『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                            第十八話  劉備、関羽達と会うのこと

 深い森の中にだ。二人の少女がいた。
 一人は見事な金髪を腰まで伸ばし赤紫に輝く目をしている。背は高めであり黒いドレスでその身体を覆っている。顔立ちはまだ幼さが残りそれがいささか長身といささかアンバランスさを醸し出している。すらりとした身体だ。
 もう一人は凛とした顔の青い髪を左右で団子にしてまとめた少女であり背はその金髪の美女よりも高い。青い目の光は濃くそして強い。かなり大きな目で口も大きめだ。耳には槍の形のイヤリングがある。
 服は半ズボンでありそれは黒、そして上着は袖がなく紫である。その二人が今森の中にいた。
 まずはだ。青い髪の少女が金髪の美女に声をかけた。
「諸葛勤殿」
「藍里でいいわよ」
 美女はこう少女に返した。
「太史慈殿」
「左様ですか。しかし私も」
「貴女も?」
「はい、飛翔と御呼び下さい」
 少女もこう言ってきた。
「真名で」
「わかったわ。では飛翔」
「はい、藍里様」
「もう少しだったわね」
 諸葛勤はこうその少女太史慈に問うた。森は緑でありかなり深い。しかも温度もかなりのものである。その中を二人で進んでいるのである。
「その場所は」
「はい、砦を築くにはあそこが一番です」
「一度見てみないと」
 ここで諸葛勤は考える顔になり右手を自分の口に当てた。
「そうでないとね」
「わからないというのですね」
「ええ、山越を攻める足懸かりとしての砦」
 それだというのだ。
「それは是非とも築かないとならないから」
「思えば山越とも因縁がありますね」
「確かに」
 諸葛勤は太史慈の言葉に頷いた。
「先代の孫堅様から攻めているけれど」
「容易に服属しませんね」
「粘り強いわね、実にね」
「強いだけでなく地の利もあります」
「この山の中は」
 太史慈はその森の中を見回していた。遠くには山が幾つも連なっている。
「まだ我等の勢力圏ですが」
「しかしその境に砦を築く」
「はい、そのうえで山越を攻める」
 太史慈も言う。
「その為にです」
「孫堅様もそうされたのだったわね」
 諸葛勤はここでふと話した。
「この辺りに砦を築かれて」
「そのうえで攻められようとしたのですが」
「暗殺された」
 諸葛勤のその声が曇る。
「何者かに」
「それが去年のことでした」
 太史慈もだ。その声を曇らせる。
「そして今こうして」
「孫策様がまた攻められる」
「はい、今度こそ山越を服属させましょう」
 太史慈は言葉を強いものにさせた。
「是非共」
「ええ、何があってもね」
 そんな話をしてだ。山の中を進む。その中でだった。
 ある山の頂上に出た。そこは広く開けていた。 
 二人はその頂上に出てだ。また話をした。
「ここです」
「いい場所ね」
 諸葛勤は太史慈に対して満足した顔で頷いていた。
「ここなら遠くまで見渡せるし」
「大軍が入る砦を築けます」
「しかも山越の本拠地を見渡せる」
 見れば連なる山の一つにだ。集落があった。二人は今はその集落を見ていた。
「充分にね」
「はい、ここしかありません」
「水はどうかしら」
 諸葛勤は今度はこのことを尋ねた。
「水は」
「あちらに」
 太史慈は山のすぐ下を指差した。するとそこには川があった。
「あそこから軍を向かわせることもできます」
「移動にも使えるのね」
「はい、ここなら問題はないかと」
「そうね。ただ」
「ただ?」
「波止場が欲しいわね」
 諸葛勤が今言うのはこのことだった。
「そうすればさらにいいわ」
「波止場ですか」
「ええ、波止場もね」
「確かに。言われてみれば」
 太史慈は左手を自分の顎に当てて考える顔になって述べた。
