『オズの木挽きの馬』




               第三幕  からくり仕掛けの迷路

 一行は黄色い煉瓦の道を進んでいきます、その中で。
 グリンダは皆にこう言いました。
「もう少し行ったら面白い場所に着くわ」
「面白い場所?」
「ええ、迷路にね」
 そこにというのです。
「着くわ」
「迷路なんだ」
「オズの国は多いわね」
「それはね」 
 木挽きの馬はグリンダに答えました。
「そうだね」
「それでなの」
「これから行く先になんだ」
「迷路が出来てね」
「その迷路に入ることにもなるんだ」
「ええ、ただ特別な迷路だから」
 グリンダはこうも言いました。
「中に入ったら皆はぐれない様に注意してね」
「はぐれたらどうなるのかな」 
 木挽きの馬はグリンダに尋ねました。
「一体」
「その時は出られなくなるかも知れないから」
「だからなんだ」
「かなり特別な迷路だから」
「オズの国の迷路の中でもだね」
「そう、だからね」 
 それでというのです。
「気をつけてね」
「わかったよ、はぐれないことだね」
「オズの国の忍者の人達が作った迷路なの」
「忍者の人達がなんだ」
「そう、作ったの」
 そうだというのです。
「あの人達がね」
「忍者っていうと」 
 忍者についてです、ガラスの猫は言いました。
「この旅の間お話に出ている」
「うん、あの面白い人達だね」
「そうよね」
「忍術を使うね」 
 木挽きの馬はガラスの猫に答えました。
「その人達だね」
「あの人達が作った迷路ね」
「一体どんな迷路か」
「一度見てみたいわね」
「忍者の迷路っていうとね」 
 モジャボロも言ってきました。
「忍者屋敷みたいなのかな」
「ああ、忍者の人達が住むお家で」
 弟さんはお兄さんに応えました。
「それでだね」
「中に色々な仕掛けがあるね」
「面白いお屋敷だね」
「秘密の抜け道とかある」
「そうした場所だね」
「じゃあそうした場所かな」
 また木挽きの馬が言いました。
「その迷路は」
「忍者屋敷なら」
 忍者のお国の日本出身の恵梨香が言ってきました。
「私も知ってるけれど」
「恵梨香は行ったことがあるんだね」
「伊賀に忍者屋敷があるから」
「それでだね」
「伊賀に行った時にね」 
 恵梨香は木挽きの馬にもお話しました。
「ちゃんとね」
「行ったことがあるんだね」
「ええ、中に色々な仕掛けがあってね」
「面白いんだね」
「そうした場所よ」
「若し忍者屋敷が迷路なら」
 木挽きの馬は恵梨香に言いました。
「恵梨香が知っているから」
「だからっていうの」
「そうなら色々と教えてくれるかな」
「私でよかったら」
「宜しく頼むよ」
「そうさせてもらうわね」
 恵梨香もこう答えました。
「その時は」
「それじゃあね」 
「ええ、忍者屋敷よ」
 グリンダも笑顔で答えました。
「実際にね」
「そうなんですか」
「皆あまりにも変わった、独特な場所でね」
「出ることにですか」
「苦労しているの」
「そうなんですね」
「お侍さんやお公家さんのお屋敷とも違うから」
 だからというのです。
「苦労しているの」
「そうなんですね」
「私も忍者のことは不思議だと思っているわ」
「グリンダさんもですか」
「この世のものでない様な」
 そこまでというのです。
「不思議に思っているわ」
「外の世界の忍者は別に」
 恵梨香はグリンダに答えました。
「運動神経や工夫した道具を使うもので」
「おかしくないのね」
「はい」
 これといってというのです。
「その実は」
「そうよね」
「オズの世界の忍者は知らないですが」
「オズの国の忍者は外の世界の忍者と違うね」
 ジョージも言ってきました。
「やっぱり」
「外の世界は外の世界でね」 
 神宝も言ってきました。
「オズの国はオズの国だから」
「オズの国はお伽の国よ」 
 ナターシャはこのことを指摘しました。
「それなら忍者もお伽の国の忍者ね」
「実際に漫画やゲームみたいなことをしても」 
 カルロスは言いました。
「不思議じゃないね」
