『オズのベッツイ』




               第二幕  ギリキンの国に入って

 ウーガブーの国まで黄金の林檎で作ったジャムを貰いに行くことになったベッツイと一行はです、まずは旅支度に入りました。持っていくものはといいますと。
「ご馳走が出るテーブル掛けと」
「幾ら使っても尽きないボディーソープとシャンプーの容器ですね」
「あと服に降りかけたらそれだけでその服が奇麗になる粉と」
「畳んだらポケットに入るテントと寝袋ですね」
「そうしたものを持って行くんですね」
「ええ、それでね」
 ベッツイは五人の子供達に笑顔で答えます、一緒に旅支度をしている彼等に。
「それを全部リュックに背負って行くから」
「そのリュックにですね」
 ナターシャはベッツイが持っているそのオレンジのリュックを見て言いました。オレンジはベッツイの好きな色の一つみたいです。
「入れてそうして」
「ええ、持って行くわ」
「あの、若しも」
 ここで、でした。ナターシャはベッツイにこうも言いました。
「旅の途中でなくしたりしたら」
「大変なことになるわよね」
「はい、そうしない為にも」
「安心して、その為に道具の一つ一つに私達から離れたら警報音が鳴る様にしておいたから」
「あっ、でしたら」
「そう、なくす心配はないでしょ」
「はい、確かに」
 ナターシャもベッツイのその言葉に頷きます。
「それでしたら」
「どれもなくすと困るから」
「ちゃんと対策してるんですね」
「そうなの、だから安心してね」
「わまりました、それじゃあ」
 こうしたことをお話してでした、そしてです。
 ベッツイ達は旅に出ることになりました、見送りにオズマとドロシーが出ました。オズマはそのベッツイにこう言いました。
「道中気をつけてね」
「ええ、危険なことにはね」
「そのことはね、皆と一緒にね」
「対処してね、私も今回の旅は行けないけれど」
 オズマはオズの国の国家元首です、とても忙しいのです。ですから今回の旅も一緒に行くことが出来ないのです。
「いつも鏡で見守っているから」
「じゃあ何かあれば」
「ええ、助けさせてもらうわ」
 その時はというのです。
「だから安心してね」
「わかったわ」
「あと。貴方達もね」
 オズマは五人も見て彼等にも声をかけました。
「ベッツイと一緒にね」
「はい、危険な目に遭ってもですね」
「そうなっても」
「ベッツイとハンク、それにガラスの猫がいるから」
 オズの国の住人でありこの国のことをよく知っている彼等が一緒だからだというのです。
「何かあったら頼ってね」
「わかりました、じゃあ」
「ベッツイさん達を頼りにして」
「旅をさせてもらいます」
「そういうことでね。じゃあ行ってらっしゃい」
 オズマは一行に笑顔で声をかけました。
「旅に幸あらんことを」
「有り難う、じゃあ行って来るわね」
 ベッツイがそのオズマに笑顔で応えてでした、そうして。
 一行はエメラルドの都の西門から出ました、そのうえで。
 エメラルドの国からギリキンの国に向かいます、その中でなのでした。
 ナターシャは歩きながら道の横に咲いていた向日葵達を見ました、エメラルドの都の国に咲いているその花達を。
 そのうえで、です。こう恵里香達に言いました。
「私向日葵が大好きなの」
「そういえば向日葵を学校の授業で植えた時も」
「私凄く喜んでたでしょ」
「一番喜んでたわ」
 そこまでだったとです、恵里香はナターシャに答えました。
「本当に」
「ロシア人は向日葵を好きな人が多いの」
「それはどうしてなの?」
「ロシアは寒くて日の光があまり出ないけれど」
 長く厳しい冬が続くからです、ロシアでお日様が出ている時間は短いのです。
「向日葵はそのお日様の花でしょ」
「それでなのね」
「ロシア人は向日葵が好きなの、種も採れるし」
