『新オズのつぎはぎ娘』




                第七幕  二つ頭のドラゴン

 ドロシー達のお菓子の国を目指しての旅は続きます、その中で。
 ふとです、つぎはぎ娘はドロシーに言いました。
「何かね」
「何かっていうと」
「お天気よね」
「ええ、お空はね」
 ドロシーはお空を見上げて応えました、見れば快晴です。
「いつも通りね」
「確かにいいことだけれど」
 ドロシーの足元にいるトトがつぎはぎ娘にこう言いました。
「別にね」
「珍しいことじゃないっていうのね」
「オズの国は決まった時に雨が降るから」
「今は降らない時間ね」
「うん、だからね」 
 それでというのです。
「今晴れていてもね」
「別に言うことじゃないっていうのね」
「そう思ったけれど」
「いや、歌を思い付いたのよ」 
 つぎはぎ娘はトトに踊りつつお話しました。
「これがね」
「ああ、いつも通りに」
「そうなのよ」
「それで今から歌うんだ」
「そして踊ろうと思ってるけれど」
「じゃあそうしたら?」
 トトはつぎはぎ娘にこう返しました。
「君はそれが趣味だしね」
「もっと言えば生きがいよ」
「そうだよね、だったらね」
「そうしたらいいのね」
「別に誰も止めないし」
「悪いこともしていないわね」
「むしろ君の歌と踊りはね」
 トトはこのことは笑顔で言いました。
「人気があるし僕も好きだしね」
「楽しみにしてるのね」
「うん、だからね」
 それでというのです。
「そうしたいならね」
「やってみたらいいのね」
「今からでもね」
「じゃあね」
 つぎはぎ娘はトトの言葉を受けてでした。
 早速今自分達が歩いている煉瓦の道の上で歌って踊りました、つぎはぎ娘独特の明るい歌で跳んだり跳ねたりしています。
 その歌とダンスが終わってからです、つぎはぎ娘は皆に尋ねました。
「今回はどうだったかしら」
「うん、青空への賛歌だったね」 
 ジャックはつぎはぎ娘にこう答えました。
「今回は」
「ええ、青空を見て素敵だったからね」
「青空を讃えたんだね」
「奇麗なお空を見せてくれて有り難うってね」
 その様にというのです。
「歌ってね」
「踊ったんだね」
「そうだったのよ」
「ダンスの時の動きもよかったよ」
 かかしはそちらがいいとお話しました。
「君にしか出来ない動きでね」
「柔らかくてぴょんぴょんとしていて」
「うん、ポップでね」
「そして何度もくるくる回って」
「そのこともよかったよ」
「あたし身体の中に骨も筋肉もないから」
 ぬいぐるみの身体だからだというのです。
「どうも曲がるしね」
「そうだね」
「ぬいぐるみの曲がり方をするからね」 
 だからだというのです。
「踊りもよ」
「そうした動きが出来るね」
「そういうことよ」
「そうだね」
「あと身体を幾ら回しても目が回らないからね」
 樵はこのことについて言及しました。
「それも大きいね」
「ええ、あんた達もそうだけどね」
「そうだよ、君だけじゃなくてね」
「あんたもかかしさんもジャックも木挽きの馬もね」
「あとここにはいないけれどチクタクもだね」 
 彼もというのです。
「何度どれだけ回ってもね」
「目が回らないわね」
「だからもうくるくると動けるね」
「好きなだけね」
「そのことも君の踊りには大きいよ」
「君にしか出来ない踊りで」
 ジャックも言うのでした。
「オズの国でしか観られないね」
「あたしはオズの国の住人だしね」
「そうだね、僕このことでもね」
 ジャックはあらためて言いました。
「オズの国にいてよかったと思うよ」
「あたしのダンスを見られるから」
「そうだよ、歌もいいけれどね」
「ダンスがなのね」
「本当にいいよ」
「ぬいぐるみの身体でないと出来ない」
