『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                             第五十話  タムタム、子供を可愛がるのこと

 劉備達は南蛮に着いた。そしてである。
 その中を進みながらだ。馬岱が困った顔で言うのだった。
「暑いね」
「南蛮だからね」
 黄忠が彼女の言葉に応える。
「それはやっぱりね」
「当たり前なんですか」
「そうよ。南にあるから」
 それでだというのである。
「それは我慢しないとね」
「うう、私北で育ってきましたから」
 見れば馬岱はぐっしょりと汗をかいている。本当に辛そうである。
「暑いのはどうも」
「北といえば私もだが」
「鈴々もなのだ」
 それは関羽と張飛もであった。
「しかし特にな」
「何とも思わないのだ」
「私もだ」
 それは趙雲もだった。
「幽州生まれだが。特にな」
「そうだな。特に苦しくはない」
「どうして蒲公英だけそうなのだ」
「しかもだ」
 趙雲はここで馬超を見て言う。
「同じ場所で生まれ育っている翠は何ともないようだが」
「あたしは暑くても寒くても平気なんだよ」
「そうなのか」
「っていうか涼州の砂漠ってな」
 そこはどうかと。馬超は一同に話す。
「昼は暑くて夜は寒いんだよ」
「はい、砂漠はそうした場所ですね」
「温度差がかなり激しいです」
 孔明と鳳統が砂漠について説明をはじめた。
「水がなくて砂ばかりで」
「太陽がなくなるとです」
「気温が急に下がります」
「逆にお昼は太陽のせいで気温が高くなります」
「そう、その通りよ」
 神楽が軍師二人のことばに太鼓判を出した。
「砂漠はそうした場所なのよね」
「そういう場所でずっとやってきたからな」
 また話す馬超だった。
「別にこれ位はな」
「平気か」
「そうさ。それとな」
 馬超はここでさらに話す。
「蒲公英って実は暑がりなんだよ」
「暑がり!?」
「そうだったのだ」
「そうなんだよな。こいつ昔っからな」
「姉様、そんなこと話さないでよ」
 馬岱は従姉の言葉に困った顔で返す。
「暑がりとかそういうのって」
「けれど実際にそうだろ」
「それはそうだけれど」
「隠したって仕方ないだろ。御前昔から寒いのは平気でもな」
「暑いのはね」
 実際にそうだと話す馬岱だった。
「何ていうか。じりじりとやられる感じで」
「すぐに慣れるぞ」
 その馬岱に話すのだ。厳顔だった。
「三日もすればな」
「慣れますか?」
「うむ、慣れる」
 そうだとも話す厳顔だった。
「だから安心せよ」
「だといいですけれど」
「とにかくじゃ。行くぞ」
 また言う厳顔だった。
「猛獲の宮殿はまだ先じゃ」
「南蛮王の人ですよね」
 劉備が言う。
「その猛獲さんが」
「その通りじゃ」
「一体どういう人なんでしょうか」
 ここで劉備はその首をやや右に傾げさせた。
「それで」
「わしもそれはよくわからん」
「よくですか」
「うむ。まあ人間とは聞いておる」
 厳顔の口調は今一つはっきりとしないものだった。彼女にしては珍しくである。
「だから安心することじゃ」
「そこは安心するところじゃないような」
「そうですよね」
 ミナと月がその彼女に突っ込みを入れる。
「人間なのは間違いないし」
「はい、ですから」
「いやいや、それがだ」
 だが、だった。ここで魏延がそのことを話す。
「南蛮はとにかく謎に包まれていてだ」
「謎に」
「それでなんですか」
「そうだ。象がいて大蛇がいる」
 まずはこうした動物達だった。
「巨大な鰐もいれば変わった鳥もいる」
「他の猛獣達も多いそうね」
 黄忠の目が少し鋭くなる。
「何時何処から出て来てもおかしくないだけいると聞いているわ」
「毒蛇も多い」
 魏延はさらに話す。
「そうした場所だ。例え王が人間でなくともだ」
「おかしくはない」
「そう仰るんですね」
「一応猛獲とは人の名前だ」
 魏延はそれは確かだというのだった。
「だが、だ」
「それでもだな」
