられたのですか!」
 玉座の左右からだった。厳しい声が響いた。
「それでも孫家の姫様ですか!」
「これでは民に示しがつきません!」
 金髪を膝のところまで伸ばした緑の垂れ目の妙齢の美女がいる。背は高く青い深いスリットが左右まで入った服を着ている。ガーターは白である。左目の目尻に黒子がある。
 左側には銀髪で青い目の少し吊り目の美女がいる。やはり妙齢である。口元が引き締まっている。髪は上で束ね耳には赤いイヤリングが数個ずつある。緑のスリットの深い服を着ていてガーターは赤である。睫毛が長い。
 その二人がだ。孫尚香に対して叱責の言葉を浴びせていた。
「全く、これではです」
「孫堅様が見ておられたらどう仰る」
「そもそもです、私達はです」
「小蓮様にもしものことがあれば」
「ま、まあそれ位でね」
 玉座に座る孫尚香と同じ紫の髪と青い目の美女が言った。目は吊り目であり如何にも気の強そうな漢字を受ける。額には模様があり肌は褐色だ。髪は膝のところで切り揃えている。濃紫のドレスは袖が広くスリットが深い。胸がかなり大きく誇張されている。
「いいんじゃないかしら」
「そうね。小蓮も反省しているでしょうし」 
 玉座の美女のすぐ横に立つこれまたかなり長い紫の髪に真面目そうな強い青い目を持つ美女だった。歳は玉座の美女よりもやや若そうである。。肩のところが白くなっておりワンピースの、前が大きく開いた赤い服を着ている。臍のところが露わになっていてブーツは白だ。三角の帽子を被っておりやはり額には模様がある。
 その二人がだ。妙齢の二人の美女に対して言うのである。
「許してあげましょう」
「これ位でね」
「全く、孫策様も孫権様も」
「お甘いのですから」
 二人はその孫策と孫権の言葉に溜息と共に言うのだった。
「ですから小蓮様がです」
「何時まで経ってもこのままなのです」
「この二人があれか」
「そうだな。揚州三長老のうち文を司る二人」
 孫尚香の後ろに控えたままの関羽と趙雲がここで話す。他の面々もそこに横に並んでいる。
「張昭殿と張紘殿か」
「そうだな」
「確か玉座から見て右手の方が張昭さんで」
「左手が張紘さんなのね」
 孔明と馬岱もこう話をしていた。
「揚州では周公勤さんや陸遜さんと並ぶ知恵者で」
「相当頑固だっていうあの」
「こりゃ絶対の忠誠心の持ち主だな」 
 馬超もその二人を見て言う。
「それに相当口煩いな」
 その通りだった。二人の長老達はまだ言っていた。
「孫権様に対する刺客といい」
「近頃物騒ですし」
「だからです」
「ここは一層」
「あの方々の忠誠心は揚州で随一なんですよお」
 陸遜がそのにこやかな顔で一同に話す。
「もう凄いんですから」
「主に対しても直言を憚らないですね」
「だから」
「はい、そうなんです」
 こうナコルルと香澄にも話す。
「凄い人達なんですよお」
「ううむ、しかし厳しいな」
「かなりね」
 キングと舞も驚く程だった。
「その二人が教育係か」
「シャオも大変なのね」
「まあ菊」
「桜もね」
 孫策と孫権がそれぞれ張昭と張紘に少し苦笑いを浮かべながら言う。二人共その口元をひきつらせてだ。そうして言うのであった。
「お客人達もおられるし」
「これ位でね」
「むう、わかりました」
「それではです」
 二人もようやく矛を収めた。本当にようやくであった。
「では。お客人達」
「宜しいでしょうか」
 二人はあらためてだ。一行に対して言ってきた。
「こちらにおられるのが揚州の牧であられる孫策様です」
「そして妹君であられる孫権様です」
「宜しくね」
「今後共宜しく」
 二人はにこやかに笑って一行に挨拶をしてきた。
「小蓮が世話になったそうで」
「有り難うございます」
「いえいえ、それは」
 関羽が謙遜して応える。
「縁あってのものですし」
「中々楽しい旅だったのだ」
 張飛も言う。
「長江も見られたしよかったのだ」
「凄いでしょ、長江は」
 長江の話が出るとだった。孫策の顔がさらに明るくなった。
「あの大河が孫家を育てたのよ」
「そうなのか。孫家は河で育ったっていうけれど本当なんだな」
「あれっ、貴女は」
「確か」
 孫策と孫権がだ。馬超を見て言うのだった。
「西涼州の」
「馬超だったかしら」
「ああ、そうさ」
 馬超もにこやかに笑って二人に応える。
「あんた達のことは涼州でも聞いてたよ」
「それじゃあ隣にいるのは」
「馬岱さんかしら」
「はい、そうです」
 馬岱は元気よく二人の言葉に応えた。
「宜しく御願いします」
「それに天下屈指の弓の使い手黄忠もいるし」
「盗賊退治の黒髪の美女もいて」
「黒髪の美女!?」
 その言葉を聞いてだ。すぐに明るい顔になる関羽だった。
「私のことでしょうか、それは」
「ええ、そうよ」
「噂に違わぬ奇麗さね」
 孫策と孫権はここでもにこりとしていた。
「しかも趙子龍に猛猪将軍張翼徳」
「凄い顔触れが来てくれたものね」
「ふむ、私のことも知っていたのか」