 木挽きの馬も言います、皆は歩くことを再開していてそのうえでお話をしています。歩きながらお話をしているのです。
「僕も無理だね」
「あんたも何も食べなくても休まなくてもいいけれどね」
「そうした身体だけれどね」
「そこはあたしと同じでも」
「うん、君の踊りはね」
「あたしにしか出来なくて」
「勿論僕にも無理だよ」
 そうだというのです。
「これがね」
「それでそのダンスを見られて」
「僕もジャックと同じ考えだよ」
「そうなのね」
「あと君は暗い曲は本当に歌わないね」
 このことは臆病ライオンが言いました。
「色々なジャンルの歌を歌ってもね」
「そしてダンスを踊ってもね」
「暗い曲はないね」
「だってあたしそうした曲性に合わないから」
 つぎはぎ娘は臆病ライオンに答えます、歩いているその時も動きはもう踊っているものになっています。
「だからね」
「それでだね」
「もう絶対にね」
「明るい曲だね」
「暗い曲なんて」
 それこそというのです。
「踊らないしね」
「歌わないね」
「何があってもね」
「君は本当に明るい性格だしね」
「オズの国は皆明るいけれど」
 それでもというのです。
「あたしは一番じゃないかしら」
「そうかも知れないね」 
 実際にとです、臆病ライオンは答えました。
「本当に」
「その自信はあるわ」
「そうだね」
「というかね」
 ここで言ったのは腹ペコタイガーでした。
「君が暗い曲を歌うとか」
「想像出来ないでしょ」
「全くね」
 それこそというのです。
「出来ないよ」
「そうよね」
「一体どんなものか」
 こうも言いました。
「果たして」
「あたし自身もよ」
「そうだよね」
「あたしが暗いなんてね」 
 それこそとです、つぎはぎ娘も言います。
「想像も出来ないわ」
「僕が腹ペコじゃないことと一緒にね」
「そうね」
「あたしは本当に暗いものがないわ」
「心の中にね」
「何一つとしてね」
「もう太陽みたいね」 
 ドロシーが笑顔で言いました。
「貴女の明るさは」
「そうよね」
「だから貴女の歌もね」
「ポップスでもロックでもジャズでもね」
「あとラップでもよね」
「明るいのよ」
「今の曲にしてもね、だから気持ちが落ち込む時は」
 その時はといいますと。
「貴女の曲は有り難いわ」
「そこまでのものなのね」
「本当にね、まあオズの国で気持ちが落ち込むことは」
「あるのかしら」
「ほんの少しね」
 ドロシーは答えました。
「あったりするのよ」
「そうなのね」
「けれどそうした時にね」
「あたしの曲を聴いたらなのね」
「それとダンスも観たらね」 
 それならというのです。
「明るい気持ちになるわ」
「成程ね」
「正直言って嬉しいわ」
「あたしの歌やダンスは」
「そこから思わないヒントを得たこともあるし」
「何についてのヒントかしら」
「政治でのね、オズマと一緒にマンチキンでのお祭りのことを考えていて」
 そうしたことがあってというのです、ドロシーはオズマと一緒にオズの国の政治全体を見ているのです。これも王女の務めです。
「そこでどんなお祭りにするか」
「そう考えていてなの」
「そこで貴女の踊りを観て」
 そしてというのです。
「ヒントを得たのよ」
「そうだったのよ」
「それでどんなお祭りにしたんですか?」
 カルロスはドロシーにこのことを聞きました。
「一体」
「お祭りって言っても色々ですし」 
 神宝も言います。
「具体的には何かですね」
「それじゃあどんなお祭りか」
 ナターシャはドロシーに尋ねました。
「一概には言えないですね」
「オズの国のお祭りも色々ですし」
 恵梨香は考えるお顔になっています、そのうえでの言葉です。
「果たしてどんなお祭りかわからないですし」
「それでどんなお祭りにしたんですか」
 ジョージもドロシーに尋ねました。
