『時空を越えた超戦士−Remake−』

其之十五 戦闘力

 

 絶対絶命の危機だったフェイトとクロノ、アースラ所属の武装隊員達だったが、1人の乱入者によって救われた。

 いや、まだわからなかった。

 何故なら、フェイト達を救ったと思われる男の正体が不明なのだ。

 何よりも、この男はタニブと共通点がある。

 それは、腰に巻き付けられている『尻尾』…。

 魔導師が死亡直前、もしくは直後の動物を元に造り使役する『使い魔』の様な魔法生命体以外で、『尻尾』が生えている人間など、管理局が把握している次元世界の中には存在していない。

 いや、世界は広いので管理局が認知していないだけかもしれないが……。

 

「大丈夫ですか?」

 

 フェイト達の前に場違いとも言えるほどの幼い少女が姿を見せた。

 管理局は人手不足のため、優秀な人材ならば例え子供でも、勧誘をする。

 実際、フェイトも弱冠9歳で、管理局の嘱託魔導師となった。

 それでも流石に目の前の少女は幼すぎた。

 

「とりあえず…」

 

 少女……キャロの手が光り、フェイトの体を包むと少し痛みが緩和していった。

 

「ヒーリング?」

 

「私はこんな事しかできませんが…」

 

 キャロは、竜召喚ま他に補助魔法にも優れた素質を持っている。

 とはいえ、まだヒーリングくらいしか使用できず、怪我の完治には至らない。

 しかし、痛みを和らげる応急処置程度には役に立っていた。

 

「キャロ。足手まといになるから、そいつらを下がらせろ!」

 

「はい。お父さん…。さあ、皆さんこちらに……」

 

 バーダックの指示を受け、キャロはフェイト達を促した。

 だが、タニブが自分達を見逃すとは思えない。

 クロノは、そう考えタニブの方に視線を向けたが……相手はこちらを見ていなかった。

 驚愕の表情で、バーダックに視線が釘付けになっていた。

 

「バーダック……生きていたのか?」

 

「フン!テメーらも生きていたんだ、俺が生きていても不思議じゃあるまい?」

 

「…それよりも何の真似だ……なんで俺の邪魔を?」

 

 バーダックが生きていた事にも驚いたが何故、同族である自分に立ち塞がってるのか?

 

「スビッチやローティスにも言ったが、もうテメーらは俺にとって同族でもなんでもねぇ…俺の言う事を信じないだけならともかく、笑い者にしやがったテメーらをな…」

 

「…!?」

 

 タニブはハッとなり、スカウターでバーダックの戦闘力を測った。

 

「戦闘力3000……お前の戦闘力って確か7000はあった筈……というかやっぱりこの数値……スビッチとローティスを殺ったのは…?」

 

 バーダックは不敵に哂いながら頷く。

 

「スビッチやローティスにも言ったが、俺が貴様らを地獄に堕としてやる」

 

 タニブは戦慄した。

 何故か戦闘力が落ちているバーダックだが、それでも自身よりも700は上である。

 700程度の違いならば、勝てないまでも善戦は出来るだろうが……勝てなくては意味が無い。

 何よりも戦闘力3000というのが妙なのだ。

 スビッチやローティスは単純に腕を落としたと判断したが、いくらなんでも7000から3000まで落ち込むというのはおかしい。

 いくらサイヤ人が戦闘民族とはいえ、鍛錬を怠れば体が訛る。

 とはいえ7000から3000まで落ち込むなど、1年くらい寝たきりで生活でもしていない限りありえないのだ。

 

【何を躊躇ってるのだタニブ!】

 

「キャーベ!!」

 

 キャーベの怒声が、タニブのスカウターに届いた。

 バーダックは、先ほどまでOFFにしていたスカウターの通信機能をONにした。

 

「久しぶりだなキャーベ!」

 

【貴様が生きていたとは思わなかった。身の程知らずにもフリーザに挑んで返り討ちあってくたばったとばかり思っていたぞ】

 

 嘲笑を含むキャーベの言葉に、バーダックは青筋を立てながら聞いていた。

 

【そもそも、ベジータ王ですら勝てなかったフリーザを相手に下級戦士の貴様が勝てるわけなかろうが】

 

