『オズのベッツイ』




                  第十二幕  記念日のプレゼント

 ベッツイ達はウーガブーの国を後にしてから一路エメラルドの都に戻りました。その都への帰り道はといいますと。
 ここでも黄色い煉瓦の道を歩いていました、その中で。
 ベッツイは皆にです、にこにことして言いました。
「これでね」
「はい、ジャムも手に入りましたし」
「後はですね」
「都に戻ってそのうえで」
「記念日にお二人にプレゼントする」
「そうするんですね」
「ええ、そうよ」
 その通りとだとです、ベッツイは五人に言うのです。
「記念日までに戻ってね」
「とりあえずここまでは平和でしたね」
 ナターシャはそのベッツイにこう言いました。
「何もなくて」
「そうね、けれどね」
「旅は目的地に着くまでですから」
「まだ何があるかわからないのよね」
 ベッツイもにこにことしながらもそれでも言うのでした。
「都までの帰り道も」
「だから早いうちにウーガブーの国も発ったんですね」
「そうよ、そうしたのよ」
 それで、というのです。
「オズの国の旅は何があるかわからないから」
「そういえばいつもそうですね」
 ナターシャはベッツイのその言葉に頷きました。
「今回にしても」
「もっと早く終わっていたでしょ」
「アン王女とお会いして」
 それで、なのです。
「クマセンターや真実の池まで行って」
「そうでしょ、オズの国の旅は絶対に何かが起こるの」
「予想していないことが」
「いつも起こるものなのよ」
「私達のこれまでの旅も」 
 ナターシャも言われて気付きました、五人がこれまで加わったその旅もなのです。
「いつも何かがありました」
「そうでしょ、絶対に何かが起こるでしょ」
「何かと」
「はい、本当に」
「最初にオズの国に来た時にしても」
 恵理香はその時のことから思い出すのでした。
「そもそもが思わないことでしたし」
「まさかね、かかしさんや木樵さん達と一緒になるなんて」
「想像もしていなかったよ」
 ジョージと神宝も最初の旅のことを思い出しました。
「塔からね、オズの国に入って」
「エメラルドの都まで一緒に行って」
「そのこと自体がね」
「思わないことだったから」
「そうだね、モジャボロさんと一緒の時もムシノスケ教授と一緒の時も」
 カルロスもこれまでの旅のことを思い出すのでした。
「色々あったから」
「ボタン=ブライトが起きなかったり」
 恵理香は彼のことも思い出しました。
「本当に何かが起こるものなのね、オズの国での旅は」
「そう、だからね」 
 それでとです、また言うベッツイでした。
「早いうちに出発したのよ」
「そういうことですね」
「そうなの、まあ何もないに越したことはないわ」
 ベッツイの期待です、このことは。
「それでも何があっても時間的に困らない様に」
「早いうちに出て」
「早いうちに戻りましょう」
「そういうことですね」
 ナターシャはベッツイに笑顔で応えました、そして。
 皆でエメラルドの都に向かって歩いていきます、夜になって晩御飯を食べました。この日の晩御飯はおうどんでした。
 そのおうどんを食べてです、ベッツイは恵理香に言いました。
「今日のおうどんは恵理香のリクエストだけれど」
「讃岐うどんですね」
「この讃岐うどんも美味しいわね」
「そうですよね、関西のおうどんも美味しいですけれど」
「このおうどんも美味しいわ」
 お箸でおうどんを食べながら言うベッツイでした。
「あっさりしていてね」
「麺のコシがあって」
「とても美味しいわ」
「あとこの鰹もね」
 今晩のメニューはおうどんだけではありません、鰹のたたきにぼんジュース、そして鰹のたたきにかけるすだちもあります。ナターシャはその鰹のたたきも食べつつ言うのでした。
「美味しいわ」
「うん、あっさりしていてね」
「幾らでも食べられる感じだよ」
 ジョージと神宝もおうどんと鰹のたたきを食べています、そのうえで言っています。
「アメリカの料理と比べるとあっさりし過ぎだけれど」
「中華料理ともね」
「それでもこのあっさりさはね」
「いい感じだね」
「日本人の味の好みって本当にあっさりしてるよね」
 カルロスもこう言うのでした。
「大阪は濃いっていうけれど」
「皆から見れば違うのね」
「全然油っこくないし」
 それに、というのです。
「味付けもね」
「あっさりしているのね」
