『ニーベルングの指輪』

 序夜 ラインの黄金



                             第一幕  はじまりの河

 青く澄み切った河だった。その河の中に今三人の美しい乙女達が泳いでいる。
 青い眼に濃い青緑の長い髪をしており身体は透き通るように白い。水色の薄い、そのまま河の水に溶けてしまいそうな衣を着てそのうえで河の中を舞うように泳いでいる。その乙女達は泳ぎながら朗らかに笑っていた。
「ヴァイアーーーー、ヴァーーーーガーーーーー」
 歌いながら声もあげていた。
「聖なる波よ揺れ動きなさい」
「ヴォールリンデ」
 一人がその歌う彼女に声をかけてきた。
「一人で見張りをしているのね」
「そうよ、ヴェルグンデ」
 ヴォークルンデは笑顔で彼女に返した。
「けれど貴女が来れば二人になるわよ」
「いいえ、三人の方がいいわ」
「私もってことね」
 ここで最後の一人が二人のところにやって来た。
「そういうことなのね」
「そうよ、フロースヒルデ」
「それが一番ね」
 三人揃うとさらに明るい笑顔を見せ合うのだった。
「さあ、それじゃあ三人で」
「黄金を見張りましょう」
「あの輝かしい黄金を」
 そんな話をする二人のところにある小男がやって来た。そして河の岸辺から声をかける。
 黒く癖の強い髪を無造作に伸ばし顎鬚も不細工に伸ばしている。高い鼻には疣が多くあり目は血走っている。そして黒いタキシードの上着とズボンを着ている。ネクタイも黒い。その彼が来たのだ。
「おおい、娘さん達」
「あら、誰なのかしら」
「わしのことを知らないのか?」
 小男は曲がった背中をそのままに声をかけてきたのだった。
「わしのことを」
「さあ、誰かなんて」
「見たところニーベルングかしら」
 こう察しをつけてきたのだった。
「その御顔見たら」
「そうなの?貴方は」
「ああ、そうさ」
 男はそのことを認めてきたのだった。
「わしはニーベルングの主アルベリッヒ」
「アルベリッヒ?」
「ニーベルングの国であるニーベルハイムから来たのさ」
「またどうしてここに来たの?」
「このライン河に」
 娘達は泳ぎながら水面に出て彼に問うのだった。
「実はだ、ラインの乙女達よ」
「実は?」
「そう、わしがここに来たのは遊びたいからなんだよ」
 こう彼女達に話すアルベリッヒだった。
「あんた達とね。いいかい?」
「つまり私達と付き合いたいってことかしら」
「まさか」
 乙女達はアルベリッヒに顔を向けて尋ねてきた。
「だったら中に来たら?」
「そうよ。このライン河の中に」
「私達のところにね」
「行ってもいいんだね」
 アルベリッヒは彼女の言葉を聞いて問い返した。
「それだったら」
「ええ、どうぞ」
「是非ね」
 乙女達は誘うような笑みを浮かべ彼に言ってきた。
「さあ、どうぞ私達の世界へ」
「水の世界へ」
 こう言ってアルベリッヒを誘う。彼はそれを受けて河の中に入る。そうして河の中に入ってコンクリートで舗装された水底に足を踏み入れると。急に顔を顰めさせた。
「何だ?ここは」
「あら、どうかしたのかしら」
「いやにつるつるして滑ってしまう」
 こう言って不平を漏らすのである。
「ぬるぬるして水が強いし。ニーベルハイムとはえらい違いだな」
「そんなに文句を言う必要はないわよ」
「ここは楽しい場所だから」
「そうだな。あんた達がいるからな」
 アルベリッヒは上で泳いでいる乙女達を見上げて応えるのだった。
「それもそうだよな」
「そうよ。それでアルプさん」
 ニーベルングのまたの名前である。
「誰がいいのかしら」
「私達の誰がよくて?」
「私はどうかしら」
 まずはヴォークリンデが彼のところにやって来た。
「私を捕まえられたらね」
「よし、それじゃあ」
「あら、残念」
 しかし捕まえられようとするところで。ヴォークリンデはあっさりとすり抜けてしまった。そうしてそのうえで上に戻って笑うのだった。
「捕まえられなかったわね。どう?また挑戦してみる?」
「意地悪でしているのか?」
 アルベリッヒはムキになった顔で彼女を見上げて言った。
「若しかしてそれは」
「そう思えなくて何だというのかしら」
「くっ、何て女だ。もういい」
 こう言って地団駄を踏む。しかしここでもう一人来たのだった。
「ヴォークリンデは忘れなさい」
「あんたは?」
「ヴェルグンデよ」
 彼女もまた彼のところに来た。そうして笑うのだった。
「よろしくね」
「そうだな」
 アルベリッヒは彼女の言葉を受けて考える顔を見せた。
「あの取り澄ました女より」
 ここでヴォークリンデを見上げる。彼女は相変わらず楽しそうに笑っている。
「あんたの方がずっと奇麗だ」
「あら、嬉しい御言葉」
「わしに気があるならばだ」
 今度はヴェルグンデに対しての言葉だった。
「もっと下に降りてきてくれないか」
