『オズのカエルマン』




                 第四幕  四霊獣

 カエルマン達八人はオズマ達と笑顔で一時のお別れをしてすぐにギリキンの国に向けて出発しました。程なくしてドロシー達もリンキティンク王の国に旅立ちました。
 出発してからです、神宝はカエルマンに言いました。丁渡都の門を出たところで。
「僕達まだカエルマンさんとは」
「そうだね、一緒に冒険をしたことはね」
「なかったですね」
「これがはじめてだね」
「そうですよね」
「そういえば僕は君達ともね」
 冒険以前にというのです。
「じっくりとお話をしたこともね」
「なかったですね」
「そうだったね」
「はい、これまでは」
「これはいい機会だね」
 しみじみとして言うカエルマンでした。
「君達とこうして旅をすることは」
「そうですね」
「これもオズの神々の配剤かな」
 こうも言うカエルマンでした。
「偉大なるね」
「そうかも知れないですね」
「うん、僕も実は君達とはね」
 カエルマンは五人にお話しました。周りはまだ緑の世界でカエルマンの黄色いお顔と服が目立っています。
「じっくりとお話したかったんだ」
「そうだったんですか、カエルマンさんも」
「実は僕達もそう思っていました」
「カエルマンさんと」
「それはどうしてかな」
 カエルマンは自分達もと答えた五人に尋ねました。
「僕とお話したかったというのは」
「いや、僕達の世界にはいないですから」
「カエルマンさんみたいな方は」
「こんな大きな蛙なんて」
「しかも歩いていて人の言葉を喋って」
「そうした人は」
「そうだったね、あちらの世界には僕みたいな人はいないね」
 カエルマンも五人の返答に納得して頷きました。
「オズの国は違うとして」
「オズの国ならではですよ」
 ジョージもこうカエルマンにお話します。
「カエルマンさんみたいな方がおられるのは」
「そして他の人達もだね」
「はい、オズの国はお伽の国ですから」
 つまり不思議の国だからだというのです。
「こうしたこともあるんですね」
「そうだね、けれど僕みたいな人はね」
「他にもですね」
「いるからね」
 このオズの国にはというのです。
「僕も特別な人じゃないんだよ」
「かかしさんも木樵さんもおられて」
 オズの国の不思議な住人の中にはです。
「他にも大勢おられますね」
「僕みたいな蛙もいるよ」
「あっ、そうなんですか」
「うん、僕みたいな大きさで服を着て喋る蛙はね」
 オズの国にはいるというのです。
「この国にいるよ」
「そうなんですか」
「そう、だから僕はこの国では特別じゃないんだ」
 カエルマンはジョージににこりと笑ってお話します。
「そのことは覚えておいてね」
「わかりました」
 ジョージはカエルマンの言葉に素直に頷きました、他の四人も同じです。
 そして今度は恵梨香がです、カエルマンに尋ねました。
「あの、カエルマンさんの好きなものは」
「泳ぐこと、跳ねることだよ」
「蛙だからですね」
「うん、特に泳ぐことは大好きだよ」
 特にこれがというのです。
「それにお風呂、寝ることに読書もね」
「読書もですか」
「僕は自分が何も知らないことを知ったからね」
「知る為にですね」
「そう、読書をしているんだ」
 恵梨香にこう答えるのでした。
「いつもね」
「そうなんですね」
「それにね」
 さらにお話するカエルマンでした。
「食べるものはお魚とか海老、貝にね」
「お水の中にいるものですね」
「何でも食べるけれどね」
「特にですね」
「お水の中にいるものが好きだよ」
「じゃあお刺身とかお寿司は」
「いいね、どちらも」
 カエルマンは恵梨香の問いににこりとして答えました。
「日本のシーフードだね」
「はい」
「あと天麩羅もいいね、鰻も好きだよ」
「鰻丼ですね」
「そう、あれもいいね」
 その味を思い出してです、カエルマンはにこにことしています。どうやら本当そうしたものが好きみたいです。
「嫌いなものはないよ」
「何でもですね」
「僕は食べるよ」
 そしてその中でもなのです。
「その中でもなんだ」
「そういうことですか」
「あと甘いものなら」
 そちらはといいますと。
「ケーキの焼いてくれたクッキーだね」
「それわかります」
