『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                           第四十一話  周喩、病が治るのこと

 建業に戻った孫策は早速戦後処理を書類のうえで進めていた。その時にであった。
「やれやれね」
「やれやれとは」
「何か?」
「戦はよかったけれど」
 こう今己の左右に控える張昭と張紘に対して言うのである。
「こうしたことはね」
「書のことですか」
「それをですか」
「ええ、それを」
 実際には木簡であるがそれでもこう話す二人だった。
「するのはどうもね」
「嫌というのですね」
「そう仰るのですね」
「そうよ」
 その通りだというのだった。
「全くね。好きになれないわ」
「またその様なことを仰って」
「全く」
 二人は主のその言葉にだ。すぐに怒った顔を見せた。そうしてそれからすぐにであった。その主に対して諌言をはじめたのである。
「雪蓮様、宜しいですか」
「仮にも牧たるものはです」
「戦だけでなく書もです」
「万全にしないと駄目なのです」
 こう言ってであった。そのうえでさらに言うのだった。
「ですからそうした仕事もです」
「行って下さい」
「わかってるわよ」
 一応はこう返す孫策だった。
「それはね」
「雪蓮様はやればできるのですから」
「そうした書の仕事もです」
 それもだとだ。二人は話していく。
「しっかりとです」
「やって下さい」
「ええ、わかってるわ」
 また返す孫策だった。
「まあこうした仕事はね」
「的確にです」
「宜しいですね」
「それで素早くやる」
 実際にその書く手は速い。曹操や袁紹のそれと比べても遜色はない。
「だからね」
「雪蓮様はどうして幼い頃からそう落ち着きがないのか」
「それが心配でなりません」 
 まだ言う二人だった。やはり小言が多い。
「これでは若し私達がいなくなれば」
「そう思うだけで不安になります」
「私は子供なの?」
 思わずこう言ってしまった孫策だった。
「それじゃあ」
「そうではありませんが」
「それは」
 一応このことは否定された。そしてであった。
 孫策のところに次から次に木簡が来た。彼女はそれを全て整理した。そしてそれが終わるとだ。自分の右手でその左肩を叩きながら言うのだった。
「今日の木簡はこれで終わりね」
「はい」
「これで全て終わりました」
 その通りだとだ。張昭と張紘は答えた。
「では後は」
「これからですが」
「ええ、そうだったわね」
 孫策は不機嫌なものから穏やかなものになっていた。
「また来たのね」
「はい、またあちらの世界から」
「何人かですが」
「本当に多くなってきたわね」
 孫策の顔がここで考えるものになった。
不自然なまでにね」
「確かに。どうも今は」
「何かと大勢になり過ぎです」
 二人の長老も主の今の言葉に頷く。
「これは何があるのでしょうか」
「やはり」
「とりあえず人材は多くなってるけれど」
 孫策はこの面から話した。
「ただ。腑に落ちないことではあるわね」
「全くです」
「ここまで続くと」
「他の世界から人が来るだけではなくて」
 孫策はまた言った、
「国も時代も違うしね」
「そして数も」
「多いとなれば」
「何もないじゃ信じられないわ」
 強い顔になっての言葉だった。
「本当にね。それで今度の人材だけれど」
「ではどうぞ」
「そちらに」
「蓮華と小蓮を呼んで」
 その二人をだというのだ。
「あの娘達と一緒に会うことにするわ」
「あの方々とですか」
「会われるのですね」
「あの娘達にも経験を積ませないとね」
 くすりと笑っての言葉だった。
「やっぱりね」
「蓮華様はいいのですが」
「ただ」
 ここでだった。二人の言葉が孫策に対するそれに近いものになった。そのうえでだった。
「小蓮様は」
「どうにも」
「私に似てるっていうのかしら」
「いえ、それ以上にです」
「やんちゃと言うのでしょうか、あの方は」
「そうね、やんちゃね」
 そうだとだ。答える孫策だった。
「あの娘はね」
「そうね。あの娘はね」
「これからが心配です」
「全く」
「まあそれは大丈夫よ」
 しかし孫策は楽しげに笑ってこう返した。
「小蓮もね」
「大丈夫とは」
「何故そう言えるのですか」
「筋がいいからよ」
 だからだというのだった。
「だからよ。安心していいのよ」
「だといいのですが」
「本当に」
 孫家に仕える二人の長老達は不安な顔のままだった。だがそれは心から心配している顔であった。まるで母親のような、そんなものだった。
 孫策はその二人から別れてだ。そうしてある場所に向った。そこは謁見の部屋だった。
 そこにはもう孫権と孫尚香がいた。二人はすぐに長姉に挨拶をしてきた。
「こんにちは、姉様」
「じゃあ会おうよ」
「ええ、そうするわよ」
 孫策は気さくに二人に返した。その後でまずは孫権に言うのだった。
「蓮華はねえ」
「私は?」
「生真面目よね」
 妹のそうした気質はよくわかっていた。
「本当にね」
「それが何か?」
「誰に似たのかしら」
 少し困ったような笑顔になっての言葉だった。
「そこは」
「それは」
「菊と桜のせいかしら」
