『時空を越えた黄金の闘士』

第一話 「違う世界」

 

 

「……ッ!?こ……ここは?」

目を覚ましたカノンは周りの風景を見て、いぶかしんだ。

そこは、冥界ではなく、現代風の部屋であった。

少なくとも、聖域や冥界の石造りの部屋ではない。

自分が寝ていたベッドも石造りの物ではなく、柔らかいベッドであった。

そもそも、何故自分が生きているのか……不思議だった。

自分の体を見ていると、体に包帯が巻かれている。

誰かが、手当てをしてくれていたようだ……いや、このことも疑問だ。

自分は確かに、自ら『ギャラクシアン・エクスプロージョン』を浴びたのだ。

しかも聖衣を脱ぎ、裸同然で…である。

この程度の傷で済む筈がない。

現に、ラダマンティスの冥衣は粉々になり、奴自身は冥界の大地に叩きつけられ死んだことは確認している。

なのに、自分の体の傷がこの程度で済む筈がない。

確かに自分の体は、消滅した筈……。

不審に思いながらも、もう一度周りを見渡してみる。

すると、更に信じられないものが目に入った。

『双子座』の聖衣櫃(クロスボックス)。

兄・サガに返したはずの『双子座』が何故、ここにあるのか?

自分は、夢を見ているのか。

死の直前に、妙な夢に囚われているのではないのか……。

等と考えていたが、扉の向こうから気配を感じ、中断した。

悪意はない。

だが一応警戒しながら、入室してくるのを待った。

「気が付きました?」

入ってきたのは、長い金髪で黒い服を着た10歳にも満たない少女だった。

その隣で、赤毛の犬……いや、狼が此方を警戒しているかの様に睨んでいた。

「……君が俺を手当てしてくれたのか?」

「はい。最初は見るからに重症かと思いましたが、服が血まみれだっただけで、お体の方は軽い怪我だったので、簡単な手当てをさせてもらいました」

確かに良く見ると、余り丁寧な手当てではない。

包帯の巻き方も、下手糞だ。

どうやら、余りこういうことには慣れていない様だ。

しかし、カノンはそのことには触れず、礼を言った。

「後……これを…」

そう言うと少女は、カノンにシャツとズボンを差し出してきた。

「先程まで着ていた血まみれの服ではどうかと思って、格安の服ですけど……」

どうやら、処分品としての低価格の服を買ってきてくれたようだ。

「……見ず知らずの俺の為にここまでしてくれるのか?」

「………」

カノンは少女を観察した。

どうやら、かなり純粋な少女のようだ。

自分のような得体の知れない相手に、ここまで優しくできるとは………。

「……ありがとう。この恩は必ず返そう」

 

 

 

カノンは少女から、ここが日本であることを聞いた。

日本なら、アテナが城戸沙織という人間として総帥を務めるグラード財団がある。

グラード財団を通じて、城戸家に連絡がとれるだろう。

そのまま、聖域までテレポーテーションしようかとも思ったが……せめてあの少女……フェイトと名乗った……に、お礼をしたかった。

城戸家に連絡が取れたら、幾許かの金を貰い、フェイトに服のお礼ができるであろう。

黄金聖衣をフェイトに預け、カノンは街に出ることにした。

 

  ★☆★

 

グラード財団系列の会社を探そうと、役所に向かったカノンは途中、財布を拾った。

中身を確認すると10万くらい入っていた。

カノンは、近くの公園の木陰で本を読んでいる車椅子の少女に声を掛けた。

どうやら、フェイトと同じくらいの年の少女のようだ。

「すまんが……ここらあたりに警察の駐在所などはないか?」

「はい、交番はちょっと遠いですけど……何かあったんですか?」

変わったイントネーションで喋る少女……どうやら、訛りがあるようだ。

「ああ。財布を拾ったので届けようと思ってな」

そう言うとカノンは、先程拾った財布を少女に見せた。

すると、少女が驚いた顔になって叫んだ。

「アーーーッ!それ、ウチの財布!!」

カノンは少女の目を見て、嘘ではないと確信し、財布を少女に渡した。

「ありがとうございます!生活費に降ろしたお金がそのまま無くなる所でした……」

「いや、これからは気を付けなさい」

カノンはそう言うとその場から去ろうとするが、少女が呼び止めた。

「あの……ウチ、八神はやてといいます。お兄さんのお名前は……?」

「………カノンだ」

「カノンさん……これ……お礼の一割です」

そう言って、財布から一万円を取り出し、カノンに差し出した。

「………いいのか?」

「受け取ってくれへんと……ウチの気が済まへんです……」

「……分かった……。有り難く貰っておこう」

カノンにしても、無一文だったので、ここは貰うことにした。

とりあえず、フェイトに買ってもらった服の代金はこれで返すことができる。

カノンは、はやてから役所の位置を聞き、その場を後にした。

 

 ★☆★

 

「……どういうことなんだ……?」

役所から出たカノンは、まるで狐に化かされたかのような顔になっていた。

聞いたところ、グラード財団という名の財団は存在していないと言われたのだ。

アジア最大と言われるグラード財団の名を知らない……と言うのではなく、そんな財団は無いとはっきり言われたのだ。

ベンチに座り、そこに置き忘れられた新聞に目を通し、日付を見て驚愕した。

「何ッ!西暦2004年だと!?馬鹿な……」

カノンの記憶では、今年は間違いなく西暦1990年の筈だった。

まさか……未来に来たとでも言うのか?