「これ位かしら」
 彼に応えて降りてきたがそれは少しだった。
「これでどう?」
「もっと降りてきてくれ」
 とても捕まえることのできない高さなので顔を見上げさせて抗議する。
「そしてあんたをだ」
「それならよ」
「それなら?」
「その毛だらけの腕に」
 まず言うのはこのことだった。
「そして真っ黒で瘤だらけの顔」
「何だと!?」
「硫黄の臭いがすること」
 嘲る言葉だった。
「誰がこんな人を好きになるのでしょうね、果たして」
「糞っ、御前もいい」
「あらあら、そうなの」
 ヴェルグンデも笑って上に戻った。そうしてそこからヴォークリンデと同じく彼を嘲笑うのだった。明らかに馬鹿にしているものであった。
「それじゃあ残念ね」
「嘘つき女め」
「本当のことを言っただけよ」
「骨だらけの冷たい女だ、これはニーベルングの姿だ」
「それを醜いと言ってあげているのよ」
 ここでも嘲るヴェルグンデだった。
「本当のことをね」
「おのれ、覚えておれよ」
「まあまあアルプさん」
 そして三人目が来たフロースヒルデだった。
「ここは落ち着いて下さい。まだ私がいるわよ」
「あんたがか」
「そうよ」
 こう言ってきてそのうえで彼のところに来たのだ。
「二人に振られただけでしょ。私もいるわ」
「優しい歌だ」
 フロースヒルデの言葉を聞いてまた意気を取り戻したアルベリッヒだった。
「一人ではなく本当によかった。何人かいれば」
「いれば?」
「誰かから好いてもらえるからな」
「ヴォークリンデもヴェルグンデもわかっていないわ」
 フロースヒルデは楽しそうに笑いながら述べる。
「この人のよさがわからないなんて」
「あんたはそう言ってくれるのだな」
「ええ」
 にこやかに微笑んでの言葉だった。
「そうよ。貴方のお声もね」
「わしの声もか」
「そう。その烏みたいな声」
 彼女もまた嘲る言葉を出してきたのだった。
「それに刺すような眼差しに針みたいな髭。癖の悪いごわごわとした髪に屈んだ姿勢、そういったもののよさがわからないなんて本当におかしいわ」
「何っ、御前もか」
「あら、怒ったのね」
 彼女もまた笑って上に戻るのだった。
「怒る必要なんてないのに」
「何故そんなことを言うのだっ」
「本当のことだからよ」
 アルベリッヒを見下ろしながらの言葉だった。
「本当だからね」
「おのれ、よくもよくも」
 怒った言葉で三人に言うのだった。
「三人でわしを馬鹿にするのか」
「アルプさん、よくわかることね」
「あんた自身のことを」
 今度は三人で彼に言ってきたのだった。
「私達がどうしてあんたに声をかけるというの?」
「醜いアルプのあんたを」
「わしの醜さを言うのか」
「だから自分を見たら?」
「そうよ」
 また言う三人だった。
「悔しかったら私達を捕まえてみせなさい」
「私達をね」
「もうそんなことはせん」 
 怒りに満ちた声で告げるのだった。
「御前達は許さん、何があってもな」
「あら、そえでどうすうの?」
「私達を」
「見ておれ」
 からかわれた怒りで三人を見据える。しかしここで。その彼の目に黄金の輝きが入った。彼の前の川底の岩の頂上から出ている輝きだった。
「あの光は」
「見て二人共」
 ヴォークリンデが他の二人に声をかけてきた。
「ラインの黄金が輝いているわ」
「そうね。輝いているわ」
「奇麗に」
 こう言う合う乙女達だった。
「あの光があるからこそ私達も」
「ここにいられるのだわ」
「穏やかな平和も守られるのよ」
「何だその光は」
 アルベリッヒはその光を見て言った。
「あの光は。何だ」
「あら、ニーベルハイムであれは知られていないの?」
「あの光を」
「あんな光はわし等の世界にはない」
 こう言うのだった。
「只の黄金の光ではないな。あれは一体」
「ラインの黄金よ」
「知らないのなら教えてあげるわ」
 ここでもからかうような言葉であった。
「ちゃんとね。ここでね」
「あの黄金は水潜りの遊び相手であるだけか?」
 彼は言った。
「それなら何の意味もないのだが」
「それがわかっていたらそんなことは言わないわね」
「その通りよ」
 そしてこうアルベリッヒに話すのだった。
「このラインの黄金で指輪を作ったなら」
「指輪をか」
「無限の力を与えられこの世の全てを手に入れることができるのよ」
「何っ、それは凄い」
 アルベリッヒもこれを聞いて驚きの事をあげた。
「それではわしがそれを手に入れれば」
「私達のお父様」
「あのヴォータンが」
 彼等の父の名前も出した。
「この輝く財宝を守れというように命じたのよ」
「邪悪な者が狙わないように」
「そういうことよ」
「ふむ。そうなのか」
「もっともそれをできる人はいないわ」
 しかし彼女達は安心したようにここで言った。
「黄金を指輪にできる人はよ」
「そんな人はいないのだから」
「いないというのか」