「向日葵の種から油を採って種を食べて」
「そうもしているからなの」
「ロシア人は向日葵が好きなのね」
「そうなの、ロシアの国花でもあるのよ」
 向日葵は、というのです。
「そこまで愛されているお花なの」
「ロシアで向日葵は」
「ええ、ただオズの国の向日葵はね」
 今そのオズの国の向日葵達を見ての言葉です。
「その国によって色が違うから」
「今僕達が見ている向日葵は緑色だしね」
 カルロスがこう言ってきました。
「そして他の国だとね」
「それぞれの色でね」
 ジョージも言います。
「違うね」
「うん、ギリキンだとね」
 神宝はこれから自分達が行く国のことをお話します。
「黄色でね」
「そうね、黄色になるわね」
 ナターシャはその黄色の向日葵についても言いました。
「ギリキンだとね」
「そうよ、その向日葵は見たことあるわよね」
「はい」 
 ナターシャはベッツイにも答えました。
「ギリキンの国で」
「じゃあ知ってるわね」
「最初はびっくりしました」
「そちらの世界の向日葵とは違うからね」
「本当に黄色ですから、全部」
 ナターシャ達の世界の向日葵はオレンジも入っていて真ん中は茶色です、そして茎や葉は緑色だからです。
 ですがギリキンの向日葵はなのです。
「鮮やかな黄色で茎も葉も
「全て黄色ね」
「ですから」
「そう、最初見て驚いたかしら」
「驚きはしなかったです」
 そのことはなかったというのです。
「ギリキンの国、オズの国のことは知ってましたから」
「だからなのね」
「はい、驚かなかったです」
 このことはなかったというのです。
「別に」
「そうなのね」
「ただ、これがギリキンだと思いました」
 ナターシャがこう言うとです、恵里香達四人も頷きました。
「そう」
「皆もうオズの国のことを知っていたから」
「驚かなかったです」
 そうだったことをベッツイにお話するのでした。
「特に」
「わかったわ、そのことは」
「それじゃあですね」
「ええ、このままね」
「ギリキンに入って」
「そうしてギリキンの向日葵を見ましょう」
 その黄色い向日葵をというのです。
「絶対にね」
「わかりました」
 五人はベッツイの言葉に頷きつつです、ギリキンに向かいます。そして緑の世界が一瞬にして変わったのでした。
 鮮やかな黄色の草原、黄色の煉瓦の左右に広がるその世界を見てです。
 恵里香は微笑んで皆に言いました。
「来たのね」
「うん、ギリキンの国にね」
「私達は今入ったのよ」
 ハンクと猫が恵里香に答えます。
「ここからウーガブーの国までね」
「歩いて行きましょう」
「わかったわ」
 恵里香は二匹のその言葉に頷いて答えました。
「これからね」
「ここからが長いからね」
 ハンクは恵里香にこのことも言いました。
「ウーガブーの国までは」
「ギリキンの端にあったのよね」
「死の砂漠が昔の場所にあった時はね」
「そうよね、今はギリキンの北西の真ん中位にあるけれど」
「今はそうだよ」
 こう言うのでした。
「ギリキンのね」
「そこにあるのよね、あの国は」
「谷と谷の間にね」
「わかったわ、じゃあこれからそこまでね」
「行こうね、あとね」
 ハンクはベッツイにも顔を向けて言いました。
「ベッツイ、疲れたらね」
「その時はよね」
「僕の背中に乗ってね」 
 こう一番の親友に言うのでした。
「そうしてね」
「いえ、それはいいわ」
「いいの?」
「気持ちだけ受け取っておくわ」
 ハンクのそれをというのです。
「私だけハンクに乗っても他の皆は乗れないじゃない」
「恵里香達はだね」
「そう、だからね」
 それで、というのです。
「いいわ」
「皆のことを考えてなんだ」
「私だけ楽をしたら駄目でしょ」
「確かにね。一人だけ楽をしたらね」
「よくないわ、そんなことは悪い人のすることよ」
 ベッツイはこうも言いました。