「それがあった方が移動にいいですね」
「丁度いい場所もあるし」
 森と川の接点の一つを見たうえでの言葉だ。諸葛勤はそこに開けた場所を見つけたのだ。
「あそこに波止場を築いて」
「はい」
「そしてここまでの道も築きましょう」
「そうしてそのうえで、ですね」
「ええ、山越を攻める」
 あらためて山越の本拠地を見ての言葉だ。
「そしてこの川は」
「長江から分かれています」
 太史慈はまた話した。
「そうなっています」
「なら尚更いいわ。建業から直接行き来できるわね」
「わざわざ陸路で向かうよりずっといいですね」
「ええ、この戦い思ったより」
 そして言うのであった。
「楽にいくかもね」
「今まで攻めあぐねていた山越にですか」
「攻め方を変えればそれで楽になるものよ」
 諸葛勤は微笑んで太史慈に話す。
「冥琳もよく言ってるわね」
「言われてみれば。確かに」
「そして山越を下したならば」
 諸葛勤は既にそれからのことも考えていた。
「それからだけれど」
「それからどうされますか」
「揚州に組み込んでその大半は領民として扱い」
 そうしてだった。
「政治に組み込んでいくわ」
「領民にしていくのですね」
「ええ、袁紹殿がしているやり方でいくわ」
 ここで袁紹の名前も出た。
「あのやり方でね」
「では精強な者は兵にですね」
「そうよ。我が揚州の優秀な兵になってもらうわ」
 やはりその山越の本拠地を見下ろしていた。
「是非ね」
「それを考えると出来るだけ痛めつけないでおきたいですね」
「そうね。領民になるのだし」
 既にそれは決まっているかの様な言葉だった。
「出来るだけ無傷でね」
「あくまで理想ですが」
「それでもそうありたいわ」
 また話す諸葛勤だった。
「ここはね」
「そうですね。そういえばその袁紹殿ですが」
「何進大将軍が烏丸征討の兵を起こされそれに従われるとか」
「はい、曹操殿も御一緒です」
「大将軍の両翼」
 二人の評価は今ではこうなっているのだ。
「その二人を率いてわざわざ征討というわけね」
「はい。ただ」
「ただ?」
「大将軍が都を出られるのは珍しいのでは」
 太史慈は怪訝な顔で話してきた。
「今まではそうしたことは全て袁紹殿や我々がしていましたし」
「異民族についてはね」
「はい、そして中原や曹操殿や袁術殿がいますし」
 それで結果としてだ。都から動いていないというのだ。
「それが今どうして」
「これまでは宦官達との抗争で都を離れられなかったけれど」
「はい」
「頼りになる腹心が加わったそうよ」
「腹心といいますと」
 それを聞いてだ。太史慈が思い浮かべたのは彼女だった。
「擁州の董卓殿でしょうか」
「いえ、董卓殿は擁州から動いていないわ」
 違うというのである。
「一歩もね。今は擁州を治めるのに専念しているわ」
「だとすれば一体」
「確か。名前は」
 その名前から話すのだった。
「司馬慰だったかしら」
「司馬慰といいますと」
「ええ、あの司馬氏のね」
 諸葛勤も太史慈もだ。この名前を出したところで顔を少し変えた。真剣なものにだ。
「主よ」
「家柄では袁家や曹家にも匹敵するというあの名門の」
「そして代々高官を出している清流派の領袖のね」
 こう話していくのだった。
「その彼が腹心になったらしいわ」
「名門司馬氏の主がですか」
「しかも嫡流で。相当な切れ者でもあるそうよ」
「ふむ。袁紹殿や曹操殿とは違いますか」
「そして我等が孫家とも」
 諸葛勤は違うというのである。
「地方領主ともね」
「朝廷の名臣というのですね」
「そうよ。家柄も何もかもを備えているのよ」
「袁紹殿や曹操殿にとっては面白くないでしょうね」
 太史慈はその話を聞いてまずこう思ったのだった。
「御二人にとっては」
「そうだと思うわ。今では大将軍の無二の腹心にして懐刀」
