『オズのモジャボロ』




           第六幕  兎の王様

 兎の王様は立派なローブと服を着ています、頭には黄金と宝石で飾られた見事な王冠が耳と耳の間にあります。その王様はドロシー達を見てまずは笑顔でこう言いました。
「ようこそ、我が王宮へ」
「王様、お元気そうね」
「うん、明るく楽しく暮らせているよ」
 王様はドロシーの笑顔に同じ笑顔で応えます。
「ドロシー王女のお陰でね」
「それは何よりね」
「うん、それでだけれど」
 ここで王様は言うのでした。
「まずは音楽隊の音楽を聴いてくれるかな」
「兎の国のですか」
「音楽隊ですね」
「そうだよ。ああ、君達は」
 ここで、です、王様は恵梨香達を見ました。そのうえでドロシーに尋ねました。
「この子達は」
「ええ、私のお友達でね」
「見たところオズの国の住人ではないね、生まれついての」
「私と一緒よ」
「つまりあちらの世界から来たんだね」
「ええ、そうよ」
 ドロシーは王様に五人のことを細かくお話しました。そのうえで王様に対してあらためて尋ねたのでした。
「これでわかってくれたかしら」
「成程、そうなのか」
「ええ、オズの国の名誉市民よ」
「それは何よりだ、私もオズの国の市民だよ」
 王様はにこりと笑ってこう言いました。
「同じだね」
「そうね、皆ね」
「そうだね。ではまずは音楽を聴こう」
 王様は明るく言ってでした、そうして。
 皆を音楽隊、兎の軍隊のグラスバンドが控えている大広間に案内しました、もう席もちゃんと用意されています。
 そこにそれぞれ座ってでした、見事な音楽を聴くのでした。
 カルロスはその素晴らしい音楽を聴いて王様に尋ねました。
「あの、この曲のタイトルは」
「素晴らしくオズというのだよ」
「オズの国の音楽ですか」
「そう、オズの国そのものを讃えた音楽だよ」
 それがこの曲のタイトルだというのです。
「いい曲だね」
「はい、確かに」
「最近この曲が気に入っているんだ」
 王様はにこりとしてカルロスにお話します。
「他にもかかし殿の歌、木樵殿の歌もあって」
「あの人達のことを音楽にしたのですか」
「勿論ドロシー王女の曲もあるよ」
 ドロシーを見ながらの言葉です。
「オズマ姫もモジャボロ殿の曲も」
「皆あるんですね」
「そうだよ、オズの国のどの人の音楽もね」
「そうなんですね」
「音楽は素晴らしいものだよ」
 こうも言う王様でした。
「聴いているとそれだけで心が楽しくなるよ」
「あの、確か」
 ここで、です、ナターシャが王様に尋ねました。
「王様は以前はかなり塞ぎ込んでおられたんですね」
「うん、そうだよ」
 その通りだとです、王様もナターシャに答えます。
「以前の私はね」
「そうでしたよね」
「けれどそれはね」
「それは?」
「過去のことだよ」
 今のことではないというのです。
「もうね」
「過去だからですか」
「そう、だからね」 
「今の王様はですね」
「明るく暮らしているよ、兎の国の王様としてね」
「もう森に帰りたいとは」
「思わないよ」
 全く、という口調での言葉でした。
「ずっとここで暮らしたいよ」
「そうですよね」
「いや、いいものだよ」
 王様はにこにことしてお話するのでした。
「オズの国の生活は。兎の国でもね」
「文明は素晴らしいものだよ」
 モジャボロも笑顔で言います。
「実にね」
「そう、文明の生活を知ると」
 王様はモジャボロにも応えました。
「その楽しさからは離れられないよ」
「そうですよね、本当に」
「その辺りは」
 ここでジョージと神宝も王様の言葉に頷きました。
「文明の有り難さを知りますと」
「そこから離れられないですよね」
「そうだよ。私は落ち込んでいる時はわからなかったんだ」
 王様は二人にも言いました。
「あまりにも塞ぎ込んでいてね」
「この楽しい国にいても塞ぎ込むこともあるんですね」
 恵梨香はこのことに少し驚いて言いました。
「そうなんですね」
