『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第八十七話  張遼、関羽に諭されるのこと

 呂布は陳宮を連れてだ。劉備の前に来てだ。まずは頭を下げた。
「有り難う」
「感謝しているのです」
 呂布に続いて陳宮も言うのだった。頭を下げて。
「月達を助けてくれて」
「本当に何を言ったらいいかわからないのです」
「別に。御礼は」
 いいとだ。劉備は笑顔で言うのだった。
「いいから。それよりもね」
「それよりも」
「どうしたのです?」
「皆、幸せになろう」
 こう言うのだった。その笑顔でだ。
「その為にもね」
「あいつ等は許さない」
「そうなのです。絶対になのです」
 呂布は静かに、陳宮は激昂してこんなことを言った。
「月を幽閉していたあいつ等は」
「張譲、成敗するのです」
「真の敵は宦官達だな」
 関羽もだ。こう呂布達に話す。今彼等は劉備の天幕の前にいて話しているのだ。周囲では兵達が動き回っている。無数の天幕が立ち並び旗も林立している。そうした中での話し合いだった。
「やはりな」
「それとね」
 神楽が言う。
「私達の世界のよからぬ者達ね」
「オロチか」
 魏延が神楽の言葉に目を鋭くさせる。
「そしてその他の闇の者達だな」
「何か洛陽に変な奴が一杯集ってるのね」
 馬岱はこう考えていた。
「その連中を洛陽で一網打尽ね」
「簡単な話じゃ。敵がおれば倒すだけじゃ」
 厳顔はあえて簡単に言ってみせた。
「それだけじゃ」
「そう。倒す」
 呂布は一言で言った。
「悪い奴等、恋が全部倒す」
「ねねもです」
 陳宮は呂布の横で両手を高く掲げて振り回している。
「あの連中、許さないのです」
「ではまずはです」
「虎牢関です」
 孔明と鳳統は戦の話に移った。
「あの関を抜きましょう」
「そうしましょう」
「洛陽で決戦なのだ」
 張飛が強い顔で言い切る。
「あの連中皆やっつけるなのだ」
「そうだな。悪は成敗する」
 関羽もそのつもりだった。
「敵が誰であろうともだ」
「では明日再びです」
 徐庶が述べる。
「進軍です。今日はじっくり休みましょう」
「若しよかったら」
「ねね達も一緒にいさせて下さい」
 呂布と陳宮がだ。先陣への参加を願い出て来た。
「そうさせて欲しい」
「それは駄目でしょうか」
「私達と一緒に?」
「そう、一緒に」
「戦わせて下さい」
 呂布と陳宮はさらに踏み込んで話した。
「月を助けてもらった御礼に」
「そうさせて欲しいのです」
「けれど」
 劉備はその二人の言葉にだ。最初は顔を曇らせた。
 そしてだ。二人にこう話した。
「この戦いは激しいものになるけれど」
「戦いはそういうものだから」
「いいのです」 
 二人の返事は変わらなかった。
「いい。恋は戦いたい」
「ねねもなのです」
「桃香殿、ここはだ」
「二人の言葉受けるべきだぜ」
 趙雲と馬超が左右から劉備に話す。
「そうしよう」
「断ったら駄目だ」
「そうなのね」
 劉備は二人の言葉に考えをあらためてきた。ここでだ。
 関羽と張飛もだ。姉に強い言葉で言った。
「姉者、二人も本気だ」
「言葉に偽りはないのだ」
 二人は呂布と陳宮の言葉から彼女達の心を見ていた。そのうえで自分達の姉に話すのだった。
「だからだ。ここは是非」
「恋達も一緒になのだ」
「それじゃあ」
 二人の言葉を受けてだ。遂にだった。
 劉備も頷きだ。そうしてだった。
 呂布と陳宮の考えを受けた。彼女達の参加を受け入れたのだった。
 こうしてだ。呂布と陳宮も劉備達の仲間となったのだった。二人の参加も受けてだ。
 劉備達は翌日虎牢関に向かって進軍を再開した。そしてだ。
 昼には関の前に着いた。ここでまただった。
 袁紹がだ。うずうずとしてこんなことを言い出していた。
「それでは。いよいよ」