「そうよ。そんな人はいないわ」
 こうアルベリッヒに話すのだった。
「絶対にね」
「いる筈がないのよ」
「何でそんなことが言えるんだ?」
 乙女達の言葉の意味がわからず問い返すのだった。
「そんなことをだ。どうしてだ?」
「それができる人は愛の力を諦めた人だけよ」
「愛をか」
「そう。そして愛の喜びを追い払うことができた人だけが」
 また言うのであった。
「それができるのよ」
「黄金を指輪に変えることがね」
 こう話していく。
「そんな人はいないから」
「生きていたら誰だって誰かを好きになるわ」
 だからだというのである。
「そんなことなぞできるものじゃないわ」
「あんたは特にそうね」
 またしてもアルベリッヒをからかいにかかってきた。
「女好きなんだから」
「女の為なら破滅さえ厭わないわよね」
「その通りでしょ」
「いや」
 しかしであった。ここでアルベリッヒは暗い顔で言うのだった。言いながらそのうえで意を決した顔にもなっていた。暗い情念に支配された顔だった。
「あの黄金を指輪にすればこの世の全てが手に入る」
「そうよ」
「今言った通りよ」
「わしは愛を手に入れることはできなかった」
 このことは今よくわかったことだった。乙女達の悪意によってだ。
「しかしだ」
「しかし?」
「どうしたというの?」
「わしの悪知恵がこの情念を抑えることはできるだろう」
「できるというの?」
「その元を断ってしまえばいい」
 笑っていた。しかしやはり暗い笑顔であった。
「それであの黄金を指輪に変えてやるのだ」
「えっ、まさか」
「本当にそうするというの!?」
「河の水も聞いておくのだ」
 曲がった背中を精一杯伸ばして今宣言するように告げた。
「わしは永遠に愛を呪うのだ」
「何てことなの?これでは」
「黄金が奪われてしまうわ」
「もう遅い!」
 アルベリッヒはその黄金に近付いていく。乙女達が止めようとするのを払って。
「無駄だっ!」
「きゃっ!」
「わしはニーベルングの王なのだ」
 その己のことを話した。
「そのわしに御前達風情が適う筈もなかろう」
「そんな、黄金が!」
 こうして黄金は奪われたのだった。そうして今全てがはじまったのであった。
 途方もない高さの山の上に彼等はいた。そうしてそこで神々しい服を着ていた。見れば彼等の服はみらびやかで着飾ったものであった。端整であり豪奢ですらあった。
 その服を着た金髪に青い目の年増の女が動いていた。整っているが中年特有のでっぷりとしたものがありそのうえ顔立ちはきつい。その女が言っていた。服はドレスであった。
「我が夫よ」
 眠っている男に声をかける。顎鬚を端整に生やし髪は後ろに撫で付けている。左目には眼帯をしておりそれがやけに目立っている。右手には槍がある。その服は白いスーツでありネクタイもそれだ。そして白いコートも纏っている。
「起きて下さい、ヴォータンよ」
「その声はだ」
「そうです、私です」
 こう彼に答えるのだった。
「フリッカです」
「そうだったな」
「貴方の妻である」
 こうヴォータンに対して言うのだった。
「お忘れではない筈です」
「忘れる筈がない」
 夫は言いながらその妻に答えた。
「御前のことはな。何があろうとも」
「さて、どうなのでしょうか」
 だがフリッカはこんなことを言いながら起き上がってくる夫に対してあまり信じていないような顔と声で返すのだった。夫を疑う様をわざと見せるようにしてだ。
「それは」
「信じないのか?私を」
「以前に色々ありましたから」
 今度ははっきりと夫の過去を責めてきた。
「そう言って何度不実をしてきたのか」
「そんなことは忘れた」
 だがヴォータンはそれはしれっとかわしてしまった。
「私はノルンではない。過去には囚われない」
「では未来のことは?」
「考えている」
 こう答えるのだった。
「しかとな」
「どうでしょうか。現在ですらあやふやだというのに」
「現在もとは言うものだな」
 今度は彼が妻のその言葉に抗議してきた。
「私は現に今我等の為にだ」
「ではフライアを何故」
 フリッカの言葉はいよいよ抗議の色を強めてきた。
「私に安閑とした時を喜びに費やすことを許さず約束の報酬を与えてくれないのですか?」
「それはどういうことだ?」
「彼等との約束の時が来ました」
 妻はまた言った。
「そうすればフライアは」
「そのことはわかっている」
 言葉を返しはするが憮然としたものだった。
「あの城を築かせる為にはな。フライアを出すしかなかったのだ」
「御自身の御力でそうすればよかったのに」
「城を築くのは奴等が一番だ」
 こう言って自己を弁護するのだった。
「奴等がな」
「それは私もわかっています」
 フリッカとて知らないことではなかったのだ。それは。
「ですがそれでもフライアを差し出すなどとは」
「懐柔する為だ。さもなければ奴等も従わなかった」