「人間とは限らないのだ」
 関羽と張飛もそう思いはじめていた。
「では虎や豹が玉座にいてもだ」
「おかしくはない国なのだ」
「それかそうした猛獣に近い者だ」
 魏延自身の考えである。
「そうした輩と話ができるかどうかだ」
「難しいな」
「鈴々でもそんな奴との会話は無理なのだ」
「ううむ、際悪の場合は」
「また一戦なのだ」
 関羽と張飛もそのことを覚悟していた。そんな中でだった。
 一行は密林の中を進んでいく。その彼等を見てだ。
 虎、いや豹のそれに近い模様の服を着てブーメランを持った少女がいた。長くざんばらとした髪に澄んだ目に幼い顔をしている。その少女がだ。
 隣にいる黒い髪に赤い仮面の大男に声をかけた。
「ねえタム兄ちゃん」
「チャムチャムどうした?」
「何かおかしな奴等がいるよ」
「あの連中か」
「兄ちゃんにも見えるんだ」
「タムタム見た」
 こう答える仮面の男だった。
「間違いなく見た」
「そうよね、何かなあの連中」
「わからない」
 まずはこう言うそのタムタムであった。
「だが」
「だが、よね」
「怪しい奴」
 これは確かだという口調だった。
「猛獲に知らせるべき」
「そうだね。それでどうしようか」
「話してみる」
 これがタムタムの意見だった。
「そうしてそのうえで」
「そのうえで?」
「いい奴なら何もしない」
 こう妹のチャムチャムに話す。
「タムタム善人には何もしない」
「そうよね。僕だってそうだよ」
 それはチャムチャムもだというのだ。
「悪い奴としか戦わないよ」
「そう。悪い奴ならやっつける」
 これがタムタムの言葉だった。
「このヘンゲハンゲザンゲで」
「そうしよう。それじゃあね」
「まずは知らせる」
 タムタムはまたチャムチャムに話した。
「そうしてそのうえで」
「うん、あの連中と会って話をしよう」
 こう二人で話してだった。二人は一旦その場から姿を消した。劉備達は密林の中で休憩に入ってだ。食事をはじめるのだった。
「鰐の唐揚げね」
「油はどこにあったのかしら」
 神楽とミナが今食べているその鰐の唐揚げを見てそれぞれ言う。
「美味しいけれど」
「油は何処に」
「はい、それはです」
「木の油を使いました」
 ここでまた孔明と鳳統が話してきた。二人は果物を食べている。
「それで調達しました」
「木を切ってそれで」
「二人共凄いよね」
 劉備はその唐揚げを食べながら二人に対して述べた。
「ちゃんと油が採れる木までわかるんだから」
「水鏡先生に教えてもらいました」
「だからです」
 劉備にこう答える二人だった。
「南方にはそうした木があるって」
「その通りでした」
「そうなのね。それで」
「油を」
 これで神楽とミナも納得した。そうしてだ。
 神楽はその唐揚げを食べながらだ。こんな話をした。
「この鰐の唐揚げはね」
「うむ」
「何かあるのかよ」
 趙雲と馬超が彼女の言葉に応える。
「この唐揚げに」
「思い出とかか?」
「違うわ。ほら、東君よ」
 神楽はここで彼の名前を出すのだった。
「ジョー=東君ね」
「ああ、あの人」
 馬岱が神楽のその言葉に応えた。
「ムエタイっていう蹴り技が多い格闘技使う人よね」
「彼が好きなのよ」
 その鰐の唐揚げがだというのだ。
「その彼が食べているものなのよ」
「そうなんだ」
 馬岱もその唐揚げを食べながら言う。
「あの人これが好きなんだ」
「ええ。確かにこの味はね」
「美味しいですね。鶏肉みたいな味で」
「それでいて癖もあってね」
「面白い味ですよね」
 こう言う馬岱だった。
「とても」
「ええ、だからこれは」
「あの人が好きになるのもわかりますね」
「最初思ったわ」
 ここで神楽の顔が苦笑いになった。
「そんなの美味しいのかしらって」
「けれど食べてみるとですね」
「美味しいのよね」
「それじゃあですけれど」
 馬岱からの言葉である。
「大蛇の煮付けなんてのも」
「どうかしらね、それは」
「何かそういうお料理もあるんでしょうか」
