『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                             第二十四話  劉備、剣のことを聞くのこと

 劉備の元にだ。今は兵も集まってきていた。
「凄くなってきたよな」
「うむ」
 関羽が馬超の言葉に応えていた。
「将だけでなく兵達もな」
「何か劉備殿が来てから凄くなってきてないか?」
「あの方には人を集めるものがあるようだ」
 こう言う関羽だった。
「どうやらな」
「人をか」
「そうだ。その人間性故か」
 関羽は人が来る理由をそこに求めた。
「何か。傍にいるとな」
「そうだな。落ち着く」
 趙雲もいた。
「あの方の傍にいるとそれだけでな」
「そういえばそうだな」
 ここで馬超も納得した顔で頷いた。
「あたしも。何か一緒にいたくなるな」
「鈴々もなのだ」
 今度は張飛だった。
「あの人と一緒にいたいのだ、ずっと」
「ええ。若しかしたらあの人は」
 黄忠も言う。
「大事を果たせるかも知れないわね」
「血筋だけではありませんね」
 孔明は劉備のその血統について言及した。その皇室ということをだ。
「その心で」
「力や頭脳ではなく、か」
「そうしたものはどうとでもなりますから」
 孔明はそれについては大きく見てはいなかった。
「それはあの方を慕う者がすればいいのですから」
「力や頭は必要ないのだ?」
「はい、確かに最低限は必要ですが」
 孔明は一応張飛にこうは述べた。
「ですが。人をまとめ大事を果たすにはです」
「そうね。人を惹き付けて離さないものね」
 黄忠はまさにそれを指摘した。
「それが必要になるわ」
「実際に今もです」
 また孔明が言った。
「こうして多くの将兵が集まってきています」
「俺達も何かな」
 テリーも来た。
「あのお嬢ちゃんは好きだぜ」
「見ていると危なっかしいんだけれどな」
「それが余計にだろうか」
 ジョーとアンディもいる。
「力にならせてもらいたいってな」
「そう思うからだろう」
「はい、私達もそれは同じです」
 孔明はにこりと笑ってテリー達のその言葉に応えた。そのうえでテリーに何処か似ていてより精悍な、金髪に青い目の黒いシャツとズボン、それに赤いジャケットの青年を見た。
「貴方もですか?ええと」
「ああ、ロックだ」
 彼は自分から名乗ってみせた。
「ロック=ハワードだ」
「そうでしたね、ロックさん」
「ああ」
「貴方も劉備さんは」
「嫌いじゃないな」
 ロックは微笑んで孔明のその言葉に応えた。
「癒されるっていうのか?俺のあまり知らない感情だがな」
「では貴方も」
「ここにいていいか?」
 逆に孔明達に対して問うロックだった。
「テリーと一緒にな」
「はい、勿論です」
 孔明はにこりと笑ってロックのその言葉に応えた。
「是非。ご一緒に」
「よし、それじゃあな」
「御願いしますね」
「本当に。色々な人が集まってきていますね」
 ナコルルの言葉である。
「妹も来ましたし」
「リムルルだよな」
「はい」
 ナコルルは馬超のその言葉に応えた。
「あの娘も来ましたし」
「何かあの娘いいよな」
 馬超はそのリムルルを思い出して微笑んだ。
「蒲公英とは全然タイプが違うけれどそれでもな」
「それでもですか」
「ああ。妹っていいよな」
 そしてこう言うのだった。
「あいつは従妹だけれどな」
「そういえばそのリムルルは何処だ?」
 趙雲がこのことを一同に問うた。
「蒲公英といい姿を見ないが」
「今劉備さんのところにいるわよ」
 舞が趙雲のその問いに答える。実は彼等は今募兵の場所にいるのだ。そこに若者達が次々と集ってきているのである。
「そこで一緒に勉強か稽古をしているわ」
「げっ、学校の勉強かよ」
 丈はそれを聞いて嫌な顔になった。
「俺勉強は嫌いなんだよ」
