『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                              第三十三話  孫策、山越を討つのこと

 孫策は建業を発った。その時にだ。
「じゃあ留守番御願いね」
「はい」
「それでは」 
 張昭と張紘が彼女の言葉に応える。
「留守はお任せ下さい」
「ではこれよりですね」
「ええ、今度こそ山越を討つわ」
 孫策のその顔が強いものになる。
「そして山越を討てばね」
「その功績で朝廷より交州の牧の座も貰えるでしょう」
「ですから」
「ええ、何としてもね。後は」
 孫策は今度は孫尚香を見る。彼女は二張の間にいる。
「小蓮も御願いね」
「はい、無論です」
「小蓮様は我々が御護りします」
「何で私も出陣しないのよ」
 孫尚香はこのことが不満で仕方がないらしく腕を組んでむくれた顔になっている。
「私だって孫家の娘なのに」
「小蓮様、我儘はいけません」
「その通りです」
 早速二人に怒られる。
「留守役は大事なのですよ」
「それにです。御政務もありますし」
「わかってるわよ」
 むくれた顔のまま返す孫尚香だった。
「そんなことは」
「はい、それでしたら」
「早速政務に」
「ええっ、もうなの!?」
 孫尚香は政務と聞いて困った顔になった。
「私政務嫌いなのに」
「ですから孫家の方ならです」
「御政務は必ずしなければなりません」
「うう、何でこうなるのよ」
「ふふふ、大喬と小喬も残しておくから」
 二人も置くというのだった。
「それじゃあね」
「姉様、早く帰って来てね」
 孫尚香は長姉にこうも話した。
「御願いよ」
「わかってるわ。じゃあね」
「蓮華姉様もね」
 孫尚香は孫権に言うことも忘れていなかった。
「絶対によ」
「わかっているわ。それで孫尚香」
「何?」
「貴女も無茶をしたら駄目よ」
 孫権はこう妹に言った。
「いつもみたいにお転婆は慎みなさい」
「うう、姉様までそう言うの」
「遊びたい年頃なのはわかるけれど」
 こうも言う次姉だった。
「それでもよ。出来るだけ静かにしていなさい」
「わかったわよ。じゃあ弓の稽古だけにしておくわ」
「政務も忘れないようにね」
「わかってるわよ」
「まあ蓮華、戒めはこれ位にしてね」
 孫策は孫権に顔を向けて微笑んで述べた。
「行きましょう」
「ええ、姉様」
 孫権は微笑んで姉の言葉に応えた。
「それでは」
「貴女も出陣は久し振りだったわね」
「あの時は母様がおられたけれど」
「懐かしいわね。その時が」
「はい。ですが今はです」
「私達がやるのよ」
 孫策がこう妹に返す。
「だからいざ」
「山越に」
 こう話してであった。孫策は軍を率いて南下する。川を船で下りそうしてだ。一路山越に向かうのだった。
 孫策に仕える主だった面々が揃っている。軍師はやはり彼女だった。
 周瑜はだ。船の甲板に出て行く先を見ている。そうして傍にいる陸遜に対して言うのであった。
「ねえ穏」
「はい。何でしょうか」
「今回の出陣こそはね」
「そうですよね。何とか山越をやっつけないといけませんよね」
「そうよ。一度の出陣で終わらせるわ」
 腕を組み前を見据えたまま言う周瑜だった。
「絶対にね」
「はい。それで飛翔さんと藍里さんにはずっと用意してもらいましたし」
「それに別の世界から来た面々もね」
 彼等の名前も出て来た。
「皆来てもらったしね」
「かなりの数の人達ですよ」
「ええ、彼等も頼りにしているわ」
 こう話すのだった。
「実際ね」
「ちょっと癖のある人達が多い気もしますけれど」
「どうも揚州に来る面々はその様だな」
 ここでこう言う周瑜だった。
「他の陣営に比べてな」
「何か董卓さんのところは壮絶みたいですね」
「そうだな。キム=カッファンとジョン=フーンの二人がな」
「それは恐ろしい恐怖政治を敷いているとか」
「その二人のせいで今董卓のところにいる他の世界から来た者達は地獄を見ているそうだが」
「私達のところとは全く違いますう」
 陸遜は穏やかな声だがそれでも言うのだった。
「私達のところは」
「雪蓮はそういうことはしないからね」
「ですよね。蓮華様もとてもお優しい方ですし」
「そう、二人共心がいいから」
 孫姉妹は決して悪人ではないのだ。
「だからね」
「そうですよね。それでなんですけれど」
「うむ、山越に着いたらな」
「早速戦いですね」
「穏、策は考えているかしら」
 周瑜は陸遜に顔を向けて問う。
「それは」
「とりあえずは幾つかは」
「そう。後は飛翔と藍里の話を聞いてね」
「そうしましょう」
 こう話をしながら南下していく。その時別の船中ではだ。