 カルロスはカエルマンの今の言葉にすぐに答えました。
「ケーキさんの作ったクッキーは最高ですから」
「本当に美味しいよね」
「何か何もかもが違いますよね」
 今度はカルロスが笑顔になっています、ただ彼の笑顔は太陽みたいに晴れやかです。
「一体どうしてあそこまで美味しいのか」
「あら、別に作り方は一緒よ」
 ケーキ自身はこう答えます。
「何も変わりのないね」
「普通のクッキーですか」
「そうよ」
 あくまで、というのです。
「何も変わらない」
「そうなんですか」
「そう、だから特別美味しいかっていうと」
 そう言われることはといいますと。
「少し驚くわ」
「そうですか」
「ええ、私のクッキーは同じよ」
 他の人が作るものと、というのです。
「本当に違ったところはないから」
「そうですか」
「これはケーキさんが基本を守っているからだね」
 ここで魔法使いが言いました。
「ケーキさんはいい意味で細かい性格だからクッキーの作り方も食材管理もしっかりしているんだよ」
「分量もですね」
 ナターシャは魔法使いにこのことを言いました。
「そちらも」
「うん、どれもしっかりしているからね」
「だからケーキさんのクッキーは美味しいんですね」
「それに皆に美味しく食べてもらいたい」
 このことについても言う魔法使いでした。
「そう思う気持ちが強いから」
「その気持ちもクッキーにあって」
「美味しいんだよ」
「気持ちがあるから」
「それが一番強いかな」
「ケーキさんのクッキーが美味しい理由は、ですね」
「うん、幾ら作り方がしっかりしていてもね」
 食べてくれる人に美味しく食べてもらいたいという気持ちがなければ、というのです。
「どんなものも美味しくならないよ」
「味気ないものになるんですね」
「その通りだよ」
「いや、全くその通り」
 カエルマンは魔法使いのその言葉にぽんと手を叩いて答えました。
「美味しく食べて欲しいという気持ちがあればこそ」
「ケーキのクッキーは美味しいね」
「そうだよ、僕も知ろうとしないと。皆の役に立ちたいと思わないと」
「そうはなれないね」
「知識も備わらないし役立たずになってしまうよ」
「カエルマンさんもですか」 
 神宝はカエルマンのその言葉に少し驚いて言いました。
「役立たずに」
「なるよ、誰でもね」
「誰でもですか」
「そう、誰かの役に立とうと思わず何の努力もしないなら」
 そうなってしまえばというのです。
「誰でもね」
「そうなるんですか」
「僕は最初は自惚れてばかりで」
 かつての自分自身も反省するのでした。
「まさに井の中の蛙だったよ」
「村から出るまではですね」
「全く以てそうだったよ、けれど何も知らない何も役に立たない自分を知って」
「知ろう、役に立とうと思って」
「僕も変わったんだと思うよ」
 こう神宝に答えるのでした。
「そうなったんだよ」
「カエルマンさんもですね」
「今は少しは皆の役に立てる様になったかな」
 カエルマンは腕を組み考えるお顔で言いました。
「そうだといいけれど」
「皆カエルマンさんを頼りにしていますよ」
 ケーキがそのカエルマンににこりと笑って答えます。
「心から」
「だといいけれどね」
「それこそ散髪屋さんの様に」
「そうそう、散髪屋さんは昔はあれでしたよね」
 ケーキの散髪屋さんの様にという例えにです、神宝はそのお顔をぱっと明るくさせて答えました。
「何でも屋さんでしたね」
「ええ、オズの国でもね」
「散髪でも代筆でもお医者さんでも」
「何でもしていたのよ」
「まさに何でも屋さんでしたね」
「カエルマンさんはその散髪屋さんみたいにね」
 それこそと答えるケーキでした。
「村の、そしてオズの国の皆から頼りにされているのよ」
「そうなんですね」
「そう、本当に頼りになる人よ」
「だといいけれどね、少なくともね」
 そのカエルマンの言葉です。
「そういう風になりたいよ」
「散髪屋さんみたいにですか」
「それも腕の立つね」
 神宝ににこりと笑って答えました。
「そうなる様に努力するよ」
「そうですか」
「うん、これからもね」
 カエルマンはこう言いました、そうしたお話を皆でしながら都からギリキンの国に向かう黄色い煉瓦の道を歩いていきます。
