『時空を越えた黄金の闘士』

第四話 「圧倒的な実力」

 

『時空管理局』執務官クロノ・ハラオウン。

彼の登場に、フェイトは恐れていた者が遂に現れたことを知った。

彼の登場は、すなわちカノンとの別れである。

もう、彼の料理が食べられない。

もう、彼と話せない。

もう、彼と会えない。

いつの間にか、フェイトはカノンに対し思慕の念を寄せていた。

初めて接した男性。

自分にとって師とも言える母の使い魔リニスとはまた、違った暖かさをカノンから感じていた。

僅かの時間、一緒に居ただけなのに……。

それはアルフにとっても同じだった。

最初は警戒していたが、しばらく一緒に居て、すっかりカノンのことを気に入っていた。

 

 ★☆★

 

「まずは二人とも武器を引くんだ……このまま戦闘行為を続けるなら……っ!?」

話しているクロノに魔力弾が降り注ぐ。

「フェイト!こっちに!!」

アルフの言葉にはっとしたフェイトは、飛行魔法でアルフの傍に寄り添った。

クロノがフェイトを追いかけようとすると、その前にカノンが立ちふさがった。

「……何の真似だ?」

クロノは、カノンを睨みながら言った。

「……約束なのでな。悪いが邪魔をさせてもらう」

カノンは、背負っていた聖衣櫃を降ろし、側面の取っ手を引く。

聖衣櫃は四方に開き、中から黄金のオブジェが現れる。

「!?」

フェイト、アルフ、なのは、ユーノ、クロノは目を見張った。

二つの顔と四本の腕を持つオブジェの輝きはとても神々しかった。

様々な次元世界を周ったクロノだが、これほど存在感のある物を見たことが無かった。

そのオブジェが光を放ちながら分解し、カノンの身を覆うプロテクターとなった。

「「「「「なっ!?」」」」」

頭部以外のプロテクターを身に纏い、頭部に被るであろう兜を左手に抱えていた。

『双子座《ジェミニ》』の黄金聖闘士、カノンの姿がここにあった。

 

 

 

『時空管理局』・巡航L級8番艦『アースラ』。

この艦の艦長であるリンディ・ハラオウン提督と、通信主任エイミィ・リミエッタの二人も黄金聖衣を纏ったカノンを見て驚いていた。

第97管理外世界『地球』。

先日、この世界から次元震が発生し、調査に赴いてみたら高ランクの魔導師二人が戦闘を行っていた。

確認の為に、この艦のNo,2であり、息子でもあるクロノ・ハラオウン執務官に出撃してもらった。

戦闘を止めさせ、二人から事情を聞く。

クロノなら簡単に果たせる任務である。

しかし、片方の魔導師が抵抗し、クロノに立ちはだかる人物が現れた。

「エイミィ。あの人から魔力反応は探知できる?」

「いえ、反応はありません。少なくとも魔力に目覚めてはいないようです」

詳しく検査しなければ魔力資質があるかはわからないが、現状では覚醒はしていないようだ。

「クロノ。彼に武装解除を要請して連行して。もし抵抗するようなら取り押さえなさい」

【了解です。艦長】

しかし、彼女はクロノにこの命令をしたことを後悔する事になる。

 

 

 

「武装を解除し、投降してもらおう。抵抗しなければ弁護の機会もある……これは最後通告だ」

クロノはデバイスを差し向け、カノンに通告した。

「………どのような権限を持って……?」

「……権限?」

呆れ顔で返答するカノンに、クロノが聞き返す。

「俺はお前ら管理局とやらとは無関係の世界出身だ。そして、この世界もお前ら管理局の担当外の世界だろう。管理『外』世界なのだから……。お前たちがこの世界で、しかもお前たちと関係の無い世界の出身者である俺に、どのような権限を持って拘束しようとするのだ?話を聞きたいのなら、頭を下げるのが筋ではないのか?」