「はい、私達はここで全体の指揮よ」
 横から曹操が言う。
「間違っても陣頭指揮なんて言わないことね」
「うっ、ですからわたくしは総大将として」
「総大将ならどんと構えているのじゃ」
 袁術もいい加減呆れてきている。
「何でそういつも前線に出たがるのじゃ」
「うう、総大将というのは辛いですわね」
「そのでしゃばりなのは全然治らないわね」
 曹操もだ。当然呆れている。そのうえでの言葉だ。
「仕方ないわね。本当に」
「とにかくここは劉備に任せるのじゃ」
 袁術はこう従姉に話す。
「上手くやってくれる筈じゃ」
「そういえば劉備さんにお任せしていると」
 どうなるのか。袁紹もここで言う。
「全て順調にいきますわね」
「はい、不思議とです」
「何もかもが順調にいきます」
 張?と高覧が話す。
「やはりこれは」
「劉備殿の資質故でしょうか」
 こう言いながらだ。二人も主を何時でも止められる様身構えている。袁紹の出たがりな気質は彼女達にとっても困ったことであるのだ。
「御本人は至って穏やかな方だというのに」
「それでも。あらゆることを為されますが」
「家臣がいいのじゃ」
 袁術が二人に話す。
「結局のう」
「あれよ。劉備には人を惹き付けるものがあるのよ」
 曹操も看破して話す。
「それが凄いのよ、あの娘は」
「確かに。わたくしも」 
 袁紹もだ。感じながら話すのだった。
「劉備さんは好きですわ」
「私もよ」
「わらわもじゃ」
 曹操と袁術も話すのだった。そうだとだ。
「あの娘を嫌いにはなれないわ」
「どうも。見ていると和むしのう」
「それってかなり」
「凄いことですが」
 張?と高覧も話す。
「では劉備殿は」
「かなりの傑物ですか」
「そういえば漢の高祖は」
 ここで言ったのは張勲だった。袁術の後ろにいるのだ。
「その魅力で天下を取られました」
「ではあの娘は」
「漢の高祖なのね」
 袁紹と曹操は今は同時に言った。
「あの天下を統一した」
「あの方だと」
「そう思います。何か凄い方ですよね」
 こうだ。張勲もにこにことして話す。
「これからに期待ですね」
「うむ、穂やっとしておるがそこがまたよい」
 袁術はにこりと笑って言う。
「劉備、今回もやってくれるぞ」
「ということで麗羽」
 すかさずだ。曹操は袁紹に言った。
「そういうことだから」
「前に出てはいけませんわね」
「そういうことよ」
 彼女達はだ。劉備を見守るのだった。そうしてだった。
 その劉備率いる先陣はだ。虎牢関前に来た。するとだ。
 関の前に大軍が待っていた。それを指揮するのは。
 華雄と張遼だった。二人はこう劉備達に言って来た。
「いざ勝負!」
「ここは通さへんで!」
 二人が言うのだった。
「この関は抜かさせん!」
「絶対にな!」
「やはりな」
「頑張っているのだ」
 関羽と張飛が二人の姿を見て言う。
「ではここは」
「朱里達の言う通りにするのだ」
「はい、それではです」
「それでいきましょう」
 孔明と鳳統もだ。二人に話すのだった。
「無益な戦いは避けるべきです」
「今はそれができますから」
「では董卓さん」
「御願いします」
 ここでまた言う軍師二人だった。そうしてだ。
 呂布達が出て来てだ。華雄達に言う。
「話聞く」
「聞いて欲しいのです」
「何や?あんた等生きてたんかいな」
「死んだのではなかったのか」
 張遼と華雄は二人の姿を見てだ。目を丸くさせた。
「足はあるし」
「無事なのか」
「あれっ、投降したって聞いてなかったのか?」
 そんな二人を見てだ。草薙が言った。
「若しかしてな」
「何か手違いがあったらしいな」
「向こうは呂布殿達が死んだと思っているな」
 二階堂と大門が話す。
「どうやらな」
「そうなったようだ」
「何をどうやったらそんな話になるんだ?」
 草薙は二人から聞いたその事態に首を捻って眉を顰めさせる。
