『オズの五人の子供達』




              第五幕  オズのオズマ姫

 お部屋に入るとです、そのお部屋は。
 これまで以上にエメラルドで飾られていて緑の太陽の様に眩しいです。しかも大理石も鏡の様にあらゆるものを映す程綺麗です。緑の絹のカーテンにも小さなエメラルドが星の様に散りばめられていてシャングリラも緑の水晶です。
 そのお部屋の奥に玉座があります、エメラルドで造られた玉座です。
 その玉座に五人より幾分年長と思われるとても気品のある優しげな女の子が座っています、長く波立っているブロンドの髪を白いヴェールで覆っています。青い目はまるでサファイアです。
 白く綺麗な顔はまるでお人形さんです、五人より高い背でその身体を白い絹の所々にダイアをあしらったドレスで包んでいます。
 その玉座の右に五人より一つか二つ年上と思われる小柄な女の子が立っています、綺麗な茶色の髪を肩の長さで切っていてその目jは鳶色です、顔立ちも目の感じもとても愛くるしいです。白い軽やかなドレスを着ていて足には銀色の靴を穿いています。その靴の傍に黒い長い巻き毛の小さな犬が一匹います。
 左側には五人と同じ位の 年齢の女の子がいます、こちらの娘は黄金色の髪をのばしていてその目は琥珀の様な黒です。膝までの白いドレスがとても似合っています。背の高さは大体恵梨香位でしょう、あ。とても邪気のない感じのお顔をしていまして何処にいても周りを朗らかにさせてくれる雰囲気を見せてくれています。
 その三人の女の子を見てです、恵梨香が言いました。
「貴女達がですね」
「はじめまして」
 玉座に座っている少女が微笑んで応えてきました。
「オズの国の女王オズマです」
「オズマ姫ですか」
「はい、そうです」
 とても優雅で落ち着いた声での言葉です。
「そして貴方達はドロシーとベッツイがいた世界から来られたのですね」
「そうなんです、実は」
 ここで、です。恵梨香は自分達がどうしてここに来たのか、かかし達と出会ってここまでの旅路のことをオズマにお話しました。勿論自分達それぞれのことをです。
 オズマは全て聞いてからです、こう五人に言いました。
「お話は全て聞きました、ですが」
「もう私達のことはですね」
「はい、知っていました」
 それは既にというのです。
「この宮殿にあるオズのあらゆる場所を見ることの出来る鏡で」
「ほらね、言った通りだろう?」
 かかしがここで五人に言ってきました。
「オズマは全部知っているんだよ」
「そうですね、本当に」
「それで貴方達がここに来た理由は」
 オズマはまた五人に声をかけてきます、玉座にいるオズマは五人がこれまで見た中で最も綺麗でしかも優しい感じです。 
 そのオズマがです、こう言うのです。
「貴方達の世界に帰りたいからですね」
「そうなんです、ですから」
「ここまで来ました」
 そうだとです、五人も答えます。
「オズマ姫なら絶対にその方法を知っていると思いまして」
「それで」
「まずは答えから述べさせてもらいますね」
 オズマは微笑んで五人に答えます。
「それは出来ます」
「あっ、そうなんですか!?」
「僕達を元の世界に帰してくれることが出来るんですか」
「それじゃあこれで」
「僕達は」
「元の世界に帰られるんですね」
 恵梨香だけではありません、ジョージも神宝も言います。勿論カルロスとナターシャもです。五人共オズマの返事に満面の笑顔になります。
 そしてです、五人はその場で手を取り合って言うのでした。
「よかったわね」
「うん、そうだよね」
「僕達元の世界に帰られるんだ」
「どうなるかとも思ったけれど」
「有り難いわよね」
「私達は見付けたのです」
 オズマは五人にまた言ってきました。
「オズの国と貴方達の世界を行き来する方法を」
「それはね」
 ここでオズマの右にいる女の子が五人に言ってきました、とても気さくな感じで。
「オズの国の決まった場所で『オズ』って言えばいいのよ」
「オズってですか」
「言えばいいのですか」
「そうなの。あっ、それでだけれど」
 ここでこの女の子は五人にこうも言いました。
「私の名前を言っていなかったわね」
「ドロシーさんですよね」
「あっ、もう知ってるのね」
「だってオズマ姫と一緒におられますから」
 それでわかるとです、恵梨香がドロシーに微笑んで答えます。
「ですから」
「それでなのね」
「カンサスからオズの国に来られて」
「そう、何度か行き来していたけれどね」
「今ではこのオズの国で、ですね」
「オズマに王女にしてもらったの」
 ドロシーは玉座に座っているオズマを見て微笑んで五人にお話しました。
