『ピーターラビットのお話』




 ピーターはいつもお父さんとお母さんにマクレガーさんの畑に行ってはいけないと言われています、そしてそれはどうしてなのかも言われています。
 今はお母さん兎がです、ピーターにそのマクレガーさんのことをお話していました。
「あの人は捕まえた生きものを何でも食べるのよ」
「パイにしたりしてだね」
「そうよ、あそこには犬も猫もいるし」
 兎にとってはとても怖い場合もあるこの生きもの達のこともあるというのです。
「だからね」
「とても危ないからだね」
「そう、あそこに行っては駄目なのよ」
 絶対にというのでした。
「何があってもね」
「そうなんだね、けれどね」
「マクレガーさんのお家の畑はとてもいいお野菜が一杯あるわね」
「人参なんか凄いよ」
 とてもいい人参が一杯あるのです、マグレガーさんのお家に畑には。
「どれだけ美味しそうか」
「ええ、確かに美味しいと思うわ」
 お母さん兎もこう言います。
「あの人の畑の人参はね、蕪もキャベツもレタスもね」
「それでもなんだ」
「そう、食べたら駄目だし」
「近寄ってもなんだ」
「駄目よ、本当に危ないから」
「ううん、そうなんだね」
「若しかしてまだ行ってるの?」
 お母さんはピーターの目をじっと見て尋ねました。
「マクレガーさんのお家に」
「もう誰も行かなくなったから行かないよ」
「そうでしょ、あの人のお家がこの辺りで一番危ないからよ」
「マクレガーさんがいて犬や猫もいて」
「あんな危ない場所はないからよ」
「皆近寄らないんだね」
「そうよ、だから貴方も近寄ったら駄目よ」
「他の場所で遊ばないと駄目だね」
「そうしなさい、いいわね」
 ピーターに厳しい声で忠告するのでした、それではピーターも頷くしかありませんでした。それでピーターもマクレガーさんのお家の方には行かなくなったのですが。
 それでも遊びたいものです、それで新しい遊び場所を探していたのですが。
 ピーターにです、妹達がこんなことを言ってきました。
「最近新しいお池が出来たそうよ」
「随分浅いお池がね」
「そのお池に何か麦みたいなのが一杯生えてるっていうの」
「それどんなところかな」
 ピーターは妹達のお話を聞いて首を傾げさせました、それが一体どんな場所なのか聞いただけでは全く見当がつかなかったからです。
「一体」
「ええ、マクレガーさんのお家から少しいったね」
「川沿いのところに出来たらしいわ」
「結構広いところらしいわ」
「そうなんだ、じゃあ今からそこに行ってみる?」
 妹達にこう言ったピーターでした。
「面白そうだし」
「マクレガーさんはそこにはいないそうよ」
「犬も猫もね」
「随分平和な場所らしいわ」
「そうなんだ、じゃあ丁度いいね」
 ピーターは妹達の言葉にそれならと頷きました、そうしてでした。
 妹達を連れてまずはマクレガーさんのお家の向こう側の川沿いのところに行ってみました、すると実際にでした。
 物凄く浅い、ピーター達でさえ歩いて渡れそうなとても浅いお池の様な場所が沢山並んでいました。そしてそのお池の様な中にです。
 妹達の言う通り麦みたいな緑色の植物が均等に並べられていました。その場所を見てでした。
 ピーターは目を瞬かせてです、妹達に言いました。
「何か不思議な場所だね」
「そうよね」
「麦に似てるけれどね」
「麦じゃないわよね」
「うん、これは麦じゃないよ」
 ぴーたーはその植物達を見ながら妹達にお話しました。
「また別のものだよ」
「じゃあ何かしら」
「麦に似てるけれど」
「別のものみたいだし」
「わからないね、ただお水の中には虫が沢山いて随分賑やかだね」
 ピーターは植物がその中に置いているお水を見ました、見れば実際にそこにはアメンボやミズスマシその他のお水にいる虫達が一杯います。
 その虫達を見てです、ピーターは言うのでした。
「見ているだけで楽しそうだよ」
「そうよね」
「この植物は私達は食べられそうにないけれど」
「お水の中は賑やかね」
 妹達もお水の方を見て言いました。
「中に入ったら濡れるから入らないけれど」
「泥だらけになるでしょうし」
「それでも見ているだけで面白いわ」
「そうだね、この植物も何か面白そうだし」
 ピーターはまたお水の中に植えられている植物達を見ました。
「麦畑とはまた違った場所だね」
「ええ、そうね」
「麦はこの植物よりもっと高いけれど」
「この植物も面白いわ」
「僕達が食べるものはない場所だけれど」
 周りを見回すと本当にそうしたものはありません、お野菜やお豆といったものはお池みたいな場所の周りにはないです。
「ここはここでね」
「面白そうね」
「じゃあここは私達の新しい遊び場所にしましょう」
「そうしましょう」
「そうしようね、けれど何なのかな」
 ピーターは今もその植物を見ています、そのうえで言うのでした。
「この植物は」
「麦じゃなかったら何かしら」
「麦に似ているけれど違うし」
「おかしな植物ね」
 妹達もその植物を見て首を傾げさせるばかりです、ですがこの場所はピーター達森の生きもの達にとって新しい遊び場所の一つになりました。ですがそれでもです。