「あんたはもうちょっと勉強した方がいいだろ」 
「その通りだな」
 二階堂と大門がその丈に突っ込みを入れる。
「高校、出てるんだよな」
「それはどうなのだ」
「一応出てるけれどな」
 こう二人に答えはする。
「京とは違ってな」
「高校だったのだ?」
 張飛は心配する顔になっていた。
「あいつはそこを卒業できるのだ?」
「無理じゃないの?」
 ユリの言葉は素っ気無いと共にきつかった。
「だって。出席してないんだから」
「しかも今はこの世界にいるからな」
 キングはこのことも話した。
「それで卒業というのはな」
「そうなのだ。じゃあ難しいのだ」
「中退とかになるんじゃないか?」
 リョウもそれは心配していた。
「あのままだと」
「頭は悪くないんやけれどな」
 ロバートはそれは保障した。
「とりあえず学校に行かへんとな。しゃあないわ」
「ううむ、京にとってはそれが最も為すべきことか」
 関羽も彼のことを心配していた。
「どうしたものかな」
「あちらの世界も大変なんですね」
 孔明はこのことを心から思った。
「本当に」
「こっちの世界も同じだけれどな」
 こう言ったのはテリーだった。
「まあどっちもどっちだ」
「そうですか」
 彼等はこんな話をしていた。そしてだ。
 劉備はだ。その馬岱は矢黒い短い髪に白地に端が紫になったアイヌの服を着た黒い目の可愛らしい少女とそれと草薙と共にだ。あれこれとしていた。
 馬岱と草薙が稽古をしていた。残る二人はそれを見ている。
「喰らえーーーーーーっ!!」
 草薙が炎を出しそれを地面に叩き付ける。その炎が血を走る。
 馬岱はそれを跳んでかわす。そうしてだった。 
 上から草薙を狙おうとする。しかしだ。
 ここで草薙も跳んだ。左手に炎を宿らせてそれを一閃させる。
「ほうりゃあっ!」
「あっ、鬼焼き!」
 劉備がそれを見て言う。
「草薙さんの技の一つ」
「これでどうだ!」
 草薙も技を放ちながら言う。
「かわせるか!」
「甘いよ!」
 しかし馬岱もここで言ってだ。そうしてだ。
 その槍を守りの姿勢で構えて。それで草薙の鬼焼きを防いだのだった。
「私だってわかってたんだから!」
「へえ、わかったか!」
「わかるわよ!」
 こう草薙にも返す。
「草薙さんのそのパターンはね」
「そのパターンはか」
「そうよ」
 二人は着地した。そのうえでまた話す。
「だって草薙さんってさ」
「こうして闇払いと鬼焼きで飛ばせて落とす場合とか」
「それと闇咬みとかで接近して一気に畳み掛けるパターンがあるじゃない」
「ああ」
「このパターンって言葉は二階堂さんに教えてもらったけれど」
 馬岱はついでにこのことも話した。
「どっちかだから。闇払いが来たらね」
「それでもうわかるっていうのか」
「そういうこと」
 また構えを取りながら利発な顔で話す。
「それでね」
「果たしてそうか?」
 だが草薙はここで不敵な笑みで返すのだった。
「それだけだって思うか?」
「違うの?」
「俺の攻撃はそれだけじゃないんだよ」
 その不敵な笑みのまま再び馬岱に話す。
「残念だけれどな」
「じゃあ他には?」
「こうするんだよ。行くぜ!」
 今度は草薙から跳んだ。そうしてだった。
 馬岱に蹴りを仕掛ける。馬岱は斜め上からのその蹴りを防いだ。しかしだ。
 草薙は着地してからもさらに蹴りを仕掛ける。それから続けてだ。
「喰らえーーーーーっ!!」
「えっ、接近して!?」
 闇払いだった。それが来たのだ。
 その攻撃を見せてだ。草薙はそれからまた告げた。
「こういうパターンもあるんだぜ」
「止めに闇払いをって」
「他にも空中だと朧車もあるしな」
「あの技もなのね」
「そういうことだ、俺だって二つのパターンだけじゃないんだよ」 
 こう馬岱に話す。
「こうして色々あるからな」
「そうだったのね」
「そうさ。しかし馬岱もな」
「私はどうなの?」