 都はとても平和で緑のお家も田畑ものどかです、人々はその田畑や牧場でとても楽しそうに働いたり遊んだり食べたり飲んだりしています。
 その都の人達を見てです、神宝はふとこんなことを言いました。
「ここだと中央は緑だよね」
「うん、オズの国ではね」
 ジョージが神宝のお話に応えます。
「エメラルドの都が緑で」
「マンチキンが青、カドリングが赤」
「ウィンキーが黄色でね」
「ギリキンが紫だね」 
 この五色の配色です、これはオズの国の国旗にも表されています。
「これがオズの国の五国のそれぞれの色」
「そうだね、そのことがね」
「君はだね」
「最初オズの国のことを知った時少し驚いたよ」
 こう言うのでした。
「違うなって思って」
「そう、中国の配色とは違うね」
 カエルマンも神宝に応えます。
「そこはね」
「はい、東は青で南が赤は同じですけれど」
 オズの国ではマンチキンとカドリングです。
「後の三色は」
「そうだね、違うね」
「中国だと五行で」
 その配色はといいますと。
「確かに東は青、南は赤ですけれど」
「西は白、北は黒でね」
「真ん中は黄色です」
 これが中国の五行思想の配色なのです。
「そこに陰陽もありますけれど」
「その五色になるね」
「そうです、そこが違うなと思いまして」
「うん、オズの国の配色は五行の配色じゃないからね」
「また違う理由からでしたね」
「この色になったんだ」
 それぞれです、そうだというのです。
「だから五行とはまた違う配色なんだ」
「そうですね」
「けれどね」
「はい、五行はこの国にもありますね」
「だから青龍もいるんだよ」
「東にいるその霊獣も」
「そうだよ、今回わかったことだけれどね」
 オズの国にも青龍がいるということがです。オズの国はアメリカが反映されるのでアメリカに中国から来た人がいればその中国のものも加わるのです。
「青龍もいてね」
「五行思想もありますね」
「そうなるんだよ」
 カエルマンは神宝に学者の様にお話しました。
「この国にもね」
「そうですよね」
「そして青龍がいるということは」
「他の霊獣もいますね」
「うん、玄武に朱雀、白虎もね」
 この彼等もというのです。
「いるね」
「そうですよね」
「僕達がこれから行くギリキンの国は」
「北ですから」
「玄武になるね」
 この連中がギリキンの国にいるというのです。
「本来はね。けれどね」
「そう、果たして玄武は北にいるのかどうかだね」
 魔法使いもそのことが不安でした。
「それが心配だね」
「それはどういうことですか?」
 ジョージが魔法使いの疑念について聞きました。
「玄武が北にいるかどうかって」
「いや、青龍が北にいるね」
「はい、今は」
 だから皆もその北であるギリキンに向かうのです、どうして本来の居場所である東にいなくて北にいるのかを聞く為に。
「そのことからですか」
「うん、若しかして玄武もね」
「北にはいなくて」
「他の方角にいるのかもね」
「若しそんなことになっていたら」
 恵梨香がお顔を曇らせて言います。
「大変ですよね」
「五行はこの世の摂理だからね」
「その摂理が狂いますね」
「少しの間ならいいけれど四霊獣はそれぞれの方角から動いたらいけないんだ」
 別の方角に長い間いてはよくないというのです。
「そうしたことをしたらね」
「世界に悪い影響が出るんですね」
「摂理が狂ってね」
「だからですね」
「うん、青龍が東にいないと」
 長い間そうであるとどうなるかといいますと。
「彼が司る木のこととかが狂うよ」
「木が枯れたりとか、ですか」
「あと育ち方がおかしくなったりとかね」
「そうしたことになるんですね」
「このことは他の四霊獣でも同じだよ」
 それこそ青龍に限らず、というのです。
「それぞれの方角から離れたら摂理が狂うんだ」
「だから青龍は東にいるべきなんだね」
「それが理想だよ」
「だから私達はギリキンに行って」
「青龍に会ってね」
 そして、というのです。
「彼からどうして北にいるのか聞いてね」
「そして、ですね」
「東に帰ってもらわないといけないんだ」
「そういうことですね」
「うん、四霊獣は神様なんだ」
 そうした存在だというのです、彼等は。