「鈴々は猪なのだ?」
「それか虎ですよね」
 孔明がこう話す。
「鈴々様は」
「それじゃあね」
「心ゆくまでゆっくりとして下さい」
 こうして一行は揚州に客人として迎え入れられたのであった。すぐに白い豊かな髪を後ろで束ねた妙齢の美女が来た。紫の艶のある目に気の強そうな微笑みを浮かべている。濃紫のスリットが左右に入った服に桃色のガーターをしている。肌は薄い褐色だ。その美女が廊下を進む一行のところに来て声をかけてきたのだ。
「おお、御主達がか」
「むっ、貴殿は」
「誰だ?」
「わしか?わしは黄蓋という」
 こう自分から名乗ってきた。
「孫家に昔から仕えている者じゃ」
「つまりあれか」
「孫家三長老の」
 キングと舞がその言葉を聞いて話す。
「揃い踏みという訳だな」
「そうよね」
「話は聞いているぞ。相当な手繰れ揃いらしいな」
 豪快な感じの笑顔と共にの言葉だった。
「最近この揚州にも色々人が来ているがのう」
「おいおい、久し振りだな」
「御前等も来たのかよ」
 その黄蓋の後ろからだった。金色のモヒカンにサングラスの赤い上着と青いズボンの黒人と金色の髭だかけの顔にダブルモヒカンで上下つなぎのレスリングスーツの大男が出て来て言ってきた。キング達に声をかけてきたのである。
「こんなところで会うなんてな」
「元気そうで何よりだぜ」
「聞いていたよ」
「あんた達もいるってね」
 キングと舞がにこやかに笑って二人に返す。
「そっちも元気そうで何よりだね」
「そうね。会えて嬉しいわよ」
「おう、ピーちゃん達も一緒だぜ」
 モヒカンの黒人の上着のパーカーのところからひよこが数匹顔を出してきた。
「この通りな」
「この人達も香澄さん達の世界の人達なんですね」
「ええ、そうなの」
 香澄は孔明の問いに顔を向けて答えた。
「ダックキングさんとビッグベアさんです」
「いい奴等じゃの」
 黄蓋もその二人について述べた。
「明るくてそれでいて正義感があってのう」
「まあ俺達もこっちの世界に急に来てな」
「どうしていいかわからねえ時にこの黄蓋さんに声をかけられてな」
「何よりのことじゃった」
 今度は白い髭の小柄な老人だった。優しい顔をしており青い上着とズボンは中国のものである。
「こうして今は客将として迎えてもらっておる」
「うむ、タン=フー=ルー殿にも活躍してもらっておるぞ」
 黄蓋はさらに笑って話すのだった。
「どういういきさつでこの世界に来たかはわからぬがこうして巡り会うのも何かの縁」
「そうですよね。何か色々な人達がこの世界に集まってますけれど」
 ナコルルも話す。
「皆さん楽しく過ごされてますよね」
「そうみたいだね。この連中も元気やってるし」
「へへへ、バターコーンもあるぜ」
「ステーキもな」
 ダックとビッグベアが楽しく話す。
「よかったらこれから一緒にどうだい?」
「酒もあるしな」
「うむ、どうじゃ今から」
 黄蓋もその酒を勧めるのだった。
「タン殿の茶玉子もあるぞ」
「作っておいたものじゃよ」
 そのタンも話すのだった。
「美味いものじゃ」
「特に黄忠殿」
 黄蓋は黄忠に顔を向けてきた。
「御主とは是非一度一緒に飲みたいと思っておったのじゃ」
「そうですね。私もです」
 お互いに微笑み合って話した言葉だった。
「それでは今から」
「うむ、飲もうぞ」
 しかしであった。ここでだ。長い黒髪に浅黒い肌の眼鏡の美女が来た。緑の目が涼しげであり眉の形も細く奇麗なものである。とりわけ目立つ顔立ちである。
 そして長身で胸がかなり大きい。それを露わにさせた紫の服はスカートの部分の前がかなり深いスリットが入れられて黒いガーターが見える。その美女が黄蓋に対して言うのだった。
「祭殿、それは困ります」
「むっ、冥琳か」
「お仕事は終わられたのですか?」
「それは終わった。だから今からな」
「飲まれるのでしたら夜にして下さい」
 その眼鏡の美女が眉をひそませて言うのだった。
「どうか」
「よいではないか。仕事は終わったのじゃぞ。それにじゃ」
「それに?」
「客人達を歓待しなくてはならん。だからじゃ」
「全く。そう仰っていつも飲まれるのですから」
 美女は困った顔で述べる。
「困ったことです」
「この人は誰なの?」
 馬岱がここで孫尚香に問う。
「凄い奇麗な人だけれど」
「ああ、周瑜っていうの」
 孫尚香は馬岱の問いに応えて述べた。
「揚州の筆頭軍師で水軍の大都督なの」
「それに内政も見られますし」
 周泰も話してきた。
「凄い人なんですよ」
「そうか、あれがか」
 趙雲もその周瑜を見て言う。
「江南の美周郎か」
「噂に違わぬ切れ者のようですね」
 孔明は彼女のことを一目で見抜いていた。
「どうやら」
「それに凄い美人なのだ」
 張飛は彼女の美貌を褒めていた。
「凄く目立つのだ」
 その周瑜がだ。黄蓋にさらに話していた。
「では。今回だけですよ」
「ははは、済まぬのう」
「全く。何かというと飲まれて」
