『オズのケーキ』




              第二幕  バイキングの渡し守

 クッキー達はクマセンターに向かっています、その途中でリンキティンク王は左手に見えている山を見てこんなことを言いました。
「あの山に登ってみたいのう」
「山登りですか?」
「うむ、ふと思ったが」
 こう王子に答えるのでした。
「どうであろうか」
「僕は別にいいですが」
 それでもとです、王子はリンキティンク王に答えました。
「カエルマンさんとクッキー嬢は」
「私もいいですぞ」
 カエルマンは笑って答えました。
「山登りも」
「そうですか」
「山登りも楽しみの一つですから」
「だからですね」
「今から登りましょう」
「私もです」
 クッキーも笑顔で答えます。
「山に登りましょう」
「うむ、では皆でな」
 まさにとです、リンキティンク王は言ってでした。
 黄色い煉瓦の道を外れて山の方に向かいました、そうして山に入ると山は様々な種類の木カドリングの赤い葉の木々に覆われていました。
 勿論その下にある草花も赤いです、その赤い山の中でクッキーはこんなことを言いました。
「そういえば山に登ることは」
「最近なかったね」
「そうですよね」
 カエルマンにも応えます。
「村にいて」
「旅自体に出ていなくてね」
「私達の村の近くには山がないので」
 その為にというのです。
「どうしても」
「そこは仕方ないね」
「そうですね、本当に」
「うん、けれど旅に出てね」
「こうして山も登れますね」
「そうだね」
 見ればカエルマンも上機嫌です、そしてお二人以上にです。
 リンキティンク王は上機嫌です、それで一行の先頭に立ってうきうきとステップを踏む様に前に進みつつ言うのでした。
「ほっほっほ、歌いたくなるわ」
「山登りをしてですか」
「そうもなってきたわ」
「では歌われますか?」
 クッキーはそのリンキティンク王に尋ねました。
「これから」
「そうするぞ」
 こう言って陽気な山登りの歌を即興で作って歌うのでした、作詞だけでなく作曲もして歌い終わってからです。
 リンキティンク王は自分のスマートフォンを出して言いました。
「録音したぞ」
「そうですか」
「後はこれにわしのダンスの動画を入れてな」
「アップされますか」
「うむ、今度の曲も人気じゃぞ」
「何ていいますか」
 クッキーはスマホを手に笑っているリンキティンク王を見て思うのでした。
「王様は昔から音楽がお好きでしたが」
「大好きであるぞ」
「最近はスマートフォンも使われてですね」
「この通りな」
「動画としてあげられていますか」
「ダンスも加えてな」
 そのうえでというのです。
「そうして楽しんでおる」
「そうですね」
「CDも出しておるが」
「昔はレコードでしたね」
「もうあれは出しておらん」
 レコードの方はというのです。
「流石に数も減ってきておるしのう」
「だからですか」
「今はCDでな」
「動画ですね」
「ネットの方もな」
「その前は録音もしてなかったですね」
 王子は王様と最初に出会った、ご自身が人の姿でなかった頃のお話をしまsた。
「そうでしたね」
「ほっほっほ、そうであったのう」
「今とは違って」
「そして録音してもな」
 それをしてもというのです。
「こんなに楽でなくな」
「もっと大変でしたね」
「録音場で時間をかけてな」
「設備も整えて」
「そうしておったわ」
「しかも音が」
 録音したそれもというのです。
「悪かったですね」
「今から見るとのう」
「全く以てそうでしたね」
「それが今ではじゃ」
「スマートフォンで簡単に出来ますね」
「動画の編集も出来る」
 このことも出来る様になったというのです。
「いい世の中になったわ」
「全く以てそうですね」
「うむ、ただな」
「ただ?」
「このスマートフォンというものは科学であるな」
 リンキティンク王は山を登りつつスマートフォンを手にしています、今は画面に山の地図を出してそれを見ながら進んでいるのです。
「そうであるな」
「はい、それから生まれたもので」
「オズの国のものは魔法も入っておるな」
