『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第九十一話  ゲーニッツ、暴れ回るのこと

 都の南に集結している白装束の軍勢、その中でだ。
 社は腕を組み前を見据えながら隣にいるゲーニッツに話した。
「面白い戦いになりそうだな」
「はい、まさに決戦ですね」
「暴れるよな」
「それはお互いのことかと」
 礼儀正しい動作で答えるゲーニッツだった。
「貴方もですね」
「ああ、今から楽しみだぜ」
 社は実際に楽しげな笑みを浮かべて言葉を返す。
「こっちの世界の連中も腕が立つしな」
「しかも私達の世界からもです」
「全員来てるからな」
「楽しみなことが実に多いです」
「で、どうやって暴れるつもりなんだ?」
 社はゲーニッツにだ。どうした暴れ方をするのかも問うた。
「風を使うのは当然にしてもな」
「色々と考えています」
「色々とか」
「どうして戦うのかを考えるのもまた楽しみです」
 ゲーニッツも前を見ていた。目の前にいる連合軍を見てだ。
「さて、それではです」
「いよいよ決戦だな」
「そうなります」
「若しもです」
 二人のところに影の様にだ。于吉が現れて言ってきた。
「ここでことが成就せずともです」
「何だ?不吉なことを言うな」
「若しここで敗れてもですか」
「はい、それでも次の手は用意してあります」
 そうだというのである。
「しかも三つです」
「あら、それはまた随分と手が込んでいるわね」
「三段の備えなんて」
 バイスとマチュアもだった。影から出て来ての言葉だった。
「ここで失敗しても備えはあるなんて」
「慎重なのね」
「ことを為すにはあらゆる事態を想定していかなければなりません」
 于吉は思わせぶりな笑みも浮かべてバイスとマチュアにも話す。
「既に定軍山と赤壁にです」
「西と南ね」
「それぞれなのね」
「ここから見ればそうなりますね」
 定軍山と赤壁の場所、それはそこにあるということも確認される。
「定軍山には隠れる場所とあらかじめ念を集める場所を置いています」
「若しもここで敗れあの本に何かあっても」
「その場合でもなのね」
「はい、置いています」
 そのだ。定軍山にだというのだ。
「そして赤壁にもです」
「あの場所は確かじゃ」
 朧が言う。やはり何時の間にか出て来ていた。
「長江の。あそこじゃな」
「はい、水です」
 于吉はその赤壁についても話すのだった。
「あの場所に私達がいるという話を流してです」
「成程のう。それであの者達を呼び出してじゃな」
「そこで皆殺しにします」
 于吉の笑みに邪悪なものが宿る。ドス黒い、闇の笑みだ。
「その断末魔の念を集め邪魔者も消します」
「いい考えじゃ。それも置くのじゃな」
「はい、既に置いています」
 赤壁にもだ。備えは置いているというのだ。
「これが二つ目です」
「で、最後は何だ?」
 社がその三段目を于吉に問うた。
「山と水に続いては」
「草原です」
 そこだというのだ。
「北の草原にあります」
「ほほお、それでか」
 朧は于吉の今の話を聞いて面白そうに笑って述べた。
「わしをあそこに行かせたのか」
「そうです。朧さんには下地を作ってもらいました」
「ああして乱を起こしてじゃな」
「若し赤壁でことが為らなければです」
「北で起こすか」
「あの地全体に。私の世界の念を直接つなげさせています」
「それは俺がした」
 左慈も出て来た。やはり影の如く。
「俺達の仲間達の力も使ってな」
「そちらの世界のじゃな」
「そうだ。そうした」
 左慈は朧の問いに答える。
「赤壁でしくじったらすぐにそれをはじめてだ」
「そこで決戦を挑みです」
 于吉もこのことを話す。
「彼等を消し去りこの地に負の念を送り込み」
「この世界を破壊と混沌が支配する世界にするんだな」
「はい、貴方達も望まれるそうした世界にです」
 于吉は社に話すのだった。
「そのつもりです」
「俺達はあれなんだよ」
 社は完全にオロチ、人とは違う存在として話すのだった。
「人間の世界、文明ってやつをな」
「否定されていますね」
「ああ、言うなら俺達は自然そのものなんだよ」
「自然、破壊と混沌ですね」
「俺達が考える自然はそれだ」
 それはだ。原初であった。そうした意味での自然なのだ。
