『ロミオとジュリエット』




             第三幕  愛は彷徨い


「ロミオ様」
 ローラント神父は自身の教会の礼拝堂においてロミオと出会った。見れば彼は深刻で思い詰めた顔をしていた。やつれてさえいた。
「どうされたのですか、一体」
「神父様」
 ロミオは彼に声をかけた。
「神父様を信じてこちらに参りました」
「私をですか」
「はい」
 彼はこくりと頷いた。その動きにも疲れがはっきりと見えていた。
「実は思い詰めておりまして」
「どうされたのですか?」
「神の御前にて申し上げます」
「はい」
 まずはそう断った。
「僕は今恋をしているのです」
「恋をですか」
「はい、その相手ですが」
「ええ」
 神父は彼の様子に只ならぬものを感じていた。息をこらして次の言葉を待った。
「ジュリエットなのです」
「ジュリエット、まさか」
「はい、キャブレット家のジュリエットなのです、僕が愛しているのが」
「馬鹿な、そんなことが」
 神父はそれを聞いてすぐに首を横に振った。
「有り得はしない、どうして貴方が彼女を」
「ですが本当のことなのです」
 彼は言う。やはり思い詰めた顔で。
「ですから僕は思い悩んでいるのです」
「ロミオ様」
 神父は彼を見詰めて言う。
「はい」
「おわかりなのですね、全ては」
「そのうえでです」
 彼は答えた。
「モンタギューとキャブレットのことも。ですが」
「左様ですか」
「しかし僕は彼女を愛している。それは止められないのです」
 彼は言う。
「どうしても。この想いは」
「迷いはないのですね」
 神父は彼に問うた。
「そして後悔も」
「ありません」
 それがロミオの答えであった。
「ですから今僕は神の御前に来たのです」
「そうなのですか」
 中には違う者もいるがこの神父は神を深く信じる神父であった。それを聞いて彼もまた心を決めたのであった。その神の御前において。
「わかりました。では私も決めました」
「といいますと」
「私はずっと憂いていたのです、このヴェローナにおけるモンタギュー家とキャブレット家の対立を」
「そうだったのですか」
「今その二つの家がそれまでの憎しみを越えて結ばれるのなら。そして貴方の愛が実るのならば」
「力を貸して下さるのですか」
「いえ、そうではありません」
 神父はその言葉には首を横に振った。
「私は貴方達の為に尽くしたいのです。これは協力ではありません」
「神父様・・・・・・」
「暫しお待ち下さい」
 彼はロミオにそう述べた。
「あの方を呼んで参りますので」
「あの方とはまさか」
「そうです。私はジェルトルードさんと顔見知りなのです」
 彼は言った。
「そのつてで。来てもらいます」
「そうだったのですか」
「暫しお待ち下さい」
 彼はここで鈴を鳴らした。すると礼拝堂に一人の若いシスターが入って来た。この教会に神父と共に務め、神のことを学んでいるシスターである。
「ジェルトルードさんをこちらに呼んで下さい。ジュリエット様も」
「ジュリエット様もですか」
 ちらりとロミオを見て問い返した。彼女もまたモンタギューとキャブレットのことは知っているのだ。
「そうです。そのうえでです」
「わかりました。では」
「お願いしますね」
 シスターは一礼した。そして静かに礼拝堂を後にしてキャブレット家に向かったのであった。
 暫くしてシスターが戻ってきた。その後ろにはジェルトルードがいた。そして彼女も。
「ジュリエット」
「ロミオ様」
 二人は再会を果たした。だがその顔は晴れたものではなかった。
「神父様、私達は」
「わかっています」
 神父は険しく、そこに悲しみを漂わせた顔で述べた。
「だからなのです」
「だからですか」
「そうです。今ここにいるのは私達だけです」
「はい」
 二人はその言葉に頷く。
「神の御前に。私は貴方達に立ち会いましょう」
「というと」
「まさか」
「そのまさかです」
 彼は言った。
「宜しいですか、運命の子供達よ」
 二人の顔を見て述べる。
「モンタギューとキャブレットの家の子供達よ。貴方達はもう争うべきではないのです」
「ですが」
「御聞きなさい」
 彼は二人を制した。