「そうですが」
「百年前だともうそれこそじゃ」
「魔法ばかりのものとですか」
「そうとしか思えん」
 そこまでのものだというのです。
「科学というよりかはな」
「確かに。こんなものはもう」
 カエルマンも自分のスマートフォンを手にして言います。
「百年前だと」
「魔法であるな」
「電話ですら」 
 これもというのです。
「画期的でしたからね」
「そうであるな」
「電話がオズの国にも入って」
 そしてというのです。
「あの時は私も驚きました」
「そうですよね、村にも電話が入って」 
 クッキーもその時のことを思い出しています。
「驚きましたね」
「そして嬉しかったね」
「本当に」
「ラジオが入ってもテレビが入っても」
「驚いて」
「そして嬉しかったよ」
「ゲームもそうでした」
 クッキーはこちらの楽しみのお話もしました。
「コンピューターゲームも」
「うん、あれは私も大好きだけれど」
「あれをした時も」
 本当にというのです。
「驚いて嬉しかったです」
「今も色々なゲームをしているね」
「そうですよね」
「そしてこのスマートフォンは」
「これまでお話した全部が出来ますから」
「本当に魔法だけで造ったってね」
「百年前だと思えます」
 こうカエルマンに言うのでした。
「本当に」
「全く以てそうだね」
「はい、ただ」
「ただ?」
「科学ですね」
「そう、科学が主体でね」
「造られたものですね」
 クッキーも自分のスマートフォンを出しています、そのうえで言うのでした。
「オズの国では魔法も入っていますけれど」
「だから充電も必要ないし電波が通じない場所もないよ」
「魔法の力で」
「そうなっているよ」
「オズの国のスマートフォンは」
「そうなっているよ、ただ科学が主体でね」
 こちらの力でというのです。
「出来たものだよ」
「そうですね」
「科学も魔法と変わらんのう」
 ここでリンキティンク王がまた言いました。
「最早」
「そうですね、本当に」
「科学と魔法の区別がつかんわ」
 リンキティンク王はクッキーにお話しました。
「最早」
「全く以て」
「スマートフォンもそうでな」
「最近のものはですね」
「全てじゃ、実はわしは最近バイクにも乗っておるが」
「オートバイもですか」
「それもサイドカーじゃ」
 こちらのバイクに乗っているというのです。
「わしか王子が操縦してな」
「その横の席に、ですね」
「もう一方が乗っておる」
「特別なサイドカーでして」
 王子はクッキーにそのサイドカーの具体的なお話をしました。
「変形も出来ます」
「そちらもですか」
「はい、ガウォーク形態の」
「二足で手もあってですね」
「操縦席もある」
 完全な人型でないそうした形態だというのです。
「あの形態にもなれます」
「それは凄いですね」
「変わったサイドカーが欲しくてのう」
 リンキティンク王もそのサイドカーについて具体的にお話します。
「それでじゃ」
「そうしたサイドカーにですか」
「してもらってな」
 そしてというのです。
「操縦して楽しんでおる」
「そうなんですね」
「いや、サイドカーもよいぞ」
 リンキティンク王は笑ってこうも言いました。
「乗っていて実に楽しい」
「そうですか、私はオートバイは乗れないですが」
「なら乗れる様になるか」
「そこまでは、ですが面白いサイドカーですね」
「魔法の力で無限に動けるしのう」
「そのこともいいことですね」
「うむ、しかし科学と魔法はな」
 この二つの全く違うと言われている力についてリンキティンク王は山を登りながらあらためて思いました。
「もうどっちがどっちかな」
「わかりませんか」
「こうして地図も出せるしのう」
 こうも言ってでした、そのうえで。
 四人で山の頂上を目指して先に進みますが。
 ふと一行の前にある生きものが出てきました、ゴリラに似ていますがもっと人間に近い歩き方です。
 その生きものを見てクッキーは言いました。
「ビッグフットですね」
「そうだね、あの生きものだね」
 カエルマンが応えました。
「紛れもなく」
「そうですよね」