「それぞれ重要なものを司っているから」
「神様ですか」
「だからどうにかしないとね」
 それこそとも言う魔法使いでした。
「駄目なんだ」
「そうですか」
「だから行こう」
 ギリキンの国の青龍のいる場所にです。
「いる場所はもうわかっているしね」
「川の中でしたね」 
 カルロスがその青龍が今いる場所について尋ねました。
「そこは」
「そうだよ、そこに不機嫌な顔でいるよ」
「ギリキンで一番大きな川の中に」
「オズの国は何処も水が豊かでね」
 木もです、オズの国は本当に自然が「豊かです。見れば一行が今歩いている周りも木が一杯あります。少し離れた場所には森もあります。そして湖や小川もあります。
「ギリキンの国も川が多くて」
「その川の中でも」
「一番大きな川にいるよ」
 その青龍がというのです。
「僕達はそこに行くんだ」
「途中何か危険なことは」
「あるかも知れない、けれどね」
「その時はですね」
「もうそうした時に備えて一杯持って来ているよ」
 魔法使いはにこりと笑って五人にその手に持っている鞄を見せました。
「魔法の道具をね」
「魔法使いさんの魔法を、ですね」
「うん、一杯あるから」
 だからだというのです。
「それこそ何があっても、何が出て来ても」
「大丈夫ですね」
「巨人が出て来てもドラゴンが出て来てもね」
 こうも言う魔法使いでした。
「大丈夫だよ」
「そうですか、じゃあその時はお願いします」 
 ナターシャも魔法使いに応えます。
「魔法使いさん達がいれば頼りになります」
「それは僕もなんだね」
「はい、勿論です」
 ナターシャは微笑んでカエルマンにも答えました。
「お願いしますね、その時は」
「では及ばずながらね」
 その時はとです、カエルマンも応えます。
「そうさせてもらうよ」
「それじゃあ」
「何とかね、まあ僕は泳いだり跳ねたりとかしか出来ないけれど」
 魔法使いみたいに魔法は使えないのです、オズの国で魔法を使えるのはオズマとグリンダ、そして魔法使いだけなのです。
「それでも何とか」
「他の人のですか」
「今回もね」
 この冒険でもというのです。
「頑張らせてもらうよ」
「それじゃあお願いします」
「是非ね、そういえばね」
「そういえば?」
「このギリキンの国も色々な場所があるから」
 このことを言うのでした、ここで。
「ユープ村にナンダ坂、それにドラゴンがいる場所もあるから」
「あっ、そういえば」
 言われてです、神宝も気付きました。
「色々ありますね、この国にも」
「そう、もう女巨人はお猿さんになってね」
「魔法を使うことは出来なくて」
「悪いことは出来ないですね」
「そう、だから女巨人のことは安心してね」 
「そうでしたね、後はね」
 それにと言う神宝でした。
「豹もいましたね」
「うん、森の中にね」
「それでかかしさんや木樵さんが別の姿になっていた時に襲い掛かって来て」
「そうしたkともあったよ」
「その豹もいますね」
「うん、ただあの豹は満腹だと襲い掛かって来ないから」
 あくまで食べたいだけなのです。
「安心してね」
「はい、じゃあ問題はナンダ坂と」
 まずはこの坂のことを言う神宝でした。
「ドラゴン、そしてユープ村ですね」
「あの風船みたいな人達だね」
 ジョージもお話に加わります。
「あの人達もね」
「うん、いるね」
「けれどあの人達は」
「すぐに破裂させられるよ」
 例えあちらがどんなことをしてもです。
「全然怖くないよ」
「そうだったね」
「うん、一番怖いのはやっぱり」
「ドラゴン達だね」
「あそこは通るのかな」
「通らないよ」
 魔法使いは二人の男の子に答えました。
「危ないからね」
「やっぱりそうですね」
「あそこは」
「うん、今の彼等はちゃんといつも御飯を食べていて大人しいけれど」
「それでもですね」
「君達は初対面だからね」
 それで、というのです。
「おやつと勘違いするかも知れないから」
「僕達はおやつですか」
「彼等から見たらね」
 魔法使いはカルロスのまさかという言葉にも答えました。
「そうなるよ」
「だからですか」
「あそこは通らないつもりだよ」
「わかりました、それじゃあ」
「うん、ただユープの村と豹のいる森は通るよ」
 その二つの場所はというのです。