「この国のね」
「そうでしたね、ですから」
「私がドロシーってわかったのね」
「そうです。どんなお顔かは知りませんでしたけれど」
「じゃあこの子のこともわかるわよね」
「トトさんですよね」
 恵梨香は今もドロシーの足元にいる可愛らしい黒犬を見ました、犬はドロシーの足元にぴたりと寄り添っています。
「ドロシーさんの最初のお友達の」
「そうなの。トトはカンサスから一緒にいるの」
 ドロシーもそのトトを見て笑顔でお話します。
「とても優しくていい子よ」
「僕もここに来てね」
 トトがここで言ってきました、この世界にいる他の動物達と同じ様に人間の言葉で。
「とても幸せだよ。だってドロシーといつも仲良く過ごせるからね」
「だからですね」
「そうなんだ、いつもね」
 こう恵梨香に言うのでした、そして。
 恵梨香は今度はオズマの左側にいる娘に顔を向けました、その少女も自分から恵梨香達に言ってきました。
「私はベッツイっていうの。それとね」
「それと?」
「私に丁寧な言葉遣いはいいから」
 ベッツイから言ってきました。
「だって私達同じ位の歳だから」
「それでなの」
「ええ、オズマ達と違ってね」
 ベッツイの場合はというのです。
「同じ年齢のお友達としてお話しましょう」
「わかったわ、それじゃあね」
 恵梨香も他の子達もベッツイの言葉に笑顔で応えました、そしてベッツイの言葉を受けてです。
 オズマもです、こう言うのでした。
「お友達になったらね」
「それで、ですか」
「姫様の言葉遣いも」
「砕けたものにしたいけれど」
 これまでの国賓の人に対するものでなくというのです。
「いいかしら」
「はい、それでお願いします」
「お友達になってくれるのですよね」
「そうよ。もうかかしさん達とはお友達だから」
 言うまでもなくオズマ達もかかし達のお友達です、それととても長くて深い。そのかかし達のお友達ならというのです。
「貴方達は私達のお友達となるからね」
「僕達オズマ姫のお友達になるんだ」
「嘘みたいだね」
 このことにです、ジョージも神宝も驚きを隠せずに言うのでした。
「オズの国の主であらゆる魔法を使える人とそうなれるなんて」
「凄いね」
「凄くないわよ。だってここはオズの国なのよ」
 ドロシーが二人の男の子に満面の笑顔で言ってきました。
「オズの国は皆がお友達になれるから」
「だからですか」
「僕達もオズマ姫と」
「勿論私やベッツイともね」
 お友達だというのです。
「そうなるのよ」
「そうなんですか、ここはそういう国なんですね」
「皆がお友達になれるんですね」
「そうなのよ、だから宜しくね」
「はい、こちらこそ」
「宜しくお願いします」
「もっともあちらの世界でもね」
 ここで、です。ベッツイがこんなことを言いました。
「本当は誰でもね」
「友達になれるんだね」
「そうよ。だってあんた達もね」
 ベッツイはカルロスに応えて言います。
「お互い生まれた国は違ってもお友達でしょ」
「うん、そうだよ」
 そのことはその通りだとです、カルロスはベッツイに答えました。
「僕達はね」
「それぞれ生まれた国は違っていてね」
「育った環境も違うよ」
 本当にそれぞれです、五人共。
「もっと言えば肌や目の色もね」
「違うわよね。けれどね」
「僕達がこうして友達でいる様にだね」
「あちらの世界でも誰もがお友達になれるのよ」
「それに気付くことが出来るかどうかなんだ」
「それだけなの」
 ベッツイはとても可愛らしい笑顔でこう言うのでした。
「気付けるかどうかなの」
「オズの国は皆が気付いているのね」
 ナターシャはベッツイの言葉を受けて言います。
「そういうことなのね」
「そうよ、簡単に言えばね」
「そうなのね。だから私達もオズマ姫ともドロシーとも」
「私ともね」
 お友達にです、すぐになれたのです。五人はこうして一緒になったのです。 
 そしてでした、ここでまたオズマがこのことをお話しました。
「貴方達は何処に出たいのかしら」
「あちらの世界のですね」
「ええ、何処かしら」
 恵梨香に対して尋ねます。
「あちらの世界の何処に出たいのかしら」
「はい、ジャックさんがこちらの世界に戻る時に来られた」
「八条学園の時計塔だね」
 そこだとです、ジャックが言ってきました。
「そこにだね」
「はい、そこです」
 そこに戻りたいとです、恵梨香もジャックに答えます。
「そこに出たいです」
「わかったわ、じゃあこの宮殿だとテラスでね」
 宮殿のテラス、そこでだとです。オズマが言ってきました。
「オズって言う時にその時計塔に行きたいって思えば」
