『オズのモジャボロ』




                   第五幕  パンの国と食器の国

 一行はパンの国に入りました、見ればお家も何も道を行く人達も車や町にあるあらゆるもの全てがパンです。様々な種類のパンです。
 そのパン達を見てです、神宝がしみじみとして言いました。
「いや、本当に危なかったよ」
「若しお腹一杯でないとね」
「危なかったわね」
 恵梨香とナターシャが彼に応えます。
「ついつい手が伸びていたわ」
「本当にね」
「これだけ美味しそうなパンばかりだから」
「危なかったわ」
「そこは気をつけてね」
 町自体はとても小さいです、大きさはチョッキンペットの国と変わらない位でしょうか。お家も人々も何もかもが一行の膝程もありません、小さなパンの人達です。
 その人達を見てです、恵梨香とナターシャも言うのです。
「こんがり焼けてて」
「しかもとてもいい匂いだわ」
「この中にいたらね」
「お腹一杯じゃなかったら危なかったわ」
「だからだったんだよ」
 モジャボロが皆に笑顔でお話してきました。
「まずは食べるべきと思ってね」
「お腹一杯食べたんですね」
「そういうことですね」
「そうだよ、僕も今はこの人達を見てもね」
 とても 美味しそうなパンの人達も建てものを見てもです。
「何とも思わないよ」
「ですね、私達も」
「何とも思わないです」
「お腹が空いていたら食べたかったですけれど」
「今は何とも思わないです」
「平気です」
「そう、ではいいね」
 それではと話してでした、モジャボロは皆を町の先に先にと向かわせていきます。そうしてそのうえでなのでした。
 町長さんのお家まで来てでした、モジャボロが声をかけました。
「お邪魔してます」
「ああ、モジャボロさんですね」
 お家の中から声がしてきました。
「来られてたんですか」
「うん、挨拶に来たんだけれどね」
「誰も何も食べていないですよね」
「国に入る前にお腹一杯食べてきたよ」
「それならいいです」
 声が応えてきてです、そして。
 パンとクッキー、ビスケット等で作られているお家から手足のついたクロワッサンが出てきました、そのクロサッサンの人が出て来てです。
 モジャボロの足元にとことこと来てこうきました。
「お久しぶりですね」
「町長さんも元気そうだね」
「はい、ドロシーさんも」
「お久しぶり」
 ドロシーも町長さんに笑顔で挨拶をしました。
「町長さん元気そうね」
「お陰様で。鳥も来なくてパンも降らなくて」
「それは何よりね」
「平和に暮らしていますよ、それでその子達は」
 五人を見て言う町長さんでした。
「一体」
「私が元にいた世界から来た子達なの」
「というとカンサスの」
「いや、カンサスじゃなくてね」
 ドロシーは町長さんに五人のそれぞれのお国の名前もお話しました。町長さんもその名前を聞いて頷いて言いました。
「成程、ドロシーさんの元いた世界にはいろいろなお国があるのですね」
「そうなの、私がいた世界は広くて」
「カンサスはアメリカにあってですね」
「日本や中国という国もあるのよ」
「ロシア、そして ブラジルですか」
「他にも一杯国があるのよ」
「むしろですね」
 恵梨香がここでドロシーと町長さんにお話します。
「ドロシーさんがあちらの世界におられた時よりも国は増えていますね」
「そうみたいね、それもかなり」
「実はロシアは一回ソ連になってロシアに戻ってるんです」
 このことはそのロシア人のナターシャがお話します。
「私が生まれる前にソ連からロシアに戻っています」
「国も変わるのね」
「そうなんです、ドロシーさんはオズの国に入られて長いですよね」
「オズの国では皆歳を取らないけれどね」
 それでもです、歳月は経ちます。常春のオズの国には季節もないですが年月は経ちます。
「百年以上になるわね」
「そうですよね、その百年以上の間になんです」
「国が出来て名前が変わって」
「はい、凄く変わりました」
「多分ドロシーさんがおられた頃の僕の国は」
 神宝もお話します。
「清でしたね」
「チャイナね」
「はい、その頃は清でしたね」
「今は違うのよね」
「昔だったら僕今みたいな髪型じゃないです」
 見れば神宝は黒い髪を短くしています、とても清潔そうです。ですが清だった頃は彼の髪型はどうなっていたかといいますと。
「あの辮髪」
「そうそう、私も中国人っていうとね」
「辮髪でしたよね」
「そうしたイメージだったわ。カンサスではお会いしていなかったけれど」
「カルフォルニアに行かれた時にですね」