「そちらはね」
「ユープの村は大丈夫ですか?」
 ナターシャはあの村のことを尋ねました。
「あそこの人達は結構」
「今はそうしたことはないよ」
「攻撃してきたりとかはですか」
「うん、すっかりオズの国の住人になってね」
「優しくなったんですね」
「だからね」
 それで、というのです。
「安心していいよ」
「それなら」
「うん、笑顔で迎えてくれるよ」
 かつては村に来た人に攻撃的だったあの人達もというのです。
「だから安心してね」
「わかりました」
「そういえば」
 恵梨香がここで言うことはといいますと。
「ギリキンの国はオズマ姫がおられた場所でしたね」
「うん、最初はね」
 カエルマンが恵梨香にすぐに答えました。
「あの国でね」
「男の子として育っていましたね」
「かつてはそうだったよ」
「そうでしたよね」
「魔女の家を飛び出てね」
「ジャックさんや馬さんと一緒に出て」
「そしてだったんだ」
 カエルマンは恵梨香ににこにことしてお話します。
「エメラルドの都に行って」
「ジンジャー将軍の騒動にも巻き込まれて」
「その騒動も解決させてね」
「最後に女の子に戻ったんですね」
「オズマ姫自身も女の子とは知らなかったけれど」
 それが実はだったのです、男の子と自分でも思っていたのに実はとても可愛らしい女の子であったのです。
「しかもオズの国の元首でもあって」
「プリンセスだったんですね」
「そうだったんだ」
「我が国ですと内親王であり」
 恵梨香はこうも言いました。
「そして女王様でもあるんですか」
「そうなるね、お姫様だけれどね」
「国家元首ですね」
「オズマはそうだよ」
「女帝ではないですね」
「うん、また違うね」
 カエルマンもそこは違うとお話しました。
「オズマは女帝ではないんだよ」
「お姫様ですね」
「そうなんだよ」
「お姫様でありオズの国の国家元首」
「それがオズマなんだ」
 こうカエルマンにお話するのでした。
 そしてです、そうしたお話をしながらでした。
 皆はいよいよギリキンの国に入ります、目の前に絨毯みたいにはっきりとある鮮やかな紫の草原を見てです。
 神宝はにこりとしてです、こう皆に言いました。
「いよいよだね」
「うん、いよいよだね」
「ギリキンの国だね」
 ジョージとカルロスが神宝に応えます、二人もにこりとしています。
「本格的にあの国に行くのは」
「今回がはじめてだったかな」
「奥深くまで行くのは」
「そうだったね」
「今度は全てが紫の国」
 神宝はこのことを思うとでした。
 自然にです、顔を微笑まさせて言うのでした。
「面白いよね」
「紫はいい色よ」
「ええ、高貴な色よね」
 ナターシャと恵梨香は紫という色について俗に言われていることもお話します。
「奇麗なだけじゃなくて」
「そうした意味でもいい色よね」
「私は好きよ」
「私もね」
 二人でお話するのでした。
「あくまで一番好きな色は黒だけれど」
「ピンクは欠かせないけれど」
「紫もね」
「いい色よね」
「うん、紫はいい色だよ」
 カエルマンも言います。
「僕も好きで最近行っていなかったけれど」
「ギリキンにもですか」
「何度か行っているよ」
 そうしているというのです。
「それで楽しんでるんだ」
「そうですか」
「うん、ここもいい国だよ」
 カエルマンは神宝に笑顔でお話します。
「だからね」
「楽しむべきですね」
「うん、あの国も海岸の方に色々な国があって」
「そうでしたね、南の方のリンキティンク王の国と同じで」
「あの国にもあるよ」
「そうですね、じゃあ機会があれば」
「そう、そうした国にも行こうね」
 カエルマンは神宝に優しくお話します、そしていよいよでした。
 エメラルドの都の緑からです、遂に。
 一行は紫の世界に入りました、一歩足を踏み入れるとです。
 そこからさっとです、奇麗に緑から紫に一変する世界に入ってです。
 魔法使いは皆にです、笑顔で言いました。
「ここがね」
「はい、ギリキンですね」
「僕達遂にギリキンに来たんですね」
「そうだよ、では今からね」
 いざというのです。
「青龍のところに行こう」
「それとですけれど」
 ケーキが魔法使いに言ってきました。
「もうそろそろ」