 そうした立場にあるというのだ。
「絶対の権限を握ろうとしているらしいわ」
「その方が加わったからこそですか」
「ええ、烏丸の討伐に直々に出られるようになった」
 諸葛勤はここでさらに話した。
「都を預けられる人材が加わったからこそ」
「そのうえで両翼を率いて、ですか」
「そうよ。都では比例的に大将軍の力が強まっているわ」
「それはいいことですね」
 太史慈の今の言葉には理由があった。実は孫策も何進の派閥に属しているのだ。少なくとも宦官達との関係はよくはないのである。
「それは」
「そうね。さて、それじゃあ」
「はい、それでは」
「一旦下りましょう」
 山を下りるというのである。
「一旦建業に戻ってね」
「はい、それでは」
 こうして戻ろうとする。そして兵達と合流し建業に戻ろうとする。その時に道を開き波止場を築くことも忘れない。しかしその時にであった。
「!?来た」
「山越か!?」
「まさかここで」
「うろたえるな!」
 太史慈がすぐに槍を手にして叫ぶ。それで左右の森から跳んで来た弓矢に狼狽しようとする兵達を叱咤した。
「敵が来たなら倒すまでのこと!」
「総員集結せよ!」
 諸葛勤もここで命じる。
「波止場まで行きそこで守る!」
「は、はい!」
「わかりました!」
 兵達は諸葛勤の言葉に頷きすぐに集結し建設中の波止場に入る。そしてその建物を利用してそのうえで守りに入ったのであった。
 すぐにだ。野蛮な鎧を着た男達が来た。諸葛勤はそれを見て言う。
「間違いないわね」
「はい」
「山越の兵ね」
 それをすぐに見抜いたのである。数は百人程度だ。
「どうやら偵察で来たみたいだけれど」
「それで今我々を」
「倒すつもりね。ならここは」
「応じるしかありません」
 太史慈は槍を両手に持ちすぐに言った。
「ここは」
「そうよ。各自弓か槍を持て」
 諸葛勤が命じる。
「そして建物を頼りに守れ。いいな!」
「はい、了解です!」
「それなら!」
「朱里が建業に来ていたらしいけれど」
「妹さんがですか」
「ええ、この場を乗り切ったら一度会いたいわね」
 笑みを浮かべての言葉だった。
「是非ね」
「そういえばいつも話しておられますね」
「できれば揚州に来て欲しいのだけれど」
 こう太史慈に話すのだった。
「妹さんのことを」
「天下にその名を轟かせる軍師になれるわ」
 その妹のことをこうまで評するのだった。
「多分ね」
「そこまでの方なのですか」
「まだ小さいけれど絶対そうなるわ」
 妹をかなり褒めていた。そのことを隠そうともしない。
「朱里はね」
「では。その妹殿に再び御会いできるように」
「そうね、その為にも今は」
「戦いましょう」
 太史慈は微笑みを浮かべていた。
「そして生き抜きましょう」
「そうね、何があっても」
 こう話しながら戦う。その時にだ。
「骸羅さん!」
「わかってるぜ!」
 少年の声と男の声がした。
「あの人達は」
「ああ、そうだな」
「はい、その通りです!」
「我等の仲間です!」
 道にだ。揚州の鎧を着た兵達が出て来た。
 その後ろにだ。髪を短く刈り白い膝までのズボンと上着の上に赤い服を着て傘を持った小柄で中性的な少年と彼とは対象的に非常に大柄で巨大な数珠と青と白の法衣を着た男が出て来たのであった。
「あれが諸葛勤様と太史慈様です」
「どうかお助け下さい」
「はい、わかりました」
「それならな」
 二人は兵達の言葉に頷いてだ。そうしてだった。 
 その傘と数珠を手にしてだ。山越の兵達の中に踊り込んだ。
 少年はその傘を広げて縦横に乱れ舞い男は数珠を振り回す。それにより山越の兵達を忽ちのうちに全て退散させてしまった。
 戦いは彼等の加入により諸葛勤達にとってことなきを得たものになった。闘いが終わって諸葛勤はすぐにその二人に声をかけた。