「お会いしたことがあるわ、中国人にもね」
 アメリカは色々な人がいます、中国から来た人も昔からいるのです。
「辮髪だったわ。そうでない人もいたけれど」
「はい、昔は中国は辮髪でしたから」
「今と違って」
「今は他の国と一緒です」
 辮髪でないというのです。
「こうして普通の髪型です」
「そうなのね」
「百年の間に本当に変わりますね」
 ジョージもしみじみとして言うのでした。
「アメリカにしても」
「ジョージの服だってね」
「百年前の。ドロシーさんの頃のアメリカと随分違いますよね」
「男の子も服もね」
 そのジョージのラフな服装を見ての言葉です。
「違ってるわ」
「そうですよね」
「ううん、オズの国は服は変わらないのよ」
 それこそオズの国が出来てからです。
「それはね」
「カドリングの国でもですね」
 カルロスがこの国のお話をします、今自分達がいる国のです。
「赤い服とズボン、あの鈴のついた三角帽で」
「そうそう、ずっと一緒なのよ」
「オズマ暇も」
「そうよ、オズマもね」
 それこそオズマが女の子に戻ってからです、オズマの服はずっと変わりません。
「ズボンとかははかないわよ」
「ドロシーさんも」
「というか女の子がズボンはくなんて」
 ドロシーはこのことは驚いた顔で言うのでした、恵梨香とナターシャを見ながら。とはいっても今二人はどちらも膝までのスカートですが。
「考えられなかったわ。それにミニスカート」
「はい、膝より上の丈のスカートです」
「そうしたスカートもありまして」
「ううん、スカートは短くても膝までよ」
 オズの国ではというのです。
「カドリングのグリンダの兵隊さん達もね」
「グリンダさんをお守りしているですね」
「あの人達のスカートもですね」
「私は見ていないけれど」
 この前置きも置いて言うことはといいますと。
「ジンジャー将軍の兵隊さん達もスカートは膝までだったらしいし」
「そこも変わったんです」
 恵梨香がドロシーにお話します。
「スカートの丈も」
「足出して寒くないの?」
「それがファッションでして」
「ううん、私には出来ないわ」
「寒いからですか」
「寒いし危ないから」
 このことも理由にあるというのです、ドロシーがミニスカートをはかない理由は。
「スカートは足も守ってくれるでしょ」
「服はですよね」
「寒さだけでなくお外にある色々なものから身体を守ってくれるものよ」
「だからスカートはですね」
「動きやすいスカートが条件だけれど」
 それでもだというのです。
「短いと身体を守ってくれないから」
「ドロシーさんはですね」
「ミニスカートははかないわ」
「オズの国の人達もですね」
「そもそもそうしたものがないから」 
 最初からというのです。
「そうなの」
「さて、それでなんですが」
 お話が一旦終わったところで、です。町長さんが皆に言ってきました。
「皆さんこの国には挨拶に来られたんですよね」
「はい、そうです」
 ナターシャが答えます。
「それで来ました」
「そうですね、いやよく来られました」
「ううん、僕は何て言ったらいいかね」
 トトは町長さんを前にして苦笑いを浮かべています。
「最初に来た時に食べちゃったからね」
「気をつけて下さいね」
「うん、ァんなことは二度としないよ」
「私も。ついついお腹が空いてね」
 ドロシーも最初にこの国に来たことを思い出して申し訳ないお顔になりました。
「あんなことをしたから」
「間違えても次にしないことですね」
 町長さんはドロシーにも言いました。
「そこが肝心です」
「本当にそうね、それで今度エメラルドの都でパーティーがあるけれど」
「私達はここから離れないので」
「そうよね、じゃあまたここに来るわね」
「そうして下さい」
 町長さんはドロシーに笑顔で答えました。
「是非共」
「そうさせてもらうわね、ではね」
「今度はキッチンランドに行こう」
 モジャボロがドロシーと皆に言いました。
「あの国の人達はちょっと癖が強いけれどね」
「フォークやナイフですね」
「スプーンにお皿に」
「最近ではお箸もあるよ」 
 この食器もあるというのです、モジャボロは五人にお話しました。
「あの国にはね」
「あっ、お箸もですか」
「いてくれてるんですか」
「うん、そうだよ」
 モジャボロは五人にまた言いました。
「あの国にはね」
「それは楽しみですね」
 恵梨香はそのことを聞いてモジャボロに笑顔で応えました。
「お箸もいてくれるなんて」
「そうだね、どんな感じかな」
 神宝も笑顔です、中国もまたお箸の国なので。
