『オズのムシノスケ』




            第十一幕  ボタン=ブライトを起こして

 一行は大学に戻る道を進みました、そして夜になって休憩する時にです。ドロシーは皆にテーブル掛けから出したバーベキューを見せつつ言いました。
「明日の朝にね」
「はい、大学ですね」
「大学に着きますね」
「ええ、そうよ」
 こうお話するのでした。
「そうなるわ」
「今日中には行かないんですか」
「行ってもいいけれど」
 それでもとです、ドロシーはナターシャに答えました。
「着いたら真夜中だから」
「だからですか」
「そう、今日はね」
「お休みしてですか」
「朝に気持ちよくね」
「大学に着いてですか」
「それからボタン=ブライトを起こしましょう」
 そうしようというのがドロシーの考えでした。
「あの子を真夜中に起こしてもね」
「よくないですよね」
 恵梨香も言います。
「そういうことは朝にした方がいいですね」
「人は朝に起きるものだからね」
 だからこそとです、ドロシーは恵梨香にも答えました。
「だから私達もね」
「朝に大学に着いて」
「そうしてあの子を起こしましょう」
「わかりました、それじゃあ」
「そういうことでね。じゃあ今は」
 そのバーベキューの焼いたお肉やお野菜を乗せたお皿をそれぞれ皆に差し出しながらです、ドロシーは笑顔で言いました。
「これを食べましょう」
「今夜はバーベキューですね」
「そうよ、これを食べてね」
 それでと神宝にも答えます。
「寝ましょう」
「わかりました、そういえば」
 ここで神宝は自分達の前、テーブル掛けの上に出ているお肉やお野菜を焼いている鉄の網とその下の炭火を見つつドロシーに尋ねました。
「ドロシーさんバーベキューもお好きですよね」
「ええ、そうよ」
 にこりと笑ってです、ドロシーは神宝のその問いにも答えました。
「こうして皆と一緒に食べることがね」
「そうですよね」
「お肉もお野菜も焼いて」
 そうしてというのです。
「おソースを付けて食べることがね」
「そうですか」
「ええ、だから皆食べてね」
「よく火を通して」
 そしてとです、ジョージも言います。皆まだ頂きますをしていなくて用意の段階です。ドロシーがお料理を配って他の皆も色々と動いています。
「そうして食べましょう」
「バーベキューは火を通さないとね」
「焦がしてもよくないですけれど」
「そうじゃないとよくないからね」
「そうなんですよね」
「そこがステーキと違いますよね」
 カルロスは皆のコップにジュースを入れつつ言いました。
「ステーキはレアでもいいですけれど」
「そう、ステーキはね」
「バーベキューはそうじゃないですね
「ちゃんと火を通さないとね」
 駄目だというのです。
「それがバーベキューだから」
「ステーキとはまた違うから」
「そこはちゃんとしてね」
「だから今もですね」
「火を通してるから」
 こうお話してでした、ドロシーはよく焼けたお肉やお野菜を皆に配ってでした。
 バーベキューを食べます、教授はよく焼けたお野菜だけを食べながらそのうえで皆にこうしたことを言いました。
「明日、彼を起こしたら」
「そうしたらですか?」
「そう、起こしたらね」
 どうするかと言うのです。
「皆でそのお菓子とジュースを楽しもう」
「そうするんですか」
「是非ね。そしてその後は」
「その後は?」
「私は大学に残ることになるかな」
 こうも言うのでした。
「そして研究かな」
「そちらをですか」
「うん、することになるかな」
 こう言うのでした。
「その再開かな」
「何の研究をされるんですか?」
「マンチキンの風俗についての研究だよ」
 教授が今している研究の一つです。
「それをしようかな」
「マンキチンのですか」
「そう、オズの国はそれぞれの国と部族で風俗習慣が違うんだ」
 それも全く、というのです。
「その一つ一つを研究しているんだ」
「そうした学問もあるんですね」
「民俗学と言うべきものだよ」
 その学問はというのです。
「日本だとね」
「日本のですか」
 日本人の恵梨香が教授に自分のお国の名前が出たところで言いました。
「民俗学、ですか」
「柳田国男という人がはじめた学問でね」
「柳田国男?」
「うん、君達もそのうち知ることになるよ」
 その柳田国男という人のことをだというのです。
「凄い人だからね」
「それでその人が開いた民俗学がですか」