「変なことになってるな」
「それにあの呂布さんがそう簡単にやられますかね」
 真吾はこのことを怪訝な顔で話した。
「そんなのないですよね」
「あの呂布がそう簡単にやられるかっての」
「我等とて勝つのは尋常なことではない」
 二階堂も大門もだ。彼女の実力は認めていた。それもかなりだ。
「あの強さは正直なところな」
「天下無双だ」
「その呂布を倒したって。俺達って凄いんだな」
 今度はこんなことを言い出す草薙だった。
「はじめて知ったぜ」
「とにかく。ちょっとややこしいことになったわね」
 神楽は両手を自分の腰に置いて話した。
「この事態は。話し合いだとね」
「解決しにくいか?」
「その可能性があるわね」
 神楽は戦いは避けられないことも覚悟していた。その中でだ。
 華雄はだ。こんなことも言うのだった。
「呂布、無念だったのか」
「それで鬼になったんやな」
 張遼も言う。この国では霊のことを鬼と呼ぶのだ。
「その無念晴らしたるで」
「そこで見ているのだ」
「恋、生きてる」
 しかしだ。呂布は身構えたその二人にだ。
 落ち着いてだ。こう言うのだった。彼女達は馬に乗らずだ。自分達の足で立ってだ。そのうえでお互いに向かい合っているのである。
「死んでない」
「むっ、生きているのか」
「ほんまかいな」
「そう、生きてる」
 また話す呂布だった。
「だから安心していい」
「ねねもなのです」
 陳宮もここで話す。
「ちゃんと生きているのです」
「では何故敵軍にいるのだ」
「捕虜になったんかいな」
「捕虜でもない」
 それも違うという呂布だった。
「恋、自分からこの軍に入った」
「それで今ここにいるのです」
「それは何故だ」
「どういうこっちゃ」
「月、やっぱり捕まってだ」
 呂布はこの事実を話した。
「張譲達に捕まってた」
「そのことは疑っていたが」
「証拠はあるんかいな」
「ある」
 それもだ。あるというのである。
「ちゃんと今ここにある」
「では今すぐそれを出せるのか?」
「そうでもないと信じられへんで」
「月達がここにいる」
 呂布の今の言葉はだ。二人にとってはだ。
 唖然とするに足るものだった。それでだった。
 すぐにだ。呂布に対して問う。詰め寄る顔でだ。
「ではすぐに董卓殿をこちらに」
「出してくれや」
「わかった」
 呂布は頷くとだ。自分の左隣にいる陳宮に顔を向けた。
 そしてそのうえでだ。こう彼女に言うのだった。
「ねね」
「はいです」
 陳宮も頷いてだ。すぐにだった。
 一旦軍の方に戻ってだ。その董卓を連れて来たのだった。
 そこには董白達もいる。三人を見てだ。
 華雄と張遼はだ。すぐにこう言った。
「間違いない、董卓様だ」
「詠も陽もおるで」
「そうよ。僕達連合軍に助け出されたのよ」
 賈駆が二人に話す。
「それで今はここにいるのよ」
「一応は董卓さんは自害したことになっているけれどね」
「それでもだな」
 馬岱と魏延はこっそりとこのことを話した。
「それでもまあね」
「助け出したのは事実だ」
「何と、では最早我等はこれ以上」
「戦う理由ないやないか」
「ねねがきっかけを作ってくれた」
 呂布は陳宮のことを話に出した。
「ねねが恋の為に皆に訴えてくれて恋が今ここにいて」
「そうして董卓様もか」
「助け出してもらえたんやな」
「全部つながってる」
 呂布はまた話す。
「だから恋二人にも兵達にも言う」
「我等にもか」
「もう戦うことはないっていうんやな」
「そう。敵は洛陽にいる」 
 まさにだ。そこにだというのだ。
「後宮にいる張譲達こそが本当の敵」
「だからよ。華雄将軍も霞も」
 賈駆が二人に訴える。必死の顔になっている。
「僕達と一緒に戦って」
「そうしよう、本当にね」
 董白もだった。訴えるのだった。
「敵はあいつ等だからね」