「ではフライアは?」
「心配には及ばん」
 ここでまたしれっとした言葉を出してみせるのだった。
「報酬のことなぞどうとでもなる」
「何という人なのかしら」
 だがフリッカは夫のその言葉を聞いて溜息を出すだけだった。
「そんなことでフライアを犠牲にするなんて」
「しかし御前も賛成したではないか」
 夫は夫で妻に言い返した。
「そうではないか?仕方ないと言ったな」
「言いはしました」
 フリッカもそれを言われると苦しかった。
「ですがそれでも。ああまで悲しむとは」
「悲しみは時として必要だ」
 ヴォータンの自己弁護も続く。
「だからだ。仕方ないと思うのだな」
「城は権勢」
 フリッカは己のことを置いて夫を責めることにした。
「それに囚われそして」
「そして。何だ」
「遠くに出て他の女と会い」
「そんなことは知らない」
 このことに対してはここでもとぼけてみせる。
「全くな」
「立派な住まいや心地よい家庭が貴方をつなぎ止める筈だったというのに」
「私もそれは否定しない」
「しかし貴方は休息をそこに求めず」
 つまり家庭を顧みなかったのである。彼は。
「城を築かせ護りやそういったものを考え支配や権力を見て」
「神としては当然だ」
 妻の言葉をかわそうとするがそれは苦しかった。
「その城は嵐の元となっているのではありませんか?」
「あの城がか」
「そうです」
 ヴォータンは遠くを指差した。天高くを。見ればそこには下半分が月のようになり上半分はそびえ立つ無数の高層ビルにより成り立っている巨大な城が浮かんでいた。
 その城を指差し。彼等は話すのだった。
「あの城がです」
「あれこそ我等に相応しいではないか」
 ヴォータンはその城を見ながら話す。
「神々にな」
「そして憂いを常に巻き起こすのですか?」
「あの城に入れば憂いなぞなくなる」
「どうでしょうか」
 最初からそんなことは信じていないといったフリッカの言葉だった。
「そんなことは。今でさえそれが尽きないというのに」
「今だからこそ尽きないのだ」
 夫はこう強弁した。
「今だからこそな」
「それもあの城に入ればなくなると」
「その通りだ。それに」
「それに?」
「フライアもだ」
 今度は自分から彼女の名前を出してみせた。
「私は御前が思っているよりも女性というものを尊重している」
「信じられないわ」
 彼のことがよくわかっているからこその言葉だった。
「その言葉は」
「その証拠に私はフライアを必ず救おう」
「それならです」
 フリッカの言葉が強いものになった。
「すぐにフライアを助け出して下さい。是非」
「姉様!」
 するとここにだった。やはり白くまばゆいドレスを着た美しい女が駆けてきた。若々しくそのうえ気品のある雰囲気で顔立ちは完璧なまでに整っていた。豊かな金髪をなびかせ湖の色の瞳をしている。そして薔薇色の唇と頬も見せていた。その女が怯えた顔で来たのだ。
「助けて、どうか私を」
「フライア、どうしたの?」
「ファゾルトが来て」
「あの男が来たというの?」
「ええ。それで私を連れに来たと言って」
「ただの脅しだ」
 だがヴォータンはそれをこう言って終わらせようとした。
「それはローゲに任せておけ」
「ローゲですか」
 フリッカはその名を聞くとすぐに眉をしかめさせた。
「貴方はいつも何かというとあの男を頼りにされますね」
「自由な勇気が役立つ時は誰にも相談しなくてもいいがだ」
「他の時は違うのですね」
「あの知恵と策略を聞くのだ」
 そうするというのである。
「今回もそうだったしな。だからあの男に任せよう」
「では彼は何処ですか?」
 フリッカはその彼が今何処にいるか尋ねるのだった。
「もうすぐ彼等がここに来るというのに」
「他の神々は何処なの?」
 フライアも不安と恐怖に支配された顔で周りを見回していた。
「義兄様もこんなことでは。フロー兄様は何処に?」
「そういえばドンナー兄様も何処かしら」
 フリッカは自分の兄も探すのだった。
「見当たらないけれど」
「さあ、神様達よ」
「いいか?期日だ」
 ここで山の頂上の天を衝かんばかりの大男達がやって来た。どちらも分厚い靴を履き作業服を身にまとい頑健な身体に襟や袖の端から毛深いものを見せている。
 髪は黒く硬いものであった。それは髭も同じでそれで顔中を覆っている。目は大きく眉も極めて太い。そうしたものを見ればどうしようもなく男性的なものが窺えた。
「このファゾルトと」
「ファフナーはだ」
 黒い目の男と茶色の目がようやく二人がどちらなのかを教えていた。
「あんた達は眠っている間も働きあの城を築き上げた」
「空に城を築き上げた」
 二人はその天空に浮かぶ城を指差しながらヴォータン達に対して話すのだった。その背はヴォータン達の優に倍はあった。
「あの城には全てのものがある」
「さあ、あそこに入れ」