「この山にもいるんだね」
「うむ、調べたらいるのう」
 リンキティンク王はスマートフォンでこの辺りの山岳地帯のことを調べました、そのうえでクッキー達に答えました。
「この辺りにも」
「そうなんですね」
「何でも外の世界では未確認動物らしいが」
「こちらの世界ではですね」
「ちゃんとな」
 まさにとです、リンキティンク王はさらにお話しました。
「いることがわかっていてな」
「どんな暮らしをしているかもですね」
「わかっておる」
 こちらもというのです。
「それでネットで検索しても出て来る」
「スマートフォンのですね」
「ネットも便利じゃ、調べたいことがな」
「すぐにわかりますね」
「よいものじゃ、そしてな」
 リンキティンク王はさらにお話しました。
「そのビッグフットじゃが」
「この山にもいて」
「そしてな」
「私達も見られますね」
「今の通りな」
「大きいね」
 カエルマンはビッグフットのその大きさについて言うのでした。
「これまでも見たことはあるけれど」
「二メートルは普通に超えていて」
「そして足がね」
「かなり大きいですね」
「だからビッグフットだよ」
 この名前の由来だというのです。
「まさにその大きな足の為にね」
「そういうことですね」
「けれど今回は見ただけで」
「これといって」
「何もないね」
「そうでしたね、見えなくなりましたし」
 木々の間に消えてしまいました、それで見えなくなっています。
「それじゃあ」
「また見ることになるかも知れないけれど」
「今回はですね」
「これで終わりだね」
「さて、ビッグフットの歌も歌おうか」 
 リンキティンク王はこちらのお話もしました。
「これから」
「山登りの歌に続いてですね」
「そちらの歌もな」
「では早速」
「録音しようぞ」
 こうしてでした、実際にビッグフットの歌も作詞作曲して歌いました、今度はその場でダンスも踊って録画しましたが。
 その後でクッキーはリンキティンク王に言いました。
「王様の曲はいつも明るいですね」
「今度はラップにしてみたがのう」
「やっぱり明るいですね」
「わしは明るい曲しか歌わぬしな」
「作詞作曲もですね」
「こちらもな」
 リンキティンク王は手先をまだラップの感じに動かしています、そのうえでクッキーにも他の皆にもお話するのでした。
「やはりな」
「明るくですね」
「そうしておるのじゃ」
「逆に暗い曲や静かな曲は」
「バラード等じゃな」
「そちらは」
「わしは歌わん」
 そうだというのです。
「作詞作曲もな」
「されませんか」
「うむ」
 そうだという返事でした。
「わしはな」
「そうですか」
「その辺りはミュージッカーと違う」
 この人もまたオズの国の有名な音楽家です。
「だからな」
「あの人はどんな音楽でも歌われますね」
「作詞作曲もな」
「されますね」
「しかしわしはな」
 リンキティンク王はといいますと。
「今話した通りにな」
「明るい曲だけですね」
「暗い曲や静かな曲は歌おうと考えたこともない」
「作詞作曲も」
「そっちもじゃ、そして頂上に着いた時も」
 その時もというのです。
「楽しく歌い踊るか」
「明るい曲で、ですね」
「そうしようぞ」
「それでは」
「超常に着いたらお昼にするか」
 リンキティンク王はこうも言いました。
「そうもするか」
「丁度いい時間になりそうですね」
 王子はリンキティンク王のその言葉にも応えました。
「確かに」
「それでじゃ」
「頂上で、ですね」
「お昼じゃ」
 それにするというのです。
「是非な」
「それでは」
「お昼は何を食べようかのう」
「ではとりあえずは」
 王子はここで、でした。
 自分達の傍にあったお弁当の木を見て言いました。
「何か貰いましょう」
「お弁当をか」
「そうしましょう」
「ではわしは今日は海鮮弁当じゃ」
「日本のですね」
「そうじゃ、蟹にイクラに海胆とな」
「豪勢ですね」
 王子が見てもでした。
「それはまた」
「三種類がご飯の上に乗ってお醤油で味付けされたな」
「そちらにされますね」
「全く、日本人は美味い弁当ばかり食っておるのか」