「お込焼きとかは確かに濃い感じだけれど」
「他のお料理は」
「うん、やっぱり日本のお料理だよ」
 あっさりしているというのです。
「僕達から見ればね」
「そうなのね」
「最初びっくりしたわ」 
 ナターシャは今度はおうどんを食べつつ恵理香に言いました。
「こんなに薄い味付けなのって」
「そこまで薄かったのね」
「私達から見ればね」
 そうだったというのです。
「今は慣れたけれど」
「そうそう、慣れるまではね」
「あっさりし過ぎていてね」
「結構大変だったよ」
 男の子三人も恵理香に言うのでした、そしてベッツイはこう言いました。
「和食はオズの国のお料理の中でも一番あっさりしているわね」
「一番ですか」
「ええ、だからこそ人気があるけれど」
 そのあっさりさが、というのです。
「私も最初食べてびっくりしたから」
「ベッツイさんもなんですね」
「そう、私もね」
 そうだったとです、ベッツイはおうどんと鰹のたたきを食べつつ恵理香にお話します。そしてそれと一緒にです。
 ぽんジュースも飲んで。そして言うのでした。
「びっくりしたわ。このジュースもね」
「ぽんジュースもですか」
「あっさりした甘さだから」
「びっくりしたんですか」
「そう、アメリカのジュースと比べると」
 その甘さが、というのです。
「あっさりしているわ」
「そういうものなんですね」
「そうなの、ただね」
「ただ?」
「塩分は多いわね」
 和食のこのこともです、ベッツイは言いました。
「お醤油にお味噌に」
「和食には欠かせないです」
 どちらもとです、恵理香はベッツイに答えました。
「お塩と同じ位」
「そうよね、この二つがないとね」
「和食じゃないです」
「その二つがあるからね」
 和食は、というのです。
「塩分が多いわ」
「言われてみれば」
「そのことがあるわね」
「塩分は身体に必要ですけれど」
「何でもそうだけれど摂り過ぎるとね」
「よくないですね」
「そう、だからね」
 それで、というのです。
「そこは気をつけてね」
「食べないといけないですね」
「そういうことになるわね」
 こうお話してでした、ベッツイは白いお米の御飯も食べます。おかずは鰹のたたきです。
 それを食べつつで、こうしたことも言いました。
「あと今日のお料理は」
「全部四国のものですね」
 恵理香はベッツイのその言葉に答えました。
「讃岐うどんは香川、鰹は高知、すだちは徳島、ぽんジュースは愛媛です」
「それぞれなのね」
「はい、どれも四国の名産です」
「日本の四国って美味しいものが多いのね」
「そうですね、それぞれの場所に美味しいものがあって」
「特におうどんがいいかしら」
 ベッツイはこちらのお料理を褒めるのでした。
「コシがあってあっさりしていて」
「美味しいですよね」
「とてもね。幾らでも食べられるわ」
「じゃあどんどん食べましょう」
「ええ、皆でね」
「たっぷり食べて明日もだね」
 皆の傍で草を食べているハンクも言ってきました。
「一杯歩くんだね」
「そうよ、明日もね」
 ベッツイはそのハンクに笑顔で答えました。
「たっぷり歩くわよ」
「その為にも食べて」
「ええ、よく寝ましょう」
 そうして休んでというのです、こうお話してです。
 皆は四国の名産を食べて近くの川で身体を奇麗にしてよく寝てでした。また次の日も歩いてです。エメラルドの都に向かうのでした。
 数日歩くとでした、ウィンキーの黄色の世界がです。
 終わってでした、そして緑の世界に入りました。ベッツイは黄色から一瞬にして緑に変わった草原を見て笑顔で言いました。
「遂に、よね」
「ええ、戻って来たわね」
 ガラスの猫がそのベッツイに応えました。
「エメラルドの都に」
「戻って来たわ」
「そうね、けれどね」
「それでもよ」
「都の宮殿に帰るまでが旅ね」
「私達のお家にね」
 ベッツイのお家は宮殿です、そこにオズマやドロシー達と一緒に住んでいるのです。
 それでなのです、ベッツイはそこがお家だと言ってそこに帰ろうとしているのです。
「帰るわ」
「そう、これからね」
「おじさん達の結婚記念日までに間に合ったわよね」
「うん、まだ日があるよ」
 ハンクがベッツイのその言葉に応えます。
「充分ね」
「よかったわ、思っていたより長旅になったけれど」
「それでもだね」
「間に合ってよかったわ」
 そのことも喜ぶベッツイでした。
