『オズのベッツイ』




                       第十幕  真実の池

 一行は真実の池を目指して旅を続けます、その道中困ったことは特にありませんでした。ですがその中で。
 ガラスの猫はふとです、顔を曇らせてこんなことを言いました。
「あら、これはね」
「どうかしたの?」
「ええ、ハンクも感じない?」
 猫は声をかけてきたハンクにも問い返しました。
「そろそろね」
「そういえば身体の毛が」
「そうでしょ、違う感覚でしょ」
「君の場合は」
「そう、あたしのガラスの身体がね」
 自慢のこの身体が、というのです。
「少し曇ってきたから」
「僕の毛も湿ってきたね」
「そのせいか収まりが悪いわね」
「そうだね、これはね」
「雨ね」
 それが近いというのです。
「これは」
「そういえば」
 アンも二匹の話を聞いてふと気付いた様に言いました。
「私の髪の毛も」
「あんたもなのね」
「わかったんだね」
「ええ、この感じはね」
 アンの今の髪の毛の感じはというのです。
「雨が近い時よ」
「そうね、じゃあ」
「ここはね」
「夜に雨が降ってもテントに入ればいいから」
 ベッツイはまずは夜の時から言いました。
「問題はお昼ね」
「お昼に雨が降ったらね」
 その時はどうするべきかとです、ハンクがベッツイにアドバイスしました。
「木の下に入ってね」
「雨宿りね」
「それをしよう」
「それがいいわね」
「そういえばオズの国も天気がありますね」
 ナターシャがベッツイ達の話からこのことに気付きました。
「そうですね」
「ええ、晴れている時もあればね」
「雨も降りますね」
「雪も降るわよ」
 勿論曇りもあります。
「オズの国はいつも暖かいけれどね」
「天候はありますね」
「雪が降っても外の世界の雪とは違うから」
 オズの国の雪はというのです。
「作物を冷たさで傷めたりはしないけれど」
「それでも雪は降るんですね」
「そう、降るのよ」
 雪もというのです。
「雨もね」
「雨も降らないと駄目ですよね」
「そうでしょ、雨は降ったら身体も服も濡れるけれど」
「お水ですから」
「皆にお水もくれるからね」
 それで、というのです。雨もまた。
「有り難いものよ」
「だからですね」
「そう、だからね」
「オズの国でも降るんですね」
「降ってね」
 そして、というのです。
「私達に色々なものをもたらしてくれるのよ」
「それが雨ですね」
「オズの雨は一気に降ってね」
「すぐに止むんですね」
「短い間に沢山降るの」
 オズの国の雨の振り方もお話するのでした。
「そうした降り方なのよ」
「スコールなんですね」
 その降り方を聞いてです、カルロスはそうしたものだと言いました。
「オズの国の雨の降り方は」
「そうね、そう言われるとね」
 ベッツイはカルロスのお話を聞いて少し頷いてから言いました。
「オズの国の雨の降り方はね」
「スコールですよね」
「そうなるわ」
「オズの国は暖かいですけれど」
「暑くはないわね」
「暑くなくてもなんですね」
「短い間に一気に降るの」
 ベッツイはまたこのことをお話しました。
「それがオズの国の雨の降り方だから」
「そうですか」
「そう、それにね」
「それに、ですか」
「雪もそうだから」
「一気に沢山降って」
「積もるの」
 そうだというのです。
「それで皆ね」
「その雪で遊ぶんですね」
「そうしてるの」
 ベッツイは皆と雪で遊ぶ時のことも思い出して楽しげにお話するのでした。
「皆ね」
「長い間降られると困りますけれど」
「短い間ならね」
「はい、有り難いですね」
「そうした雨の降り方だからね」
「降った時も」
「そう、雨宿りをしてね」
 そして、というのです。
「やり過ごしましょう」
「ええと、雨が降ったら」
 ジョージは道の先を見て言いました。
「森の中に入って」
「そしてね」
「その中の大きな木の下に入って」
「それで雨宿りをするから」
 そのスコールの様な雨を避けるというのです。
「私達も旅の間はいつもそうしているの」
「オズの国は木、それも大きい木が多いですから」
 神宝はこのことも言いました。