「オズの国はそうした国だから」
 それでと言うモジャボロでした。
「忍者も不思議だろうね」
「だとしたら」
 恵梨香は皆の言葉を聞いて言いました。
「水蜘蛛の術とか壁歩きの術とか蝦蟇を操ったり変身したりとか」
「そうした忍術もだね」
「使えるんでしょうか」
「そうかも知れないね」
「私達が生まれるずっと前の漫画ですと」
 恵梨香はそちらの作品のお話をしました。
「もう忍術は魔法みたいなんですよ」
「変身したりするのね」
「分身も普通にしますし」
 恵梨香はその魔法を使うグリンダに答えました。
「物凄いんですよ」
「そうなのね」
「何でも変身したりして」
「それは凄いわね」
「そんな忍者でしょうか」
「聞くところによると凄いけれど」
 それでもとです、グリンダは恵梨香に答えました。
「別にね」
「お会いしたことは」
「ないの」
「そうですか」
「カドリングにもいるけれど」 
 それでもというのです。
「お話が聞いてもね」
「お会いしたことはないですか」
「そうなの」
「そうですか」
「だからね」 
 それでというのです。
「今度ね」
「お会いしたいですか」
「そう思っているわ」
「じゃあ今回の旅で機会があれば」
「会いたいわ」
 実際にというのです。
「私もね」
「そうなんですね」
「お話は聞いていても」
 それでもというのです。
「実際にこの目で見てみないとね」
「わからないですか」
「本当にわかったことにならないから」
 だからだというのです。
「是非ね」
「お会いしたいんですね」
「ええ、そうよ」
 本当にというのです。
「私もね」
「そうですか」
「ではね」
「これからですね」
「まずは迷路に行きましょう」
 こう言ってでした。
 皆はグリンダに案内されて先に進みました、するとそこに和風の巨大なお屋敷がありました。恵梨香はそのお屋敷を見て言いました。
「これはやっぱり」
「忍者屋敷かな」
「間違いないわ」
 恵梨香は木挽きの馬に答えました。
「もうね」
「そうなんだ」
「中に入ってみないとわからないけれど」
 詳しくはというのです。
「けれどね」
「外から見る限りはだね」
「これは忍者屋敷ね」
「そうした迷路なんだ」
「だからね」
 それでというのです。
「ひょっとしたら」
「恵梨香もわかるんだ」
「ええ、じゃあね」
「これからだね」
「中に入りましょう」
 こう言ってでした。
 皆は恵梨香の案内で、でした。
 皆は迷路の中に入りました、まずはお屋敷の中に入りました。まずはお庭でしたが。
 恵梨香はお庭の石達を見て言いました。
「迂闊に踏んだらね」
「何かあるのかな」
「ええ、何か仕掛けがあって」
 そうしてというのです。
「それに捕まったりするわ」
「そんな仕掛けあるんだ」
「忍者屋敷だと」
 それこそというのです。
「本当にね」
「仕掛けがあるんだ」
「だからね」
「踏んだらいけないんだ」
「ええ、気をつけて行きましょう」
「何ていうか」
 モジャボロはお庭の石、何気なくある様なそれを見て言いました。
「忍者は油断出来ないね」
「ですから」
「踏まないことだね」
「そうしていきましょう」
「お庭からそうなんて」 
 唸るモジャボロでした、そしてです。
 一行はそのまま進んでいきました、恵梨香の言う通りに。そうしてお家の扉を開けるその時にもでした。
 恵梨香は皆に言いました。
「若しかしたら」
「扉にもあるの?」
 今度はガラスの猫が尋ねました。
「まさかと思うけれど」
「ええ、若しかしたらね」
「扉でもなの」
「だから迂闊に開けないことよ」
「それが必要なのね」
「だからね」
 それでというのです。
「気をつけて開けましょう」
「それならね」
 ここでグリンダが言ってきました。
「一ついい方法があるわ」
「魔法ですか」
「罠をチェックして解除する魔法があるから」
 それでというのです。
「その魔法を使ってね」
「そうしてですね」
「進んでいけばいいわね」
「そうですね、それなら」
「ええ、扉を見ましょう」
「そして先もですね」