「だからね」
「ベッツイは歩くんだね」
「そうするわ」
 こう言ってなのでした、ベッツイはハンクに乗らずです。
 そうして歩くのでした、ハンクの横で。そして暫く歩いていてです。
 猫が上を見上げてです、皆に言いました。
「お日様が高いわね」
「ええ、そうね」
 ベッツイが猫のその言葉に頷きます。
「それじゃあね」
「お昼御飯食べるのね」
「そうするわ」
「じゃあ私は皆が食べる間はね」
「どうするの?」
「周りで適当に遊んでいるわ」
 そうしているというのです。
「そうするわ」
「貴女は何も食べないからね」
「そう、だからね」
 食べる必要も飲む必要もないからです。
「そうしておくわ」
「わかったわ、それじゃあね」
「遊ぶだけじゃなく見張りもしておくかわ」
 皆の周りをというのです。
「だから安心してね」
「わかったわ、それじゃあね」
「ええ、任せてね」
 見張りもというのです、そしてです。
 皆は道から外れて黄色い芝生の上に敷きものを敷いて腰掛けてです、そしてそのうえでベッツイがです、
 テーブル掛けを皆の前に出しました、そこから出したお昼御飯はといいますと。
「ボルシチとピロシキですね」
「そうよ」
 ベッツイは笑顔でナターシャに答えました。
「それとサラダもね」
「ロシアのサラダですね」
 随分と濃い、マヨネーズを和えたサラダです。
「それをですね」
「食べてもらうわ、あと鱒のね」
「フライですね、これもですね」
「ロシア風はこうよね」
「はい、そうです」
 見ればソースがロシア風です、そして揚げ方も。
「これも」
「そうですね、美味しそうです」
「ケーキもね」
 デザートはこちらでした。
「ロシアのケーキだから、そしてお茶は」
「ジャムも一緒にある」
「昨日飲んだばかりだけれどね」
「あの紅茶を出してくれたんですね」
「そうよ」
 その通りだというのです。
「出したわ」
「わかりました、それじゃあ」
「皆で食べて、量も沢山あるから」
「凄いですね、確かに」
 ナターシャはその量も見て言いました。
「これだけ食べたらお腹一杯になりますね」
「是非そうなってね」
 そのお腹一杯にというのです。
「これから」
「わかりました、それじゃあ」
「食べてね」
 皆への言葉です。
「遠慮なくね」
「わかりました、それじゃあ」
「今から」
「お昼を食べて」
 それからのこともです、ベッツイはお話しました。
「それからまたね」
「出発ですよね」
「また」
「ええ、そうよ」
 そうするとです、五人にお話するのでした。
「そうするから」
「わかりました、じゃあ」
「食べてからですね」
「また出発して」
「そのうえで」
「先に進むわ、少し行ったらね」
 ベッツイはさらにお話します。
「ジャックのお家があるから」
「カボチャ頭のジャックさんですね」
「あの人のお家ですね」
「そうよ、あの人のお家があるからね」
 だからだというのです。
「お邪魔して挨拶しましょう」
「そうですね、ジャックさんとお会いすることも楽しいですから」
「だからですね」
「ギリキンの国に来たら」
「是非に、ですよね」
「ギリキンの国にはジャックとね」
 彼だけでなく、というのです。
「かかしさん、木樵さんもいるから」
「オズの国の名士が三人もおられますね」
「そう思うと賑やかですね」
「人も増えてきたしね」
 ドロシーが最初に来た時から考えるとです。
「かなり開けてきたわよ」
「そうですよね、オズの国になってから」
「そうなりましたね」
「最近は特に」
「人が増えて栄えてきましたね」
「ええ、やっぱり誰かがいないとね」
 ベッツイは鱒のフライを食べつつ皆にお話します。
「賑やかにはならないわ」
「そうですよね、オズの国にしても」
「誰かがいないと」
「人も動物もね」