「雨宿りも楽ですね」
「ええ、何処でも木があるからね」
 それで、とです。ベッツイも神宝の言葉に答えます。
「若しぽつぽつと来たら」
「すぐに大きな木の下に入って」
 その時に傍にある、です。
「雨が止むのを待ちましょう」
「大体どれ位降るんですか?」
 恵理香はその降る時間を尋ねました。
「それで」
「そうね、一時間かしら」
「一時間位ですか」
「大体それ位降るわ」
「それ位でしたら」
 一時間と聞いてです、恵理香は言いました。
「少し待っていてお喋りしていたら」
「お菓子でも食べてね」
「すぐですね」
「そうでしょ、若し夜に降ってもね」
「その時はテントの中にいるから」
「安心よ」
 夜は夜で、というのです。
「だから雨のことは心配しなくていいわ」
「わかりました」
「お天気も嫌なことはないの」
 笑顔で言うベッツイでした。
「オズの国ではね」
「そうなんですね」
「そう、だからね」
「雨が近くても」
「心配することはないの」
 安心して落ち着いて、というのです。
「木の下に向かいましょう」
「そしてそれまでの間は」
「ええ、これまで通りね」
「普通に歩いていけばいいんですね」
「そうよ、そうしていきましょう」
「若し雨が降る時になったら」
 アンがその時のことを言ってきました。
「その時はお空が曇って来るから」
「雨雲ですね」
 ナターシャがそのアンに応えます。
「それがですね」
「ええ、それが出て来るから」
 だからだというのです。
「すぐにわかるわよ」
「それで雨雲が出てきたら」
 アンはナターシャにさらにお話します。
「どうなるんでしょうか」
「雨雲が少し出て来て」
 そうなって、とです。アンはお話します。
「そしてすぐにね」
「お空が曇って」
「それで降るの」
「本当にすぐに曇ってすぐに降るんですね」
「それがオズの国の雨の降り方なの」
「本当に降るのはすぐなんですね」
「焦らすことはしないの」
 お天気の立場からです、アンは微笑んでお話しました。
「一気に来るから」
「何時降るのかとは思わなくて済むんですね」
「ええ、けれどね」
「それでもですね」
「一気に来るから」
 待つことはなく、です。オズの雨は。
「そのことには気をつけてね」
「わかりました」
「さあ、行くわよ」
 最初に気付いた猫が皆にこう言ってきました。
「雨が降るまではね」
「歩けばいいのね」
「降るってわかっていても降るずっと前から動きを止めることはね」
「することはしないと」
「そう、そうしないとね」
「距離も縮まらないし」
「それで雨が止んだら」
 そうなればともです、猫は雨の先のことも言いました。
「そうしたらね」
「また歩いて」
「雨が降ってもそれは一時の休息なのよ」
「ずっと降らない雨はないから」
「あんた達の世界のことは知らないけれどオズの国の雨はすぐに止むから」
 だから余計にというのです。
「休む位ね」
「そういうことなのね」
「だからね」
 それで、とです。猫はガラスのお髭をピンと張ってついでに胸も張って気取った仕草で明るい声で言いました。
「雨が降るまで。どんどん歩いていきましょう」
「そうね、行けるまではね」
 ベッツイは猫のその言葉ににこりと笑って応えました。
「歩きましょう」
「そういうことよ」
 猫はベッツイに応えてです、そのうえで。
 一行の先頭に立って道を進みました、そして二時間程歩いていますと。
 急にお空に暗い雲が出て来てです、その雲が。
 瞬く間にお空を覆ってきました、ベッツイはその雲を見てです。
 皆にです、右手の少し前にあった森を指差して言いました。
「あそこに行きましょう」
「あの森の木の下に入って」
「そして、ですね」
「ええ、雨をやり過ごしましょう」 
 もうすぐ降るその雨をというのです。
「そうしましょう」
「はい、わかりました」
「それじゃあ」
「今なら間に合うから」
 だから余計にというのです。
「行くわよ」
「そうしましょう」
 アンが応えてです、そうして。
 一行はその黄色い森の中に入りました、その中の一際大きな木の下に来たところで、です。雨がぽつぽつと来て。