 孫策は張昭と張紘の真名を出して話す。
「あの二人の教育の結果なのかしら」
「それは」
「まあ私がこんなので」
 孫策はさらに言うのだった。
「だから調和が取れていいのかも知れないけれどね」
「調和とは」
「だから調和よ」
 こう言うのであった。
「それが取れてね」
「仰る意味がわかりませんが」
「それで小蓮は」
 次妹の言葉には今は答えず末妹にも言った。
「やんちゃでね」
「私やんちゃなのよ」
「そうよ、やんちゃよ」
 その通りだというのであった。
「私達三人はこれでいいのかもね」
「いいのですか」
「そうなの?」
「三人揃っての孫姉妹ね」
 そしてこうしたことも言うのであった。
「本当にね」
「三人揃って、ですか」
「そうなのね」
「そうよ。逆に言えば誰か一人欠けても駄目ね」
 二人の妹達を見ていた。
「若し一人欠ければ」
「そうですね。私達は」
「寂しくて嫌になるわ」
「後の二人が悲しくなって仕方なくなってしまうわ」
 これが今の孫策の言葉だった。
「二人は。三人よりずっと寂しいから」
「はい、では我々は」
「何があっても一緒よね」
「そういうことよ。一緒にいないとね」
 その通りだと返す孫策だった。
「ずっとね」
「では姉様」
「もうすぐ来るよ」
「ええ」
 素直な笑顔になって妹達に応えた。
「そうね。来るわね」
「何でも結構癖の強い者達らしいけれど」
「どんな人達かな、今度は」
「前から思っていたけれど」
 孫策は己の席に着いた。そうしてである。
 そのうえで右に孫権、左に孫尚香がつく。それからまた二人に話すのだった。
「私達のところに来る人材はね」
「どうだというのですか」
「それで」
「癖のある人材が多いわよね」
 こう言うのだった。
「本当にね」
「そうですね。そういえば」
「他の勢力の人材はどうなのかしら」
「何か袁術のところは変わり者ばかりらしいわね」
 まずは彼女のところから話す孫策だった。
「変態みたいな」
「変態とは」
「そんな人材ばかりなのね」
「それで董卓のところは罪人が多いらしいし」
 その罪人達をだ。キムとジョンが締め上げているのがその董卓のところなのである。
「曹操や袁紹のところは色々らしいし」
「色々ですか」
「あっちは」
「劉備玄徳だったわね」
 彼女の名前も出て来た。
「確か」
「幽州のですね」
「あそこに張飛達もいるのよね」
「あっちは何か正統派らしいわね」
 そうだというのだった。彼女のところは。
「それでこっちは個性派ばかり」
「そういう巡り合わせでしょうか」
「それを考えると」
「そうかもね。けれど面白いわね」
 孫策は己の座で笑みを浮かべた。そしてであった。
「これも個性よね」
「我が陣営には我が陣営の個性ですか」
「そうなんだ」
「そうよ。それでだけれど」
 孫策はふと話を変えてきた。今度の話はだ。
「冥琳はどうなのかしら」
「冥琳ですか」
「今日は体調が悪いのね」
 こう孫権に対して問うた。
「そうなのね」
「はい、それで休んでいます」
「風邪でもひいたの?」
「そうらしいわね」
 こう妹に答える孫権だった。
「どうやらね」
「冥琳が風邪をひくなんて珍しいわね」
「そうよね、それはね」
 孫権もこのことには首を捻る。
「どうもね」
「まあそういうこともあるわ」
 だが孫策はこう返した。
「たまにはね」
「たまにはですか」
「ええ、そういうこともあるわ」
「風邪なら休めばいいですね」
「そうね。後でお医者さんを送りましょう」 
 こんな話の後でその人材に会う。今度来たのはだ。
 小柄で太った身体の僧侶だった。目は白くかなり独特な顔をしている。
 そしてドレッドヘアに緑の袖のない上着と白いズボンの明るい顔立ちの黒い肌の青年に髭の中年の男だ。それとだった。
 銀髪に剣を、ただし紫の輝きを持つ服を着た少女もいた。この四人だった。
 彼等はそれぞれ名乗ってきた。
「陀流磨という」
「ボブ=ウィルソンといいます」
「リチャード=マイヤーだ」
 まずは三人が名乗った。
「ここに来たのじゃが」
「何か凄い世界ですね」
「知った顔に会ったのが幸いだったが」
 それは喜ぶリチャードだった。そうしてこう話すのだった。
「ダックやタンだが」
「あの二人を知ってるの」
「同じ街に住んでいる」
 孫策にこう答えるリチャードだった。
「何度か拳を交えたこともある」
「サウスタウンね」
「あっ、御存知なんですか」
 今度はボブが言った。明るい声でだ。
「サウスタウンのことを」
「ええ、知ってるわ」
 その通りだと返す孫策だった。
「今は私のところにいるから」
「あっ、だからさっき会えたんですか」
 だからだとだ。ボブは納得した。
「そういうことだったんですね」
「そういうことね。それにしてもね」
「それにしても?」
「面白い巡り合わせが続くわね」
 孫策はくすりと笑ってこう述べたのだった。
「何かとね」
「世界は広いようで狭い」
 陀流磨の言葉である。
「だからじゃ。こうしてわし等も巡り会った」
「それにしても最近凄いんだけれど」
 孫尚香は姉の隣でふとしたように言った。
「次から次に来るしね」
「というか気付いたらなんですけれど」