「見てみたいね」
「そうよね」
「じゃあ行きましょう、キッチンランドにね」
 ドロシーが皆に言いました。
「次はね」
「はい、それじゃあ」
「今から」
 五人で言います、そして。
 そのうえでなのでした、パンの国の皆に笑顔で挨拶をしてです。
 今度はキッチンランドに向かうのでした、カドリングにも本当に色々な人達がいます。
 暫く歩くとそのキッチンランドに着きました。フォークやスプーン、ナイフにお皿にコップにです。
 お箸もいます、食器に手足とお顔がついています。その中のお箸を見てでした。
 ジョージは首を傾げさせてです、お箸のうちの一人に尋ねました。
「少しいいかな」
「何かな」
「君達って二つに別れるよね」
 お箸はそうして使うものだからです、ジョージの質問ももっともと言えばもっともです。
「それは君達もかな」
「ああ、こうしてね」
 実際にです、そのお箸はです。その場ででした。
 ぱっかりと左右に分かれました、右手と右足は右の方のお箸に、左手と左足は左の方のお箸にあります。
 その姿をジョージに見せてです、こう言ってきました。
「分かれることが出来るよ」
「成程、そうなんだね」
「そうだよ、それにしてもね」
「それにしてもって?」
「ドロシー王女とモジャボロさんは知ってるよ」
 ドロシーとモジャボロは既に何度かこの国に来ているからです、キッチンランドの人達も二人のことは知っているのです。
 ですが五人はどうかといいますと。
「君達ははじめて見るね」
「王女さん達のお友達かな」
 お鍋も尋ねてきました。
「そうじゃないかなって思うけれど」
「うん、そうだよ」
 その通りだとです、ジョージはお鍋に笑顔で答えました。
「別の世界から来たね」
「私達の新しいお友達なの」
 ドロシーも微笑んでキッチンランドの皆にお話します。
「この子達はね」
「ああ、やっぱりね」
「そうなんだね」
「そうなの。宜しくね」
「うん、じゃあね」
「宜しくね」
「いや、凄いね」
 唸ってです、カルロスは首を捻って神妙な感じのお顔で述べました。
「食器の国なんてね」
「オズじゃこんなの普通だよ」
 スプーンのうちの一人が言ってきました。
「食器の国もね」
「パンの国もあるじゃない」
 今度はおたまが言ってきます。
「他にも一杯色々な人達の国があるじゃない、ここには」
「そうそう、かかしさんもいればブリキの木樵さんもいるよ」
 ナイフの言葉です。
「皆ね」
「ちなみに僕達の王様は大包丁だよ」
「そうそう、包丁さんお元気かな」
 モジャボロは包丁の名前を聞いて食器達に尋ねました。
「あの人は」
「とても元気だよ」
「何の心配もいらない位にね」
 食器達はモジャボロに笑顔で答えました。
「今日は大臣の人達と色々とお話してるよ」
「切るものは何が一番楽しいかとか何を煮るのが一番楽しいかってね」
「食器らしいお話をしてるんだね」
「うん、僕達は食器だからね」
「楽しんでるよ」
 そうしたお話をしてというのです。
「食器には食器の楽しみがあるから」
「そうしたお話が一番楽しいからね」
「例えばだね」
 ここでお鍋が言うことはといいますと。
「僕は何を煮ると一番楽しいかとかね」
「スープかしら」
 ナターシャはそれではないかとです、お鍋に言葉を返しました。
「お肉やお野菜をたっぷりと入れた」
「ううんと、お味噌汁?」
 恵梨香が出したのはこちらでした。
「それかしら」
「日本のスープだね」
「そう、それかしら」
「お味噌汁いいよね」
 お鍋はにこにことして恵梨香に答えました。
「あれはいいスープだよ」
「スープになるのね、お味噌汁って」
「僕から見ればね」
 オズの国にいるお鍋から見ればです、お味噌汁はスープの一種だというのです。恵梨香にこのことをお話します。
「そうなるよ」
「私はお味噌汁はお味噌汁だけれど」
「スープとはまた別だっていうんだね」
「味噌スープっていうけれどね」 
 それでもだというのです。
「お味噌汁はお味噌汁よ」
「こだわりがあるんだね」
「そうなの」
「そういえば君髪の毛と目の色が黒いね」
 お鍋は恵梨香の外見のことをここで指摘しました。
「日本から来た人かな」
「そうよ。日本人よ」
「だからお味噌汁にはこだわりがあるんだね」
「大好きよ、お味噌汁」
「成程ね、だから僕が何を煮るのか一番好きなのはお味噌汁だろうっていうんだね」
「そうなの?違うかしら」
「実は僕はスープよりシチューの方が好きなんだ」
 中に入れて煮るものはというのです。