「あると言えばあるじゃろ」
 厳顔が話してきた。当然彼女もその唐揚げを食べている。
「ここでは蛇が多いからのう」
「それでなんですか」
「そうじゃ。ここでは蛇も多い」
 そうだというのであった。
「それでは食べるのも道理じゃろうからな」
「ううん、それじゃあ大蛇の煮付けもですね」
「あるじゃろうな。まあそれでもじゃ」
「それでも?」
「蛇以外にも色々と食うものはあるぞ」 
 こう言ってだった。厳顔は馬岱にあるものを出してきた。それは。
「バナナですか」
「うむ、食うな」
「はい、是非」
「バナナはよいぞ」
 厳顔は馬岱にそのバナナを一房与えながらそのえうで笑顔で話す。
「美味いししかも栄養がある」
「栄養もですか」
「左様。身体にもよいからじゃ」
「どんどん食べればいいんですね」
「しかもじゃ」
 厳顔はこんなことも言った。
「食べればそれでじゃ」
「まだ何かあるんですか」
「胸も大きくなる」
 厳顔の胸が大きく縦に揺れる。ゆさゆさという音が聞こえんばかりだ。
「だからよいぞ」
「胸もですか」
「そうじゃ。蒲公英よ」
 馬岱の真名も呼んでみせる。
「御主もじゃ。食べ続ければじゃ」
「わかりました」
 馬岱は目を輝かせて頷く。
「じゃあ私頑張って」
「食べるがよいぞ」
「バナナってそんなに凄い食べ物なんですね」
「そうじゃ。では食うな」
「はい、是非」
 早速そのバナナを貪り食う馬岱だった。そしてだ。
 張飛に孔明、それと鳳統もだった。バナナをせっせと食べはじめていた。
「胸が大きくなるのなら」
「頑張って」
「食べないと」
「何かバナナの人気があがってきましたね」
 劉備はその彼女達を見ていささか能天気に話す。
「それでおっぱいって大きくなるんですか」
「関係ないのではないのか?」
 関羽の胸もここで大きく動く。
「私はバナナはあまり食べてはいないが」
「それでも胸はですよね」
「自然とこうなった」
 関羽のだけでなく劉備の胸もまたここで揺れ動く。
「気付けばだ」
「私もです。本当に気付いたら」
「そういうものだと思うが」
「違うんでしょうか」
「私もそうだな」
「あたしもだよ」
 このことは趙雲と馬超も同じだった。
「胸はな」
「気付けば大きくなるよな」
「そういうものだと思うが」
「違うのか?本当に」
「ははは、持っている者にはわからんことじゃ」
 厳顔が破顔でその持っている者達に話す。
「そういうことはのう」
「あら、そういう桔梗も気付けばでしょ」
「それはそうじゃがな。何も胸だけに限らん」
 こう黄忠に返すのだった。
「だからのう」
「そうね。何でも持っているって人はいないからね」
「そういうことじゃ。持っているとわからん」
 また言う厳顔だった。
「しかし持っていなければじゃ」
「わかるもよね」
「そういうことじゃ。それではじゃ」
「ええ。ここはね」
「そういう話は止めじゃ」
 厳顔は話をいささか強引に止めた。
「それでじゃな。バナナに鰐を食べ終えればじゃ」
「また出発ですね」
「もう少し行こうぞ」
 こう劉備に提案する。
「桃香殿はそれでよいな」
「はい、私は」
 劉備はそれでいいというのだった。
「それで御願いします」
「よし、それではじゃ」
「まずは食べましょう」
 月は赤い果物を食べている。それを両手に持って自分の口に運んでいるのだ。
「それからですね」
「そういうことじゃな。それではな」
「はい」
 劉備等はそのまま食べ終え出発するつもりだった。しかしである。
 ふとだ。ミナが立ち上がるのだった。
「むっ、ミナ」
「どうしたのだ?」
「シーサーがいないわ」
 こう関羽と張飛に答える。
「何処に行ったのかしら」
「シーサーなら」
 魏延がバナナを食べながらミナに話す。
「向こう側に行ったぞ」
「向こう側に?」
「ああ。用足しじゃないのか?」
 左手を指差しながらの言葉だった。
「そんなに遠くに行っていないと思うけれどな」
「そう。わかったわ」
 それを聞いて頷くミナだった。そうしてだ。