「やっぱり強いな」
 彼女を認める言葉だった。
「伊達に槍を持ってる訳じゃないな」
「どっちかっていうと馬に乗った戦いが得意だけれどね」
 ふとこんなことを言う馬岱だった。
「それでも。こうして立って戦うのもね」
「苦手じゃないか」
「そういうこと。それじゃあ今の稽古はこれまで?」
「ああ、そうするか」
 草薙も馬岱のその言葉に返した。
「後はお茶でも飲んでな」
「夕食は焼き魚ですよ」
 ここでその黒く短い髪の少女が言ってきた。
「黄忠さん達が作ってくれますよ」
「ああ、それはいいな」
 草薙は彼女の言葉を受けてまた微笑む。
「魚好きだからな」
「そうですね。草薙さんって魚好きですよね」
「ああ、大好きだ」
 また少女に応える。そのうえで彼女の名前も呼んだ。
「リムルルもだよな」
「はい、私もお魚好きです」
 リムルルは素直な声でにこりと答えた。
「焼いても煮てもですけれど」
「火は任せておいてくれ」
 言いながら右手に自分の火を出した。
「こうしてな」
「それってどうやって出すんですか?」
 劉備がふとそのことを尋ねた。
「草薙さんっていつも普通に出してますけれど」
「ああ、これな」
 草薙は劉備に顔を向けてその問いに答えた。
「草薙家は代々こうして火を出せて操れるんだよ」
「代々ですか」
「草薙家は元々オロチを監視し倒す家でな」
「ああ、前話してたよね」
「そうですね」
 馬岱とリムルルがそれを聞いて頷いた。
「他の二つの家と一緒に」
「私達の世界では」
「まあ八神の奴等とはおかしなことになっちまってるがな」
 草薙はふとこんなことも言ったがここではこのことは多くは言わなかった。
「それでもな。そのオロチを倒す為にな。火を出せるんですよ」
「それって気を火にしているのよね」
 馬岱はすぐにこのことを察して言ってみせた。
「それで出せるのよね」
「そうさ、草薙家の特別な素養でな」
 それでだというのだ。
「草薙家は代々出せるんだよ」
「それじゃあですけれど」
 ふとだ。劉備はそれを聞いてある人物の名前を出した。
「真吾君は」
「ああ、無理だ」
 草薙の劉備への返答はここでは一言だった。
「あいつは草薙家の奴じゃないからな」
「そうなんですか」
「言ってるけれどわかってくれないんだよ」
 草薙はここでは少し困った顔になった。
「何か憎めなくて相手をしてやってるけれどな」
「矢吹君って何か憎めないのよね」
「そうですね」
 馬岱とリムルルは顔を見合わせてにこりと言い合う。二人の背丈は同じ位だ。
「必死だし勉強家だし」
「怪談好きなのが困りものですけれど」
「真吾君の怪談って怖いわよね」
 劉備は少し怯えた顔になっていた。
「聴く度に夜寝られなくなって」
「そうそう、物凄くね」
「怖いですから」
「あいつは怪談が趣味なんだよ。それでだ」
 草薙は今は劉備の腰を見た。そしてふと言うのだった。
「なあ」
「はい?」
「劉備さんが持っていたっていうその剣な」
 彼が今話すのはこのことだった。
「それは何処にあるんだ?」
「ええと、それは」
「わからないのか」
「すいません、今はちょっと」
「そうか」
 草薙は困った顔になった劉備にまた返した。
「見つかればいいな」
「そう思います」
 劉備もその困った顔で草薙の言葉に答えた。
「さもないと本当にお母さんに怒られますし」
「しかし物凄いお袋さんだな」
 草薙は彼女の話からその母のことを知っていた。そうして言うのだった。
「実の娘を川の中にか」
「思い出す度にですよ」
「普通ないな。というか無茶苦茶だろ」
 草薙はいささか呆れた顔になっていた。
「その度にあんたを掴んで全速力で川まで走って放り込むなんてな」
「力も素早さもね」
「私達よりも強いんじゃないでしょうか」
 馬岱とリムルルもこう思った。
「そうよね、それって」
「力も速さも」
「かもな。尋常じゃない人だな」