 ボブの言葉だ。
「この世界にいたのは」
「全くだな。パオパオカフェにいたのにな」
「そうしたら急に」
 リーチャドと話をしている。
「この世界に来てだ」
「呆気に取られていたらダックさんに会って」
 こう話しているのだった。そうしてだ。
「バターコーン食べて一緒に踊って」
「周りは違うが知っている人間がいるのは有り難いな」
「そう」 
 クーラが言ってきた。
「それがわからない」
「貴女は」
 孫権はクーラの言葉に顔を向けた。
「確か」
「クーラ」
 孫権に対して答えもした。
「それが私の名前」
「そうだったわね。クーラだったわね」
「うん」
「貴女もこの世界に来たの」
「その通り」
 こう返す彼女だった。
「気付いたら」
「そう。同じなのね」
「同じ」
 孫権の言葉にこくりと頷くのだった。
「ここにいるのは」
「わかったわ。それで貴女も」
「ここにいていい?」
 クーラは孫権に顔を向けて問うてきた。
「クーラもここに」
「ええ、それは」
「勿論よ」
 孫権だけでなく孫策も応えた。
「貴女がそう願えば」
「是非ね」
「では我々もか」
「いいんですね?」
 二人がクーラに言ったのを受けてだ。リチャードとボブが言ってきた。
 そのうえでだ。孫策にあらためて問うのだった。
「ここにいて」
「本当に」
「ええ、腕が立つわね」
 孫策は彼等の腕は既に見抜いていた。その眼力は見事である。
「そして人間性も悪くないみたいね」
「そうよね」
 孫尚香も彼等を見ながら言った。
「いい人達よね」
「それならよ」
 ここでまた言う孫策だった。
「貴方達さえよければね」
「よし、それならだ」
「是非」
 こうしてだった。彼等は孫策の幕下に加わった。孫策達のところにもあらたな人材が加わったのである。
 そしてだ。さらにであった。
 また一人来ていた。黒い髪を鬣の様にして黒い袴とズボンを合わせたような服を着ている。鋭い目が印象的である。
 その彼はだ。ふとやって来た赤い髪の男に声をかけた。
「待て」
「んっ、どうした?」
「貴様は誰だ?」
 その男銃士浪はこう男に声をかけるのだった。男はすぐに彼に顔を向けてきた。
「我々と同じ世界の人間か」
「ああ、それか」
 男は銃士浪の言葉に応えてきた。
「実は違う」
「そうなのか」
「少し感じてな」
「感じた?」
「ああ、病に苦しんでいる者がいるな」
 こう彼に言うのだった。
「そうだな」
「まさかと思うが公勤殿の風邪のことを」
「風邪、か」
 銃士浪の今の言葉に、だ。男の顔が鋭くなった。そうして言うのだった。
「そう言っているのだな」
「違うというのか?」
「いや、何でもない」
 そこから先は言わない彼だった。しかしであった。
 銃士浪に対してこう言ってもきた。
「それでなんだが」
「うむ。どうしたのだ」
「ここの主の孫策殿に会いたい」
「孫策殿にか」
「医者が来た。こう言ってくれ」
「御主は医者だったのか」
「そうだ、名前は華陀」
 ここで自分の名前も名乗った。
「こう言ってくれ」
「華陀か。名前は聞いている」
「俺のことを知っているのか」
「各地で病を治している医者だな」
「ああ、そうだ」
 まさにそうだというのである。
「だから来たのだがな」
「話はわかった。それではだ」
「案内してくれるか」
「俺も周瑜殿の風邪はな」
「どうにかしたいんだな」
「風邪は寝ていればなおる」
 銃士浪はこうも言った。
「しかしそれだけで不十分な場合もあるからな」
「そうだ、風邪は万病の元だ」
「だからこそ油断せずにだな」
「その通りだ。風邪はすぐに完治させる」
「ではな」
「行くとしよう」
 こんな話をしてだ。華陀は周瑜のところに向かった。その時にだ。
 廊下を進む彼等の前に孫策がたまたま来た。するとい彼女はまず銃士浪に対して声をかけた。
「あら、こちらの格好いい人は誰かしら」
「医者らしい」
 こう孫策に返す彼だった。
「名前は華陀だ」
「あっ、そういえばその赤い髪は」
 ここで孫策も気付いたのだった。
「そうね。あの天下の名医華陀ね」
「名前も知ってるのか」
「ええ、有名だからね」
 それでだというのである。
「私も聞いたことはあるわ。会うのははじめてだけれど」
「そうか」
「ただ。見たところ本人らしいけれど」
 孫策はその勘からこのことを見抜いていた。
「それでも確かめたいけれどいいかしら」
「ああ、いいぞ」
 華陀も笑顔で彼女の言葉に応えた。
「それでどうやって確かめるんだ?」
「五斗米道ね」
「違う!」
 華陀はその呼び方にはムキになって言い返すのだった。
「その言い方は違う!」
「じゃあ何て呼ぶのかしら」
「ゴオオオオオオオオッド米道!だ!」
 ここでもこう力説する彼だった。
「いいな、ここは重要だからな」
「わかったわ。ゴオオオオオオオッド米道!ね」
「そうだ、ゴオオオオオオオッド米道!ね」
「その通りだ」
「わかったわ本物ね」
 この一連のやり取りからの言葉だった。
「貴方は間違いなく本物の名医華陀よ」
「俺が名医かどうかはともかくわかってくれたか」
「ええ、十分にね」
 そうだというのだった。
「わかったわ」
「そうか、それは何よりだ」
「今のでわかったのか」