 一気に降りました、ナターシャはその雨を木の下から見ながら言いました。雨は森の外を凄い勢いで降っていて音さえしています。
「本当にすぐに降ってきましたね」
「そうでしょ」
 ベッツイがナターシャのその言葉に応えました。
「お空に雨雲が出て来たら」
「すぐにお空が暗くなって」
「それでね」
 それで、なのでした。
「こうして降るのよ」
「豪雨ですね」
「この大雨が一時間位降るの」
「もう道も草原もお池みたいになってますね」
「凄いでしょ、けれどこの雨がね」
「皆の恵みになるんですね」
「そう、物凄く有り難いものなのよ」
 この豪雨が、とです。ベッツイはナターシャに笑顔で答えました。
「雨が」
「そうですね、けれど」
「ええ、一時間位はね」
 その雨が降っている間は、でした。
「動けないから」
「だからですね」
「その間何をするかよね」
「何をしましょうか」
「さっきお菓子の話が出てたわね」
 ベッツイはここでこのことをお話に出しました。
「それじゃあね」
「お菓子を食べてですね」
「お喋りもしてね」
 にこりと笑ってこのこともお話に出すのでした。
「そうしてね」
「時間を潰すんですね」
「そうしましょう」
 こう笑顔で言ってです、すぐに。
 ベッツイはテーブル掛けを出してでした、そのテーブル掛けにお菓子とコーヒー、お茶を出しました。そしてそのテーブル掛けからです。
 皆はそれぞれお菓子や飲みものを手に取りました、そしてそういったものを食べて飲みつつ楽しくお喋りをしてです。
 一時間程経つとです、実際にでした。
「止みましたね」
「本当に一時間位で」
「雨が止みましたね」
「ベッツイさんがお話してくれたみたいに」
「一気に降って一気に止みましたね」
 五人は雨が止んだのを見て言いました。
 そしてアンがです、その五人にこう言ったのでした。
「そうでしょ、私達の言った通りでしょ」
「はい、本当に」
「すぐに止みましたね」
「それじゃあね」
 雨が止んだからというのでした。
「行くわよ」
「すぐにですね」
「先に」
「そうしましょう」
 こう言ってアンは最初に木の外に出ました、地面は濡れていますがブーツのお陰で安全です。その濡れた地面を踏みながらです。
 一行は道にまで出ました、その道もです。
 かなり濡れていて川みたいになっています、それでなのでした。
 ハンクは自分からです、ガラスの猫に言いました。
「よかったらね」
「あんたの背中に乗って、っていうのね」
「そうしない?そうしたら濡れないよ」
「折角のお誘いだけれど遠慮するわ」
 猫はハンクの好意にこう返しました。
「それには及ばないわ」
「濡れるのに?」
「濡れても拭けばいいじゃない」
 実にあっさりと言った猫でした。
「だからね」
「それでなんだ」
「そう、安心していいから」
 それで、というのです。
「あたしが濡れることはね。むしろね」
「むしろ?」
「濡れて身体を拭いたら」
 そのガラスの身体をです。
「あたしは余計に奇麗になるでしょ」
「ガラスのその身体が」
「そう、だからよ」
「濡れてもいいんだね」
「むしろ後で拭いて奇麗になることを考えれば」
「濡れることはいいことなんだね」
「そうよ、だから折角の申し出だけれどね」
 それでも、とです。猫はまたハンクに言いました。
「お断りさせてもらうわ」
「そう、それじゃあね」
「そういうことでね」
 こうしてでした、ガラスの猫は自分の身体が濡れてもその後に拭いて奇麗になることを楽しみにしながら自分でその濡れた道を歩くのでした。
 一行はその濡れた黄色い煉瓦の道を進んでいきます、すると。
 夜になりました、それでまた休むのですが。
 夜になるともう道も草原もすっかり乾いていました、ナターシャはそのあっという間に乾いてしまったこともベッツイ達に尋ねました。
「あれだけ降っても」
「川みたいになったけれどね、道も草原も」
「はい、それでもなんですね」
「オズの国はすぐに乾くのよ」
「水はけがいいんですね、それに日当たりもよくて」
「どの場所もね」
「それで、ですね」
 ナターシャはベッツイとお話して納得しました。