カノンの指摘にクロノは返答に詰まった。

こんな返答をされたのは始めてだからである。

「しかし、君たちが危険なことを行ったのには変わりない。我々、『時空管理局』は次元世界の秩序を守る組織だ。故に君たちから事情を聞かなくてはならない」

「強制権はないだろう。拒否する権利が此方にはあるはずだ」

「………これ以上、話しても無駄のようだ」

クロノは実力行使に出る決意をする。

「……あ……あの……」

なのはがおずおずと話しかける。

「すまないが、少し待っていてくれないか。何、直ぐに終わるさ」

今までの経験、及び自分の実力に自信があるので、クロノはなのはにそう答えた。

「はあっ!!」

クロノはカノンに魔力弾を放つ。

これで終わる筈である。

魔力資質があるかないかは判らないが、例え資質があったとしても、目の前の男は魔導師として覚醒していない。

魔法の力に絶対の自信が、クロノにはあった。

だが……。

魔力弾は、カノンをすり抜けていった。

「なっ!?」

クロノは驚愕した。

「……もしかして…今のは不意打ちのつもりか?」

「くっ!」

クロノは魔力弾を連続で放った。

「お前の攻撃は全てスローモーションのようにしか見えないぞ」

全ての魔力弾はカノンをすり抜けていった。

「バ……馬鹿な……何故、すり抜ける」

目の前の存在は幻術の類ではない。

確かにそこに存在しているのだ。

にも係わらず何故、攻撃がすり抜けるのか……。

「躱わしているだけだ」

こともなげに言うカノンに、驚愕するクロノ。

一向に当たらない攻撃にクロノは苛立っていた。

「……当たりさえすれば、それで済むのに……」

クロノの呟きを訊いたカノンは、不適な笑みを作った。

「ほう……ならば当ててみろ……躱さず受けてやろう…」

その台詞に怒りを覚えたクロノは、今度はただの魔力弾ではなく、得意とする攻撃魔法を使った。

「舐めるな!『ブレイズキャノン』!!」

『ブレイズ《炎》』の名の通り、熱量を伴う破壊魔法である。

『ブレイズキャノン』は見事カノンに直撃した。

「カノン!!」

フェイトが悲鳴を上げる…。

 

「……どうだ。余裕を見せて僕を侮るから……ッ!?」

クロノは驚愕して目を見開く。

「……その程度か?」

無傷のカノンが立っていた。

「ば……馬鹿な!?」

自身の砲撃魔法の中で一番の得意魔法が効いていない。

クロノはとても信じられなかった。

「伊達や酔狂でこのようなプロテクターを纏っているわけではない」

カノンは、ゆっくりと説明を始めた。

「俺の纏っているこのプロテクターは『黄金聖衣』という。この聖衣は神話の時代より、ただの一度も完全破壊されたことがない究極の防具なのだ。人間の力ではどう足掻いても、これを破壊することは出来ん。『神』でもないかぎりは……な」

そう、黄金聖衣を完全に破壊した者は、冥王ハーデスの側近の『死』を司る神『タナトス』のみである。

カノンはその事を知らないが……。

「つまり……この聖衣を纏っている限り、お前の攻撃は俺には通用しないのだ……」

クロノにも理解できた。

先程、その聖衣という物を見たときに感じた神々しさ。

あのプロテクターを纏っている限り………否!方法はある。

「その油断が命取りだ!『ブレイズキャノン』!!」

狙うは、聖衣に覆われていない頭部。

人体の中でも、特に重要な部分の頭部につけるはずの兜を被らなかったのは失敗だ。

聖衣とやらの防御力の高さに、驕り過ぎたな。

クロノはそう思い、カノンの頭部に『ブレイズキャノン』を放った。

しかし………。

「そう……狙うのはここしかない……」

しかし、そんなことはカノンも承知のことだった。

カノンは、『ブレイズキャノン』を掌で受け止めた。

「な……そんな……」

「もう一つ。いい事を教えてやろう……聖闘士に同じ技は二度と通じないのだ…。……返すぞ!」

そう言うと、カノンは『ブレイズキャノン』をクロノに押し返した。

「何ッ!?……うわぁぁぁぁぁ!!」

返されるとは思わなかったクロノは、ブレイズキャノンの直撃を受ける。

幸い、防護服のお陰で無事だったクロノ。

だが、状況が絶望的であることは実感していた。

「フッ……さて…今度は此方の攻撃だ」

カノンの指か光ったと思ったら、衝撃がクロノを襲う。

「うわッ!」

体制を整えカノンを見据えようとしたが……その場にカノンは居なかった。

「な……ど…何処に…!?…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

四方八方からの衝撃がクロノに襲い掛かる。

何時、何処から攻撃が来るのか……クロノはまったく理解できなかった。

黄金聖闘士の速度は光の速さ……光速である。

対する魔導師は……例え高速起動型の魔導師でも、音速……マッハ1が限界である。

つまり、魔導師が何とか対抗できる聖闘士は、最下級の青銅聖闘士(星矢達五人を除く)であり、黄金聖闘士はおろか白銀聖闘士にも及ばないのだ。

もはや、クロノは防戦一方であった。

 

 

 