 銃士浪はいぶかしむ顔で満足している顔の孫策に問い返した。
「そうだったのか」
「ええ。華陀はゴオオオオオオッド米道!というのよ」
「それが特徴なのだな」
「そう、本人ならばそれは絶対なのよ」
「その前にだ」
 ここで銃士浪はこんなことも言った。
「こんな誰でもわかる声の持ち主が他にいるのか」
「それは言わない約束だから」
「気にするなか」
「そう、気にしたら駄目よ」
 そうだというのである。
「よくわかっていてね」
「名前は違っていてもだな」
「そう、それは言わない約束だから」
 孫策はここで自分の話もした。
「私達だってそうだし」
「しかしもう誰もわかってることじゃないのか」
「だから言わない約束でね」
 こんな話をしてだった。そうしてであった。二人は華陀をだ。周瑜の部屋に連れて行くのだった。
 そうしてそこに行くとだった。周瑜は己の部屋のベッドの中にいた。そうして席をしていた。
「おい周瑜殿」
「榊殿か」
「そうだ、俺だ」
 銃士浪はまずはこう返すのだった。
「医者を連れて来た」
「そうか、悪いな」
「ええ、そうよ」
 ここでだ孫策も言ってきた。
「貴女がずっと風邪だとね」
「困るというのね」
「だからよ。たまたまこの国に来た華陀に来てもらったのよ」
「華陀というと」
 周瑜もだった。その名前に反応を見せた。
「まさかあの天下の」
「本物かどうか確かめたい?」
「ええ」
 周瑜は孫策の言葉にこくりと頷いて応えた。
「それなら」
「言うのね」
「五斗米道」
 こう言うとだった。早速だった。
「違う!」
「では何手言うの?」
「ゴオオオオオオッド米道だ!」
 ここでもこうであった。
「ここは重要だ、忘れてもらったら困る」
「わかったわ。それじゃあ」
 周瑜も彼に合わせて言う。
「ゴオオオオオオッド米道ね!」
「そうだ、それでいい」
「本物ね」
 これで周瑜も安心したのだった。
「間違いなくね」
「だから安心していいわよ」
 孫策はにこりと笑って己の軍師に話した。
「そういうことだからね」
「しかしだ」
 ここでまた言う銃士浪だった。どうやら突っ込み体質らしい。
「周瑜殿は風邪だったな」
「そうだ」
 本人がベッドの中から上体を起こした姿勢で応える。
「それはその通りだ」
「それで今かなりの大声で叫んだがいいのか」
「だからそういうことは気にしないの」
 孫策もまた彼に言う。
「そう、気にしたら駄目よ」
「そういうことなのだな」
「世間っていうか世の中ってあれじゃない」
 孫策はさらに言う。
「突っ込んだり考えたら駄目なことってあるじゃない」
「それはわかるつもりだが」
「特に声のことはね」
「それは駄目か」
「そういうことだから」
 こう話す彼女だった。
「わかっておいてね」
「意識はしておく」
 これが銃士浪の返答だった。
「それではだ」
「それでだが」
 華陀がまた言ってきた。
「いいか」
「ええ」
「何だ?」
「患者を診たい」
 こう言う彼だった。
「その時に服を脱がせるからな」
「それでか」
「そうだ。二人は退室してくれ」
 銃士浪の言葉に応えてだった。
「そうしてくれるか」
「わかった」
「それじゃあね」
 銃士浪だけでなく孫策も頷く。しかしだった。孫策はこんなことも言うのだった。
「ただ。冥琳の裸だと」
「雪蓮、それは」
 周瑜はそのベッドの中から孫策を咎めてきた。
「言ったら駄目よ」
「あら、そうなの」
「そうよ、駄目よ」
 目もだった。咎めるものだった。
「言わないでおいてね」
「わかったわ。それじゃあね」
「では俺達はだ」
 銃士浪は部屋を出ようとしていた。
「部屋を後にしよう」
「ええ、それじゃあね」
 孫策も彼の言葉に頷く。そうして二人で部屋を後にする。こうして華陀は周瑜と二人だけになった。そして二人になるとであった。
 彼はだ。あらたまった調子になって周瑜に問うのだった。
「一つ聞くが」
「何かしら」
「風邪ではないな」
 こう問い返すのである。
「そうだな。違うな」
「わかるのね」
「だから俺は医者だ」
 これが周瑜への言葉だった。
「その顔色でわかる。咳も出ているな」
「ええ、前からね」
「では間違いない。あんたの病気はだ」
「何だというの?」
「労咳だな」
 それだというのである。
「それだな」
「ええ、そうよ」
 周瑜も華陀のその言葉にこくりと頷いた。
「その通りよ」
「言っておくがこのままだとだ」
「長くないというのね」
「労咳は確実に死に至る病だ」
 そうだというのである。
「しかもあんたの顔色だとだ」
「本当にまずいのね」
「そうだ、時間は少ないな」
「じゃあ私は」
「安心しろ。今なら充分間に合う」
 この言葉はだ。周瑜にとってはまさに福音だった。しかし彼女はこの言葉に表情をみせずにだ。表情を消して華陀に返すのだった。
「そうなのね」
「そうだ、まずはだ」
「まずは?」
「まずは服を脱いでくれ」
 そうしてくれというのである。
「まずはだ。そうしてくれ」
「服を」
「あまり脱がなくていいような気もするがな」
 周瑜のその服を見ての言葉だった。確かに露出はかなりのものだ。
「それでもだ。脱いでくれ」
「ええ、じゃあ」