「そうよ、誰でも落ち込む時はあるわよ」
 ドロシーが恵梨香に答えます。
「そのことはね」
「そうなんですね」
「私だって落ち込む時があるわよ」
「ドロシーさんもですか」
「そう、どうしようかって思う時もね」
 あるというのです。
「そうした時も。本当にたまにだけれど」
「意外ですね」
「落ち込んでも一瞬だけれどね」
 落ち込む時間はすぐに終わるというのです。
「そうしたこともあるわ」
「意外ですね」
「楽しい場所にいても大変なことはあるから」
 だからだというのです。
「私だって落ち込むから」
「じゃあ他の人達も」
「そう、どうしようかって思ったり落ち込むことはあるわよ」
「オズマ姫もですね」
「ええ、ノーム王が攻めて来た時は皆どうしようかって思ったから」
「ああ、あの時は」
「危なかったわ。かかしさんの知恵がなかったら」
 この時もかかしの知恵が皆を救ったのです。かかし程頭のいい人はオズの国には一人もいません。それはその時もだったのです。
「どうなっていたのか」
「そうでしたね、あの時は」
「ノーム王はどうしているのかしら」
 ドロシーはあの悪い王様のことも考えました。
「いい人になっていればいいけれど」
「ですね、本当に」
「あの人は」
 ジョージも神宝もそのことは心からそう思うのでした。
「どうにかなって欲しいですね」
「改心してくれたら」
「あの人は何度心が真っ白になっても悪くなるんだよ」
 モジャボロも残念そうに言います。
「どうしてかはわからないけれどね」
「そもそもノームって悪い種族かな」
「違うよね」
 ジョージと神宝は二人でこうお話をしました。
「いい種族だよね、どちらかというと」
「そうそう、ゲームとかではね」
「信仰の心があって」
「お坊さんとかに向いているんだよ」
「それがどうしてかな」
「あの王様は」
「ノームにもいい人と悪い人がいるんだよ」
 モジャボロは今度は残念そうに言いました。
「だからね」
「それで、ですか」
「あの王様は悪いんですね」
「そうなんだ。何とかなって欲しいけれどね」
 モジャボロにしてもというのです。
「心から改心して欲しいね」
「全くですね」
「そうなって欲しいですね」
「オズの国の唯一にして最大の驚異なんだよ」
 ノーム王の悪だくみが、というのです。
「色々問題のある人がいても改心したけれどね」
「それでもですね」
「あの王様だけは」
「王様っていっても色々なのよ」
 ドロシーはこのことは真顔でお話しました。
「それはもうわかるわよね」
「オズの国には沢山の国が中にありますから」
「そのことは」
 ジョージと神宝はドロシーにも答えました。
「キッチンランドもパンの国も」
「チョッキンペットの村もこの国もですね」
「沢山の国がありますね」
「他にも種族も一杯いますね」
「イッカク族やトビハネ族とかね」
 そうした種族も一杯いるというのです、オズの国には。
「ウーガブーの国もあるわよ」
「ああ、あの女王様ですね」
「軍隊を率いていた」
「アン=アレヤコレヤっていうのよ」
 あの女王様のお話にもなります。
「あの人の国もあるし」
「オズの国は中に沢山の国があって種族もいますね」
「オズマ姫の下に」
「我が国もだよ」
 兎の王様もここで言います。
「私はオズマ姫に正式に兎の王様と認めてもらった正統な王なのだよ」
「そこがわからないけれどね」
「そうだよね」
 ジョージと神宝はまた二人でお話をしました。
「お姫様が国家元首で」
「皇帝より偉いってね」
「オズマ姫は女王様だけれど、エメラルドの都の」
「ウィンキーの皇帝の木樵さんよりも偉いんだね」
「オズの国にはオズの国の法律があるの」
 ドロシーが二人にその辺りの事情をお話してくれました。
「だからね」
「それでなんですか」
「オズマ姫の方が皇帝より偉いんですね」
「皇帝は木樵さんがその方がいいと思って名乗ってね」
 そしてだというのです。
「オズマが認めたのよ」