「罠をチェックしながら」
 そうしながらというのです。
「先に進んで行きましょう」
「慎重にですね」
「そうしていきましょう」
「わかりました」
「ではね」
 ここで、でした。
 グリンダは扉に魔法をかけました、すると。
「罠はないわね」
「そうですか」
「ええ、別にね」
「そうなんですね」
「それでお庭もね」
 恵梨香が警戒したそちらにもというのです。
「何もなかったわ」
「そうですか」
「罠はないわ」
「じゃあそのままですか」
「進めばいいかしら」
「そうなんですね、ただ」
 ここで恵梨香はこうも言いました。
「気になることがあります」
「忍者だからなのね」
「仕掛けがあるかも知れないです」
「一見すると普通の日本のお家の扉だけれど」
 木挽きの馬はその扉を見て言いました。
「ここにだね」
「何かね」
「からくりがだね」
「あってもね」
「おかしくないんだ」
「罠はなくても」
 それでもというのです。
「あるかも知れないわ」
「では一体どんなからくりがあるか」
「確かめてみましょう」
 こう言ってでした。
 そのうえで扉に手をかけると開きません、ですが。
 恵梨香はそれならと右の扉を右から左でなくでした。
 左の扉を左から右に開きました、すると扉はそちらから開きました。恵梨香はその扉を開いてからそれで言いました。
「こういうことね」
「日本のお家って普通は右から左だけれど」
「左から右になってるね」
「もうそこでからくりがあるのね」
「扉から」
「そうしたからくりで」
 それでというのです。
「いきなり惑わしているのね」
「そうだね」
「忍者らしくね」
「そうした工夫をしていて」
「お家にすぐに入られない様にしているね」
「そうね、そうして開け方がわからない間に」
 その間にというのです。
「逃げたりするのね」
「若し敵が来ても」
「それでもなんだね」
「忍者は戦うよりも隠れるか逃げる」
「だからだね」
「そうしているのね」
 恵梨香はジョージ達五人に言いました。
「そうなっているね」
「そうだね」
「細かい工夫だけれど」
「その工夫が大きいのね」
「逃げられる隙を作るんだ」
「そうでしょうね、じゃあね」
 それでというのでした。
「これから中に入るけれど」
「うん、からくりに気をつけて行こう」
 木挽きの馬がまた言ってでした。
 皆はお屋敷の中に入りました、中は武家屋敷に似ていますが。
「この中もだね」
「普通にね」 
 恵梨香は木挽きの馬に答えました。
「色々とね」
「仕掛けがあるんだね」
「そう思っていいわ」
「ちょっと見るとね」
「普通のお屋敷よね」
「日本のね」
「けれど」 
 それでもというのです。
「これがね」
「何かあるね」
「そう思ってね」
 それでというのです。
「いいと思うわ」
「じゃあ何があるか」
「今度はからくりを見破る眼鏡を出そうかしら」
 ここで言ってきたのはグリンダでした。
「どうかしら」
「そうですね、ただ」
「ただ?」
「それなら簡単にです」
 そのからくりがというのです。
「わかりますね」
「ええ、本当にね」
「それなら迷路もです」
 これもというのです。
「すぐに踏破出来ますね」
「そうね」
「それですと」
「そうね、面白くないわね」
 それならとです、グリンダも言いました。
「迷路は迷いながらね」
「そうして進みますね」
「そして踏破するのが醍醐味だから」
「罠がないなら」
 それならというのです。
「それならです」
「そうね、じゃあ」
「はい、どんなからくりがあるのか楽しみながら」
 そうしながらというのです。
「進みましょう」
「それじゃあね」
「これからね」
「わかりました」 
 こうお話してですた。
 皆は先に進んでいきました、罠のチェックはいつもしていましたがそれはありませんでした。そうしてです。
 恵梨香はあるつきあたりの壁を見て言いました。
「ここにまさか」
「壁になのね」
「あるかも」
「ここから先は行けないわよ」
 ガラスの猫は言いました。
「壁だから」