しかし、いくら14年経っているとはいえ、グラード財団ほどの財団がそんな僅かで解体されるとは思えない……。

まして、総帥は知恵と戦いの女神といわれるアテナその人なのだ。

カノンは詳しく調べる為、そのまま図書館に向かった。

 

 

 

図書館でカノンは、1990年当時の新聞を閲覧した。

新聞には、カノンの知っている事件が何一つ載っていなかった。

アテナが聖域に潜む悪……つまり偽の教皇であるサガを引き摺り出すためのおとりとして開催した、聖闘士同士の格闘技大会『銀河戦争』。

カノンが地上支配の為、海皇ポセイドンを誑かし起こさせた『世界規模の水害』。

太陽を忌み嫌う冥王ハーデスが起こした惑星直列による永遠の日食、『グレイテスト・エクリップス』。

あれほどの事件が何一つ、掲載されていないのはおかしい。

他、財界関係の資料も閲覧したが、グラード財団は存在自体していなかった。しかも、ポセイドンの寄り代であったジュリアンの家である海商王ソロ家さえも存在していなかったのだ。

更に、先程トイレにいったときに見た、鏡に写った自分。

カノンの年齢は28歳である。

そろそろ中年と言われてもおかしくはない年齢である。

しかし、鏡に写ったのは13年前……兄・サガによってスニオン岬の岩牢に幽閉された当時の……15歳の姿であった。

図書館を後にしたカノンは、テレポーテーションでギリシャに跳び、聖域のある場所に来てみたが……聖域は廃墟でもなく、最初から、そこには存在していないかの如く、ただの岩山であった。

つまり、聖闘士自体存在していないのだ。

「ま……まさか……ここは、別の時空の世界……だとでも言うのか?」

カノンは、呆然として佇んでいた。

何かの御伽噺……と、思いたかったが、聖闘士自体が一般人から見れば御伽噺の領域であり、かつて海闘士だった頃、自分が預かっていた北大西洋にあるバミューダトライアングル(魔の三角海域)伝説のような例もある。

有り得ない話ではなかった。

 

  ★☆★

 

海鳴市に戻ってきたカノンは、とりあえずフェイトの所に戻る前に、礼として何か買って行こうと『翠屋』という喫茶店に入り、そこでシュークリームセットを買った。

フェイトの部屋に着いたカノンは、考え事をしていた為か、無造作に扉を開けた。

そこで目に入ったのは、黒いマントを羽織ったフェイトと、獣の耳と尻尾を生やした赤毛の女性であった。

「カノンさん!?」

「……見たね……カノン…」

赤毛の獣人がそう言うと、彼女のカノンに向かって翳した目の先に、魔法陣が現れた。

「『チェーン・バインド』!」

魔法陣から現れたチェーンがカノンを拘束する。

「アルフ!」

「フェイト……だから言ったんだよ。こんな奴ほっとけって……」

「でも……」

「とにかく、見られたんだから……コイツの記憶を消して、どっかに捨ててくるから……」

そう言ってアルフと呼ばれた女性はカノンに近づく。

「……確かに…君達は恩人だが……だからと言って記憶を消されなければならない謂れはない」

カノンは小宇宙を発し、あっさりとバインドを引きちぎった。

「なっ!?」

驚いたアルフは、カノンに殴りかかる。

しかし、カノンはそれを指一本で止めた。

「嘘!?」

「この程度の拳が通じるか!」

拳を止めている指先が光ったと同時に、アルフは反対の壁まで吹っ飛ばされた。

「アルフ!!」

「さて……フェイト。…君はどうする。正直……君には手荒な真似はしたくはない……。少し、聞きたいこともあるしな。しかし、向かってくるというのなら……こちらも、それなりの対応をしなくてはならなくなる…」

少し、厳しい眼差しでフェイトを見るカノン。

しかし、フェイトはカノンに頭を下げた。

「すいません。アルフがいきなり失礼な態度を取ってしまいました。でも、アルフは……私のことを思ってあんなことをしたんです。責任は私にありますから……アルフのことを許してください!」

「………いや……此方こそ手荒な真似をして済まない」

フェイトにつられ、カノンも謝罪した。

「済まないが、少し聞きたいことがある。まぁ、とりあえずシュークリームを買ってきたから、それを食べながら話をしよう」

 