「じゃあオズマ姫は皇帝より偉い」
「そうした方ですね」
「そうよ、オズマは特別なのよ」
 オズの国でもとりわけ、というのです。
「そのことはわかっていてね」
「わかりました、オズの国のことも」
「そうしたことですか」
「そう、そういうことでね」
 ドロシーも笑顔でお話するのでした、そうしたお話の中にも音楽隊の音楽は続いていってそれが全て終わってからでした。
 兎の王様は皆にこう提案しました。
「では次のおもてなしは食事で」
「ええ、ではね」
 ドロシーが王様の誘いに笑顔で応えました。
「これから皆でね」
「食べよう、それで王女がここに来た理由は」
「もう伝わっていると思うけれど」
「オズマ姫のパーティーへの招待だね」
「ええ、受けてくれるかしら」
「喜んで」
 王様はドロシーの誘いに笑顔で答えました。
「有り難く受けさせてもらうよ」
「よかったわ、それじゃあね」
「うん、パーティーの場でも会おう」
「そこでも楽しみましょう」
「では今から諸君にこの国で最高のご馳走を楽しんでもらおう」
 兎の王様は陽気そのもののお顔で皆に言いました。
「今から」
「どんなお料理が出ますか?」
 ナターシャが王様に尋ねました。
「兎の国のご馳走とは」
「まず人参にね」
 それにというのです。
「キャベツにレタス、今は豆も出るよ」
「お豆ですか」
「あれはいい、今や我々の主食だよ」
 王様は兎の主食が何かもお話してくれました。
「他にもとっておきのものがあるから」
「だからですね」
「私達も」
 ナターシャに続いて恵梨香も応えます。
「そのご馳走をですね」
「今から頂けるんですね」
「そうだよ、では今から皆で食べよう」
 こう言ってでした、そのうえで。
 一行は兎の王様に案内されて王宮の見事な食堂に案内されました。そこのテーブルに着いてからでした。
 カルロスがです、考えるお顔で四人に尋ねました。
「それで何だと思う?」
「あの白い粉ね」
「それのことね」
「うん、何だろうね」
 こう恵梨香とナターシャに言うのでした。
「お米でも小麦粉でもないっていうけれど」
「ええ、そうね」
「何かしらね」
「チーズとかでもないみたいだし」
「チーズ?私達はチーズは食べないよ」
 向かい側にドロシーやモジャボロと並んで座っている王様が答えてきました。
「それはね」
「そうですか、兎の国ではチーズは食べないんですね」
「乳製品は食べないよ」
 それはというのです。
「ミルクは飲むけれどね」
「それでもですか」
「そう、チーズはね」
「じゃあ粉チーズは」
「粉チーズも食べないよ」
 とにかくチーズはというのです。
「兎と鼠は親戚だけれどそこは違うよ」
「鼠はチーズを食べますが」
「兎は違うよ」
 そこはというのです。
「そのことはわかっておいてね」
「わかりました、じゃあ一体」
「そうだ、君達に是非食べてもらいたいものがあるんだ」
 ここで王様は皆に明るい顔で言いました。
「我々の新しいご馳走だよ」
「それをですか」
「今から」
「うん、食べてもらいたいんだ」
 こうしたお話をしているとでした、やがて。
 兎の国のご馳走達が来ました、人参やキャベツ、レタスに大豆のお料理にです。他にはジャガイモのお料理もあります。どれもお野菜やそうしたものです。
 そしてその中にです、黄色がほんの少しだけかかった感じの白いぱさぱさとした感じの粉がありました。その白いお皿の上にある粉を見てです。
 ナターシャも男の子達もです、目を瞬かせて言いました。
「何かしら、これ」
「ううん、何かな」
「こんなもの見たことないよ」
「僕もね」
 四人はこう言うのでした。
「ちょっとね」
「はじめて見たよ」
「何だろう、本当に」
「さっぱりわからないよ」
「そうなのね、貴方達も」
「わからないんだね」
 ドロシーとモジャボロもこう四人に言うのでした。
「これが何か」
「全く」
「こんなもの見たことないです」