 周泰がだ。あたふたと狼狽していた。何故かというと。
「あ、あの祭さん」
「そうです、あまりにもこれは」
 周泰だけでなく呂蒙もだ。あたふたとなっていた。
「飲み過ぎですよ」
「そうです。船の中なのに」
「船の中だからどうだというのじゃ」
 黄蓋は平然とした顔でその二人に返す。
「お酒ちゃんはわしに飲んで欲しいと言っておるのじゃぞ」
「いえ、お酒はそんなこと言いませんよ」
「そうですよ」
 あくまでこう言う二人だった。
「ですから。船酔いしますから」
「あまり飲まれては」
「御主等それでも揚州の者なのか?」
 黄蓋は眉を顰めさせて二人に問うた。
「船酔いを気にするなどとは」
「祭様はそれでよくても」
「あの、他の方々は」
「あっ、俺?」
「俺か?」
 漂とダックもいた。黄蓋と同じ席に座ってだ。そのうえで話している。
「俺がどうしたんだ?」
「別に何ともないぜ」
 そしてだ。他の面々もいた。
 赤髪の女にモヒカンの黒い肌の大男、茶色の髪をオールバックにした巨漢、白い髪の青年、金髪の眼帯の男、そして辮髪の男だった。
「ヴァネッサ、セス、マキシマ、ケーダッシュ、ラモン、そして鱗じゃったな」
「ええ、そうよ」
 まずは赤髪の女ヴァネッサが応えた。
「宜しくね」
「御主等気に入ったぞ」
 黄蓋は酒を飲み続けながら上機嫌で話す。
「酒と腕の強い者は好きじゃ」
「そうか」
 鱗が応える。彼は辮髪だ。
「それは何よりだ」
「そういうこっちゃ。それでは」
「ああ」
 セスが応える。
「今度の戦いだな」
「頼むぞ。わし等は先陣じゃ」
「はい、祭様がです」
「そして第二陣はです」
 周泰と呂蒙また話す。
「私達が務めます」
「宜しく御願いします」
「頼んだぞ。さて、そういえばじゃ」
 ここでまた言う黄蓋だった。
「藍里はかなり残念がっていたそうじゃな」
「はい、妹さんに出会えなくて」
「それで」
 それが理由だというのだった。
「そのことをかなり残念がっているそうで」
「今はどうかわかりませんが」
「気持ちはわかるのう」
 黄蓋は諸葛勤のその気持ちを汲み取って述べた。
「しかしじゃ」
「はい、それでもです」
「また機会がありますから」
「諸葛亮じゃったな」
 ここで黄蓋はその妹の名前を出した。
「まだ子供じゃがかなりの傑物じゃったな」
「冥琳様が認められる程の方です」
「そこまでの方だと」
「それだけの人材、揚州に欲しいのう」
 黄蓋は酒を飲みながら話した。
「今は各地を歩き回っているそうじゃな」
「はい、袁紹殿の次は曹操殿のところに」
「そして袁術殿のところにと」
「ややこしい面子ばかりじゃな」
 黄蓋はその顔触れを聞いてふとした感じで述べた。
「特に袁紹に曹操はのう」
「はい、どちらも人間的に危ういものがありますね」
「特に袁紹殿は」
 呂蒙は袁紹の方を問題視していた。
「実力はあるのに妙に劣等感が強く。歪な行動をさせています」
「いや、曹操もあれで危ういぞ」
 黄蓋は曹操も同じだけだというのだった。
「宦官の家の娘ということを気にし過ぎて気負い過ぎておる」
「確かに。そういえば」
「曹操殿もですね」
 二人は黄蓋のその言葉に気付いた。そしてだった。
「そこが孫策様と違いますね」
「安定感のなさもあるかと」
「あの二人とは距離を置きたいのう」
 これが黄蓋の本音だった。
「袁術とは国境の問題があるしのう」
「はい、それも解決しないと」
「いけませんし」
「全く。世間はややこしい話ばかりじゃ」
 黄蓋はまた言った。
「全く以てな。そしてじゃ」
「そして?」
「そしてといいますと」
「今からそのややこしい話を一つ終わらせることになるな」
 こう言ったのだった。
「今からのう」
「そうですね。山越をですね」
「討伐して」
「うむ、我等の長年の仇敵よ」
 揚州の面々にとってはまさにそうであった。
「先代孫堅様の時からのう」
「大殿の御無念、ここで」
「是非晴らしましょう」
「あれはわしも不覚じゃった」
 黄蓋の顔が怒りで歪んだ。
「わしが御傍にいながら。石弓を防げなかった」
「いえ、あれは」
「私達も」
 周泰と呂蒙もそのことには申し訳のない顔になった。
「迂闊でした」
「まさか山越が石弓を持っていたなど」
「それじゃ」
 黄蓋は呂蒙のその石弓のことについて話した。
「前から妙に思っておったのじゃが」
「そのことですね」
「そうじゃ。亞莎よ」
「はい」
「山越に石弓はあったかのう」
「いえ、ありません」
 言葉は現在形であった。
「今もです」
「そうじゃな。山越にはそうしたものはない」
「我が国にはありますが」
「だとすればあれは何じゃ」
 黄蓋は酒を飲むその手を止めて言うのだった。
「あの石弓は。そして」
「そして?」