「そなた達は一体」
「緋雨閑丸です」
「花諷院骸羅だ」
「むっ、その名前は」
「そうですね」
 二人の名前を聞いてだ。諸葛勤だけでなく太史慈も気付いた。
「あかり達と同じか」
「そうですね。別の世から来た者達ですか」
「ひょっとして御存知なんですか?」
「俺達気付いたらこの世界に来てるんだがな」
 二人の返答は諸葛勤の予想通りであった。
「ここはそれで」
「どういう世界なんだ?」
「漢だが」
 諸葛勤はわかっていた。それで落ち着いた顔で二人に話す。
「とはいっても貴殿等の知っている漢ではない」
「漢っていうと清の」
「ああ、昔の名前だよな」
「それじゃあ僕達は」
「昔に来たってわけか?」
「昔であって昔でないようだな」
 こう二人に告げる。
「どうやらな」
「あの、何かあまり」
「意味がわからないんだがな」
「そうでしょうね。私達も最初はそうでしたし」
 今度は太史慈が二人に話す。
「しかし御二人だけではありませんので」
「他にも貴殿等と同じ者達がいる」
「というと」
「覇王丸達がいるのか?」
 閑丸と骸羅は顔を見合わせる。身体の大きさが違い過ぎ骸羅は見下ろしている。
「そうなりますよね」
「そうだな」
「覇王丸という者は知らぬが」
 諸葛勤はその名前には答えられなかった。
 しかしそれでもだ。こう話すのだった。
「それでも。どうも多くの者がこちらに来ているようね」
「その様ですね」
「そういえばナコルルだったかしら」
 建業からの早馬から聞いた話である。この早馬から妹のことも聞いているのだ。
「その者も来ていたそうだけれど」
「ナコルルさんですか」
「あいつも来ていたのかよ」
「知っているようね」
 諸葛勤は二人がその名前に反応したのを見て述べた。
「どうやら」
「ええ、よく」
「知ってるぜ」
 二人はここでようやくはっきりとした顔になった。
「そうですか、ナコルルさんもですか」
「この世界に来ていたのか」
「藍里殿、やはり」
「そうね」
 ここで二人も顔を見合わせて頷き合う。そのうえでまた二人に言う。
「それでだけれど」
「はい」
「それで何だ?」
「我が主に話してから正式に、となるけれどね」
 こう前置きしてからだった。
「貴方達これから行くあてはあるかしら」
「残念ですがそれが」
「この世界のことはさっぱりわからないからな」
 二人はまた困った顔になった。そのうえでの言葉だった。
「ですから。ちょっと」
「どうしたものか困ってたんだよ。そっちのお侍さんに声をかけられるまでな」
「侍というのはわかります」
 太史慈が二人の言葉に答える。
「あかりさん達から教えてもらいましたので」
「あかりさん?」
「何か聞いたことねえな、その名前は」
 二人にとってはその名前も不可思議なものであった。ついついいぶかしんでしまう程だった。
「とにかく。これからですが」
「どうしたものか困ってるんだよ」
「わかったわ。だから孫策様にお話してから正式になるけれど」
「私達と一緒に働きませんか?」
 二人はこう閑丸達に提案する。
「孫策様のところでね」
「それでどうかしら」
「孫策様は確か」
「このお侍さん達の主君だな」
 二人は兵というものをよく知らなかった。彼等を見ても侍としか思えない。これは彼等の時代の日本の感覚に他ならなかった。
「その人がですか」
「俺達を召し抱えてくれるってのか」
「ええ、そうよ」
「その通りです」
 諸葛勤も太史慈もすぐに答える。
「それでどうかしら」
「我が主に」
「はい、僕達も困っていましたし」
「喜んでな」
 二人は明るい顔で即答した。
「是非御願いします」
「飯は食うけれど我慢してくれ」
「それはね。もうわかるわ」
 諸葛勤は骸羅のその巨体を見上げて微笑んで述べた。
「言われなくてもね」
「ははは、そうか。やっぱりな」