「オズの国にも入ったんだよ」
 そうなったというのです。
「それでね」
「教授もなんですね」
「その民俗学を学んでいるんだ」
「そして楽しんでおられるんですね」
「そう、学問は難しいものじゃないんだよ」
「楽しむものですね」
「要するに自分の好きなものを調べてね」
 そうしてというのです。
「知っていってそのことについて書いていくことだよ」
「それが学問ですね」
「そうなんだよ」
 こうお話するのでした、学問とはどういったものであるかということをここで恵梨香達にお話するのでした。
「決して難しいものじゃないから」
「だから教授も」
「うん、大学に戻ったら」
 そしてボタン=ブライトを起こしたらというのです。
「そちらも楽しませてもらうよ」
「旅の後は」
「実は旅もね」
「旅も?」
「学問だからね」
 それで、というのです。
「その場所に行って実際にその目で見ることもね」
「学問ですか」
「民俗学ではまずはね」
「旅が大事ですか」
「そう、その研究する対象の場所に行ってその目で見て調べることも」
 それもまた、とです。教授はお野菜を食べつつお肉とお野菜を食べている皆に対してお話していくのでした。
「学問だからね」
「じゃあ教授も」
「うん、実際にあちこちの場所に行くこともね」
 その研究対象がある場所にです。
「よくしているよ」
「そうですか」
「そして学んでいるんだ」
「旅もまた学問ですか」
「そのうちの一つだよ」
「学問って広いものなんですね」
 恵梨香はフォークでよく焼けたお肉を取ってお口の中に入れて食べつつです、そのうえでその学問について言うのでした。
「机に座って本を読んだりノートに書いたりするだけじゃないんですね」
「それは学問のやり方の一つでしかないよ」
「あくまで、ですか」
「それだけだよ」
 そうだというのです。
「旅もそうだしね」
「その他にもですね」
「実験もそうだし」
 こちらもだというのです。
「それに人からお話を聞くこともね」
「学問ですか」
「あらゆることが学問だよ」
「そうだったんですか」
「学ぶことは広くて確かな形がないものだよ」
「ううんと、それじゃあ」
 教授の今のお話を聞いてです、カルロスはこんなことを言いました。
「ゼリーみたいなものですか、学問っていうのは」
「確かな形がないからだね」
「はい、そうでしょうか」
「そうだね、言われてみればね」
「ゼリーですか」
「うん、少なくとも四角四面のものじゃないよ」
 決まったものではないというのです。
「そうしたものだよ」
「そうですか」
「私もそのことがようやくわかってきたかな」
「教授も」
「学問に終わりはなくて」
 そしてだとです、教授のお話は次第にしみじみとしたものになってきました。
「何時までも続くもので」
「だから教授もですか」
「ずっと学んでいくよ」
「オズの国で一番の物知りなのに」
「一番になってもそこから先があるんだよ」
 この世には、というのです。
「ずっとね」
「一番で終わりじゃないんですね」
「この世にはゴールがあるものとないものがあってね」
「学問はですか」
「終わりがないんだよ」
 そちらになるというのです。
「だから私はこのままね」
「進まれるんですね」
「そうしていくよ」
「そうですか」
「ずっとね」
「教授も変わったね」
「そうだね」
 かかしと木樵は食べませんが今も皆と一緒にいて笑顔を見ています、そのうえで二人でこうしたことを言うのでした。
「昔はもっとね」
「知ったかぶりなところがあったけれど」
「それがね」
「変わったよね」
「自分が何も知らないことを知ったからだよ」
 教授は二人に笑って答えました。
「私がね」
「だからだね」
「変わったんだね」
「オズの国は色々な人や種族がいる国で」
 そしてというのです。
「かつて死の砂漠の外にあった国々も色々とあって」
「そうした国や人の存在を知って」
「それでわかったというんだね」
「その通りなのだよ」
 教授にとってオズマと並ぶ古い友達の二人に答えるのでした。
「私もね」
「オズの国は色々な人がいるからね」
「部族もね」
「リンキティンク王達もオズの国に入って」
「そうしてね」
「そうしたことを知っていってね」
 その知っていく中でというのです。
「私は自分が何も知らないことを知ったのだよ」
「ものを知っていく中で、ですか」