「酒は人生の友じゃ」
 黄蓋の豪快な笑みは変わらない。
「冥琳よ、御主もどうじゃ?」
「私もですか」
「そうじゃ、皆で楽しく飲もうぞ」
 両手を腰にやっての言葉だった。
「それが一番美味いからのう」
「私はまだ仕事が残っていますし」
「それでか」
「はい、夜にでも」
「うむ、待っておるぞ」
 こんな話をしてだった。一行は黄蓋に案内されダック達も交えて酒を楽しむのであった。様々なつまみも一緒になっていてそれも食べていた。
 キングは黄蓋の勧める酒を飲みながらだ。ダックの前のバターコーンを見て言う。
「この世界で前から思っていたことだけれどね」
「何だよ」
「普通にトウモロコシやコーンがあるんだね」
 彼女が言うのはこのことだった。
「それが凄い不思議なんだけれど」
「そういえばそうだな」
 言われて気付いたダックだった。
「しかも美味いしな」
「ふむ。そういえばじゃ」
 タンも言う。
「お茶も普通にあるしのう」
「お茶ってこの時代かなり高価だったんじゃなかったかしら」
 舞が首を傾げながら述べた。
「確か」
「ううん、どういう世界なんでしょう」
 香澄も腕を組んで述べる。
「私、コロッケ作りましたし」
「ジャガイモやトウモロコシが不思議なのだ?」
「そうなのか?」
 張飛と馬超はその言葉に不思議な顔になった。
「普通にあるのだ」
「そうだよな」
「何かキングさん達の世界の私達の国ではそうした食材はこの時代になかったみたいですね」
 孔明はこれまでの話を総合してこう述べた。
「そういうことですね」
「そういうことになるの?」
 馬岱は蜂蜜水を飲みながら述べた。
「つまりは」
「そうみたいです。やっぱり私達の世界とは全然別ですよね」
 周泰もそれを言う。
「ダックさん達の世界って」
「違い過ぎて楽しいぜ」
 ダックは彼女の今の言葉に明るく笑って話す。
「何か知った顔触れもいるしな」
「そうだな。食い物も美味いのも変わらないしな」
 ビッグベアはステーキを食べていた。その好物のそれをだ。
「そういえばテリー達もいるみたいだしな」
「あいつ等ともまた楽しくやりたいな」
「ふむ。ライバルというわけだな」
 関羽は彼等のその話を聞いたうえでこう述べた。
「つまりは」
「ああ、そうさ」
「普段は楽しくやってそれで拳を交えるのさ」
「ふむ。つまりあれか」
 趙雲はここまで聞いて述べた。
「強敵と書いて『とも』と呼ぶのだな」
「何か面白い表現ですね」
 黄忠は今の趙雲の言葉を聞いて述べた。
「今のは」
「そうじゃな。わし等もそうなりたいものじゃな」
 黄蓋はその黄忠を見て笑いながら述べてきた。顔は酒のせいで真っ赤になっている。
「是非な」
「そうですね。聞けば黄蓋殿の弓の腕前も」
「ははは、一度お互いに見てみるとしようぞ」
 二人でこう話すのだった。
「是非な」
「はい、では明日にでも」
 そんな話をするのだった。そしてその時だ。
 張昭と張紘の二人はだ。同じ席に向かい合って座ってだ。そのうえであれこれと話をしていた。
「しかし」
「うむ、恐れていたことだったけれど」
 それぞれ曇った顔で言っていた。
「蓮華様も狙われるとは」
「そして相手は?」
 ここでだった。濃紫の髪を後ろで団子にして覆いを被せた女が出て来た。鋭い赤紫の目に引き締まった口元を覆った黒いスカーフ、それに赤く丈の短い服を着ている。その彼女が二人の前に片膝をついて出て来たのであった。
「甘寧」
「わかったかしら」
「申し訳ありませんが」
 その美女甘寧はこう二人に述べた。
「まだ何も」
「そうなの、じゃあ聞くけれど」
「まずは立って」
「はい」
 二人は甘寧を立たせてさらに述べるのだった。
「それで席に座って」
「ゆっくりとお話しましょう」
「すいません、それでは」
 こうして三人の席になってだ。さらに話すのであった。
「それでだけれど」
「十常侍の可能性は」
「それが今回は違うようです」
 こう二人の問いに応える甘寧だった。
「どうやら」
「違うのね」
「では一体何者なのかしら」
「曹操や袁紹かとも思ったのですが」
「あの二人はないわね」
「どちらもね」
 二人は両者である可能性は即座に否定した。
「どちらも私達に何かをする理由はないし」
「そういうことをすることもないわ」
「はい、ですからそれはないと思いまして」
「それが怪しいのなら袁術だけれど」
「あちらもそこまですることはないし」
 袁術の可能性も否定された。
「嫌がらせならともかく」
「そこまではしないから」
「山越賊の可能性は有り得ませんし」
 甘寧はこの可能性は自分から打ち消した。
「思えば文台様の時も」
「ええ、あれもね」
「不可解極まりないわ」
「あれも十常侍かと思ったのですが」
 甘寧はどうしてもその集団のことを念頭に置いていた。
「それにしては」
「何か妙に引っ掛かるのよね」
「十常侍とは別に」
「そういえばです」
 ここで甘寧は二人に話した。