「そこに出るんですね」
「学園の時計塔に」
「そうよ、それだけでいいのよ」
「行き来出来る場所は決まってるの」
 ドロシーは五人にこのことをお話します。
「オズの国でもあちらの世界でもね」
「それでこの宮殿だとですね」
「テラスなんですね」
「そうなの。宮殿だとそこよ」
 そこ以外でオズと言ってもです、あちらの世界に戻ることは出来ないというのです。
「そこになるから」
「わかりました」
「それでね」
 さらにです、オズマは五人にお話します。
「貴方達はすぐにあちらの世界に戻りたいのかしら」
「すぐに、ですか」
「元の世界に」
「そう、どうかしら」
 こう五人に尋ねるのでした。
「今すぐかしら」
「ええと、そう言われたら」
「ちょっと」
 五人共です、オズマの今の問いかけにはです。
 戸惑ったお顔になってです、互いに見合って言うのでした。
「今すぐにってことじゃ」
「オズの国はとても楽しい世界ですし」
「まだもう少し見て回りたいかなって」
「そう思います」
「今すぐには」
「わかったわ。あちらの世界には何時でも帰られるから」
 オズマは五人の言葉を受けて笑顔で頷いて言いました。
「オズの国を楽しんでいってね」
「帰るまで、ですね」
「あちらの世界に」
「ええ、それではね」
 オズマは恵梨香とナターシャに応えてでした、そのうえで。
 玉座を立ってです、今ここにいる皆に言いました。
「五人を、私達の新しいお友達が出来たお祝いをしましょう」
「パーティーをするのね」
「ええ、そうよ」 
 その通りだとです、オズマはドロシーに満面の笑みで答えました。
「今からね」
「それじゃあすぐにお菓子やジュースを用意して」
「それで皆でお祝いするのね」
「そうしましょう、いいわね」
「わかったわ、じゃあ皆でね」
 ドロシーもです、皆に明るい笑顔を向けて言います。
「これから私達の新しいお友達が出来たことをお祝いしましょう」
「じゃあ今ここにいない皆も呼びましょう」
 ベッツイも言います。
「チクタクもポリクロームもね」
「あっ、そういえばチクタクは今ここにいないわね」
 恵梨香はベッツイの言葉でチクタクはいないことに気付きました。
「ポリクロームも」
「そうね。他にもいない人がいるわね」
 ナターシャも今いるオズの人達を見回してそのことに気付きました。
「船長さん達もね」
「そうした人達も皆呼んでね」
 それでだとです、ベッツイがまた五人に言います。
「貴方達をお祝いするから」
「じゃあグリンダさんも来られるのかしら」
 カドリングを治めるオズマの相談役にしてオズの最高の魔法使いの一人であるこの人もというのです。
「そして魔法使いも」
「オズの魔法使いさんよね」
「はい、あの火共」
「勿論よ、皆ね」
 それこそです、オズの有名な人ならというのです。
「呼ぶわ」
「何か凄いパーティーになりそうですね」
 ナターシャも驚きを隠せないお顔です。
「これからはじまるものは」
「なるわよ」
 それは絶対にというのでした、ベッツイも。
「絶対にね」
「そうですか、オズの国の皆さんが」
「オズの国に来られただけでも驚いたけれど」
 恵梨香も夢みたいだという様です。
「信じられないわ」
「けれどね、皆が来るのなら」
 カルロスも満面の笑顔で言います。
「僕達もおもてなしの用意をしないとね」
「僕ハンバーガーとかを作るよ」
「僕は点心をね」
 ジョージと神宝は自分達の国のお料理をお話に出します。
「そうしてね」
「皆で楽しく食べようね」
「じゃあ僕はシェラスコだね」
 カルロスは目を輝かせてこのお料理をお話に出します。
「それが一番だね」
「では私はボルシチを作るわ」
 ナターシャの得意料理はこれでした。
「皆に喜んでもらえるわ、絶対に」
「私もね」
 そして恵梨香もです、こう言うのでした。
「やっぱりね」
「そのお握りをだね」
「恵梨香ちゃんは作るんだね」
「それにしようかしら」
 こうです、ジョージと神宝に答えるのでした。
「私はね」
「お握り。御飯で作るのよね」
 オズマは恵梨香に尋ねてきました。
「そうよね」
「はい、そうです」
「御飯は私も食べるけれど」
「それを握って海苔を付けて食べるんです」
「その中にも色々入ってるのよね」
「そうなんです。姫様はお握りは」
「御飯はよく食べるわ」
 オズマはまずはこう恵梨香に答えました。
「そちらはね」
「あっ、そうなんですか」
「オズには美味しい食べものが一杯あるのよ」
 だからだというのです。
「御飯を使ったお料理もよく食べるわ」
「どんなお料理ですか?」
「カレーライスとかよ」