「間に合うとは思っていたけれど」
「それでも長い旅だったから」 
 旅に出た時に思っていたよりもです、確かに今回の旅は長かったです。けれどそれでも間に合ってだったのです。
 皆そのことを喜んで、です。こう言うのでした。
「だからね」
「いいんだ」
「ええ、ほっとしてるわ」
「そうだね、じゃあ後は」
「宮殿まで。気を抜かずに帰りましょう」
「一緒にね」
 こうお話してでした、皆で緑の世界の中を進んでいきます。
 そして緑の城壁の門のところに来てです、ベッツイは門番の兵隊さんに笑顔で声をかけました。
「只今」
「おお、これはベッツイ王女」
 兵隊さんもそのベッツイに笑顔で応えます。
「戻られましたか」
「ええ、今ね」
「今回の旅は如何でしたか」
「とても楽しかったわ」
 ベッツイは兵隊さんに笑顔のまま答えました。
「とてもね」
「それは何よりですね」
「ええ、それでオズマ達は」
「はい、宮殿におられます」
「そうなの、皆なのね」
「王宮にお住みの方は」
 その人達はというのです。
「皆さんおられます」
「そうなの、それはよかったわ」
「では今から」
「ええ、王宮に戻るわ」
 その宮殿にというのです、こう兵隊さんとお話してです。
 皆は都の中に入りました、街はベッツイ達が出発した時と全く変わっていません。ナターシャは奇麗な緑の都を見回して言うのでした。
「エメラルドの都に着くと」
「ほっとするでしょ」
「はい、旅の後で着きますと」
 実際にとです、ナターシャはベッツイに答えました。
「本当に」
「そうよね、私もよ」
「やっぱり旅の後で」
「帰って来るとね」 
 それで、というのです。
「ほっとするわ」
「そうですよね」
「ええ、けれど旅はお家に帰るまでよ」
「だからですね」
「まだ旅の途中だから」
 都に帰ってもというのです。
「まだ気を抜かないでね」
「そうですよね」
「ジャムは鞄の中にあるわ」
 今もというのです。
「ちゃんとね」
「そうですか、大事に持っておられるんですね」
「それもただ鞄の中に入れるのじゃなくて」 
 それだけでなく、というのだ。
「包みもしてるから」
「そこまでされてるんですか」
「ええ、ちゃんとね」
 それをしているというのです。
「落としても割れない様に」
「そうされてるんですね」
「さもないと万が一の時に困るから」
 落としたりしたその時にというのです。
「そうしたの」
「用心に用心をですね」
「重ねてるの」
 そうしているというのです。
「それで最後までね」
「宮殿まで」
「帰りましょう」
 こう言ってでした、ベッツイは皆と一緒に王宮まで行くのでした。そのうえで。
 皆は都の中を進んでなのでした、遂にです。
 その王宮の門をくぐってでした、ベッツイの部屋まで着きました。そこでベッツイはほっとしたお顔になって皆に言いました。
「着いたわ」
「はい、遂にですね」
「帰ってきましたね」
「旅が終わりましたね」
「これで」
「やっと、ですね」
「そうよ、着いたわ」
 実際にと言うのでした、そのうえで。
 ベッツイは皆にです、こうも言いました。
「それじゃあね」
「それじゃあ?」
「それじゃあっていいますと」
「お茶を飲みましょう」
 旅が終わったことを実感しての言葉でした。
「これからね」
「旅が終わったことをですか」
「お祝いに」
「そう、それにね」
 それに加えてというのです。
「休憩によ」
「これからのことの為ですか」
「お茶を飲むんですね」
「そして、ですね」
「これからは」
「旅の疲れを癒す為に」
 その為にもというのです。
「お風呂も入って」
「お風呂にも入って」
「そして疲れを癒して」
「今度はですね」
「記念日のパーティーですね」
「そうよ、楽しいパーティーよ」 
 今度はそれだというのです。
「これからは」
「いや、楽しい旅の後は楽しいパーティー」
「それですね」
「結婚記念日のね」
 他ならぬそれの、というのです。
「間に合ってよかったわ」
「パーティーの用意は」
「もう出来ていると思うわ」
 ベッツイはナターシャの問いに笑顔で答えました。
「何ならジュリア=ジャムに聞いてね」
「あの人にですね」
「そうすればいいから」
「じゃあパーティーまでは」
「ええ、落ち着けるから」
 だからというのです。
「まずはお茶を飲んでお風呂に入ってね」
「くつろいでからですね」
「皆でパーティーを楽しみましょう」