「そういうものだからな」
「だからこそですね」
「あんた達もそもそもそうだよな」
「はい、私達はそれと自然と呼びませんが」
「目指すものは同じだな」
「邪神、そうした言葉がありますが」
 于吉はだ。そうした言葉も出したのだった。
「私達をそう呼ぶ言葉もありました」
「邪神か」
「ははは、よい響きの言葉です」
 その邪神という言葉を喜んでさえいる于吉だった。
「人間の世界、下らない世界なぞ破壊するべきですから」
「そういうことです。文明なぞ唾棄すべきものです」
 礼儀正しい。だがそこにあるものは無限の侮蔑、それがゲーニッツの言葉だった。
「人はそれを知りあらゆるものを忘れ歪んできました」
「だからなんだな」
「はい、私達はその文明を根絶します」
 ゲーニッツもまたオロチとして話す。
「そしてその一環として」
「俺も働かせてもらう」
 刹那だった。この男もいた。
「この世を破壊し。常世とつなげる」
「この世を冥府にされますね」
「それもまた破壊と混沌だな」
「はい、そうです」
 于吉は刹那のその考えもよしとするのだった。
「その通りです」
「ではだ。そうさせてもらう」
「是非。そうして下さい」
 にこやかに刹那の言葉を認めるのだった。
「それもまたよしです」
「そうね。破壊と混沌はいいもの」
 ミヅキまで来た。異形の者達が揃った。
「それにこそ真実があるもの」
「さて、それではです」
「進みましょう」
 こう話してだった。彼等は戦に挑むのだった。今戦いがはじまろうとしていた。そしてその彼等の上でだ。空を飛ぶ者達がいた。
 アルフレドに乱鳳、それに眠兎だった。普通に空を飛びだ。白装束の軍を上から見てだ。そのうえで話をしていた。
「やっぱり多いね」
「五十万、普通にいるな」
「しかも全員揃ってるよ」
 三人はそれぞれ話す。
「何か他にもいるみたいだけれどね」
「ちっ、隠れてるのかよ」
「相変わらずずるい奴等ね」
「それでもね」
 アルフレドは乱鳳と眠兎にまた話す。
「この戦いには絶対に勝たないといけないからね」
「っていうか負けるのは大嫌いだからな」
「あたしもね」
 責任感はないがこうした考えは持っている二人だった。
「だったら。やるか」
「陣に戻ってからね」
「よし、じゃあ戻ろう」
 また言うアルフレドだった。
「まずはね」
「よし、それじゃあ本陣に戻って」
「報告しよう」
「しかし。フリーマンやそうした連中もいるなんてね」
 アルフレドは赤髪の怪しい男の姿も確認していた。
「それにホワイトにルガールも」
「それにネスツとかもだろ?そっちの世界の連中も」
「一杯いたけれど」
「うん、向こうもオールスターだよ」
 いい意味でのオールスターではない。逆の意味である。
「これは大変な戦いになるね。わかっていたけれど」
「楽しい戦いになるぜ」
「うん、とてもね」
 アルフレドと彼等の感性は違っていた。だがそれでもだった。
 彼等は一旦陣に戻りだ。そのうえで全てを報告した。ホワイトの話を聞いて怒ったのはビリーだった。
「あいつまで来ていたのかよ」
「うん、いたよ」
 大地に戻っていたアルフレドは怒るビリーにさらに話す。
「勿論他にもね」
「フリーマンねえ」
 ジェニーはフリーマンについて言及した。
「生きているとは思っていたけれどね」
「こっちの世界にも来ていたか」
 ロックも忌々しげに話す。
「それならな」
「倒す。選択肢はこれだけよ」
 ジェニーの言葉は至ってシンプルだった。
「そうしましょう」
「さて、それではだ」
 関羽が一同に言う。
「出陣だ。我々は別働隊として行く」
「別働隊は劉備さんの軍全部と董卓さんの軍の精鋭だったよな」
「うむ、そうだ」
 ビリーに答える関羽だった。
「そして貴殿等の世界の精鋭達もだ」
「私もそれに参加する」
「私もだ」
 ギースとクラウザーだった。華陀と行動を共にする彼等も参加しているのだ。
「そうさせてもらう」
「是非な」
「まさかここでギース様と出会うなんてな」
 ビリーはいささかバツの悪い顔で苦笑いを浮かべた。
「おられるとは思っていたけれどな」
「実は我々もだ」
「いたりするのだ」
 サングラスの二人の男だ。一人はスキンヘッドである。
「実はギース様とだ」