 こう彼等に告げるのだった。
「そしてだ」
「報酬を支払ってもらおう」
「ではその報酬は何だ?」
 ヴォータンはその彼等を見上げて問うた。
「言ってみるのだ。それが何か」
「それはもう言ってある」
「違うか?」
 彼等は神を見下ろしてその低い、地の底から響き渡るような声で告げた。
「あのフライアをだ」
「春の女神をな」
「馬鹿なことを言うな」
 ヴォータンはその申し出にすぐに言い返した。
「神を渡せだと。他のものにするのだ」
「約束を破るつもりか?」
 だがファゾルトがそのヴォータンの言葉に抗議するのだった。
「そのグングニルに刻まれれている」
 ヴォータンが右手に持っているその槍を指差しての言葉だ。
「約束を取り決める為のルーンは偽りだというのか?」
「兄者よ、言った筈だ」
 ファフナーがここで兄に言ってきた。
「ヴォータンという神は不和を好み偽りを愛すると」
「だからか」
「そうだ。だからだ」
 こう兄に話すのだった。
「そうして戦を起こして戦士の魂を自分の下へ集めるのが仕事だからな」
「そのようだな。しかしだ」
 ファゾルトは弟の言葉を受けたうえでまたヴォータンに顔を向けて告げた。
「約束は守るのだ。あんたの現在の立場もだ」
「どうだというのだ?」
「契約によりなっているのだ。この度のこともその筈だ」
 ヴォータンにとっては逃れられないことであった。
「そうしてわし等を呼んで働かせた。若し公明で隠し立てもなく正直ならばだ」
「どうせよというのだ?」
「約束を守るのだ」 
 彼が言うのはあくまでこのことだった。
「さもなければこちらも平和をかなぐり捨てるぞ」
「神を手渡せというのか」
「それが契約だからだ」
 ファゾルトには絶対の根拠があった。だからこそ強かった。
「わし等とのな。そう」
「わし等はだ」
 二人はここでジロリとフライアを見た。フライアはその視線を受けただけで身体を奮わせる。その彼女を姉であるフリッカが抱き締めて守っていた。
「この節ばった手で汗水流して働き寝食も忘れていたのはだ」
「契約の為だ」
 これだというのだった。
「フライアを妻にもらいたいからなのだ」
 ファゾルトはそうであった。
「わし等は儲けを求めてはいない」
 ファフナーも言う。
「だからフライアを貰うというのだ」
「ローゲはまだか」
「貴方が御呼びしたらいいのです」
 フリッカの夫への言葉は険しい。
「その槍に契約の言葉が刻まれているのですから」
「それはそうだが」
「さあ返答は」
 またファゾルトが言い迫ってきた。
「どうされるので?」
「他の報酬にするのだな」
「約束は約束だ」
 ファゾルトも引かない。
「だからフライアを」
「そうだ。今貰おう」
 ファフナーがここでその巨大な手を伸ばしてきた。そうしてフリッカを払いのけその手にフライアを抱き締めてしまったのであった。
「これでな」
「待て!」
「その手を放せ!」
 ここで頂上にやはり白いタキシードにコートの者達が来た。一人は赤い髪を豊かに伸ばし顔中に髭を生やした大男だ。巨人程ではないがやはり大きい。その右手に鎚を持っている。
 もう一人は若々しい美男子で金髪碧眼である。服は他の神々と同じで右手に剣がある。
「フライアから放れるのだ」
「許さんぞ!」
「ドンナー兄様」
「フレイ兄様!」
 フリッカとフライアは二人を見てそれぞれ明るい顔になった。
「来て下さったのですね」
「私の為に」
「さもなければこのミョッルニルが御前達を倒す」
 ドンナーは巨人達に対して告げてきた。
「今すぐな」
「契約を守らずには」
「これを報酬とするのだな」 
 ドンナーは彼等に対してその右手の鎚を見せてまた告げた。
「雷をな」
「くっ、それは」
「それだけはな」
 巨人達はドンナーとその鎚を見て怯むしかなかった。ドンナーはまさに彼等巨人族にとっては天敵でありミョッルニルに多くの同胞を倒されているからだ。
 両者の関係は逆転しようとしていた。だがここでヴォータンは。己のその槍を見て苦渋に満ちた決断をしなければならなかったのである。
「待て」
「待てとは?」
「契約は契約だ」
 フライアはこの言葉を聞いてその整った表情を割ってしまった。
「それは反故にはな」
 出来ないと言おうとした。しかしその時だった。黒い肌をしたすらりとした美男子がやって来た。黒髪を端整に流し目は知性に満ちた赤いものであった。そこにはただ知性があるだけではなかった。
 服は赤だった。赤いスーツにネクタイである。そしてやはり赤いコートを羽織っている。そのコートがまるで燃える炎のように映えていた。
 ヴォータンはその彼を見て。言うのだった。
「ローゲ、貴様のせいだ」
「私のせいといいますと?」
 何気ない顔で平然とやって来たローゲはここで驚いたような顔を見せてきた。
「といいますと何か」
「何かもこうしたもない」