 是非にというのです。
「そのうえでね」
「パーティーは二日後でしたね」
 恵理香がその日についてベッツイに尋ねました。
「それじゃあ」
「ええ、まだ日があるから」
「それまでの間は」
「色々して遊びましょう」
 ベッツイはナターシャ達に笑顔で言いました。
「王宮にも遊べる場所は一杯あるから」
「というかこの王宮は」 
 カルロスがここで言うことはといいますと。
「何でも遊べますね」
「そうでしょ」
「おはじきとかトランプもありますし」
「テレビゲームもね」
「ネットゲームもあって」
「それにね」
 それに加えてというのです。
「身体を使う遊びもね」
「充実していますね」
「グラウンドに出ればね」
「サッカーも野球も出来て」
「体育館でバスケも出来るわよ」
「王立大学みたいですね」
「あとお風呂もね」
 こちらの遊びもなのです、この王宮は。
「凄くいいから」
「とても広くて奇麗なお風呂ですよね」
「そうでしょ、水風呂も薬湯もサウナもあって」
「そちらも楽しめますね」
「寝てもいいし読書も出来るし」
「その読書も」
 こちらもなのです。
「凄い種類の本がありますね」
「数も多いでしょ」
「だからそちらも楽しめますね」
「王宮にいて退屈することはないのよ」
 何一つとしてです。
「だからね」
「パーティーまでの間は」
「他の遊びが出来るから」
「それをしてですね」
「楽しみましょう」
「お菓子もありますよね」
 神宝はベッツイに食べもののことも尋ねました。
「そうですよね」
「そう、エメラルドの都のね」
 それが、というのです。
「一杯あるから」
「それじゃあそちらも」
「楽しめるわ」
「凄くいい場所ですよね、本当に」
「この王宮はそうなのよ」
「だから僕達もここにいて飽きたことがないんですね」
 ジョージはこれまで王宮にいた時のことを思い出しつつベッツイに言うのでした。
「一度も」
「そうでしょ、そして旅に行きたくなるか行く必要が出来たら」
「旅に出て」
「オズの国の色々な場所を楽しめるのよ」
「それがオズの国なんですね」
「そうなの、オズの国はね」
「退屈しない国ですね」
「餓えることも死ぬこともないし」
「歳を取ることもですね」
「全くないのよ」
「そういえばあの人も」
 ここでナターシャはオズの国の人達の中でもとても重要なある人のことを思い出しました、その人はといいますと。
「ボームさんも」
「王室年代記編集者の」
「はい、あの人もですね」
「あの人もここに来られてね」
 そして、とです。ベッツイはナターシャのその問いに笑顔で答えました。
「ずっと一緒よ」
「王宮におられて」
「それでお仕事を楽しんでおられるのよ」
「そうなんですね」
「そうそう、皆がお茶を飲んでお風呂に入ったらね」
 その時にはというのです。
「ボームさんのお仕事が終わってるから」
「それじゃあ」
「あの人のところに行きましょう」
 ボームさんのお部屋にというのです。
「皆でね」
「ボームさんのところにですね」
「皆で」
「ええ、皆ボームさんにはまだお会いしていないでしょ」
 こう五人に尋ねました。
「そうよね」
「詳しくお話したことはないです」
 ナターシャがベッツイに答えました、どうだったかとです。
「一度も」
「そうなのね、それじゃあね」
「はい、お茶とお風呂の後で」
「皆一旦ここに戻って」
「それから皆で」
「ボームさんのところに行きましょう」
 こうお話を決めてでした、皆はまずはお茶を飲んでお風呂に入ってくつろいで奇麗にしてからです。服も奇麗で豪華な王宮に用意されていた服をに着替えてです。
 ベッツイのお部屋に集合しました、それからです。
 ベッツイは皆にです、笑顔でこう言いました。
「それじゃあ今からね」
「はい、今から」
「ボームさんのお部屋に」
「行きましょう」
 こうしてです、皆でボームさんのお部屋に行くのでした。
 ボームさんのお部屋は図書館みたいに沢山の本がありました、そして立派な席と机があって本棚の中に囲まれる様にして置かれていました。
 そしてその席の横にです、黒いスーツとネクタイ、それにズボンというエメラルドの都の中では質素な身なりの男の人が立っていました。 
 痩せていてお顔は下半分が濃いお髭で覆われています、その人こそがです。
「僕がライマン=フランク=ボームだよ」
「はい、これまでお見掛けしたことはありましたけれど」