「つぎはぎ娘の踊りを見て」
「カーニバルにしたの」
 このお祭りにというのです。
「つぎはぎ娘の踊りがそんな感じだったから」
「あっ、カーニバルですか」
「あのお祭りですか」
「あのお祭りにされたんですか」
「オズの国でもやってますしね、カーニバル」
「それで、だったんですか」
「そういえばマンチキンではカーニバルしてないってなって」
 そうしたお話になってというのです。
「それでなのよ」
「そうだったんですね」
「よくわかりました」
「本当に踊りがヒントになりますね」
「そうしたこともありますね」
「面白いですね」
「本当にそうしたこともあるから」
 実際にと言うドロシーでした。
「いいのよ」
「あたしのダンスはそれだけのものがあるのよ」
 つぎはぎ娘はここでまた言いました。
「政治を決める位のね」
「そうなんだね、ただね」
 ジョージはここでつぎはぎ娘に言いました。
「君のダンスはアレンジしないとね」
「出来ないわね」
「僕達にはね」
「あたしの身体だけが踊れる踊りね」
「飛び跳ね方もくるくる回ることも」
「あと身体の曲げ方も」
「どんな身体が柔らかい人でもね」
 それでもというのです。
「出来ないよ」
「身体の中に骨があって」
「そうだよ、筋肉もあるしね」
「人間の身体は硬いのね」
「どうしてもね、それにね」
 ジョージはさらに言いました。
「身体全体のその柔らかさが違いからね」
「ぬいぐるみの身体とね」
「何度回っても目が回らないし」
「本当にいい身体ね」
 つぎはぎ娘は自分から言いました。
「あたしの身体は。食べることも飲むことも寝ることも必要ないし」
「食べたりすることはそれはそれで楽しいよ」
「あんた達いつもそう言うわね」
「実際のことだからね」
「そうなのね」
「そういえばもうお昼ね」
 ご飯のお話が出たところでドロシーは言いました。
「じゃあお昼にしましょう」
「そうだね、じゃあメニューは何かな」
「そうね、サンドイッチに」
 まずはこちらを挙げるのでした。
「それとフライドポテトにチキンナゲットに」
「ピクニックみたいだね」
「意識してるわ、あとはジュースに果物ね」
「その組み合わせでいくんだね」
「ええ、じゃあ皆でお昼にしましょう」
 こうお話してでした、ドロシーは実際にそうしたメニューを出しました。そうして皆で楽しく食べはじめますが。
 そこにした、急に。
 二十メートル位の大きさの黒い鱗に翼のドラゴンが出てきました、ただこのドラゴンは他のドラゴンと違い。
 頭が二つあります、それぞれの長い首の先にとても短い二本の角を生やしたドラゴンの頭がありますが。
 そのドラゴンを見てつぎはぎ娘は言いました。
「あんた誰?」
「ドラゴンのピーターだよ」
「宜しくね」 
 ドラゴンはつぎはぎ娘に二つの頭で答えました。
「この近くの沼地に住んでいるんだ」
「今は日課のお散歩中だよ」
「それであんたはつぎはぎ娘さんだね」
「噂は聞いてるよ」
「あたしのことは知ってるのね」
 つぎはぎ娘はピーターの言葉を聞いてこう返しました。
「あんたも」
「あんたは有名人だしね」
「僕も名前は聞いてるよ」
「そして他の一緒の人達もね」
「皆知ってるよ」
「会ったのははじめてでもね」
「よく知ってるよ」
 こう言うのでした。
「そっちの五人の子供達もね」
「聞いてるよ」
「そうなんだね」
 ジョージはピーターの言葉を聞いて言いました。
「僕達のことも知ってるんだ」
「君達もオズの国で有名だからね」
「僕でも知ってるよ」
「僕はこの辺りから外にはあまり出ないけれど」
「お話は聞いてるよ」
「そうなんだ、僕達も有名なんだ」
 ジョージは意外といったお顔で言いました。
「それはまた」
「だっていつもオズの国を冒険しているし」