「すぐにお水も乾いたんですね」
「そうなのよ」
「ううん、それも凄いですね」
「そうよ、だからね」
「こうしてですね」
「座っても濡れたりしないから」
 そのことも安全だというのです。
「だから今から食べましょう」
「わかりました」
「あと、テントは完全にお水を防ぐから」
「夜に雨が降ってもですね」
「雨は絶対にテントの中に入らないの」
 このことも安心していいというのです。
「だから安心してね」
「わかりました、夜も」
「さて、今晩は何を食べようかしら」
 ベッツイは雨のことをお話してからまた言いました。
「それじゃあね」
「何を食べるかをですね」
「それを考えましょう」
 こう皆に言うのでした。
「一体何がいいかしら」
「そうね、今晩はね」
 アンがベッツイに応えてこのお料理を出しました。
「私の好きなものだけれど」
「何かしら」
「パスタはどうかしら」
「イタリア料理ね」
「そう、それをね」
 どうかというのです。
「今晩は皆で食べたらどうかしら」
「そうね、いいわね」
 ベッツイはアンのその提案に笑顔で頷きました。
「パスタも」
「そうですね、パスタなら」
「いいですね」
 五人も二人の案に笑顔で応えます、そしてなのでした。
 ベッツイは早速テーブル掛けの上にパスタを出しました、スパゲティにフェットチーネ、マカロニにペンネと色々あります。
 その様々なパスタには色々なソースがかけられています、トマトやガーリック、茸にとです。
 その中の黒いスパゲティのお皿を見てです、アンは笑顔で言いました。
「イカ墨のスパゲティね」
「ええ、そうよ」
 ベッツイがアンに笑顔で答えます。
「アンも好きかしら」
「大好きよ」
「それは何よりよ」
「あれっ、確かウーガブーの国は」
 ナターシャが今の二人のやり取りを聞いて驚いた感じの顔で言ってきました。
「谷の中にあって」
「その通りよ」
「それで烏賊は」
 何故アンがその烏賊の墨をかけたスパゲティが好きなのかをです、ナターシャは考えてです。そのうえで言いました。
「川や湖の」
「オズの国は烏賊も川や湖にいるでしょ」
「はい」
「その烏賊の墨を使ったスパゲティをね」
「ウーガブーの国では食べるんですね」
「そうよ、それとね」
「それと?」
「烏賊は勿論海にもいるけれど」
 その海の烏賊もというのです。
「海のある国から輸入しているの」
「それで、ですか」
「私もイカ墨のスパゲティを食べていてね」
 そして、というのです。
「大好物なのよ」
「だからですか」
「そう、イカ墨のスパゲティも美味しいわよね」
「そうですよね、確かに」
「皆で食べましょう」
 そのイカ墨のスパゲティもというのです。
「凄く美味しいから」
「烏賊は中国でも食べるけれど」
 その中国人の神宝が言うことはといいますと。
「ただ、ね」
「墨はなのね」
「はい、食べるとは聞いてないです」
 神宝はこうアンに答えました。
「あまり」
「アメリカも。うちの国はそれこそ色々な国から人が来ているけれど」
 アメリカ人のジョージも言うのでした。
「墨はなかったね、イタリア系の人達の間でだけだったのかな」
「ロシアには全くなかったわ」
 ナターシャのお国はこうでした。
「というか烏賊自体食べなかったわ」
「ううん、墨なんてね」
「凄く変わってるわね」
「多分ね、アメリカの場合はね」
 そのアメリカからオズの国に来たベッツイが言うにはです。
「ずっとイタリア系の人達の間でだけ食べられていて」
「アメリカ全体に広まったのは最近ですね」
「多分そうよ」
「ううん、そうなんですね」
 ジョージはベッツイの説明に考える顔で頷きました。
「アメリカにあっても」
「広まらないとね」
「僕達も知らないんですね」
「そうだと思うわ」
 ベッツイはこうジョージにお話してです、今度は神宝に言いました。
「けれどね」
「あっ、僕ですか」
「ええ、中国ではかなりのものを食べるわよね」
「はい、本当に」
「海のものは船以外は食べるって聞いたけれど」
「それで烏賊もです」
 烏賊自体は食べるのです、中国でも。
「美味しく食べます」