「行動を共にしてたのだ」
「誰なんだよ、あんた達」
 アクセルがその二人を見て怪訝な声で問うた。
「急に出て来たけれどよ」
「まさかと思うが劉備殿のところにいる」
 ローレンスはよりによって彼女の名前を出す。
「あの何とかとかいう」
「ええと、西園寺だったかな」
 アルフレドはこの名前を出してしまった。
「ワールドだったっけ。その人だよね」
「ああ、あの白馬に乗ってるか」
「あの人だったな」
 アクセルもローレンスも彼女の名前を覚えていない。覚えられないのだ。
「何か影が薄くてな」
「いることすら気付かないが」
「そういう人っているからな」
 勿論ビリーも知らない。知らないうえでの言葉だ。
 そしてあらためてだ。彼は二人を一同に紹介した。
「ホッパーとリッパーっていうんだよ。俺よりもずっと古くからギース様の側近を務めているんだよ」
「では悪人なのだ」
 張飛はすぐにこう断定した。ギースのことは彼女も聞いているのだ。
「悪い奴の手下なら悪い奴に決まっているのだ」
「否定はしないが」
「そこまで率直に言うのか」
「けれど悪い奴なのだ。その姿が何よりの証拠なのだ」
 黒いスーツにサングラス、二人の姿は如何にもだった。これでは否定のしようがない。しかもその全身から出ているオーラもだ。そのものだった。
「出来れば懲らしめたいのだ」
「糞っ、出て来ていきなりこう言われるのか」
「これが俺達の運命か」
「しかし悪人なのは確かだ」
 関羽もこのことを言う。
「それはわかる」
「悪事を一杯してきたのだ」
「それはその通りだ」
 彼等の主であるギース自身が認めることだった。
「私は頂点に立つまでに様々なことをしてきた」
「そうだな。それは俺も聞いている」
 ロックも言う。
「息子としてな」
「そうだったな。貴殿の父だったな」
「こいつがなのだ」
「そうさ。とはいっても実際に話したことは全くないんだよ」
 そうした父子なのだ。
「こいつが俺の縁者なのも知らなかった」
「私は知っていた」
 ロックの後ろにいて彼の人差し指での指し示しに応えたのはカインだ。
「それもよくな」
「俺があんたの甥にあたることもだな」
「そうだ。よくだ」
「因果な話だ」
 ロックは少しバツの悪い顔になって言った。
「俺の周りはそうした話ばかりだ」
「それが君の運命なのだ」
 カインはそのロックに静かに告げる。
「だがそれでも君は彼と共に行くか」
「ああ、テリーとな」 
 彼が選んだ選択はそちらだった。
「一緒に行かせてもらう」
「ならそうするといい。私はだ」
「あんたはどうするんだ?」
「私は私でやることがある」
 こうだ。彼は遠くを見る目でロックに話す。
「それをさせてもらう」
「私もだ」
 そしてだ。それがギースもだった。全身にオーラを纏い話すのだった。
「頂点に立った。だがその頂点はだ」
「権力ではなかったのだな」
「それがわかってきた」
 クラウザーに、何よりも憎んできた腹違いの兄弟への言葉だった。
「無論今の権力を手放すつもりはないが」
「だが真の頂点を目指すか」
「そうする」
 これがギースの今の考えだった。
「私はな」
「拳。真の力での頂点をだな」
「それを目指す」
 これがだ。ギースが真に目指すものだった。彼もそのことに気付いたのだ。
「是非共な」
「やはり。同じなのだな」
 クラウザーはギースの言葉を聞いてだ。彼もだというのだった。
「私もだ。目指すものはだ」
「頂点か」
「それだ」
 まさにだ。それだというのである。彼もまた。
「ではだ。やがてはだ」
「再び拳を交えるか」
「その時が来ればな」
「私も。わかってきた」
 次はカインだった。彼も同じだった。
「私の理想がだ」
「理想か」
「そうだ。私の理想は何か」
 ロックに対しての言葉である。
「それは力が支配する。餓狼の世界を創ることではなく」
「別のものだっていうんだな」
「それがわかった」
 そうだというのである。
「具体的にはそれだとはまだ言葉には出せない」
「ある程度わかってきただけだな」
「それがこの世界でわかった」
 この世界に来てだ。カインも変わったのである。
「後はそれが何かをグラントと共に探す」
「そうするか」
「そうさせてもらう。さて、話はこれ位にしてだ」