 そのうえでだ。そちらに向かいながらまた皆に話す。
「シーサー。呼んで来るわ」
「うむ、それではな」
「達者で行くのだ」
 こうしてだった。ミナは席を外した。
 一行はとりあえずまだ食べていた。するとそこにだ。
「御前達なのだ」
「怪しい奴は」
「あれっ、この人達って」
 劉備がその二人を見て言う。
「まさかと思いますけれど」
「南蛮の者か」
「絶対にそうなのだ」
 関羽と張飛も言う。
「では使者か?」
「猛獲という奴からなのだ」
「猛獲?」
 その名前を聞いてだ。チャムチャムがふと声をあげた。
「あんた達猛獲のこと知ってるの?」
「名前は聞いています」
 劉備がチャムチャムのその言葉に応える。
「私達今からその猛獲さんに会いにいくんですけれど」
「あれっ、そうなの」
「猛獲、知ってる」
 チャムチャムだけでなくタムタムも話してきた。
「あんた達も」
「それでここに来た」
「はい、そうなんです」
 また二人に答える劉備だった。
「実はそれで南蛮まで」
「ふうん、そうだったんだ」
「猛獲に会いに来た」
 チャムチャムとタムタムはその話を聞いてあらためて述べた。
「成程ね」
「そうだったか」
「あれっ、この人達って」
 それを聞いてだ。馬岱が話す。
「まさかと思うけれど」
「うん、僕達その猛獲のところにいるの」
「世話になってる」
 二人もこう話す。するとだった。
 ここでだ。ミナがシーサーと共に戻って来たのだった。
「あれ、貴方達は」
「あっ、ミナ!?」
「ミナ、いたのか」
「貴方達もこの世界に来ていたのね」
 こうだ。二人に対して話すのだった。
「そうだったのね」
「気付いたらここに来ていたんだ」
「そうだった」
 二人はこうミナに話した。
「何か面白い世界だね」
「色々歩いてここに来た」
「それで猛獲に会って」
「今は世話になっている」
「私と同じね」
 ミナは二人の話を聞いてこう言った。
「それは」
「じゃあミナも?」
「誰かの世話になっている」
「この人に」
 こう言ってだった。左手で劉備の手を指し示したのだった。
「お世話になっているの」
「そうしているか」
「そうなのか」
「そう。そうなっているの」
 また話すミナだった。
「今はそうしているから」
「それはわかったけれど」
「ミナのことは」
 二人はそれはわかるというのであった。そしてそのうえで彼女に更に尋ねた。
「けれどそっちのおっぱいの大きい可愛い人は」
「どうしてここに来た?」
「ええ、実はね」
 ミナは劉備と自分達がここに来た理由を二人に対して細かく話した。それを聞いてだ。二人は腕を組んでこう言うのだった。
「それでなんだ」
「それで猛獲のところに行くか」
「そうなの。それでなの」
 また話すミナだった。
「別に悪いことをしに来たのではないわ」
「それはわかった」
 タムタムはミナの言葉に頷いて返した。
「ミナは悪人と手を組まない」
「そうよね。それじゃあこの劉備さん達もね」
「悪い奴等じゃない」
「うん、絶対にね」
「それはわかった」
「充分に」
 二人はこう話していく。
「それならこれからね」
「猛獲のところに案内する」
 話は決まった。そうしてであった。
 二人は一行を猛獲のところに案内することになった。話は劉備達が驚く位あっさりと決まった。そうしてその案内される道中でだった。
 張飛がだ。こう言うのだった。
「最初見た時は驚いたのだ」
「驚いたって?」
「チャムチャムはともかく」
 そのチャムチャムに対して話す張飛だった。
「そっちのタムタムは人間には思えなかったのだ」
「そうなの」
「まずやけにでかいのだ」
 その背丈はだ。張飛の優に倍以上はあった。異常なまでの大きさだった。
「大門より大きいのだ」
「大門って?」
「大門五郎。鈴々達の仲間の一人なのだ」
 そうだというのである。
「そいつよりもまだでかいのだ」
「タム兄ちゃんってそんなにでかいんだ」
「大きいなんてものじゃないです」
「そうですよ」