「二つの家を争わせる古いわだかまりは若々しい愛情によって消え去るべきなのです」
「そうなのですか」
「だからなのです。私は今神の御前にて申し上げます」
 そこまで言うと二人の手を取った。
「神は御自身に似せて人というものを作られました。そして結ばれるように作られたのです。それは御存知ですね」
「ええ」
 二人はその言葉に頷く。
「だからこそ。貴方達も結ばれるべきなのです」
「そうなのですか」
「家同士のわだかまりなぞ。神の御前では些細なこと」
 神父はそうした考えであった。
「その結びつきは神聖なものであり恵み深き眼差しを以って貴方達の前に現われるでしょう」
「神よ」
 ロミオはそれを聞いて神の名を口にする。
「私達は今」
「ここに結ばれてもよいのですね」
「神がそれを許して下さいます」
 神父が二人に優しく告げた。
「神はその祈りを聞き入れられます。その絆が平和と幸福をもたらす為に。美徳と信仰が包むこの世において」
「神よ、私達を御護り下さい」
 次にジュリエットが言った。
「私達の愛を」
「永遠に」
「子供達がその道を幸福に歩むことを見守っていて下さい。貴方が愛する子等の為に」
 神父は告げる。
「貴方こそが私達を黒い罪悪から御護り下さるのですから。では」
 そこまで述べて二人に顔を向けた。
「今時が来ました」
「結ばれる時が」
「そうです。ロミオよ」
「はい」
 ロミオは神父に応えた。
「ジュリエットよ」
「はい」
 そしてジュリエットもまた。
「貴方達の心を知る神の御前で今結ばれるのです。この絆は永遠に分かれることはありません」
「それでは私達はこれで」
「そうです」
 彼は告げる。
「永遠に一緒なのです」
「ロミオ様」
「ジュリエット」
 その言葉を聞いて喜びに身体を震わせ互いの顔を見やる。
「これで私達は」
「離れることがない」
「これでこの街の争いが終わらんことを」
 神父はそう願った。
「そして平和が永遠に訪れんことを」
 それを適えられる二人が今目の前にいた。だがそれはあまりにも弱い結び付きであった。古いわだかまりを消し去るのは若い愛だとしてもだ。
 その頃キャブレット家の屋敷の前で一人の少年がいた。小柄な黒い髪の少年で赤い帽子に青いシャツ、白いタイツにマントと粋な出で立ちである。
 彼の名をステファノという。モンタギュー家の小姓である。
「さて、こちらには若様はおられないようだ」
 彼は辺りを探りながら呟く。
「あの中におられるのは横柄で偏屈なキャブレット卿。男やもめで傲慢な殿方だけだ」
 ここで何を思ったのか剣を鞘ごと身体の前に持ってきた。そしてギターのようにして持つ。
「白いキジバトさん、禿鷹の巣は暮らしやすいかい?何故かあんなのを親に持った貴女の不幸は同情するけれど」
 ジュリエットのことを歌っている。
「けれど禿鷹は偏屈で貴女を放そうとはしない。哀れ姫君は暴君の虜」
 キャブレット卿を揶揄もしている。
「何時か逃げて自由を見つけられるかな。けれどキャブレットの手下達は執拗で貴女を放しはしないだろうね。けれど逃げないと何時までも虜のまま。さあ、どうしたものか」
 歌は波に乗ってきてステファノも上機嫌になってきた。
「夜の星の中に隠れて愛の女神に助けを乞えばいい。禿鷹には恋なんてわかりはしない。あんな頑固親父には剣の傷が一番似合うのさ」
「何だ、あいつは」
 その歌を聴いてグレゴリオが門から出て来た。兵士達も後ろにいる。
「おや、これはこれは」
 ステファノは彼等に気付いて恭しい様子で滑稽な一礼をする。
「キャブレット家の皆様方。御機嫌麗しゅう」
「モンタギュー家の者だな」
「如何にも」
 ステファノはそれを隠そうともしない。
「だとすればどうされるのですか?」
「さっきの歌は何だ」
 グレゴリオは彼に問う。
「我々を馬鹿にしているのか?キャブレット様を」
「おや」
 ステファノはその言葉にシニカルな笑みで応えた。
「これは妙なことです」
「何がだ?」
「我がモンタギュー家では正直は美徳であります」
 また恭しさを表だけにして述べる。
「ですがキャブレット家では違うのですか」
「何だと!?」