「そうだな。董卓様が助け出されたなら」
「うち等この連中と戦う必要ないわ」
 二人もそれで頷くのだった。
「ではだ。我々もだ」
「この関明け渡して月ちゃん達と一緒になるで」
「何っ、じゃあ俺達もか」
「連合軍に入るでやんすか」
 チャンとチョイがそのことを聞いて瞬時に小躍りした。
「やったぞ!これでもうキムの旦那とジョンの旦那の修業と肉体労働の無限地獄から解放されるんだ!」
「あっし等に幸せが戻ったでやんすよ!」
「それが残念だが」
「ないと思うで」
 すぐにだった。華雄と張遼が二人に言ってきた。
「キムとジョンも一緒だからな」
「肉体労働はなくなっても修業はその分増えるさかい」
「これまでと変わらない」
「そうなるで」
「なっ、俺達の地獄は変わらないってのかよ」
「そういえばあっし等が連合軍に入るってことは」
 チャンとチョイもだ。衝撃の事実に気付いたのだった。
「キムの旦那とジョンの旦那も一緒かよ」
「そうなるでやんすよ」
「そうなるよな」
 山崎もだ。二人のところに来て言う。
「悲しいことにな」
「うう、俺達の幸せって何だろうな」
「最近そんなのあるってわからなくなってきたでやんすよ」
 さめざめと泣きながら嘆く二人だった。
「キムの旦那に強制連行されてからよ」
「途中からジョンの旦那も来てでやんす」
「そっからずっと修業地獄でよ」
「起きてから寝るまで。シゴキでやんすよ
「俺もそうなったからな」
 山崎もだ。二人と同じくさめざめと泣いている。涙が止まらない。
「何でこの世界に来て最初に出会ったのがキムとジョンなんだよ」
「俺なんて気付いたら二人に捕まってたんだぞ」
「わしもだケ」 
 アースクェイクと幻庵も出て来た。
「何もかもが不幸だよ」
「この世界は地獄だケ」
「まあこの連中はな」
「結構自業自得の部分もあるさかいな」
 華雄と張遼もあまり同情はしていない。
「しかし。何はともあれ無駄な戦いは避けられた」
「そのことはええこっちゃで」 
 こうしてだった。華雄と張遼達もだった。
 全軍でだ。連合軍に加わった。虎牢関もだ。無血で開城してだ。何はともあれ戦いは避けられた。そのうえでだった。 
 張遼はだ。まずはあちらの世界の面々と楽しく酒を酌み交わした。その酒を飲みながらだ。ドンファンとジェイフンに対して言うのだった。
「あんた等キムの息子かいな」
「ああ、そうだよ」
「そうなのです」
 二人はだ。焼肉を食べマッコリを飲みながら張遼に答える。
「こっちの世界にも親父がいるって聞いてたけれどな」
「いる場所は違いました」
 こうだ。二人は話すのだった。
「親父はそっちにいるって聞いて袁紹さんのところに入ったんだけれどな」
「まさかここで一緒になるとは」
「縁やな」
 そうだとだ。張遼は話すのだった。
「それはやな。縁やな」
「縁ねえ」
「それでなのですね」
「絆って言ってもええやろな」
 張遼はにこりと笑って右手に持っている木の杯の中の酒を飲んだ。その酒は二人が飲んでいるのと同じマッコリである。右膝を立ててその姿勢で飲んでいる。肴はやはり焼肉だ。
「それやな」
「絆、か」
「父と子のですね」
「そや。親子の絆はやっぱり強いで」
 張遼は楽しげに笑って二人に話す。
「あんた等こっちの世界でもお父ちゃんに会えたんや。幸せやで」
「幸せだったんだ、俺達って」
「だから兄さんはそこでそう言うから駄目なんですよ」50
 ジェイフンは眉を少しいぶかしめさせたドンファンに話した。
「少しはですね」
「ああ、わかったわかった」
 弟の小言にだ。たまりかねて返すのだった。
「それじゃあな」
「おわかりですか」
「ああ、わかってるよ」
 また言うドンファンだった。
「だからな。もうな」
「わかってるんですか、本当に」
「わかってるよ。まあ俺達の他にもな」