「その山越の領土の近くで巨大な妖怪を倒す者がいたそうです」
「妖怪!?」
「熊ではなくて」
「はい、身の丈一丈、いえ二丈を超えんとする不気味な妖怪を倒す青い服の男を見たと。そうした噂があの辺りで少し出ていました」
「妖怪を倒した」
「青い服の男」
 その男のことを聞いてだ。張昭も張紘も顔を曇らせて述べた。
「近頃あの于吉の動きが消えたけれど」
「そういえばあの者も」
「はい、正体が全くわかりません」
 その者についても述べる甘寧だった。
「今だに」
「何なのかしら」
「ええ、正体がわからない者が多くなってきたわね」
「ダックキング殿達ははっきりしていますが」
「ええ、あの人達はいいわ」
「全然ね」
 二人は彼等はいいとしたのだった。
「異なる世界から来ても」
「自分から素性を言ってくれるし心根もわかるし」
「はい、全く問題はありません」
 甘寧もこう言い切る。
「ですが。どうも何か」
「引っ掛かるものが多いわね」
「本当にね」
「ではさらに調べていきます」
「ええ、それと」
「わかっているわね」
 二人の重臣は甘寧の顔を見てだ。そしてまた言うのだった。
「雪蓮様に蓮華様、そして小蓮様は」
「何があってもね」
「お任せ下さい」 
 甘寧の目の色がさらに強くなった。
「何があろうとも」
「ええ、では頼むわ」
「今回もね」
「はい、わかっています」
 甘寧はそれに頷いた。そしてだ。
 部屋にだ。また一人入って来た。それは。
「遅れてすいません」
「いえ、いいわよ」
「仕事をしていたのね」
「いえ、飲んでいました」
 周瑜であった。見れば顔が赤い。
「祭殿に誘われて」
「やれやれ、祭は相変わらずね」
「全く」
 二人は黄蓋の真名を聞いて少し苦笑いになって述べた。
「天真爛漫というか」
「邪気がないというか」
「しかしあれが祭殿のよいところ」
 甘寧の顔も少し微笑んでいるものになっていた。
「そうしたところが」
「その通りね。付き合いは長いけれど」
「あの陽気さにはいつも助けられるわ」
 こんな話をしてであった。笑顔になる二人だった。
 そのうえでだ。こんな話もした。
「文台様の頃からだけれど」
「本当にその時からね」
「おやおや、それでは相当昔になりますね」
 周瑜はその話を聞いてこんな言葉で返した。
「それもかなり」
「確かに冥琳が幼い頃にはもう私達三人はいたわ」
「しかしそれでも」 
 その長老二人の言葉である。
「相当昔というのは」
「引っ掛かる言葉ね」
「いえいえ、悪い意味で言ったのではありません」
 周瑜は笑顔のまま話す。
「それでなのですが」
「ええ、今回のことね」
「それだけれど」
 二人は真面目な顔に戻った。
「孫策様とは既にお話をしているから」
「後は」
「それでは。すぐにでも」
「ただ、問題はですが」
 ここで甘寧が言ってきた。
「我等はいいとして他の者の動きですが」
「それは問題ないだろう」
 周瑜はそれはいいとしたのだった。
「別にな」
「構いませんか」
「明命や亞莎もな。生真面目だが暴走はしない」
「お客人達を切ることはないわね」
「あの二人ならそんなことは」
「はい、ですから問題はありません」
 周瑜は二人の長老に話す。
「問題は誰が今回の黒幕か。それを見極めたいので」
「そうね。それが問題だから」
「今は」
 そんな話をしてであった。四人はある策を練っていた。そうしてだった。
 次の日だ。孔明は陸遜ともう一人のやや強いブラウンの目の少女と共にいた。 
 紫の袖の広い、肩が見え胸の前が開いている服にそれと同じ色の丸い帽子を被っていて薄茶色の髪を左右で輪にしている。目は強そうな感じだが細い眉は下がっている。その少女も一緒だった。
 孔明はその少女の名前をだ。陸遜に対して問うのだった。
「あの、こちらの方は」
「はい、呂蒙ちゃんといいます」
「呂蒙さんですか」
「前は武官で親衛隊におられたんですけれど今は軍師なんですよ」
「見習いです」
 呂蒙は小さい声で俯きながら答えてきた。
「まだ」
「凄く頑張り屋さんで」
 陸遜は謙遜する呂蒙をフォローする形で孔明に説明していく。
「毎日夜遅くまで勉強してるんですよ」
「けれどまだまだで」
「頭もいいだけじゃなくて腕も立って」
 陸遜のフォローは続く。
「雪華様も蓮華様も可愛がってくれてるんですよ」
「御二人には本当に」
「性格も凄くいいですし。皆から好かれてる娘です」
「揚州はそういう人多いですよね」
 孔明はその呂蒙を見て述べた。
「皆さんとてもいい方ばかりで」
「そうですかあ?」
「凄く雰囲気がいいですよね。明るくてそれでいて頑張っていて」
「それはそうですね。私この雰囲気が大好きですう」
 陸遜はいつものおっとりとした様子で話す。
「皆さんも」
「はい。そういえばここに」
「ここに?」
「お姉ちゃんも来ているそうですけれど」
 孔明は不意にこんなことを話すのだった。
「今は建業にはいないんですか」