「君達が僕の部屋に来てくれたのははじめてだったね」
「そうでしたね」
 ナターシャが五人を代表してボームさんに応えました。
「これまでは」
「うん、けれど君達のことは知っていたよ」
「私達がオズの国に来たことも」
「そう、全部ね」
 これまでの旅のこともというのです。
「よくオズの国に来てくれたね」
「まさか来られるなんて思いませんでした」
「ははは、オズの国はそうした国なんだ」
「来られないと思っていても」
「来ることが出来るんだ」
 そうした国だというのです。
「僕もそうだったしね」
「そういえばボームさんも」
「うん、中々来られなかったけれど」
 それが、というのです。
「今はここにいるよ」
「そうですよね」
「うん、嬉しいことにね」
「そうですね、そして今は」
「この王宮に部屋を用意してもらって」
「それで、ですね」
「今は王室年代記を編集しているんだ」
 今の様にというのです。
「君達のこともね」
「年代記の中にですか」
「書かせてもらっているよ」
「じゃあ私達のことは」
「永遠にオズの国の歴史に残るんだ」
 その名前がというのです。
「僕が書いているからね」
「そうなんですね」
「君達はオズの国の大切なお客さんであり市民だよ」
 ボームさんは五人にこのことを伝えました。
「だからこれからもね」
「私達が旅をすれば」
「オズの国で何かをすればね」
 つまり何かをすれば、というのです。
「歴史に残るよ」
「嬉しいですね、何か」
「嬉しい、ならいいよ」
 ボームさんはナターシャの笑顔での言葉にご自身も笑顔になりました。
「僕も書きがいがあるよ」
「ボームさんもですか」
「うん、やっぱり仕事は楽しくないとね」
 書きがいがないと、というのです。
「だから君達が喜んでくれるのならね」
「ボームさんもですね」
「うん、君達の分も楽しく仕事が出来るよ」
 こう五人にお話するのでした、そして。
 ボームさんは皆にです、こうも言いました。
「そうそう、そろそろヘンリーおじさんとエムおばさんの結婚記念日だから」
「はい、そのことは」
「もう僕達も知っていますので」
「参加させてもらえます」
 三人の男の子がボームさんに笑顔で答えました。
「それが楽しみで」
「今うきうきしています」
「パーティーが待ち遠しいです」
「僕も参加させてもらうからね」
 ボームさんもだというのです。
「皆で楽しもうね」
「はい、ボームさんも一緒に」
「パーティーを楽しくですね」
「過ごすんですね」
「うん、そうしようね」 
 ボームさんは皆にとても優しい声で言いました、そして。
 そのボームさんにです、恵理香がこう尋ねました。
「それでボームさんのことですけれど」
「僕のこと?」
「はい、ボームさんはオズの国に来られるまではお身体が弱かったですね」
「それで苦労してきたよ」
 アメリカにいる時はというのです。
「中々大変だったよ」
「けれど今は」
「オズの国に病気はないよ」
「だからですね」
「僕は何時でも楽しくお仕事が出来るんだ」 
 年代記を編集するそのお仕事をというのです。
「食べることも楽しめているし」
「そうなんですね」
「うん、例えばね」
「例えば?」
「君のお国のお料理のお握りもね」
 そちらもだというのです。
「美味しく食べているよ」
「お握りもですか」
「うん、そちらもね」
 そうだというのです。
「これまでは海草は食べなかったけれど」
「お握りの海苔ですね」
「うん、ああしたものは食べなかったんだ」
 これは今のアメリカでもです、アメリカ人の中には海草お握りの海苔にしても食べない人が多いのです。
「けれど今はね」
「召し上がられるんですね」
「お握りはいいね」
 海苔も含めて、というのです。
「忙しい時はお握りかサンドイッチかお饅頭だね」
「ピロシキは」
「勿論それも食べるよ」
 ボームさんはナターシャの問いにもすぐに笑顔で答えました。
「あれもね」
「忙しい時はですね」
「うん、すぐに食べられるからね」
 それで、というのです。
「有り難いよ、あと麺類も好きだよ」
「ボームさんもスパゲティが大好きなのよ」
 ベッツイが五人ににこにことしてお話しました。
「ミートソースもペペロンチーノもね」
「ペスカトーレも好きだよ」
「そうした方だから」
 それで、とです。ベッツイは五人にさらにお話しました。