 そうしたものを食べるというのです。
「食べているわ」
「けれどお握りは」
「実は日本のお料理はオズの国ではね」
「あまりないんですか」
「いえ、あるのよ。あるにはあっても」
「オズの国の食べものはアメリカに近いのよ」
 ドロシーがこのことをお話してきました。
「アメリカは色々なお料理があるわよね」
「色々な国から人が来ていますからね」
 アメリカ人であるジョージが答えます。
「ですから」
「そうでしょ。だからステーキやプティングだけでなくね」
「中華料理もありますよね」
 今度は神宝がドロシーに答えます。
「そちらも」
「ええ、あるわ」
 オズの国では中華料理も食べられるというのです。
「そちらもね。けれどね」
「それでもなんですね」
「お握りはね」
「ちょっとね」
 それはとです、ドロシーもお握りについてはこう言うのです。
「他の和食はあるわ」
「お寿司やお刺身、天麩羅はね」
 あるとです、オズマは答えます。
「アメリカには日本から来ている人も一杯いるから」
「けれどお握りはなんですか」
「そうなの。美味しいの?お握りって」
 微妙なお顔になってです、ドロシーは恵梨香に尋ねます。
「一体」
「私はそう思いますけれど」
「じゃあね」
 それならとです、こう言ったドロシーでした。恵梨香の言葉を受けて。
「貴女はお握りを作ってくれないかしら」
「それでパーティーにですね」
「ええ、出してみて」
 こう言うのでした。
「それではね」
「ええ、それじゃあね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 恵梨香はパーティーの時にお握りを作って皆に食べてもらうことにしました、けれどいざ作る時にです。
 キッチンでお米を見てです、恵梨香は最初驚いて言いました。
「あれっ、お米もなの」
「お米の色ね」
「ええ、緑なんですね」
 キッチンの中で稗を食べているビーナに答えました。
「エメラルドの国だから」
「そうよ、他のものと同じよ」
「じゃあマンチキンだと」
「パンは青かったわよね」
「真っ青でした」
 恵梨香はマンチキンでのことを思い出しました、そのパンは確かにです。
「他の食べものもね」
「それならお米もよ」
「エメラルドの都では緑なんですね」
「国によって色は変わるわよ」
 黄色だったり赤だったり紫だったりするというのです。
「何たってここはオズの国だからね」
「それでですか」
「ええ、そうよ」
 まさにそうだとです、ビーナは言います。
「だからあんたがお握りを作ってもね」
「緑になるのね」
「そうよ、緑のお握りよ」
 まさにそれになるというのです。
「作るのならね」
「そうですか」
「そうよ。けれど味はね」
「変わらなかったですね」
 恵梨香はパンのことから言います。
「全く」
「そうでしょ、だからね」
「緑のお握りでもですね」
「気にすることないわよ」
 ビーナはお皿の中の稗を食べつつ恵梨香にお話します、勿論その稗も綺麗な緑色です。
「全くね」
「わかりました、それじゃあ」
 恵梨香も納得しました、そうしてです。
 まずはお米を研ぎます、それからです。
 お米を炊きます、ビーナはそれを見て言いました。
「ふうん、ご飯の作り方はね」
「変わらないですよね、オズの国と」
「ええ、一緒よ」
 そこはだというのです。
「作り方はね」
「じゃあお味は」
「それはもう知ってるでしょ」
 ビーナは美味しさについてはです、あっさりとこう答えました。
「あんたも」
「つまり他の食べものとですね」
「そうよ、同じだけね」
 美味しいというのです。
「そういうことよ」
「そうなんですね、じゃあ」
「ちゃんと作ればね」
 それでだというのです。
「美味しい御飯になるわよ」
「美味しいお握りにですね」
「ええ、なるわ」
「それじゃあ後は」
 どうするかとです、恵梨香は研いだお米をジャーの中に入れてそのうえで言うでした。
「炊くだけですね」
「そうなるわね、それでだけれど」
「それで?」
「お握りってそれだけじゃないわよね」
 お米を炊いて終わりではないだろうというのです。
「そうよね」
「はい、お米を炊いて」
 そしてだとです、恵梨香は何時の間にかキッチンの上に飛び上がってきて乗っているビーナに答えました。
「御飯を丸める時にその中に具を入れます」
「それじゃあその具はどういったものかしら」
「昆布に鰹節、明太子に」
「全部聞いたことのない食べものね」
「日本の食べものですけれど」
「オズの国にも和食はあるわよ」
 このことはオズマ達がお話してくれた通りです、オズの国は恵梨香達の世界で言うアメリカの料理に近いので様々なお料理があるのです。