 周瑜は彼の言葉に頷き服を脱ぎはじめた。ブラは着けていなく胸が露わになっている。紫の面積の少ないショーツだけになっている。
 その姿で仰向けになってベッドに横たわる。するとだった。
 華陀はあるものを出していた。それはだ。
「針か」
「まずはこれを使う」
 そうだというのである。
「これで労咳を吹き飛ばす」
「針でできるのか?」
「俺の針は特別だ」
「労咳は針で治る病だったのか」
「普通は違うがな」
 このことは断る華陀だった。
「だが俺のこの針に治せない病はない」
「では本当にだな」
「手遅れでない限りは治せる」
「そうか。手遅れではないのか」
「できる。それではだ」
 こう話してであった。華陀はあらためて針を構えた。そうしてだった。
「病魔よ!」
 右手に持った針を高々と掲げてだった。彼はここでも叫んだ。
「光になれーーーーーーーーーーーっ!!」
 こう叫んで周瑜のその豊かな胸と胸の間に針を打ち込んだ。するとだ。
 黄金の光がそこから放たれた。するとだった。
 周瑜の顔色がみるみるうちに明るくなった。日が差してきたようにだ。するとだ。
 華陀は彼女のその顔を見ながらまた言ったのである。
「これでまずはいい」
「いいのね」
「そうだ、それでいい」
「いいの」
「そうだ、いいんだ」
 そうだというのである。
「これでな」
「それでは私は」
「これで助かった。だが、だ」
「だが?」
「暫くはこれを飲んでいてくれ」
 言いながらあるものを出してきた。それは緑色の丸薬だった。数粒ある。
「この丸薬をだ」
「それをなのか」
「ぺにしりんという」
 それだというのである。
「ぺにしりん草を元に色々な薬を調合したものだ」
「それを飲めばいいんだな」
「ほぼ完治したがそれでもまだだ」
「まだなのか」
「そうだ、まだだ」
 こう言うのだった。
「病魔の残りはまだ残っているからな」
「わかったわ。それじゃあ」
「あんたは生きる運命なんだ」
 華陀は周瑜にこうも話した。
「おそらくな」
「生きる運命、私が」
「だから俺があんたのところに来た」
「そうだというのね」
「どうやら俺は天命のままに動いているらしい」
 ここではだ。華陀は運命論を述べた。しかしそれは己の責任を回避するものではなくだ。そこに己の義務を感じながらの言葉だった。
「生きるべき者を生かす為にな」
「では私はか」
「生きる運命なんだ」
「そうなのね」
「そうだ、だから病は癒された」
 他ならぬ彼によってである。
「これからあんたの果たすべき役割を果たすんだ」
「わかったわ。それじゃあ」
「それじゃあな」
「ただ。一つ守ってくれるかしら」
 周瑜は起き上がって服を着ながらだ。そうして彼に言うのだった。
「私が労咳だったことは」
「言わないでおくんだな」
「ええ、誰にもね」
 これが彼女の願いだった。
「言わないでくれるかしら」
「それはわかっている」
 華陀の返事は強いものだった。
「俺は医者だ。そうしたことは絶対に守る」
「そうしてくれると助かるわ」
「あんたは優しい人だな」
 華陀は周瑜にこうも言った。
「本当にな」
「私が優しいというのね」
「それはあんたの友人達を気遣ってのことだな」
 華陀はこのことをもう見抜いていたのだ。
「既にだな」
「それは違うわ」
「違うのか?」
「ええ、違うわ」
 自分ではこう言う周瑜だった。
「それは絶対にね」
「そう言うんだな」
「ただ。誰にも言わないことはね」
「それは安心してくれ」
「貴方を信じるわ」
 こう話す彼だった。
「そうさせてもらうわ」
「信じてくれ。それでは俺はだ」
「御礼は」
「ああ、それはいい」
 笑ってそれはいいという彼だった。
「別にね。それはいいから」
「いいというのね」
「俺はその為に医者をやってるんじゃないからな」
「では何の為にかしら」
「決まっている。病に悩み苦しむ者を救う為だ」
 その為だというのである。
「医術は仁術だからな」
「それでだというのね」
「そういうことだ。わかってくれたか」
「まさに名医ね」
 周瑜は華陀のその言葉を聞いて微笑んで述べた。
「貴方は。天下の宝ね」
「ははは、褒めたって何も出ないぞ」
「それはわかっているわ。私が思ったことを言っただけよ」
「そうなのか」
「そうよ。ただ御礼はさせて欲しいわ」
「だからそれはいいのだが」
「遠慮はよくないわ」
 ここではだ。周瑜も引かなかった。そうしてまた言うのだった。
 華陀に対してだ。あるものを出してきたのだ。
「これは」
「宝玉よ」
 何個かあった。それを彼に差し出してきたのだ。
「まずはこれよ」
「まずは」
「それでだけれど」
 さらにだ。周瑜は彼にさらに言ってきたのだった。
「もう一つね」
「もう一つ?」
「目を閉じて」
 こう華陀に言うのである。
「その目をね」
「目を」
「そう、目を」
 それをだというのだ。
「目を閉じてくれるかしら」
「?どうしてなんだそれは」
「いいから閉じてくれるかしら」
 周瑜の言葉はここでは強いものだった。
「御願いがあるけれど」
「御願いか」
「そう、それよ」
 まさにそれだというのである。
「それは御願いできるかしら」
「どうしてもだな」