「とろりとしたね」
「あら、そうなの」
「それもビーフシチュー、ビーフシチューが一番好きなんだ」
「それはどうしてなの?」
「どうしてかっていうと困るね」
 お鍋はドロシーの今の言葉には首を傾げさせてこう言いました。
「好き嫌いだからね」
「理由はないけれど好きなの」
「好きになる理由が必要ない時もあるじゃない」
「それが貴女の場合はシチューなのね」
「そうなんだ、ビーフシチューなんだ」
 まさにそれだというのです。
「僕はね」
「成程、そうなのね」
「そうだよ、じゃあ今から王様のところに行くのかな」
「ええ、そうさせてもらうわ」 
 ドロシーがお鍋に答えました。
「これからね」
「じゃあ王様はキッチンにいるから」
 キッチンランドの中の、というのです。
「一番大きなキッチンにね」
「あそこね」
「そう、あそこにいるよ」
「わかったわ、じゃあ皆来てくれるかしら」
 ドロシーは五人に顔を向けて笑顔でこう言いました。
「私達が案内するから」
「キッチンランドで一番大きなキッチンにですか」
「そこにですか」
「ええ、そうよ」
 そこにだというのです。
「今から行きましょう」
「はい、じゃあ案内お願いします」
「キッチンまでの」
「こっちよ」
 こうお話してでした、そのうえで。
 どろしー達は五人をそのキッチンに案内しました。そのどんなレストランのキッチンよりも大きなキッチンにおいてでした。
 様々な食器達があれやこれやとお話しています、何か色々と食べもののお話をです。そしてそこにでした。
 ドロシー達を見てです、そのお話を中断して皆に挨拶をしてきました。
「ああ、王女ではないか」
「ドロシー王女お久しぶり」
「モジャボロさんもおられるね」
「トトも元気そうだね」
「それに新しいお客さん達も」
「私達のお友達よ」
 ドロシーはキッチンにいる人達にも五人を笑顔で紹介します。
「この子達はね」
「ふむ。まだ子供だな」
 大包丁、キッチンランドの王様が彼等を見て言いました。
「王女よりも年下かな」
「はい、そうです」
「僕達ドロシーさんより少し年下です」
「ベッツイさんよりもですか」
「一歳位年下です」
「それ位です」
「そうだな。知っていると思うがオズの国では皆歳を取らない」
 王様はかしこまった態度でお話します。
「だから王女達の実際の年齢と比べると話がおかしくなるが」
「身体的な年齢はですね」
 恵梨香が王様に応えます。
「私達は王女より下ですね」
「そうなるね。実はね」
「実は?」
「王女達がこの国に来た時は今より幼かったんだよ」
「あっ、そういえば」
 言われてです、恵梨香もこのことを思い出しました。
「そうでしたね」
「そうだよ、かつてはね」
「けれど成長されてますよね」
 ドロシーだけでなくオズマもベッツイもです、それぞれ何歳か成長していて小学五年生の恵梨香達より年上です。
「そうなっている理由は」
「その方がオズの統治者に相応しい年齢じゃないかしらってオズマが言ったのよ」
 ドロシーがその訳をお話してきました。
「それで私とベッツイも一緒に歳を成長させようってなってね」
「それでなんですか」
「そう、私達は成長したのよ」
 それが為にだというのです。
「そうした事情なのよ」
「わかりました、だからなんですか」
「若くすることも出来るわよ」
 成長する場合とは逆にというのです。
「私達がそうしようって思えばね」
「じゃあ私達より幼くなることも」
「そう、なれるわよ」
 ドロシーは恵梨香ににこりと笑ってお話します。
「そうしたこともね」
「便利ですね」
「便利かしら」
「はい、成長したり若くなれたりするなんて」
「ここはオズの国だから」
 不思議の国だからだというのです。
「そうしたことも出来るのよ」
「やっぱりここは不思議の国なんですね」
「そう、あちらの世界とは全く違うね」
「そういうことですね」
「さて、それでだが」
 恵梨香とドロシーのお話が一段落ついたところで、でした。王様がまた言ってきました。
「君達は包丁を切るにあたって何が一番いいと思うかな」
「包丁で、ですか」
「そうだ、何がいいかな」
「そう言われても」
 恵梨香は首を傾げさせて王様に答えました。
「難しいですね」
「すぐには答えられないか」
「はい、包丁によりますよね」
「では私なら何がいいかね」
「王様は大きいですから」
 大包丁だからだというのです。
「お肉でしょうか」
「肉だね、私は」
「はい、それも大きなお肉でしょうか」
「そうしたものを切ることは好きだ」