 だから和食もあります、しかしだというのです。
「お寿司や天麩羅、すき焼きにおうどんはあるけれど」
「お握りだけはなんですね」
「その中に入れるものもね」
 昆布や鰹節といったものもだというのです。
「私は聞いたことがないわ」
「そうですか」
「あと海草だったわよね」
 ビーナはさらに言ってきます。
「あんたがお話してた海苔っていうのは」
「昆布もですね」
「オズの国は川や湖は多いけれど海はないわよ」
「あっ、そうでしたね」
 恵梨香も言われてこのことを思い出しました、実はオズの国には海はありません。それはどうしてかといいますと。
「周りは全部死の砂漠に囲まれてるから」
「そうよ、だからね」
 この国は海ではなく砂漠に囲まれているのです。誰も住むことの出来ないその場所にです。
「海はないから」
「海草もありませんね」
 海がないのなら海草がある筈がありません、これは当然のことです。
「そうですね」
「そうよ。だからあんたにとっては残念だけれどね」
「海草はですね」
「諦めてね」
 ないのなら仕方がないというのです。
「川草ならあるけれど」
「ううん、川草は」
 お握りに使うかどうか、それはでした。
「無理です」
「じゃあ諦めるしかないわね」
「他の具にします」
 恵梨香は仕方ないといったお顔でビーナにこう言いました。
「明太子も鰹もないみたいですから」
「他の具でもいいの?」
「お握りは何でも入れられるんです」
「あら、それは有り難いわね」
「ハンバーグでも何でも」
「ハンバーグならあるわよ」
 ビーナは恵梨香にすぐに答えてくれました、それはあるとです。
「他にも色々とね」
「お肉もお魚もですね」
「そういうのはあるわよ」
 それも豊富にだというのです。
「ちゃんとね」
「それじゃあそういうのを入れます」
「そうしてね」
「はい、あと一つふと思ったことですけれど」
 恵梨香はお握りの中に色々と入れることを決めてからです、そのうえでビーナにこのことを尋ねました。
それは何かといいますと。
「お寿司はあるんですよね、オズの国にも」
「オズマもドロシーも大好物よ」
 二人共お寿司が大好きだというのです。
「こんな美味しいものを食べられる日本人は幸せだって言ってるわ」
「そうですよね、それじゃあ」
「その日本人のあんたが私にお寿司のことで聞くことは何かしら」
「はい、巻き寿司もありますよね」
 恵梨香がビーナに今尋ねるのはこのことでした。
「そうですよね」
「巻き寿司?あの巻いたお寿司ね」
「それは何で巻いていますか?」
「湖にある草で巻いているわよ」
「川草ですか?」
「そうそう、川草よ」
 まさにそれだというのです。
「それを巻くのに使ってるわ。お魚もね」
「湖で採れたのを食べてるんですね」
「ハマチとか鮭とか鮪をね。それとあんた鰹節って言ったけれど」
「はい、確かに言いました」
「それって鰹と何か関係あるのかしら」
「あります、鰹節は鰹から作るんです」
「あら、そうだったのね」 
 今度はビーナが驚きます、ビーナは鰹節というものを知らないので鰹節というものが鰹から作られるものであることも知らないのです。
 だからです、そのことには驚いて言うのでした。
「鰹って焼いやり煮たりして食べるんじゃないのね」
「そうなんです、鰹節からだしを取ったりして」
「そうそう、和食のだしも川草から取るわ」
「ううん、川草は使えないって思いましたけれど」
「オズの国ではね。塩の湖も多いから」
 こうした湖も一杯あるというのです、
「そこで採れるものを使うのよ」
「じゃあそれです、そこの川草を使って」
「お握りを作るのね」
「ただ。昆布を煮付けたり鰹節や明太子はすぐに出来ないですから」
 具のそうしたものはもう諦めます、何しろ今すぐにお握りを作るからです。
「海苔があるんなら」
「それを使うのね」
「はい、そうします」
 オズの国では川から採れるそれをだというのです。
「今から」
「わかったわ。それじゃあね」
「川草ならジョージ君も食べるでしょうし」
 海草でないからです、アメリカ人は海草は食べないですが川草ならというのです。
「後は温かいまま出せば」
「温かい状態は魔法の容器に入れれば保てるわよ」
「はい、温かいお握りなら神宝君も食べますし」
 冷えた御飯は食べない中国人の彼でもです。
「問題ありませんね」
「何か知らないけれど急に動きだしたわね」
「お握りは凄いんですよ」
 恵梨香は目を輝かせてビーナに言います。
「あんな美味しいものはないですから」