「駅弁ではそうみたいですね」
「美食家であるのう」
 リンキティンク王は日本人について駅弁のことから思いました。
「それはまた」
「私もそう思うよ、日本人は恵梨香ちゃんを見てもグルメだよ」
 カエルマンもこう言います。
「日系人の人達を見てもね」
「村にもおられますしね」
 クッキーは自分達の村のお話もしました。
「日系人の人達は」
「凄く広い水田を持っていてね」
「いつも頑張ってその水田を耕したりしておられますね」
「収穫もしてね」
「立派な人ですよね」
「勤勉で努力家でね」
「日本はご飯であるが」
 お米だとです、リンキティンク王はこうも言いました。
「そのご飯は田んぼがないとな」
「出来ないですからね」
 クッキーはリンキティンク王にすぐに言いました。
「本当に」
「だからのう」
「はい、その人はです」
「立派にじゃな」
「いつも水田を耕したり収穫されています」
「そうしておるのじゃな」
「毎日笑顔で働いておられるんです」
 こうお話するのでした。
「そうされて」
「立派な人ですね」
 王子も聞いて思うことでした。
「本当に」
「そうなんです、オズの国も色々な人が入って」
「日系人の人も」
「色々変わりましたけれど」
 それでもというのです。
「そのことでも楽しくなりましたね」
「賑やかでよいのう」
 リンキティンク王も言いました。
「全く以て」
「色々な人が入ってきて」
「わしの国もそうだしのう」
「日系人の方がおられますね」
「中国系、メキシコ系、そしてアフリカ系もな」
「アフリカ系の方も中国階の方もメキシコ系の方も」
 リンキティンク王が今言った人達もというのです。
「皆さんが」
「村におるか」
「そして皆仲良く暮らしています」
「わしの国も同じじゃ、しかしな」
「しかし?」
「アフリカ系の者がわしの国の内務大臣じゃが」
 ここでリンキティンク王は難しいお顔でお話しました。
「厳しくて融通は利かず口煩いな」
「そうした方ですか」
「いつも小言を言われておる」
「全ては王様そして国の為ですよ」
 王子がすかさず言ってきました。
「諫言は」
「わしへの小言もか」
「はい、それも」
 そちらもというのです。
「そうなんですよ」
「それはわかっていてもじゃ」
「お嫌ですね」
「わしは小言は嫌いじゃ」
 実に率直な言葉でした。
「だからじゃ」
「それはわかりますが」
「それでもか」
「王様と国の為なので」
「聞くべきか」
「それも王の務めですよ」
「やれやれじゃな、しかしわしは王じゃ」
 だからとです、リンキティンク王も言いました。
「ならな」
「お聞きになられますね」
「自分が嫌なことでも正しいことならな」
「聞かないとならない」
「そうであるからな」
「内務大臣の言うことも」
 アフリカ系のその人のこともというのです。
「しっかりと聞いて」
「国の為に役立てていくぞ」
「是非そうされて下さい」
「そうしていこうぞ」
 こうしたお話をしてでした、山の頂上に着くと。
 リンキティンク王はうきうきと飛び跳ねてさっきお話した通りに山の頂上に着いたことを喜ぶ歌を作って歌いました。
 その後でお弁当を食べてデザートの果物を食べる時に。
 ふとです、クッキーを見て言いました。
「今度クッキー嬢のお菓子もな」
「私が作ったですね」
「それも食べたいのう」
「はい、それでは」
 ならとです、クッキーも応えました。
「機会がありましたら」
「宜しく頼むぞ」
「作らせてもらいます」
「色々好きなものが多いがお菓子は特にじゃ」
 リンキティンク王は皆と一緒に敷きものの上に座ってお弁当を食べつつ言いました。
「好きだからのう」
「だからですね」
「その時のことを楽しみにしておるぞ」
「わかりました」
「オズの国は美味いお菓子が多いが」
「私が作ったお菓子もですか」
「そう聞いてきたからな」
 だからだというのです。
「機会があればな」
「そうさせてもらいます」
「ほっほっほ、それではな」
 こうしたお話もしました、リンキティンク王が山の頂上でクッキーとこうしたお話をしていた頃にです。