「御前達を成敗するのだ」
 まだホッパーとリッパーに言う張飛だった。
「さあ、覚悟するのだ」
「おい、冗談だろ」
「俺達は今味方だぞ」
「勿論本気なのだ」
 しかしまだ言う張飛だった。その手には蛇矛が握られている。
「本気で冗談を言っているのだ。御前達は悪い奴でもそこから変わろうとしているのだ」
「おっ、それがわかるのか」
「ちゃんとわかるんだな」
「そうなのだ。鈴々もそういう奴はやっつけないのだ」
「人を見る目はあるんだな」
「あんた、意外と鋭いようだな」
「確かに鈴々は馬鹿なのだ」
 自分でわかっていると言えた。
「けれど自分の目には自信があるのだ」
「それでわかるっていうのか」
「俺達の目は」
「そう、目がいいのだ」
 その目の話をさらに続ける張飛だった。
「それこそ千里先の針まで見えるのだ」
「いや、それは無理だろ」
「人間の目ではないぞ」
 ホッパーとリッパーは張飛の今の言葉にすぐに突っ込みを入れた。
「まあとにかくだ」
「そういうのはわかるんだな」
「あと御前達はそこの袴に忠誠を誓っているのだ」
 今度はギースを見て言う張飛だった。
「それも絶対的なものなのだ」
「ああ、俺達の主はギース様しかいない」
「他の誰でもないさ」
 そのことにも答える二人だった。
「やっぱりな。ギース様がおられないとな」
「俺達は誰にも仕えないからな」
「言うものだな。私は誰の面倒も見ないのだがな」
 ギースは含み笑いで言う。
「それでも言うのか」
「言わせて頂きます」
「そして行動でも」 
 二人は微笑んでそのギースに答える。
「これからもお傍にいさせてもらいます」
「そして共に」
「私は幸せ者と言うべきか」
 ギースは二人のことばを受けて今度は目を閉じて微笑む。そのうえでの言葉だった。
「周りに何かといるな」
「俺もいるぜ」
 テリーだった。彼も来たのである。
「やっぱりこっちに来てたんだな」
「貴様もいたのか」
「ああ、来てたんだよ」
 こう返すテリーだった。
「暫く見ないうちに結構丸くなったようだな」
「二度程度死んだせいか」
「それもあるかもな。けれどな」
「それに加えてこの世界に来てか」
「ああ、随分変わったみたいだな」
 今のギースを見てだ。こう言うのである。
 そしてだ。テリーはさらにだ。ギースにこうも言った。
「しかしな」
「今度は何だ」
「俺はあの時手前を倒した」
 かつてのだ。ギースタワーでの戦いのことだ。
「俺は手を差し出したがな」
「あの時のことか」
「何で手を振り払ったんだ?」
 問うのはこのことだった。
「それで落ちたんだ?」
「知れたこと。私は誰の助けも必要としない」
 それでだというのだ。
「だからだ」
「それで死んでもよかったっていうんだな」
「それで死んだとしてもそれまでのことだ」
 非常に素っ気なくだ。言うギースだった。
「だからだ」
「それでか」
「そうだ。ましてや貴様はだ」
「仇だっていうんだな」
「その貴様の助けなぞ借りはしない」
 ギースは不敵な笑みに戻ってだ。目を閉じテリーにやや背を向けて話すのだった。
「それだけのことだ」
「へっ、そうなのかよ」
「そうだ。そしてだ」
「また闘うっていうんだな」
「何時でも来るのだ」
 背を向けたままの言葉だ。
「遠慮なく倒してやろう」
「いいのか?また俺にやられるぜ」
「安心しろ。私は同じ相手に何度もやられはしない」
「だからだっていうんだな」
「特に貴様にはだ。敗れることはない」
「その言葉偽りじゃないんだな」
「そういうことだ。では待っているぞ」
 こうテリーに告げてだ。そのうえでだ。
 ギースはその場を去りにかかった。ホッパーとリッパーが従う。
 その後姿を見てだ。テリーは言うのだった。
「相変わらずだな。ああしたところはな」
「そうなのか」
「ああ、ずっとああいう奴だ」
 こうだ。関羽に軽口と共に話すのである。
「ひねくれてるっていうかねじれているというかな」
「ねじれているのだ」
 張飛はそれだと断言した。
「あいつはそういう奴なのだ」
「わかるんだな」
「さっきも言ったけれど自分の目には自信があるのだ」
 こうテリーにも言うのである。
「だからわかるのだ」
「それでなんだな」
「あいつは寂しい奴なのだ」
 ここで張飛の目が鋭くなる。