「そう、どうしてもね」
「わかった」
 周瑜の強い願いの言葉にだ。華陀も遂に頷いた。そうしてだった。
 目を閉じるとだ。そこにだ。
 周瑜は己の唇と自分の唇を重ね合わせた。一瞬だったが確かにそうしたのである。
 それからだ。華陀に言うのだった。
「もういいわ」
「?さっき何か」
「気にしないで」
 華陀に考えさせなかった。それ以上はだ。
「終わったから」
「一体何が終わったんだ?そういえば唇には」
「何もなかったわ」
 やはりこう告げる周瑜だった。
「だからね」
「そうなのか。じゃあそう考えさせてもらう」
「そうしてもらうと助かるわ。御礼はこれで終わりよ」
「そうか」
「ええ。また機会があればね」
「そうだな。機会があればまた会おう」
 華陀は周瑜の今の言葉には笑顔で応えた。
 そうしてそのうえでだ。その周瑜にこうも言うのだった。
「今度は病のことではなくだ」
「病ではなくか」
「楽しく酒でも飲もう」
 こう話すのだった。
「それでいいな」
「酒か。酒は好きだ」
「そうか、あんたもか」
「ええ。じゃあその時はね」
 華陀を見てだ。笑顔で話す彼女だった。
「楽しくやりましょう」
「それじゃあな。俺はこれでな」
「また別の場所に行くのね」
「俺にはまだ治すべき者と倒すべき病がある!」
 言葉は強いものになった。
「だからな」
「その貴方だから天下も救えるわ」
「天下もか」
「ええ、必ずね」
 そうなるというのである。
「必ずね。できるわ」
「そう言ってもらうとやはり嬉しいな」
「そうなのね」
「ああ。じゃあ俺はだ」
 旅立つというのであった。そうしてだった。
 彼はあらたな場所に向かうのだった。その彼のところにだ。
 あの二人がだ。早速来たのである。
「ダーリン、やったのね」
「また病を倒したのね」
「ああ、そうだ」
 華陀は自分の左右にいるその彼等に応えたのだった。
「その通りだ」
「また一つ善行を行ったのね」
「やったわね、本当に」
「ああ、それでだ」
 華陀は二人に対してまた言う。
「次の行く先は」
「待って、その前に」
「また来てくれたわ」
 二人はこう言ってきたのだった。
「新たな仲間がね」
「来てくれたのよ」
「そうなのか、また来てくれたんだな」
 華陀は二人の言葉に笑顔になった。
「俺達のところに」
「そうよ、三人ね」
「来てくれたのよ」
「三人もか」
 華陀は三人もト聞いてさらに明るい顔になった。
「それは何よりだ」
「勿論会うわよね」
「そうするわよね」
「ああ、当然だ」
 また答える華陀だった。
「それで彼等は今何処にいるんだ」
「いらっしゃい」
「こっちよ」
 二人が自分達の後ろに声をかけるとだ。そこからだった。
 三人来た。まずはだ。
 瞳のない鋭い顔をした大柄な力士だった。腰に女ものの服を巻き浅黒い肌に得体の知れない雰囲気を漂わせている。背中には刺青がある。
 金髪に青い目と女の如き流麗な顔に白い服のすらりとした身体の青年、それと黒いマントに赤いズボンの仮面の大男、この三人だった。
 その三人がだ。それぞれ名乗ってきた。
「無限示」
「カイン=R=ハインライン」
「グラントだ」
「そうか、あんた達はどうやら」
 華陀はその彼等の目を見てだ。すぐにあることに気付いた。
 それでだ。こう言うのだった。
「それぞれ過去があるな」
「過去か」
「それか目指すものがあるな」
 華陀は今はカインを見ていた。
「特にあんたは」
「少なくともだ」
 そのカインがだ。彼の言葉に応えてきた。
「私は人が真の意味で堕落しない街を作りたい」
「それがあんたの目指すものか」
「そうだ。だが」
「だが?」
「この世界では少し違うようだな」
 こう言うカインだった。
「その様だな」
「違うって何がだ?」
「ちょっとね」
「彼は色々と考えてるのよ」
 貂蝉と卑弥呼がこう二人に話してきた。
「人が戦いを通じて己を高め合う世界っていうかね」
「そういう世界を目指しているのよ」
「戦いはともかくだ」
 華陀はその点については顔を顰めさせた。彼は戦は好きではないのだ。
「しかし己を高め合うのはだ」
「いいことよね」
「そうよね」
「ああ、そうだ」
 貂蝉と卑弥呼にもはっきりと答える。
「そのこと自体はな」
「それでさっきお話してね」
「私達の仲間になることになったのよ」
「敗れたのだから仕方がない」
 カインはいささか無念そうであったがこう言うのだった。
「この私がな。敗れるとはな」
「あら、強かったわよ」
 だがその彼にだ。貂蝉はこう言うのだった。
「私久々にときめいちゃったから」
「私もよ」
 卑弥呼も言うのだった。二人共照れた顔でもじもじとして話す。
「グラントさん強くて。痺れたわ」
「強かった」 
 グラントもそれは否定しなかった。
「実にな」
「そうだな。だが、だ」
 無限示も言うのだった。
「この二人は我を受け入れてくれた」
「私達誰でも受け入れるわよ」
「拒みはしないわ」
「この我をだ」
 無限示はそれがいいというのであった。
「だからだ。我はいさせてもらう」
「宜しくね」
「それじゃあね」
「醜い我を」
 無限示はここでこんなことも言った。
「受け入れてくれた。有り難いことだ」