 孔明と鳳統もだ。そのタムタムを見上げて話す。
「こんなに大きいし」
「お腹は細いし」
 二人はタムタムの身体全体を見て話しているのだった。
「何か凄いんですけれど」
「本当に」
「タムタム凄いか?」
 そのタムタムからの言葉である。
「タムタム別におかしくない」
「おかしくはないのだ」
 張飛もそれはそうではないという。
「ただ」
「ただ?」
「大きいにも程があるのだ」
 こう張飛を見上げてまた言うのだった。
「多分体重も物凄いのだ」
「ああ、それは全然なの」
 タムタムの体重についてはチャムチャムが話す。
「ええと、誰か。何か白い髪で褌の人に聞いたけれど」
「白い髪で褌!?」
「凄い格好ですよ、それって」
 軍師二人はその姿を聞いたうえで首を傾げさせた。
「男の人ですよね、その人って」
「そうなんですか?」
「そうなの。燕みたいな服着てそれでお髭も生やして」
 チャムチャムはこう話していく。
「その人から聞いたけれど」
「ううん、何か凄い人みたいです」
「人間なんでしょうか」
「多分そうだよ」
 チャムチャムの言葉だけが素っ気無い。
「だってちゃんと手足が二本ずつあって」
「あの、それだけじゃ」
「あまり断定は」
「目と耳も二つずつでお鼻とお口があって五体しっかりしてたわよ」
「それだけで人間とは言えませんよ」
「他の生き物かも知れません」
「それで人間の言葉喋ってたし」
 チャムチャムと軍師二人のやり取りは見事なまでに噛み合っていなかった。しかしそれでもそのやり取りは続くのだった。
「絶対に人間だから」
「そうなんでしょうか」
「本当に」
「そうだよ。大丈夫だよ」
 チャムチャムは根拠のない太鼓判を押した。
「だからね。その人がね」
「その人が?」
「何と仰ってたんですか?」
「タム兄ちゃんの身長は二メートル八十八」 
 まずは身長からだった。
「それでウエストは三十三センチで」
「えっ!?」
 それを聞いてだ。神楽が眉を顰めさせた。
「それ本当なの!?」
「うん。体重は五十五キロだって」
「有り得ないわ」
 神楽はチャムチャムの話を聞き終えて呆然となって話した。
「そんなスタイルって」
「ないの?」
「絶対に有り得ないわ」
 実際にタムタムのその長身と細い腰を見て話す。
「人間の身体じゃないわよ、絶対に」
「タムタム人間」
 そのタムタムが神楽に言ってきた。
「それ間違いない」
「けれど。人間の身体にはとても」
「信じる。タムタム人間」
 本人はあくまで主張する。
「信じて欲しい」
「ううん、けれど」
「あの、そんなにですか?」
「タムタムさんって有り得ないんですか」
 孔明と鳳統は怪訝な顔になって神楽に尋ねた。
「腰と体重が」
「そこまで」
「身長もだけれどね」
 神楽はそれについても話した。
「どういった身体の構造なのかしら」
「だから普通の身体」
 本人の主張は変わらない。
「それ信じる」
「ううん、それはかなり」
 無理があると。神楽は腕を組んで怪訝な顔になって話す。
「無理があるけれど」
「タムタム悲しい」 
 実際にタムタムの言葉にそうしたものが宿った。
「神楽信じてくれない」
「それだけは」
 どうしてもという彼女だった。
「あまりにも無理があり過ぎて」
「無理なのか」
「悪いけれどね」
 申し訳なさそうな顔でタムタムに話すのだった。
「それはね」
「それはなのか」
「他のことはね」
 ここでだった。神楽は話を変えてきたのだった。そうして言うのだった。
「信じられるわ」
「信じてくれる、タムタムを」
「悪人では絶対にないわ」
 神楽の言葉がしっかりとしたものになった。
「仮面の奥のその目を見ればね」
「わかるのか、タムタムのこと」
「ええ」
 その通りだというのだった。
「わかるから」
「それはいいこと」
 タムタムの声にも明るさが戻った。
「タムタム信じてもらえる。嬉しい」
「私だって人を無闇に嫌ったりはしないわ」
「そうなのか」
「タムタムもチャムチャムも。これから宜しくね」
