『あひるのジマイマさんのお話』





 ジマイマさんは自分の巣、湖のほとりでご主人と子供達に囲まれながらご主人にこうしたことを言いました。
「この前ピーター君のお母さんに言われたのよ」
「あの兎の奥さんだね」
「そうなの、市場でね」
「何て言われたんだい?」
 ご主人は自分の羽毛の毛づくろいをしながら奥さんに言葉を返しました。
「それで」
「私達家鴨と鴨は親戚よね」
「ああ、そのことはわしも知ってるよ」
「そうよね、だからね」
「だから?」
「私達家鴨も普通に飛べるらしいのよ」
 言うのはこのことでした。
「そう出来るらしいのよ」
「へえ、わし等も飛べるんだな」
「そうみたいよ」
「わしは飛んだことはないけれどな」
「私もよ。子供達にも教えてないわ」 
 今度は子供達も見つつ言うのでした。
「家鴨は飛べないって思っていたから」
「そうだな、特にな」
「私達家鴨は飛ばなくてもね」
「不思議とやっていけているからな」
「ここにいれば」
 湖の近くにいればです。
「食べるものも一杯あるし」
「湖の中に入れば人間も狐も追って来ない」
「だからね」
 それで、なのです。ジマイマさん達もです。
「私達飛んだことはないし」
「困ったこともないな」
「そうよね」
「それに鴨さん達だってな」
 その親戚にあたる同じ湖に一杯いる鴨さん達にしてもというのです。
「あまりな」
「飛んでいないわよね」
「別にな」
 このこともお話するのでした。
「飛ぶことはあっても」
「そんなにね」
「隠れたら済むからな」
「お水の中も隠れられれば」
「水草の陰だってな」
 湖の周りに生い茂っているそうした場所もです。
「隠れられるからな」
「ここは隠れられる場所も多いから」
「飛ばなくてもな」
「いいのよね」
「飛ぶよりもだよ」
 むしろと言うご主人でした。
「泳ぐ方だよ」
「そう、泳げないとね」
「わし等は生きていけないからな」
「家鴨はね」
「だから子供達にもな」
「泳ぐことは教えているわ」
 このことは本当に真剣に教えています、家鴨だけに。
「真剣にね」
「わしもあんたもな」
「そうしないと餌を捕まえられなしし」
「逃げられないからな」
「そう、だからね」
 それこそ真剣になのです。
「私達も子供達に泳ぐことは教えてるのよ」
「熱心にな」
「だから泳ぐことの方が大事よ」
 それもずっと、というのです。
「私達の場合は」
「本当にそうだな」
「他のことは特にいいわ」
「そもそも兎さん達もな」
 ジマイマさんに家鴨も飛べるということを教えてくれたピーターラビットのお母さん達にしてもというのです。
「飛べないじゃないか」
「跳ねることは出来ても」
「それが無理だからな」
 それで、というのです。
「一緒じゃないか」
「言われてみるとそうなのよね」
「だからわしは別にいいよ」
「飛べなくても」
「泳げればな」
 まさにそれで、と言ってです。実際に飛ぶことについては興味を見せないのでした。それは結局のところジマイマさんも同じで。
 自分達家鴨が飛べると聞いても特に何も思いませんでした、それで巣から出て自分達と子供達の為の餌を探す時もです。
 飛ぶことはしませんでした、泳ぎながら湖の中の餌を探していました。そしてその時に鴨さん達と一緒になりました。
 そこで鴨さん達にもです、ピーターラビットのお母さんに言われたことをそのままお話しましたが鴨さん達もこう言うのでした。
「そうそう、飛ぶことよりもね」
「私達は泳げるかどうかよ」
「泳ぎが上手であることよ」
「そのことの方が大事よ」
 鴨さん達もこう言うのでした。
「さもないとね」
「飛べてもね」
「私達お空を飛んでる虫は食べないじゃない」
「殆どね」
「それで飛んでどうするの?」
 そのことに意味があるのかというのです。
「あまりないじゃない」
「鶏さん達だってそうじゃない」
 この鳥達もというのです。
「鶏さん達も飛べないよ」
「けれどそんなに気にしてないわよ」
「地面にあるものを見付けて食べてて」
「特に飛べなくてもね」
「困ってないわ」
「あの人達も隠れるから」
 危険が迫ればです。
「足も速いし」
「それならね」
「別に困らないでしょ」
「飛べなくても」
「鶏さん達もそうだし」
「だからね」
 自分達もというのです。
 それで、です。鴨さん達はジマイマさんにあらためて言いました。
「私達は飛べるけれどね」
「別にどうってことないわ、このことは」
「問題は泳ぎがどうかよ」
「私達にしてもね」
「大事なのはこのことよ」
 あくまでこちらが第一だというのです。
「泳げてもね」
「別にね」
「どうでもいいわ」
「このことは」
 こう言って全くどうでもいいと言ってでした、鴨さん達はジマイマさんと一緒に仲良く餌を食べて集めていました、そして。
 ジマイマさんは次の日市場でピーターのお母さんと一緒になりました、するとお母さんはジマイマさんにこうしたことを言いました。
「この前にお話したことだけれど」
「私達家鴨も飛べるということを」
「どう?飛んでみた?」
「いえ、全然よ」
 ジマイマさんはお母さんにあっさりと答えました。
「そうしたことはしていないわ」