「そしてといいますと」
「それを放ったのは誰じゃ」
 こう言うのであった。
「しかも石弓には毒まであったのじゃぞ」
「はい、大殿は石で受けた傷から毒も受けていました」
「それもかなり強い毒でした」
「わしは山越とは幾度も戦ってきた」
 伊達に古くから孫家に仕えてきているわけではないのだ。蓋は孫家の宿将としてだ。その先代の孫堅の頃から戦場にいたのである。
「しかし毒を使ったことはなかった」
「一度もですか」
「では」
「山越ではないじゃろうな」
 これが黄蓋の見立てだった。
「孫堅様を殺めたのは」
「では一体」
「誰なのでしょうか」
「それはわからん」
 黄蓋も首を捻ることだった。
「しかしじゃ」
「はい、山越はですね」
「我等の軍門に下しましょう」
「そしてあの者達もわし等の民とするぞ」
「はい、そして交州も手に入れましょう」
「そちらは朝廷が認めてくれますし」
 ほぼ規定事項だった。山越を倒せばだ。その褒美として交州のことも任せられるということがもう決まっていたのである。袁紹の時と同じだ。
「それだからこそ」
「何としても今回こそ」
「さて、雪蓮様の戦はお見事なものじゃ」
 その能力は既に天下に知られていることだった。
「わし等もやろうぞ」
「ああ」
 ケイダッシュが黄蓋の言葉に応えた。
「わかっている。やらせてもらう」
「うむ、御主等にも期待しておる」
 黄蓋は彼等のその顔を見て笑顔になった。
「是非やろうぞ」
「ああ、やらせてもらう」
「当然俺もだ」
 マキシムも言ってきた。
「食べさせてもらっているだけはな」
「はい、皆で頑張りましょう」
「是非共ですよね」
 周泰と呂蒙は彼等の言葉に明るさを取り戻した。
「そして平和な国をですね」
「築いて」
「いい娘達ね」
 ヴァネッサはそんな彼女達の言葉に目を細めさせた。
「真面目で純真で。気に入ったわ」
「い、いえ私達はそんな」
「別に」
 褒められて顔を赤らめさせる二人だった。
「ただ。前から思っているだけで」
「深くは」
「それが純真だというのよ」
 ヴァネッサの目は細まったままである。
「その清らかさ大事にしておいてね」
「大事にですか」
「そうなんですか」
 二人は顔を赤らめさせたままだった。そんな話をしてだ。
 遂に山越に着いた。すぐに全軍船を下りる。
 そしてだ。孫策は全軍の先頭に立って話した。
「さて、それじゃあすぐにね」
「はい」
 甘寧が孫策の言葉に応える。
「ではすぐに」
「そうよ、一気に本拠地を攻撃するわよ」
 実に孫策らしい言葉だった。
「いいわね」
「はい、ところで姉様」
 孫権が姉に言う。
「飛翔と藍里ですが」
「前線にいるのね」
「砦にいます」
 いるのはそこだというのだ。
「二人はどうされますか」
「そうね。二人にはね」
「はい」
「蓮華、貴女が向かって」
 そうしてくれというのである。
「それでね」
「二人と共になのね」
「別働隊を率いて山越を攻撃して」
 これが孫策の作戦だった。
「私は主力を率いて向かうから」
「二手に別れて同時に」
「ええ、そうよね冥琳」
 孫策はここで周瑜に顔を向けた。
「今回の作戦は」
「はい、まずは孫策様が敵の本拠地を攻撃されます」
「その後は」
 孫権はその周瑜に問うた。
「どうするの?私の部隊は」
「それによって本拠地を追い出された山越の軍に攻撃を仕掛けます」
「砦から出てなのね」
「そうします。これは敵が本拠地に止まっている場合です」
 その場合というのだ。
「そしてうって出た場合はですが」
「その場合は策は二つあります」
 今度は陸遜が話すのだった。
「まず孫策様の方に敵が来た時はです」
「私が攻めるのね」
「はい、そうです」
 そうであると孫権に話す陸遜だった。
「そして蓮華様のおられる砦に攻め寄せた場合はです」
「私が攻めるのよ」
 孫策が微笑んで話す。
「そうするから」
「わかりました」
 孫権は姉のその言葉に頷いた。
「では私はすぐに砦に」
「貴女には甘寧に呂蒙を預けるわね」
 その二人だというのだ。
「主力は私が率いるわ」
「はい、それでは」
「あと別の世界から来た面々はね」
 孫策は彼女達のことも忘れていなかった。
「ダックとタン、それにビッグベアに」
「あの三人ですか」
「三人を預けておくわ」
 こう話すのだった。
「それでどうかしら」
「はい、それでは」
 孫権は右手を月に、左手を日にして打ち合わせて応えた。
「その様に」
「これは難しい作戦ですけれど」
 陸遜は実に呑気な口調で話す。
「けれどお二人ならできますよお」
「それはどうしてなの?」
「だって雪蓮様と蓮華様は御姉妹じゃないですか」
 彼女が話すのはこのことからだった。
「それもとても仲のいい」