「そう思うわよね」
「それが違うの」
「ピラミッドも色々な仕掛けがあったけれど」
 エジプトの神々がいたあの場所もというのです。
「忍者屋敷も同じでしょ」
「そう言ってるわね、あんた」
「だからね」
「それでなの」
「例えばここを押したらね」
 言いつつです、恵梨香は。
 目の前の壁を押しました、するとです。
 その壁がくるりと回転ドアの様に一回転しました、恵梨香はその回転した壁を見てガラスの猫に言いました。
「あちら側に行けるわ」
「隠し通路があるの」
「そうなの、一見そこが行き止まりでも」
 それでもというのです。
「忍者屋敷だとね」
「行き止まりじゃないの」
「敵が攻めて来た時とかにね」
 忍者屋敷にというのです。
「的に見付からずに逃げる為にね」
「こうした仕掛けがあるの」
「そう、それでね」
「今はその先に進むべきなのね」
「隠し扉の先をね」
「そういうことね、わかったわ」
「それじゃあね」
 恵梨香はガラスの猫だけでなく他の皆にも言いました。
「これからね」
「ええ、先に行きましょう」
 グリンダが応えてでした。
 皆は回転する隠し扉を通ってそうして先に進みました、そして皆は新しい場所に入りましたがそこも武家屋敷の中で。
 通路とお部屋が幾つもありました、ですが出口はありません。ですが恵梨香は書斎に入って言いました。
「多分ここにね」
「また隠し通路があるんだ」
「ええ、よくあるパターンだと」
 木挽きの馬に応えつつでした。
 恵梨香は筆で漢字が書かれた掛け軸をめくるとでした、そこにです。
 人が通れる位の穴がありました、その穴を見付けて言いました。
「こうしてね」
「掛け軸の裏にだね」
「通り道があるの」
「これも忍者の隠し通路なんだ」
「逃げ道ね、やっぱりいざという時にね」
「仕掛けがしてあるんだ」
「そうなの」
 恵梨香は木挽きの馬ににこりと笑って答えました。
「こうしてね」
「色々やってるね」
「ええ、それにね」
 恵梨香はさらに言いました。
「今度もね」
「この穴を通ってだね」
「先に行きましょう」
「全く、普通の迷路じゃないね」
 木挽きの馬はこのことを実感して唸りました。
「この忍者屋敷は」
「そうでしょ、仕掛けがあって」
「うん、本当にね」
「こうした風に造っていてね」
「いざという時に逃げられる様にしているんだね」
「そう、それにね」
 恵梨香はさらにでした。
 畳をめくりました、するとそこは掘り炬燵に使う様に下が深くなっていました。恵梨香はそこを皆に見せてお話しました。
「敵が来ても畳の裏に隠れるとかね」
「ああ、忍術であったね」
「忍法畳返しだね」
「忍者漫画とかであるね」
「それで難を逃れるのよね」
「その為なの」 
 恵梨香は四人にお話しました。
「この下はね」
「成程ね」
「そこまで考えているんだね」
「忍者は隠れる者」
「だから忍ぶ者だし」
「こうした仕掛けも用意しているの」
 実際にというのです。
「忍者の人達はね」
「凄いね、一つのお部屋にこうした造りがあるんだね」
 モジャボロも感心しています。
「一緒に」
「はい、逃げる場所にです」
「隠れる場所も用意しているんだね」
「そうなんです」
「面白いね、じゃあね」
「はい、それではですね」
「穴を通ってね」
「先に、ですね」
「進んでいこうね」
 こうお話してでした、皆は今度はその穴を通ってです。
 書斎の向こうのお部屋に来ました、するとそこは茶室でこれまた行き止まりかと殆どの人が思いましたが。
 恵梨香は今度は茶室の中をじっくり調べてでした。
 回転してその奥に隠れる壁にでした。
 茶室の奥の壺が置かれている少し高くなっている場所の右の目立たない場所の回転する扉ちょっと見ると白い壁にしか見えないところにあるそれにでした。
 気付いて見付けて言いました。
「ここからでね」
「えっ、そこはわからないね」 
 今度は弟さんが言いました。
「流石に」
「そうですよね」
「幾ら何でもね」
「けれどなんです」
「それでもなんだね」