 こう彼に言うのだった。
「御前の取り決めたこの話を何とかするのだ」
「ふむ。あの城の話ですな」
「そうだ」
 その空に浮かぶ城を見たローゲに対してまた言うのだった。
「あの城をな」
「いい城ですよ」
 ローゲは平然とヴォータンに対して返すのだった。
「今さっきまで中に入って調べていましたが」
「だから今までいなかったのか」
「そうです。何処も非常に素晴らしいものです」
 また言うローゲだった。
「ファゾルトとファフナーは完璧な仕事をしました」
「それがどうかしたのだ?」
「私もちゃんとチェックをしたのです」
 ローゲが言うのはこれだった。
「怠けていたわけではありません」
「そうやって誤魔化すのか?」
 ヴォータンはローゲのことがよくわかっていた。
「私を」
「貴方をですか」
「私は御前にとって何だ?」
「義兄弟ですよ」
 またしても平然と答えるローゲだった。
「それは忘れたことがありません」
「ならば義兄弟としてだ」
 ここで彼にもその槍を見せた。右手に持つ槍をだ。
「その知恵でな」
「私は申し上げましたが」
 しかしローゲはここでもしれっとしたものだった。
「この契約に関してはじっくりと考えられることを」
「だからどうだというのだ?」
「どうしても実現しかねること、成功しないことをやるなどと誰が誓えますか?」
「ほら、見なさい」
 フリッカは今のローゲの言葉を聞いてすぐに夫に顔を向けた。
「こんな男をどうして頼りにされるのですか?」
「ローゲ、御前は炎だが」
 今度はフローが怒った声で彼に言ってきた。
「今度は嘘と呼ぶぞ」
「忌々しい炎だ」
 ドンナーはその鎚を彼に向けていた。
「まずは貴様をこの鎚で成敗するぞ」
「また何を仰るのか」
 ローゲは彼等にそう言われてもやはり平気な顔をしている。
「私はちゃんと働いていますよ」
「まあ待て」
 ここでヴォータンが両者の間に入った。
「ここはローゲの知恵しかないのだからな」
「またいつものようにローゲを庇って」
 フリッカはそんな夫の態度に腹を立てて仕方がなかった。
「何の得があるのですか?」
「この男は知恵を小出しにするがだ」
 ヴォータンは言う。
「それだけに中々値打ちがあるのだ」
「小出しにすることもない」
「そうだ。報酬をだ」
 ファフナーとファゾルトにすればその通りだった。
「早く出すのだ」
「さあ、知恵を出すのだ」
 ヴォータンはあらためてローゲに顔を向けて問う。
「御前のその知恵をな」
「思えば私も難儀なものです」
 ローゲはヴォータンのその言葉を聞いて言うのだった。
「いつも恩を仇で返される。それが私の運命でしょうか」
「そうしているのは貴方ではないの?」
 フリッカは彼に対しても抗議めいた言葉を出す。
「いつもいつも」
「まあ聞いて下さい。私は城の中だけを見てきたわけではないのですよ」
「他の場所も行ったというのか」
「だからここに来るのが遅れたのです」
 こうヴォータンに答える。
「それでなのですよ」
「そうだったのか」
「そうです。いや、世界中歩き回って愛と見合うだけのものを探しましたが」
 彼は言う。
「しかしそれはない。世界は思ったより貧しいこともわかりました」
「そんなことを今更言ってどうだというの?」
 やはりフリッカは彼には厳しい。
「そうやってまた言い逃れをするの?」
「それはしませんよ。まあ誰も愛を断とうとはしませんね」
「その通りだ」
 ヴォータンにもよくわかることだった。
「それでは生きている意味がない」
「しかしです。私は知りました」
「知ったとは?」
「この世でただ一人。愛を諦めた男がいました」
 今度語ったのはその男のことだった。
「その男はニーベルングのアルベリッヒ」
「あの男か」
 ヴォータンは彼の名を聞いて呟いた。
「確か女に汚かったな」
「しかし愛を諦めラインの」
「まさか」
「そう、そのまさかです」
 ヴォータンの言葉に応えていよいよ言った。
「そのまさかなのですよ。ラインの黄金を奪い取りました」
「どうせあれでしょう」
 フリッカもその話を聞いておおよその察しをつけてきた。
「あの娘達に言い寄って拒まれそのうえで、ですね」
「その通りです。そしてその黄金を奪い取りました」
「そんなことがあったのか」
「はい、今さっき」
 まさに今だというのである。
「ラインでその乙女達の嘆きを聞いたのです」
「愛を捨てた者がか」
「ヴォータン、彼女達は御願いしています」
 ここまで話してあらためてヴォータンに告げてきた。
「その黄金を自分達のところに取り戻して欲しいと。そう仰っています」
「そのことをか」
「私は彼女達の願いを聞き入れ今ここに申し上げました。これで私の仕事は終わりです」
「終わりではない」
 しかしヴォータンはそれで許しはしなかった。
「それがどうしたというのだ?」
「確かあの黄金はだ」