 王様もこう恵梨香に答えました。
「それもかなりな」
「やっぱりそうですか」
「うむ、特に牛肉がな」
 お肉の中でもこのお肉が一番というのです。
「いいな、切りがいがある」
「そうなんですね」
「では私は牛肉か」
「はい、それを切られるのが一番お好きなら」
 そうなるというのです。
「やっぱり」
「そうか、しかしある者は豚肉といいだ」
 ここで王様は難しい顔でこう言いました。
「鶏肉、羊肉に野菜に果物とな」
「それぞれなんですね」
「そうだ、どの者も自分達のものが一番だと言う」
 切るにあたってというのです。
「正直どれが一番かわからぬ」
「それぞれじゃないの?」
 こう王様に言ったのはドロシーでした。
「そこは」
「それぞれか」
「王様は大包丁よね」
「うむ、そうだ」
「大包丁ならお肉、それも牛肉を切ることに向いているから」
 だからだというのです。
「王様はそれでいいの。それで他の包丁さん達はね」
「それぞれの向きがあるのか」
「ええ、そういうものだから」
「では果物ナイフは果物か」
「そうなるわ、そこはそれぞれよ」
「では何が一番とかはないか」
「そうものだと思うわ」
 ドロシーは王様にお話します。
「ただ。王様が牛肉を切ることが好きなのはそれはそれでいいのよ」
「駄目ではないな」
「王様はその為の包丁だから」
「そういうことになるな」
「ええ、それで他の食器の人達もね」
 本当に色々な食器が周りにいます、すりこぎにしてもすり鉢にしてもです。ありとあらゆる台所のものがあります。
 そうした人達を見つつです、ドロシーは言うのでした。
「使い方があるから。お鍋で人参を擦ったりは出来ないじゃない」
「わしは鍋ですからな」
 その鍋の言葉です。
「無理ですぞ」
「そういうことよ。食器はそれぞれ使い方があるのよ」
「それでじゃな」
「ええ、王様もね」
 それでいいというのです。
「問題ないわ」
「そうなのか、よくわかった」
「ええ、ところでだけれど」
 ドロシーは王様達にお話した後で、でした。こう食器達にこのことをお話しました。
「今度エメラルドの都でオズマがパーティーを開くけれど」
「おお、オズマ姫がか」
「そうなの、それで貴方達もどうかしら」
 オズマ姫のパーティーに来るかというのです。
「よかったら」
「いやいや、我等はいい」
「ここにいたい」
「食器は食器のあるべき場所にいるべきだ」
「下手に外に出ることは好きではない」 
 だからだとです、食器達はドロシーに答えるのでした。
「だから招待は有り難いがな」
「遠慮させてもらう」
「そうなのね」
「うむ、気持ちだけ受け取らせてもらおう」
 王様はこうドロシーに答えました。
「そういうことでな」
「わかったわ、それじゃあね」
「よかったらまた来てくれ」
 王様はドロシー達に笑顔でこうお話しました。
「その時また楽しく話をしよう」
「わかったわ、それじゃあね」
 こうしたことをお話してでした、ドロシー達はキッチンランドの人達にお別れの言葉を告げて挨拶をしてからでした。
 キッチンランドを後にしました、今度向かう場所はといいますと。
「次は兎の国ですね」
「あの国ですね」
「うん、いよいよだよ」
 モジャボロが五人に答えます、黄色い煉瓦の道を歩きながらの言葉です。
「あの国に行くよ」
「大きな兎ですよね」
「僕達と同じ位の」
「そうだよ、あそこもまた面白い国だよ」
 兎の国もだというのです。
「楽しみにしておいてね」
「はい、それじゃあ」
「あの国に行くことも楽しませてもらいます」
「最近兎達はね」
 ここで、です。モジャボロはこうしたことを言いました。
「色々食べているね」
「兎といえば人参ですよね」
 カルロスが言いました、兎といえばやっぱり人参だというのです。
「あれですよね」
「いやいや、最近はね」
「違うんですか」
「あの国では人参や草以外に食べるものが増えたんだよ」
「っていいますと」
「キャベツやレタスも食べる様になってね」
 それにというのです。
「お豆も食べる様になったよ」
「へえ、色々食べる様になったんですね」
「そうなんだ、後はね」
「後は?」
「何か変わった白いものも食べているね」
「あれ何なのかしら」
 ドロシーもここで首を傾げさせて言うのでした。
「一体」
「僕もわからないんだよ。ムシノスケ博士なら知っているだろうけれど」
 オズの国きっての豊富な知識の持ち主ならというのです。
「けれど今博士はここにはいないからね」
「だからね」
「あの白いものが何か僕達は知らないんだ」