「名誉市民なんて珍しいしね」
「それならね」
「よく知ってるよ」
「そうなんだね、今はじめて知ったよ」
 自分達が有名なことをというのです。
「そうだったんだ」
「ただ見たのははじめてだから」
「ここで会うとも思わなかったし」
「君達そんな顔だったんだね」
「それぞれね」
「白人もアジア系も黒人もいるね」
「色々だね」
 ピーターは二つの頭でこうも言いました。
「そこはオズの国だね」
「色々な人種の人がいることは」
「そうよね、オズの国は色々な人がいてね」
 ドロシーもこう言います。
「人種もね」
「色々だよね」
「白人だけじゃなくてね」
「アジア系も黒人もいて」
「人種も色々なんだよね」
「そうなのよね、最近じゃ中華街や日本街もあるし」
 ドロシーはそうした場所のことも思い出しました。
「オズの国も色々よ」
「ああ、日本街ね」
「あそこは面白いらしいね」
「日本のお城があるらしいね」
「とても立派な」
「そうよ、天守閣っていうものがあって」
 ドロシーはピーターに日本のお城にあるそちれのお話もしました。
「それがそのお城でも凄いのよ」
「一度行ってみたいね」
「是非ね」
「僕も旅行に行こうかな」
「そうしようかな」
「翼で何処でも行けるし」
「この辺りをお散歩するだけじゃなくてね」
 ドロシーの言葉を受けてでした、ピーターは二つの頭で言いました。頭は二つでも考えることは同じみたいです。
「日本街にも行って」
「他の場所にも行こうかな」
「そうしようかな」
「どうしようかな」
「じゃああたし達と一緒に来る?」
 つぎはぎ娘はピーターに提案しました。
「そうする?」
「一緒?」
「一緒にっていうと」
「あたし達今お菓子の国に向かって旅をしてるの」 
 つぎはぎ娘はピーターにこのこともお話しました。
「そうしてるの」
「そうなんだ」
「お菓子の国までなんだ」
「行く旅をしているんだ」
「それでその途中に僕と会ったんだね」
「そうよ、あんた今暇?」
 つぎはぎ娘はピーターにこうも尋ねました。
「暇だったら一緒にどう?」
「ああ、暇だよ」
「沼地で一匹暮らしだしね」
「これといってないよ」
「別にね」
「じゃあいいわね」
 それならとです、つぎはぎ娘はピーターのお話を聞いて言いました。
「あんたさえよかったらね」
「君達に同行していいんだ」
「一緒に冒険の旅に出ていいんだ」
「お菓子の国までね」
「じゃあね」
「僕も一緒にね」 
 是非にとお話してです、そしてでした。
 ピーターも一緒に行くことになりました、するとつぎはぎ娘は踊りながらこんなことを言いました。
「あんたの背中に皆で乗ってね」
「それでっていうんだ」
「僕の背中に乗って」
「お菓子の国まで飛んでいけば」
 そうしてというのです。
「一気にいけるわね」
「そうね」
 ドロシーはつぎはぎ娘の言葉に応えました。
「そうなるわね」
「いい考えでしょ」
「ええ、ただね」
「ただっていうと」
「いえ、ここからお菓子の国までね」
 それこそというのです。
「歩いていってそののりをね」
「楽しむつもりだったの」
「そうだったけれど」
「じゃあ僕も歩くよ」
「一緒に歩いていくよ」
 ピーターはドロシーにこう返しました。
「そうさせてもらうよ」
「それでいいよね」
「ええ、ただ貴方はその大きさだと」
「実は僕は小さくなれるから」
「そのことは気にしないでね」 
 ピーターはドロシーに答えました。
「僕の特別な力でね」
「昔西の魔女に多き過ぎるから邪魔だってかけられた魔法だけれど」
「身体を小さくも出来るんだ」
「念じれば大きくもなれるよ」
「そうも出来るからね」
「あの魔女がそんなことしたんだ」
 トトはピーターの言葉に目を丸くさせて言いました。
「そうだったんだ」