「常に何かに餓えているのだ」
「それもわかるんだな」
「わかるのだ。とても寂しい奴なのだ。そして」
「そして?」
「御前もなのだ」
 急にだ。クラウザーにも話を振る張飛だった。
「御前も寂しい奴なのだ」
「私もか」
「二人共寂しいものを宿らせているのだ。多分親のことなのだ」
「そこまでわかるのか」
「そういう奴を見たことがあるのだ」
 見たものを忘れない。張飛は記憶力もよかった。
「だからわかるのだ」
「そうか。親か」
「子供は親から離れるものなのだ」
 張飛の言葉はいささか説教めいたものになってきている。
「だからもうそうするのだ」
「そうだな。私もな」
 クラウザーも目を閉じだ。微笑みつつ言うのだった。
「いい加減にな。前に進むべきだな」
「あの袴は悪い奴だが御前は違うのだ」
「私は悪ではないのか」
「そうだ。悪ではないのだ」
「おい、こいつはあれだぞ」
 ここで言うテリーだった。クラウザーはどうかとだ。
「欧州の影の世界で生きる。裏のボディーガードなんだぞ」
「そうだよ。ドイツに代々続いているお貴族様でな」
 イギリスの下町出身のビリーの言葉にはいささか悪意があるようだ。
「表向きは伯爵様だけれど裏じゃそうした護衛役をしてるんだよ」
「それで代々隠然たる力を持っていた」
 ローレンスも話す。
「闇の帝王とさえ呼ばれている」
「それは住んでいる世界がそうであるだけなのだ」
 しかしだ。張飛はそのことにも惑わされず言い切った。
「こいつは決して悪人じゃないのだ」
「その言葉キムに聞かせてやりたいな」
 アクセルは張飛の今の言葉にしみじみとした口調で言った。
「あいつは裏の世界の護衛役っていうだけで悪ってみなしてたからな」
「あいつはなあ。偏見強いからな」
「我々も悪とみなされたからな」
 そのことは三闘士も同じだった。ビリーとローレンスの今の言葉は困ったものになっている。
「悪ってみなしたら速攻で捕まってな」
「修業地獄行きだ」
「俺も危うく捕まるところだったからな」
 それはアクセルも同じだった。彼も仲間達と同じ顔になっている。
「世界チャンプにカムバックして何とか助かったがな」
「俺もやばかったか?」
 ここで言うのはミッキーだった。
「汚い仕事でボロ儲けしてたからな」
「ああ、あれだな」
 ジョンもいた。ミッキーは当時軍にいた彼と組んで軍の武器の横流しをしていたのだ。無論悪事でありかなり儲かる仕事でもある。
「あれは確かに儲かったな」
「それってやっぱりキムから見ればだよな」
「悪だな」
 テリーははっきりとミッキーに告げた。
「あんたもやばかったな、そりゃ」
「だよな。ああはなりたくねえからな」
 ミッキーは真顔で言う。
「チャンやチョイみたいにはな」
「ああ、それであの連中今何処にいるんだ?」
 ロックが彼等の行方について問う。
「生きてるよな」
「相変わらずだな」
 テリーは彼等の行方についてこうコメントした。
「最前線でこき使われてるぜ」
「ああ、やっぱりそうなんだな」
「キムは容赦しねえからな」
「ううむ、あれはかなりな」
 関羽もだ。首を捻り眉をやや顰めさせて言う。
「やり過ぎだ」
「けれど言って聞く人じゃないからな」
「そうなのか」
「昔からなんだよ。しかしギース達は変わってもな」
「それでもか」
「あの人だけは全然変わらないな」
 テリーの言う通りだった。キムは今もだ。最前線でチャン達をこき使いだ。こう言っていた。
「さあ、戦いになればだ!」
「俺達が先陣っていうんですかい」
「そうでやんすね」
「そうだ。悪を討つ!」
 彼だけ妙にテンションが高い。言いながら偵察をしている。
「いいな。この戦いにこの世界がかかっているのだ!」
「それはいいんですけれどね」
「あの、あっし等今は」
「むっ、どうしたのだ?」
「朝は肉体労働で」
「今偵察してるでやんすよ」
 つまりだ。休むことなくこき使われているのだ。
「それで帰ったら戦場なんですか」
「凄くハードでやんすよ」
「それがどうかしたのか?」
 キムだけが何でもないといった口調である。
「普通のことではないのか」
「そうですか。普通なんですか」
「旦那にとっては」
「そうだ。帰ったら昼食だ」
 流石に食事は忘れない。しかしそれでもだった.