「そうだったな」
 ラインの黄金の話を聞いて巨人の兄弟達もひそひそと話をはじめた。
「持てばこの世を支配できる」
「その力があったな」
「だとすればだ」
「うむ」
 二人で話を続けていく。
「それを小人如きにやるのは」
「あの憎らしいニーベルング族にはな」
「世界を支配できるか」
 ヴォータンもラインの黄金のことを考えはじめた。
「それを手に入れることができれば」
「ラインの黄金は私も見たことがあります」
 フリッカも夫に対して言う。誰もが考える顔になっている。
「あの美しさで飾れば」
「ええ。全てを思い通りにできますよ」
 ローゲは彼女に囁くことも忘れなかった。
「そうすれば御主人方の貞操も」
「そうね。あれがあれば」
「世界は神々の治めるものだ」
 あくまでヴォータンの理屈である。
「だとすれば我等がだ」
「そう。そうすれば」
「安泰になる、我等も」
「アルベリッヒは愛を捨てました」
 ローゲはまたこのことを一同に告げる。
「そして今その黄金を指輪にしました」
「指輪に」
「そう、全てを支配する指輪に」
 あえて神々にも巨人達にも聞こえるかのような言葉を出しているようだった。
「変えたのです」
「そんなものがあの男の手に入れば」
「そうだ、大変なことになる」
 ドンナーとフローはそのことを心配するのだった。
「只でさえ傲慢な男だ」
「あの男に渡れば大変なことになるぞ」
「よし」
 ここでヴォータンは決断を下した。
「その指輪はだ」
「どうされますか?」
「私が管理する」
 体よくこう表現するのだった。
「それでいいな」
「そうされたいのならば」
 ローゲはこのことにはあえて反対の言葉は述べなかった。だが何処か醒めた、そしてヴォータンの心を見透かしているような目であった。
「そうされるのがいいかと」
「そうだな」
「今なら簡単に手に入れることができます」
 そしてこうも囁くのだった。
「それも極めて」
「簡単にか」
「はい」
 にこやかに笑ってさえみせた。
「それは可能です」
「ではどうするのだ?」
「奪うのです」
 そうせよというのだった。
「それだけです。泥棒が盗んだものを盗み返す」
「泥棒が盗んだものを!?」
「その通りです。簡単ではありませんか」
 ヴォータンに対しての言葉だった。まさに囁くように。
「ですがアルベリッヒも抵抗するでしょう」
「そうだな」
 これは容易にわかることであった。
「間違いなくな。そう簡単には手渡したりはしまい」
「ですから賢明かつ巧妙にことを運びましょう」
 ローゲはまた言う。
「そしてあの泥棒を裁きラインの乙女達にあれを戻しましょう」
「ラインの乙女達か」
 だがヴォータンはその名前を聞いても不快な顔を見せるだけであった。
「あの者達が何だというのだ」
「何だとは?」
「あの娘達といえば」
 フリッカもまた不快感に満ちた顔を見せてきた。
「色々な相手をかどわかしからかってばかりだというのに」
「だから戻されなくていいと」
「そうです」
 ローゲにもはっきりと答えるのだった。
「ですから構いません。戻さなくとも」
「いや、そうはいかないのでは?」
「いいのです」
 神々はそんなやり取りをしていた。そうして巨人達もあれこれと話をしていた。
「兄者」
「何だ?」
「その黄金はフライアより価値があるぞ」
 ファフナーが兄に話していた。
「黄金の魔力を使えばだ」
「うむ」
「永遠の青春を得られる」
 こう話すのであった。
「だからここはだ」
「どうするのだ?」
「わしに任せてくれ」
 こう兄に話しそのうえで。ヴォータンに対して言うのだった。
「ヴォータンよ」
「何だ?」
「フライアはいい」
 こう言うのだった。
「それよりもずっと小さな報酬で解決してもいいのだが」
「ずっと小さなか」
「そうだ。わし等にはニーベルングの赤い黄金で充分だ」
 こう話すのである。
「それでな」
「何だと!?」
 しかしヴォータンはそれを聞いて怒りの声をあげるのだった。
「あれは私のものだぞ、あの黄金は」
「あの城を築くのはかなりの苦労だった」
 ファフナーは城のことを話すのだった。
「アルベリッヒを捕らえることは過去のあの者達の戦いで常に失敗したが」
「忌々しい奴だ」
 ファゾルトもい忌々しげに言った。
「常に悪知恵を使うからな」
「だが貴方なら違うな」
 意地悪そうな目でヴォータンを見て言うファフナーだった。
「そうだな。どうだ?」
「私を利用するというのか」
 ヴォータンはファフナーの今の言葉を聞いてさらに不機嫌さを増してきた。
「あのアルプを捕まえる為に。貴様等の敵を捕まえる為に」
「それがどうしたというのだ?」
 こう言われてもファフナーは平然としている。
「わし等にとってはこの程度は軽い報酬ではないのか?」
「さあフライア」
「ああっ!」
 ファゾルトがフライアをまた引き寄せた。