「本当はずっと小さくさせるつもりだったみたいだよ」
「実はね」
「けれどドラゴンの身体には魔法への耐性があって」
「それでなんだ」
「小さくなる魔法をかけらても」
「戻ることも出来るんだ」
 そうだというのです。
「それで魔女も悔しがったけれど」
「僕としてはよかったよ」
「あの魔女は意地悪だったからね」
 トトも覚えていることでした。
「ずっとそうするつもりだったね」
「そうだったんだ」
「自分でも言ってたよ」
「それがね」
「自由に身体の大きさを変えられる様になったって」
「もう地団駄踏んでたよ」
「悔しくて仕方がないって」
 ピーターはトトに笑ってお話しました。
「これがね」
「その時がまた楽しかったよ」
「その光景見てみたかったよ」
 トトはそのお話を聞いて心から思いました。
「本当にね」
「けれどトト」
 そのトトにドロシーが言ってきました。
「もう西の魔女も東の魔女も反省してね」
「いい魔女になったからだね」
「あまりそうしたことを言うことはね」
「よくないね」
「人はその人の昔の悪いことは言うまでじゃないわ」
 ドロシーはこうも言うのでした。
「言っても仕方ないでしょ」
「そうだね、言われてみれば」
「今更どうにもならないし」
 昔の悪いことはです。
「反省しているならね」
「それでいいことだし」
「そう、だからね」 
 それでというのです。
「むしろいいことの方をね」
「言うべきだね」
「その方がずっといいわよ」
「そうなるね」
「だからね」
「西の魔女のこともだね」
「いいことを言いましょう」
 こちらをというのです。
「そうしましょう」
「じゃあこのお話はこれで終わって」
「そう、そしてね」
 ドロシーはピーターを見てトトに言いました。
「ピーターのことだけれど」
「僕のだね」
「そうだね」
「大きさを変えられるのよね」
「皆位の大きさか今の大きさのどちらかにね」
「それで僕は普通に歩くことも出来るから」
 飛ぶだけでなくというのです。
「今そうしているみたいにね」
「出来るよ」
「それでよね」
「そう、だからね」 
「しようと思えば」
 それ故にというのです。
「皆と一緒に冒険も出来るよ」
「普通にね」
「それじゃあね」
「今からだね」
「僕も」
「ええ、沼地は何時でも戻れるのよね」
 ピーターに彼のお家のことも尋ねました。
「そうよね」
「住んでいるのは僕だけだしね」
「家族もいないし」
「それでなのね」
「家具も何時でも使えるし」 
 沼地の中のそちらもというのです。
「だからね」
「何時でも戻れるから」
「僕の好きな時に」
「うん、それじゃあね」
「これからだね」
「僕も」
「一緒に行きましょう」
 こうお話してでした。
 一行はピーターも昼食の場に入れて彼とも一緒に食べてです、お食事の後で冒険の旅を再開しました。その中で。
 ふとです、臆病ライオンは自分と同じ位の大きさになって皆と一緒に歩いているピーターに言いました。
「君匂わないね」
「っていうと」
「どうしたのかな」
「沼の匂いがしないね」
「泥のだね」
「うん、むしろお池の匂いがするよ」
 こう言うのでした。
「君からは」
「それはもうわかってるよ」
「沼といってもオズの国の沼だからね」
「ああ、泥もだね」 
 臆病ライオンは言われて気付きました。
「別にね」
「悪い匂いはしないよ」
「無臭かいい匂いだよ」
「そうだったね」
「それで僕のお家は沼地の中にある洞窟で」
「奇麗なね」
 そこにお家があるというのです。
「そこはお水もなくてね」
「凄く広いんだ」
「その中で暮らしているんだ」
「快適にね」
「寝る時はいつもそこだよ」
「そして二つの頭で食べて飲んでいるんだね」
 こう言ったのは腹ペコタイガーでした。
「他のドラゴンより食べる量は二倍かな」