「食べたらすぐに戦場に向かうぞ」
「本当に休まない旦那だよな」
「ジョンの旦那もでやんすけれど」
 見ればだ。ジョンもいた。彼は山崎達を連れてだ。同じく偵察をしている。
 その中でだ。ジョンもキムと同じことを言っていた。
「さあ、帰れば食事、そして戦いです」
「だから俺達何時休めばいいんだよ」
「この旦那本当の鬼だろ」
 山崎に臥龍がそれぞれ困り果てた顔で言う。
「ったくよ、こっちの世界に来ていいことなんて何もないな」
「早く帰りてえな」
「皆さん頑張りましょう」
 やはりジョンだけが元気だ。
「この世界の為に」
「へいへい、わかってますよ」
「頑張らないと速攻で蹴られるしな」
 そんな鬼の如きスパルタ教育が続けられるのだった。そしてだ。
 遂に戦いがはじまる。まずはだ。
 袁紹や曹操達が率いる主力部隊がだ。敵軍に向かって進軍をはじめた。
「全軍進撃!」
「いくわよ!」
 袁紹と曹操はそれぞれ剣と鎌を掲げて指示を出す。
「この戦いに全てがかかっていますわよ!」
「天下の平穏、取り戻すわよ!」
 こう言ってだ。早速だった。
 袁紹は馬を飛ばそうとする。しかしそれはだった。
 即座にだ。夏侯惇と夏侯淵に止められた。
「御待ち下さい」
「予想通りの行動はしないで下さい」
「むっ、今こそ私が前に出て」
「ですから。総大将ですから」
「本陣で全体の指揮を御願いします。
 夏侯惇もここまでは正論だった。しかしだ。
 彼女もだ。結局こう言い出すのであった。
「ここは私が先陣を務めます。ですからいざ」
「待て姉者」
 夏侯淵は今度は姉を止めることになった。
「姉者は本陣の護衛だぞ。それで何故先陣を言い出すのだ」
「私が先陣でなくてどうするのだ」
 まだ言う夏侯惇だった。
「やはりここはだ」
「だから留まってくれ。既に先陣は出ている」
「誰だ、それは」
「公孫賛殿だ」
 彼女がだというのだ。
「それはもう決まっているではないか」
「誰だ、それは」
 夏侯惇は真顔で妹に問い返した。
「聞いたこともない名前だな」
「本当に知らないのか?」
「知らぬ。先陣は夏瞬と冬瞬ではなかったのか」
「ああ、そういえばね」
「そうでしたわね」
 曹操と袁紹もだ。ここで顔を見合わせて話すのだった。
「あの赤い髪の娘をね」
「どなたか存じませんが先陣を名乗り出たので」
「それで決めたわね」
「今まで夏瞬さんと冬瞬さんと思っていましたわ」
「何故御二人も御存知ないのだ」
 夏侯淵もこのことには唖然だった。
「決まったというのに」
「だから誰よ、その公孫何とかって」
 荀ケもだ。顔を顰めさせて夏侯淵に問い返す。
「聞いたことないけれど」
「軍師の御主まで言うか」
「だから。誰の配下なのよ」
「劉備殿の客将だ。それで前の幽州の牧だった」
「劉備殿の配下なら皆知ってるけれど」
 ここまでは軍師として当然のことだった。しかしだった。
「そんな名前の将知らないわよ。あっちの世界の人でもいないわよ」
「こちらの世界の者だが」
「それで幽州の牧って」
 今度はこのことについて言う荀ケだった。
「ずっといなくて袁紹殿がなったんじゃない」
「そうですわ。わたくしが異民族討伐の功で任じられたのですわ」
 袁紹自身も眉を顰めさせながら言う。
「あの州にはそれまで牧はいませんでしたわ」
「そうよね。秋蘭もおかしなことを言うわね」
 当然ながら曹操も知らないのだった。
「そもそも公孫賛って何者なのよ」
「とにかくだ。そのよくわからないのが先陣なのか」
 まだ言う夏侯惇だった。
「我等は先陣にはなれないか」
「そのうち嫌でも戦うことになるわ」
 曹操は残念がる夏侯惇を宥める様にして述べた。
「安心しなさい」
「わかりました。それでは」
 夏侯惇もようやく大人しくなった。曹操はそれを見てから返す刀で袁紹に言うのだった。
「貴女もよ。嫌でも戦うことになるわ」
「わかりましたわ。それではですわね」
「ええ、今はどっしりと構えましょう」
 曹操は前を見据えながら袁紹達に言う。
「戦いははじまったばかりよ」
「そうですね。これからですね」
 荀ケも頷く。そしてその目の前では。
 戦いがもうはじまっていた。公孫賛は剣を手に白馬に乗りながら指揮している。
「進め!歩兵は前に進め!」
「では騎兵は!」
「どうされますか!」
「それぞれ左右から攻める!」
 そうするとだ。兵達に言うのである。
「わかったな。そうするぞ!」
「了解、それでは!」
「そうしましょう!」
「この戦いで決まる」
 彼女もだ。このことはわかっていた。
「だからこそだ」
「はい、それでなのですが」
「敵もまた」
 来ていた。そしてその先頭にはだ。