「人の容姿なんて違っていて当然じゃないのか?」
 華陀もそうしたことにはこだわらなかった。それを言葉にも出す。
「そんなのであれこれ言う必要があるのか?」
「そう言うのだな」
「ああ。俺はそう思うがな」
 実際に彼は貂蝉と卑弥呼を見ても何とも思っていない。
「言う奴の方がおかしいだろう」
「かたじけない」
 無限示はここで華陀のその器の大きさを知ったのだった。そのうえでの言葉だった。
「それではだ」
「ああ、それでは?」
「御主名前は」
「華陀だ」
 無限示に対して己の名前を言ってみせた。
「覚えていてくれるか」
「是非。この世界では御主に全てを捧げよう」
「いや、捧げる必要はないさ」
「それはいいのか?」
「捧げるって言ったら家臣か何かだからな」
「それではないというのだな」
「俺達は仲間だ」
 華陀は闇のない笑みで言い切った。
「だからだ。俺達はそれでいいんだ」
「そういうことか」
「そうさ。仲間だからな」
 だからいいというのである。
「捧げるんじゃなくて一緒に頼むな」
「わかった」
 無限示もそれで納得したのだった。
「それではだ」
「それでな。それとだ」
 華陀は今度はグラントを見る。そしてであった。
「あんた」
「何だ」
「まずい状況にあるな」
 彼のその左の胸を見ながらの言葉だった。
「そうだな」
「わかるのか」
「ああ。このままだと死ぬぞ」
 華陀の言葉が強いものになった。
「間違いなくな」
「だがどうにもならない」
 グラントの言葉はまさに達観しているものだった。それを華陀に言うのだった。
「これはだ」
「いや、なる」
「なるだと」
「そうだ、なる」
 こう話す華陀だった。
「俺に任せてくれるか」
「いいのか」
「心臓に鉛が迫っているな」
 華陀はそこまで見抜いていたのだ。
「それならだ。すぐにそれを取り除く」
「できるのか」
「そうだ、できる」
 その通りだとだ。また話す華陀だった。
「任せてくれるか」
「いいのか」
 カインがだ。ここで華陀に言ってきたのだ。
「グラントは私達の時代と国でもどうにもならなかったのだが」
「そちらの世界のことはわからないがな」
 それはだというのだった。
「だが、それでもだ」
「頼めるか」
 カインの言葉に切実なものが宿った。
「本当にグラントの命を救えるか」
「あんたにとってはなんだな」
「親友だ」
 それだとだ。カインは言い切った。
「かけがえのないな」
「だからなんだな」
「助けてくれ」
 カインの言葉に切実なものが宿った。
「救えるのならだ」
「わかっている。それではだ」
「じゃあ私達がね」
「アシスタントをするわ」
 貂蝉と卑弥呼も出て来た。そうしてであった。
「ダーリン、麻酔使いましょう」
「それと刃も一旦火で熱してね」
「頼む、すぐに終わらせるがだ」
 それでもだというのだった。華陀は今明らかに緊張の中にあった。
 その緊張の中でだ。彼はグラントの手術をはじめた。そうしてだった。
 数刻か経てだ。グラントは目を覚ました。その時にはだ。
 華陀はその手に鉛の弾丸を持っていた。赤く塗れたそれをだ。
 グラントに見せてだ。こう話すのだった。
「これだな」
「本当に取り出せたのか」
「厄介な場所にあったさ」
 華陀もこのことは否定しなかった。
「だがそれでもだ」
「ダーリンの腕は誰にも負けないものよ」
「こうしたこともできるのよ」
「それでなのだな」
 また言うグラントだった。胸には手術の後すらない。
 その胸も見てだ。彼は言うのだった。
「俺はこれで」
「もう大丈夫だ」
 華陀は満面の笑顔で彼に話す。
「心臓は何ともない」
「そうか、それではだ」
「それでは?」
「俺も。真の意味で仲間になりたい」
 こう華陀に申し出るのだった。
「いいか、それは」
「ああ、宜しく頼む」
 華陀はここでも笑顔であった。
「俺達は仲間だ」
「うむ」
「そしてだ」
 カインもここで出て来た。そうしてだった。
 彼もであった。華陀達に言うのだった。
「よくグラントを助けてくれた」
「医者として当然のことだ」
「だが。助けてくれたのは事実だ」
 カインがここで言うのはこのことだった。
「どれだけ礼を言っても足りない」
「いいからいいから」
「気にしなくていいのよ」
 貂蝉と卑弥呼もそのカインに話す。
「それよりもよ」
「貴方もなのね」
「本当の意味で仲間にさせてもらいたい」
 こう申し出るカインだった。
「そちらがよければな」
「勿論歓迎だ」
 これが華陀の返答だった。
「宜しく頼むな」
「心を見た」
 カインは三人を見ながらこうも言うのだった。
「君達のその心をな」
「だからなのね」
「私達と一緒に来てくれるのね」
「確かに戦いに敗れた」
 またこのことも話す彼だった。
「だがそれ以上にだ」
「心か」
「そうだ、心が君達の方に完全に傾いた」
 こうなってしまったとだ。華陀に言うのである。
「グラントを救ってくれたことによってな」
「そうなのか」
「それでだ」 
 カインはここでさらに言ってきた。
「君達の目的は何だ」
「目的か」
「そうだ。それは何だ」
「この世界を救う為だ」
 そうだというのである。
「その為に今戦っている」