「諸葛勤殿ですか」
 呂蒙が孔明の今の言葉に応えた。
「あの方でしたら」
「今は何処にいるんですか?お姉ちゃん」
「諸葛勤殿は太史慈殿と共に山越のところに行っておられます」
「異民族のところにですか」
「はい、そうです」
「何しろ平定しないといけないですから」
 陸遜はこう話すのだった。
「お二人が雪蓮様の討伐の前の準備をされてるんです」
「それで今はいないんですか」
「はい、そうなんですよ」
「会えるかなって期待していたんですけれど」
「また来られたら御会いできるかと」
 呂蒙は孔明を気遣ってこう述べた。
「ですからその時にでも」
「はい、じゃあ今は」
「はい、それでは今は」
「書庫にですね」
 孔明の顔が明るい顔になった。姉に会えないとわかって寂しい顔になったのも一瞬だった。すぐに明るい顔に切り替わったのである。
「それではすぐに」
「凄い書庫なんですよお」
 陸遜の目がきらきらとしていた。
「もう本当に」
「そんなにですか」
「はい、やっぱり本はいいですよね」
 目がさらに輝いていた。
「読んでいると書いた人の心まで伝わってきて。それでその中に浸って」
「あの、穏殿」
 呂蒙は我を失いそうになっている陸遜に対して突っ込みを入れた。
「孔明殿が」
「孔明さんが?」
「戸惑っておられますから」
 だからだというのである。
「ですから落ち着かれて」
「私は落ち着いてますよう」
「はあ」
 それを聞いてもあまり信じられない呂蒙だった。
「だといいうのですが」
「それでですね」
 陸遜のおっとりとした声がまた孔明にかけられる。
「色々な本がありますから三人で」
「はい、読みましょう」
「お勉強しましょう」
 そんな話をしてだった。そのうえで書庫に入る。その時キング達は黄蓋と周泰に案内されてだ。建業の街で遊んでいた。
「黄蓋さまーーーーーっ」
「祭様ーーーーーっ」
「こら、教えたからといって気軽に真名で呼ぶでない」
 黄蓋は自分にまとわりついてくる子供達に困った顔で返している。
「それにじゃ。今は客人達の案内役なのじゃ」
「そうなんですか?」
「それじゃあ」
「そうじゃ。また今度遊んでやる」
 その子供達に対しての言葉だ。
「だからじゃ。またな」
「はい、わかりました」
「それじゃあ」
「子供に好かれてるのね」
 キングはそんな黄蓋を見て話した。
「それもかなり」
「好かれたくて好かれているのではない」
 口ではこう言うのだった。
「それではじゃ」
「立派な市場ね」
 案内されたのはそこだった。道の左右に店が連なっている。それは何処までも続いておりそのうえ品物が溢れかえっていて行き交う人々も多い。繁栄しているのは明らかだった。
 そしてその中でだ。ナコルルは動物達に囲まれていた。彼女はその中に囲まれてそのうえで、である。しゃがんで同じ目線で相手をしていた。
 周泰はそのナコルルの横に来てだ。寝転がる猫の腹を撫でてうっとりとしていた。
「やっぱり猫様はいいですよね」
「そうですね。私動物が大好きなんです」
 ナコルルもこう返す。
「いつもこうして一緒にいます」
「猫様ともですね」
「はい、そうです」
 にこりと笑って周泰に答える。
「猫にも好かれています」
「いいですよね、猫様って」
 周泰の顔は今にも溶けそうにまでなっている。
「こうして一緒にいてもらえるだけでも」
「動物は嘘をつきませんし」
 ナコルルは温かい顔になっている。
「本当にいい子達ですね」
「はいっ」
 二人は動物達と共に優しい顔になっている。そして香澄と舞は馬岱と共に市場の食べ物を見ている。舞は見事な川魚を見て言うのだった。
「これをあげて。あんをかけてね」
「美味しそうですね、それって」
「こっちの果物も凄いよ」
 馬岱は八百屋の前で蜜柑を手にしていた。
「新鮮でしかもみずみずしくて」
「そうね、こっちの人参もね」
「お馬さんも喜びそうですね」
「江南では馬はあまりおらんがな」
 黄蓋がこのことを話してきた。
「どうしても河が主になるからのう」
「船だね、じゃあ」
「うむ、北馬南船じゃ」
 それだというのである。
「それがこの国の地形なのじゃ」
「そうだったね。やっぱり中国だからね」
 黄蓋の言葉に納得した顔で頷くキングだった。
「そうなるね」
「どうもそっちの世界でも我が国は有名なようじゃな」
「ああ、その通りだよ」
 キングもそのことを否定しなかった。
「歴史も長いしね」
「今で二千年じゃが」
「私達はその二千年後の世界から来たのよ」
 キングはこのことも話した。
「それでもあまり違和感ない感じだけれどね」
「そうじゃな。不思議なまでにのう」
「コーンがあったりステーキが食えたりな」
「そこは有り難いけれどな」
 ダックキングとビッグベアも一緒だった。
「タン爺さんの茶卵も美味いしな」
「河賊相手に大暴れもできるしいい世界だぜ」
「実はタン殿が一番激しいしのう」
 黄蓋はここでタンを見て述べた。