「パーティーでも楽しまれるの」
「ただ、この人は大人だから」
 ハンクも五人に言ってきました。
「お酒も飲むから」
「そのお酒の量が凄いのよ」 
 ベッツイはこのことは少し困ったお顔になって五人にお話するのでした。
「悪酔いはしないけれど」
「次の日の朝は絶対に二日酔いになっていてね」
「頭が痛いって言ってるから」
「それが問題なのよね」
「そう、だからね」
 ボームさんも二日酔いになったその時のことを言います。
「お酒を飲んだ次の日の朝はまずお風呂に入っているんだ」
「お風呂で、ですね」
「うん、すっきりさせているんだ」
 その二日酔いをとです、ボームさんは五人に言いました。
「それから朝御飯を食べてお仕事だよ」
「お酒を飲まれた次の日は」
「オズの国に来てからお酒が随分美味しくなって」
 それで、というのです。
「ついつい飲んでね」
「オズの国ではお酒を飲み過ぎても身体を壊さないし」
 ベッツイはこのことも言いました。
「だから余計にね」
「うん、飲んでしまってね」
「いつも二日酔いなのよね」
「飲んだ後はね」
「そうしたところもあるけれど」
 ここでこうも言ったベッツイでした。
「とてもいい人でオズの国の大切な人の一人よ」
「いつもこのお部屋にいてお仕事をしているの」
 猫も五人にボームさんのことを紹介します。
「宮殿の外から出ることは滅多にないけれど」
「オズの国の、ですね」
「とても大切な人の一人なんですね」
「そうよ、何しろあんた達の世界にオズの国を最初に紹介した人だから」
 ボームさんがはじめてなのです、オズの国のことを恵理香達の世界にも他のあらゆる世界にも紹介した人は。
 それだけにです、ボームさんはオズの国にとってとても大切な人なのです。だからこそベッツイ達も皆に紹介するのです。
「あたしにとっても大切な人よ」
「貴女がそう言うのだから」
 ナターシャはいつも自分が一番と言う猫がそう言うのことに驚いています。
 そしてそれと共にです、こうも言いました。
「凄いわ」
「あら、そこでそう言うの」
「だって貴女いつも自分が一番って言ってるじゃない」
「オズの国で一番奇麗だってね」
「その貴女がそう言うから」 
 それだけにというのです。
「凄いことだと思うわ」
「何か私が高慢みたいな言い方ね」
「高慢とまではいかなくても」
 それでもというのです。
「自分が一番とは思ってるでしょ」
「そのことはその通りよ」
「その貴女がそう言うことってあるのね」
「あるわよ、あたしにとってボームさんもベッツイ達もね」
「皆なの?」
 ナターシャは猫に尋ねました。
「オズの国の」
「そう、皆ね」
「オズの国の人達は」
「特にお友達はね」
 オズの国の人達、猫が大切なその人達の中でもというのです。
「大切よ」
「だからボームさんもなのね」
「そう、それにあたしを最初にあんた達に紹介してくれた人だから」
「そのことも含めて」
「うん、大切に思ってるのよ」
 そうだとです、猫はナターシャにお話しました。
「いつもね」
「そうなのね」
「そう、それにね」
「それに?」
「あんた達もお友達よ」
 ナターシャ達五人もというのです。
「あたしにとってね」
「大切な」
「そう、大切なね」
「何か貴女にそう言われると」
「不思議な気持ち?」
「ええ、他の人のことは褒めないって思ってたから」
「あたしだって変わるのよ」
 猫はナターシャに胸を張ってこう返しました。
「他の人のことだってね」
「褒める様になったの」
「そう、大切に思う様ににもなったのよ」
 そうなったというのです。
「皆と一緒にいるうちにね」
「いや、最初にこの娘のことを皆に紹介した時は」
 その時のこともです、ボームさんは皆にお話しました。
「もっと偉そうだったからね」
「そうでしたよね」
「それがかなり変わったね」
「ずっとあの性格じゃ大変だったわ」 
 ベッツイが苦笑いで言ってきました。
「本当にね」
「猫は皆そうじゃない」
「偉そうっていうのね」
「そうよ、あたし以外にもね」
「この娘のこともこれからも書き残していくよ」
 ボームさんは猫を見ながら皆にお話しました。
「皆のこともね」
「これからのオズの国のことも」
「ずっとですね」
「うん、それが僕の仕事だからね」
 それだけにというのです。
「楽しく仕事をしていくよ」
「はい、それでは」
「これからも」
 こうお話してです、そのうえで。