 ベッツイは隣にいて草を食べているハンクも見て言いました。
「いないとね」
「そうよ、私がいるといないとでね」
 ガラスの猫が皆のところに来て言うことはといいますと。
「全然違うでしょ」
「確かにそうね」
 ナターシャは猫に微笑んで答えました。
「貴女がいる時といない時で全く違うわ」
「そうでしょ、この奇麗なガラスの身体の私がいないとね」
「貴女の場合は身体だけじゃなくてね」
「あら、もう一つあるの」
「性格もね」
 それもというのです。
「こうして傍にいてくれたら違うわ」
「性格が悪いとか言わないの?」
「それが猫の性格でしょ」
「猫のなのね」
「気まぐれで自分の意のままに動くけれど」
 こう書くと我儘です、しかしなのでした。
「その我儘さが可愛いのよ」
「そうなのね」
「それと仕草もね」
 こちらもだというのです。
「いいのよ、貴女は」
「仕草は普通の猫と変わらないわよ」
「だから、貴女が猫であってその性格と仕草もね」
「いいのね」
「猫であること自体がいいの」
 ガラスの猫である以前にというのです。
「既にね」
「不思議な言葉ね」
「あら、そうかしら」
「私にはそう聞こえるわ」
 猫はナターシャの目を見ながら右の前足をちょいちょいろ動かしながら彼女に答えます。
「私が猫であること自体がいいっていうのは」
「ガラスの身体は確かに奇麗だけれど」
「それ以前になのね」
「猫であること自体がいいのよ」
 非常に、というのです。
「貴女はね」
「そうなのね」
「私貴女のことが好きよ」
「猫が?」
「猫が好きだけれどその中の貴女もよ」
 ガラスの猫である彼女を、というのです。
「大好きよ」
「そう言われると嬉しいわ」
「そうでしょ」
「そしてその私がいるといないのでは、というのね」
「全く違うわ」
「猫は何もしてくれないけれど」
 ベッツイもガラスの猫に言います。
「沢山のものを与えてくれるのよ」
「何もしないのに?」
「そう、貴女にしてもね」
 そのガラスの猫もというのです。
「何もしてくれないけれど」
「与えてるのね、私は」
「猫自体がね」
「また不思議な話ね、けれどその沢山のものをあげてね」
 そしてとです、猫は今度はベッツイのお顔を見て言うのでした。
「それで皆を幸せにしているのなら」
「貴女も嬉しいわよね」
「他の誰かを幸せにして嬉しくない生きものはそうはいないわ」
 確かに例外の人はいてもです、例えば昔のノーム王の様な人はです。
「私は幸せに感じる方よ」
「そうでしょ、だったらね」
「私がいることがなのね」
「それ自体がいいのよ」
「だから私がいるといないのとで違うのね」
「貴女を、猫を見ていると自然と和んで癒されて」
 ベッツイは猫の頭を撫でました、ガラスのその頭に体毛はありません。その代わりにガラスのすべすべとした感触があります。
「笑顔になれるのよ」
「そういうことなのね」
「そうよ、だから今回の旅もね」
「私がいるからなのね」
「嬉しいわ」
「成程ね。そう思ってくれるのなら嬉しいわ」
 猫もまんざらではない気持ちになって言葉を返します。
「この旅の間私を見て笑顔になってね」
「そうならせてもらうわ」
「ギリキンの国にいるとね」
 猫は自分の左の前足をその舌で舐めながら言いました。
「どうしてもね」
「どうしてもっていうと?」
 恵里香が猫のその言葉に尋ねます。
「何かあるの?」
「あるわ、ギリキンは何でもかんでも黄色でしょ」
「その色だからなの」
「私の身体も黄色く見えるのよね」
「あっ、ガラスの身体だから」
「そうなのよ、黄色い私はどうかしら」
「奇麗よ」
 恵里香は素直にです、猫に答えました。
「とてもね」
「ならいいわ、そのそれぞれの国でね」
「貴女の色も変わるのね」
「それでギリキンだと黄色なのよ」
 そうだというのです。
「青、赤、紫、そして緑ね」