「話が済むまでわし等の人質だ」
「そんな、それでは」
「夕方まで時間をやる」
 ファフナーも言う。
「またやって来る。その時に黄金を用意しておくのだな」
「若し遅れればフライアはわし等のものだ」
 ファゾルトはフライアを見ながら神々に告げる。
「いいな、それで」
「それではな」
「姉様、これでは」
「フライア!」
 二人の嘆きも効かなかった。巨人達フライアを連れていく。神々は追おうとするがそれは適わなかった。ローゲはそれを一人見て呟いていた。
「巨人達は切り株や岩を超えて谷間へ急ぐ。ラインの浅瀬を渡って進んでいく」
「ローゲ、その言葉は何だ?」
「荒くれ男達に連れられていくフライアは嬉しそうには見えませんね。ですがヴォータンよ」
「どうしたというのだ、一体」
「急にどうしたんですか?」
 こう彼に対して問うのだった。
「何か考え込んでるようですが」
「考え込んでいるだと?私がか」
「そうですよ。霧に覆われたみたいに。夢にかられたみたいに」
 ヴォータンの顔を見ながらの言葉だった。
「不安げでしおれてますよ。それも皆も」
「皆だと。何と」
 ヴォータンはローゲの言葉を聞いて他の神々を見た。見ればローゲの言葉通りだった。フリッカもドンナーもフローも急に力をなくしていた。
「頬のつやはないし目の光も曇っている」
「力が」
「動きが」
「ドンナーもフローも」
 まずは二人を見て言った。
「急に元気がなくなって。フリッカも」
「老いた?まさか」
「ああ、そういえばですね」
 ローゲはそんな彼等を見てわかったのだった。
「まだフライアの黄金の林檎を食べていませんでしたね、今日は」
「夕刻に食するつもりだった」
 ヴォータンは今にもへたれ込みそうになりながらローゲに答えた。
「だが今は」
「あの林檎を世話するフライアはいなくなった。だからですね」
「そうなのか。これは」
「フライアがいないと林檎の木も終わりですね。世話をしないともちませんから」
 ローゲは他人事そのものの言葉だった。
「干からびて枯れて腐って落ちてしまいます」
「そんなことになれば」
「ですが私には関係のないことです」
 冷たい声で告げたローゲだった。
「それも」
「関係ないというのか?」
「だって私は半分神で半分妖精ですから」
 実にしれっとした言葉であった。
「フライアは私にはくれませんでしたからね」
「では何故平気なのだ?」
 ヴォータンも実は今までこのことに考えたことがなかったのだ。
「そういえば御前だけが」
「ですから。半分は神で半分は妖精です」
 このことをあらためて話すローゲだった。
「妖精は老いませんし神は死にませんから」
「だからか」
「貴方達は林檎に頼り過ぎていたのですね」
 弱っていく神々を見下ろしての言葉だった。
「そして巨人達はそれを知っていたのですよ」
「それでか。それでフライアを」
「そうだったのか」
「弱ってしまえばそれで終わりです」
 ローゲはドンナーとフローにも話した。
「神々は滅びますよ」
「ではどうすればいいの?」
 フリッカが声をあげた。
「このままでは私達は」
「ローゲよ」
「はい」
「私と共に行くのだ」
 こうローゲに告げてきた。何とか立ち上がりながら。
「ニーブルヘイムに行きあの黄金を手に入れるぞ」
「そうですね。そうしなければ話になりませんから」
 ローゲもそれに応えて言う。
「では行きましょう。今から」
「うむ、それではな」
「ではヴォータン」
 ここでローゲはヴォータンに対して問うのだった。
「乙女達の願いを聞き届けてくれるのですか?」
「フライアを救うのだ」
 これがヴォータンの考えだった。
「あの者達のことなぞはな」
「まあそれではです」 
 ローゲはとりあえずそれを聞き流してそのうえでまたヴォータンに対して言うのだった。
「何処からニーブルヘイムに行きます?ラインからですか?」
「馬鹿を言え」
 ラインと聞いて顔を顰めさせた。
「他の道だ。当然な」
「では硫黄の坑道を通りますか」
「そうだ。それで行くぞ」
「では。道を開きます」
 ローゲが右手を下に掲げるとそれで。下に異臭のする道ができたのだった。
「それでは。ヴォータンよ」
「夕方には戻る」
 こう他の神々に告げるヴォータンだった。
「黄金を手に入れてな」
「ええ。では」
 こうしてヴォータンとローゲは硫黄の坑道に入る。そうしてそのうえでアルベリッヒのいるそのニーベルハイムに向かうのだった。



面白そうな話だな。
美姫 「本当よね。今の状況は三つ巴とは少し違うけれど、大まかに三つの思惑がある感じよね」
それとは別にローゲは何か企んでいるようにも見えるし。
美姫 「先がかなり気になるわね」
ああ。次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る