 実を言えば、サイヤ人の上層部はフリーザの裏切りの情報を掴んでいた。

 そして前々からフリーザに不満を抱いていたベジータ王は、エリート戦士の精鋭を率い、バーダックがドドリアに敗れ、惑星ベジータに帰還している間にフリーザの宇宙船に奇襲を掛けていたのだ。

 結果は失敗。

 ベジータ王はフリーザに一撃で葬られた。

 この奇襲は、フリーザに悟られない為に緘口令が布かれ、一部のエリート戦士以外、惑星ベジータを離れていたベジータ王子にすら伝えられなかった。

 キャーベも名門出のエリート戦士だが、下級戦士統括という立場から、下級戦士達に漏れる事を防ぐ為、ギリギリまで伝えられなかった。

 キャーベがこの事実を知ったのは、下級戦士達がバーダックを笑い者にし、バーダックが単身フリーザに挑む為飛び出した直後であった。

 

【そんな事よりもタニブ。今そっちにコーンを向かわせた…2人で何としてもバーダックを殺せ…戦闘力3000.ならば2人掛かりで倒せるはずだ】

 

 何らかの理由でバーダックの戦闘力が落ちたのならば、今の内に殺しておくべきだ。

 キャーベはそう判断していた。

 いかにフリーザによって、サイヤ人が絶滅寸前に追いやられていても、バーダックを仲間に加えるわけにはいかない。

 おそらくサイヤ人の生き残りは、バーダックとキャーベ達以外ではフリーザの下にいるベジータ王子、ナッパ、戦闘に向かないので辺境惑星に送られたターブル王子、バーダックの息子2人、そしてターレスと言う名の6人しか生き残っていないはずだ。

 パラガスとその息子は、王の命で始末された。

 そして、こちらの世界に飛ばされたサイヤ人の中でエリート戦士なのはキャーベだけだ。

 ならば自分こそが、この世界でのサイヤ人の王となる資格がある。

 しかし、それを脅かす存在がいる。

 バーダックだ。

 下級戦士の生まれの癖に、エリートを上回った目障りな男。

 今はなんらかの理由で、戦闘力が落ちているようだが、何時また取り戻さないとも限らない。

 バーダックも自分よりも弱い者に従う気はないだろう。

 このチャンスを逃すわけにはいかなかった。

 しかし、キャーベは思い知らされる。

 別にバーダックは弱体化したわけではないことを……。

 

「…来たか」

 

 スカウターでのキャーベとの会話の最中に1人の女性が姿を現した。

 

「久しぶりだねバーダック!」

 

「ああ。久しぶりだなコーン」

 

 サイヤ人の女戦士、コーン。

 女性でありながら、下級戦士2の実力を誇る戦士である。

 1のバーダックを覗けば、この世代において最もエリート戦士に近付いたサイヤ人だろう。

 次世代には、エリートを軽く超えた下級戦士が2人ばかり誕生している。

 最もそのうちの1人はドーピングによるものなので、本当の意味で超えたとは言えないが……。

 

「旧交を温めたいけど、キャーベの命令でね。悪いけど覚悟してもらうよ」

 

「俺としてはテメーらと馴れ合うつもりは更々無ぇから構わねぇよ」

 

 既に仲間意識を持っていないバーダックにとって、旧交もヘッタクレもなかった。

 

「上等だよ。いくよタニブ!」

 

「おう、目にモノ見せてやるぜ、バーダック!」

 

 ★☆★

 

 キャロに促され、バーダック達から離れた場所で見ていたフェイト達は呆然としていた。

 

「そ……そんな!?」

 

「し……信じられない…」

 

 フェイトとクロノはなんとか声が出せたが、ギャレット達アースラ所属の武装隊員達は声も出す事すらできなかった。

 何故ならば、自分達を赤子扱いにし、まったく歯が立たなかった相手が……戦闘が始まって1分も経たない内に、その胸板を拳で貫かれ、血反吐を吐きながら倒れこんだのだ。

 

「こ……こんな…バ……馬鹿な!?」

 

 現在のタニブとバーダックの戦闘力数値は700の差がある。

 しかし、お互い4桁代の相手ならば、7それなりに渡り合える事が可能な差だったのに…。

 タニブは、現実を認める事ができないまま……意識が途絶え、絶命した。

 あれほど管理局の者達に恐怖を与えた者にしては、あっさりとした最後だった。

 