「それじゃあ。早速だけれど」
「波止場と道を造って」
「もう砦も築いてそこで孫策様達をお待ちするのがいいかしら」
「そうかも知れませんね」
 ここでこう話すのだった。
「その方が」
「よし、決めたわ」 
 諸葛勤は自分で頷いて決断を下した。
「それじゃあここはね」
「我々はここに留まり」
「そうよ、そのうえでね」
「砦を築いたうえで孫策様達を待ちましょう」
「そして」
 今度は山の向こうに目をやった。そのうえでの言葉だった。
「今度こそ山越を征服しましょう」
「そうですね、今度こそ」
 そうしてであった。彼女達は新たな仲間を手に入れてそのうえでこの地に留まり戦場に向かう用意をしていた。まずは砦を築くのだった。
 関羽達は今は徐州にいた。そこから北に向かおうとしていた。
「ところでなのだ」
「どうした?」
「聞いた話では北に兵を向けるらしいのだ」
 張飛がこう関羽に話していた。
「北になのだ」
「北というとだ」
 関羽はそれを聞いてすぐに察した。
「あれか。異民族だな」
「そうだな。おそらく烏丸だな」
 ここで趙雲も話に加わってきた。
「あの者達への征伐だ」
「それじゃあそっちに行くか?」
 馬超は参加に考えをやっていた。
「あの連中はどっちにしても放っておけないしな」
「そうね」
 黄忠は娘の手を取りながら述べた。
「私達も大人数だし。そろそろ仕官も考えて」
「仕官ですか。でしたら」
 ナコルルは彼女達の話を聞いて考える顔で述べた。
「袁紹さんか曹操さんですか」
「どちらも癖が強いわね」
「そうね」
 キングと舞が難しい顔になる。
「あの二人はどうにも」
「孫策さんよりもまだね」
「そうですよね。袁紹さんは何かお馬鹿なところがあるようですし」
 香澄は袁紹のその性格をよくわかっていた。
「曹操さんも微妙に危ういところがあるような」
「少なくとも私達には合わない人達だと思います」
 孔明がここで一同に話す。
「袁紹さんも曹操さんも」
「そういえば朱里」
 関羽はその孔明に顔を向けて言ってきた。
「御主の姉上は揚州にいたな」
「はい、孫策さんにお仕えしています」
「御主はその縁で孫策殿に仕官できたのではないのか?」
「それはそうですけれど」
 このことは認めるのだった。
「ただ。あの方ではなく他の方だと思います」
「他の方?」
「はい、他に相応しい方がおられると思いまして」
 こう一同に話すのだった。
「私達の主に相応しい方は」
「私達か」
「じゃあ誰なのだ?」
 関羽も張飛もここで考える顔になる。
「我々の主となられるべき方は」
「とりあえず目立った諸侯は回ったがそれでも一人もいなかったのだ」
「諸侯でないのかも知れませんよ」
 孔明はこうも話す。
「ひょっとしたら」
「ひょっとしたらですか」
「今はわからないんですか」
「誰かは」
「少し占ってみました」
 この時代の軍師は占術も必要とされていた。孔明もまた軍師としてそれに通じていたのだ。それで今こう話したというわけである。
「それでこの地でその主と御会いできるようです」
「ここでか」
「この徐州で」
「その主と」
「はい、そう出ています」
 占いでは、というのだ。
「ですから少しお待ち下さい」
「そういえばここではだ」
 趙雲がまた話す。
「最近張三姉妹が人気だったな」
「ああ、都にまで来ることがあるっていう旅芸人の姉妹だよな」
「そうだ。ここが拠点だった筈だ」
 趙雲は馬超にも話す。
「この徐州がな。そして青州もだ」
「青州もかよ」
 馬超は青州と聞いてだ。あの名前を出したのだった。
「袁紹殿が治めてるよな、今」
「そうだったな。ややこしい方だが政治は見事だからな」
「それでもこの徐州は」
 黄忠は徐州の話をした。
「これといった主もいなくて」
「あまりまとまっているとは言えませんね」
「そうね」