「何でも昔は」
 劉備もここで話す。
「ガンダムとか何とかに乗っていた記憶があるとか」
「ってマクロスじゃないんですか?」
 反応したのはリムルルである。
「私そちらなら何とかわかりますけれど」
「そこで何でわかるの?」
 馬岱がそこに突っ込みを入れた。
「ガンダムとかマクロスって何?」
「ええと、何か記憶があって」
 それでだというのだった。
「わかる気がしますから」
「ううん、不思議ね」
「まあよくあることだな」
 草薙はこれで済ませた。
「俺もそうしたことあるしな」
「そうなのね」
「馬岱もそういうのないか?」
「言われてみれば」
 彼女にしても言われると自覚できた。
「そういうのあるかも」
「まあ声の話は置いておいてだな」
 草薙はそれは終わらせた。
「とにかく。お茶でも飲むか」
「はい、そうですね」
 劉備がにこりと笑って頷いた。そのうえでだった。
 四人でいつもの庭から建物の中に戻ろうとする。ここでだった。
 バンダナをして青い短ランをした高校生と思われる元気のいい背の高い少年が走って来てだ。こう四人に対して叫んできた。
「草薙さん、劉備さん!」
「あれっ、矢吹君」
「真吾君じゃない」
 劉備と馬岱がその彼を見て言った。
「噂をすればだけれど」
「どうしたのかしら」
「とんでもない人が来ました!」
 その少年矢吹真吾は駆けながらまた話した。
「神楽さんがです!」
「神楽って?」
 それを聞いて言ったのはリムルルだった。
「ええと、確か」
「ああ、そうだ」
 ここで言ったのは草薙だった。真剣な顔になっている。
「その神楽だ」
「三つの家のうちの一つの人でしたね、確か」
「やっぱりこっちの世界に来てたか」 
 草薙はこうも言ったのだった。
「そうだろうって思ってたがな」
「草薙さん、それでなんですけれど」
 また言ってきた真吾だった。
「どうします?」
「どうしますか」
「はい、やっぱり会いますか?」
 こう彼に問うのである。
「どうします?」
「会うしかないだろうな」
 これが草薙の返答だった。
「あいつが来るってことはそれだけでな」
「何かありますか」
「ああ、オロチか?」
 草薙の脳裏にこの存在のことが浮かんだ。
「まさか。この世界でも」
「そうですよね。いてもおかしくないですよね」
「ああ。それを確かめる為にな」
「会うしかないんですね」
「そうする。じゃあ劉備さんよ」
 草薙はあらためて劉備に声をかけた。
「その神楽ちづるってのと会ってくれるか?」
「その人もやっぱり」
「そうさ、俺達の世界の住人だ」
 こう話すのだった。
「よかったら会ってくれ」
「わかりました」
 劉備も草薙のその言葉に頷いた。
「それじゃあ今から」
「頼むぜ。俺も同席させてもらっていいか?」
「はい、御願いします」
 劉備は草薙のその申し出に対して頷いた。
「草薙さんのお知り合いですよね」
「よく知ってるさ」
 草薙は冷静にこのことを認めた。
「話してただろ?因縁があるってな」
「因縁ですか」
「そのことも話させてもらうさ。それじゃあ行こうか」
「わかりました」
 劉備達は一同が食事を食べる部屋で彼女と会うことになった。赤い扉に壁、それと机と椅子のだ。そこで主だった面々と草薙を交えて会った。
 こうしてであった。その神楽ちづるが案内された。黒くすらりとした長い髪に髪と同じくすらりとした長身、それにはっきりとした顔立ちの美女である。目元がしっかりしている。白い巫女を思わせるシャツにだ。黒いぴっしりとしたズボンという格好である。
 その彼女が劉備と草薙達の前に来た。まずはであった。
「久し振りね、京君」
「また君付けかよ」
「年上だからいいじゃない」
 神楽は優しく笑って彼にこう返した。
「お姉さんみたいなものでしょ」
「誰がお姉さんだよ」
 草薙は今の彼女の言葉には苦い顔で返した。