 ナターシャが二人に真剣な、それもいぶかしむお顔で言ってきました。
「何でしょうか」
「あれっ、まさか」
 ですがここで、でした。恵梨香だけは。
 その粉のものを見てです、こう言いました。
「おからじゃ」
「おから?」
「おからって?」
「私も久しぶりに見るけれど」
 この前置きからも言う恵梨香でした。
「これおからよ」
「ほう、おからというのか」
 ここで王様も恵梨香に言ってきました。
「これは」
「あれっ、御存知なかったんですか」
「最近我々は大豆を食べているね」
「はい、実際に」
 見ればその大豆の料理もあります、それでなのでした。
「美味しそうですね」
「豆乳も飲んでいてね」
「じゃあ豆乳を搾って」
「その残りカスがね」
 この粉だというのです。
「我々はただ搾りカスとだけ呼んでいるのだが」
「これおからっていうんです」
「そうなのか」
「日本だけにあるみたいっていいますか」
 ここでこうも言う恵梨香でした。
「最近日本でも食べなくなっています」
「そうなのか」
「お豆腐はや豆乳は食べますけれど」
 それでもだというのです。
「おからはもう食べなくなっています」
「お豆腐は私も大好きだけれど」
 ナターシャも怪訝なお顔で言います」
「おからなんてものがあるのね」
「僕もはじめて見たよ」
「僕もだよ」
 ジョージと神宝も言います。
「お豆腐はアメリカでも今は結構食べるよ」
「お豆腐は元々中国で出来たものだけれど」
「その搾りカスとかはね」
「見向きもしないよ、もう」
「私も久しぶりに見たわ」
 またこう言った恵梨香でした。
「食べたことも殆どないの」
「恵梨香ちゃんもなんだ」
「そうだったんだ」
「ええ、物凄く安いけれど」
 それでもだというのです。
「お豆腐とか豆乳の方を食べるからね」
「しかしこれが滅法美味しいのだよ」
 王様がここでこう言ってきました。
「我々にとってはね」
「兎さん達にはですね」
「そう、我々の新しいご馳走だよ」
 このおからもまた、というのです。お豆と共に。
「今も食べているよ」
「そうですか、それじゃあ」
「さあ、食べてくれるね」
 王様は陽気な笑顔で皆に言いました。
「このおからも」
「実は美味しいのよね」
 ドロシーもおからの味そのものにはこう言うのでした。
「じゃあ今からね」
「うむ、皆で食べてもらおう」
 こうしてでした、皆で。
 その兎のご馳走を食べました、勿論おからもです。皆は兎の国のお料理も楽しみました。それが終わってからでした。
 王様はです、ドロシー達に言いました。
「では次は」
「ええ、エメラルドの都で会いましょう」
「その時を楽しみにしているよ」
 王様は今からとても楽しそうです。
「また会おう」
「それじゃあね」
「では諸君はこれから何処に行くのかな」
「狐の国と驢馬の国に行くわ」
 ドロシーは王様にこれからの行き先をお話しました。
「あの二国の王様達もパーティーにお招きするの」
「そうか、賑やかになるな」
「パーティーは人が多い方が楽しいでしょ」
「その通りだ」
 まさにとです、王様はドロシーの今の言葉にはっきりと答えました。
「そして賑やかに楽しむに限る」
「だからあの人達もお招きするのよ」
「いいことだ。では道中幸あらんことを」
「ええ、楽しい旅にしていくわ」
「その様にな」
 こうしてお別れの挨拶をしてからでした、一行は兎の国を後にして黄色い煉瓦の道に戻りました。そうして。
 一行はさらに進んでいきます、そしてここでなのでした。
 カルロスがです、ドロシーに尋ねました。
「あの、アンヤコレヤ女王ですけれど」
「あの人がどうかしたの?」
「あの人今どうされてるんでしょうか」
「元気よ、とてもね」
「そうですか。それは何よりです」
「ええ、ただあの人にはかかしさん達が招待状を送りに行っているから」
 それでだというのです。
「私達はウーガブーの国には行かないの」
「そうなんですね」