「いや、お口は二つだけれど」
「胃は一つだから」
 ピーターは腹ペコタイガーに二つの頭で答えました。
「だからね」
「他のドラゴンと食べる量は同じだよ」
「頭が二つあってもね」
「そこは変わらないんだ」
「そうなんだ、お口が二つあるから」 
 それでとです、腹ペコタイガーはピーターに言いました。
「食べる量も二倍と思ったよ」
「それが違うんだよね」
「これがね」
「本当に胃は一つだから」
「それだと食べる量は同じだよ」
「そうだね、しかしね」
 ここで言ったのはかかしでした。
「オズの国にはドラゴンもいるけれど」
「それでもだね」
「二つ頭のドラゴンはだね」
「結構珍しいね」
 こう言うのでした。
「ヒドラならともかく」
「僕はブラックドラゴンだよ」
「この鱗の色を見ればわかるよね」
「うん、君はブラックドラゴンだよ」
 かかしもその通りだと答えます。
「紛れもなくね」
「沼地に住んでいるしね」
「吐く息も強酸だしね」
「間違いないよ」
「オズの国のドラゴンは種類も多くてね」
 樵も言ってきます。
「色の名前が付いたドラゴンの種類もあるね」
「レッド、ブルー、イエロー、グリーン、パープル、グレー、ホワイトってね」
「あとブロンズ、ブロス、カッパー、シルバー、ゴールド、プラチナってね」
「そして僕みたいなブラックドラゴン」
「それぞれいるね」
「そうだね、本当に色々で」
 樵はさらに言います。
「そこにヒドラや他の種類のドラゴン、東洋の龍もいるね」
「最近はね」
「龍もいるね」
 ピーターもその通りと頷きます。
「赤龍、黄龍、白龍、黒龍」
「金龍、銀龍ってね」
「他には八岐大蛇もいるよね」
「こっちは日本だったかな」
「それに海にはヨルムンガルドやリバイアサンがいて」
 樵は何処か上機嫌になっていて言いました。
「オズの国のドラゴンの主というと」
「青龍様だよ」
「マンチキンの国におられるね」
「もうあの方はね」
「僕達ドラゴンの棟梁様だよ」
「そうだね、彼はね」 
 まさにと言う樵でした。
「オズの国のドラゴンの棟梁だね」
「その通りだよ」
「あんな立派な方はおられないよ」
「そういえば昔のオズの国には青龍さんいなかったね」
 ジャックはここでこのことを思い出しました。
「そういえば」
「うん、昔はね」
「オズの国にはあの方はおられなかったよ」
 ピーターもその通りだと答えます。
「けれどオズの国もいつも変わるから」
「外の世界のアメリカの影響を受けるから」
「それでだよ」
「あの方がオズの国に来られたんだよ」
「アメリカに中国系の人と中国の文化も入って」
 ジャックは考える声で言うのでした。
「それでだね」
「そう、青龍様も来られて」
「オズの国のドラゴンの棟梁になられたんだ」
「お陰で僕達ドラゴンもまとまってるし」
「本当に有り難いよ」
「その青龍さんは四霊獣の一柱で」
 木挽きの馬も言ってきました。
「東を司っているね」
「オズの国のね」
「つまりマンチキンの国のね」
「西のウィンキーは白虎、南のマンチキンは朱雀で北のギリキンは玄武だね」
「そして真ん中、都は麒麟様だよ」
「あの方がおられるよ」
「本当に中国のものも入ってるね、そういえば」
 馬はさらに言いました。
「僕もだけれど干支もあるね」
「そうそう、十二のね」
「龍、つまりドラゴンも入っていてね」
「そういえば君も入っているね」
「馬もね」
「そうなんだよね、本当に変わったよ」
 オズの国もとです、木挽きの馬車は言いました。
「中国や日本の文化も入ったしね」
「そうだよね」
「僕もそう思うよ」
「オズマ姫も主になられたし」
「どんどん変わっていってるね」
「あれっ、オズマ姫の名前が出たけれど」
 神宝はピーターの今の発言にふと気付きました。