「俺は別にな」
「別に?何かしら」
「あんたと会いたくてここに来た訳じゃないしな」
「あら、それはどうしてかしら」
「あんたと会うと絶対に何か怒る」
 草薙は怪訝な顔で述べた。
「だからな」
「そうね。確かにね」
 神楽もこのことを認めて頷いた。
「それはその通りね」
「そうだろ、じゃあ今も」
「そうよ」
 また認めてきた神楽だった。
「残念だけれどその通りよ」
「まさかと思うがな」
 草薙の目が鋭いものになった。
「あれか?オロチがこの世界にも」
「可能性はあるわね」
 神楽も真剣な顔で返す。
「それはね」
「それは、か」
「ただ。今のところオロチは感じないわ」
 それはというのである。
「彼等もここに来ている可能性は高いけれどね」
「そうだろうな。俺達がこの世界に来ているとな」
「彼等も」
「来ているのが普通だろ」
 草薙はこのことについては決して楽観していなかった。
「何処かに潜んでいやがるんだろうな」
「妖しい噂も聞いているわ」
 神楽もこんなことを言う。
「それらしき影のね」
「そうか。じゃああいつも来ているな」
「八神庵ね」
「ああ、あいつは絶対に来ている」
 草薙は彼に関してはさらに強い確信を持っていた。
「確実にな」
「間違いなくね。君と彼はオロチのそれよりも強い因縁があるから」
「あいつとの決着はな」
 このことも話す草薙だった。二人は今向かい合って話をしている。
「必ず着ける」
「そうするのね」
「どっちが死んでもだ」
 草薙の言葉は強かった。
「やらなければいけないからな」
「わかったわ。けれどね」
「けれどか」
「貴方達は本来は戦う宿命にはなかった」
 神楽の目が過去、それも遥かな過去を見るものになっていた。
「けれど今は」
「あいつとはな。草薙の家や八神の家やそういう問題じゃない」
「もっと強い何かね」
「それがある。だから俺達は闘う」
 こう神楽にも話す。
「それだけだ」
「わかったわ」
「何か凄い因縁だな」
「そうだな」
 馬超と趙雲が二人の話を聞いて話す。
「草薙ってそんなことがあったのか」
「八神家か。何か妙なものを感じる名だな」
 趙雲は顎に右手を当ててそのうえで述べた。
「そして八神庵か」
「ああ、あたしも何か感じるな」
 それは馬超も同じだった。
「そいつと草薙が会ったらどうなるかな」
「それが問題ね」
 黄忠も話す。
「草薙家、八神家、そして神楽家」
 さらにだ。
「あの三つの家とオロチのこともね」
 彼女はこのことも考えていた。しかも深くだ。
 そしてだ。ここで孔明が神楽に問うた。
「それで神楽さん」
「ええ」
「今回ここに来られたことはそのオロチと関係がないんですよね」
「ええ、そうよ」
 その通りだと答える神楽だった。
「それはね」
「それじゃあどうしてここに?」
「仲間に入るのなら大歓迎なのだ」
 張飛はこう神楽に話した。
「是非入って欲しいのだ」
「それも御願いできるかしら」
 神楽は張飛の言葉にすぐに返した。
「このままどの陣営に属していないというのもいざという時に困るし」
「はい、わかりました」
 劉備は神楽の申し出を笑顔で受けた。
「それじゃあ神楽さんは今から私達の仲間です」
「仲間なのね」
「はい、お友達です」
 劉備はまた神楽に話した。
「それで宜しく御願いします」
「配下でなくて友達なのね」
「それが何か?」
「袁紹本初や曹操孟徳のところとは違うのね」
 神楽が名前を出したのはこの二人だった。
「あの二人も孫策や董卓も私達の世界の人材を多く集めているけれど何処も配下だって言っているのに」
「だって。一緒にいるからお友達じゃないですか」
 劉備はまさに何でもないといった口調で話した。
「だからです」
「そうなのね」
「はい、それで神楽さん」
 劉備もまた神楽に尋ねた。
「今日ここに来られた理由は」
「それはね」