「うん、お昼だね」
「はい、ですから」
「食事だね」
「それにしませんか?」
 こう魔法使いに提案するのでした。
「これからは」
「そうだね、では」
 こうお話してでした、魔法使いはです。
 煉瓦の道のすぐ横にお顔を向けて皆に言いました。
「さて、じゃあね」
「ここで、ですね」
「今から食べよう」
 そのお昼御飯をというのです。
「魔法のテーブル掛けもあるし」
「魔法使いさんもあれを持っているんだね」
「うん、ドロシーと同じものをね」 
 そうだとです、カエルマンにも答えます。
「持っているから」
「だからだね」
「そう、食べることについては大丈夫だよ」
 何の心配もいらないというのです。
「それにテントもあるから」
「用意がいいね」
「ちゃんと二つあるから」
「男女に別れてだね」
「寝られるよ」
 夜もというのです。
「だから安心していいよ」
「夜もだね」
「暖かく寝られるから」
「今回は魔法使いあっての旅だね」
「いえ、カエルマンさんもですよ」 
 ケーキが微笑んでカエルマンに言いました。
「今回の旅はカエルマンさんも頼りですよ」
「だといいのだけれどね」
「ご一緒しているのは絶対です」
「僕が皆の役に立つから」
「神々の思し召しですよ」
 オズの国の、というのです。
「間違いなく」
「じゃあその時が来たら」
「はい、お願いしますね」
「そうさせてもらうね、まあ今はね」
「お昼ですね」
「何かを食べよう」
 こうしてでした、皆はです。
 ギリキンの国に入ったところで煉瓦の道のすぐ横にまずはシーツを敷いてでした。そこからさらにでした。
 テーブル掛けも敷きました、そこからです。
 魔法使いはまずです、沢山のサンドイッチを出しました。その中に挟まっているものは。
「カツにハンバーグ」
「卵にレタス、胡瓜にトマト」
「ハムサンドもありますね」
「色々と」
「ツナサンドもあるし」
「豪勢ですね」
「お昼はね」
 それこそというのです、魔法使いも。
「サンドイッチって時もあるね」
「はい、確かに」
「サンドイッチってお昼に食べたい時もありますね」
「時々ですけれど」
「それで、なんですか」
「うん、皆もそうかなって思ってね」
 それでというのです。
「出してみたけれど」
「サラダもありますね」
 見ればそれもあります、奇麗に切られたレタスとキャベツの酢漬け、プチトマトにセロリと林檎のサラダです。
「じゃあこれも食べて」
「それで、ですね」
「これも食べて」
「お昼を楽しむんですね」
「そうしよう、ジュースもあるよ」
 ここで出したジュースはといいますと。
「葡萄のね」
「あっ、紫ですね」
 神宝はその奇麗な葡萄のジュースを見て言いました。
「ギリキンの国だから」
「うん、入ったお祝いにね」
「それで、ですね」
「このジュースも出したんだ」
「そういうことですね」
「じゃあ皆で食べよう」
 このサンドイッチとサラダ、そしてジュースをというのです。
「どんどん出すから遠慮しないでね」
「はい、それじゃあ」
「頂きます」
「それで、です」
「楽しませてもらいます」
 こうしてでした、皆でこのお昼も楽しむのでした。カエルマンはその大きなお口でツナサンドを食べつつです。
 五人にです、目を細めさせて言いました。
「いや、このツナサンドというのは」
「美味しいですよね」
「僕はサンドイッチの中で一番好きだよ」
 こう恵梨香に答えます、恵梨香は今はハムサンドを食べています。
「お魚だしね」
「だからですね」
「うん、ツナサンドがね」
 それこそというのです。
「一番好きなんだ」
「そういうことですね」
「他のサンドイッチも好きだけれどね」
 それでもだというのです。
「いいね、ツナサンドは」
「ツナサンドは日本のお料理ですね」 
 神宝はカツサンドを食べつつこんなことを言いました。
「そうですね」
「あれっ、そうなの?」
「うん、他の国にはないよ」
「そうなの」
「オズの国のこのツナサンドもね」
 神宝はハンバーグサンドを食べつつ恵梨香にお話します。
「日本から来た人がアメリカに持ち込んで」
「それでなのね」
「オズの国にもあるんだ」
 アメリカが反映されるこの国でもというのです。
「そうなんだよ」