「旋風剛拳には驚いたぞ」
「あれはここぞという時の技じゃがな」
「しかしそれでも凄い技じゃった」
 黄蓋の言葉はしみじみとしたものになっていた。
「ダックの舞踏もビッグベアの炎も驚くものじゃが」
「へっへっへ、俺はダンスと一緒に戦うからなあ」
「昔は毒霧を吹いてたんだがな」
「毒霧!?」
「ああ、ビッグベアは昔はね」
 舞は毒と聞いて驚く周泰に説明した。
「ライデンっていう覆面の悪役でね」
「悪い人だったのですか!?ビッグベアさんって」
「あの時の俺はぐれてたからな」
 ビッグベアは自分でもそれを否定しなかった。
「それでな。そういうこともしてたんだよ」
「そうだったんですか」
「流石に今は違うぜ」
 そしてこうも言った。
「今じゃ正統派に戻ったからな」
「火を吹くのは正統派ですか?」
「立場が正統派だからいいだろ」
 香澄の突込みにも言葉を返す。
「別にな」
「そうなるのかしら」
「そう思っておいてくれ。さて、何を食うかだな」
「魚はどうじゃ?」
 黄蓋が勧めるのはそれだった。
「鰐の肉もあるがのう」
「じゃあ鰐の唐揚げとか?」
 舞は首を少し捻ってから述べた。
「それにする?」
「鰐の唐揚げですか」
「知り合いが好きなのよ」
 周泰にも話す。
「それでどうかしら」
「そうじゃな。悪くないのう」
 黄蓋も舞のその話に頷く。
「それではじゃ。皆で鰐の唐揚げを食べるとするか」
「はい、わかりました」
 黄蓋のその言葉に笑顔で頷いた。趙雲や馬超は孫尚香と璃々が遊ぶのを見ながらだ。そのうえで宮殿の庭で稽古をしていた。
 そこに黄忠もいる。彼女はお茶を飲みながら張昭達と話をしていた。
「はい、そうですよね」
「そうよね、やっぱりね」
「胸が大きいと肩が凝って」
「それが困りますね」
 そんな話をしているのだった。
「男の人の視線がそこにいったり」
「どうしてもそうなるから」
「それが問題なのよね」
「はい、本当に」
 胸の話であった。完全にだ。
「そういえば揚州の方は胸が大きいですね」
「まあそうでない娘もいるわ」
「呂蒙もそうだし諸葛勤もそうだし」
「諸葛勤というと朱里ちゃんの」
「ええ、びっくりしたわ」
「まさか。あの娘の妹さんが来るなんて」
 これは二人にとっても驚くべきことだったのだ。
「まさかと思ったし」
「本当にね」
「そうですか。あの娘のお姉さんがここに」
 黄忠は娘が孫尚香と無邪気に遊んでいるのを見ながらまた述べた。
「これも縁ですね」
「そうよね。これがね」
「縁だと思うわ」
「それにこの世界にも別の世界から人が来ているし」
「実は三人だけじゃないのよ」
「これがね」
「そうなのですか」
 今度はこうした話にもなった。別の世界から来ている来訪者達に関することだった。
「ナコルルちゃんみたいな人がここにもまだ」
「ええ、ほら」
「来たわよ」
 言ったすぐ側からだった。三人来た。それはであった。14
 中央にはダークブルーの髪を後ろで束ねた小柄な少女がいた。黒い大きな目の幼さの残る顔をしていて白い半ズボンの巫女の服を着ている。
 右手には黒髪を短く刈った大男でいかつい顔に緑のズボンと赤い袖のない、胸が露わになって上着を着ている。手には金棒がある。
 三人目は桜色の着流しの男手髪を後ろに撫で付けている。もみ上げが印象的な飄々とした顔立ちで右手には木刀がある。
 その三人が来てだ。一行に明るい顔で挨拶をしてきた。
「はじめましてやな」
「おう、宜しくな」
「頼むぜ」
 三人は明るく言ってだ。その上で名乗ってもきた。
「一条あかりや」
「神崎十三じゃ」
「天野漂っていうんだよ」
「この三人も別の世界から来たのよ」
「幕末という時代らしいわ」
「へえ、そうなのか」
「幕末か」
 馬超と趙雲は稽古を止めて二人の長老の話を聞くのだった。
「そこから来たっていうのか」
「ナコルルと似た様な時代か」
「その様ね」
 黄忠もそれを聞いて述べた。
「どうやら」
「ああ、何かナコルルって人のことは聞いたことあるで」
 あかりが黄忠の言葉を聞いて述べた。その中庭になっている場所にまたしても運命の中にある者達が集っているのを感じながら。
「蝦夷の方の凄い力持ってた人やな」
「それで知っていたのだな」
「そや。結構有名やで」
 こう趙雲にも話す。
「うち等の世界のことやけれどな」
「お嬢はあれじゃ。巫女なんじゃ」
 十三があかりのことを説明する。
「それでこういうことにも詳しいからな」
「まあうち等がここに集まってるのは偶然ちゃうで」
 あかりはこのことも話してきた。
「絶対に何かあるで。それが何かまではわからんけどな」
「まあ俺達はたまたまここに来てな」
 漂は飄々とした笑みで言ってきた。
「それでここに置いてもらってるってわけさ」
「お陰で頼りにさせてもらってるわ」
「三人にもね」
 張昭と張紘は三人を微笑んで見ながら話した。
「何かとね」
「賊を退治もしてくれるし」
「働かんと食べられへんしな」
