『ジンジャーのお話』




 黄色い毛の雄猫ジンジャーは猟犬のピクルズと一緒に雑貨屋をしています、お店は繁盛しながらも今一つ儲かっていないままですが。
 それでも生活は出来ていて二匹は今の状況でいいかと考えていたりもします、そんな二匹ですが。
 お昼にです、ジンジャーはピクルズに言いました。
「ちょっと外に出て来るよ」
「お昼かい?」
「うん、実は今日はお弁当を忘れてね」
 それでというのです。
「ちょっとね」
「外で何か買ってだね」
「それでこっちに戻って食べるか外で食べるよ」
「レストランはどうかな」
 ピクルズはお店を出ようとする同僚にこう言いました。
「そこで食べたらどうかな」
「レストランかい?」
「そう、そこでね」
「何て名前のレストランだい?」
「割烹という和食のレストランだよ」
 ピクルズはジンジャーにお店の種類までお話しました。
「君はお魚が好きだしね」
「和食はお魚をよく食べるっていうね」
「実際にメニューで多かったよ、だからね」
「今日はそこで食べればっていうんだね」
「そうさ、どうかな」
「そうだね、いいかもね」
 ジンジャーは少し考えてからピクルズに答えました。
「お魚なら実際僕も大好きだしね」
「丁度いいね、じゃあ行ってきなよ」
「場所は何処かな」
 ジンジャーはお店の場所のことも聞きました。
「それで」
「駅の南出口にあるよ」
「南出口だね」
「そう、ここから結構近いしね」
「それじゃあね」
 二匹でお話してでした、そのうえで。
 ジンジャーは駅の南出口へと向かいました、するとそこに彼が見たこともない瓦の屋根の木製の建物があってです。これまた見たこともない文字であれこれ書かれていました。
 そのお店を見てです、ジンジャーは驚いて言いました。
「何かお店にはとても」
「ああ、ここお店ですよ」
 たまたま通りがかった白猫のおばさんがジンジャーに言ってきました。
「割烹っていう和食の」
「同僚から説明を聞きましたけれど」
「はい、それでここがです」
「和食のレストランですか」
「美味しいですよ、天丼とか」
「天丼?」
「まあ中に入って下さい、ドアは横に開きます」
「押したり引くんじゃなくて」
 ジンジャーはおばさんにこのことも尋ねました。
「そうして中に入るんですか」
「それが日本のお家らしくて」
「イギリスのお家とは全然違いますね」
「お店の中もですよ」
「じゃあ実際に中に入って見てみますね」
「はい、どうぞ」
 おばさんはジンジャーに笑顔で言いました、そしてです。
 ジンジャーはおばさんにお礼を言ってから扉のくぼんだ所に手をやって右から左に引きました、そうして開けて中に入りますと。
 木の椅子とテーブル、白い壁でカウンターも木製ですがイギリスのお店とはやはり全く違います、お店の中もジンジャーが見たこともない感じです。お客さんは結構多くて色々な生きものがお料理を美味しそうに食べています。
 そのお店の中に入ってです、ジンジャーはお店の中をきょろきょろと見回ってそのうえでこう言ったのでした。
「こんなお店は」
「いらっしゃいませ」
 その彼にお店の人が声をかけてきました、黒猫ですがやはりジンジャーが見たこともないコックのそれとはまた違った白い服を着ています。
 その黒猫がです、ジンジャーに聞いてきました。
「何を召し上がられますか?」
「ここは天丼が美味しいと聞きましたが」
「天丼ですか」
「それありますか?」
「はい、ありますよ」
 お店の人はジンジャーに笑顔で答えました。
「じゃあそちらをですね」
「頂きます」
「ではこちらの席にどうぞ」
 お店の人はジンジャーを空いている席に案内してジンジャーもそこに座ってでした、そこで少し待っているとです。
 御飯が沢山入った深い陶器が持って来られました、そしてその御飯の上にあったものは。
「海老のフライですか」
「いえ、天麩羅です」
「天麩羅っていいますと」
「日本の揚げものでして」
「フライじゃなくて」
「そうです、それでその天麩羅を御飯の上に乗せたものがです」
「天丼ですか」
 ジンジャーはその海老の天麩羅が二つ入っている御飯を見ながら言うのでした。
「これはまた」
「それでこのお箸で食べるのですが」
 お店の人は今度は小さい二本の棒を出してきました。
「駄目でしたらスプーンがありますが」
「スプーンをお願いします」 
 ジンジャーはそのお箸を見ても一体どうやって使うのかとんと見当がつかず迷わずにスプーンを選びました。
「そちらを」
「スプーンをですね」
「はい」
 こう答えてです、そのうえで。
 お店の人にスプーンを持って来てもらってそれを使って食べはじめました、まずはいただきますをしてからです。
 天丼をお口の中に入れます、するとです。
 ジンジャーはこれまで味わったことのない、御飯と天麩羅の味にびっくりして言いました。
「これは美味しいですね」
「お気に召されましたか」
「はい」