 黄忠はナコルルの言葉にも頷いた。
「とても」
「賊こそ少ないけれどあまり治安はよくないよ」
 馬岱がここではじめて口を開いた。
「何かあったらすぐに叛乱とか起こりそうよね」
「そうね。確かに」
「不穏なものも漂ってますね」
 舞と香澄も眉をひそませた。
「このままだとね」
「しっかりとした牧がいないと」
「その袁紹さんや曹操さんじゃ駄目なのかい?」
 キングはここで二人の名前を出した。
「あの二人じゃ」
「御二人共今はそれぞれの州の統治と賊や異民族の討伐にお忙しいと思います」
「そうなの」
「はい、それに烏丸にも出陣されるようですし」
 こう馬岱に話すのだた。
「ですから」
「そうなんだ」
「はい、ですから今は徐州まで手が回らないと思います」
 そしてであった。もう一人話に出したのだった。
「孫策さんも今は山越征伐にお忙しいでしょうし」
「困った話よね」
 馬岱は溜息をつきながら述べた。
「力のある諸侯が進出できる場所にあるのにそれができないから結果として何が起こってもおかしくないような状況になっちゃってるって」
「そういうこともあります。幽州等はやがて袁紹殿が治められるでしょうけれど」
「そういえばあそこも牧いなかったよね」
「はい」
 孔明も馬岱も公孫賛のことを知らない。
「ですから」
「あれっ、誰かいたと思うのだ」
「だから公孫賛殿だ」
 関羽が目をしばたかせた張飛に話す。
「もう忘れたのか」
「そういえばそんな奴もいたのだ」
「全く。忘れるなぞ失礼にも程があるぞ」
「そうだな。確か黒い馬に乗っておられたな」
 趙雲も話す。
「確かな」
「星、御主はわざとだな」
「うむ、実はそうだ」
 そんな話をしながら北に向かっていた。そうして山の中に入ると。
「やいやいやい」
「姉ちゃんいい顔してんじゃねえか」
「身体もな」
 何処かで聞いた下卑た声だった。
「ちょっと遊ばねえか?」
「俺達とな」
「何処かで聞いた声なのだ」
「そうだな」
 それを張飛と関羽も話す。
「ということはだ」
「いつもの展開なのだ」
「じゃあさっさとやっつけちゃおうよ」
 馬岱はその槍を手にすぐに前に出る。
「いいわよね、悪党なんだし」
「絶対にいつもの三人ね」
「そうね」
 舞にもキングにもわかっていた。
「あの三人何処にでもいるけれど」
「別人かしら、本当に」
「けれど今はすぐに何とかしないと」
 香澄も前に出ていた。
「女の子が大変なことになっているみたいですよ」
「そうですね。それじゃあ」
 ナコルルもだった。
「行きましょう」
「はい、すぐに」
 最後に孔明が頷いてだった。その声がした方に向かう。岩山を背にしてだ。劉備がいつもの三人組に囲まれて困った顔になっていた。
「な、何ですか貴方達は」
「ああん?見ればわかるだろうが」
「悪者だよ」
「そんなことはよ」
 こう返す三人だった。
「お金ならありませんよ」
「ああん?金なんかなくてもいいんだよ」
「楽しめるからな」
「それでな」
 いいというのだった。
「さっきも言ったがいい顔してるな」
「身体もな」
 劉備のその胸を見てまた言う。
「気持ちよくさせてやるぜ」
「これからな」
「そんなことを言うなら」
 劉備はそのいつもの三人の言葉を聞いてだ。真剣な顔になった。
 そして後ろの篭から何かを出してきた。木刀に見えるものだった。
 それを両手に持ってだ。剣を持つ構えをしてきたのであった。
「何だ?一体」
「何をする気だ?それでよ」
「これをこうして」
 見ればそれはムシロだった。それを頭から被ってだ。
「隠れれば大丈夫ですから」
 しゃがんでそのままだった。足の付け根からピンク色のものが見えている。
 その劉備に対してだ。三人もかなり呆れてしまった。
「っておい」
「それで何だ?」
「隠れたつもりか?」