 青い服の顎鬚の男がいた。男は不敵な笑みを浮かべて呟いた。
「楽しいゲームのはじまりです」
「その通りだ」
 隣にいる刹那が彼の言葉に頷く。
「好き放題やらせてもらおう」
「それではです」
 ゲーニッツが左手を手首のスナップを利かせて上にやった。それと共に言う言葉は。
「そこですか!?」
 それだけでだ。竜巻が起こりだ。連合軍の兵達を吹き飛ばす。
 それが次々に出されてだ。連合軍を撃つ。それを見てだ。
 連合軍の動きが止まった。公孫賛もその竜巻に唖然となる。
「何だ!?何が起こっているのだ!」
「将軍、あの男です!」
「あの男がです!」
 士官達がすぐに驚いている彼女に言う。
「竜巻を起こしています!」
「その手首を動かしただけで!」
「そうか、あいつか!」
 ここで草薙達の話を思い出す公孫賛だった。
「あいつがあのゲーニッツか!」
「ゲーニッツ!?」
「ゲーニッツといいますと」
「オロチ一族八傑集の中でも最強の四人の一人!」
 それだというのだ。
「四天王、吹き荒ぶ風のゲーニッツだ!」
「それがあの男ですか」
「あの竜巻を起こしている」
「くっ、向こうはあいつが先陣か!」
 公孫賛は歯噛みして言った。
「まずいな」
「大変です!兵達がです!」
「次々と吹き飛ばされています!」
 公孫賛が歯噛みする間にもだ。ゲーニッツの竜巻は次々と起こりだ。
 連合軍の兵達を吹き飛ばす。それを見てだ。
 公孫賛は自ら馬を出そうとする。だがここでだ。
「いや、俺達が行く」
「やらせてもらうわ」
 草薙と神楽だった。二人が出て来て言うのだった。
「オロチを倒すのは俺達の仕事だからな」
「ここは任せて」
「貴殿等がか」
 公孫賛は馬を止めて二人に言った。
「やってくれるのか」
「最悪でも足止めにはなるぜ」
「そうさせてもらうわ」
「無理だな」
 不意にだ。何者かの声がしてきた。
「御前等では無理だ」
「へっ、相変わらず絶好のタイミングで出て来るな」
「来たのね」
「あいつは好かん」
 こうも言ってだ。出て来たのは。
 八神だった。彼が出て来てそうして言うのだった。
「オロチ自体がだ。俺は嫌いだ」
「嫌いだからか」
「それで今はあの男と」
「俺は俺でやらせてもらう」
 共闘するとは言わない。それが八神だった。
 その彼がだ。さらに言うのだった。
「それでいいな」
「ああ、別にな」
「それでいいわ」
 八神のことを知っている二人もだ。それでいいとした。そしてだ。
 二人、それに加えて八神も前に進んでだ。ゲーニッツに向かうのだった。その彼等を見てだ。ゲーニッツも竜巻を止め楽しげな笑みで言った。
「おや、早速ですか」
「ああ、手前がいるのならな」
「戦わせてもらうわ」
 草薙と神楽は二人並んでいる。無論その横には八神もい。
「オロチ一族の中でもずば抜けた強さを持つ手前はな」
「ここで封じておきたいから」
「死ね」
 八神はゲーニッツを見据えて告げた。
「この俺が焼き尽くしてやる」
「おやおや、物騒なことですね」
 ゲーニッツはその彼等にも楽しげな笑みを浮かべる。
「しかしそれがいいです」
「いっていうのかよ」
「戦いは最高の娯楽です」
 その考えが実によく出ている言葉だった。
「それが思う存分楽しめるのですから」
「へっ、オロチは何処に行ってもオロチだな」
 草薙は八神の今の言葉に目を鋭くさせる。
「戦いが好きなんだな」
「戦いは好きです」
 ゲーニッツもそのことを否定しない。不敵な笑みと共に。
 だがそのうえでだ。こうも言うのだった。
「しかしそれ以上にです」
「破壊か?それとも混沌か?」
「自然の。世のあるべき姿が好きなのです」
 不敵なものをさらに深くさせて。そうして言うのであった。
「それが私達です」
「オロチかよ」
「そう、オロチの力をこの世界でも出しましょう」
 こう言ってだ。三人が囲むのを見ながらだ。
 悠然とだ。また右手をスナップさせた。するとまただった。
 竜巻が起こった。それが三人を襲う。
「さあ、はじめましょう!」
「いつものことだな」
 八神はその竜巻を両手でガードしつつ防ぎながら言った。
「貴様の攻撃は」
「おや、わかっているというのですか」
「一度戦えばわかる」
 そうだというのだ。
「貴様のやり方もだ」
「だからこそ慣れているのですか」
「そういうことだ。ではだ」
 竜巻を防ぎそのうえでだ。
 八神は右手を下から上に振った。それと共にだ。
「どうした!」
 この言葉を叫んだ。すると地面に青い炎が起こり。
 地を走りゲーニッツに向かう。それは草薙も同じだった。
「喰らえーーーーーーっ!」
 彼は左手を大きく下から上に振った。彼の炎は赤い。