「そうですね。チャンさんとチョイさんもおられますし」
 場にhだ。二人もいた。二人は浮かない顔で焼肉を食べ酒を飲んでいる。
 そうしてだ。張遼にこんなことを話した。
「実は俺達ってこの二人とはな」
「長い付き合いでやんすよ」
「ああ、キムの子供やさかいな」
「そうなんだよ。それこそな」
「子供の頃から知ってるでやんすよ」
「いい人達だぜ」
「とても親切ですよ」
 ドンファンもジェイフンも二人については明るい顔で話す。
「いつも俺達と遊んでくれるしな」
「一緒に修業もしています」
「現在進行形なのだな」
 ここで言ったのはだ。右京だった。彼も同席しているのだ。
 それで酒を静かに飲みながらだ。こんなことを話した。
「貴殿等の絆は」
「絆、なあ。そういえばそうなんだよな」
「チャンさんとチョイさんの関係も」
 二人もだ。そのことにも気付いた。
「俺達が会ったのも縁でな」
「それでできるのですね」
「縁は絆になる」
 右京は言った。
「そういうものなのだ」
「そやな。右京ちゃんっていうたな」
「うむ」
 そうだとだ。右京は張遼の言葉に頷く。
 そのうえでだ。彼女にこう返した。
「しかし私をちゃん付けか」
「あかんか?あかんかったら止めるで」
「いや、別にいい」
 こう張遼に返す右京だった。
「中々面白い」
「気に入ってくれたんやな」
「悪い気はしない。しかし絆だな」
「そや、絆や」
 まさにその絆だとだ。張遼も話す。
「それってやっぱり大事やで」
「そうだな。私も絆を築いていっているな」
「あんたも絆があるんやな」
「桂殿に。言うべきだな」
 静かに話すのだった。
「私の想いを」
「ああ、あんた好きなんやな」
 張遼は彼のその言葉からだ。そのことを察したのだった。
「その桂さんって人のこと」
「言えないでいた」
「身分かいな」
「病故だ」
 彼のだ。その病故だというのだ。
「私は長い間胸の病を患っていた」
「労咳やな」
「その病で長い間苦しんでいた」
 そうだったとだ。右京は話す。張遼だけでなくだ。ドンファン達にも話す。
「だが。この世界でそれが癒された」
「ええ医者に出会えたんやな」
「それも縁やな」
「そうなるな」
 右京は張遼の言葉に静かに頷く。酒を飲みながらだ。
「私はその縁からだ」
「その人との絆を作るんやな」
「長く。生きられるようになった」
 それならばだというのだ。
「そうしたい」
「頑張りや。ほなうちもや」
「貴殿もか」
「少しやることあるわ」
 こんなことをだ。急に言い出す張遼だった。
「明日にでも行って来るわ」
「何だ?何かあるのか?」
「何かあるでやんすか?」
「あるから言うんや」
 張遼は杯を手に楽しげに話す。
「折角連合軍に入ったんや。それやったらや」
「じゃあそれを思い切りやるんだな」
「それがいいですね」
 ドンファンとジェイフンはその張遼に楽しげに笑って話す。
「この酒と焼肉たらふく飲み食いしてな」
「気持ちよくです」
「そやそや。何でも気持ちよくや」
 実際にそうすべきだとだ。張遼自身も笑顔で話す。
「やらなあかんさかいな」
「じゃあ俺は今は焼き肉食いまくりだ」
「俺もだ」
「あっしもでやんすよ」
 ドンファンにチャンとチョイも続く。
「久し振りに徹底的に食うか」
「そうするでやんすよ」
 こんなことを話してだ。チャンとチョイはかなり派手に飲み食いをしだした。
 そしてだ。ジェイフンもだった。
 彼も酒を飲みながらだ。右京に話す。
「右京さんも」
「飲むべきか」
「もう御身体は大丈夫ですね」
「そうなった」
 微笑んでだ。ジェイフンに答える。
「幸いなことにな」
「では飲みましょう」
 言いながら早速だった。酒を彼の杯に注ぎ込む。マッコリを。
 そうして自分も飲みこんなことを言った。
「こうして皆さんと飲めるのもまた縁ですね」