「あの国はウィンキーにあるの」
 ウィンキーの谷間にあるのです。
「だからかかしさんと木樵さんが招待状を届けに行ったの」
「そうなんですか」
「ええ、私達はカドリングよ」
 カドリングの名士の人達をお誘いに巡っているというのです。
「この赤い国よ」
「そうなんですね」
「赤はいい色ですよね」
 今度は赤い服が大好きなジョージが言ってきました、見れば彼は今も赤い上着です。神宝は青でカルロスが黄色です。
「本当に」
「カドリングの色だからね」
「そういえば今の君達の服の色は面白いね」
 ここでモジャボロも言いました、三人の男の子のものだけでなく二人の女の子の服も見てです。
「ジョージが赤」
「カドリングですね」
「神宝が青」
「マンチキンですね」
「カルロスが黄色」
「ウィンキーですよね」
 まずは男の子三人がでした、そして女の子達はといいますと。
 見ればナターシャは黒いドレスではありません、紫のドレスです。そう、その紫の色こそがなのです。
「ナターシャは紫だから」
「はい、ギリキンです」
「そして恵梨香もね」
 最後の恵梨香はといいますと。
 緑のふわりとしたブラウスに長いスカートです。これで彼女もなのでした。
「緑だからね」
「エメラルドの都ですね」
「君達は五人でオズの国だね」
「そうなっていますね」
「オズの国は色がそれぞれの国を表すからね」
 このこともまたオズの国の特徴です。
「君達は今五人でオズのl国なんだよ」
「一人一人が一国で」
「五人で、ですね」
「そう、オズだよ」
 まさにこの国になっているというのです。
「とてもいいね」
「他の色でもいいですよね」
 ここで言ってきたのは神宝でした。
「オズの五色以外の色でも」
「いいよ、オズの国はそれぞれの色があるけれど」
 それでもだというのです。
「どの色の服を着たら駄目とかはないんだ」
「じゃあ僕達もどんな色の服を着てもいいんですね」
「そうだよ、好きな色の服をね」
「そうですか、じゃあ今度はそうさせてもらいますね」
「そうするといいよ。ドロシーだって色々な色の服を持っているしね」
「五色以外の服もね」
 ドロシーがにこりと笑ってモジャボロに応えてきました。
「沢山持ってるわよ」
「この前のピンクのドレスが可愛かったね」
「有り難う」
 モジャボロの言葉に笑顔で応えます。
「それじゃあ今度も着てみるわね」
「楽しみにしているよ」
「何を着たら駄目とかはないんですね」
 ここで言ってきたのはナターシャでした。
「オズの国には」
「一切ないよ」
 モジャボロはナターシャににこりとして答えました。
「そうした法律はね」
「じゃあどうしてそれぞれのお国の色があるんでしょうか」
「好きだからだよ、それぞれの国の人達がね」
「だからですか」
「うん、それぞれの国の色があるんだ」
 そうなっているというのです。
「オズの国はね」
「そうだったんですね」
「法律では一切決められていないよ」
 このことは間違いないというのです。
「オズの国でもね」
「自発的にですか」
「昔からみたいよ」
 今度はドロシーがナターシャにお話します。
「オズの国の五国が出来た時からね」
「じゃあかなり昔ですね」
「私が来るずっと前だからね」
「そうですね」
「ええ、私が最初に来た時はもうそれぞれの色に分かれていたわよ」 
 こうお話するドロシーでした。
「面白いでしょ」
「はい、そうですね」
「あちらの世界では結構色分けが為されているわね」
「自然と」
「それと一緒よ。そういうことだからね」
 こうしたことをお話してでした、そのうえでなのでした。
 一行は煉瓦道を歩いていきます、すると今度は。
 一行の目の前に黒い大きな豹が出て来ました、その豹を見てです。
 恵梨香はびっくりしてです、モジャボロに言いました。
「あの、あの豹は」
「ああ、大丈夫だよ」
「大人しい豹ですか」
「うん、そうだよ」
 こう穏やかな笑顔で、です。モジャボロは恵梨香に答えました。