「タ……タニブ……どうなっているんだ……いくら私たちよりも戦闘力が上とはいえ、こんなあっさり…!?」

 

 あまりにも予想外の出来事に動揺しているコーンのスカウターが自動でバーダックの戦闘力を計測した。

 

「…せ……戦闘力5000!?」

 

【な……なんだと!?】

 

 いきなりの戦闘力の変化に、コーンとキャーベは絶句していた。

 

「…俺が昔よりも弱くなっていると一言でも言ったか?」

 

 それに対しバーダックは冷笑で応えた。

 バーダックはスビッチとローティスにも説明した様に、戦闘力の|制御《コントロール》が出来る事を告げた。

 体への負担を抑える為に平時は戦闘力を抑えているだけて、今の自分の本気はこんなモノではない事を…。

 

「言っておくが、これが限界じゃねぇぞ!俺はまだ実力の一割も出していないからな」

 

 戦闘力5000で実力の一割にも達していない。

 コーンは、それをはったりだと決め付ける事は出来なかった。

 下級戦士でありながら、エリートを上回るバーダックは、サイヤ人から見ても奇異に映る。

 ましてやキャーベら追い抜かれたエリートから見れば、憎悪の対象ともなる。

 ベジータが、悟空に対し並々ならぬ対抗心を持った様に……。

 彼の悟空に対するの対抗心は、サイヤ人の王子として、惑星ベジータの名を持つ天才戦士としての誇りから来るモノである。

 悟空の強さを認めた後も、彼は悟空に勝つ事を諦めなかった。

 しかし、キャーベはベジータ程の矜持は持っていなかった。

 意地でもバーダックを超えようとせず、ただバーダックを僻むだけで、バーダックと顔を合わせれば、名門出の出自を強調するだけの男。

 サイヤ人だったら、家柄や肩書きではなく、実力を持って自らの矜持を示すべきなのだ。

 これこそがバーダックが、キャーベを認めない理由であった。

 

「…くっ」

 

 コーンは、半ばやけくそでバーダックに攻撃を仕掛けたが、その攻撃がバーダックに当たる事はなかった。

 すべて余裕で躱され、軽く蹴飛ばされ、数十メートル先まで吹っ飛んだ。

 勝機がまったくないと判断したコーンは、躊躇う事なく撤退した。

 

「フン。逃げやがったか……まあいい」

 

 バーダックは逃げたコーンを見送ると、フェイト達の方に向かった。

 

「キャロ!帰るぞ」

 

 フェイト達の応急手当を終えたキャロを促し、この場を離れようとした。

 

「待って下さい!」

 

 キャロを抱きかかえ、飛び立とうとしたバーダックをクロノが止めた。

 

「僕は時空管理局所属、アースラ艦長クロノ・ハラオウンです。事情聴取に協力してください!」

 

「断る!」

 

 要請に対し、即答したバーダックに、クロノは一瞬、鼻白む。

 

「時空管理局だかなんだか知らねぇが……命が助かったんなら、さっさと尻尾を巻いて逃げるんだな」

 

 タニブ1人に梃子摺っているようでは、キャーベはおろかコーンにも勝てない。

 そんな足手纏いとこれ以上関わる気などバーダックにはなかった……のだが…。

 

グキュルゥゥゥゥゥゥゥゥ!

 

「何、今の音…?」

 

 いきなり獣のうなり声の様な音が鳴り響き、フェイト達は周囲を警戒した。

 

「お父さん……お腹空いたの?」

 

 音の正体はバーダックの腹の虫だった。

 ルシエの里が襲われたので狩りを中断したので、食事を摂っていなかったのを思い出していた。

 

「今の……お腹の虫か?」

 

「こんなにも大きく響くとはどういう構造をしているんだ?」

 

 常識ではありえない現象に、武装隊員達は呆気にとられていた。

 

「……食事はこちらで用意しますので、協力願えませんか?」

 

「……しょうがねぇな……その代わり御馳走を用意しろよ」

 

 ここ最近、狩った獲物の丸焼きや木の実や山菜といった食事が続いたので、きちんと調理された料理は久しぶりである。

 丸焼き料理も悪いわけではないが、やはりきちんと味付けされた料理も時折食べたくはなるのが人情というモノだ。

 