「じゃあ黄金の林檎を傍に置いたら」
 ここでこう言ったのはカルロスでした。
「その時は金色になるのかな」
「そうなるでしょうね」
 猫もその時の自分の姿を連想してそのうえで答えました。
「やっぱり」
「そうだよね、君は」
「金色の猫ね」
「中々奇麗だよね」
「そうね、ただ私は他の色にもなれるから」
「余計にいいんだね」
「私はどんな色にもなれるのよ」
 猫は胸を張って誇らしげにこのことを言いました。
「奇麗にね」
「何かそう言われるとね」
 ジョージが言うことはといいますと。
「羨ましいね」
「私のガラスの身体がなのね」
「とてもね、それにその頭と心臓も」
 ガラスの中のルビーの二つのそれもです、ジョージは見ています。そのうえで猫自身にお話するのでした。
「とても奇麗だし」
「だから自慢出来るのよ」
「そういうことだね」
「しかもガラスなのにね」
 神宝も言うのでした。
「壊れないところがいいね」
「普通のガラスはすぐに壊れるわよね」
「うん、ちょっと落としたらね」
「けれど私のガラスは特別なのよ」
「割れないガラスだね」
「死なないのよ、オズの国の住人だから」
 だからです、ガラスの身体であってもなのです。
「割れないのよ」
「そうだよね」
「そして何も食べる必要も飲む必要もないから」
 このことも言う猫でした。
「寝る必要もないし。何時でも好きなことが出来るのよ」
「食べることも楽しみだけれど」
「食べる必要がないのなら興味も出ないわよ」
 猫は草を食べながら言ってきたハンクにこう返しました。
「かかしさんや木樵さんと一緒よ」
「ジャックやチクタクも」
「そうよ、つぎはぎ娘もだけれどね」
「皆食べる必要がないから」
「そうしった楽しみも興味がないのよ」
「全く無関係で」
「何時でも好きなことが出来るのよ。私はとても幸せよ」
 猫はここでも誇らしげに言うのでした。
「本当にね」
「成程ね。僕は食べる時と寝る時が一番幸せだけれど」
「じゃあ楽しむことよ」
 その食べることを寝ることをというのです。
「是非ね」
「楽しいと思うことをだね」
「自分自身がね」
「成程ね、そうすればいいんだね」
「あんたはあんた、私は私よ」
 これが猫のハンクへの言葉でした。
「そこはそれぞれだからね」
「僕は食べることと寝ることを楽しんで」
「私は好き勝手にすることを楽しむわ」
「確かに貴女は好き勝手にしてるわね」
 ベッツイはまた猫に言いました。
「猫らしく」
「そうでしょ、猫だからね」
「そうよね、けれどさっきも皆で言ったけれど」
「それがいいのね」
「そういうことよ、これからも宜しくね」
「そうさせてもらうわ、さて皆食べ終わったわね」
 デザートのロシアのケーキを食べて紅茶も飲み終えました、ベッツイはテーブル掛けを奇麗に畳みはじめています。
「それじゃあね」
「出発よ」
「ええ、まずはジャックの家までね」
 行こうというのです、こうお話をしてでした。
 一行は再び出発しました、そしてでした。
 夕方になってです、皆の前に大きなカボチャのお家が見えてきました。ナターシャはそのお家でを見て皆に言いました。
「見えてきたわね」
「ええ、ジャックのお家がね」
「見えてきたわね」
「じゃあ今からですね」
 ナターシャは恵里香に顔を向けて尋ねました。
「ジャックさんとお会いするんですね」
「そのつもりよ、じゃあ行きましょう」
「はい、それじゃあ」
 こうしてでした、一行はジャックのお家に向かいその扉をノックしました。すると出て来たのはブリキの木樵でした。
「あれっ、君達だったんだ」
「木樵さんいらしてたのね」
「うん、かかし君と一緒にね」
 木樵は気さくな笑顔でベッツイに答えました。
「ジャック君のお家に遊びに来ているんだ」
「そうだったのね」
「そうだったんだ、それで君達も来るとはね」