「そんなに美味しいのね」
「日本人は皆大好きですよ」
「お寿司よりもかしら」
「お寿司と同じだけです」
 日本人は皆大好きだというのです。
「今から作りますから」
「では頑張って作ってね」
「はい、そうさせてもらいます」
 こう応えてです、そのうえで。
 恵梨香はハンバーグやお味噌、豚バラ煮込みや天麩羅、カレーといったものを揃えて具として用意してそのうえで、でした。まずは御飯が炊けるのを待ちました。そのうえで手に塩水をたっぷりと漬けながらでした。
 お握りをどんどん作っていきます。お握りは一つまた一つと次々に出来ていきます。その三角のお握りを見てです。
 ビーナは目を丸くさせて恵梨香にこう言いました。
「あら、こうしたものだったの」
「はい、これがお握りです」
 恵梨香は緑のお握りを作りながらビーナに答えます。
「日本人の大好物です」
「これはまたえらく美味しそうね」
「実際に物凄く美味しいですから」
「私も御飯は好きだけれど」
「お握りはですね」
「食べたことがないからね」
「では後でお一つどうですか?」
「いえ、食べたいけれどこの大きさだとね」
 ビーナはお握りの一つを見て言います、お握り一つでビーナのお腹位はあります。
「私にとっては大きいわ」
「じゃあこれ位でいいですか?」
 恵梨香はビーナの言葉を受けて小さなお握りを作りました、それはビーナの頭より少し大きい位です。そのお握りをビーナの前にちょこんと置いて言いました。
「この大きさで」
「あっ、この大きさならね」
「ビーナさんも食べられますよね」
「充分よ。貴女気遣いが上手ね」
「有り難うございます」
「それじゃあね」
「はい、召し上がってくれますね」
 こうビーナに尋ねます。
「これも」
「そうさせてもらうわね」
「それじゃあ」
「さて、後はよね」
 ビーナは恵梨香とその小さなお握りの話をしてから恵梨香が握っていくお握り達を見て今度はこう言いました。
「川草を巻くのよね」
「はい、海苔を」
「その海苔もだけれど」
「色が違うんですよね」
「ええ、採れた国によってね」
 その国によってだというのです。
「色が違うからね」
「黒じゃないんですよね」
「そうよ、御飯と一緒でね」
「じゃあエメラルドの都の海苔は」
「緑色よ」
 やっぱりこの色になるのでした。
「それになるわ」
「そうですよね、それじゃあ」
「それじゃあって?」
「御飯の色は緑ですから」
 ここから考えての言葉でした。
「マンチキンやギリキンの海苔を集めて」
「四方の四国の?」
「はい、そうしてです」
 そのうえでだというのです。
「四色のそれぞれのお握りにしてみます」
「それは面白そうね」
 ビーナも恵梨香のその言葉を聞いて頷いて言います。
「何かと」
「そうですよね。それじゃあ」
「ええ、やってみたらいいわ」
「四国の海苔は」
「全部あるわよ」
 都合のいいことにです、どの国の海苔もあるというのです。
「それじゃあね」
「はい、四国の海苔を全部出して」
 それでお握りを巻くことにしました、やがてお握りは全部出来ました。恵梨香はかなり素早くしかも見事な形のお握り達を作りました。
 そのうえで、です。今度は四国の海苔でお握りを包んでなのでした。
 お握りを完成させました、ビーナは恵梨香が作ってくれた自分の前にあるその小さな三角のお握りを見て言うのでした。
「さて、じゃあね」
「今すぐですか?」
「いえいえ、そんなことはしないわ」
 ビーナは恵梨香の問いに畏まって答えました。
「今はね」
「じゃあパーティーの時にですね」
「ええ、食べるわよ」
 そうするというのです。
「その時にね」
「じゃあ今は置いておいて」
「そうするわね。とても美味しそうですけれど」
「我慢してですか」
「その時に楽しませてもらうわ」 
 実にもの欲しげではありますが今は我慢するというのです、こう話してそしてでした。
 恵梨香にです、こうも言いました。
「じゃあ温かいままにしたかったら」
「はい、魔法の容器にですね」
「入れておくのよ」
 そうして冷やさない様にしろというのです。
「いいわね」
「わかりました、じゃあすぐに」
「それだからね」
 ビーナはキッチンの端にある緑の長方形の容器を指し示しました、それは恵梨香が見たところ巨大な弁当箱です。
「それに入れたらね」
「お握りは温かいままですね」
「他の食べものもね」
 温かいままだというのです。
「それで美味しく食べられるわ」
「保温器なんですね」
「そっちの世界じゃそう言うのね」
「はい、こっちの世界にもあるんですね、けれど」
 恵梨香はその容器、魔法の保温器を見つつ言うのでした。