「そうそう。全部縁やで」
 また張遼がそうだと話す。
「縁が絆になる。人の世の中ってええもんやで」
 こんなことを話しながらその夜は楽しく過ごしてだった。次の日。
 張遼は先陣の陣地に向かってだ。関羽を捜した。
 相手はすぐに見つかった。丁度天幕の中で朝食の飯を食べている時だった。劉備達他の面々も一緒にその飯を食べている。
 その関羽にだ。こう話すのだった。
「ああ、食うてるんやな」
「むっ、どうしたのだ?」
「食べた後で時間あるか?」
 こう関羽に言うのだった。
「それからな」
「食事の後でか」
「そっからでええわ」
 笑顔で話す張遼だった。
「うちもその間にパンを食べるさかいな」
「パンをか」
「向こうの世界の包やな」
「ああ、包なのか」
「それテリーから貰ったんや」
 そのだ。テリーからだというのだ。
「今からそれを牛乳と一緒に軽く食べるわ」
「ではそれからだな」
「ああ。じゃあ外で待ってるで」
「わかった。それならだ」
 頷いてからだ。関羽はその飯を食べるのだった。その彼女にだ。
 向かいの席に座っている張飛が言ってきた。
「楽しいことになるのだ」
「そうだな。お互いに力を尽くしたいものだ」
 関羽は微笑んで妹に返した。
「是非な。そうしよう」
「それがいいのだ。では鈴々は」
「どうするのだ?」
「普段よりもずっと食べるのだ」
 こう言うのだった。
「いつもの二倍食べるのだ」
「二倍か。朝からか」
「そうなのだ。お腹一杯食べるのだ」
「それはいつもではなにのか?」
「だからいつも以上に食べるのだ」
 早速だ。その飯をお代わりしてだった。
 食べ続ける。そうしてだった。
 おかずも食べる。焼き魚をいつも以上に頬張る。そうしてだった。
 今度はだ。こんなことを言うのだった。
「よく食べてよく動くのだ」
「だからそれはいつもではないか」
「いつも以上なのだ」
 こんなことを話してだった。張飛は確かに食べ続ける。それに対して関羽はいつも通りだ。そうした食事を済ませてからだった。
 関羽は天幕を出た。早速張遼が右手をあげて挨拶をしてきた。
「あらためておはようさん」
「おはよう」
 関羽も笑顔で応える。
「それでははじめるか」
「もうわかってるんやな」
「貴殿が来た時点でわかった」
 こうだ。張遼に話すのである。
「既にな。それではだな」
「お互い手加減はせんでおこうで」
「手加減をして死ぬ訳でもあるまい」
「下手にそうした方が怪我するな」
「そういうことだな。それではだ」
「ここではじめるか。それとも別の場所でするかどうするんや?」
「場所はここでもいいだろう」
 関羽はここでいいというのだった。
「どのみちやることは同じだ」
「そやな。ほなはじめよか」
「うむ。しかし貴殿も酔狂だな」
「酒は好きやで」
「そういう意味ではない。こうして手合わせから望むとはな」
「それが一番ええと思うてな」
 それでだというのだ。
「あかんかな、それは」
「いや、悪くはない」
 それでいいと返す関羽だった。
「私でもそうしていたところだ」
「何や、同じかいな」
「そうだな。同じだな」
 言葉を交えさせながらだ。二人はそれぞれ構えを取った。
 そうしてだ。二人はだった。
 早速勝負をはじめた。それぞれの得物で打ち合う。
 朝にはじまったそれはだ。忽ち百合を超えた。
 それから二百になり三百になりだ。そのうえで。
 五百も超えた。何時の間にかだ。
 劉備達もそれを見ていた。劉備がまず言った。
「何か凄いことになってるけれど」
「そうなのだ。お互い一歩も引かないのだ」
 張飛がその劉備に話す。
「けれどこれでいいのだ」
「いいの?」
「そうなのだ。いいのだ」
 心配する顔の姉にだ。張飛はしっかりとした顔で話す。
「この勝負は殺し合いではないのだ」
「それじゃあ何なの?」