「ピーターさんってひょっとして」
「オズマ姫がオズの国の主になる前から生きているのかしら」
 ナターシャもこう思いました。
「まさか」
「そういえばかかしさんも樵さんもだし」
 カルロスもこのことに気付きました。
「だとしたら」
「ピーターさんがそうでもね」
 恵梨香は皆に言いました。
「不思議じゃないわね」
「オズの国は誰も死なないしドラゴンは昔からいる種族だし」
 ジョージは二つのことから考えました。
「その頃からいて当然かな」
「うん、僕もかなり長く生きているよ」
「ここにいる人達よりずっと長くね」
 ピーターはジョージに答えました。
「それこそね」
「実は西の国の魔女と同じ位なんだ」
「あの魔女が生まれた時僕は卵から出たんだ」
「その頃からいるよ」
「そうだとすると長いね、しかしね」
 ここでまた言うジョージでした。
「オズの国でも頭が二つのドラゴンは珍しいんだね」
「今かかしさんが言った通りにね」
「そうなんだよね」
 ピーターもそうだと答えます。
「これがね」
「僕も言われるまで知らなかったけれど」
「実はね」
「そうなんだよね」
「そうだね、頭が沢山あるドラゴンは」
 それはといいますと。
「ヒドラだね」
「そうよ、ヒドラの頭は幾つもあるのよ」
 ドロシーが答えました。
「九つあるのが普通でね」
「九つですか」
「そう、そしてね」 
 それでというのです。
「普通のドラゴンの頭は一つよ」
「あくまで、ですね」
「そうなの、けれどね」
「ピーターさんについては」
「本当に珍しいことに」
 まさにというのです。
「頭が二つあるのよ」
「だから珍しいんですね」
「そうよ、ただね」
「ただ?」
「オズの国では頭が二つある蛇もいるし」
「外の世界でもいますけれど」
 ジョージは自分達の本来の世界のお話もしました。
「ですが長生き出来ないです」
「そうよね、けれどオズの国ではね」
「誰も死なないので」
「そうした蛇でもね」 
 長く生きられない様なものでもというのです、ドロシーはそのオズの国のお話をするのでした。それも真剣に。
「ずっと生きられるのよ」
「そのことが素敵ですね」
「あと色が白くて青い目の猫でも」
「そうした猫でもですか」
「普通に目が見えるし」
「そういう猫は確か」
「外の世界では目が見えないそうね」
 ドロシーはこう言いました。
「確か」
「そうでしたね」
「けれどね」
「そうした猫もですね」
「普通にね」
「目が見えますか」
「オズの国はお伽の国だから」
 それ故にというのです。
「だからよ」
「そうしたところもいいですね」
「雄の三毛猫も結構いるし」
「あっ、そういえばね」
 ここでつぎはぎ娘が言いました。
「ニホン猫もオズの国に結構多いけれど」
「あの猫で三毛猫は実はね」
「雌ばかりよね」
「それで雄はね」
「凄く少ないのよね」
「そうなんだ」
 外の世界ではとです、ジョージはつぎはぎ娘に答えました。
「実は」
「そうなのね」
「けれどオズの国だと」
「普通にいるわよ」
 雄の三毛猫もというのです。
「というかあたしとしてはね」
「オズの国の人だから」
「雄の三毛猫は普通だけれど」
 それでもというのです。
「そこは違うのね」
「外の世界はね」
「成程ね、まあそのあたしから見ても」
 ここでつぎはぎ娘はピーターを見て言いました。
「二つ頭のドラゴンははじめてよ」
「そうなんだね」
「僕みたいなドラゴンは」
「ええ、ただあんた本当に小さくなったわね」
 今のピーターを見て言いました。
「そうなれるのね」
「だから西の魔女の魔法でね」
「そうなったんだよ」
「そして念じれば元の大きさになれるから」
「何の問題もないよ」
「そうよね、そんなあんたを見てね」
 それでと言うつぎはぎ娘でした。