「うん、そうだよ」
 カルロスにもこう答えます。
「私は自分がわかったんだよ」
「自分が何も知らないことを」
「そういうことなのだよ」
「何かを知ってですか」
「知らないことがわかるのだよ」
「何かよくわからないお話ですけれど」
 こう言ったのはカルロスだけではありません、恵梨香達他の四人もです。何かを知ってそれで自分が知らないことを知るということが。
「一体」
「そうよね」
「どうにもね」
「知って知らないことを知るって」
「どういうことなのかな」
「そのことを知るってことはそのことを知らなかったってことじゃないかい?」
 教授が言うのはこのことでした。
「そうだね」
「あっ、そういえば」
「そうですよね」
 ここで五人もこのことがわかりました。
「知らないからですよね」
「その知らないことを知るんですよね」
「それで、ですか」
「自分が知らないことも」
「そう、知ったのだよ」
 そうだったというのです。
「私もね」
「そうですか」
「それで教授も」
「私は自分がわかったのだよ」
 知らないということを知ったというのです。
「だから今もね」
「学問をされてですか」
「知っていかれてるんですね」
「そうだよ、ではこれからもね」
「はい、それで」
「学問を」
 五人はその教授に言うのでした。
「続けていかれるんですね」
「ずっと」
「そうしていくよ、ではこの晩御飯を食べて」
 そして、とです。教授はそのお野菜を食べてです。
 デザートのさくらんぼのタルトも皆で食べて眠りました。そして朝に。
 皆水浴びをして歯を磨いてです、綺麗になった後で朝御飯の日本のお粥を梅干で美味しく食べてでした。
 そのうえで大学に向かいます、すぐにその大学fが見えてきました。
 大学の多くの建物を見てです、カルロスは少ししみじみとした声で言いました。
「何か思ったよりも」
「冒険になったね」
 トトがそのカルロスに応えて言います。
「そうなったね」
「オズの国の旅だね」
「そう、オズの国で旅に出るとね」
「最初考えていた以上にだね」
「冒険になるんだよ」
「これまでもそうだったし」
「今回もね」
 そうなったというのです。
「けれどね」
「楽しめたっていうんだね」
「そうなったよね」
「うん、楽しかったよ」
 実際にそうだったというのがカルロスの返事です。
「とてもね」
「それは何よりだよ」
「いや、本当にね」
「楽しかったよね」
「凄くね」
「そしてこの旅が終わっても」
 この旅は確かにもうすぐ終わりです、けれどそれでもだというのです。
「また次の旅があるから」
「その旅を楽しんで」
「そうして行こうね」
「それじゃあね」
 こうしたことをお話してでした、そのうえで。
 皆は次第に自分達から近付いていって大きくなっていく大学を見ました、そうしてその大学の正門に着いてでした。
 皆で門を潜ってボタン=ブライトのところに来ました。するとです。
 ボタン=ブライトは今も気持ちよさそうにすやすやと寝ています、お世話をしていた大学の職員さんに尋ねますと。
「ずっとなんですよ」
「寝ているのね」
「はい、一度も起きずに」
 そうしてというのです。
「寝ています」
「ううん、この子らしいけれど」
 それでもと言うドロシーでした。
「それでもね」
「それでもですよね」
「今回は特に寝ている時間が多いわね」
「そうですよね、私もそう思います」
「けれどそれもね」
 その長い眠りもというのです、ボタン=ブライトの。
「これでね」
「これで?」
「終わるわ」
 そうなるというのです。
「いいものを持って来たから」
「ジンジャー将軍のお家に行かれたんですよね」
「そう、そこでね」
 そのバスケットの中からでした。 
 ドロシーは将軍から貰ったお菓子やジュースをどんどん出しました、それをボタン=ブライトの枕元に置いてです。
 そうしてです、こう言うのでした。
「これでね」
「絶対にですね」
「起きますね」
「ボタン=ブライトはお菓子とジュース大好きだから」
 それでと言う五人でした。
「これでね」
「起きてですね」
「そうして」
「これを食べてくれるわ」
 そして飲んでくれるというのです。
「絶対にね」
「そしてですね」
「そうしてから」
「そう、起きて」
 そうしてというのです。
「皆と一緒に遊べるわよ」
「じゃあ後はですね」
「この子が起きるのを待つだけですね」