「そうね。蓮華は少し堅苦しいけれど」
「姉様は少し奔放に過ぎます」
 そうは言っても微笑み合う二人だった。
「それでもね。私も蓮華は好きよ」
「私も。雪蓮姉様は」
「だからですよ。息がぴったり合ってますから」
 陸遜はこのことを指摘した。
「御二人のその息が合っていることがこの作戦の秘訣なのですよ」
「そういうことです」
 周瑜も言う。
「蓮華様、別働隊はお任せしました」
「わかったわ」
 孫権は周瑜のその言葉に頷いた。こうしてだった。
 孫策は主力を率いて山越の本拠地に向かう。そして孫権は別働隊を率いて太史慈達が築いた敵の本拠地の傍にある砦に入った。そしてそこでだった。
「久し振りね、二人共」
「はい、蓮華様」
「お久しゅうございます」
 その太史慈と諸葛勤が孫権に応える。三人共笑顔だ。
「策のことは御聞きしております」
「ではその様に」
「はい、それで行きましょう」
 孫権に同行している呂蒙が二人に話す。
「そして勝ちましょう」
「ううん、亞莎はいつも通り真面目ね」
「そうね」
「そ、そうですか?」
「その真面目さがね」
「いいのよ」
 太史慈と諸葛勤も彼女のその性格には好意を持っていた。
「その真面目さと賢さがあればね」
「きっと素晴しい軍師になるわ」
「いえ、私はそんな」
 謙遜して顔を赤らめさせ呂蒙だった。
「とても。そんな軍師には」
「そういう性格がいいのよね」
「そうそう」
 こう砦の中で話すのだった。砦は木で作られていて堅固である。そこに彼女達や兵士達がいていい意味での活気に満ちていた。
 彼女達はこんな話をしてだ。戦の用意をしていた。そこにだ。
「来たのね」
「はい」
「来ました」 
 甘寧と太史慈が孫権に応える。
「敵の数三万」
「それだけです」
「そう、わかったわ」
 孫権は二人の話を聞いて頷いた。
「山越の兵は四万、そのうちの三万ね」
「対する我等は一万です」
「それで砦にいますが」
「守るには充分ね」
 孫権はこう決断を下した。
「そしてその間にね」
「はい、雪蓮様が来られて」
「そうして」
「作戦通りね。それで行きましょう」
「はい、それじゃあ僕達もです」
「やらせてもらうぜ」
 閉丸と骸羅が来て言う。
「山越は確かに手強いですけれど」
「俺の力見せてやるぜ」
「ええ、御願いね」
 孫権は彼等にも笑顔を見せて言った。
「この戦い、負ける訳にはいかないから」
「ええ、揚州の人達の為にもですね」
「絶対だな」
「そう。そして降伏させた山越の民はね」
 孫権も孫策も彼等の戦後を考えているのだ。
「私達の民にするの」
「つまり取り込むってんだな」
「そういうことじゃな」
 今度はダックとタンが言ってきた。
「皆殺しにするとかじゃねえんだな」
「そうなのね」
「それはしないわ」
 孫権はそうしたことは否定したのだった。
「彼等の揚州への侵攻を止めて私達の民を増やしたいだけだから」
「それは普通だしな」
「そうじゃな」
 この時代ではということだった。ダック達もそれは理解していた。
 そしてであった。そのうえでだ。
「よし、じゃあ姫様よ」
「孫権でいいわ」
 こうビッグベアに返す。
「敵が来たからお願いね」
「ああ、派手に暴れさせてもらうぜ」
 彼等は城門を精鋭達と共に出た。そうして門で敵を待ち受ける。
 山越の兵達が殺到して来る。すぐに砦を囲む。
「来たわね」
「はい」
「はじまりですね」
「全軍迎撃用意!」
 孫権も剣を抜いた。そうしてだった。
 自ら砦の壁の上に立ちだ。敵を迎え撃つ。
 敵兵は弓を放ち壁に梯子をかけようとする。しかしそこにだ。
「レディーーーーー、ゴーーーーー!!」
 ビッグベアが最初に突撃を浴びせた。それで敵兵達が吹き飛ぶ。
 続いてダックとタンがだ。その拳を振るう。
「よし!暴れるぜ!」
「わしも身体を動かすとしようかのう」
 回転して体当たりし前に出て拳を放つ。彼等も山越の者達を倒していく。
 そこに閉丸と骸羅も来る。彼等の戦闘力もかなりのものだ。
 その思わぬ攻撃を受けてだ。山越の者達も狼狽する。
「な、何だこの連中は!」
「かなり強いぞ!」
「まず連中を何とかしろ!」
「ああ、今行く!」
 こんな話をして向かう。しかしだった。
 彼等は強い。まさに一騎当千だった。そしてそのうえだった。
「今よ」
「はい!」
「それでは!」
 孫権が指示を下す。それによってだ。
 砦の壁に陣する孫権軍が一斉に弓矢を浴びせる。それが山越軍を襲う。まるで雨の如き攻撃を受けてだ。彼等は浮き足立った。
「糞っ、漢の奴等!」
「今度はとりわけ強いな!」
「そう、強いからこそよ」
 孫権はその彼等を見下ろしながら言うのだった。
「勝たせてもらうわよ」
「敵将はあれか!」