「魔法を使うんですね」
「オズの国だとね」
「そういえばジャーも他の器具も」
「全部魔法でね」
 動くというのです、オズの国では。
「そこもあんた達とは違うわね」
「私達の世界では全部電気で動きますけれど」
「オズの国では魔法よ」
「それは誰が出してくれているんですか?」
「地下からどれだけでも出て来るよ」
「どれだけでもですか」
「そうよ、死の砂漠にもオズの国にもそのまま魔力があってね」
 ビーナはドロシーにこちらの世界のこともお話します、どうしてオズの国のあらゆるものが魔法で動くかということを。
「それはどんどん生み出されて地面の下にも入っていって」
「その魔力をですか」
「そう、使っているのよ」
「だからオズの国のものは魔法で動くんですか」
「幾らでも好きなだけ出るから」
「魔力がなくなることもないんですね」
「ものだけじゃなく人や生きものも持っていて常に生み出しているからね」
 それこそです、あらゆるものが魔力を生み出しているからだというのです。
「オズの国は魔力におまらないのよ」
「じゃあエネルギー不足も」
「ないわよ」
 それも絶対にだというのです。
「この国はそうした国なのよ」
「素晴らしいですね、そのことも」
「そうでしょ。魔法は素晴らしいのよ」
 ビーナは恵梨香にこのことを強くお話します。
「ただ。魔法を使うのはね」
「オズマ姫と魔法使いさんと」
「グリンダよ」
 この偉大な魔女のことはビーナが出しました。
「後は北の国の魔女ね」
「限られた人達だけなんですね」
「魔法は悪用されると大変なことになるからね」
「だからですね」
「魔法は一杯あるけれど魔法を使う人は限られているの」
 それがオズの国です、オズの国では魔法自体を使える人は本当に限られているのです。オズマがそう決めているのです。
「魔法は誰でも利用出来てもね」
「使うことと利用することは違うんですね」
「そういうことになるわね。じゃあね」
「はい、それじゃあですね」
「そこに入れてね」
 魔法の保温器にです。
「温かくしておくのよ」
「わかりました、それじゃあ」
 こうして恵梨香はお握りのうちの何割かを保温器に入れました、そうしてお握りを全部作ってからです。
 ビーナと一緒に宮殿を出て用意してもらった休憩室に行くとです、そこに小柄で頭の禿げたお年寄りが立っていました。燕尾服にズボンといった格好がよく似合っています。その手には黒いシルクハットがあります。その人を見てです。
 恵梨香はすぐに顔を明るくさせてその人に言いました。
「オズの魔法使いさんですね」
「うん、そうだよ」
 魔法使いと言われたお年寄りはにこりと笑って恵梨香に答えました。見れば魔法使いの傍には木挽きの馬がいます。
「オズマからお話は聞いているよ、君もわしやドロシーと同じだね」
「はい、あちらの世界から来ました」
「そうだね。けれど君はアメリカ人なのかな」
「日本人です」
 恵梨香はにこりと笑って魔法使いにもこう言いました。
「その国から来ました」
「日本、カルフォルニアからずっと遠くにある島国だね」
「はい、そうです」
「何度かこっちから遊びに行っているよ」
「魔法使いさんもですか」
「そうだよ、それで日本のあちこちも観光に行っているけれど」
「どうでしたか?日本は」
 恵梨香は魔法使いの言葉に目を輝かせて問い返しました、自分の国に何度も遊びに行ってくれていると聞いてです。
「それで」
「いいね、だからこそね」
「何度でも来てくれたんですね」
「そうだよ、楽しませてもらってるよ」
「それじゃあこれからも」
「気が向いた時にね」
 まさにです、その時にだというのです。
「遊びに行かせてもらうよ」
「是非来て下さいね」
「うん。あと君とね」
「他の子達もですね」
「他の子達はまだかな」
「そうみたいですね」
 周りを見回してもいるのは自分達だけです、ナターシャ達はまだいません。それで恵梨香はこう魔法使いに答えました。
「どうやら」
「そうだね。けれど待っていればね」
「他の皆もですね」
「来てくれるよ」
 魔法使いは恵梨香に陽気な笑顔で答えました。
「だからそれまで待とう」
「わかりました、それじゃあ」
「さて、君達はエメラルドの都にいるけれど」
「この国のことですね」
「どうかな、オズの国は気に入ってくれたかな」
「はい、とても」
 恵梨香もです、魔法使いに明るい笑顔で答えます。
「楽しませてもらっています」
「それは何よりだよ、じゃあね」
「これからもですね」
「うん、楽しんでね」
 オズの国そのものをだというのです。
「何でもかんでもね」