「もうすぐ起きるわよ」
 さしものボタン=ブライトもというのです。
「楽しみにして待ちましょう」
「それじゃあ」
「これから」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆はボタン=ブライトが起きるのを待ちました。すると暫くしてです。 
 それまでずっと寝ていたボタン=ブライトがでした、遂に。
 目を覚ましました、そして言うことは。
「あれっ、ここ何処なの?」
「ふむ、起きたね」
「そうだね」
 その彼を見てかかしと木樵が言いました。
「予想通りね」
「そうなったね」
「さて、それではね」
「起きたらね」
「あれっ、ドロシー王女に」
 ボタン=ブライトは起きたてでぼんやりとした調子で言います。
「それにムシノスケ教授、かかしさんに木樵さんに」
「僕もいるよ」
 トトは尻尾を振って答えます。
「それにね」
「確かその子達は」
「僕達のこと知ってるんだ」
「何処かで会ったかな」
「一度位ね」
「そういえばそうだったかな」
 思い出したみたいに言うボタン=ブライトでした。
「君達ともね」
「確かね」
 カルロスはこうボタン=ブライトに答えます。
「あったよ」
「そうだったよね、まあとにかくね」
 ここでベッドから身体を起こして言うボタン=ブライトでした。
「とても美味しそうな匂いがするね」
「これだけれど」
 ドロシーがここで言いました。
「お菓子とジュースね」
「あっ、これね」
 ここで、でした。ボタン=ブライトはです。
 自分の枕元のお菓子の山とジュースに気付きました。ドロシーは彼がその二つに気付いたのを見て微笑んでこう言いました。
「食べていいわよ」
「いいの?」
「ええ、好きなだけね」
 こう言ったのでした。
「貴方が食べたいだけ」
「本当に?」
「私は嘘は言わないでしょ」
「うん、ないよ」
 このことはボタン=ブライトも知っています。ドロシーは決して嘘を言うことはありません、そうしたことはしないのです。
「一度もなかったよ」
「そうでしょ、だからね」
「食べていいんだ」
「全部ね」
「このお菓子を全部」
「そう、いいわよ」
 またボタン=ブライトに言います。
「遠慮しなくていいから」
「じゃあ喜んで」
「ただね」
 ボタン=ブライトが食べようとする前にでした、ドロシーは彼にこうも言いました。
「その前にね」
「食べる前に?」
「貴方今とても元気よね」
「うん、そうだよ」
 ボタン=ブライトも嘘を言いません、ドロシーにとても明るい声で答えます。
「この通りね」
「そうね、だったらね」
 それならというのでした。
「ここから出てね」
「ベッドから出て」
 そしてというのです。
「テーブルに座って食べましょう」
「そうだね、ベッドで食べたらね」
「ベッドを汚すこともあるから」
「それにベッドの上に食べカスがこぼれて」
「よくないから」
 こうした事情からだというのでした。
「だからいいわね」
「うん、それじゃあね」
「お菓子とジュースを持って」
 そうして、でした。
「行きましょう」
「そうしよう、ただ」
「ただ?」
「僕はお菓子とジュースをたっぷり食べられるけれど」
 それでもだということは。
「皆はどうなの?」
「私達の分もあるから」
「そこの皆の分もなの」
 ボタン=ブライトは恵梨香達も見て言いました。
「あるの?」
「ええ、あるわよ」
 ドロシーはにこりと笑って答えました。
「ちゃんとね」
「そうなんだ」
「だから皆で食べられるわよ」
 このことも本当のことです、お菓子もジュースもたっぷりとあります。それでドロシーもボタン=ブライトに答えるのです。
「貴方とね」
「じゃあテーブルに行って」
「この大学の食堂でね」
「大学?」
「ここは王立大学なのだよ」
 教授が場所についてお話します。
「君はここでずっと寝ていたのだよ」
「そうだったんだ」
「それでどうしてここに来たのかは」
「わかんなーーーい」
 これがボタン=ブライトの返事でした。
「ずっと寝てたから」
「そうなんだ」
「少しね」
「少し?」
「マンチキンの国を歩いてたんだ」
 このことは覚えているのでした、ですが。
「けれどね」
「そこから先はなんだ」
「覚えていないよ」
 そうだというのです。
「全然ね」
「ううん、やっぱりね」
「ボタン=ブライトね」
