『ジェレミー=フィッシャーさんのお話』





 ヒキガエルのジェレミー=フィッシャーさんはお池の中で楽しく暮らしています。ですがこの日は少しご機嫌ななめでした。
 それは何故かというとです、お家で奥さんに言うのでした。
「お気に入りのレインコートがね」
「あのマッキントッシュね」
「もう古くなってきたから」
 だからというのです。
「いい加減買い換えたらと言われたんだよ」
「私言ってないわよ」
「君以外にも言う人はいるよ」
「ジャクソンさん?」
「そう、昨日彼と一緒に飲んでいたらね」
 その時にというのです。
「言われたんだよ」
「マッキントッシュが古くなったって」
「そうなんだ」
「そういえば買ってかなり経つわね」
「君と結婚する前に買ったからね」
「そう考えるとね」
「相当に古いよ」
 それこそというのです。
「考えてみればね」
「それでどうするの?」
 奥さんはご主人に尋ねました。
「それで」
「確かに古いしね」
 だからと答えたフィッシャーさんでした。
「それもね」
「ジャクソンさんの言うことも一理あるのね」
「そう考えるし」
「それじゃあ買い換えるのね」
「迷っているんだ」
「だからあまり機嫌がよくないのね」
「そうなんだ」
 こう奥さんに答えるのでした。
「実際にね」
「迷っていても仕方ないわよ」
 奥さんはご主人に言いました。
「そうしていてもね」
「その通りだね」
「買うなら買うで」
「買わないなら買わないだね」
「どちらかよ」
「それだけだね」
「あなたにとってはお気に入りよね」
 そのレインコートはというのです。
「そうよね」
「あれを着ていたから助かったんだよ」
「鱒に飲み込まれた時も」
「あの時は駄目だって思ったけれど」
「鱒がマッキントッシュを味わって」
「凄くまずかったそうでね」
 それでというのです。
「僕を吐き出したからね」
「それで助かったわね」
「九死に一生を得たよ」
 まさにでした、その時のフィッシャーさんは。
「そのことを考えたら」
「絶対によね」
「しかもデザイン自体がね」
「お気に入りよね」
「気に入ったから買ったんだよ」
 奥さんと結婚するその前にです。
「そしてずっと着ていてね」
「命も助けてもらって」
「余計に好きだよ」
「それじゃあ買い換えるにも」
「決断が必要だよ」
 本当にというのです。
「どうしたものかな」
「そこが難しいわね」
「全くだよ」
 心から言うフィッシャーさんでした。
「さて、どうしたものか」
「それならね」
「それなら?」
「一旦服屋さんに言ってね」
 奥さんはご主人に提案しました。
「相談してみたらどうかしら」
「買い換えるかそうしないか」
「どうするかね」
「そうだね、服は服屋さんだね」
「そうでしょ、だからね」
「まずは服屋さんに行く」
「そうしたらどうかしら」
「よし、それじゃあね」
 フィッシャーさんは奥さんの提案に頷きました、そしてでした。
 その日のお仕事にはです、レインコートを持って行ってです。その帰りに服屋さんに寄ってそのうえで、でした。
 服屋の親父であるウシガエルのブライアントさんにです、レインコートを差し出してから言うのでした。
「実は考えているんだ」
「どういったお考えですか?」
「レインコートを買い換えるかどうか」
 ブライアントさんにも言うのでした。
「そのことでね」
「ああ、そういうことですね」
「うん、どうしたものかな」
「そういえばこのレインコートは」
 ブライアントさんはレインコートをまじまじと見ながら言いました。
「古いマッキントッシュですね」
「そうだよね」
「何十年も来てます?」
「僕が結婚した時からだからね」
「それだけにですね」
「古いことは確かだよ」
 実際に何十年も着ているというのです。
「事実ね」
「そうですね」
「買い換えるべきかな」
「フィッシャーさんこのレインコートに愛着がありますよね」
 ここでブライアントさんはフィッシャーさんご自身に尋ねました。
「そうですよね」
「あっ、わかるかな」
「買い換えるって言われた時に」
 まさにその時にというのです。
「凄く残念そうですから」
「だからなんだ」
「はい、物凄く愛着があるって」
「わかったんだ」
「買い換えることについてですね」
「だから迷っているんだ」
 レインコートに愛着があるが故にというのです。
「凄くね」
「そうですよね」
「けれど何十年も着ていて」
「かなり古くなっていて」
「だからね」
「買い換えるべきかもって思っておられますね」
「そうなんだよ」
 悩んで困っているお顔での言葉です。
「どうしたものかな」
「そうですね、フィッシャーさんが愛着があるならです」
「買い換えるべきかな」
「このお店は仕立てもしてますよ」 
 ここでこう言ったブライアントさんでした。
「ですから」
「仕立ても?」
「はい、ですから」
「このコートをかい」
「仕立てなおされてはどうでしょうか」
 これが仕立て屋さんとしてのブライアントさんの提案でした。
「ここは」
「そうだね」 
 その提案を受けてです、ブライアントさんは。