「こちらこそ」
「宜しくね」
 タムタムだけでなくチャムチャムも神楽のその言葉に応える。
「それでさっきのバナナは」
「まだあるかな」
「バナナ?」
「そう。タムタムバナナ大好き」
「僕もね」
 それは二人共であった。
「バナナがあれば幸せになれる」
「美味しいよね、あれ」
「バナナだったら」
 バナナについては馬岱が答える。
「私が持ってるけれど」
「本当か!?」
「持ってるの」
「うん、それに」
 ここでだった。馬岱は前を指差した。するとそこには。
 木があった。そしてそれにだ。バナナが房になって数えきれないだけ実っていた。
 そのバナナ達を指差しながらだ。馬岱は二人にさらに話す。
「あそこにあれだけあるし」
「むっ、多いな」
「そうね。一杯あるね」
 二人もそれを見て言う。
「あれだけあれば」
「皆お腹一杯に食べられるよ」
「うん。じゃあ採りに行く?」
「タムタムが行く」
「僕もね」
 兄妹で同時に名乗りを挙げるのだった。
「皆そこで待っている」
「そうしたらいいよ」
「えっ、お二人がですか」
「お二人だけで」
 孔明と鳳統は二人の申し出に申し訳なさそうな顔で返した。
「あの、それは」
「私達もいますから」
「いい。気にしない」
「あんなのすぐに簡単に取れるからね」
 だが、だった。二人は気さくに返すのだった。
「すぐに終わる」
「じゃあ行って来るからね」
 こう言ってだった。二人は跳びそれぞれの得物を使ってだ。全てのバナナを瞬く間に切り取りそのうえで両手に抱えてだ。一行の前に出してきたのだ。
「じゃあ食べる」
「すぐにね」
「ううむ、凄い跳躍だな」
「そうね」
 関羽と黄忠は二人のその運動神経に注目していた。
「これは二人共な」
「かなりできるわね」
「そう、タムタム強い」
「僕だってね」
 二人の言葉はここでは得意そうなものだった。
「戦うことは好きじゃない。けれど」
「戦うからには負けないから」
「ふむ。そうした考えなのか」
 趙雲が二人のその言葉に感心したような声で述べた。
「いい考えだな」
「だよな。無闇に争っても仕方ないしな」
 それは馬超も言うのだった。
「確かに仮面は怖いけれどいい奴等だよな」
「とにかく皆で食べよう」
「楽しくね」
 二人の言葉は変わらない。そうしてであった。
 実際にそのバナナを全員で食べる。一行は車座に座りそのうえでだ。バナナを一本一本手に取って食べていくのであった。
 その中でだ。タムタムはにこりとした声で言うのであった。
「楽しい」
「楽しいのだ?」
「そう、楽しい」
 こう黄忠にも話す。
「タムタム今とても楽しい」
「バナナを食べているからなのだ」
「それだけじゃない」
「それだけじゃないのだ?」
「そう、子供が楽しく食べている」
 見ればだ。仮面の奥の目は今は張飛達を見ていた。そのうえでの言葉だったのだ。
「それを見て。タムタム楽しい」
「子供達?というと」
 張飛は一行を見回してそのうえでだった。孔明達を見て言った。
「朱里達なのだ」
「あの、鈴々ちゃんもですよ」
 孔明は呆れた顔でその張飛ノ言葉に応える。
「子供なのは」
「何っ、鈴々もなのだ」
「だって。誰がどう見ても」
「鈴々は子供じゃないのだ」 
 自分ではこう言い張る。
「ただ小柄なだけなのだ」
「ですからそれが」
「ううむ、知らなかったのだ」
「それ本気ですか?」
 鳳統はそれが信じられないといった顔であった。
「あの、私達と全然変わらない背丈と胸で」
「胸はそのうち大きくなるのだ」
 かなり無茶な主張であった。
「だから子供ではないのだ」
「ううん、ですからそれは」
「無理がありますから」
「そうよ。認めるしかないじゃない」
 今度は馬岱が話す。
「それはね」
「うう、何ということなのだ」
 張飛も遂に膝を屈した。そうなるしかなかった。
 そうしてだった。その中でだった。タムタムはこうも言うのだった。
「五人もいる。チャムチャムも入れて」
「僕もまだ子供だからね」