「歌って踊りたくなったわ」
「あっ、君は歌が好きだったね」
「踊りもね」 
 ピーターはつぎはぎ娘のこのことについて言及しました。
「君はオズの国一のダンサーでね」
「歌手としても有名だね」
「時々パソコンやスマホで観てるけれど」
「凄いね」
「その歌とダンスを今から披露するわよ」
 つぎはぎ娘はピーターに上機嫌でお話しました。
「いいかしら」
「うん、是非ね」
「宜しく頼むよ」
「君の歌とダンスはその目で見たことなかったし」
「それじゃあね」
「あんたの曲を歌って踊るわね」
 その場で作詞作曲をしてダンスの振り付けも考えて踊ってというのです。
 そして実際にでした、つぎはぎ娘は。
 ピーターの歌を歌って踊りました、いつも通り彼女にしか踊れないダンスで歌も明るいものでした。
 そしてです、歌の後でピーターに尋ねました。
「どうだったかしら」
「うん、素晴らしかったよ」
「歌もダンスもね」
 ピーターの返事は拍手をせんばかりのものでした。
「しかも僕の為の曲だったし」
「そのことも嬉しいよ」
「作詞作曲してくれて」
「しかもダンスまで踊ってくれたからね」
「それは何よりよ、ただね」 
 ここでつぎはぎ娘はこんなことを言いました。
「あたし一体これまで何曲歌って踊ってるかしら」
「ええと、少し待ってね」
 ドロシーがスマホのネットでつぎはぎ娘の歌について調べて答えました。
「今で二九七八〇曲よ」
「それだけなの」
「ベーブ=ルースさんが外の世界におられた頃のヒット数の十倍位はね」
「歌ってるのね」
「そうなってるわ」
「そこまでなんて凄いね」
 ジョージはそのお話を聞いて驚きました、他の四人も一緒です。
「三万曲近くなんて」
「僕なんか一曲も無理だよ」
「僕もだよ」
「それが三千曲近くなんて」
「凄いわ」
「そこまで7歌ってたのね」
 自覚していない返事でした、つぎはぎ娘のそれは。
「そうだったのね」
「よくそこまで歌えるね」
「百年位歌ってたら普通じゃないの?」
「普通じゃないと思うよ」
「そうなのね」
「そして別に何とも思ってないね、君は」
「だってあたしは普通に歌うから」
 そして踊るというのです。
「毎日ね、だからね」
「三万曲位はなんだ」
「何でもなくね」 
 それこそというのです。
「やってるでしょうし数を誇ってないから」
「そうなんだ」
「好きで歌って踊ってるから」
 それだけだからだというのです。
「数を聴いてもふうん、でね」
「終わりなんだ」
「ええ、ただ今の曲もネットにあげたから」
 それでというのです。
「皆に観て聴いてもらうわね」
「僕についての曲がそうなんてね」
「嬉しいね」
 ピーターはここでまた笑顔になりました。
「それじゃあね」
「僕も視聴するね」
「是非ね、それとね」
 さらに言うつぎはぎ娘でした。
「あたしこの旅の間もどんどん歌って踊るから」
「その歌とダンスもだね」
「僕は見ればいいんだね」
「そうよ、どんどん見てね」
 まさにというのです。
「そうしてね」
「是非ね」
「楽しませてもらうよ」
「あたしはその気になれば」
 その時にはというのです。
「何時でも歌って踊れるからね」
「じゃあね」
「期待しているよ」
「期待、希望、夢はいつもオズの国にあるものよ」 
 それこそとです、つぎはぎ娘は少し回りながらピーターに答えました。その声は軽やかなものです。
「だから期待していてね」
「そうさせてもらうね」
「本当にね」
 ピーターはつぎはぎ娘に笑顔で応えました、そうしてです。
 皆と一緒の旅を楽しむのでした、彼のはじめての旅は楽しくはじまりました。








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