 神楽は一呼吸置いてからだ。こう話してきた。
「劉備玄徳さん、貴女についてなのよ」
「私に?」
「そう、貴女になの」
 また劉備に話した。
「貴女はかつて剣を持っていたわね」
「あの中山靖王のですか?」
「そうよ。あの剣よ」
 話すのはこのことだった。
「あの剣だけれど」
「まさかあの剣が見つかったというのか」
 これまで話を聞いていた関羽が述べた。
「成程、そういうことか」
「見つかったというより手掛かりかしら」
「手掛かり?」
「そう、手掛かりよ」
 また話す神楽だった。
「それが見つかったのよ」
「手掛かりか。それか」
「ええ。今は袁紹殿が持っているらしいわ」
「袁紹殿か」
 関羽はその名前を聞いてだ。いささか難しい顔になった。
「あの方も難しい方だな」
「そうなのだ。気分屋で妙にお高く止まっているところがあるのだ」
 張飛も困った顔になっている。
「とりあえず政や戦は得意みたいなのが救いだけれど困った奴なのだ」
「お母上のことが気になってですね」
 孔明は袁紹がそうした性格になった原因を既にわかっていた。
「それでどうしても」
「妙に気を張ってだな」
「それでだよな」
 趙雲と馬超も話す。
「そうでなければあの方ももっと安定した性格になっただろうがな」
「それで本人損してるよな」
「曹操さんもそうね」
 黄忠は彼女についても話した。
「あの人も宦官の家だから」
「はい、あの人もそれを気にしています」
 孔明は曹操のこともわかっていた。
「それがおかしなことにならないといいのですが」
「ううむ、全くだ」
 また話す関羽だった。
「どうしたものかな」
「だから私はあの人達のところには行かなかったの」
 神楽はここでその二人のところに向かわなかった理由も話した。
「それにね」
「それに?」
「劉備さんでなければ駄目だったし」
 こうも言うのだった。
「それでなのよ」
「私でないと?」
「そうよ、貴女でないとね」
 また話すのだった。
「貴女でないと駄目なのよ」
「その剣で、ですよね」
「その通りよ。貴女の剣でないと駄目なのよ」
「ううん、一体何が」
「貴女の剣には特別な力があるの」
 劉備を見ての言葉だった。
「貴女が持つことによってそれが発揮されるのよ」
「特別な力が」
「この世界のことはまだよくわからないけれど」
 ふとこんな話もした。
「ただ」
「ただ?」
「貴女の剣はこの世界を救うことができる。私はそうはっきり感じているわ」
 神楽の今の言葉を聞いてだ。孔明が察した。
「まさかこの人」
「ああ、神楽は巫女なんだよ」
 草薙がその事情を話す。
「巫女だからな。そうしたことがわかるんだよ」
「そうなんですか。やっぱり」
「ああ、だからこいつが来たってことはな」
 草薙は神楽を見たままだ。言葉を続ける。
「それだけで何かがあるって言ったよな」
「はい、さっき」
「そういう理由だよ」
 こう話してだった。さらに神楽の話を聞く。それはだった。
 神楽はだ。自身の話をさらに続けていた。劉備に対して話していた。
「それでね。袁紹殿に会ってね」
「それで剣をですか」
「返してもらいましょう」
 こう劉備に提案した。
「それでどうかしら」
「あの剣が戻れば」
 劉備はかなり呑気に考えていた。
「もうお母さんに川の中に投げ込まれなくて済むんですね」
「凄いお母さんね」
 神楽もこの話には引いた。
「何かあると川の中に投げ込むの」
「剣を失ったことを思い出す度にです」
「その度になのね」
「はい。剣を見つけたらそれはなくなるんですよね」
「少なくともね」 
 神楽は表情を元に戻してそのことを保障した。
「ないわ」
「わかりました。それじゃあ」
「剣を取り戻すのね」
「袁紹さんに御会いすればいいんですよね」
 やはり呑気な口調である。
「それじゃあ今から行きます」
「私が案内させてもらうわ」