「タムタム子供大好き。子供はとても大事なもの」
「大事なのね」
「そう、大事」
 こう主張するタムタムだった。
「タムタム子供好き。けれど」
「けれど?」
「けれどっていうと?」
「皆タムタム怖がる」
 その声が悲しげなものになってきた。
「タムタム優しいのに子供逃げる。これとても悲しいこと」
「それは間違っているのだ」
 張飛は強い声でそのことを否定した。
「タムタムを怖がるのは間違っているのだ」
「間違っている?」
「そうなのだ。タムタムはとてもいい奴なのだ」
 強い声での言葉だった。
「そのタムタムを怖がるなんて間違っているのだ」
「張飛はそう思うか」
「その通りなのだ」
 言い切る張飛だった。
「少なくとも鈴々はそんなことは絶対にしないのだ」
「そうよね。鈴々ちゃんってそういうことは絶対にしないわよね」
 それは馬岱も保障するのだった。
「偏見とかはないから」
「偏見って何なのだ?」
 張飛はこの言葉は知らなかった。
「何の言葉なのだ」
「後でじっくりと教えてやる」
 呆れながら言う関羽だった。
「全く。少しは学問はだな」
「学問がなくても生きていられるのだ」
「そういう考えが駄目なのだ」
 関羽は少し厳しいことを告げた。しかしだった。
 彼女もタムタムを見てだ。それでこう言うのだった。
「その通りだな。タムタムは悪い者ではない」
「関羽もわかってくれるのか」
「わかる。貴殿から放たれている気は悪いものではない」
 それは言う彼女だった。
「むしろ善だな」
「わかる。タムタムが」
「そうだ。それでなのだが」
「それで?」
「猛獲のいる場所は何処なのだ」
「あっちだよ」
 チャムチャムが遠くを指差して言う。
「ここからすぐだよ」
「思ったより簡単に辿り着けそうだな」
 関羽はチャムチャムの話を聞いて述べた。
「最初はどうなるかと思ったが」
「てっきり猛獣や蛇に悩まさせられると思ったがのう」
 厳顔も言う。
「しかし思ったより楽にいったのう」
「そうだな。本当にな」
「ここまではじゃな」
 しかしだった。ここでこうも言う厳顔だった。
「問題は猛獲じゃが」
「そうだな。どういった者か」
「それがわからん」
「普通の人間だよ」
 またチャムチャムがこう言う。
「だから安心していいよ」
「全然あてにならないんだけれどな」
 馬超も彼女の今の言葉は信じようとしない。
「さっきの褌のおっさんの話だってな」
「絶対に普通の人ではないですね」
 それは月も言う。
「そんな奴がいるのかよ」
「私達の世界にはいませんでしたけれど」
「力士ではないわね」
 神楽は自分が言った言葉をすぐに否定した。
「多分」
「力士にしては」
「髷をしていないようですね」
 ミナと月もそれはないと見ていた。
「むしろ」
「おかしな人では」
「そういえば髷とかはなかったよ」
 それは目撃者であるチャムチャムも言う。
「覇王丸とか十兵衛みたいなのはね」
「そう。やっぱりね」
 ミナはチャムチャムのその言葉を聞いて頷いた。
「それじゃあその人達は」
「変態なのかしら」
「人ではないかも知れませんね」
 そんな話をしてだった。とりあえずその怪人のことは放っておかれたのだった。
 そしてそのうえでだ。一行はその孟獲のところに向かうのだった。そこでまた騒動が起こるのであった。


第五十話   完


                        2010・12・16



孟獲に会う前にタムタムとチャムチャムと出会ったか。
美姫 「ミナが居たお蔭ですんなりと警戒される事はなくなったわね」
しかも、道案内までしてもらえるとは。
美姫 「無事に会う事が出来そうだけれど、そんなりと進むかしらね」
さて、どうなるかな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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