 誰もお池の様な場所にある植物が何かわかりませんでした、それでピーターはまたそのお池の様な場所が一杯並んでいるそこで遊んでお家に帰ってからお母さんにその場所のことをお話しました。
「僕達が食べるものは何もないし人間達も僕達を見ても何もしないけれど」
「平和な場所なのね」
「うん、その植物を育てている人達はマクレガーさんとは違うんだ」
「貴方達を見ても何もしないのね」
「僕達がその植物を食べたりしないことを知ってるみたいなんだ」
「そうなのね」
「それでその植物は何かな」
 ピーターはお母さんに尋ねました、お家の中でお茶を一緒に飲みながらそうしました。お父さんはまだお仕事に出ていて妹達はお昼寝中です。
「お母さんわかるから」
「ひょっとしてね」
 お母さんは少し考えました、そうして自分の知識を辿ってからピーターにお話しました。
「貴方達が見ている植物はお米というものかしら」
「お米?」
「そうした植物もあるの。麦に似てるけれど」
 それでもというのです。
「麦とはまた違ってパンやオートミールにせずに食べるの」
「そういうのがあるんだ」
「そう、お米の中にはお水の中で育てる種類もあるの」
「だからお池みたいな場所なんだ」
「そこは水田っていうの」
「ああ、お水だね」
「麦は畑にあるけれど田、田んぼっていうけれど」 
 この場所はといいますと。
「ここではお米を育てるのよ」
「それで人間達が食べるんだ」
「私達が住んでいるイギリスでは人間の主食はパンやオートミールでしょ」
「あとジャガイモだね」
「そう、麦をパンやオートミールにして食べるけれど」
 それでもというのです。
「東の方の国々ではお米を食べるそうなの」
「麦じゃなくてだね」
「それでお米をね」
「その水田って場所で育ててるんだ」
「そうして秋になったらお米が実ってそれを刈って食べるの」
「そこは麦と一緒だね」
 このことはピーターも察しました。
「そうだね」
「そうよ、そこは一緒よ」
 お米も麦もというのです。
「そうして食べるの」
「秋になると刈って」
「そうしてね。それであの場所はね」
「水田っていう場所なんだね」
「そうだと思うわ、お母さんが聞いた限りだと」
「そしてあの植物はお米だね」
「そうだと思うわ」
 お母さんはピーターに答えました、ピーターはお母さんのお話を基地絵から今度は学校で狐の先生に尋ねました、すると実際にでした。
 先生はピーター達生徒をそこまで連れて来て説明しました、ここは水田という場所でそこにある植物はお米というものだと。そのお話をしつつ先生は言いました。
「イギリスでもお米を作るなんてね」
「昔はなかったんですよね」
「畑しかなかったよ」
 人間が自分達の主食を作る場所はです。
「麦やジャガイモのね」
「そうだったんですね」
「まさかイギリスでも出来るなんて」
「先生も驚いていますか」
「うん、けれど君達はこの植物の茎をかを食べたりしないからここにいる人間達は君達がここに来ても何もしないよ」
 田んぼを荒らしたりしないからというのです。
「だから安心してね」
「ここで遊んでいいんですね」
「いいよ」
 先生はピーターににこりと答えてそれと共に皆にお話しました。
「お水に入ったら人間達も怒るだろうけれどね」
「それはどうしてですか?」
「そこに大切なお米があるからだよ」
 水田の中にというのです。
「だからだよ」
「僕達がお水の中に入ったらですか」
「その時は人間達も怒るよ。けれど君達も入らないよね」
 先生は皆にこのことを確認しました。
「特に」
「はい、中に入ったら濡れますし」
「お水の下は泥だから汚れますし」
「この中には入らないです」
「水田の中には」
 皆もこう答えます。
「食べるものもないですし」
「それじゃあ」
「そう、マクレガーさんが君達を見たら怒るのは君達がマクレガーさんが自分の畑で育てているお野菜を食べるからだよ」
 先生はマクレガーさんのお話もしました。
「君達がお野菜を食べないならね」
「マクレガーさんもですか」
「僕達に何もしないんですか」
「現に犬や猫の子達には何もしないね」
 お野菜を食べない彼等にはというのです。
「中に入って畑を踏み荒らしたりしない限り」
「そういえばそうですね」
「マクレガーさんは犬や猫の子には怒らないです」
「畑を踏み荒らさない限り」
「そうでもしないと」
「そうだね、君達は誰もお米を食べないから」
 またこのことをお話する先生でした。
「君達は水田の周りで遊んでも安全だよ」
「わかりました、じゃあこれからもそうします」
 ピーターは先生のお話を聞いて頷いて応えました。
「水田の、お水の中には入らないで」
「そうしてだね」
「ここで遊んでいきます」 
 人間達はピーター達がお米を食べないことを知っているから彼等が来ても何もしない、それならとです。
 ピーターも頷きました、そうして森の動物の子供達は水田の周りでも遊ぶ様になったのです。彼等にとって安全なその場所で。


ピーターラビットのお話   完


                  2018・4・18








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