「私は何処にもいませんよ」
「んなわけあるか!」
「何考えてやがる!」
 思わず突っ込みを入れる三人だった。
「全くよ!」
「もう我慢できねえ!これで!」
 襲い掛かろうとした。しかしここでだ。
 関羽達が出て来たのだった。
「そこまでだ」
「やっぱりいつもの三人なのだ」
 関羽と張飛はその彼等を見ながら話す。
「では名乗りは不要だな」
「もう知ってる顔なのだ」
「おい、俺達は手前等と初対面だぞ」
 三人のうちのいつものリーダー格が言う。
「言っておくがな」
「しかし何処にでもいるよな、あんた達」
 馬超は冷静にこう突っ込みを入れる。
「本当にな」
「ええい、五月蝿いんだよ」
「女の数が増えたのならそれでいい」
 チビだけでなく大きいのも言う。
「やっちまうぞ!」
「ハーレムだ」
「まあ待て」
 だがここで趙雲が三人に話す。
「ここにいる女はだ」
「その黒髪の姉ちゃんかよ」
「美人だな」
「しかも胸でかいな」
「黒髪の美貌の山賊退治の豪傑だ」
 ここまではよかった。
「しかし実はしっとりつやつやは上ばかりでなくだ」
「おい、待て」
 すぐにむっとした顔で言う関羽だった。
「そこから何を言うつもりだ」
「うむ、下ばかりもだな」
「だからそれは言うな」
 顔を赤くして趙雲に抗議する。
「私はだな。それは」
「しかし事実ではないか」
「事実でも言うな、絶対にだ」
「まあ何はともあれこれだけ美人がいればな」
「そうだよな。女には困らないな」
「よりどりみどり」
 三人はいつも通り彼女達ににじり寄る。そうしてだった。
「やっちまえ!」
「いただきだぜ!」
「貴様等なぞ私一人で充分だ」
 関羽が得物を手に一歩前に出た。
「所詮はな」
「何っ!?女なんかな」
「俺達の手にかかりゃあな」
「どうってことはないんだよ」
「そうか。なら来い。確かめさせてやろう」
 こう言ってであった。襲い掛かる三人をあっという間に吹き飛ばしたのであった。
「な、何ィーーーーーーーーッ!?」
「これで終わりだってのか!?」
「嘘だろーーーーーーーーっ!?」
「嘘ではない」
 関羽は天高く吹き飛んでいく彼等を見送りながら述べた。
「貴様等に遅れを取る関j雲長ではない」
「そういうことだな」
 趙雲が彼女のその言葉に頷く。
「予想していたが見事だった」
「うむ、そうか」
「それでなのだ」
 そしてだ。張飛は劉備に香を向けた。そのうえで彼女に問うのだった。
「名前は何というのだ?」
「はい、劉備といいます」
 少女は立ち上がりながら名乗ってきた。もうむしろは頭からどけている。
「劉備玄徳といいます」
「劉っていったら」
 馬超はその姓にまず反応した。
「あれか?皇族とかか?」
「はい、祖先はそうです」
 実際にそうだったというのである。
「中山靖王の血筋になります」
「へえ、そうなのか」
「皇族だったんだ」
 馬岱もここで声をあげる。
「そういえば奇麗な顔をしてるね」
「有り難うございます」
 奇麗と言われてまんざらではない劉備だった。にこりと笑ってさえいる。
「それで今は家宝である剣を探していまして」
「ふむ、訳ありということか」
「それでなのですが」
 劉備はここで趙雲の言葉に応えながら話す。
「こうした剣を見ませんでしたか?」
「剣?」
「剣というと?」
「実はです」
 ここで剣を失くした経緯とそうして旅に出るに至るまでを一同に話す。話を聞いてまず黄忠がやや驚いた顔になってそのうえで言うのであった。
「それはまた」
「はい?」
「過激なお母上ですね」
 劉備を川に投げ込む話を聞いての言葉である。
「随分と」
「普段はそうでもないんですが」
「いえ、普段でなくてもしないかと」
 孔明も少し引きながら話す。
「幾ら何でも川の中に投げ込むというのは」
「それで今探してるのですが」