 アン王女達は川の前にいました、そしてそこにです。
 顔のお鼻のところまで鉄があって頭をすっぽりと装飾なしに覆った兜に鎖帷子を厚い服の下に着込んだしっかりとしたズボンとブーツを身に着けたとても大きな男の人達が前にいました、どの人達も濃いお鬚で手には大きな剣や盾、丸い盾があります。
 その人達を見てです、教授はナターシャ達にお話しました。
「この人達がだよ」
「バイキングですよね」
「そう、オズの世界にもね」
「バイキングがいてですね」
「こうして会えるんだよ」
「そうなんですね、それにしても大きいですね」
 ナターシャは思わず見上げてしまいました、子供から見てバイキングの人達はそこまでの大きさだからです。
「二メートル位ありますね」
「ええ、そうね」
 アン王女が応えました。
「私から見てもね」
「ずっとですよね」
「大きいから。貴女達から見たら」
「もっとです」 
 それこそというのです。
「大きく感じます」
「そうよね、やっぱり」
「大きいって聞いてましたけれど」
 神宝も見上げています、バイキングの人達を。
「本当に凄いですね」
「フットボーラーみたいですね」
 ジョージはアメフトの選手を思い出しました。
「どの人も」
「逞しい身体ですし」
 カルロスは背以外のものも見ています。
「余計に大きく見えますね」
「とても強そうですね」
 恵梨香はこのことを直感しました。
「本当に」
「実際にこの人達強いわよ」
 このことは事実だとです、王女は五人に答えました。
「力持ちでね」
「ははは、力には自信があるよ」
 バイキングの先頭に立っている初老の人が笑って言ってきました、青い目で金色のお鬚が顔の下半分全体を覆っています。この人もとても大きく逞しい身体つきです。
「何しろいつも鍛えているからね」
「だからですか」
「剣や斧の鍛錬をして船を漕いで操って」
「そうしたことをされてですか」
「畑や牧場も持っているしね」
「バイキングの村で、ですね」
「わし等はいつも船に乗っている訳じゃないんだ」
 バイキングの人はナターシャに答えました。
「確かにここで渡し守をしたりオズの国中を冒険するがね」
「そこで商いもしてですね」
「財宝を手に入れたりもしているよ」
「そうしていますね」
「外の世界のバイキングは戦うがね」
 かつての北欧のバイキングの人達はです。
「オズの国では戦いがないからね」
「だからですね」
「そんなことはしないでね」
 それでというのです。
「商いや冒険をね」
「されていますね」
「船に乗ってね、けれど普段はね」
「剣や斧の鍛錬をされて」
「そして畑や牧場でだよ」
「力仕事もされていて」
「それでだよ」
 そうしたことをしていてというのです。
「こうした体格になるのだよ」
「そうですか」
「そしてだよ」
 バイキングの人はナターシャ達にさらにお話しました。
「食べものも」
「そちらもですね」
「わし等はとても沢山食べるからね」
「あの、羊一頭とか林檎を木一本とか」
「一日にそこまで食べないがね」
「それでもですか」
「普通の人よりも食べる量はずっと多いね」
「やっぱりそうなんですね」
「では渡し守の前に」
 バイキングの人は自分からお話しました。
「食べようか」
「そのお食事をですか」
「今から」
 こう言ってそうしてでした。
 バイキングの人達はお昼ご飯を出してきました、とんでもない量の牛乳やビールが入った水瓶が出て来て。
 茹でられた羊肉にソーセージの山、茹でられたジャガイモがどさりとあって生トマトも凄い量です。林檎や苺もこれでもかとあります。
 その量を見てです、モジャボロは思わずこう言いました。
「凄いね、村一つ分はね」
「他の人の村ではだね」
「普通にあるね」
「それも大きな」
「それだけあるよ」
 こうバイキングの人に答えるのでした。
「これは」
「ははは、これ位食べてね」
「そうしてだね」
「わし等は満腹するのだよ」
「一人辺り十人前はあるかな」
 モジャボロはその量について具体的に言いました。
「これは」