「そうよね、けれどなのね」
「墨はなかったですね、多分」
「そうなのね」
「鮫も鰭は食べますけれど他の部分はあまり、ですし」
 神宝はベッツイにこのこともお話しました。
「ですから」
「そうなのね」
「はい、墨はでしたね」
「イカ墨をお料理に使う国は少ないのね」
「そう思います」
 神宝はベッツイに答えました。
「日本は食べてたと思いますけれど」
「そういえば何処かで」
 日本人の恵理香が神宝のその問いに答えます。
「食べていたかしら」
「何か日本人って海の幸は何でも食べるね」
 カルロスが恵理香に言ってきました、皆既に食べはじめています。それぞれのフォークやスプーンで様々なパスタをそれぞれ楽しんでいます。
「本当に」
「そうよね、それでね」
「イカ墨もなんだ」
「多分だけれど」
 それでもというのでした。
「何処かで食べていたわ」
「そうだよね」
「それでイカ墨のスパゲティもね」
 こちらもだというのです。
「食べているわ」
「そうだよね」
「私も好きよ」
 恵理香はにこりと笑ってカルロスに答えました。
「これ凄く美味しいわよね」
「うん、最初は何かって思ったけれど」
「インクをかけていると思ったわ」
 ナターシャは率直にこう言いました。
「スパゲティに」
「そう見えるわよね、本当に」
 ベッツイがそのナターシャに笑顔で答えました。
「このスパゲティは」
「はい、本当に」
「けれどね」
 それがなのです。
「墨は墨でもね」
「イカの墨ですね」
「そうよ、じゃあこのスパゲティも食べて」
「そのうえで、ですね」
「お風呂も入って」
 近くの川で、です。
「それから寝てね」
「明日もですね」
「真実の池に」
「ええ、向かいましょう」
 ベッツイは皆に言ってでした、そうして。
 皆でパスタを食べて身体を奇麗にしてから寝ました。そうして朝起きて朝御飯を食べて歯を磨いてからでした。
 皆でまた歩きはじめました、そのお昼にでした。
 皆は遂に真実の池に着きました、すると。
 その池のところに黄色いタキシードとズボン、靴に靴下で着飾った大きな蛙がいました。人間の大きさで身体は人間の様に後ろ足で立っています。お顔には洒落た知的な眼鏡があります。
 その蛙を見てです、恵理香が笑顔で言いました。
「この人がカエルマンね」
「おや、私のことをご存知かな娘さんは」
「はい、オズの国の名士のお一人ですから」
「ははは、そう言ってくれるんだね」
「はい、駄目でしょうか」
「私も有名なんだね」
「そうです、外の世界でも有名ですよ」
 恵理香はその人カエルマンのところに来て彼に笑顔で言うのでした。
「王室年代記でも出て来て」
「ボームさんが書いてくれた」
「ボームさん以外の方の年代記は知らないですけれど」
「ふむ、外の世界でもだね」
「カエルマンさんは有名です」
「そして他の皆のこともかな」
 今度はカエルマンから言ってきました。
「有名なのかな」
「そうです」
「そういえばベッツイ達もいるね」
 カエルマンはベッツイ達もいることに気付きました。
「皆どうしたのかな」
「実はね」
 ここでベッツイがカエルマンにここまで来た理由をお話しました、そして恵理香達五人のこともです。すると最後まで聞いてです。
 カエルマンは腕を組んで考えるお顔になってこう言いました。
「一回この娘達に会った様な」
「王宮に来た時に?」
「そんな気もするね」
「この娘達は最近オズの国に来る様になったのよ」
「そうなんだね」
「けれど最近貴方は」
「王宮にいっていないからね」
 カエルマンは自分から言いました。
「村にいて」
「皆と仲良く暮らしていて」
「それがまた凄く楽しいから」
「ついつい王宮にはよね」
「お呼びがあったら行くけれど」
 それでもだというのです。
「それ以外の時はね」
「そうよね」
「うん、だからこの娘達も」
「一回会ってない?」
「どうだったかな」
 カエルマンはこの辺りの記憶があやふやでした、ですが。
 恵理香達にです、笑顔で言いました。
「けれどここではっきり会ってお話をしたからね」
「だからですね」
「もう僕達とは」