 神楽は劉備が行くと聞いてだ。にこりと笑って述べた。
「私が言い出したしね。是非ね」
「劉備殿が行くのならだ」
「鈴々も行くのだ」
 関羽と張飛も名乗り出る。
「二人だけでは何かと不安だろう」
「是非そうさせてもらうのだ」
「なら私もだ」
「あたしもな」
 続いて趙雲と馬超も名乗り出た。
「旅は多い方がいい」
「そういうことだからな」
「なら私も」
 馬岱も右手をあげる。
「一緒に連れてって」
「御前は駄目だ」
 馬超は自分の左にいる従妹を見て叱った。
「まだ小さいしな」
「小さいからって何よ」
「まだ修行中だ。ここに残れ」
 咎める顔で話す。
「いいな、それは」
「何よ、それ」
 馬岱はそれを聞いて口を尖らせてしまった。
「そんなこと言って。私だけ除け者にして」
「除け者じゃない」 
 また言う馬超だった。
「御前は残れ。いいな」
「ちぇっ」
 不満に満ちた顔の馬岱だった。そうして。
 黄忠と孔明も言う。
「私も行かせてもらうわ」
「私もです」
 こう言うのだった。
「弓を使う人間も必要よね」
「私でよかったら。協力させて下さい」
「何で私だけなのよ」 
 ここでも不平を言う馬岱だった。
「私だけ居残りなのよ」
「他にも大勢いるだろうが」
 馬超はまた従妹に言う。
「そうじゃないのか?」
「俺も残る」
 草薙が言った。
「神楽がいれば充分だ」
「君は残るのね」
「ここに残る人間も必要だしな」
 神楽に対しても言うのだった。
「だからな」
「とりあえず神楽さんと一緒に行くのは私達七人と」
 劉備を含めてである。
「それでいいですね」
「では他の皆には残ってもらうか」
 関羽がこれで話をまとめた。
「それで行くか」
「はい、じゃあこれで」
 劉備も頷く。こうして決まった。
 次の日には早速一行が旅立つ。他の仲間達と兵士達が見送る。
「何か俺も出たいなあ」
「ああ、止めておけ」
 真吾には二階堂が言った。
「御前が行くと何かトラブルが起こるからな」
「トラブルって」
「御前はそういう星の下にあるんだよ」
 随分と物騒な言葉だった。
「動くとそれだけでな」
「そんなあ、そんな理由でなんて」
「残れ」
 大門は一言だった。
「そして修行しろ」
「とほほ、何てこった」
「じゃあ瑠々ちゃんはね」
「私達が面倒見るわね」
 舞とユリが黄忠に話す。
「黄忠さんは安心して」
「旅に出てね」
「有り難う」
 黄忠は微笑んでその言葉に応えた。
「御言葉に甘えて」
「ええ、じゃあ」
「行ってらっしゃい」
「ただ」
 黄忠はここでユリを見てだ。こう言うのを忘れなかった。
「ユリちゃん、いいかしら」
「どうしたの?」
「カレーを作るのはいいけれど」
 少し咎める口調だった。
「ただね。それでもね」
「それでも?」
「あまり甘いものにはしないでね」
 こう告げるのだった。
「それはね」
「えっ、甘口のカレー駄目なの?」
「ユリちゃんの作るカレーは甘過ぎるのよ」
「そうなのよね」
 マリーも黄忠のその言葉に頷く。
「あんまりにも甘くて。あれは」
「子供の歯のことも考えないと」
 黄忠はそこまで考えていた。
「だからよ。それは御願いね」
「じゃあカレーは俺が作るか?」
 今度はリョウが言った。
「ユリのカレーは確かに甘過ぎるからな」
「リョウ君もね」
 ところがだ。黄忠はリョウにも言うのだった。
「カレーは辛過ぎないようにしてね」
「俺もか」
「そうよ。リョウ君のカレーはまた辛過ぎるから」
 カレはカレーは辛口派なのだ。
「だからね。いいわね」
「ううむ、俺も駄目か」
「じゃあカレーはどないするんや?」
 二人の間にいるロバートが黄忠に問うた。
「瑠々ちゃんの大好物やし栄養摂れるしな」
「ロバート君頼めるかしら」
 彼女が言ったのはロバートについてだった。
「瑠々のカレー。御願いできるかしら」
「わいかいな」
「ええ、いいかしら」
 こう言うのである。