「十人前ではきかないね」
 教授もその量について言います。
「十五人前はね」
「あるかな」
「バイキングの人達と私達を入れてね」
 こうモジャボロにお話します。
「本当に」
「それだけあるかな」
「うん、これだけ食べるなんてね」
「いやいや、これより少ないとわし等は駄目なのだよ」
 バイキングの人達はこう言うのでした。
「本当に」
「私達の十五人前はだね」
「必要で」
 それでというのです。
「今のお昼も晩も勿論朝も」
「食べるんだね」
「わし等の神トール神もかなり食べるしね」
「トール、雷神だね」
「農業の神でもあってね、オーディン神とも並ぶ偉大な神様だよ」
「そうだね、私もあの神様のことは知っているよ」
 教授も笑顔で応えます。
「本当に」
「そうだね」
「そう、そして」
 それでとです、さらにお話する教授でした。
「貴方達もだね」
「食べるよ、ではね」
「これからだね」
「皆で食べよう」
 こうして皆でバイキングのお食事を食べはじめました、羊肉は塩胡椒で味付けされてジャガイモの皮を剥いてその上にバターをたっぷりと塗って食べます。
 そこで、です。ナターシャはトマトを食べつつアン王女にこんなことを言いました。
「トマトやジャガイモは」
「何でも外の世界ではね」
「バイキングの人達は食べていなかったですね」
「そうらしいわね」
「あの人達の時代にはなくて」
 トマトやジャガイモはです。
「欧州には」
「あっちの大陸には行っていたそうだがね」 
 バイキングの先頭にいて皆とお話していた初老の人、スカディさんが答えました。
「おそらくジャガイモやトマトはね」
「食べてなかったですね」
「うん、若し食べていれば」
「欧州に伝えていましたね」
「バイキングがね」 
 そうしていたというのです。
「どうもそういったものがあった地域には行っていなくて」
「アメリカ大陸でも」
「そして若し行っていても」
「伝えることはですね」
「していなかった様だね、しかしね」
「ここはオズの国ですから」
「わし等も食べているよ」
 そのトマトやジャガイモをというのです。
「こうしてね」
「そうですよね」
「パンもいいがジャガイモもいいからね」
 スカディさんは茹でられたジャガイモを食べつつ言いました。
「だからよくこうして」
「召し上がられていますか」
「そうなのだよ、胡椒にしてもマスタードにしても」
 スカディさんは見ればソーセージにマスタードをたっぷりと付けています、そのうえで食べているのです。
「わし等もなかったら」
「お肉は、ですね」
「ちょっと無理だね」
「香辛料がないと」
「外の世界のバイキングの人達は殆ど使わなかったみたいだけれどね」
「当時胡椒は欧州では凄く貴重でしたから」
 神宝がジャガイモを食べつつお話しました。
「だからですね」
「胡椒一粒が金一粒で」
 ジョージもジャガイモを食べながら言います。
「持って帰ったら大儲け出来る位で」
「そこまでのものだったから」
 カルロスはソーセージを食べています、ただしマスタードは付けていません。
「バイキングの人達も殆ど食べられなかったんだね」
「私達にはわからないことだけれど」
 それでもとです、恵梨香も言いました。この娘もソーセージをマスタードなしで食べています。
「当時の欧州はそうだったのね」
「私にもわからないけれど」
 王女は羊肉、骨つきのそれを美味しく食べつつ言うのでした。
「外の世界の欧州って場所ではそうだったのね」
「うん、しかしね」
 スカディさんはまた答えました。
「ここはオズの国だからね」
「胡椒もあって」
「トマトやジャガイモもだよ」
「あるから」
「こうして皆で食べられるんだよ」
「そういうことね」
「さて、どんどん食べて」
 スカディさんはビールを木製のとても大きなジョッキで思い切り飲みました、そうしてから言うのでした。
「飲もうか」
「豪快にだね」
「メニューも豪快だね」
 スカディさんは今度はトマトを食べているモジャボロに応えました。
「見ての通り」
「うん、これが貴方達のお料理だね」