 恵梨香とナターシャはぼんやりとした調子で答えるボタン=ブライトの言葉を聞いてです、そのうえで言うのでした。
「何時何処にいるかわからなくて」
「この調子でいることがね」
「やっぱりね」
「この子よね」
「それで君達は」
 ボタン=ブライトはその恵梨香達にも言います。
「どうしてここにいるのかな」
「うん、それはね」
「最初はエメラルドの都にいたんだ」
 ジョージと神宝がボタン=ブライトに答えるのでした。
「けれど教授とお話してね」
「王立大学に来たんだ」
「それで君と会って起こす為に」
「ジンジャー将軍のお家からお菓子とジュースを貰ったんだ」
「それで僕達今ここにいるんだよ」
「こうしてね」
「そうだったんだ」
 ここまで聞いて納得したボタン=ブライトでした。そうして。
 そのうえで、です。カルロスもボタン=ブライトに言うのでした。
「それで君が起きたから」
「皆でお菓子とジュースを楽しむんだね」
「そう、いいかな」
「お菓子は一人で食べても美味しいけれど」
 ボタン=ブライトは微笑んでカルロスに答えました。
「それでもね」
「皆で食べるとだよね」
「もっと美味しいから」
「じゃあ皆でね」
「お菓子とジュースを食べよう」
 こうしてでした、皆で大学の食堂にお菓子とジュースを持って行ってでした。そのうえで人数分座れるテーブルに座ってです。
 そのうえでそのお菓子とジュースを食べるのでした、そこから。
 ボタン=ブライトは微笑んで、です。ドロシーに言いました。
「うん、とても美味しいよ」
「将軍のお家のお菓子とジュースだからね」
「だから美味しいんだね」
「そうよ、じゃあいいわね」
「たっぷり食べていいんだよね」
「さっきも言ったけれど遠慮はいらないわ」
 それは無用だというのです。
「心ゆくまでね」
「うん、頂くよ」
 こうしてでした、ボタン=ブライトはです。
 お菓子とジュースを楽しみました、その彼を見てです。
 教授は彼にです、こう言いました。
「さて、これからだけれど」
「これから?」
「どうするのかな」
「何も考えてないよ」
 これがボタン=ブライトの返事でした。
「特にね」
「そうなんだね」
「うん、別にね」
「そうだね、しかし」
 ここで教授は恵梨香達も見ました、そのうえで今度言うことはといいますと。
「君達はそろそろだね」
「はい、元の世界に戻らないと」
「駄目ですから」
「そうだね、だから」
 元の世界に戻るならでした。
「君達はエメラルドの都に戻らないといけない」
「私もよ」
 ドロシーもでした。
「旅は楽しいけれどね」
「そうそう、ドロシー嬢は今はエメラルドの都に住んでるからね」
「旅が終わると戻らないといけないからね」
 かかしと木樵がそのドロシーに笑顔で言います。
「ドロシー嬢も戻らないといけないね」
「恵梨香嬢達と一緒にね」
「そうなの、だから」
 ドロシーは二人にも応えて言います。
「私達は都に戻るわ」
「勿論僕もね」
 トトもです、ドロシーの親友である彼も。
「戻るよ」
「私達もウィンキーに戻るが」
「その時に都を通るね」
 かかしと木樵も言うのでした。
「それならね」
「途中まで一緒だよ」
「都にも寄るし」
「そうなるね」
「ふむ。それでは」
 教授も皆のお話を聞いてです、少し頷いてから述べました。
「私も行こう」
「教授もなのね」
「うん、お客人は最後まで送らせてもらうよ」
 恵梨香達五人を見て言うのでした。
「そうさせてもらうよ」
「そうですか、それじゃあ」
「宜しくお願いします」
 五人も応えます、そしてでした。
 教授も都まで行くことになりました、そのことを決めてです。教授はあらためてボタン=ブライトに尋ねました。
「君はどうするのかな」
「皆が行くのなら」
 それならというのでした。
「僕もね」
「一緒に来てくれるんだね」
「そうするよ」
 こう答えるのでした。
「他にすることもないから」
「うん、一緒に行こう」
 都まで行くことを決めるのでした、そして。
 そうしたことを話しながら皆でお菓子とジュースを心ゆくまで楽しみました。そしてそのお菓子とジュースの後で。
 教授は皆にです、こんなことをお話しました。
「では今からかな」
「エメラルドの都にっていうのね」
「行くのかな」
 こう言うのでした。
「そうするのかな」
「ううんと、どうしようかしら」
 ドロシーが教授に応えて言うことは。
「今すぐにでもいいし」