「よかったらだけれど」
「ああ、わかったで」
 ロバートもそれに応えた。
「ほな大阪風のカレーでやな」
「それで御願いするわ」
 まさにそれだというのだった。
「あれでね」
「御飯とカレーをまぶしてそこに卵を入れて」
 ロバートはそのカレーについて具体的に話す。
「そんでソースをかけたあれやな」
「あれ美味しいわよね」
「そやな」
 アテナと拳崇も話しながら頷く。
「あのカレー食べやすいし」
「俺も愛着あるで」
「大阪はいい街だからな」
 テリーも悪い顔はしていない。
「留守番の間そのカレーをもらおうか」
「そうさせてもらうか。そういえば」
 ロックは周囲を見回してだ。ふと気付いた。
「馬岱は何処なんだ?」
「むっ、そういえばだ」
「いないな」
 関羽と趙雲が周囲を見回した。
「何処に行ったんだ」
「他の者はここにいるというのに」
「寝坊か?」
 馬超は顔を顰めさせてこう推察した。
「ったくよ、仕方ない奴なのだ」
「全くなのだ。それにしても」
 張飛はだ。背中にあるものを背負っていた。それは。
「この葛籠かなり重いのだ」
「その葛籠何なの?」
「お弁当を入れているみたいなのだ。けれどそれでも重過ぎるのだ」
 こう劉備にも答える。
「食べ物にしてはなのだ」
「そうなの」
「けれど持って行くのだ」
 決断した張飛だった。
「とにかく袁紹のところに行くのだ」
「むっ、そういえばだ」
 ここで関羽がふとあることを思い出した。
「袁紹殿は今西の方に出兵していなかったか?」
「ああ、あれだよな」
 馬超も関羽のその言葉に応える。
「羌のだよな」
「そう、それにだ」
 このことを思い出したのである。
「だから今は西に行かないと会えないのではなかったのか?」
「あっ、それは大丈夫です」
 だがここで孔明が一同に話した。
「袁紹さんはもう冀州に戻っておられます」
「戦に勝ったのだな」
「はい、そうです」
 にこりと笑って趙雲の問いに頷く。
「西方は平定されました」
「早いな」
「確かに」
 皆それを聞いてそれぞれ話す。
「西に向かったのはこの前だというのに」
「もうなのか」
「ただ。兵はまだ西にあります」
 孔明はそれはだというのだ。
「戦には勝ちましたが完全な平定はまだですので」
「袁紹本人は冀州に戻っている」
「そういうことなのね」
「袁紹さんは戦だけしていればいいというわけではありませんので」
 孔明はこのことも指摘した。
「政治もありますので」
「政治か、そうだったな」
 関羽もその言葉に頷いた。
「あの方はただ戦をしていればいいのではなかったな」
「ですから。今はです」
「とりあえず冀州にいるのですね」
 劉備はこのことを確認した。
「それなら」
「はい。主だった方々を連れて戻っておられます」
 孔明は劉備にも話した。
「ですから今行けば御会いできますよ」
「何かと癖がある人だけれどな」
 馬超はかつてのことを思い出して述べた。
「それでも悪い人じゃないしな」
「そうだな。会わないと何もできぬしな」
 関羽も話す。
「まずは冀州に行こう」
「はい。では行きましょう」
 最後に劉備が言ってだ。そのうえで神楽を入れたいつもの面々で冀州に向かう。しかし実はだ。彼女達だけがいるのではなかった。


第二十四話   完


                       2010・8・11



ようやく剣の在り処が。
美姫 「劉備たちは袁紹の所へと向かったわね」
すんなりと返してくれるとは思わないけれどな。
美姫 「その辺りはどうなるかしらね」
しかし、オロチか。この先、何が起こるやら。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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