「成程ね」
「ハムサンドとかは他の国にもあるよ」
 カルロスも恵梨香に言います。
「けれどね」
「ツナサンドはなの」
「そもそもツナ自体が」
「日本の食べものなのね」
「そうだよ、本当にね」
「ううん、それでツナサンドも」
 また言う恵梨香でした、お話しつつです。
「アメリカに入るまではオズの国に」
「うん、僕もね」
 そしてです、ジョーゾも野菜サンドを食べつつ恵梨香にお話しました。
「これまで見てこなかったから」
「ツナサンドは」
「日系人の人がやっているレストランで見るまでは」
 ジョージが日本に来るまで住んでいたその街のお店です。
「見なかったよ」
「そうなのね」
「こうしたお料理って多いわね」
 ナターシャはとても分厚いステーキサンドを食べています、とても大きいですがお肉はとても柔らかくてよく焼けています。
「日本人が気付いていない日本のお料理」
「日本人がアレンジした」
「そう、独特のね」 
「洋食とかもそうで」
「ツナサンドも」
「そうなるわ」
 こうお話するのでした、恵梨香に。
「このサンドイッチもね」
「そうなのね」
「僕もね」 
 また言うカエルマンでした。
「最近までこのサンドイッチ知らなかったよ」
「このサンドイッチを知っている日本人がアメリカに来るまでは」
「そうだったよ、けれどね」
 それでもとも言うのでした。
「このサンドイッチはいいよ」
「美味しいんですね」
「本当にね。幾らでも食べられるよ」
「後はね」
 魔法使いはごくごくと葡萄のジュースをコップに入れたものを飲みながらそのうえでこうもお話するのでした。
「ジュースも飲もう」
「それもだね」
「うん、とても美味しいよ」
「凄く新鮮な葡萄から作ったものですね」
 ケーキもその葡萄ジュースを飲んでいます、そのうえでの言葉です。
「このジュースは」
「うん、そうだね」
「とても甘くてそれでいて飲みやすいです」
「葡萄は美味しいだけじゃなくてね」
「身体にも凄くいいですよね」
「だからこれも出したんだ」
 健康のことも考えてだというのです。
「そうだったんだ」
「そうですか」
「それならね」
「はい、このジュースも飲んで」
「楽しもうね」
「わかりました、あと」
 そのジュースも飲みつつです、ケーキが今度言うことはといいますと。
「デザートですが」
「うん、全部食べた後で出そうね」
「何がいいでしょうか」
「そうだね、ここは」
 少し考えてからです、カエルマンは答えました。
「タルトかな」
「それですか」
「うん、それがいいかな」
 ここでカエルマンが思いついたのはこのデザートでした。
「それがいいかな」
「それじゃあ」
「うん、後で出すよ」
「何のタルトですか?」
 神宝が具体的にどのタルトなのかを尋ねました。
「それで」
「そうだね、桃がいいかな」
「桃のタルトですか」
「実はタルトにしようとは決めても」
 それでもというのです。
「具体的にはね」
「何のタルトまではですか」
「決めていなかったけれど」
 それをというのです。
「今決めたよ」
「どうして決まったんですか?」
「神宝が尋ねてきたからだよ」
 彼のお顔を身てにこりと笑っての言葉でした。
「だからだよ」
「僕がですか」
「うん、君は中国人だね」
「はい」
「中国では桃がよくお話に出るし」
 それにというのです。
「食べることも多いからね」
「確かに桃は我が国では」
「よく食べるね」
「好きな人が多いです」
「だからだよ」
「そういうことですね」
「うん、じゃあね」
 それならばとです、カエルマンは神宝にその蛙の左右に分かれている目を動かしてそうしてお話をするのでした。
「桃のタルトにしよう」
「わかりました、それじゃあ」
「後でね」
 お昼を食べた後にというのです。
 そうしたことをお話してでした、皆はサンドイッチとサラダ、葡萄のジュースを食べてでした。そして桃のタルトを出しました。
 見れば紫の桃です、ケーキはその紫の桃を見てまた言いました。
「ギリキンですね」
「うん、まさにね」
「ギリキンに来たからこそ」
「こちらの桃にされたんですね」
「そうなんだ」
 こうにこにことしてお話するのでした。
「味は変わらないよ」
「はい、オズの国の桃ですね」