「知り合いになったよ、そしてね」
 さらにというのでした。
「これから友達になってくれないかな、私と」
「えっ、カエルマンさんとですか」
「僕達が友達にですか」
「なって欲しいって」
「今仰いましたけれど」
「本当ですか?」
「名士たるもの誇りがなければならない」
 カエルマンはこのことは少し気取った感じで言いました。
「そして誇りがあれば嘘を言ってはならない」
「だからですか」
「僕達と」
「君達は既にベッツイ達とお友達だね」
「はい」
 その通りだとです、ナターシャがカエルマンに答えました。
「そうです」
「私もね」
 そしてカエルマンもというのです。
「ベッツイ達とは友達だから」
「私達ともですか」
「お友達に」
「是非なろう」
 こう笑顔で皆に言うのでした。
「そしてね」
「はい、そしてですね」
「これからは」
「そう、オズの国で楽しく遊ぼう」
 五人に笑顔で言いました。
「一緒にね、そしてね」
「そう、真実の池に来たから」 
 アンははやる気持ちを抑えられずにカエルマンに言いました。
「お花を摘んで」
「そうするんだね」
「いいわよね」
「いいよ、私は今は真実の池で遊んでいたけれど」
「ここの管理人でもあるから」
「その管理人としてね」
 カエルマンはアンに笑顔で言うのでした。
「アン王女にはお国の人を救って欲しいよ」
「有り難う、それじゃあ」
 アンはカエルマンの笑顔での承諾にやはり笑顔で応えてなのでした。
 早速その銀の菖蒲を探しました、見ればお池の周りはです。
 黄色の様々な種類のお花が咲き誇っています、そのお花を見てです。アンと一緒にお花を探している五人の子供達が言いました。勿論ベッツイとハンク、猫も探しています。
「やっぱりウィンキーの国だから」
「そうよね」
「お花は全部黄色いね」
「どんな種類のお花もね」
「黄色だね」
「そう、私の服もね」 
 カエルマンも探すことを手伝っています、その中で言うのでした。
「黄色だね」
「この国もウィンキーの国だから」
「それで、ですね」
「その通りだよ」
 まさにという口調で、です。カエルマンは答えました。
「それはウィンキーの他の場所でもだよね」
「はい、そうでした」
「そして他の国でもでした」
「全部それぞれの色でした」
「そうだよ、そして以前はね」
 ここでカエルマンは皆にこうも言いました。
「この辺りがウィンキーの端だったんだ」
「そうでしたね、以前は」
「すぐそこが死の砂漠で」
「それで、でしたね」
「ここが端で」
「もう先には行けませんでしたね」
「それが今ではね」
 今のオズの国ではといいますと。
「死の砂漠が大陸の海岸までいって」
「オズの国の端ではなくなったわね」
 ガラスの猫もこう言ってきました。
「もうね」
「そうだよ、丁渡ウィンキーの真ん中位かな」
 それが今の真実の池がある場所だというのです。
「端から真ん中になったよ」
「真ん中にあれば」
 ここでまた言った猫でした。
「何か気分が違うわね」
「うん、何かあちこちに自由に行ける気がするよ」
「端っこにいれば限られた場所にしか行けないって思うわね」
「自然にね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「今はあんたも前よりゆったりとしてないかしら」
「私はずっとだよ」
「ゆったりしてたの?」
「気取ってはいるね」
 そうだというのです。
「昔から」
「余裕じゃなくて」
「そう、気取っているから」
 それで、というのです。
「余裕とは違うよ」
「そうなるのね」
「そう、ただね」
「ただ?」
「私も余裕を身に着けたいよ」
 カエルマンはお花を探しながら猫に答えました。
「是非ね」
「そうなのね」
「うん、人間余裕があるとね」
 それが備わっていると、というのです。
「それだけで随分違うからね」
「だからですね」
「そうだよ、だから備えたいと思ってるよ」
「じゃあ備える為に」
「努力しているつもりだよ」
「昔のあんただとそこでね」
「うん、既に備えているって言ってたね」