「はい、こうしてです」
「このお部屋にも通り道があるんだね」
「隠れる場所と」
 それと合わせてというのです。
「あります」
「そうなんだね」
「本当にこれが忍者屋敷で」
「色々な逃げ場所があるんだね」
「そうなんです」
 これがというのです。
「隠れる場所も」
「つくづく考えた仕掛けがあるね」
「そうですよね」
「それならだね」
「はい、この先に行きましょう」
 隠された扉のというのです、こうしてでした。
 皆はその先に進みました、すると。
 今度はお庭に出ました、ですが。
 お庭にも出口はありません、奇麗なお池と木々に岩そしてです。
 井戸がありました、今度ばかりはです。
 皆もこれは行き止まりだと思いました、ですが木挽きの馬は若しかしてと思って恵梨香に言いました。
「ここにもかな」
「きっと何かあるわ」
「それでだね」
「先に進めるわ」
「こんな場所でもなんだね」
「そうね、考えられるのは」
 恵梨香はお庭の中を見回して言いました。
「井戸ね」
「井戸なの」
「そう、多分井戸にね」
 そこにというのです。
「秘密があるわ」
「じゃあ井戸を見てみるんだね」
「そうしましょう」
「そう言えばもうオズの国に井戸はないわね」
 グリンダが言ってきました。
「普通はね」
「上水道があってですね」
「そして下水道もね」
 こちらもというのです。
「あってね」
「それで、ですね」
「もう井戸はね」
「なくなっていますね」
「もうあっても大抵はね」
「昔は使っていてもですね」
「もうね」
 それこそというのです。
「使わなくなっているわ」
「今はそうですね」
「このことから考えてみても」
「ここは井戸がですね」
「絶対に何かあるわ」
「それじゃあですね」
「井戸を見てみましょう」
 グリンダは恵梨香の言葉に頷きました、そうしてでした。
 皆は井戸の方に行きました、するとです。
 そこは空井戸でした、目のいいガラスの猫が仲をじっくりと覗き込むとその中は。
「何もないわ、そして先にね」
「何かありそうなのね」
「井戸の底の一方が少しだけ明るいから」
「じゃあそこからね」
「先に進めるかもね」
「じゃあ皆でね」
「先に進みましょう」 
 こうお話してでした。
 皆は井戸の縄を使って一人一人下りました。最初にスカートの恵梨香とナターシャ、そしてグリンダが下りてです。
 男性陣が下りてです、木挽きの馬にガラスの猫は。
 井戸の下を勢いよく下りて両端を撥ねてそうして底まで下りてです。
 そしてです、皆が下に下りるとでした。
 底の一方に通り道がありました、木挽きの馬はその道を見て言いました。
「この道を通ってね」
「そうしてね」
「先に進めばいいね」
「ええ、そうなるわね」
 恵梨香は木挽きの馬に答えました。
「ここは」
「そうだね」
「それじゃあね」
「先に進んでいけばいいね」
「ええ、じゃあ先に行きましょう」
「それで先に行ったら」
「若しかしてその先がね」
 まさにというのです。
「出口かも知れないわ」
「そうなんだね」
「だからね」
 それでというのです。
「先に進みましょう」
「それじゃあね」
 こうお話してでした。
 皆は一緒にでした、恵梨香の言葉を受けて井戸の底の地下道を通っていきました。暫く暗い道をグリンダの魔法の火を頼りに進んでいますと。
 外に出ました、そこは森の中でしたが恵梨香はそこに出てから皆に言いました。
「多分ね」
「ここがだね」
「出口だわ」
 恵梨香は木挽きの馬に笑顔で答えました。
「そう思うわ」
「そうだね、お屋敷から出たのは間違いないし」
「それじゃあね」
「その通りだよ」
 ここで、でした。皆に言ってくる声がしました。見れば。
 黒い犬がいました、引き締まった身体で狼を思わせます。その犬が皆の前にいて確かな声で言ってきました。
「ここが迷路の出口だよ」
「やっぱりそうなんだ」
「おめでとう、よく出られたね」
「全部この娘のお陰だよ」
 木挽きの馬は恵梨香を見つつ犬にお話しました。
「この娘が忍者屋敷のことをわかっていたからね」