「もうオズの国では怖い動物はいないよ」
「そうなんですね」
「うん、だからこの豹についても安心してね」
「わかりました」
「やあやあ、ドロシーさんとモジャボロさんじゃないですか」
 ここで、です。豹からも言ってきました。
「一度お会いしましたね」
「うん、カドリングでの動物達のパーティーの時にね」
「お会いしてるわね」
 モジャボロとドロシーが豹に笑顔で応えます。
「あの時はどうもね」
「楽しませてもらったわ」
「うん、それでなんだけれど」
 豹は二人にとても親しげにお話するのでした。
「臆病ライオンさんと腹ペコタイガーさんはお元気かな」
「いつも通りよ」
「とても元気だよ」
「それは何よりだよ。いやあ、僕は最近ねえ」
「最近?」
「最近どうかしたのかな」
「実は虫歯になったんだ」
 ここで困ったお顔になった豹でした。
「それで困っているんだ」
「それは大変ね」
 虫歯と聞いてです、ドロシーも困ったお顔で応えました。
「虫歯だと」
「うん、どうしたものかな」
「ちょっと見せてくれるかな」
 モジャボロがその豹に言いました。
「その虫歯を」
「見てくれるかな」
「僕は歯医者さんではないけれどね」
「それでもなんだ」
「うん、まずは見せてもらってね」
 そしてだというのです。
「何か出来るかも知れないからね」
「じゃあ見てね」
「それではね」
 こうしてモジャボロは大きく開かれた豹のお口を見てみました。その白い歯の奥の一本がです。
 黒い虫食いの様なものがありました、それがでした。
「ああ、奥の方にあるね」
「左の下のだよね」
「うん、そこにね」
 虫歯が一本あるというのです。
「あるよ」
「そうだよね、どうしたものかな」
「そうだね、抜けるかな」
 歯を、というのです。
「ちょっと酷いみたいだからね」
「抜くの?歯を」
「そうするべきかな」
「いや、それだと痛いからね」
 だからだとです、豹はモジャボロに困った顔で答えました。
「抜くことはね」
「嫌なんだ」
「他の方法はないかな」
 豹は困惑している顔でモジャボロに言うのでした。
「抜く以外に」
「そうだね、それだとね」
「それだったら歯医者さんはどうかな」
 ここでこう言ってきたのはトトでした。
「そこで治してもらったらどうかな」
「歯医者さんだね」
「そう、そこに行けばいいかな」
「歯医者さんといっても」
「確かこの辺りにおられるわよ」
 ドロシーも言ってきました。
「そうした人ならね」
「何処かな」
「ええと、この煉瓦道を左に行ってね」
 そしてだというのです。
「カドリングのお家で看板が立てられているお家があって」
「歯医者さんの看板がだね」
「そう、そこに行けばね」
「歯を治してくれるんだ」
「そうしてくれるわ」
「抜かないで済むかな」
 その虫歯をというのです。
「これから」
「うん、そうだね」
「それじゃあね」
 こうしてでした、豹は歯医者さんのところに向かうことにしました。ですがここでドロシーは豹にこう言いました。
「けれど虫歯はね」
「どうしてなったかだね」
「そう、そのことだけれど」
「歯を磨かなかったんだ」
 それでだというのです。
「そうしたらね」
「それはよくないわよ」
 豹のお話を聞いてです、ドロシーは咎める顔で豹にこう言いました。
「絶対にね」
「そうだよね、やっぱり」
「葉を磨かないと」
「毎日だよね」
「絶対によくないわ」
「こうして虫歯になるんだね」
「そうよ、本当に気をつけないと」 
 ドロシーは少しむっとしたお顔になっています、そのうえでの言葉でした。
「そうなるわよ」
「よくわかったよ、これで」
「なってからじゃ遅いのよ」
「全くだよ、虫歯は」
「わかったらこれからはね」
「うん、毎日歯を磨くよ」
 豹もドロシーにこのことを約束しました。
「さもないとまた虫歯になるからね」
「そうよ、私も毎日磨いているから」
「ドロシーさんもなんだ」