「そうなのか」
「今この国は危機的な状況にある」
「そうなのよ」
「実は色々とあってね」
 貂蝉と卑弥呼も話すのだった。
「それでなのよ」
「私達は今動いてるのよ」
「世界を救うことには興味はない」
 カインはこのことには前置きしてきた。
「そのこと自体はだ」
「そうなのね」
「それはなのね」
「そうだ、だが君達は私のかけがえのない友人を救ってくれた」
 それが理由なのだった。
「だからだ。それに協力させてもらおう」
「それならだ。旅を続けるが」
 華陀はそのカインだけでなくグラントと無限示にも話した。
「それでいいんだな」
「一人でいるよりはいい」
 無限示の言葉だ。
「我は長い間一人だったからな」
「孤独だったのね」
「その中で沈んでいたのね」
「その苦しみは忘れられない」
 だからだというのだ。それが彼の言葉だった。
「だからこそ」
「そう。それなら」
「一緒にいきましょう」
「無論俺もだ」
 グラントもだった。
「命を救ってくれた恩人とだ。友人でありたい」
「そうだ、俺達は友だ」
 華陀はまさにそれだというのだ。
「そのところは宜しくな」
「うむ」
「じゃあ行くわよ」
「次の場所にね」
 また二人が声をかけてきた。
「皆宿屋に待ってるし」
「そこに入ってそれからよ」
 出発するというのだった。そうしてだった。
 彼等はまた新たな仲間を迎え入れた。彼等も動いていた。
 劉備達は幽州に戻ろうとしていた。しかしそこで、だった。
 ふと月がだ。こんなことを言ってきたのだ。
「聞いた話によるとです」
「んっ?」
「どうしたのだ?」
 皆今は出店で饅頭を食べていた。その時にだった。
 不意にだ。彼女がこう言ってきたのである。
「何かあったのか?」
「悪い奴でも出て来たのだ?」
「危機を感じている村があります」
 こう関羽と張飛に対して話すのであった。
「この近くにです」
「感じ取られたんですか」
「はい」
 その通りだとだ。月は今度は劉備の問いに答えたのだった。
「ここから東に一日です」
「一日なんですか」
「はい。一日です」
 また劉備に答える月だった。
「どうされますか」
「放ってはおけませんね」
 孔明がすぐに答えた。
「それは」
「うん、じゃあ」
 鳳統も孔明のその言葉に頷く。そうしてだった。彼女も言うのだった。
「行こう、その村に」
「はい、それじゃあ」
「今から」
 こうしてだった。彼女達はその東に向かうのだった。そこでだった。
 馬岱がだ。その道中で仲間達に話した。
「ねえ」
「んっ、どうした?」
「何かあったのかよ」
「うん、私達って何かあったらいつも誰かに会ってるじゃない」
 こう趙雲と馬超に話すのである。
「だからその村でもやっぱり」
「そうだな。有り得るな」
「その村でもってな」
 二人もだ。馬岱のその言葉に頷くのだった。黄忠も劉備に話す。
「若し新たな出会いがあったら」
「はい、その時はですね」
「一体誰になるのかしら」
「楽しみですよね」
 そうなったらだとだ。もう期待しているのだった。
 そしてだ。神楽がこう話した。
「それにしてもこの国って」
「そうね」
 ミナが彼女に応える。
「色々な出会いがあるわね」
「私達もそうだしね」
「そうよね。草薙君のこともあるし」
「私も」
 少しずつだ。彼女達も運命を感じだしていたのだった。
 だが劉備はだ。明るい顔でこう言うのだった。
「このまま旅が終わるのは寂しいかな」
「寂しいか」
「そうなのだ」
「はい、寂しいですよね」
 関羽と張飛にも話す。
「色々ありましたけれどそれでも」
「そうだな。私もそう思う」
「考えてみればそうなのだ」
 二人もだ。こう言うのだった。
「長い旅だったが」
「そう思えるのだ、今は」
「帰りもありますけれど」
 劉備はまた話した。
「それでもですね」
「また何かあるかも知れないのだ」
 ふとだ。張飛はこう話したのだった。
「その村で」
「何かか?」
「多分村は悪い奴等に狙われているのだ」
 張飛は関羽にその予測を話した。
「そこで鈴々達が悪い奴等をばったばったとなのだ」
「まあそうだろうな」
 関羽もその考えに頷く。
「本当に賊というものは減らないな」
「減って欲しいけれどね」
 神楽は少し溜息混じりに述べた。
「私達の世界もね。悪党は多いし」
「私の時代もよ」
「同じです」
 ミナと月もだというのだった。そしてだった。
 一行は旅立つその中でだ。進んだ。そしてだった。また新たな出会いに向かうのだった。だが誰と出会うのかはだ。まだわからないことだった。


第四十一話   完


                       2010・10・22



華陀の働きで周喩の病気が治ったみたいだな。
美姫 「みたいね。更に新たな仲間も加わったみたいだし」
医者として各地を回りながら、人を救っていくと。
美姫 「特に今回は呉にとってはかなり大きいわよね」
だよな。で、劉備の方もすんなりと帰宅とはいかないみたいだし。
美姫 「さてさて、どうなるかしらね」
次回も待っています。



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