「すぐに準備をします……では着いてきてください」

 

 どうやらこの男は胃袋の方を攻めれば、ある程度ならこちらに妥協してくれるようだ。

 クロノはそう判断した。

 

(最も、あまり調子に乗ると、碌な事にはならないようだけどね)

 

 下手に調子に乗って、機嫌を損ねれば、此方の破滅である……という事も直感していた。

 

 ★☆★

 

 本拠地に逃げ帰ったコーンは、キャーベに平伏していた。

 

「でも、どう足掻いても私だけじゃバーダックには勝てないよ」

 

 戦闘力をコントロールできるなんて聞いたことがなかった。

 変身などで戦闘力を上げる種族ならともかく、戦闘力をコントロールできる種族は、宇宙全体から見ても稀少な存在である。

 コーンは今まで、そんな事ができる星間種族と出会った事などなかった。

 それはキャーベも同様である。

 フリーザ軍の中でも、戦闘力がコントロール出来る種族の存在を知っているのは、フリーザの腹心であるザーボンやドドリア、そしてギニュー特戦隊くらいである。

 そして、フリーザ軍の中で戦闘力のコントロールが可能なのは、フリーザとギニュー隊長のみであった。

 

「アイツはカナッサ星から帰ってきたときに既に戦闘力10000近くあったんだ。今回の5000っていう数値もアイツがコントロールしている結果ならば、今のアイツの戦闘力はエリート戦士はおろか王族レベルかも知れないよ!」

 

 サイヤ人の中で戦闘力10000を超えるのは王族と、|パラガスの息子《ブロリー》くらいである。

 下級戦士でありながら、バーダックは王族レベルの実力を身に付けたのだとしたら、自分達では相手にならない。

 

「ここは、奴に頭を下げて許してもらった方が…「黙れ!」……!?」

 

 キャーベはバーダックに降伏する事を勧めるコーンの顎を掴み、黙らせた。

 

「今度同じ事を言ってみろ!いかにお前と言えど殺すぞ!!」

 

 怒気の孕んだ眼光見据えられ、コーンは沈黙した。

 

「お前には俺のガキを孕んで貰わなければならないから、他の奴より優遇しているだけだ……下級戦士の分際で出過ぎた事を言うな」

 

 サイヤ人がフリーザによって滅ぼされ、僅かしか生き残りがいない中、コーンは唯一の女性サイヤ人である。

 つまり、純血のサイヤ人を産めるのは彼女のみで更に下級戦士の中でも実力が高いので、キャーベはコーンをタニブ達よりも優遇していた。

 

 「キャーベさん…今、戻りました」

 

 転送ポートが起動し、2人の男が姿を現した。

 

「戻ったか、オニオン、ブロッコ」

 

 この2人もまたサイヤ人である。

 だが、その戦闘力はそれぞれ、オニオンが450、ブロッコが500と下級戦士の中でも半人前のレベルに過ぎない。

 キャーベから見ればいてもいなくても構わない雑魚、せいぜい雑用にこき使う程度の奴等であった。

 しかし、タニブ、スビッチ、ローティスといった自分のチームの者達がバーダックによって消されてしまったので、こんな奴等でも使わなくてはならない様だ。

 

「それで、『ブツ』は完成したのか?」

 

「へい、実験は成功しました。まだ一つだけですが持ってきました」

 

 ブロッコは『ブツ』をキャーベに手渡した。

 

「キャーベ…それは?」

「ククク……これさえあればいかに奴の戦闘力が10000を超えていても勝てる!バーダック…覚悟しておくがいい。今こそ今までの屈辱を果たしてやる!!」

 

 キャーベこの自信は何処からくるのか?

 そして『ブツ』とは……一体!?




バーダックによって救われたな。
美姫 「そうよね。で、そのまま去るかと思いきやだったわね」
まさかの腹の虫で一時的にとは言え、一緒に行動するとはな。
美姫 「こっちの方は特に問題ないようだけれど、気になるのはキャーバの方よね」
だよな。一体、何を企んでいるのやら。
美姫 「どうなるにしても、再び対決する事にはなりそうよね」
ああ。一体、何を持ち出してくるのか、そしてどうなるのか。
美姫 「気になる続きは……」
連続してこの後すぐ!



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