「……す…凄い…」

「ひぇ〜〜〜〜!強いとは思ってたけど……想像を遥かに超えてるよ…」

フェイトとアルフは、カノンの余りにも規格外の強さに唖然としていた。

速さに関してはフェイトも自信があったが、カノンのスピードは『ソニックムーヴ』よりも速い。

フェイトは自信を喪失していた。

アルフなどは、よくあんなのに向かって行ったな……と、冷や汗を掻いていた。

何と言っても、動きが全然把握できないのだ。

「……カノンなら……あの女にだって負けないよ……」

アルフは、嬉しそうにそう言った。

フェイトの母親は嫌な奴だが、とてつもなく強い。

しかし、カノンはそれ以上である。

カノンが居れば、もうフェイトが辛い思いをしなくて済むかもしれない。

カノンなら、フェイトをあの女から守ってくれるかもしれない。

アルフは、そう思った。

そして、フェイトは……カノンの強さに憧れを強くした。

あんな風に強くなりたい。

あれくらい強くなれれば、きっと……母さんも認めてくれる……と。

 

 

 

「あの子……大丈夫なの?」

なのはは、カノンの強さに呆然としながらも、なすすべの無いクロノを心配していた。

「……管理局の執務官が……魔導師でもない相手になす術がないなんて……」

管理世界出身のユーノには、とても信じることが出来なかった。

 

 

 

「艦長!このままじゃクロノ君が……」

エイミィが涙目でリンディに訴えた。

「………クロノ…」

リンディの表情も、指揮官のそれから息子を想う母の貌に変わっていた。

そして、後悔した。

相手が魔導師でないことに油断し、クロノを嗾けたことを……。

 

 ★☆★

 

クロノの防護服《バリアジャケット》はもはや見る影も無いほどボロボロだった。

もはや、クロノには反撃する気力すら残っていなかった。

執務官としての誇りも、魔導師としての自信も完全に打ち砕かれていた。

しかし、クロノも伊達に弱冠14歳で執務官を務めているわけではなかった。

「……貴方は……何を求めているんですか?」

クロノは口調を改めていた。

敗北を受け入れたのだ。

そして、戦っている最中に気付いたことを指摘し始めた。

「……貴方は……最初から……僕を殺す気なんてなかった……そうですね?」

そう、カノンはクロノを殺す気などまったくなかった。

その証拠に、カノンは一度も致命的な一撃をクロノに放っていなかった。

見た目は酷いし、傷は確かに痛む。

しかし、直ぐに治る程度の傷であった。

「……俺が望むのは、この場でフェイトを見逃すことだ……もちろん、後を尾行することも許さん。それさえ適えば……お前たちに投降しよう」

「………拒否すれば……?」

「……お前を再起不能するだけだ。俺はどちらでも構わん」

「……僕の一存では……」

「なら、判断を仰げ」

その直後、一人の女性が転移してきた。

「その必要はありません」

「…か……母さ……じゃなくて……艦長!?」

突如現れた母にして上司であるリンディを見て、クロノは目を見開いた。

「貴女が、責任者か?」

「はい。『時空管理局』、巡航L級8番艦『アースラ』艦長、リンディ・ハラオウンです」

「……俺の名はカノン。『双子座』のカノンだ」

「では、カノンさん。貴方の条件ですが……承諾しましょう」

リンディの発言に、さらに驚愕する。

「艦長……本気ですか?」

「ええ。他に対処法がないわ。拒否すれば貴方の命に係わるし……それどころか彼の実力をかんがみたら、私達は全滅しかねない。どちらにしてもそちらのフェイトさん……だったかしら。彼女達を逃がされてしまうことに変わりは無いわ。ならば、こちらとしても被害の少ない方法をとらざる得ない。とりあえず……『ジュエルシード』の確保だけに留めましょう」