「絆を築く勝負なのだ」
 それだとだ。張飛は話す。
「それなのだ」
「絆をなの」
「張遼は愛紗が大好きなのだ」
 そのことをだ。張飛は本能的に察していたのだ。
 そしてそのうえでだ。こう話すのだった。
「だからこれでいいのだ」
「ううん、私こういうのはわからないけれど」
「安心されよ、それは今わかることだ」
 今度は趙雲が劉備に話す。
「桃香殿は二人の闘いを見守っていてくれ」
「愛紗ちゃんと張遼さんの」
「これは漢の闘いなのだ」
 それだとだ。趙雲は鋭くなった目で話す。
「あらゆる雑念を捨てただ。心をぶつけ合う闘いなのだ」
「そうだな。愛紗も張遼もな」
 馬超もだ。二人の勝負を見て話す。彼女も一歩も動いていない。
「殺意とかは全くねえからな」
「そういえば」
 ここでだ。劉備もそのことがわかったのだった。
「そうした雑念は全くないわ」
「そうだろ。二人はお互いに好きなんだよ」
「御友達としてなのね」
「そう、友達なんだよ」
 それだとだ。馬超は話した。
「だからああして勝負をしてるんだよ」
「大丈夫よ」
 黄忠は優しい微笑みで劉備に話す。
「二人はね」
「ですね。それじゃあ」
「愛紗ちゃんも張遼さんも」
 あの二人はだ。どうかというのだ。
「心を見せ合っているから」
「そうですね。心をですね」
「だから見ていましょう」
「わかりました」
 こうした話をしながらだ。劉備達は二人の闘いを見続けるのだった。
 その闘いは正午、日が高くなってだ。遂にだった。
 二人共同時に倒れ込んだ。そのままお互い大の字になって横たわる。得物は己の傍に置いて。そのうえで二人で話すのだった。
「見せてもらったぞ」
「うちもや」
 二人は満足している声で話す。
「御主の心、全てな」
「こっちもな。あんたの心は」
「どうなのだ?」
「ええわ。やっぱりうちが惚れただけはあるわ」
「私はおなごの趣味はないが」
 こう断ってからだ。関羽も話す。その顔は満足した笑みになっている。
「だがそれでもな」
「うちのこと。好きになってくれたんか?」
「前から気に入っていた」
 そうだったと話してからの言葉だった。
「だが。今はだ」
「余計にやねんな」
「そうだ。さらに好きになった」
 そうなったというのである。
「御主には。全てを許せるな」
「ほな夜一緒に過ごすか?」
「それは駄目だが」
 それでもだというのだ。
「だが。御主にも背中を預けられる」
「そう言うてくれるか」
「真名だが」
 関羽からの言葉だった。
「いいか?」
「授けてくれるんか?」
「そうだ。言わせてもらっていいか」
「有り難いな」
 心から微笑んでだ。張遼も言う。
「そやったらうちから言わせてもらうわ」
「御主からか」
「そや。うちの真名は霞」
 張遼は自分の真名から話した。
「覚えておいてや」
「わかった。では私の真名はだ」
「ああ、何やったかな」
「愛紗だ」
 その真名をだ。関羽は話した。
「覚えておいてくれ」
「わかったで。ほな愛紗」
「うむ、霞」
「腹減ったな」
 自分の頭上にある輝く日輪を見てだ。張遼は言った。
「御昼にするか」
「そうだな。では二人でだな」
「食おうで。たっぷりとな」
「では何を食おうか」
「鍋にせえへんか?」
「鍋か」
「そや、鍋や」
 それはどうかとだ。関羽に話すのだった。
「二人で。いや皆で鍋をつつかへんか?」
「いいな、それでは今からな」
「ああ、食おうで」
 こうした話をしてからだ。二人は起き上がり仲間達に加わりその鍋を食べるのだった。関羽と張遼はだ。今その絆を築き確かなものにしたのだった。


第八十七話   完


                         2011・6・9







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