「キャブレット家では真実は侮辱となるのですか。これはまた素晴らしいことで」
「何だとっ」
 グレゴリオはそれを聞いて激昂を覚えた。
「我が家を侮辱するのか」
「真実を言うのが侮辱と言うのならば」
 ステファノも負けてはいない。
「そうなるのでしょうね」
「良くぞ言った」
 グレゴリオはその言葉に目を据わらせた。
「ではもう容赦はせん」
「おや、やられるのですか」
 剣を抜いたグレゴリオに嘲笑を向ける。
「本当のことを言っただけなのに」
「戯言を言った下郎を始末するだけだ」
「ではその下郎の剣にかかられるのですか?」
 ステファノも剣を抜いてきた。
「容赦はしませんよ」
「それはこちらの台詞だ」
 剣を構えて睨み据える。
「覚悟はよいな」
「そちらこそ」
 ステファノも構えを取った。
「覚悟はいいな」
「おい、どうしたんだ」
「あっ、これは」
 ここでキャブレット家からティボルトが出て来た。
「門の前で騒いで。賊か?」
「はい、モンタギュー家の者です」
「貴様か?」
「ええ、そうですよ」
 ステファノはティボルトをからかう様子で見てこう答えた。
「だったらどうしますか?」
「どうしたもこうしたもない」
 それなら彼も遠慮するつもりはなかった。
「早くそこを立ち去れ。さもないと」
「さもないと?」
「斬る」
 ティボルトは言い切った。
「覚悟はいいな」
「ほう。それでは」
「来るか?それとも」
 ティボルトは問い詰める。だがここでマーキュシオ達がやって来た。
「くっ、こんな時に」
「ステファノ、そこにいたのか」
「マーキュシオ様」
「どういうつもりだ、ティボルト」
 マーキュシオが彼に問う。
「モンタギュー家の者に対して剣を向けるのだな」
「無礼を働いたのはそっちだ」
 グレゴリオが抗議する。
「それでどうして剣を抜かずにおられようか」
「そうか、ならばこちらも相手をしよう」
 マーキュシオも剣を抜いた。後ろにいる者達も。
「やるつもりか?」
「剣の為にある」
 マーキュシオはティボルトを見据えて問う。
「敵を斬る為だ」
「そうか、ではこちらも容赦はしない」
 キャブレット家の他の者達も剣を抜いた。そして双方対峙しはじめた。
「下がるならよし、下がらなければ」
「下がるなよ、モンタギュー家の意地にかけて」
 双方睨み合う。一触即発の事態になっていた。
 そこにロミオがやって来た。慌てて双方の間に入った。
「マーキュシオ、待ってくれ」
「ロミオ」
「キャブレット家の者達も。早まってはいけない」
「モンタギュー家の嫡子が何の用だ」
 ティボルトは剣呑な顔で彼を睨んでいた。
「それとも貴殿が相手をしてくれるのか?」
「違う」
 ロミオはそれを否定する。
「臆病風に吹かれたか?」
「そうでもない。無意味な戦いはしないだけだ」
 ロミオはティボルトに顔を向けて言った。怒りと憎悪で顔を燃え上がらせるティボルトに対してロミオは冷静で落ち着いたままであった。
「今は、いやこれからも」
「私を侮辱するつもりか」
「僕が何時君を侮辱した?」
「そこにいるステファノが我がキャブレット家を侮辱したのだ、それを許せると思うのか」
 グレゴリオも問う。
「どうなのだ」
「そうだ、ロミオ」
 モンタギューの側からはマーキュシオが出て来た。
「侮辱を受けたというのならそれは剣で返すもの。違うか」
「マーキュシオ、君まで」
「いえ、ロミオ様」
 ステファノも前に出て来た。
「一年前はモンタギューの門の前でこの者達はわれわれを侮辱してくれたのではないですか?あの時我々は一人彼等に殺されています」
「しかし」
「それで充分ではありませんか」
「全くです」
「ステファノの言う通りです」
 他の者達も彼に同意する。
「だからこそ我々は」
「キャブレット家の奴等に剣を」
「そういうことだ、ロミオ」
 ティボルトもキャブレット家の者達ももう退くつもりはなかった。
「君が剣を抜かないというのならマーキュシオ、来い」
「望むところだ」
 マーキュシオはさらに前に出て来た。
「ティボルト、天使達が君を待っているぞ」
「それは君に対してだな」
「ふん、ならどちらが天使に愛されているか」
「今わかる」