「あら、どうしてなの?」
「飛べることがわかってもね」
 それでもだというのです。
「全然ね」
「飛んでみなかったのね」
「だって。私達は水辺にいるでしょ」
「ええ」
「それじゃあ泳げる方がずっと大事だから」
「人間や狐が来たら飛んで逃げないの?」
「湖の中に潜って隠れるわ」
 その時はそうするとです、ジマイマさんはお母さんにも言いました。
「その時はね」
「そうするのね」
「ええ、それに水草の陰にも隠れられるし」
「そういえばそうね、けれどね」
「けれど?」
「人間は猟銃も持ってるわよ」
 お母さんは怪訝なお顔でジマイマさんにこのことも言いました。
「だから猟銃から逃げる為にも」
「飛べた方がいいのね」
「そうじゃないかしら」
 こうジマイマさんに言うのでした、ですが。 
 ジマイマさんはそのお話を聞いてです、少し考えてからこうお母さんに返しました。
「あの、兎さん達は人間が猟銃を持っていたらどうするの?」
「その時は?」
「そう、どうするのかしら」
「隠れるわ」 
 お母さんはジマイマさんにすぐに答えました。
「だって。下手に動いたらね」
「それで人間に気付かれるわね」
「そう、それに物陰から出て人間に姿を見られたら」
 その時はというのです、まさに。
「狙われるから」
「そうなるわよね」
「うちの人だってね」 
 お母さんはここでご自身のご主人のことをお話しました。
「それでこの前ね」
「撃たれたのね」
「逃げようとして姿を見られて」
 その時にというのです。
「危うく当たるところだったわ」
「危なかったのね」
「本当にね」
「そうしたことを考えたらね」
「飛べるよりもなの」
「泳げるか」
「隠れられるかよ」
 そうしたことの方がいいというのです。
「私達にとってはね」
「そういえば私達も」
「そうでしょ、飛べなくてもでしょ」
「やっていけてるわ」
「だから私は泳げたらいいわ」
 家鴨にとってはというのです。
「その方がね」
「そうなるのね」
「ええ、本当にね」
「だから別にいいわ」
「そういうことね」
「下手に飛んだら」
 それこそとも言うジマイマさんでした。
「人間に見られて」
「そこを猟銃で狙われて」
「撃たれるかも知れないわ」
「それに対してお水の中に隠れたら」
 湖のその中にです。
「姿は見えないし」
「猟銃の弾も届かないわ」
「そっちの方がずっといいのね」
「私達にとっては」
「そういうことなのね」
「だから私は泳げる方がいいの」 
 またこう言うジマイマさんでした。
「ずっとね」
「そうなのね、わかったわ」
 お母さんもそのことを聞いて述べました。
「家鴨さん達はそうなのね」
「ええ、本当にね」
「私達もそうだしね」
 飛べない兎さん達もとです、お母さんはジマイマさんに言いました。
「飛べないけれど」
「ちゃんとやっていけてるわね」
「ええ、走って隠れてね」
「隠れることが一番いいかしら」
「私達にとってはね」
「その色なら隠れやすいし」
 野兎のその茶色の毛も見て言うのでした。
「いいじゃない」
「言われてみればそうね」
「兎さん達にしてもね」
「そうね、けれど家鴨さん達は」
「私達は?」
「白くて目立たない?」
「いえ、湖の中だと白くてもね」
 この色でもだというのです。
「水面が光を反射して銀色じゃない」
「あっ、銀色と白は似ている色だから」
「波が白くもなるから」
「目立たないのね」
「草陰にしても深いし。根の方は白いじゃない」
「だから白くてもなの」
「そう、大丈夫なのよ」
 目立たないというのです。
「ちゃんと保護色になるのよ」
「身体のことも」
「そう、普通にね」
「成程ね、私の心配は杞憂だったのかしら」
「杞憂になるかしら」
「別に心配しなくてもいいことだったのね」
 家鴨も飛べたら危険に遭わないということがです。
「そうなのね」
「そう思うわ、けれど」
「けれどなのね」
「そうなの、けれど有り難う」
「有り難うって?」
「私達が飛べることを教えてくれて」
 それで、というのです。
「面白いことがわかったわ」
「それでなのね」
「そう、覚えておくわ」
「じゃあいざとなったら」
「ひょっとしたらね」
 その時はというのです。
「飛ぶかも知れないわ」
「けれどその時までは」
「泳げれば充分だから」
「飛ばないのね」
「ええ、そうするわ」
 こう言ってでした、ジマイマさんはお母さんと一緒に買いものをするのでした。家鴨のその足をぺたぺたとさせながら。


ジマイマさんのお話   完


                             2014・11・14



今回はピーターのお母さんとアヒルのお母さんのお話か。
美姫 「飛べる事を知らないアヒルに教えてあげたのね」
とは言え、本人が言うように泳ぐ方が重要っぽいけれどな。
美姫 「確かにね」
母親同士、買い物しながらの井戸端会議とのほほんとした空気が感じられたな。
美姫 「内容は中々に厳しいものだったけれどね」
今回も楽しませてもらいました。
美姫 「ありがとうございます」



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