「実はね」
 ここで、です。ベッツイは木樵に自分達が何故ここに来たのかをお話しました。木樵はその全てを聞いてから言いました。
「成程ね、ウーガブーの国までね」
「これから行って来るの」
「そうなんだね、ただね」
「ウーガブーの国までの道中はね」
「色々とあるからね」
 だからだというのです。
「気をつけてね」
「ええ、わかってるわ」
「見ればハンクとガラスの猫、それに恵里香達がいるからね」
 一行を見て言う木樵でした。
「安心出来るけれどね」
「道中は」
「うん、一人でいるより皆だよ」
 皆がいればというのです。
「力を合わせられるからね」
「だから大丈夫なのね」
「僕はそう思うよ、じゃあこれからね」
 木樵はベッツイ達にあらためて言いました。
「お家の中に入ってね」
「そうしてよね」
「うん、皆でお話をして楽しもう」
「かかしさんやジャックとも一緒に」
「二人共元気だよ。かかし君は身体の中の藁を詰め替えたばかりだし」
 かかしにとってはとても嬉しいことです、何しろこの人は身体の中は詰めものの脳味噌以外は全て藁なのですから。
「それにジャック君も頭を交換したばかりなんだ」
「二人共そうしたばかりだからなのね」
「絶好調だよ」
 かかしも木樵もというのです。
「勿論僕もね」
「今日もピカピカね」
「身体全体を磨いて間接に油を入れたよ」
「そうね、今日もとても奇麗よ」
「じゃあ今からね、その僕達とお話しよう」
 こうしてでした、木樵にお家の中に入れてもらってでした。一行はジャックのお家の中に入ったのでした。
 お家の中には家の主であるジャックともう一人の客人であるかかしがいました、二人はベッツイ達の姿を見て言いました。
「やあ、ようこそ」
「君達も来たんだね」
「ええ、ここに来た理由はね」
「この娘達はこれからウーガブーの国に行くんだ」
 木樵が二人にベッツイ達がここに来た理由をお話しました。
「それでその途中にね」
「こうしてなんだ」
「ジャック君の家に立ち寄ったんだね」
「ギリキンの国に来たから」
 ベッツイは微笑んで二人に答えました、そうしながら三人が用意してくれた席にそれぞれ座っていきます。
「挨拶しようと思って」
「僕の家に来てくれたんだね」
「そうなの。駄目だったしら」
「駄目な筈がないよ」
 明るい声で、です。ジャックはベッツイに答えました。
「僕はお客さんは誰でも大歓迎だよ」
「だからなのね」
「うん、よく来てくれたね」
 ベッツイ達にはジャックのお顔が笑っている様に見えました、カボチャに目鼻そしてぎざぎざのお口を彫り込んだハロウィンのそのカボチャ頭がです。
「じゃあ皆で楽しもうね」
「そうさせてもらっていいのね」
「何なら泊まっていく?」
 ジャックはベッツイ達にこう提案しました。
「今夜は」
「そうしていいの?」
「いいよ、遠慮は無用だよ」
 気さくに笑っての返事でした。
「だからね」
「今夜はなのね」
「皆泊まるといいよ」
 このジャックのお家にというのです。
「是非ね」
「そうね、そこまで言うのならね」
 どうかとです、ベッツイは少し考えてからジャックに答えました。
「お言葉に甘えようかしら」
「僕は遠慮されると困るんだよ」
 ジャックは性格的にそうなのです。
「だから頼むよ」
「そこまで言ってくれるのならね」
「僕達も今夜はここに泊まるんだ」
 かかしもベッツイにこう言います。
「そうして一晩三人でおしゃべりを楽しむつもりだよ」
「私もその中に入っていいかしら」
 ガラスの猫はかかしに申し出ました。
「今日は」
「是非共、おしゃべりは三人より四人の方が面白いからね」
「この場合三人と一匹じゃないの?」
「ははは、言われてみればそうだね」
「じゃあ三人と一匹でね」
 今晩は、と言う猫でした。
「宜しくね」
「おしゃべりを楽しもう」