「待つんだ、マーキュシオ!」
「馬鹿っ、ロミオ!」
 咄嗟に二人の間に入ろうとしたロミオにティボルトの剣が迫る。マーキュシオは慌てて彼を突き飛ばした。剣はそれで態勢を崩した彼に襲い掛かってきた。
「うぐっ!」
「やった!」
「マーキュシオさん!」
 双方それぞれ声をあげる。そして今ロミオが胸から血を流し倒れ伏した友に駆け寄ってきた。
「僕の為に君は・・・・・・」
「どうして君はこの戦いを止めようとするんだい?」
 マーキュシオの顔には死相が表われていた。その顔で彼に問う。
「何故なんだ」
「だって僕は」
 ロミオは死に行く友に対して述べた。
「もうこの無益な戦いを終わらせたかったから」
「無益なのか。僕達のやっていることは」
「そうじゃないのかい?」
 ロミオは問う。
「血だけが無闇に流れて」
「それが争いというものさ」
 マーキュシオの言葉は達観したものであった。
「けれど僕は君に願うよ」
「何をだい?」
「仇は・・・・・・頼むよ」
「マーキュシオ・・・・・・」
「駄目です、もう」
 ステファノがマーキュシオの顔を覗き込んで言う。
「マーキュシオさん・・・・・・」
「ロミオ様、ここは」
「わかっているよ」
 ロミオは自身の家の者達に対して答えた。
「ティボルト」
 起き上がりティボルトに顔を向けてきた。
「マーキュシオの仇を取らなければならない、さあ来い」
「望むところだ」
 ティボルトもそれを受けて立つ。
「ここでモンタギュー家を滅ぼしてやる」
「モンタギューでもキャブレットでもどうでもいい」
 ロミオは彼に言い返す。
「だが友の仇は取る。いいな」
「わかった。では来い」
 二人はそれぞれ構えに入った。
「一撃で仕留めてやる。一撃か。なら」
 ロミオはその言葉に反応した。そして構えた剣を動かしてきた。
「こうしてやる!これならどうだ!」
「むっ!」
 剣を投げてきた。その突然の動きにティボルトは対処しきれなかった。
 それは喉に深く突き刺さった。致命傷であるのは言うまでもない。
「ティボルト様!」
「やったな!」
 双方また言い合う。
 ティボルトは後ろに倒れていく。それを周りの者が抱きかかえる。
「御気を確かに」
「いや、駄目だ」
 周りの者達に対する彼の返事は絶望であった。
「私はもう」
「何の騒ぎだ」
 そこにキャブレット卿までやって来た。
「ティボルト!御前まで!」
「叔父上・・・・・・」
 彼は死にゆく顔を叔父に見せてきた。
「私はもう駄目です」
「くっ、一体誰が」
「ロミオです。ですから私の願いを御聞き下さい」
「うむ」
 キャブレット卿もそれに頷く。
「わかった。では御主の仇はわしが討つ」
「お願いします」
 そこまで言うとティボルトは息を引き取った。キャブレット卿は怒りと悲しみを露わにして甥の亡骸へ歩み寄る。そしてその目を閉じさせた後で喉の剣を引き抜いた。それからロミオを見据えてきた。
「貴様だな」
「はい」
 ロミオはその問いに頷いた。
「隠しはしません」
「まずはこの剣を返そう」
 そう言って彼の足下へ剣を放り投げた。
「受け取れ。今から死合う」
「えっ、旦那様」
「それは」
「わしとてキャブレット家の主。逃げも隠れもせぬ。そのキャブレット家の主として貴様に果し合いを申し込むのだ」
「貴方と」
「そうだ。不服か!?」
 ロミオを見据えて問う。
「言っておくが断ることは許さぬ」
「くっ・・・・・・」
「断るならばそれで死だ。だがわしは武器を持たぬ者には害はなさぬ」
 それが彼の誇りであった。
「だからだ。来い」
 そのうえでロミオに決闘を挑む。
「ティボルトを殺したその剣で。どうするのだ!?」
「ロミオ様」 
 モンタギュー家の者達もロミオを見てきた。
「どうされますか!?」
「やはりここは」
(この人はジュリエットの)
 だがロミオは彼との戦いはとてもできはしなかった。
(駄目だ、僕には)
 ジュリエットの父と剣を交えることなぞ彼には考えられなかった。だが逃げることはできなかった。彼もまたモンタギューの嫡子なのだ。それでどうして逃げることができようか。
 迷っていた。悩んでいた。だがそこにいきなり大勢の者達がやって来たのだ。