  ★☆★

 

「なるほど……魔導師……ね」

フェイトからの話はこうだった。

彼女は、こことは違う世界『ミッドチルダ』出身の魔導師で、ロストロギアと呼ばれる何らかの事情で消失、あるいは滅んだ世界の遺産の一つ『ジュエルシード』と呼ばれるモノを探す為に、この世界に来たとのことだった。

その話を聞き、カノンは確信した。

この世界が、自分の居た世界ではないことを……。

 

 

 

「つまり、カノンさんは『次元漂流者』……だと思われます」

カノンの事情を聞き、フェイトは結論付けた。

「やはり、そうか。……元の世界に戻れる手段はないのか?」

「……私では無理です。こういうのは『時空管理局』の領分ですし……」

そう言うと、フェイトは『時空管理局』について、説明した。

 

 

 

時空管理局。

ミッドチルダが中心になって作られた、数多に存在する次元世界を管理・維持する機関。

いわく「警察と裁判所が一緒になった様なところ」であり、その他に、文化管理や災害の防止及び救助も任務としている。

しかし、実態は警察にとどまらない戦力を有しているのて、事実上軍隊と呼んでも差し支えないだろう。

 

 

 

話を聞いて、カノンは不機嫌になっていた。

「気に入らないな…」

「何がですか?」

「次元世界を管理・維持するというのが気に入らん。何様のつもりだ。神にでもなったつもりか」

自分の事を棚に上げて憤るカノン。

「………」

「特に『管理局』という名称が気にいらん。まあ、確かにそんな機関が必要なのかもしれんが……だったら『時空管理局』ではなく、『時空治安維持局』とか、『時空警備局』とか、そんな名前ならともかく、『管理局』などと上から目線なのが気に入らん」

本当に自分の事を棚に上げているカノン。

「……ハハハ…」

フェイトは苦笑していた。

「しかし、……その『管理局』とやらに頼らねばならないのも事実だな……フェイト…その『管理局』に連絡はとれるのか?」

カノンがそう訊ねるが、フェイトの表情が曇る。

連絡は出来ないし、それに、どうやらフェイトにとって『管理局』は、場合によっては敵対しなくてはならない相手の様であった。

「君の探し物のロストロギアとやらに関係があるのか?」

「はい。『管理局』の中には『遺失物管理部』というのがあって、ロストロギアの探索・調査・確保する部署なんです。私が『ジュエルシード』を集めることを邪魔をする可能性が高いんです。……私の他にこれを集めている魔導師も居ますので……何れ接触してくると思います……」

しばらく沈黙が続いた。

フェイトは黙り、カノンは何か考えていた。

やがて、カノンが口を開く。

「ならば、フェイト。『管理局』が来るまで君と行動を共にしよう」

「えっ!?」

「…『管理局』が来たら、君は俺をおとりにして逃げろ。俺は君が逃げる時間稼ぎをしよう。そして、君が逃げ切ったら俺は『管理局』に投降する……」

つまり、雇われのボディガードである。

「でも、それじゃあカノンさんが……」

「気にするな。俺がその『次元漂流者』と判れば向こうは俺を保護するだろう。その際、情報提供を要請されるだろうから……君の事情はこれ以上聞かないで置こう……。『管理局』が来た後、君は、この場所を引き払い、君に指示している者に再び指示を仰げばいいだろう…」

「ですが……危険です…」

「実力は、そこにのびている君の『使い魔』とやらで証明していると思うが……」

アルフは狼の姿になり、まだ気絶していた。

「そもそも、その『管理局』とやらが来れば、君たちだけで相手が出来るとも思えない。安全に逃げられる保険は必要だろう?」

 

 

 

それから、様々な討論が繰り広げられ、結局、フェィトはカノンの提案を呑むことになった。

 

 〈第一話 了〉

 


第一話、いかがだったでしょうか?

真一郎「何か、話に無理があるような……」

気にするな。

真一郎「自覚はあるわけだ……。ところで、カノンの世界の年号が1990年なのは?」

それは、聖闘士星矢の正統続編、「NEXT DIMENSION 冥王神話」で地上暦1990年という描写があるから、その年号にした。当初は聖闘士星矢の連載が開始された1986年(昭和61年)にしようと思っていたんだけどね。

真一郎「後、カノンが管理局について否定的な態度を取っているから、アンチ管理局物になるのか?」

いや、管理局については、私の意見をカノンに述べさせただけであり、この話自体はアンチ物じゃないよ。

真一郎「まあ、完全なアンチ物は、お前には無理だな……性格上…」

では、これからも私の作品にお付き合いください。

真一郎「お願いします」




カノンが辿り着いた地で出会ったのはフェイトか。
美姫 「聖闘士の力はかなりのものみたいね」
だな。だとすれば、フェイトの負担も結構減るかも。
美姫 「カノンの介入でどんな風に物語が進んでいくのか」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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