「その通りだよ、豪快に大量に食べる」
「それがバイキングだね」
「そうだよ、そして」
 さらにというのです。
「飲むこともだよ」
「豪快にだね」
「今はビールだけれどワインや蜜酒も飲むよ」
「大漁にだね」
「普通の飲みものなら牛乳も」
 見ればバイキングの人達の中にはそちらを大きなジョッキでどんどん飲んでいる人も多いです、こちらも凄い量を豪快に飲んでいます。
「飲むしね」
「そしてデザートもだね」
「そうだよ、あと今はお肉を食べているけれど」
 羊肉やソーセージをというのです。
「お魚も食べるよ」
「そうなんだね」
「鮭や鱒、鱈をよく食べるね」
 こうしたお魚をというのです。
「茹でたり焼いたり燻製にしてね」
「そうしてだね」
「食べているね」
「そうしているんだね」
「わしは鮭や鱈を一度に十尾は食べているよ」
 一度のお食事でというのです。
「いつもね」
「一度に十尾もとは」
 ナターシャも聞いて驚くことでした。
「本当に凄いですね」
「ははは、そうして食べて」
「そしてですか」
「この身体にもなるのだよ」
「物凄く大きくて逞しいお身体にですね」
「なるんだよ、だから君達もしっかり食べると」
 スカディさんはとても大きな羊肉にかぶりついてお肉を食い千切ってそれを食べながら言うのでした。
「わし等みたいな身体になるぞ」
「なれますか」
「何でも沢山食べるとな」
 そうすればというのです。
「しかも健康になるから」
「何でも沢山ですか」
「食べるんだ、いいな」
「わかりました」
 ナターシャはスカディさんの言葉に頷きました、そしてです。
 皆でご馳走になった後で向こう岸にまで船で乗せてもらって行きました、向こう岸に着くとそちらに降りてです。
 バイキングの人達と笑顔で手を振り合ってです、お別れした後で。
 王女は皆に黄色い煉瓦の道の上で言いました。
「あの人達がね」
「バイキングの人達ですね」
「オズの国の」
「海の冒険者」
「とても強くて逞しい」
「その人達ですね」
「そうよ、貴方達はまだ会っていなかったみたいだけれど」 
 それでもとです、王女はナターシャ達五人にお話しました。
「オズの国にはあの人達もいて」
「お会い出来て」
「それで、ですね」
「お話も出来て」
「一緒にお食事も出来て」
「船にも乗せてもらえますね」
「そうなのよ、オズの国ではね」
 このお伽の国ではというのです。
「近くにあの人達の村もあって」
「その村からですね」
「オズの国中を冒険しているんですね」
「川も海も」
「そうして普段はその村で暮らしている」
「そうされていますか」
「そうなのよ、ただ戦わないから」
 このことはないというのです。
「乱暴ではないからね」
「そうですね、豪快な人達でしたが」
 それでもとです、ナターシャは王女に応えました。
「それでもでしたね」
「優しい人達だったわね」
「私達にも」
「そうよ、だからね」
「それで、ですね」
「また機会があれば」
 その時にというのです。
「あの人達とね」
「お会いして」
「楽しみましょう」
「わかりました」
「是非ね、オズの国の海や川にいたら」
「お会いすることもですね」
「あるわよ、オズの国をそうした場所を使って移動しているから」
 船によってというのです。
「運がよかったらそうした場所でも会えるわ」
「そうですか」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「またね」
「お会いすれば」
「また楽しみましょう」
「そうさせてもらいます」
「では私達はね」
「これからですね」
「また冒険よ」 
 それに入ろうというのです。
「そうしましょう」
「そうですね、向こう岸に着きましたし」
「それならね」
「このままですね」
「クマセンターに向かいましょう」
 目的地であるそちらにというのです。
「そうしましょう」
「この道を通って」
「明日には温泉に着くし」
「今度は温泉ですね」
「そう、言ってたわね」
「バイキングの人達の渡し守と」
「温泉もってね」