「そうさせてもらいます。まさか本当に来ることが出来ると思わなかったですし」
「ボームさんの本は本当のことなんだよ」
「オズの国について書かれていることはですね」
「そうだよ、あの人はとても立派な歴史家だよ」
 それがボームさんだというのです。
「この国のことを全部記録してくれるね」
「オズの国になくてはならない方のお一人ですね」
「そうだよ、あの人達がいてくれるから君達もわし等のことを知っているからね」
 皆オズの国のことはボームさんの本から勉強しています、勿論この偉大な魔法使いのこともです。
「素晴らしい人だよ」
「そうですね、それで今ボームさんは」
「パーティーに参加するよ」
 木挽きの馬がここではじめて恵梨香に口を開いてきました。
「あの人もね」
「そうなんですね」
「あの人にお会い出来ることもね」
「楽しみです」
「さて、では立ったままでもあれだし」
 ここで魔法使いは今お部屋にいる一同が立ったままであることに気が付きました。それでこう言うのでした。
「座ってね」
「そうしですね」
「お話の続きをしよう」
「わかりました」
 こうお話してでした、一同はまずはテーブルに着きました。そのうえでゆっくりとお話をしようとしたところで。
 残る四人も来ました、四人共魔法使いを見て言いました。
「あっ、貴方がですね」
「あのオズの」
「うん、そうだよ」
 その通りだとです、魔法使いは四人に顔を向けて彼等にも明るい笑顔で答えました。
「わしがオズの魔法使いだよ」
「あの有名な」
「そうですね」
「今この娘とお話していたところだよ」
 恵梨香に顔を向けての言葉でした。
「わし等は一緒だね」
「はい、あちらの世界から来た」
「ドロシーさん達と一緒ですね」
「そうだね。けれど今は同じオズにいる者同士としてもね」
 あちらの世界から来た者同士としてだけではなくというのです。
「一緒だよ」
「じゃあ私達とオズマ姫もですか?」
 ナターシャは魔法使いの今の言葉を聞いて言いました。
「同じですね」
「そうだよ」
 その通りだというのです。
「皆同じ人間だからね」
「住む世界は違っても」
「同じ人間ですか」
「じゃあわしと君達の何処に違いがあるんだい?」
 魔法使いは笑って五人に尋ねました、このことを。
「一体」
「ええと、それは」
「見たところ」
「わしは歳を取っていて君達は子供だ」
 魔法使いは自分達の年齢のことを言いました。
「それだけじゃないか」
「魔法を使えるんじゃ?」
 ジョージは魔法使いを見てこのことをお話に出しました。魔法使いはオズマやグリンダと同じく魔法を使えるのです。だからそこが違うというのです。
「そのことは」
「そんなことは大したことはないよ」
「そうですか?」
「わしの魔法は手品じゃった」
 オマハにいた時はです。
「そして姫に使うことを許してもらってな」
「使える様になったんですか」
「それだけだよ。魔法が全てではない」
 こうも言うのでした。
「魔法が使えてもノーム王みたいな性格だと駄目だと思うがね」
「そうですね、確かに」
 神宝は魔法使いの言葉から長い間オズの国を攻めようとしていたノーム王のことを思い出しました、ノーム王は今は悪い心をなくしていますが本当に何度も何度もオズの国を攻めようとしてきた悪い人でした。
 そのノーム王の様な人だとです、魔法を使えても。
「駄目だね」
「ですね、力を持っている人の性格が悪いと」
 どうかとです、神宝も言います。
「本当に」
「そういうことだよ」
 魔法使いは五人に対sかな顔でお話します。
「魔法を使えても。一番大事なものは力じゃないんだよ」
「心ですね」
「それが大事ですね」
「どれだけ力があっても心がよくないと駄目なんだよ」
 魔法使いは自分自身についても言いました、噛み締める様に。
「魔法じゃないんだよ」
「わかりました、そういうことですね」
「心なんですね」
 五人も頷きます、そしてでした。
 五人はパーティーの前に魔法使いとのお話も楽しみました、そのうえでいよいよパーティーに赴きます。



思ったよりもあっさりと帰れるみたいだな。
美姫 「みたいね」
てっきり、何かしないといけない事でもあるかと思ったけれど。
美姫 「でも、特に何もないからこそ、もう少しゆっくりとできるのよね」
確かにな。暫くはオズの国に居るみたいだけれど。
美姫 「どうなるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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