『ダッチェスのお話U』





 ダッチェスはこの時燻製を作っていました。
 お家でせっせとソーセージやハム、ベーコンを作っていました。その途中にです。
 ダッチェスはお家に来た狐どんにこんなことを言われました。
「燻製を作っているのかい?」
「そうだよ」
 その通りだとです、ダッチェスは狐どんに答えました。
「食べたら駄目だよ」
「そんなことはしないさ、ただね」
「ただ?」
「ソーセージは何を入れているのかな」
 狐どんはダッチェスにソーセージのことを聞いてきました。
「一体」
「何って挽肉だよ」
「おや、普通だね」
「普通って他に何を入れるんだい?」
 ソーセージの中にとです、ダッチェスは狐どんに聞き返しました。
「挽肉の他に」
「いや、レバーを崩して入れたり血もね」
「そうしたのもなんだ」
「入れたりするじゃないか」
「そんなソーセージもあるんだね」
「ドイツでは結構普通にあるよ、あとは」
「あとは?」
「スモークサーモンも作ったらどうかな」
 こちらもというのです。
「どうかな」
「鮭?」
 スモークサーモンと聞いてです、ダッチェスは狐どんにすぐに言いました。
「いいのかな」
「君も鮭を食べたことがあるね」
「勿論だよ、スモークサーモンだって」
「じゃあ作ってみたらどうかな」
「そう言うけれど僕は作ったことがないからね」
 こう答えてです、ダッチェスは狐どんに難しいお顔でまた言いました。
「だからね」
「いいのかい?」
「作ろうとは思わないけれど」
「いや、何でもはじめてみないとじゃないか」
 狐どんはスモークサーモンを作ることについてはどうかと言うダッチェスに対して言うのでした。
「だからね」
「作ってみたらというのかな」
「そうしたらどうかな」
「ううん、それじゃあ市場に行って鮭を買って」
「そうしてだよ」
「鮭も燻製にしてみればいいんだね」
「そうしたらどうかな、美味いよ」
 狐どんはダッチェスに笑ってこうも言いました。
「その美味しさを知っているのならね」
「ううん、確かにスモークサーモンは美味しいしね」
「じゃあ決まりだね、はじめてならチャレンジということで」
「作ってみるんだね」
「そうすればいいよ」
「わかったよ、作ってみるよ」
 ダッチェスは狐どんの説得に頷いてでした、そのうえで。
 市場に行ってそうして鮭を買って燻製にしやすい様に捌いてからいぶしてある木々の上に吊るして煙で燻製にしていきます、そしてでした。
 他のソーセージやハム、ベーコンといったものと一緒に保存してです。程よい頃になってスモークサーモンを作ってくれた狐どんにです。
 声をかけてお家に来てもらいました、そうしてお酒だけでなく自分が作ったその燻製達を出して言いました。
「君が前に話してくれたね」
「スモークサーモンもだね」
「作ったからね」
 だからだというのです。
「そっちも食べてくれるかな」
「本当に作るとはね」
「どうかな」
「やっぱりね、生きものもチャレンジ精神を忘れたらね」
「よくないっていうんだね」
「そうだよ。実は私もね」
「いつもチャレンジをしているんだ」
「うちのかみさんに背中を押されていや叩かれてね」
 そうしてというのです。
「何でもやってみろってね」
「言われてなんだ」
「そう、やっているんだ」
 色々とはじめてのことに対してというのです。
「そんなのじゃ日本や中国やアメリカの狐に負けるってね」
「そんなことを言われてるんだ」
「かみさんにね、このかみさんが怖くてね」
 実は狐どんは恐妻家みたいです、言葉にそうしたものも出ていました。
「それでね」
「だからだね」
「そう、そしてね」
 そのうえでというのです。
「いつもチャレンジをしているから」
「僕にも言ったんだ」
「そう、だからね」
 それ故にというのです。
「まだ私は穏やかに言うからね」
「だからいいのかな」
「うちのかみさんは動かないと怒るからね」
「ううん、怖いんだね奥さんが」
「何かとだよ、しかし私が言ってくれて作ってくれるとは」 
 狐どんはダッチェスがテーブルの上にお酒も燻製もどんどん出していくのを見つつさらに言うのでした、狐どんも手伝おうとしましたがお客さんと言うことで止められて今は席に座っています。
「嬉しいよ、ではその燻製達を食べて」
「スモークサーモンもね」
「食べようね」
 二人でお話をしてでした、そのうえで。
 二人は乾杯をしてエールを飲みました、それからです。
 狐どんが作ってはどうかと言ったレバーや血を中に入れたソーセージそしてスモークサーモンを食べてです、二匹で言いました。
「美味しいね」
「そうだね、上手に出来てるよ」
「いや、言われてはじめて作ったけれど」
 そうした自分がはじめて作った燻製達を食べつつ言うダッチェスだった。
「成功、美味しいよ」
「うん、何よりだね」
「全くだね、はじめて作ったけれど」
「いやいや、まずはじめてみた」
「このことが一番大事なんだね」
「そうだよ、そして美味しいなら」
 それならと言いつつです、さらに食べつつ言う狐どんでした。
「最高じゃないか、じゃあ今日は私もいいものを持って来たし」
「何かな」
「私がはじめて作ったバウンドケーキだよ、デザートに食べよう」
「狐どんバウンドケーキを作れるのかい」
「そのかみさんに言われて作ったんだよ、それを最後に食べよう」
「そうだね、じゃあね」
「今は君がはじめて作ってくれた燻製も楽しむよ」
 これまで作ったことのある燻製達に加えてというのです、狐どんはダッチェスに笑顔で言いました。ダッヂェスがはじめて作ったスモークサーモン等はとても美味しかったですが狐どんがはじめて作って持ってきてくれたバウンドケーキもでした、二匹はお酒と一緒にお互いがはじめて作った食べものを味だけでなくチャレンジ精神も食べて楽しいパーティーの一時を過ごしました。


ダッチェスのお話U   完


                     2018・10・3








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