「君達は夜になったらね」
 ジャックはベッツイ達にあらためて言いました。
「ベッドに寝るといいよ」
「お客さん用のベッドに」
「沢山あるからね」
 ジャックは寝ないのでベッドは必要ありません、ですがお客さん達の為に沢山のベッドをお家の中に用意しているのです。
「そこにそれぞれ寝てね」
「ええ、それじゃあね」
 ベッツイはジャックの言葉ににこりと笑って頷いてみせましあt。
「そうさせてもらうわ」
「じゃあ君達は晩御飯を食べて」
「晩御飯はこちらで出すわね」
 ベッツイはジャックにあっさりと返しました。
「そうするわね」
「あのテーブル掛けでだよね」
「ええ、持ってきたから」
 それでとです、ベッツイはジャックにこれまたあっさりとした感じで返すのでした。
「それでお料理出して食べるわね」
「そうするといいよ、しかしあのテーブル掛けは凄いね」
 ジャックはしみじみとしてこうも言うのでした。
「どんなお料理でも何時でも好きなだけ出せるからね」
「ええ、凄く役に立っているわ」
「あれはオズの国の中で特に素晴らしいものの一つだね」
「確かにそうですね」
 ナターシャもジャックのその言葉に頷きます。
「あれがあると食べることに困りません」
「食べないといけない人には本当に有り難いよね」
「とても、ただ」
「ただ?」
「ロシアであれがあると」
 あのテーブル掛けがです。
「ウォッカ出す人が多い様な」
「ロシアのお酒だよね、確か」
「はい、我が国のお酒です」
 ナターシャはジャックにも答えます。
「物凄く強いんです」
「ロシア人ってお酒を好きなのかな」
「皆大好きです、子供は飲まないですけれど」
 もっと言うと飲めません、だからナターシャも紅茶やジュースを好きなのです。大人も好きではあるのですが。
「皆飲んでいます」
「ウォッカは。うちのお父さんが言ってたけれど」
 恵里香が横からナターシャにお話します。
「もう強過ぎるらしいわ」
「あまりにも強いからよね」
「飲めないって言ってるわ」
「寒いのよ、ロシアは」
「その寒さを乗り切る為になのね」
「そう、ウォッカを飲むのよ」
 多くのロシアの大人の人達はそうするのです。
「服を何枚も着てね」
「そういえばナターシャも最初凄い厚着だったわね」
「ロシアの感じで来たのよ」
 日本にというのです。
「だからなのよ」
「厚着だったのね」
「それで暑かったわ」
「冬でも?」
「ロシアの冬と日本の冬はまた違うから」
 だからだというのです。
「神戸の寒さとロシアの寒さは全然違ってて」
「ロシアの方がずっとなのね」
「ウォッカのお話してるけれど」
 そのウォッカについても言うのでした。
「若しもよ」
「若しも?」
「ウォッカ飲み過ぎて酔っ払ってお外で寝るでしょ」 
 冬のロシアで、です。
「死ぬのよ」
「ええと、寒くて」
「そう、凍死するのよ」
「ううん、日本で凍死は」
「あまりないわよね」
「ロシアだとあるのね」
「交通事故で死ぬ人より多いから」
 そこまでです、ロシアではお酒を飲んで死ぬ人が多いというのです。
「それこそ」
「そんなに酔って死ぬ人が多いのね」
「そうなのよ」
「本当に凄く寒いのに」
「息が凍るから」
 ナターシャはこのこともお話しました。
「本当に」
「ロシアの冬は」
「それだけ寒いからね」
「酔って死ぬ人もいるのね」
「道で寝たらそれでね」
「お酒飲むのも命懸けなのね」
「それでも飲まないとやっていけないのよ」
 そのウォッカをです。
「それで温めないとね」
「お酒って身体を温めてくれるのね」
「そうみたいよ」
 ベッツイもこう言ってきました。
「お酒はね」
「そうなんですか」
「私は飲んだことがないけれど」
 ベッツイも子供だからです、お酒は飲んだことがありません。それでナターシャ達にもこう答えるしかありませんでした。