「あの青い目の女だ!」
 山越達も孫権に気付いた。
「あの女を射ろ!」
「そして倒せ!」
「そうはさせん!」
 弓矢が孫権に向かって放たれる。しかしであった。
 その彼女の前に甘寧が出てだ。その手に持っている剣で弓矢を全て叩き落す。見事な剣の腕である。
「蓮華様には傷一つつけさせぬ!」
「何っ、またか!」
「あの女将軍、あの!」
 ここで山越兵の一人が言う。
「江南の鮫か!」
「甘寧か!」
「そうだ、私が甘寧だ!」
 自らもこう名乗る。
「この剣を恐れぬならば来い!」
「抜かせ、今こそだ!」
「その首貰い受ける!」
「絶対にだ!」
 こう言って一斉に壁に梯子をかけ登ろうとする。しかしであった。
 呂蒙がだ。遠くを見て言った。
「来ました」
「姉上ね」
「はい、来られました」
 こう孫権に言うのだった。
「この戦い、これで」
「ええ、勝てるわね」
「ここまでは手筈通りです」
 呂蒙は冷静に述べた。
「問題はこれからですが」
「姉上ね」
「雪蓮様は見事勝たれます」
 それは呂蒙も確信していた。
「ただ。勝ってからですが」
「そういうことなの」
「はい、敵の本拠地をどうするかですね」
「ええ、それからのことも考えているわよね」
「はい、既に」
「ならいいわ」
 孫権は呂蒙のその言葉に頷いた。そのうえで、であった。
 戦い続ける。そしてそこにだ。
 攻める山越軍の後方からだ。鬨の声があがった。
「さあ、行くわよ!」
 孫策が軍の先頭に立ち指示を出す。
「この山を登ってね。一気に討つわよ!」
「了解です!」
「それでは!」
「全軍突撃!」
 剣を抜いて兵達に命じる。
「今こそ我等に勝利を!」
「それにしても雪蓮様」
 陸遜が孫策のところに来て話してきた。
「山越は相変わらず凄い山ばかりですね」
「そうね。それがねえ」
 孫策も苦笑いになる。彼等の周りは緑の木々ばかりである。その山の中を駆け登っているのである。肉体的にかなり辛い戦いであるのだ。
「山越との戦いでは厄介なのよね」
「そうですよね。けれど今回は」
「ええ。別の世界の面子が来てるしね」
「あの人達の強さはかなりですう」
 陸遜はにこにことして話す。
「それにまた新しい人材が来ましたし」
「そうね。我が軍も人材豊富になったわ」
 孫策はこのことを素直に喜んでいた。
「ただね」
「ただ?」
「妙と言えば妙よね、やっぱり」
 こうも言うのだった。
「ああして色々な面子が私達の世界に来るっていうのはね」
「そうですよねえ。それはどうしても気になりますう」
「まあそれは後で考えてもいいしね」
「はい。じゃあ今は」
「冥琳にも伝えて」
 剣を手に言う。
「ここは全軍でね」
「はい、攻撃ですね」
「そうよ。私達もね」
 こうして自ら軍の先頭に立ち戦うのだった。そうしてであった。
 砦を囲む三万の山越軍を攻撃する。そこには十三やあかりもいた。
「お嬢、無理するなや!」
「アホ!それはこっちの台詞や!」
 こう十三に返すあかりだった。
「十三、御前死んだら怒るからな!」
「死んだら怒るって」
 十三はあかりのその言葉に首を捻って言う。
「死んだら怒られてもなあ」
「つまり絶対に死ぬなってことや」
「言いたいことはそれか」
「そや」
 その通りだというのである。
「わかったな」
「ああ、それやったらな」
 十三もわかるというのだ。
「わかるわ」
「そや。しかしこの戦い」
「何かあるか、この戦い」
「今度はおかしなもんは感じへんな」
 陰陽師としての言葉だった。
「別にな」
「それはないか」
「ああ、ない」
 実際にないと言う。
「ただの異民族との戦いや」
「けれど国自体におかしなものは感じるか」
「この世界の漢にはや」
 そうだというのである。
「びんびん感じるで」
「びんびんか」
「がんがんでもええで」
 それでもとにかくだ。
「感じて仕方ないわ」
「刹那がここにも来てるんじゃねえだろうな」
 漂がここで言った。
「それってまずいだろ」
「刹那だけちゃうかもな」
 あかりは目を顰めさせながら述べた。
「他にもうじゃうじゃ来てるかも知れんで」
「じゃあここでの戦いは」
「かなり厄介なものになるな」
「そやろな」
 あかりは十三と漂のその言葉に頷いた。
「ここは気合入れていかなあかんな」
「それでまずは」
「この連中に勝つことだな」
「そや。あの孫策さんな」
 あかりは孫策についても話した。
「きっとこの世界で大きな役割を担うで」
「楓達みたいにかあ」
「ああしたことをしてくれるってのか」
「多分な。あの人は絶対に守らなあかん」
 あかりは決意も見せた。
「ほなそういう訳でや」
「ああ、やるか」
「女の子の為なら一肌も二肌もってな」