 皆はボームさんと仲良くお話を楽しみました、その後で。
 ベッツイが皆にです、こう言いました。
「もうすぐ晩御飯よ」
「はい、御飯を食べて」
「今晩はですね」
「ゆっくりと寝て」
「明日も楽しく遊んで」
「そのうえで」
「パーティーよ」
 遂にその時になるというのです。
「いいわね」
「わかりました」
「それじゃあですね」
「今晩も楽しく食べて」
「美味しいものを」
「そして休んで」
「今晩はオマール海老がいいわね」
 ベッツイは笑顔で言いました、そしてです。
 ボームさんにもです、笑顔のままお誘いをかけました。
「ボームさんも」
「一緒にだね」
「ええ、晩御飯をね」
「そうだね、それがいいね」
 ボームさんもベッツイのお誘いに笑顔で答えました。
「一人で食べると寂しいからね」
「そうよね、だからね」
 それで、というのです。
「楽しく食べましょう」
「皆でね」
「ではオマール海老をね」
「皆で食べようね」
「オマール海老っていいますと」
 この海老の名前を聞いてです、恵理香はこう言いました。
「いつも思っていましたけれどザリガニに似てますね」
「うふふ、そっくりよね」
 ベッツイも恵理香の言葉に笑って返しました。
「あの海老とザリガニは」
「私よく見間違えます」
「そのことは仕方ないわ」
「そっくりだからですか」
「色もね」
 形だけでなく色もというのです。
「だから仕方ないわ」
「赤で」
「カドリングの国のオマール海老はね」
「あっ、オズの国ですから」
「エメラルドの都のオマール海老は緑色よ」
 つまりエメラルドの都の色だというのです。
「けれど味はとてもいいから」
「その海老をですね」
「皆で食べましょう」
 その緑のオマール海老をというのです。
「これからね」
「わかりました、それじゃあ緑のオマール海老も」
「皆で食べて」
「楽しんで」
「そして休んでね」
 そうしてというのです。
「パーティーまで過ごしましょう」
「そしてパーティーの時は」
「ジャムをお渡しするわ」
 まさにその時にです。
「いよいよね」
「今回の旅は全てその為にありましたし」
「是非共ね」
 おじさん達にというのです。
「お渡しするわ」
「そうですよね」
「ええ、その時が楽しみで仕方ないわ」
 ベッツイはまさにその時を待っていました、そして。
 実際にその日が待ち遠しくて仕方ありませんでした、しかしオズの国でも時間は過ぎていくものです。それで。
 その結婚記念日のパーティーの日になってです、オズの国の名士の人達が揃ってそのうえでヘンリーおじさんとエムおばさんを囲んで乾杯しました、場所は宮殿の中庭です。
 そこで皆とご馳走に囲まれてです、おじさんとおばさんは満面の笑顔で皆に応えました。
「いや、今日は本当に有り難う」
「毎年この日を祝ってくれて嬉しいわ」
「全くだよ、カンサスにいた時とは全然違って」
「こうして皆にいつも囲まれて」
「しかも結婚記念日はこうしてお祝いしてくれて」
「本当に嬉しいわ」
「ええ、私もよ」
 おじさん達に育ててもらっていたドロシーも笑顔で応えます。
「おじさん達が幸せでね」
「ドロシーもだね」
「嬉しいのね」
「とてもね」
 そうだというのです。
「本当にね」
「さて、それではこれから」
 皆を代表してオズマが言いました。
「ご夫婦に皆から贈りものをしましょう」
「まずは私から」
 二人にとっては娘に等しいドロシーが最初でした、トトと一緒におじさん達の前に来てそのうえで、でした。
 お二人にエメラルドのタブレットを渡しました、それを受け取っておじさん達はドロシーを抱き締めて言いました。
「いつも有り難う」
「毎年ドロシーには感謝しているわ」
「僕もね」
 トトもでした、小さなオパールの指輪を尻尾を振りつつお二人に差し出して言いました。
「これを」
「おや、真珠じゃないか」
「これを私達に」
「川で見付けてきたんだ」
 エメラルドの都の傍を流れている川で、です。
「それをね」
「わし等にだね」
「渡してくれるんだね」
「そうだよ、受け取ってくれるかな」
「勿論だよ」
「有り難う、トト」
 お二人はトトからのプレゼントも笑顔で受け取ってトトを抱き寄せました、そしてオズマもかかしも木樵もお二人にプレゼントをしてです。
 遂にベッツイに番になりました、ベッツイは黄金の林檎から作ったジャムが入ったガラスの瓶を差し出して言いました。