「残念だけれどね」
「白いもの?」
「何かな、それって」
 ジョージと神宝はそう聞いても全くわかりませんでした、それで二人共首を傾げさせてそのうえで言うのでした。
「食べるものっていうけれど」
「何かな」
「チーズ?それともヨーグルトかな」
「兎はそうしたもの食べないんじゃないかな」
 乳製品はというのです。
「じゃあ何かな」
「白いものって」
「兎が食べるもので白いものね」
 ナターシャも首を傾げさせてです、考えるお顔で言いました。右手の人差し指を自分の右頬に当てての言葉です。
「何かしらね」
「私も。ちょっと」
 恵梨香も首を傾げさせて言います。
「わからないわ」
「あれ本当に何なのかな」
 トトも知らないのでした、それが何か。
「白い。何かパサパサした粉の集まりみたいで」
「小麦粉?」
「また違うんだ」
 トトは恵梨香の問いに彼女に顔を向けて見上げた姿勢で答えました。
「それが」
「小麦粉じゃないの」
「かといってお米でもないよ」
 それでもないというのです、白くても。
「だから余計にわからないんだ」
「そうなのね」
「ううん、本当にわからないよ」 
 幾ら考えても、というのです。
「僕にもね」
「オズの国だけにある食べものかしら」
 恵梨香も全くわからないのでこう言うのでした。
「オズの国って色々な変わった食べものがあるから」
「そうなのよね、オズの国はね」
 ドロシーが恵梨香のその言葉に応えました。
「そこにしかない食べものとかもあって」
「ですよね、食べると姿が消える木の実とかもあって」
「あそこは熊の姿が見えないから注意してね」
「はい」
「あそこは通らない様にするけれどね」
 カドリングの南の方に行くけれど、だというのです。その木の実は今のオズの国の南の方に実っているのです。
「それでも行くことになったらね」
「姿が見えない熊は怖いですね」
「姿が見えていても怖いのに」
 熊はとても大きくて力が強いだけではありません、牙や爪もとても鋭いからです。物凄く怖い生きものなのです。
 それに加えて姿が見えません、だからだというのです。
「そうした熊だからね」
「はい、気をつけます」
 恵梨香はドロシーの言葉に答えました。
「その時は」
「そうしてね。それにしてもね」
 ここでまたお話が戻りました、その白いものについて。
「あれは何なのかしらね」
「この目で見てもわからないかも知れないですね」
「目で見てもわかるとは限らないよ」
 モジャボロも恵梨香にこう言います。
「何でもね」
「そうですよね」
「うん、目で観て何でもわかるなら苦労はしないよ」
 この世のあらゆることで、というのです。
「若しそうなったら世の中は本当に楽だよ」
「確かに」
「あれだってね、何なのかな」
「兎さんが食べますから」
 このことからです、恵梨香はこうしたことを言いました。
「お肉とかじゃないことは確かですね」
「お肉を食べる兎はいないよ」
 このことはオズの国でも同じです、例え二本足で歩いて服を着ていてしかも人間位の大きさの兎達でもです。
「だから穀物かお野菜であることは間違いないよ」
「そのことは確かですね」
「確かなのはそうしたことだけだよ」
 お肉でないことは、というのです。
「その他のことはわからないよ」
「そうなんですね」
「だから僕達も何だろうってね」
「今考えてるの」
 ドロシーも言います。
「あれは何だろうってね」
「わからないから」
「ムシノスケ博士にお聞きすればわかりますよね」
 カルロスが二人に尋ねました。
「そうしたら」
「多分ね。あの人は博識でずっと勉強を続けているからね」
「知識ならあの人よ」
 モジャボロとドロシーはカルロスにすぐに答えました。
「あれも何か知っているよ」
「そうだと思うわ」
「そうですね。それでもなんですね」
「そう、けれど今は王立大学にいるから」
「それこそ大学まで行って聞かないといけないわ」
 そうでもしないとその白いものが何か知ることは出来ないというのです。
「残念だけれどね」
「今はね」
「ううん、王立大学に戻ることも」
 どうかとです、カルロスも難しい顔で言うしかありませんでした。
「あれですしね」
「そうしてもいいけれど」
 ドロシーはまた言いました、皆で黄色い煉瓦の道を歩きながら。
「兎の国はすぐだからね」
「じゃあ兎の国に行く方が近いですね」
「ええ、ひょっとしたら貴方達の誰かが知っているものかも知れないし」
 それでだというのです。
「見ればわかるかもね」
「あれっ、さっき見てわかるとは限らないって」