 こうした話をしながらだ。彼等も山越の兵達を倒していく。その彼等の活躍もあってだ。孫策軍は山越の軍勢を次第に押してきていた。
 そしてだ。その中でだった。黄蓋が弓矢を放つ。
「わしの弓、避けられるものなら避けてみよ!」
 こう言いながら攻撃を仕掛けてだった。
 山越の兵達を次々に倒していく。そうして彼等をだ。遂にだった。
 本拠地まで押し返した。孫策はそれを見てまた言う。
「じゃあ今度はね」
「はい、本拠地まで進軍ですう」
 それだと話す陸遜だった。
「皆で行きましょう」
「そうね。そしてね」
「はい」
『本拠地を包囲したら次の策ね」
「はい、それで終わりですよ」
 陸遜の言葉はここでもおっとりとして癒しを感じさせるものだった。
「ここの戦いは」
「戦いが早く済むのはいいことじゃ」
 黄蓋はこのことはいいとした。
「それだけ無益な血が流れずに済む」
「はい、そうですよね」
 周泰も黄蓋のその言葉に頷く。
「ただ」
「ただ。何じゃ」
「本拠地を包囲してもそう簡単に終わるでしょうか」:
 周泰はこう言って顔に不安なものを見せた。
「果たして」
「心配無用だ」
 周瑜が周泰に対して告げた。
「そこからも既に考えている」
「そうなんですか」
「戦いは次で確実に終わる」
 断言であった。
「だからだ。行くぞ」
「わかりました」
 こう話してであった。孫策の軍と孫権の軍は合流してそのうえで山越の本拠地である城を取り囲んだ。そうしてそのうえで、であった。
 孫策が黄蓋に対して話す。
「それじゃあね」
「この弓矢をですな」
「ええ、御願いするわ」
 微笑んで彼女に言うのだった。
「敵のお城の中にね」
「打ち込みそれで」
「それでいいわ」
「わかりました。では」
 黄蓋は主の言葉に頷いてそのうえで文がくくられたその弓を城の中に放った。そうして包囲して三日後だった。山越の方から使者が来てだった。
「宜しければです。我々を」
「ええ、いいわよ」
 孫策はその使者と会ってだ。穏やかな笑顔で話すのだった。彼女が今いる本陣には将や他の世界からの者達が揃っていた。
 その彼等を左右に置いてだ。孫策は使者に応えていた。
 そしてだ。満足している顔で使者の話を聞いていた。
「孫策様の軍の末席に加えて下さい」
「条件は読んだわね」
「はい」
 使者は神妙な態度で答えた。
「読ませて頂きました」
「降伏するなら命は奪わないわ」
 まずはこのことだった。
「そして貴女達の風俗文化は一切禁じない」
「読ませてもらいました、それも」
「そしてね」
 孫策はさらに話した。
「貴方達は今度揚州に入り」
「そうですね」
「そして私が治める中に入れられるけれど」
「領地や財産もそのままだと」
「奴隷は解放してもらうけれどね」 
 それはだというのだった。
「私そういうの嫌いだから」
「承知しています」
「他の財産には一切手をつけないわ」
 そしてこうも話した。
「保障するわ」
「では」
「ええ、降伏を歓迎するわ」
 ここでまた微笑んでみせる孫策だった。
「宜しくね」
「御願いします」
 こうしてだった。山越族は孫策の陣営に加わった。孫策は父孫堅以来の宿願である彼等を下すことをだ。遂に果たしたのであった。
 戦後処理も終え建業に戻る。その時だった。
 周泰がだ。周瑜に対して尋ねた。
「あの」
「あのことか」
「はい、あの頑固な山越がです」
 周泰はその山越が実に容易に下ったことが信じられなかったのだ。それで今も周瑜に対して尋ねるのだった。どうしてもわからずにだ。
「ああも容易に」
「政だ」
「政といいますと」
「戦もまた政なのだ」
 こう話す周瑜だった。
「ここではそれを使ったのだ」
「といいますと」
「つまりだ。戦に勝ったな」
「はい」
「そしてそのうえで本拠地の城を取り囲んだ」
 それが第二の策のはじまりだったのだ。
「そのうえで敵に心理的圧迫を加えた」
「そして」
「そうだ、敗れた敵にそうしてだ」
 追い詰めたというのだ。
「これで敵は追い詰められるな」
「そうですね。困り果ててしまいますよね」
 周泰もこのことはすぐにわかる。
「本当に」
「ただでさえ飛翔と藍里が以前から戦の用意をしていたしな」
「あれも策のうちだったのですか」
「攻める動きを見せて敵の心を働かせたのだ」
「働かせた」
「休ませずにだ。それで疲れさせたのだ」
 そうしていたと。周瑜はまた話した。
「そこまでしてだ」
「そうして」
「寛大な条件を出す。これで話を決めたのだ」
「つまり私達は今回は山越の軍を攻めたんじゃないんですね」
「心を攻めたのだ」
 周瑜は断言した。
「それが我々の策だったのだ」
「成程、随分と深い策だったんですね」
「そういうことだ。我々はそれで勝った」