 あかりは笑ってこう述べてきた。
「そやからな。充分やらせてもらうで」
「あれっ、このあかりって」
「そうだな。鈴々に似た感じだな」
 馬超と趙雲はそのあかりを見て述べた。
「何かな」
「うむ、そういうこともあるか」
「お嬢には困ったもんでな」
 十三はその二人にこう話してきた。苦い顔でだ。
「もう何かっていうとどっかに行ってじゃ。好奇心応戦なんじゃ」
「それを聞くと何かな」
「さらに似ているな」
 二人はそれを聞いてまた述べた。
「ああ、どうもな」
「流石に声や戦い方は違うようだが」
「だからうちは巫女なんや」
 あかりはこのことを自分から言う。
「そやからな。武芸者とはまた違うで」
「わしはその家の居候じゃ」
 十三はこう話すのだった。
「それで一緒におったら何時の間にかここにおったんじゃ」
「俺は遊郭で飲んでたらな」 
 漂も自分のことを話す。
「起きたらここにいたんだよ」
「何かそういう話ばかりなのね」
 黄忠はその話を聞きながら述べた。
「本当に」
「そうね。私達も話を聞いていると」
「そう思うわ」
 張昭と張紘もこのことを認める。
「そして何かがある」
「だとすればそれは何かしら」
「そうだな。ここまで大勢の人間が来ているとな」
「絶対に何かあるだろ」
 趙雲と馬超もこのことを察していた。
「問題はそれが何かだが」
「只でさえ漢王朝の力が衰えてるって時なのにな」
「けれど。そういう時こそ」
「よからぬ存在が何かをするには好都合ね」
 張昭と張紘はこうも考えた。
「だとしたら何が」
「何があるのかしら」
 そんな話をしているとだった。
 一行のいる中庭にだ。兵士が一人やって来た。
「張昭様!張紘様!」
「ええ」
「そうね」 
 二人はこう言い合って目配せをした。だがそれには誰も気付いていなかった。
「孫尚香様もここですか」
「どうしたの?」
「大変です!」
 兵士の声が上ずっていた。
「孫策様が!」
「えっ、姉様に!?」
 驚きの声をあげたのは孫尚香だった。
「まさか」
「はい、何とか一命は取り留めましたが」
「何っ!?」
「暗殺か!?」
 趙雲と馬超もそれを聞いて稽古の手を止めた。
「またか」
「それで何でやられたんだよ」
「弓です」
 兵士はそれだと話す。
「それに射られて」
「弓?」
「オーソドックスじゃがな」
「しかしそんなの使える場所っていったらな」
 あかりに十三、それに漂も話をする。
「宮殿の中やろ」
「そんなにあるか?」
「そうそうないんじゃないのか?」
「そうよ。私の小弓ならともかく」
 孫尚香もここで言う。
「それでも孫策姉様を射られるなんて相当な腕の持ち主よ」
「その通りです。あの方はです」
「尋常な勘の持ち主ではありません」
 二人の長老もそれを言う。だがこれは演技である。
「黄蓋殿でもなければ」
「若しくは」
「そうね」
 黄忠も二人の視線を感じながら静かに頷いた。
「私でもなければ」
「宮殿の中から射るなどはとても」
「できるものでは」
「いえ、どうやらです」
 ここで兵士はさらに言うのだった。
「宮殿の中ではなくです」
「何処から?」
「何処から射られたと」
「山です」
 そこからだというのである。
「宮殿の後ろにある。あの」
「あの山か」
「あの山からなのね」
「はい、そうです」
 また二人の長老の言葉に応える。
「そこからです」
「待て、あの山というと」
「そうだよな。愛紗と鈴々がな」
 趙雲と馬超が顔を見合わせた。
「あの二人がいてもか」
「確か甘寧殿もいたよな」
「その監視の目をかいくぐったんや。相当やで」
「ああ、甘寧っていったらな」
 あかりと十三は甘寧について話した。
「うちと並ぶ勘の持ち主やで」
「わしなんかよりずっとな」
「そんな人の監視をかいくぐったねえ」
 漂は左手で頭をかきながら述べた。
「どんな奴なんだろうな」
「それはわからないけれどよ」
 孫尚香が必死な顔で言う。
「犯人捕まえないと駄目よ」
「はい、それでは」
「すぐに捜査を」
 二人の長老が言ったその時だった。孫権が慌しく中庭に来てだ。そうしてそのうえで一同に対して言うのだった。顔には明らかに狼狽があった。
「そこにいたか!」
「蓮華様」
「お話は」
「わかっている」
 狼狽を何とか打ち消しながらの言葉だった。
「それではだ」
「はい、それでは」
「今から」
「下手人はわかっている」
 孫権は今度はこんなことを言った。
「既にだ」
「わかっている?」
「誰だよ、それ」
「山からだな」
 孫権は趙雲と馬超に応えながらだ。そのうえで兵士に顔を向けて問うた。
「そうだったな」
「はい、そうです」
「ならそれしか考えられない」 
 こう言うのである。
「絶対にだ」
「絶対に?」
 黄忠が孫権の焦りきった顔を見ていぶかしむ声をあげた。
「というと」
「あの二人のどちらか、いや両方か」
「何だ?」
「まさかって思うけれどよ」
 趙雲と馬超もここで悟った。