「その剣はかなり目立つのだ?」
「はい、鞘も柄も刀身もかなり立派でして」
 こう張飛にも話す。
「それはもう」
「それじゃあ見つけるのは簡単なのだ?」
「見ただけでわかります」
 また言う劉備だった。
「それで探しているのですが」
「それはいいのだが」
 ここで関羽が劉備に対して言う。今一行は共に歩いている。その中でのやり取りだった。
「しかしだ」
「何かありますか?」
「危険過ぎるな」
 劉備を心配する顔で見ての言葉だった。
「それは」
「危険っていいますと」
「だからだ。若い娘が一人で旅をするというのはだ」
 それが危険だというのだ。
「私達の様に武芸を身に着けているのならともかく」
「はい」
「貴殿は武芸は身に着けているか」
「いえ、それは」
「そうだな。見たところそれは」
 劉備の腕はもう見抜いていたのだった。既にだ。
「ないな」
「ですが私は」
「よければだが」
 関羽はさらに言うのだった。
「我々と共に来ないか」
「関羽さん達とですか」
「そうだ、我々とだ」
 こう劉備に提案したのである。
「それでいいか」
「ですがそれは」
「何、構うことはない」
 関羽は微笑んで劉備に言う。
「旅は道連れという」
「そうなのだ。旅は道連れ」
 張飛も笑顔で言う。
「世は。ええと」
「世は情け浮世の道連れだ」
「そうなのだ。世は情け浮世の道連れなのだ」
「おい、かなり入ってないか?」
 そこまで聞いた馬超が趙雲が教えた言葉にすぐに言う。
「世は情けってのは何なんだよ」
「それって歌舞伎の言葉じゃなかったかしら」
 舞も首を捻りながら話す。
「この時代の、しかも中国にあったのかしら」
「そうですよね。歌舞伎なんて」
 それは香澄も指摘する。
「ここにはとても」
「いちいち気にしたら仕方ない?」
「そうですね」 
 キングとナコルルはこう考えることにした。
「この世界は私達の中国とは違うし」
「ですから」
「何はともあれですけれど」
 黄忠は優しい微笑で劉備に声をかける。
「劉備さんは私達と一緒にどうでしょうか」
「本当にいいんですか」
「気にすることはない」
 趙雲も笑顔で話す。
「それはだ」
「そこまで仰るのなら」
「一緒に北に行こう」
 馬岱も笑顔で声をかける。
「とにかく北に行ってね」
「全てはそれからですか」
「剣は絶対に見つかりますよ」
 孔明も明るく笑って劉備に告げる。
「きっと」
「きっとですか」
「はい、劉備さんの顔の相はとてもいいです」
 これもまた軍師としての言葉だった。
「望むことが適いそして大志を為す相です」
「私が、ですか」
「こんな素晴しい相は私もはじめて見ました」
 こうまで言うのだった。
「ですからきっと見つかります」
「そうだといいのですが」
「ですから今は御一緒に」
 孔明もまたそれを勧める。
「行きましょう」
「はい、それなら」
「進む先に道があり剣もそこにある筈です」
 孔明は今一行が進んでいるその道を見ていた。それは北に進んでいる。
「ですから」
「わかりました。それでは」
 劉備は笑顔で頷いた。そのうえで、だった。
 こうして劉備もまた一行に加わった。これこそが彼等にとっての大きな運命の出会いだった。これまでで最も大きなものなのであった。


第十八話   完


                          2010・6・13



劉備と関羽たちが出会ったな。
美姫 「そうね。まあ、中々に面白い登場の仕方だけれどね」
まさか、目の前で隠れたとかやるとはな。
美姫 「一人だと危なっかしいから、これで劉備の方は安心かもね」
だな。ここからどうなっていくのか。
美姫 「次回も待っています」
ではでは。



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