「ううん、深い戦いだったんですね」
「その通りだ。戦で兵や城を攻めるのはだ」
「はい」
「それは下策だ」  
 まさに孫子であった。
「しかし人を攻めるのはだ」
「上策なんですね」
「人の心を攻めることはだ」
 まさにそれだというのである。
「そういうことだ」
「わかりました。物凄い勉強になりました」
 周泰は目を輝かせながら話した。
「とても」
「そうか。それは何よりだ」
 周瑜も周泰のその言葉に頷く。そうしてだった。
 そのうえでだ。こう彼女に告げるのだった。
「いいか」
「はいっ」
「学ぶべきことは多い」
 軍師らしく言う言葉はこれであった。
「そしてその全てを身に着けんとすることだ」
「全てをですか」
「そう思わなければだ」
 言葉は厳しいものだった。
「学び取れるものではないのだ」
「それが学問なのですね」
「貴様の術も同じだと思うが」
 対術に秀でた彼女への言葉として相応しいものだった。
「相関枯れレればどうか」
「あっ、そういうころなんです」
 そう言われてだった。納得した顔になる周泰だった。
 そして周瑜にだ。こう話した。
「じゃあ私」
「うむ。何だ」
「頑張ります」
 まずはそこからだった。
「本当に」
「そしてだ」
 さらに言う周瑜だった。
「より高みを目指せ」
「これまで以上の力をですね」
「備えるのだ。そして孫家の柱石となれ」
「わかしました。では」
「さて、それではだ」
 ここで周瑜の言葉が変わった。
「中に入ろう」
「はい、中にですね」
「そうだ、中に入ってだ」
 そうしてだというのだ。
「飲むとしよう」
「お酒ですね」
「バターコーンもあるぞ」
 それもあるというのだ。
「それもな」
「ダックさんあれがお好きですよね」
「そうだな。中々おつなものだ」
「お酒と合いますしね」
「ではな」
「わかりました」
 こう話してだった。彼女達も船の中に入って勝利の美酒を楽しむのであった。そうしてそのうえでだった。凱旋を果たしたのである。  
 孫策が勝利を収めたその時だった。華陀はだ。
 金髪のオールバックに白い着物と赤い袴の男、それに黄金のヨロイに赤いマントにズボンの紫の髪の口髭の大男と会っていた。そうしてだった。
「俺達と共に来てくれるか」
「うむ」
「そうさせてもらう」
 二人はこう彼に返した。
「二言はない」
「我々も言葉は守る」
「そうか、それは有り難い」
 華陀は二人のその言葉に顔を明るくさせた。
「それなら共に旅をしよう」
「まさか。私の腕の傷を癒してくれるとはな」
「私の足の傷もだ」
 二人はこのことに感謝しているのだった。
「その恩だ」
「それを果たさせてもらう」
「何、当然のことだ」
 華陀はここでも笑顔だった。
「俺は医者だからな」
「そうか。医者だったのか」
「あまりそうは見えないが」
「そうか。まあそうかもな」
 華陀もこのことは幾分か自覚しているようだった。そしてだった。
 自分でだ。こんなことも話した。
「旅もしているしな」
「旅か」
「それで身体も鍛えられているか」
「そうだな。長い間国中を歩いてきたしな」
 華陀はさらに話す。
「それで鍛えられたもした。後独自の医術を自分でもやっているしな」
「それでか」
「それで医者とは思えぬ身体をしているのか」
「そういうことさ。それでだが」
 華陀はここで話題を変えてきた。
「ギース=ハワード」
「うむ」
「ウォルフガング=クラウザー」
「そうだ」
 二人の名をそれぞれ言った。二人もそれに応えた。
「あんた達も俺達と共にこの国を救ってくれるな」
「そのことに興味はない」
「私もだ」 
 それはだという彼等だった。
「しかしだ」
「恩は受けた」
 それはだとも話す。
「ならばだ。この恩」
「必ず最後まで果たさせてもらおう」
「悪いな。じゃああいつ等と合流するか」
 華陀は微笑で述べた。
「今からな」
「その者達か」
「話をしていた」
「ああ、その二人だ」
 華陀の言葉はさらに明るいものになった。
「自分達から来るかもな」
「自分達からか」
「そうなのか」
「気が早い連中だからな。むっ」
 こう言った途端にだった。
 華陀は何かを察した顔になってだ。東の草原に目をやった。
 するとだ。そこにだ。
「ダーリン、そこにいたのね」
「二人も一緒ね」
 その彼等が来た。その姿は。
 ギースとクラウザーをして身構えさせるものがあった。そうしてそのうえでそれぞれ言うのであった。
「怪物か!?」
「我々を取って食うというのか」
「あら、そんな訳ないじゃない」
「そうよ」
 その怪物達こと貂蝉と卑弥呼が言い返す。その巨大な姿でだ。
「こんな乙女を捕まえて」
「怪物だなんて」
「人間なのか?」