「だって虫歯になりたくないし」
 それにというのです。
「磨かないと汚いでしょ」
「それもそうだね」
「お口の中もいつも綺麗にしないとね」
 それこそというのです。
「汚いからね」
「そういうことだね」
「綺麗にしないと」
 また言うドロシーでした。
「これからはね」
「身体はいつも水浴びをしていて綺麗にしているけれど」
「お口もよ」
 そこもというのです。
「これからはわかったわね」
「懲りたからね」
 虫歯の痛みはとんでもないものです、それでわからない筈がありません。
「もう二度としないよ」
「約束よ」
「うん、王女さんに約束するよ」
 オズの国の王女にです。それだけに重いものがあります。
 そうしたことをお話してでした、そのうえで。
 豹は歯医者さんのところに向かいました、ドロシー達にお礼を言ってから。
 その豹を見送ってからです、カルロスは首を傾げさせて言うのでした。
「いや、虫歯ってねえ」
「確かに怖いね」
「それもかなりね」
 ジョージと神宝もカルロスのその言葉に応えます。
「虫歯になったらもうパイロットにはなれないし」
「眠れなくなるらしいね、痛くて」
「だから歯磨きは大事だね」
「ちゃんとしないとね」
「うん、僕も甘いものが好きだしね」
 ここでこうも言ったカルロスでした。
「歯磨きは忘れたら駄目だよ」
「私は毎食後磨いているわよ」
 ナターシャはクールは表情で言いました。
「お父さんとお母さんに言われてきたから」
「そういえばナターシャちゃんいつも歯を磨いているわね」
「ええ、気をつけているの」
 そうしているというのです。
「虫歯が怖いから」
「恵梨香ちゃんにも怖いものがあるのね」
「私は病気が怖いの」
 それがというのです。
「虫歯もね」
「成程ね」
「虫歯になったら痛いだけじゃなくて健康自体にも悪いから」
「そう言われているわね」
「そう、だからね」
「歯磨きを忘れないのね」
いつもね」
 それこそ食べた後は絶対にというのです。
「磨いているわ」
「そういうことね。私も毎日磨いているわ」
「それがいいわ」
「朝と晩ね」
 恵梨香は一日二回でした、歯を磨くことは。
「磨いているわ」
「起きた時と寝る前かしら」
「朝御飯の後と寝る前になの」
 その二回というのです。
「磨いているのよ」
「朝起きた後じゃないのね」
「だって食べていないから」
「そこは私と同じね」
「そうなの。とにかく歯を磨かないと駄目ね」
「虫歯にならない為にはね」
「僕も気をつけてるんだよね、虫歯には」
 モジャボロもでした、このことは。
「虫歯の壊さはよく知っているからね」
「あれっ、モジャボロさんひょっとして」
「虫歯になったことが」
「あるよ、旅の途中にね」
 オズの国に入る前のです。その時にです。
「なったことがあったんだ」
「そうだったんですか」
「あの時に」
「うん、なったからね」
 だからだというのです。
「その時かなり痛い思いをしたから」
「虫歯っていつも痛むんですよね」
「苦しくて仕方ないんですよね」
「もう地獄だよ」
 そこまで苦しいというのです、虫歯の痛みは。
「だから気をつけてね」
「はい、ならない様に」
「気をrつけます」
「苦しむのは自分だから」
 他ならぬ自分自身の経験から言うモジャボロでした。
「本当に気をつけてね」
「痛い思いをするのは自分自身」
「歯を磨かないとですね」
「虫歯以外にも。僕はなったことはないけれど」
 モジャボロは五人にさらにお話します。
「歯槽膿漏にもなるからね」
「その病気もあるからですね」
「歯磨きは欠かせないですね」
「そうだよ、歯は守らないと駄目だよ」
 絶対にというのです。
「気をつけてね」
「そういうことですね」
「歯磨きも」
「そういうことだよ。あとトトもね」
「僕も気をつけているよ」
 トトはモジャボロに顔を向けて答えました。
「だって痛い思いしたくないから」
「もうわかってるんだね」