「それでだね」
「わかったんだ」
「ああ、その娘は日本人かな」
「そうだよ」
「日本は忍者の国だからね」
「忍者屋敷のことをよくわかっていて」
 それでというのです。
「隠し扉とか掛け軸の穴とかね」
「全部わかっていたんだ」
「そうだったんだ」
 まさにというのです。
「それで僕達は先に進めたんだ」
「成程ね」
「お陰で助かったよ」
「それで貴方は誰かしら」
 恵梨香は犬に尋ねました。
「どうしてここにいるのかしら」
「僕は忍犬のハチというんだ」
「忍犬なの」
「あのお屋敷をご主人様から預かっているんだ」
「ご主人様?」
「真田信繁様だよ」
「真田様ってったら」
 そう聞いてでした、恵梨香は驚いた声で言いました。
「真田幸村さん?」
「そうだよ、あの十勇士を率いているね」
「あの人達もオズの国におられるのね」
「そうだよ、そしてね」
「幸村さんからなの」
「このお屋敷を預かっているんだ」 
 そうだというのです。
「実はね」
「そうなのね」
「真田様と十勇士の方々は別の場所におられてね」
「貴方はここを預かっているのね」
「うん、それで迷路の管理人でもあるんだ」
 犬は恵梨香に微笑んで答えました。
「実はね」
「そうなのね」
「凄い人が出て来たわね」
 流石のナターシャも驚いていました。
「真田幸村さんなんて」
「あの人までオズの国に来ていたんだ」
 神宝も驚いています。
「十勇士の人達も」
「いや、色々な人が来る国だけれど」
 ジョージも驚いたお顔です。
「あの人達までなんて」
「つくづくオズの国は凄い国だね」
 カルロスも驚きを隠せないお顔です。
「あの人達までなんて」
「そんなに凄い人達なんだ」
 木挽きの馬はジョージ達四人に尋ねました。
「その人達は」
「日本の歴史だとね」
「もうヒーローだよ」
「戦国時代の最後、大坂の陣で活躍したね」
「物凄く強い人達だよ」
 四人で木挽きの馬に答えます。
「残念ながら敗れてね」
「幸村さんは秦だって言われているよ」
「生き延びたってお話もあるけれど」
「とにかく物凄く強くてしかも立派な人達なのよ」
「殿程素晴らしい方はおられません」
 忍犬も言ってきました。
「まことに」
「そうなのね」
「我が主君ながら」
「とても素晴らしい方で」
「お仕えする私は果報者です」
 こうガラスの猫にも言います。
「まことに」
「そうなのね」
「十勇士の方々ともお話しています」
 その様にというのです。
「そうしています」
「そうなのね」
「日々武芸と学問に励まれお優しく義理堅く決して怒られず」
「ううん、立派な人なのはわかったわ」
「あまりにも立派な方なので」
 それでというのです。
「私もです」
「お仕えして嬉しいっていうのね」
「まことに」
「そうなのね」
「若しです」
 忍犬はさらに言いました。
「殿にお会いするなら」
「それならなのね」
「よくお話して下さい」
 是非にというのでした。
「皆様も」
「姥らしい人だから」
「左様です、武士であられますが忍の型でもあられ」
 そしてというのです。
「武芸全般を身に着けられて」
「学問もなのね」
「備えておられます」
「そしてお人柄もなの」
「見事な方なのです」
「欠点がないわね」
「そこまで言っていいかと」 
 忍犬もその通りだと答えます。
「外の世界では最後の最後に華々しい活躍をされたと聞いていますし」
「ええ、本当に素晴らしかったわ」
 恵梨香も言ってきました。
「大坂の陣ではね」
「もう誰にも出来ない様なことをして」
「歴史に残っているわ」
「左様ですね」
「確かに負けたけれど」
 それでもというのです。
「立派だったわ」
「そして今はです」
「こちらの世界にいるのね」
「十勇士の方々と共に」
「成程ね、ではね」
「これからですね」
「幸村さんとお会い出来たら」
 その時はというのです。
「お話させてもらうわ」
「それでは」
「その時にね」
「またいらして下さい」
「ええ、こちらこそね」
 恵梨香が応えてでした、そうしてです。