「何事だ!?」
「控えるのだ、無頼の者達よ」
 大勢の兵士達がその場にやって来た。それは両家の者達ではなかった。
「下がれ、下がれ」
「公爵様が来られたぞ」
「何っ、閣下が」
 それを聞いた両家の者達は思わず動きを止めた。そしてそれぞれ離れた。
 そこに黒い髪と髭を持つ厳しい顔立ちの長身の男がやって来た。漆黒のマントに上着、ズボン。靴まで黒であった。それが余計に威圧感を周りに与えていた。
「閣下」
「どうしてこちらに」
「騒ぎと聞いて急いで参った」
 ヴェローナ公爵エスカルスは両家の者達を見据えて述べた。
「では話を聞こうか」
「はい」
 まずはキャブレット卿が一礼して述べた。
「私は甥を殺されました」
 横たわるティボルトの亡骸を指し示して説明する。
「そこにいるロミオによって」
「まことか?」
 公爵はロミオに問うてきた。
「はい」
 ロミオも一礼してそれに答えて真実だと認めた。だがそのうえで述べた。
「ですがこの者は我が友人マーキュシオを殺したのです」
「ほう」
「何よりの証拠です、ほら」
 彼もまたマーキュシオの亡骸を指し示した。
「御覧になって下さい」
「確かに」
 公爵はマーキュシオの亡骸も見た。二人共血の中で横たわっていた。
「だがそなたはティボルトを殺したな」
「ええ」
 それをまた認めた。
「またしてもだ。キャブレット家もモンタギュー家も争い続ける。それを止められぬか?」
「それは」
 それには誰も答えられなかった。
「止められぬのならば私が断を下す。ロミオ」
「はい」
「そなたの罪は殺人だ。これは死刑に相当する」
「はい・・・・・・」
 ヴェローナの法は彼も知っている。彼は今それを受ける覚悟をした。
「だがそなたは喧嘩を売ってはいないな」
「はい」
 それも認めた。
「証人は」
「私達です」
 モンタギュー家の者達が名乗り出てきた。
「しかと証言致します」
「ロミオ様はむしろ戦いを止めようとされました」
「そうか。ではわかった」
 それを聞いたうえでまたロミオに顔を向けてきた。
「それではそなたは罪一等を減じ追放とする」
「はっ」
 一礼してそれを受ける。
「それでよいな」
「わかりました」
「しかしだ」
 ここで公爵はそれぞれの家の者達を見やった。
「そなた達は飽くことを知らぬのか。何時までも争う」
「それは」
「ここで誓うのだ。神と領主の定めに従い二度と争わぬと」
「二度と」
「そうだ。次にこのようなことがあれば私にも考えがある」
 彼も我慢の限界であったのだ。
「よいな」
「わかりました」
 ロミオとモンタギューの者達は嫡子の追放によりそれを受けるしか心に余裕はなかった。だがキャブレット卿は違っていた。
「公爵様、ですが」
「異論は許さぬ」
 公爵は卿を見据えて言った。
「例えそなたでも。よいな」
「くっ・・・・・・」
「枢機卿殿にもお伝えしておこう。このことはな」
「枢機卿様にもですか」
「そうだ」
 彼は神の力を使ってでも争いを終わらせるつもりであったのだ。今それをはっきりと言ってきた。
「わかったな」
「はい・・・・・・」
 枢機卿を出されてはキャブレット卿も従うしかなかった。彼は教皇派であるからだ。それでどうして教会に従わずにいられようか。無理であった。
「以上だ。では」
「だが忘れはせぬぞ」
 それでもキャブレット卿は怒りと悲しみを隠してはいなかった。
「このことは何時までも覚えておく」
「こちらもだ」
 モンタギュー家の者達もまた同じだ。沈み込むロミオは別として両家葉またいがみ合いはじめた。
「これをどうにかせねば」
 公爵はそんな彼等を見て憂慮を禁じ得なかった。
「ヴェローナは。収まらぬ」
 彼は今両家の対立により乱れるヴェローナを憂いていた。だがその憂いは今のところ尽きる気配がなかった。憎しみはいつまでも続く。残酷な運命であった。



争いを止めようとして、寧ろ悪化に。
美姫 「何て運命なのかしら」
一体、どうなってしまうのか。
美姫 「それでは、また次回で〜」
ではでは。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る