「私はこれを」
「おや、これは」
「黄金の林檎の」
「はい、ジャムです」
 まさにそれだと答えるのでした。
「是非にと思いまして」
「いや、これはまた」
「素晴らしいものを貰えるのね」
「是非召し上がって下さい」
 そのジャムをというのです。
「これはとても美味しいそうですから」
「うん、噂には聞いてるよ」
「普通の林檎よりもね」
「黄金の林檎はずっと美味しくて」
「食べると元気が出るのよね」
「ですから」 
 それだけにというのです。
「召し上がって下さい」
「うん、是非ね」
「食べさせてもらうわ」
 こうしてです、お二人はベッツイからそのジャムを受け取りました。そしてベッツイとそれぞれ固く手を握り合いました。
 ですがここで、です。ナターシャ達は困ったお顔になってです。そのうえでお互いにお話をするのでした。
「今気付いたけれど」
「そうよね」
 恵理香がナターシャの言葉に応えます。
「私達はね」
「贈りものは何も」
「出来るものは持っていないわ」
「私達だけはね」
「何も持っていないわ」
「どうしようかしら」
 女の子二人だけでなくです、男の子達もです。
 ジョージがです、神宝とカルロスに尋ねました。
「どうしよう」
「ううん、どうしようって言われても」
「僕達何も持っていないよ」
「そうだよね、だから」
「何かをお贈りしようにも」
「どうにもならないよ」
「いえ、そうでもないわよ」
 ここでこう言って来たのはガラスの猫でした。
「あんた達もそれぞれいいものを持ってるわよ」
「えっ、私達も?」
「そうなの?」
「ええ、あんた達の服よ」
 それがというのです。
「ほら、あんた達こっちに来る時に着ていた服」
「あの服が」
「私達の贈りものになるの」
「そう、服は最高の贈りものの一つよ」
 そうだというのです。
「親愛も示すものだから」
「それで私達の服も」
「おじさん達にお贈りしてもいいのね」
「何かこれといって」
「あまり大したものじゃないと思うけれど」
「あんた達が大したものと思っていなくても素晴らしいものもあるのよ」
 そしてその素晴らしいものがというのです。
「服もそうなのよ」
「ええと、それじゃあ」
「私達それぞれの服を」
「服なら同じデザインと色のものをすぐに作られるわよ」
 例え渡してもとです、猫は五人にこうもお話しました。
「オズの国ならね」
「だから服をお贈りしても」
「それで変えられないってこともないのね」
「同じ服がすぐに手に入るから」
「だから」
「そう、心配しなくていいわ」
 替えの服のことはというのです。
「親愛を示してね」
「わかったわ、それじゃあ」
「私達もね」
 おじさん達に贈りものをすることを決めてでした、そのうえで。
 それぞれの服を持って来ておじさん達にお渡ししました、するとおじさんもおばさんもとても明るい笑顔で言いました。
「君達もプレゼントを貰えるなんてね」
「凄く嬉しいわ」
「有り難う」
「大切にさせてもらうわね」
「はい、有り難うございます」
「受け取って頂けて」
 五人はお二人の言葉に笑顔で応えました、そして。
 それぞれお二人と握手をしました、その握手が終わった後で。
 オズマがです、皆に優雅な笑顔で言いました。
「さあ皆さん今日は」
「おじさん達をお祝いして」
「この場で、ですね」
「ええ、楽しく食べて飲んで歌って踊って」
 そうして、というのです。
「この日をお祝いしましょう」
「お二人が生涯を誓ったこの日を」
「神に感謝を」
 オズマが最初から杯を掲げて皆も応えました、そのうえで。
 皆はお二人の結婚記念日を心からお祝いしました、ベッツイもその中で今回の旅のことを思い出して心から笑いました。


オズのベッツイ   完


                            2014・11・13



どうにか無事に帰国もして。
美姫 「ジャムをプレゼントする事が出来たわね」
良かったな。
美姫 「ええ。まあ、恵理香たちはプレゼントを用意していなかったけれどね」
まあ、それは仕方ないがな。でも、それもどうになったし。
美姫 「今回の旅もこれで無事に終わりね」
ああ。今回もまた楽しませてもらいました。
美姫 「ありがとうございます」



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