「見てわかる場合もあるじゃない」
「それもそうですね」
「そう、その時によるからね」
 だからだというのです。
「行ってみましょう、もうすぐだから」
「そうですか、それじゃあ」
「ええ、行きましょう」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆は兎の国に入りました、すると兎の人達二本足つまり後ろ足で立っていて人間の服を着た兎達が皆を笑顔で迎えてきました。
「やあやあようこそ」
「ようこそ来られました」
「ドロシーさんもモジャボロさんもお元気そうですね」
「他に初対面の子達もいて」
「私達の新しい友達よ」
 ドロシーは笑顔で兎の人達にお話しました。
「この子達はね」
「おや、髪の毛の色も目の色もそれぞれ」
「お肌の色も」
「私達と同じですね」
 見れば兎の毛の色は白だったり黒だったりです。茶色い毛の兎もいれば赤毛の兎もいてそこはそれぞれです。
「それぞれ個性的ですね」
「個性があって面白いですね」
「オズの国の人達だってそうでしょ」
 ドロシーはにこりとして兎の人達にお話します。
「白いお肌の人達だけじゃないでしょ」
「はい、カドリングの人達もですね」
「お肌の色も目の色もそれぞれですね」
「髪の毛の色も」
 実はオズの国にいる人達はドロシー達が元いた世界と同じです、様々なお肌や髪の毛、目の色の人達がいるのです。
 ドロシーもそのことをよく知っています、それでこう言うのです。
「だからこの子達もなのよ」
「ううん、黒い髪の毛と目の女の子の綺麗なこと」
「まるでお人形ね」
「こっちのブロンドの娘もね」
「何か凄い神秘的よね」
 兎の人達は恵梨香とナターシャを囲んでお話をします、ですが。
 男の子達はです、こう言ったのでした。
「あれっ、僕達はどうなったのかな」
「僕達のことは何も言われないけれど」
「言われるのは恵梨香とナターシャだけって」
「いやいや、男の子はこうした場合褒められないものだよ」
 モジャボロは笑って三人の男の子に言いました。
「男の子はその次だよ」
「恵梨香とナターシャの次ですか」
「その次ですか」
「そう、ほらね」
 ここで、です。兎の人達はなのでした。
 男の子達三人を囲んでです、こう言いました。
「ブラウンの髪とソバカスがいい具合だね」
「この子の黒い髪っていったら」
「ふうん、ダークブラウンのお肌が素敵ね」
「三人共それぞれいい具合ね」
「格好いいじゃない」
「まずは女の子を褒めてね」
 そしてだとです、またモジャボロが男の子達に言います。
「次に男の子なんだよ」
「そうなるんですね」
「女の子の後に男の子ですね」
「そうした順番ですか」
「そうだよ、レディーファーストを受け入れてね」
 そしてというのです。
「ありのままでいる、それが男の子であることだよ」
「とはいっても僕達も贔屓はしないよ」
 兎の人達は男の子達にこうお話しました。
「そうしたことはね」
「女の子だけ褒めるとかはですか」
「その逆も」
「そう、しないよ」
 それはないというのです。
「絶対にね」
「そうなんですか」
「レディーファーストでもですか」
「レディーファーストと贔屓は違うよ」
「似てもいないわよ」
 そうでもないとです、ここで言ったのドロシーでした。
「レディーファーストと贔屓はね」
「そうなんですね、そこは」
「全く違うんですね」
「レディーファーストはマナー、贔屓は感情よ。それも悪い感情なのよ」
 双方の違いはそうしたものだというのです。
「またね」
「その違いはよくわかっておかないと駄目ですね」
 恵梨香はドロシーの言葉に頷いて述べました。
「よく」
「ええ、贔屓はしてはならないわ」
 それはというのです。
「そこの違いが大事なのよ」
「贔屓はされたら嫌ですからね」
 自分が除け者にされることを好きな人はいません、これは誰でもです。
「本当に」
「贔屓されている人はそれに甘えて変なことにもなるわね」
「はい、そうなりますね」
「だからなのよ」
 それでだというのです。
「贔屓はしたらいけないのよ」
「そういうことですね」
「除け者にされると嫌だし贔屓されている人も駄目にするからね」
「しないことですね」
「絶対にね。公平は最高の美徳の一つだと思うわ」
 ドロシーは笑顔で皆にお話しました。
「それを持っているだけで全然違うわよ」
「人としてですね」
「ええ、だからよく覚えておいてね」
 贔屓をしてはならないということはというのです。
「本当にね」
「わかりました」