 まさにと答えるのでした。
「お米が海老と揚げた衣と合わさって」
「美味しいのですね」
「あと何かスープ、いや調味料ですか」
「おつゆですね」
「それの味もよくて」
 それでというのです。
「物凄く美味しいです」
「それは何よりです、では心よくまで召し上がって下さい」
「そうさせてもらいます」
 こう答えてでした、実際にその天丼を心ゆくまで楽しんだジンジャーでした。食事が終わりお勘定を払ってです。
 お店に戻ってです、ジンジャーは感銘しているお顔でピクルズに言いました。
「そのお店に行ったよ」
「割烹にだね」
「いや、不思議なお店だね」
 まずはこう言ったジンジャーでした。
「とてもね」
「外観からして違うね」
「木造のとても変わった形の造りだったよ」
「あれが日本のお家だよ」
「あの国の建築様式なんだね」
「そうだよ、お店の中もね」
「イギリスのものとは何から何なで違うね」
 こうも言ったジンジャーでした。
「それこそね」
「そうそう、お料理もね」
「実はお店に入る前に白猫のおばさんに天丼が美味しいって言われてね」
「それで天丼を食べたんだね」
「これもね」
 その天丼もというのです。
「変わった料理だね」
「御飯だね、丼だから」
「あんなにお米を一杯食べたのははじめてだよ」
「日本ではお米が主食だからね」
「パンじゃないんだね」
「そうだよ、パンも食べるjけれどね」
 それでもというのです。
「日本ではね」
「主食じゃないんだね」
「日本や他のアジアの国はそうだよ」
「それであんなに一杯の御飯を食べるんだね」
「そうなんだ」
「そして御飯と一緒にね」
 その日本の主食である御飯と、です。
「食べるんだけれど」
「あの天麩羅をだね」
「僕はそれを食べたことがないけれど美味しかったのかな」
「凄くね」
 実際にとです、ジンジャーはピクルズに答えました。
「美味しかったよ」
「そちらもだね」
「あとおつゆも美味しくて」
「ああ、それは僕も食べたよ」
「あれは美味しいね」
「お醤油の味でね」
「お醤油の味もね」
 こちらについてもです、ピクルズはジンジャーに答えました。
「物凄く美味しいからね」
「食べてよかったんだね」
「そう思うよ、だからね」
「うん、今日僕は貴重な経験をしたね」
「僕もそう思うよ」
 実際にというのです。
「見たこともない建物を見てその中に入って」
「見たこともないものを食べてだね」
「凄くいい経験をしたよ」
 こうピクルズにお話します。
「本当にね」
「それは何よりだよ、ただね」
「ただ?」
「君お箸は使えたかな」
「あの二本の小さな棒かな」
「そう、それだけれど」
「あれはどうして使うのかな」 
 ジンジャーは首を傾げさせてピクルズに尋ねました。
「一体」
「ああ、わからなかったんだね」
「うん、何なのかなあれは」
「あれは三本の指を使って食べるんだ」
「三本の?」
「そう、二本の棒をね」
「一体どうやって使うんだい?」
 ジンジャーはピクルズのお話の意味がわからず首を傾げさせてしまいました、自分の右の前足を見てそのうえで、です。
「お箸は」
「ああ、わからないね」
「だからスプーンを貸してもらったけれど」
「それは実際に見せてみた方がわかりやすいかな」
「あれが一番不思議かな」
「じゃあその不思議をね」
 ピクルズはジジャーに言うのでした。
「今度お店に行った時に見せるよ」
「一緒にだね」
「それでその時にお魚の料理も食べよう」
「そうそう、お魚の料理が多かったって聞いたのにね」 
 このことは今思い出したジンジャーでした。
「食べていないよ」
「じゃあ今度一緒に行こう」
「そうしてくれるかな」
「お安い御用だよ、それじゃあね」
「うん、明日にでもね」
「一緒に行ってお魚の料理を食べながらね」
「お箸の使い方も見せてくれるんだね」
「そうしよう、実は僕も最初見てびっくりしたんだ」
 そのお箸の使い方をです。
「だから君もびっくりする筈だよ」
「お客さん達の食べ方までは見ていなかったから」
「わかるよ、じゃあね」
「今度は君と一緒に行って見せてもらうからね」
「うん、そういうことでね」
「明日のお昼また一緒に行こう」
「そうしよう」
 その和食レストランにというのです、こうお話してでした。二匹はお仕事に戻りました。二匹にとって何から何まで不思議なレストランのことを思いながら。


ジンジャーのお話   完


                        2016・7・11



日本食店でお食事か。
美姫 「和食レストランはジンジャーたちには不思議に見えたようね」
やっぱり色々と違うから珍しいのかもな。
美姫 「楽しんで食事出来たようで良かったわね」
だな。今回も投稿ありがとうございました。
美姫 「ありがとうございます」



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