 アン王女は今回の旅をはじめた時のことをここでもお話しました。
「言ってたでしょ」
「それで、ですね」
「温泉に行って」
 そしてというのです。
「そのうえでね」
「そちらも楽しみますね」
「そうしましょう、ただ」
「ただ?」
「本当に食べたわね」
 アンは向こう岸でのお食事のことも思い出して言うのでした。
「本当に」
「そのことですね」
「ええ、本当にね」
「そうですね、私達も皆」
「バイキングの人達と一緒に食べて」
「あの人達の食べっぷりに影響されましたね」
「そうだったわね、もう林檎なんて」 
 王女の大好物のこちらもというのです。
「一口で一個丸ごとね」
「食べる感じでしたね」
「あの食べっぷりを見ていたら」
「私達も、でしたね」
「凄かったわね」
「あれだけ食べたら」
 本当にとです、また言った王女でした。
「あそこまで大きくなることもね」
「わかりますね」
「そうよね」
「しかしあの大きさは」
 ここで教授が言うことはといいますと。
「全く以て凄かったね」
「教授がその目で見てもだね」
「本でも書いてあったけれど」
「本で読むこととだね」
「実際に読むことはまた違うからね」
 こうモジャボロにも応えるのでした。
「百聞は一見に如ずで」
「本で読んで知っても」
「その目で見て知るのとではだよ」
「また違っていて」
「目で見て本当に思ったよ」
「大きいとだね」
「最初に見た時からね、そしてね」
 今回もというのです。
「つくづく実感するよ」
「あの体格なら皆強いのも当然だね」
「うん、フットボールやラグビーをしても強いね」
「そのことも間違いないね」
「そうだよね」
「フットボールはオズの国でも盛んなのよね」
 アメリカンフットボールと聞いてです、王女はすぐに言いました。
「野球、ホッケー、バスケ、テニスと並んで」
「そう、特にフットボールとね」
「野球、ホッケー、バスケは」
「盛んだね」
「ラグビーやサッカーもあるけれど」
「やっぱりフットボールだね」
「そちらなのよね」
 このスポーツだというのです。
「それでバイキングの人達も」
「あのスポーツをするとね」
「強いでしょうね」
「あの体格だからね」
「フットボールは格闘技よ」
 王女はこうまで言いました。
「もうね」
「ラグビーもそうだけれどね」
「あそこまで格闘技と言っていいスポーツはそうはないわ」
「球技ではそうだね」
「あの人達はラグビーも強そうだけれど」
「フットボールをしても」
「相当な強さよ」
 そうであることは間違いないというのです。
「絶対に」
「ううむ、そう考えると」
 教授はアンのお話を聞いて言いました。
「彼等に勧めてみるべきかな」
「そうしたスポーツをしてみればって」
「そう、スポーツをすることはいいことであるし」
「それによね」
「強い人達が参加するとその人達と競争して」 
 そうしてというのです。
「競技全体が強くなるからね」
「だから参加して欲しいのね」
「是非ね、では温泉にも入って」
「そうしてね」
「旅をさらに楽しんでいこう」
「是非ね」
 二人でこうしたお話もしてでした。
 そのうえで皆でクマセンターに向かうのでした、クマセンターへの道の先は晴れ渡っていて何の心配もない感じでした。
 ですがその道を見て王女は言うのでした。
「オズの国は安全でもね」
「それでもですね」
「そう、何があるかわからないから」
「いつも急に何かが起こりますよね」
「そうしたお国だから」
 それ故にというのです。
「そのことも頭に入れて」
「先に進んでいきますね」
「よくあることは」
 ナターシャにお話するのでした。
「短い旅の予定がね」
「物凄く長い旅になりますね」
「そうなるから」
 だからだというのです。
「何があってもね」
「驚かなくてですね」
「油断しないで」
「先に進んでいくべきですね」
「そうしましょう」
 こうしたこともお話して先に進みました、一行の楽しい旅は続くのでした。








▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る