 少し考えてからです、こう言いました。
「それでお金は」
「これ位です」
「あれっ、安いね」
「それで仕立てなおしてです」
 そのうえでというのです。
「あらためて着られますが」
「それはいいね」
「いい条件ですね」
「僕としてもね」
「仕立てなおしますと」
「新品同様に着られるしだね」
「これからもずっとです」
 お気に入りのそのレインコートをというのです。
「着られますし」
「いい条件だね」
「そうですね、では」
「そうすることにするよ」
 フィッシャーさんは微笑んで決断を出しました。
「仕立てなおすことにね」
「それじゃあ」
「うん、その様にね」 
 こうしてです、方針が決まりました。
 フィッシャーさんはレインコートを手渡してでした、そうしてそのうえでお金も払ってです。お家に帰ってからです。
 奥さんにです、事情をお話しました。すると奥さんはすぐにこう言いました。
「お金のことも聞いたけれど」
「いいことだね」
「ええ、本当にね」
 それこそというのでした。
「それならね」
「仕立てなおしでいいね」
「買い換えるよりも安いなんて」
「しかもだよ」
「新品同様になるのね」
「それならだよ」 
 フィッシャーさんも上機嫌で言います。
「これに越したことはないね」
「そうね、服屋さんが仕立ても出来て何よりよ」
「運がいいね」
「というかね」
「というか?」
「いえ、よくそんな安いお金で引き受けてくれたわね」
 服屋さんが仕立てをというのです。
「本当に」
「ああ、そのことだね」
「どうしてかしら」
「あのコートはあのお店で買ったんだ」
「そうだったの」
「君と結婚する前にね」 
 まさにその時にというのです。
「そしてその前から。今までね」
「あのお店の馴染みのお客さんだから」
「サービスしてくれたのかな」
「つまり」
 ここまで聞いてです、奥さんもです。
 事情を理解してです、ご主人に言いました。
「常連さんへのそれね」
「まさにサービスだね」
「そうしてもらったのよ」
「ううん、じゃあ今回は」
「馴染みのお店だからね」
「そういうことだね」
「そうね、そうしたお店があると」
 それこそと言う奥さんでした。
「こうした時は助かるわね」
「そうだね、馴染みのコートを買い換えずに済んで」
「それどころか安く仕立ててもらえる」
「それも馴染みのお店だからね」
「そうしたお店があるから」
 それ故にというのです。
「今回はそうなったわ」
「ううん、前はコートの味に助けられて」
「馴染みのお店に助けてもらって」
「あなたは何かと運がいいわね」
「うん、神様がもたらしてくれたのかな」
「そうかも知れないわね」
「では」
 フィッシャーさんは悟った顔で言いました。
「神様にその幸運を感謝しよう」
「それじゃあ二人で今から」
「いた、こうした時は子供達も呼んでだよ」
「家族でなのね」
「神様に感謝しよう」
「家族全員でお祈りを捧げるのね」
「そうするべきだけれどどうかな」
 奥さんに微笑んで言うのでした。
「ここは」
「そうね、それがいいわね」
「じゃあね」
「今から子供達を呼ぶわ」
「皆もう寝たかな」
「まだ晩御飯前だから」
 これからです、丁度今調理が終わってテーブルの上に出すところです。
「自分達のお部屋にいてね」
「遊んでるんだね」
「じゃあその晩御飯前に」
「皆で十字架のところに行くんだ」
 お家の中にあるそれの前にです。
「子供達も一緒に」
「そして神様に感謝のお祈りをして」
「それから晩御飯にしよう」
「その晩御飯はね」 
 奥さんは今度は晩御飯のお話をするのでした。
「今日は豪勢よ」
「おや、どんなのかな」
「お魚のフライに鳥肉のローストにポレトサラダとオニオンスープ」
「色々あるね」
「それにパンは買いたてのふかふかよ」
 そうしたパンだというのです。
「そしてデザートはパイよ」
「何のパイかな」
「苺よ」
「ううん、余計にいいね」
 苺のパイと聞いてです、また言ったフィッシャーさんでした。
「大好物ばかりだよ」
「ではお祈りの後で」
「神様に感謝しないとね」
「あら、またなのね」
「うん、お祈りをすることになるかな」
「いや、お祈りはね」
 その時はと言った奥さんでした。
「食べる前にするから」
「これからだね」
「その時に一緒にお祈りすればいいから」
「そうだね、確かに」
「うん、ではね」
 フィッシャーさんは奥さんの言葉に頷きました、そうしてです。 
 子供達も呼んで実際にお祈りをしてでした、それから晩御飯にかかりました。フィッシャーさんの大好物ばかりのそれを。


ジェレミー=フィッシャーさんのお話   完


                      2016・2・11



ヒキガエルのジェレミーのお話。
美姫 「レインコートをどうするか悩んでいたわね」
愛着があるから仕立て直す事にしたみたいだな。
美姫 「良かったじゃない」
だな。今回も投稿ありがとうございます。
美姫 「ありがとうございました」



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