 まだ村にいた時の自分のこともなのでした、カエルマンは振り返ってそのうえで猫にこう答えたのでした。
「昔の私はね」
「そうだったわね」
「けれど今はね」 
「違うわね」
「だからね」
 それで、というのです。
「努力しているよ」
「それはいいことね。それでね」
「それで、よね」
「勉強もしているよ」
 こう猫にお話するのでした、そうしたお話をしてその銀の菖蒲を探しているとです。
 カエルマンは目の前にです、その銀色のお花を見付けました。そしてそのお花の種類を確かめてからアンに言いました。
「王女、来てくれるかな」
「まさか」
「そう、ここに来てくれるかな」 
 こうアンに言って誘うのでした。
「これだと思うから」
「それじゃあ」
 こうしてです、アンはカエルマンのところに来てです。
 そのお花を見てです、ぱっと明るいお顔になって言いました。
「これよ」
「このお花だね」
「銀の菖蒲よ」
 まさにそのお花だとカエルマンに言うのでした。
「間違いないわ」
「それじゃあね」
「このお花を摘んでね」
「そしてウーガブーの国に戻って」
「すり潰してあの人に飲んでもらうわ」
「それでその人の病気が治って」
 カエルマンもアンに笑顔で言うのでした。
「黄金の林檎からジャムを作って」
「それを私が受け取ってね」
 ベッツイも来てです、カエルマンに笑顔で言ってきました。
「ヘンリーおじさんとエムおばさんの結婚式にね」
「持って行くんだね」
「皆喜んでくれるわ」
 是非にと言うのでした、そして。
 アンはそのお花を摘み取ってです、皆に言いました。
「それじゃあね」
「今からですね」
「ウーガブーの国に戻って」
「それから」
「さっき言った通りよ」
 このことはもうさっきアンとベッツイが言った通りでした、そして。
 皆カエルマンのところに来てです、笑顔で頭を下げてからです。ベッツイがその皆を代表して彼に言いました。
「有り難う、お陰でお花を手に入れられたわ」
「ははは、私は何もしていないよ」
「さっき見付けたじゃない」
「見付けたことは見付けたけれどね」
 それでもだとです、カエルマンはベッツイに言うのでした。
「私はそれだけだから」
「だからっていうのね」
「お礼を言われるには及ばないよ」
 そうだというのです。
「別にね」
「そうなのね」
「さて、それでね」
「ええ、今からウーガブーの国に行くわ」
「距離はあるね」
「そのことはもう頭に入れているわ」
 ベッツイも皆もです、このことは。
「歩いて行って。そしてエメラルドの都までもね」
「歩いて行くんだね」
「充分間に合うから」
 おじさん達の結婚式までです。
「そのことは安心してね」
「わかったよ、それじゃあね」
「ええ、これでね」
「そのお花は摘んでも問題ないから」
「何日位?」
「一ヶ月はね」
 カエルマンはベッツイに時間の問いにも答えました。
「大丈夫だよ」
「随分長いわね」
「摘んでも一ヶ月は枯れないから、ただね」
「ただ?」
「それはお水に挿した場合だよ」
 その場合はというのです。
「そのままだとあまりもたないから」
「それで枯れてお薬にしても」
「多分ね」
 そうした状態なら、というのです。
「あまりお薬として期待出来ないかもね」
「それじゃあ」
 ベッツイはそう聞いてです、すぐにです。
 あのテーブル掛けを出して拡げて、です。そこからです。
 お水が入ったコップを出してです、カエルマンさんに言いました。
「これに入れていくわ」
「そのコップの中にだね」
「これならいいわよね」
「うん、考えたね」
 カエルマンはベッツイが手に取って差し出したそのコップを見て笑顔で答えました。
「そこの中に入れてね」
「ウーガブーの国まで持って行けばいいわよね」
「その通りだよ、ではね」
「アン、そのお花をね」
 ベッツイは今度はアンに対して言いました。
「ここに入れましょう」
「わかったわ」 
 アンもベッツイに笑顔出答えてでした。そのうえで。
 自分からお花をそのコップに挿し入れました、それが済んでからです。
 ベッツイはそのコップを手に取ったまま行こうとしました、ですが。
 カエルマンはそのベッツイを呼び止めてです、こう言いました。