「違うようにしか見えないが」
 こう言ってだった。二人は警戒を緩めない。そうしてそのうえで、である。身構えたままでそのうえで華陀に対して問うのであった。
「この者達か」
「その二人というのは」
「ああ、そうだが」 
 華陀の返答だけが素っ気無い。
「何かおかしいか?」
「おかしいどころで済むものか」
「ギース=ハワード」
 クラウザーは彼のそのフルネームを口にしてみせた。
「この場だけは貴様に同意する」
「そうか」
「貴様との因縁は忘れた訳ではない」
 二人は腹違いの兄弟であるのだ。その因縁はかなり根深いものがある。
「しかし今だけはだ」
「そうだな。力を合わせなければだ」
「この怪物達は倒せはしないな」
「その通りだ」
 こう話してであった。彼等に向かおうとする。しかしであった。
 貂蝉と卑弥呼の目が光った。それだけで。
「むっ!?」
「何っ!?」
「悪いけれどね」
「動きを止めさせてもらったわよ」
 怪物達の言葉だ。
「話聞いてもらいたいしね」
「だからいいかしら」
「くっ、妖術の類か」
「やはり人間ではないか」
 どうしてもこう考える二人であった。
「しかし。それでもだ」
「我々の力を侮るな」
「だから何もしないわよ」
「むしろ力を貸して欲しいのよ」
 意固地になる二人への怪物達の言葉だ。
「あのね、貴方達の力はね」
「この世界を救うものなのよ」
「それは先程華陀からある程度聞いたが」
「それでもだ」
 信じられなかった。とてもだ。
「くっ、来るならばだ」
「何としてもこの妖術を破ってみせようぞ」
 二人の全身を気が包み込む。それを見た貂蝉と卑弥呼もであった。
「あら、凄い力」
「何か濡れてきたわ」
 身体をくねくねとさせながらの言葉だった。
「流石はサウスタウンの帝王ね」
「欧州の影の支配者ね」
「けれど私達もね」
「尋常じゃないわよ」
 こう言って戦おうとする。しかしであった。
「ああ、待ってくれ」
 ここで華陀が言うのであった。
「どっちもな」
「あら、ダーリン」
「何かあったの?」
「また一人来たみたいだぞ」
 こう双方に言うのである。
「またな」
「あら、本当」
「確かにね」
 二人は地平線の遥か彼方を見て述べた。そこに何かを見ていたのである。
「スキンヘッドにサングラスのおのこね」
「ええ、間違いないわ」
「スキンヘッドにサングラス」
「というとだ」
 ギースとクラウザーはそれだけでわかった。
「ミスタービッグか」
「あの男か」
「知っているのか」
 華陀がまだ動けない二人に対して尋ねた。
「その男」
「一応はな」
「知らない訳ではない」
 憮然とした顔で返す二人だった。
「あの男もか」
「この世界に来ていたのか」
「こっちに来てるわね」
「そうね、それなら」
 貂蝉と卑弥呼は楽しそうな声をあげて。そうしてだった。
 跳躍した。まさに一気であった。
「ああしたおのこもね」
「いいわよね」
「馬鹿な、あの跳躍は」
「百メートルは跳んだぞ」
 ギースとクラウザーはこのことにも驚かされた。
「やはりあの二人」
「人間ではないのか」
「いや、人間だぞ」
 華陀だけがそう思っていた。
「れっきとしたな」
「そうなのか?」
「私にはそうは思えないが」
「ちゃんと目が二つあって鼻もあるだろ」
 華陀はこうした当たり前のことを話す。
「耳も二つに口が二つ。手足は二本ずつちゃんと身体から生えてるじゃないか」
「私が言っているのはだ」
「あの身体能力なのだが」
「ああ、あれな」
 本当に何でもない調子の言葉だった。
「ああいうこともあるだろ」
「それだけか」
「それだけで済ませるか」
「まあ大したことじゃない」
 あくまで華陀の主観での言葉である。
「気にするな」
「いや、気にするぞ」
「やはりな」
「いい奴等だ」
 こんなことも言う華陀だった。
「きっとこの世界をいい方向に導いてくれる」
「そうは思えないがな」
「全くだ」
 彼等はこう考えていた。その彼等はだ。ミスタービッグをその容姿と接吻でのしてしまいだ。そのうえで彼もまた仲間とした。彼等もまた仲間を増やしていたのだった。


第三十三話   完


                         2010・9・19



孫策たちは何とか勝利する事ができたみたいだな。
美姫 「みたいね。で、華陀たちの方は」
着々と仲間(?)を増やしつつ、旅を続けているな。
にしても、その顔ぶれは凄いな。
美姫 「本当よね。彼らを集め、どうするのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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