「色は違うけれどね」
 それでもというのです。
「桃は桃だよ」
「桃色でなくても桃ですね」
 ここでこう言ったのは恵梨香でした。
 恵梨香は自分の服、ピンクのそれも見つつお話します。
「オズの国だと」
「そう、それぞれの国の色になるからね」
「ギリキンの国の桃は」
「紫なんだよ」
「桃色じゃなくても桃ですね」
「ははは、そうだね」
 カエルマンは恵梨香の今の言葉に笑いました。
「そうなるね」
「そうですよね」
「うん、もっとも桃色の桃もあるから」
「そこはそれぞれですね」
「そうだよ、恵梨香もそのことはわかるね」
「はい、オズの国にいますから」
 それでというのです。
「わかってきました」
「それは何よりだよ」
「そこを楽しむのもオズの国ですね」
「そうなんだよ」
「オズの国にはオズの国の色がある」
 恵梨香はその紫の桃のタルトをケーキから受け取りつつこうも言いました。
「そういうことですね」
「そういうことだよ」
「そうしたことも面白いですね」
「オズの国ならではだね」
「はい、じゃあギリキンの国も」
「皆でね」
「進んでいきましょう」
「さて、青龍がいるのは」
 神宝がまた言います。
「ギリキンの国のかなり奥で」
「ナンダ坂も越えてね」
「そこからさらに先に行ってですよね」
「川のところにあるよ」
「随分大変な場所にいますね」
「そうだね、だから行くまでがね」
 それこそと言うカエルマンでした、神宝に対して。
「大変だよ」
「いつも通りですね」
「ははは、オズの国の冒険はね」
 カエルマンは神宝の今の言葉にも笑って返しました。
「常に大変なものになるね」
「そうですよね」
「けれど大変だからこそね」
「まさにそれであるからこそ」
「楽しいんだよ」
「その大変な冒険を乗り越えて先に進んで」
「そして目的を適えるからこそね」
 楽しいというのです。
「そうなんだよ」
「そういうことですね」
「そう、じゃあ御飯を食べたらね」
「先にですね」
「進もう、少し行ったらルーン村だよ」
「あのルーン族がいる」
「そう、あそこに行くからね」
 こう神宝達にお話するのでした。
「楽しみにしていてね」
「ルーンの人達も今ではね」
 魔法使いも五人にお話します。
「悪いことはしないし攻撃的でもないから」
「安心していいですね」
「うん、ただね」
「ただ?」
「あの人達はすぐに破裂するから」
 このこともです、五人に注意するのでした。
「このことには気をつけてね」
「わかりました」
「破裂しても元に戻るけれど」
 それでもだというのです。
「そこは気をつけてね」
「破裂させたら可哀想だから」
「うん、そういうことだよ」
 こう神宝達にお話します、そしてなのでした。
 ケーキはタルトを食べつつです、カエルマンに尋ねました。
「そういえば蛙も」
「僕の同族達だね」
「はい、膨らみますよね」
「頬とかがね」
「そうですよね」
「あまりにも膨らませたらね」
 頬なりお腹をです。
「あまりよくないんだよ」
「破裂しますか」
「そうなりかねないからね」
「童話でありましたね」
 神宝がまた言ってきました。
「蛙がお腹を膨らませ過ぎて」
「破裂するんだね」
「それでお腹を縫い合わせることになったんですよ」
 破裂したそのお腹をです。
「そうなるからですね」
「膨らまし過ぎてもね」
「よくありませんね」
「そうだよ、何でも過ぎたらね」
「よくありませんね」
「そうしたことになるからね」
 カエルマンは自分の右頬を自分の右手で触りながら五人にお話しました、皆で楽しく御飯も食べるのでした。



今回は魔法使いが居るからすぐに到着かと思ったけれど。
美姫 「そう簡単には着かないみたいね」
結構、遠いみたいだしな。
美姫 「特に道中では問題もないみたいだし、ゆっくりでも良いかもね」
青龍が居る事による影響がないならだけれどな。
美姫 「まあ、慌てても仕方ないわよ」
そうなんだがな。さて、一行の旅はどうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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