「ちょっと待ってくれるかな」
「どうしたの?」
「そのまま持って行くとね」
「あっ、転んだりしたら」
「うん、危ないよ」
 だからだというのです。
「ここは手に持つんじゃなくて」
「何かに入れて」
「そのコップごとね」
「そうして持って行った方がいいわね」
「うん、そうしたらどうかな」
「その通りね、けれど」
 ここでベッツイは考えるお顔になってカエルマンに返しました。
「どうしてコップを入れるか」
「ううん、そのことが問題だね」
「何かあるかしら」
「それだったらね」
 ここで言って来たのはハンクでした。
「僕が背中に乗せてね」
「そうしてなのね」
「運んだらどうかな」
 こうベッツイに提案するのでした。
「僕は動いても揺れないからね」
「そうよね、ハンクはね」
「バランスがしっかりしているせいか」
「貴方の動きはそうなのよ」
 いつも乗せてもらっているベッツイだからこそよく知っていることです。
「バランス感覚がいいから」
「揺れないよね」
「確かにね」
 ベッツイはハンクの言葉に頷きました、それで。
 あらためてハンクにです、こうお願いしました。
「それじゃあコップを乗せていいかしら」
「うん、いいよ」
「一応ちゃんと鞍の上に固定させてね」
 ハンクの背中の鞍にお花と水を入れたコップを置いてです、そのうえで。 
 そのコップを鞍の上にベッツイが持っている便利なものが沢山入っている鞄からです。接着剤を出してです。
 くっつけました、こうしてなのでした。
 ベッツイは笑顔でこう言いました。
「これでいいわね」
「うん、僕が乗せていたらね」
「揺れないしね」
「お水も零さないよ」
「お花も落とさないしね」
「後はウーガブーの国に戻ってね」
 そして、でした。
「寝込んでいる人を助けてあげよう」
「このお花でね」
「さて、これでこの池での用事は済んだかな」
 お花のことが一段落したと見てです、カエルマンが皆に言ってきました。
「それじゃあだね」
「そう、今からね」
 アンがそのカエルマンに笑顔で答えました。
「ウーガブーの国に戻るわ」
「そうするんだね」
「すぐに戻るわ」
「そうだね、じゃあね」
「ええ、一旦お別れね」
「皆また会おうね」
「また都に来てね」
 ベッツイはカエルマンにこうお願いしました。
「何時でも待ってるから」
「うん、用事があればね」
「用事がある時以外はなのね」
「私はここにいるよ」
 真実の池、そしてイップの村にというのです。
「そして楽しく暮らすよ」
「エメラルドの都も楽しいのに」
「そうだね、けれどここは昔からのお友達が一杯いるからね」
 カエルマンにとってのです、イップの村の人達はこの人にとってかけがえのない友人達なのです。だからです。
 カエルマンはイップの村からはです、出来るだけ離れずになのでした。
「ここにいたいんだ」
「普段は」
「うん、けれどエメラルドの都も好きだからね」
「都に来てくれた時なのね」
「うん、楽しくやろう」
 こうベッツイに言うのでした。
「是非ね」
「ええ、その時はね」
「そうしようね」
「では今度会った時は」
 ベッツイはその時のことを今からカエルマンとお話しました。
「その時はね」
「うん、楽しく遊ぼう」
「そうしましょう」
「じゃあカエルマンさん」
「またお会い出来る時を楽しみにしています」
 恵理香達もカエルマンに笑顔でお別れの挨拶をしてでした、カエルマンと別れ真実の池を後にしてです。ウーガブーの国に向かうのでした。



何かあるかと思ったけれど。
美姫 「カエルマンのお蔭もあって、結構簡単に花が手に入ったわね」
だな。摘んでから水があれば一か月は大丈夫というのも凄いな。
美姫 「これで急がなくても良いわね」
と言いたいが、ジャムの関係で急がないとな。
美姫 「そうだったわね」
帰りも何事もなければ良いが。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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