「愛紗と鈴々とでもいうのか」
「まさかな」
「そうだ、すぐに門に兵を集めろ!」
 孫権は命令を出した。
「何なら山にもだ。二人を捕まえるぞ!」
「しまった、蓮華様のことは」
「計算に入れてなかったわ」
 張昭と張紘はここで作戦ミスに気付くことになった。
「まさか。この方がここまで」
「取り乱すなんて」
「まずいわね」
「これは」
「いいな、即刻取調べを行う!」
 だがその間にも孫権の指示は続く。
「雪蓮姉様に害を為した罪、償ってもらう!」
「待ってくれ」
「それはないだろ」
 趙雲と馬超がその孫権に対して言ってきた。
「愛紗が何故暗殺なぞするのだ?」
「鈴々だってよ」
「理由は後から調べる」
 孫権は二人に対してもそう焦りに満ちた顔で返す。
「だが。今はだ」
「理由もなければだ」
「あいつ等はそんなことする奴等じゃねえよ」
「その通りです」
 黄忠も立ち上がって言った。
「二人共そんなことは絶対に」
「黙れ!」
 だが孫権は三人にきつい言葉で応えた。
「それは後で調べると言っている!」
「何っ、それではだ」
「ちょっと無茶なんじゃねえのか?」
「何もわかっていないうちからそれは」
「貴殿等にも嫌疑はかかっているのだぞ」
 孫権は三人に対してもその疑いの目をかけていた。
「そもそもだ。他の国からの客人というのもだ」
「ちょっと。蓮華姉様」
 次姉のあまりもの言葉にだ。孫尚香も流石に言った。
「この人達はそんな人達じゃないわよ」
「小蓮・・・・・・」
「ちょっと落ち着いて。今の蓮華姉様おかしいわよ」
 彼女から見てもそうなのだった。
「だから。ちょっとね」
「それは」
「そうです、蓮華様」
「まずは落ち着いてです」
 張昭と張紘がタイミングを見計らって孫権に声をかけてきた。
「そのうえでゆっくりと」
「捜査を」
「そうね」
 妹だけでなく二人の長老に言われてだ。孫権もやっと落ち着いてきた。
 そのうえでだ。口調を幾分か穏やかなものにさせて言うのであった。
「それでは。これから」
「はい、捜査を」
「取り調べをしましょう」
 こう話してだった。そのうえで孫権を向かわせる。後に残った趙雲達はそれぞれ難しい顔を見合わせていた。その彼女達に孫尚香が声をかけてきた。
「あの」
「済まないな」
「気を使ってくれるんだな」
 彼女の気遣う顔での言葉だった。
「だがだ」
「あの二人がそんなことする筈ないってわかってるからな」
「そうよ。あの二人は絶対にそんなことしないわ」
 それは彼女もわかっていることだった。
「けれど。蓮華姉様は」
「焦ってるわね」
 黄忠は璃々を抱きながら言った。
「どう見ても」
「普段はあんな感じのよ」
 困惑した顔で姉の弁護をする。
「優しくて。穏やかで」
「それがか」
「お姉さんのことでだよな」
「あんなに必死になって」
「そうなの。だから悪く思わないで」
 それは絶対にというのだ。
「蓮華姉様のことは」
「わかっている」
「だからな。気にするなよ」
「それはね」
「有り難う」
 三人の言葉を受けてだ。今度は小蓮が俯いてだ。そのうえで頷くのだった。
 そんな彼女達を見てだ。あかりが言った。
「絶対犯人は別におるで」
「お嬢、わかったのかいな」
「ああ、今はっきりとわかったで」
 腕を組んだ姿勢で十三の言葉に答える。
「あの人等の言葉聞いてたらな。絶対にちゃうや」
「じゃあ犯人は一体」
「それはわからへんけどな」
 あかりにもそれはというのだ。
「けどな。あの人等のお友達やないで」
「そうなんだな」
「ああ、それはわかった」
 こう話してだった。二人で話をする。そして漂も顎に右手を当てて言う。木刀は左手に持ち肩にかけている。その姿勢で言うのだった。
「まあ犯人が誰かなんていいよな」
「いいんかい」
「ああ。そんなのは後で絶対にわかるさ」
 彼はあかりに対して言っていた。
「それよりもだ」
「それよりもか」
「あの人等のお友達が犯人じゃないってあの姫様にわかってもらうことが大事だな」
「そや、その通りや」
 あかりもその通りだと頷く。
「あの姫様めっちゃええ人やけれどな。もうちょっと心の修行も必要や」
「真面目過ぎて今一つ周りが見えてないのは確かだな」
 十三も孫権のそうしたところは見抜いていたのだった。
「それがよくない方向にいかないように」
「ここでちゃんとしとかなあかんな」
 こう話彼等だった。また何かが動こうとしていた。


第十六話   完


                          2010・5・24



呉揃い踏みって感じだな。
美姫 「こっちにも異世界からの人たちが来ているみたいね」
だな。しかし、出番がなかった孫策は危険な状況になっているしな。
美姫 「犯人探しがどうなるのか、よね」
一体どうなるのか、次回も待っています。



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