そう言うと、リンディは握り締めていた拳を開いた。

そこには先程、なのはとフェイトが封印したシリアルZの『ジュエルシード』があった。

「「あっ!!」」

フェイトとアルフは息を呑んだ。

リンディは、カノンとクロノの戦い(カノンが一方的にクロノを攻撃していただけだが……)に注視していた面々の隙を突いて『ジュエルシード』を確保していたのだ。

「………フェイト……」

カノンは、フェイトの迂闊さに苦笑していた。

「………ごめん…」

「う〜〜〜〜!」

すっかりと落ち込むフェイトたちを見て、リンディは微笑んだ。

「では、私は一足先に失礼させていただきます。そちらのお嬢さんとフェレット君……そして、カノンさんは、後ほど『アースラ』にて……。では…」

そう言い残すと、リンディは転移していった。

「成程……。彼女はなかなか侮れないな。確かに……『ジュエルシード』をフェイトに渡す…と言う条件は提示していないな……」

横から掻っ攫っていったリンディだが、確かに条件を保護にしたわけではなかった。

しかし、カノンは『ジュエルシード』を持っていかれたことはどうでも良かった。

フェイトには悪いが、アルフの話を聞いて、カノンはフェイトの母親が信用出来なかった。

そのような輩に『ジュエルシード』を渡すのは、躊躇われたのであえて『ジュエルシード』の優先権は主張しなかったのだ。

「……フェイト、アルフ。とりあえずこの場を離れろ」

「えっ……!?」

「……カノン!?」

フェイトとアルフは、カノンを見た。

「これで借りは返した……。ここでお別れだ!」

「………」

フェイトは哀しそうな貌になった。

「……体を厭い、息災でな……」

そう言うとアルフに念話を送る。

【とりあえず、俺は『時空管理局』の内情を調べる。フェイトの母親がまたフェイトを傷つける様なら、フェイトを連れてこちらに来い】

【カノン……!?】

【ここで、「はい、さようなら」……と言う程、俺も薄情ではない……。お前の話を聞き、俺はフェイトの母親を信用出来ない……。だから……もし、フェイトの母親がフェイトを害そうとするなら……此方に逃げてくるんだ。いいな】

【……うん。ありがとう、カノン】

アルフは、カノンに感謝の念を送った。

「……カノン…今まで、ありがとう」

カノンとアルフの念話が届いていないフェイトは、泣きそうになりながらもカノンに礼を言い、アルフを伴いその場を後にした。

「小僧。余計な行動は取るな……」

念話で指示をだしたのだろうか、不可視な機械がフェイトたちの後を追おうとしたので光速拳を放ち、それを全部墜とした。

「……サーチャー?」

クロノは驚いていた。

まさか、サーチャーの存在を見抜くとは思っていなかった。そして、自分は指示を出していない。おそらくは、リンディの差し金であろう。

クロノの驚きの表情に、カノンも誰の差し金かを覚った。

「では小僧。『アースラ』とやらに案内してもらおう。先程の背信の件は、リンディとやらに償ってもらおう……」

尾行しないことを承諾したのに、尾行させた背信行為をしっかりと償わせるつもりのカノンの表情をモニターで見て、『アースラ』に戻り、サーチャーの指示を出したリンディは冷や汗を掻いていた。

 

 

 

こうして、カノン、なのは、ユーノは、『時空管理局』の誇る次元空間航行艦船『アースラ』に赴くことになった。

 

  ★☆★

 

海鳴市、高町家。

「恭ちゃん。大変!」

「どうした、美由希…?」

なのはの姉、高町美由希は慌てて、兄、恭也の下に来ていた。

「玄関前に人が倒れているの!」

「何っ!?」

恭也が、美由希と共に玄関に駆けつけてみると、確かに人が倒れていた。

「……服はボロボロだが……別段、体に外傷はないな……軽い打撲程度だ…」

「どうするの、恭ちゃん?」

倒れている人を介抱している兄に尋ねる美由希。

「救急車を呼ぶまでもない。ウチに運ぼう……一応、警戒はしておけ。……もしかしたら悪人かもしれんからな。彼は俺が運ぶから、美由希はその箱を運べ」

そう言って恭也は、彼を背負い家の中に入っていった。

美由希も、慌てて箱を背負って後を追った。

美由希の運んだ箱は黄金色に輝いていて、羊のレリーフが彫られていた。

 

〈第四話 了〉

 


真一郎「タイトル通り、圧倒的だな」

 

そうだね。作中での説明の通り、魔導師が聖闘士に対抗できるのは星矢たちを除く青銅聖闘士まで…。黄金聖闘士はもちろん白銀聖闘士にも及ばない……。オーバーSランクの魔導師も、例外ではない。

 

真一郎「星矢たちに悉く敗れたので、弱いというイメージがあるけど、実際、白銀聖闘士は驚異的な実力を持っているからな」

 

とりあえず、リリカルなのはの既存のキャラは誰一人、カノンには適いません。

 

真一郎「じゃあ、敵なし?」

 

予定では、カノンに対抗できるオリキャラを登場させます。何時になるかはまだ未定ですが……。

 

真一郎「ところで、最後に登場した男は……もしや……?」

 

それは、次回のお楽しみ。では、これからも私の作品にお付き合いください。

 

真一郎「お願いします」




うわー、改めて黄金聖闘士の強さが分かるな。
美姫 「本当よね。まさか、ここまでとはね」
カノンとリンディの話し合いがどうなるのか、ちょっと楽しみだな。
美姫 「約束を破ったものね」
更に、最後にまた誰かが出てきたっぽいけれど。
美姫 「一体誰なのかしらね」
次回も待っています。



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