「そうでなくてもいいね」
「ええ、ボタン=ブライトも起きたし」
 それにでした。
「カルロス達はここにどれだけいても」
「一瞬ですからね、あっちの世界では」
 オズの国と元の世界での時間の経ち方は違います、オズの国でどれだけ長い時間を過ごしてもあちらの世界では一瞬です。ですからそれでカルロスも言うのでした。
「ですから特に」
「急がないわよね」
「別に」
 その通りだと言うのでした。
「幾らでもここにいられます、今回も」
「そうよね、それだったらね」
「急ぐことはないですか」
「今日はここにいて」
 大学に、です。
「それで休んで」
「そうしてですね」
「明日発ってもいいから」
「そうしてもいいですね」
「別に構わないのよ」
 本当に急がないというのです。
「私達は」
「僕達もね」
「特に急がないよ」
 かかしと木樵もでした、このことは。
「ゆっくりとした旅だし」
「別にね」
「ふむ。それでは」
 ここまで聞いて言った教授でした、その言葉はといいますと。
「今日は皆で休もう」
「皆で、ですね」
「そうして」
「そう、ゆっくりしよう」
 こう決めたのでした。
「今回の旅も何かとあったからね」
「考えてみると何もないということ自体が」
 カルロスが言うことはといいますと。
「オズの国ではないですね」
「それは本当にね」
「オズの国ならではですね」
「その通りだよ、それでね」
 だからだというのです。
「君達五人は疲れてると思うし」
「今日は休んで」
「それで明日の朝都に向かおう」
 こう決めたのでした、それで一行はこの日は大学でゆっくりと休むことにしました。そのことを決めてからです。
 皆で、です。そしてでした。
 この日は大学でゆっくりすることにしました、それぞれ大学の中でお昼寝をしたり散歩したりして時間を過ごすことにしました。
 その中で、です。カルロスは教授と一緒に大学の中を散歩しながらです、教授とサッカーグラウンドを観ながら言いました。
「小石は拾いましたけれど」
「それでもだというのだね」
「サッカーする人は」
「そのうち出て来るよ」
 学生さん達の中で、というのです。
「必ずね」
「そうですか」
「アメリカでも最近サッカーは盛んになってきているね」
「そうみたいですね」
「だからね」
 それで、だというのです。
「少し待っていれば」
「このグラウンドも人が来てくれて」
「サッカーをする様になるよ」
「そうなって欲しいですね」
 しみじみとして言うカルロスでした。
「本当に」
「そうだね、サッカーもね」
「この大学は野球やフットボールが有名で」
「そしてバスケもね」
 それもなのでした。
「ホッケーもね」
「そうしたスポーツと並んで人気が出て」
「皆がする様になるよ」
「そうですね、あと実は」
「実は?」
「僕野球やバスケも好きなんですよ」
 カルロスはにこりと笑って教授にこのことを言いました。
「そうしたスポーツも」
「サッカーだけではないんだね」
「はい、そちらも」
 好きだというのです。
「身体を動かせることなら何でも」
「そうなんだね」
「陸上も好きです」
「本当に何でもだね」
「好きなんですよ、色々と」
「では何をしても」
「スポーツなら楽しめます」
 それがカルロスです。
「水泳も」
「本当に万能だね」
「はい、ただ」
「ただ?」
「どうも僕は水に浮きにくいみたいです」
 この辺りは微妙な顔になって言うカルロスでした。
「どうにも」
「ふむ、筋肉質なんだね」
「筋肉が多いからですか」
「そうなると水に浮きにくいんだよ」
「そうだったんですか」
「筋肉は重いからね」
 そのせいでというのです。
「水に浮かないんだよ」
「じゃあ筋肉質の人は」
「水に浮きにくいから」
 それで、というのです。
「そうなるんだよ」
「そうだったんですか」
「君は陸上競技やバスケもするね」
「はい」
「それにサッカーも」
「色々します」
「その中で脂肪がかなり少なくなっているんだ」
 教授はカルロスのこのことを指摘しました。
「それで水に浮きにくいんだよ」
「そうだったんですか」
「そうだよ、ただね」
「ただ?」
「脂肪も増やせるから」
 だからだというのです。
「そんなに落ち込むことはないよ」
「そうなんですか」
「そう、身体を動かしながらですね」
「太ることはですか」
「いやいや、太るんじゃなくてね」