 その二つの炎がゲーニッツに向かう。それで焼こうとする。
 だがその炎はだ。二つの竜巻によって。
 打ち消された。ゲーニッツも読んでいたのかすぐに竜巻を起こしたのだ。
 その二つの炎を消してからだ。ゲーニッツは悠然として言うのだった。
「御見事です」
「どうやらな」
「前よりも強くなってるみてえだな」
 二人はゲーニッツのその動きを見てこのことを察した。 
「これはかなりな」
「殺しがいがある」
「さて、お二人の他にもですね」
 ゲーニッツは神楽も見た。そのうえでまた言う。
「貴女もまた」
「姉さんの仇、いえこの世界においても」
「私を封じるというのですね」
「そうさせてもらうわ」
 こう言ってだ。舞を舞う様にしてだ。
 一気に間合いを詰め攻撃を繰り出す。そこに草薙と八神もだ。
「ボディがら空きだぜ!」
「ぐうううおおおおおおおおっ!死ねえええええええっ!」
 突進する。三人の戦いが続く。 
 そしてだ。刹那にはだ。
 守矢が剣を手にしてだ。そのうえで対峙していた。
「今度は月には手を汚させん」
「貴様だけでか」
「必要とあらばな。しかしだ」
「しかしか」
「私だけではない」
 彼がだ。こう言うとだ。
 刹那の周りに四人が来た。彼等は。
「さて、やはりいたのう」
「予想はしていた」
 まずは翁と示現が言う。
「刹那、この世界でもまた」
「常世につなげるというのか」
「そうだ」
 その通りだとだ。刹那も二人に言葉を返す。
「それが俺の役目なのだからな」
「それなら」
「我等も我等の役目を果たそう」
 楓と嘉神が剣を構える。
「今度は。姉さんの力を借りずに」
「我等の力だけで貴様を封じる」
「それができるのか」
 鋭い目で言う刹那だった。闇の光がそこにある。
「貴様等に」
「できるから言っているのだ」
 嘉神は刹那を睨み返して言う。
「こうだ」
「貴様等の命でか」
「安心しろ。命をかけはしない」
「その通りじゃ。御主を完全に封じる」
「完膚なきまで倒してです」
 翁と。今度は虎徹だった。
「そのうえで二度と蘇られぬようにしてじゃ」
「封じるのです」
「俺を完全に倒すか」
 笑っていない。言葉も表情も。
「言うものだな」
「言葉は言うだけじゃない」
 楓の髪は既に金色になっている。戦場にその輝きが映える。
「実際のものにするものでもある!」
「その通りだな。では楓」
「うん、兄さん」
 楓は兄の隣に来た。そうしてだった。
「我等の力でだ」
「刹那を完全に封じる!」
 彼等の戦いもはじまるのだった。
 戦いは兵達の間でもだった。激戦になっていた。
「くそっ、何て数だ!」
「しかもこいつ等強いぞ!」
「影みたいな動きしやがる!」
「何者なんだ!」
「これがだ!」
 高覧がだ。その彼等に言う。彼女もその得物を振り回している。
「白装束の者達だ!」
「こいつ等本当に何者なんですか」
「妙に強いですけれど」
「確かにな」
 馬上から得物を繰り出しながらだ。高覧は兵達に答える。
「尋常な強さではない」
「これはまずいですかね」
「辛い戦になるんじゃ」
「なったとしてもだ」
 それはだ。もう覚悟しているという言葉だった。
 言いながらも得物を振るいだ。高覧は言うのであった。
「我等は勝つ」
「勝ちますか?」
「絶対にですよね」
「そうだ、絶対にだ」
 その言葉にぶれはなかった。確信している言葉だった。
 その言葉でだ。高覧は兵達に命じた。
「いいか、一対一では戦うな!」
「二人か三人で」
「それで一人を」
「弓も使え!」
 飛び道具も忘れてはいない。
「奴等は剣だけだ。間合いを考えて攻めよ!」
「わかりました!」
「それなら!」
「剣だけならば限りがある」
 攻めるのにだ。確かに彼等の剣は短い。それと兵達の槍を比べればだ。確かにそれだけでかなりの違いがあるのがわかる。
 高覧もそれを見てだ。兵達に命じたのである。
「わかったな」
「ええ、それじゃあ」
「今はこうして」
「無敵の兵なぞいない」
 高覧の言葉は揺るがない。
「必ず倒せる」
「ですね。それじゃあ」
「今は辛くても」
「それを覆す!」
 高覧は叫んだ。
「必ず勝つぞ!」
「はい!」
 連合軍の士気は高かった。そのうえでだ。彼等は戦い抜くのだった。


第九十一話   完


                       2011・6・18



いよいよ激突の時。
美姫 「共に策を練り、罠を張り」
どちらが勝ち、これからどうなるのか。
美姫 「非常に気になる大戦ね」
今回もまた、続きは。
美姫 「この後すぐよ!」



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