「よくモジャボロさん達がそう仰ってるわ」
「大人の人達はなの」
「そうなの、けれどお酒を飲まなくてもね」 
 そうしていてもというのです。
「楽しい思いは出来るから」
「今もですね」
「ジュース出すわね」
 今晩もこの飲みものを出そうかというのです。
「どのジュースがいいの?」
「そうですね、オレンジですか?」
「林檎でしょうか」
 二人はそれぞれ思いついたジュースの名前を出しました。
「果物のジュースがいいですね」
「私も」
「貴方達はどうしたジュースがいいかしら」
 ベッツイは女の子二人のリクエストを聞いてから三人の男の子にも尋ねました。
「オレンジ?それとも林檎?」
「葡萄でしょうか」
「苺お願いします」
「バナナを」
 ジョージと神宝、カルロスはそれぞれベッツイに答えました。それを受けてでした、ベッツイはまずはその五つのジュースを出しました。
 そしてです、ジュースに続いて晩御飯も出しました。その晩御飯はといいますと。
「今日はこのメニューよ」
「フライドチキンですね」
 恵里香はまずメインのものを見て言いました。
「それとシチューに」
「トマトのね」
「あとお魚ですね」 
 ヒラメのムニエルです、他には何種類かのお野菜と茸を大蒜と一緒にオリーブオイルで炒めたものもあります。そしてパンとデザートにフルーツの盛り合わせもあります。
「今日も豪勢ですね」
「これでどうかしら」
「はい、有り難うございます」
 出してくれてとです、恵里香はベッツイに答えました。
「では晩御飯も」
「皆で食べましょう」
 ベッツイは笑顔で応えてです、そして。
 そのうえで、です。ベッツイはハンクにもです。
 新鮮な牧草とオートミールを出してあげてです、こう言いました。
「貴方はこれよね」
「美味しそうな草と麦だね」
「食べてくれるかしら」
「うん、是非ね」
 ご馳走になるとです、ハンクはベッツイに笑顔で答えました。
「食べさせてもらうよ」
「それじゃあね」
「さて、パーティーだね」
 ジャックが笑顔で皆に言いました。
「今晩は」
「僕達は食べないけれど皆が楽しんでいるのを見て楽しませてもらうよ」
「目でご馳走を楽しませてもらうよ」
 かかしと木樵もベッツイ達に笑顔で言います。
「そうしてパーティーをね」
「一緒に楽しもう」
「私もいるわよ」
 猫は自分の前足で顔を洗いながら言ってきます。
「それでかかしさん達と一緒に楽しませてもらうわ」
「私達が食べるのを見て」
「手やお口がいつも動くでしょ」
 猫はナターシャに言いました。
「食べていると」
「それが面白いのね」
「動いているものを見るとうずうずするのよ」
「猫だからなのね」
「そう、猫は動いているものを見ると楽しくなるのよ」
 それこそ無意識のうちにです。
「だから好きなのよ」
「私達が飲んだり食べたりすることが」
「とはいってもちょっかいはかけないから安心してね」
「前足を出したりしないのね」
「そんなはしたないことはしないわ」
 ガラスの猫から見ればです、それはそうした行為なのです。
「だから安心してね」
「わかったわ、それじゃあね」
 ナターシャが応えてです、そしてなのでした。
 皆でパーティーを楽しんで心地よい夜を過ごしたのでした、ベッツイ達はジャックのお家で友人達と素晴らしい夜を過ごせました。



ウーガブーに向けて出発となったベッツイたち。
美姫 「特に問題もなくギリキンの国まで来たのね」
だな。ジャックに挨拶して、そのまま今日はここで一泊と。
美姫 「今回の旅では一体誰が出てくるのかしらね」
この先の旅路が楽しみだな。
美姫 「次回も待っていますね〜」
待っています。



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