 そうでなく、というのです。
「脂肪を付けるんだよ」
「筋肉と一緒に」
「実は筋肉だけでも駄目なんだよ」
「あっ、そうなんですね」
「そう、筋肉だけだとね」
 どうしてもというのです。
「これがよくないんだよ」
「お水にも浮かなくて」
「それにね」
 それに加えて、というのです。
「案外寒いからね」
「脂肪がないと」
「そうだよ、だからね」
「筋肉だけじゃなくて」
「脂肪もないと駄目なんだよ」
「そうなんですか」
「だからいいね」
「はい、脂肪も」
 それもとです、カルロスは教授に頷いて答えました。
「つけていきます」
「そういうことでね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 教授と一緒にプールにも行きました、この大学のプールは室内プールです。その室内プールに入るとでした。
 ボタン=ブライトがいました、ですがここでも彼は寝ていました。カルロスはそのプールの箸の安楽椅子の上に寝ている彼を見てです。
 そうしてです、こう言うのでした。
「ここで寝ていて」
「ははは、彼らしいね」
「そうですよね、本当によく寝ますね」
「寝る子は育つっていうけれどね」
「この子はいつもですよね」
「とにかく寝ているよ」
 今朝までそうだったみたいにです。
「こうしてね」
「ですよね、けれど」
「けれど?」
「ここはプールなので」
 それで、というのです。
「結構湿気があって暑くて」
「寝るにはね」
「あまり向いてないと思いますけれど」
「それでもね」
 こう言うのでした、教授は。
「この子は違うんだよ」
「こうしてですね」
「普通に寝られるんだよ」
 そうだというのです。
「こうしてね」
「そうですか」
「そう、だからね」
「このプールの中でも」
「寝られるんだよ」
「そういうことですね」
「だからね」
 それで、とお話する教授でした。そのうえで。
 カルロスにです、こうも言いました。
「今はいいよ」
「寝てもらってですね」
「うん、確かに寝ることに向いている場所には思えないけれど」
 それでもだというのです。
「今日はね」
「いいんですか」
「そう、いいから」 
 それで、というのです。
「まあ明日まで起きないとね」
「起きてもらうしかないですね」
「またお菓子を枕元に置いて」
 そして、と言うのでした。
「お茶と」
「今日みたいに」
「そうしよう、じゃあ」
「それじゃあ?」
「泳ぐかい?」
 教授は笑ってカルロスに提案しました。
「これから」
「ううん、今は」
 首を捻って答えるカルロスでした。
「遠慮させてもらいます」
「そうするんだね」
「はい、お散歩を続けたいです」
「わかったよ、こうして歩くこともね」
「いい運動ですよね」
「歩くことは運動の第一だよ」
 その最初だというのです。
「身体を動かして悪いことはないけれど」
「歩くこともですね」
「そう、いい運動だからね」
 だからだというのです。
「歩こう、もっとね」
「わかりました」
「一日一万歩というけれど」
「僕達もっと歩いていますよね」
「私は大学にいても毎日何万歩と歩いているよ」
「学問だけでなくですね」
「身体も動かさないとね」
 学問だけでなく、というのです。
「気分転換にならないから」
「だからですね」
「そう、大学にいてもよく歩くよ」
「それがいいんですね」
「とてもね、それではね」
「はい、今からまた」
「歩こう」
 こうカルロスに言ってでした、教授は二人で歩き続けます。ボタン=ブライトはプールの椅子の上に寝て気持ちよくしていました。



ようやくボタン=ブライトを起こす事ができたな。
美姫 「本当にね。ただ起こすだけが結構な冒険に」
まあ、その分楽しめたみたいだけれどな。
美姫 「確かにね。とは言え、そろそろ戻らないよいけないみたいね」
みたいだな。戻る前に少しだけゆっくりと。
美姫 「散歩したり色々とね」
まあ、ボタン=ブライトはまた眠っているけれどな。
美姫 「まあ、今度はちゃんと起こせるでしょうから大丈夫ね」
とりあえず、今回の冒険はこれでお終いかな。
美姫 「次回が最後かしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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