 皆は忍犬と別れてでした、あらためて牧場への道に入りました。木挽きの馬は道に戻ると恵梨香に言いました。
「今回は恵梨香のお陰だよ」
「忍者屋敷の迷路を出られたこと?」
「隠し扉とか全部見付けてくれたからね」
 だからだというのです。
「もうね」
「私のお陰だっていうのね」
「そうだよ」
 その通りだというのです。
「そう言うしかないよ」
「そうなのね」
「全部ね、というかね」
「というか?」
「恵梨香って本当に忍者じゃないの?」
「違うわよ」
 恵梨香は木挽きの馬の問いをすぐに否定しました。
「それはね」
「違うんだ」
「ええ、お父さんもお母さんもね」
「忍者じゃないんだ」
「ご先祖様が忍者ってお話もね」
 そうしたこともというのです。
「聞いていないわ」
「そうなんだ」
「こうしたことは本で読んでいたから」
「わかったんだ」
「忍者の本を読んでね」 
 そうしてというのです。
「わかったのよ」
「そうだったんだ」
「日本は忍者の国で」
「忍者の本も多いんだ」
「そうなの」
 実際にというのです。
「それで私もね」
「忍者の本を読んできたんだ」
「忍者の漫画も多いし」
「漫画も多いんだ」
「そう、だからね」 
「恵梨香は忍者に詳しいんだ」
「いえ、まだ詳しいっていう位にはね」
 そこまではというのです。
「いかないわ」
「そうなんだ」
「ええ、私よりずっと詳しい人がいるから」
 忍者についてというのです。
「まだね」
「あそこまでわかっていてもなんだ」
「もっと詳しい人がいるよ」
「もっと詳しいっていうと」
「色々な忍者の人の名前もどんな忍術も知っていて」
 そしてというのです。
「道具や歴史についてもね」
「詳しいんだ」
「そうした人がいるから」
「恵梨香はなんだ」
「まだまだよ」
「詳しくないんだ」
「そうなの」
 これがというのです。
「本当にね」
「忍者って奥が深いんだ」
「ええ、かなり深いわ」
 恵梨香も肯定しました。
「何かとね」
「ううん、また凄いものがあるね」
「けれどああした仕掛けとか工夫とか身体を使うもので」
「忍者の技とかはだね」
「本当に外の世界じゃ魔法じゃないから」
 恵梨香はこのことは断りました。
「本当にね」
「そこは違うんだね」
「オズの国はわからないけれど」 
 それでもというのです。
「外の国ではね」
「不思議でもないし」
「そう、魔法みたいでもないから」
「そこはわかっておくことだね」
「ええ、知識もね」
 忍者のそれについてもというのです。
「まだまだよ」
「そんなにないんだ」
「そうなのよ」
「今回かなり助かったけれど」
「それでもだからね」
「ですが知識が全くないよりはね」
 ここでモジャボロがまた言ってきました。
「ある程度でもあると」
「全く違うんですね」
「そうだよ」 
 そうだというのです。
「ですからこの度はで」
「私達は出られたんですね」
「そう、それと」
「それと?」
「若し迷って一時間程したら」
 その時はといいますと。
「あの仁賢が案内してです」
「出てもらっていたの」
「それも管理人の仕事だから」
 迷路のそれだというのです。
「そのことはね」
「するんですね」
「そうなっているよ」
「そうなんですね」
「そう、そして」
「迷って出られない人がいない様にしているんですね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「彼はね」
「それが迷路の管理人の仕事ですね」
「オズの国の迷路の管理人はね」
「皆そうしているんですね」
「そうだよ、だからどの迷路にも管理人がいるんだ」
 そうなっているというのです。
「オズマ姫が定めているんだ」
「皆が困らない様に」
「そうだよ、じゃあさらに先に進もうね」
「わかりました」 
 恵梨香はモジャボロの言葉に頷きました、そうしてさらに先に進むのでした。








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