「さて、ではね」
 レディーファーストと贔屓の違いをお話してからでした。そのうえで。
 兎の人達にです、ドロシーは尋ねました。
「あの、それで王様は」
「はい、我等の王ですね」
「陛下ですね」
「今は何処にいるのかしら」
「王宮におられます」
「あちらにです」
 そこにです、兎の王様がいるというのです。
「ですから今おいでになられるとです」
「お会い出来ますよ」
「わかったわ、それじゃあね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 一行は兎の王様のところに向かいました、ですがここで。
 ジョージがです、兎の人達にこう尋ねました。
「今王様は悩んでおられないかな」
「以前の様にですね」
「嫌だ嫌だ王様を辞めたいとかですね」
「そう言っていないかですね」
「その辺りは大丈夫ですか?」
「はい、ご安心下さい」
 これが兎の人達の返答でいsた。
「王様は今とても明るいです」
「陽気に過ごされていますよ」
「毎日が楽しいそうです」
「とてもお幸せです」
「それは何よりです」
 ジョージは兎の人達の返答を聞いて笑顔で頷きました。
「最初ドロシーさんがお会いした時は凄く塞ぎ込んでおられたんですね」
「森に帰りたいって言っておられたんですよね」
 神宝も兎の人達に尋ねます。
「欝っていいますか」
「はい、本当に」
「欝でしたね、あの時の王様は」
「そうなられていました」
 兎の人達もそうだとです、神宝にもお話するのでした。
「人は色々な時がありますから」
「そうした時もありますね」
「僕も落ち込むことがありますからね」
 ここでこう言った神宝でした。
「何かと」
「そうです、ですから」
「問題は気をどう取り直すかですね」
「そうですよね、そこは」
 神宝は兎の人達の言葉に納得している顔で頷きました、そうしてでした。
 皆は王宮の前に来ました、そこでなのでした。
 ふとです、カルロスがモジャボロとドロシーに尋ねました。
「あの、さっきお話に出ていた白いものですけれど」
「あれだね」
「あのよくわからないものね」
「はい、あれは出るでしょうか」
「ひょっとしたらね」
 出るかも知れないとです、ドロシーがカルロスに答えました。
「最近兎の人達よくあれ食べてるから」
「そうですか」
「そうよ、だからひょっとしたらね」
「出たらですね」
「そう、誰かがそれを知っていたら嬉しいわ」
「ええと、ひょっとして」
 ここで、です。カルロスはこのお料理を出しました。
「クスクスですか?」
「あのカレーみたいなのね」
「はい、あれですか?」
「クスクスなら私達も知っているわ」
 こう答えたドロシーでした。
「あれはね」
「そうですか。じゃあ」
「クスクスではないわね」
 はっきりとです、ドロシーは言いました。
「あれはね」
「クスクスではないですね」
「そうなの。けれどクスクスも知ってるのね」
 ドロシーは五人にこのことも言いました。
「あのお料理も」
「大学の方の食堂にあるんです」
 カルロスがドロシーに答えました。
「実は」
「あっ、そうなの」
「はい、そうなんです」
 だからだというのです。
「僕達も食べています」
「そうなのね。だからなのね」
「あれ結構美味しいわよね」
「オズの国には最近入ってきたのよ」
「アメリカでも食べられる様になったからですね」
「ええ、そうよ」
 クスクスもアメリカの料理事情が反映されてオズの国に出て来たというのです。やっぱりアメリカやそちらのせかいの国々とオズの国は何処かつながっています。
「だから私達も知ってるの」
「けれどなんですね」
「その白い粉のものが何か」
 それはといいますと。
「わからないの」
「とりあえず見てみるしかないですね」
 恵梨香がこう言いました。
「とりあえずは」
「そうね、それじゃあね」
「今から行こうね」
 モジャボロが言ってでした、そして。
 皆で王宮に入りました、そのうえで兎の王様に会うのでした。



今回は立て続けに色んな国が。
美姫 「流石にパンの国は空腹だと危ないかもね」
だからこそ、先に食事を済ませたみたいだしな。
美姫 「それにしても、本当に色々と特徴的な国が多いわね」
確かにな。まあ、特に問題もなくて良いが。
美姫 「次は兎の王様が登場ね」
だな。一体、どんな話になるんだろうか。
美姫 「次回も待っていますね〜」
ではでは。



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