「ドロシーがいつも磨いているからね」
 そのドロシーを見ての言葉です。
「僕もそれを見て磨いているんだ」
「それはいいことだね」
「ライオンさんや腹ペコタイガーさんもだから」
 虎は歯を磨かないといいますがオズの国では違うのです。
「そこはね」
「最初からそうしているならいいよ」
「そういうことでね」
「さて、それではね」
 豹のお話が終わってでした、そのうえで。
 一行は再び歩きだします、その中でなのでした。
 ドロシーがまたです、こう言ったのでした。
「では今度は狐の国に行こうか」
「あそこですか」
「狐の国に行くんですね」
「うん、そうしよう」
 こう言うのでした、皆に。
「ではいいね」
「はい、それじゃあ」
「それからですね」
「驢馬の国にも行って」
 そしてそれぞれの国の王様達に招待状を渡してというのです。
「そうしてね」
「オズの国に戻って」
「それでパーティーですね」
「そうしようね」
 こうお話してでした、皆で。
 また歩きだしました、そうしてカドリングの国を結構進んだ時にでした。トトが皆にこうしたことを言ってきました。
「ねえ、いいかな」
「トト、どうしたの?」
 ドロシーがそのトトに応えました。
「何かあったのかしら」
「うん、もうすぐ森に入るじゃない」
「ああ、あの森ね」
「そう、その森にね」
 そこにというのです。
「前は大きな蜘蛛がいたじゃない」
「今はいないわよ」
 ドロシーは最初にカドリングの国に来た時のことを思い出しながらトトに答えました。
「臆病ライオンさんが退治したでしょ」
「うん、そうだよね」
「それがどうかしたの?」
「いや、そうしたこともあったなってね」
 そう思ってだというのです。
「言ったんだ」
「そうなのね」
「そうなんだ」
 こうお話するのでした。
「昔はそんなのもいたなってね」
「そうよね。オズの国も私達が最初に来た時はね」
「怖い場所や生きものもまだいて」
「危険も多かったわね」
「本当に今は変わったよ」
「そうよね」
「というか凄い大きな蜘蛛だったんですね」
 恵梨香がここで言ってきました。
「そうだったんですね」
「そうなの、臆病ライオンさんが言うにはね」
 どうかというのです。
「もう丸太みたいな脚でね」
「その脚が八本ですよね」
「とんでもない大きさでね」
「とても退治出来なかったんですね」
「そう、とてもね」
 そうだったのです、かつては。
 ですがそれでもです、臆病ライオンはその蜘蛛をやっつけたというのです。自分ではとんでもなく臆病だと思っていても。
「そうした蜘蛛もいたのよ」
「カリダだけじゃなくて」
「そうだったのよ」
 こう恵梨香にもお話するのでした。
「結構いたから、そうした生きものが」
「けれど今はですね」
「そうよ、いないわ」
 そうした蜘蛛も怖いカリダもというのです。
「だから安心してね」
「わかりました、それじゃあ」
「さて、それでは狐の国までは遠いけれど」
「一歩一歩進んで」
「そうしていくんですね」
「道はわかっているよ」
 それは既にというのです。
「だからね」
「確実に進んでいくこと」
「それが大事ですね」
「そうだよ、歩いていこうね」
 モジャボロは五人に笑顔で言います、それを受けてでした。
 五人もドロシーもトトもモジャボロと一緒に進んでいきます、今度は狐の国と驢馬の国に。皆の旅は今も続くのでした。



兎の国はやっぱり野菜が多かったな。
美姫 「後は、豆みたいね」
色んな国があるけれど、それぞれにかなりの特徴があるな。
美姫 「確かにね。次は狐の国みたいだし」
どんな国なんだろうな。
美姫 「やっぱり油揚げとかが出てくるのかしらね」
どうなんだろう。次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。



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