『時空を越えた黄金の闘士』

第九話 「最強の男、現る」

 

 

 

カノン、クロノ、なのは、ユーノ、ムウはプレシアの本拠地でいる『時の庭園』に突入した。

プレシアの発言に自我を崩壊させてしまったフェイトは、医務室に寝かせられている。

フェイトのことをアルフに任せ、カノンたちはプレシアを止める為に彼女の下に向かった。

プレシアの目的は、実子のアリシアを蘇生させることであった。

その為に、失われた禁断の秘術の眠る地『アルハザード』に行く事なのだ。

その為に、『ジュエルシード』を集め、次元断層を引き起こすことであった。

プレシアが『アルハザード』に行く事は別に問題はない。

しかし、その為の方法である次元断層を引き起こすことは容認できなかった。

下手をすれば、なのはの世界である『第97管理外世界、地球』はおろか、時空管理局がある『ミットチルダ』を含めた複数の世界に危険が迫る。

それは、カノンとムウに取っても容認できなかった。

例え、自分達の世界でなかろうと、既に親しくなった人たちの世界が自分達の目の前で滅びるのを容認できる『聖闘士』ではない。

『黄金聖衣』を身に纏い、なのは達と共に『時の庭園』に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

アルフは、ベッドで横たわるフェイトを見つめていた。

フェイトの目は開いているが、焦点が合っていない。

何も見ていないのだ。

「……フェイト…」

フェイトを見ている内に、アルフの中にはプレシアに対する怒りが臨界点を超えようとしていた。

あれだけ、あの女の為に頑張ったフェイトを地獄に突き落としたプレシアを……。

「……フェイト……この件が終わったら……ゆっくりでいいから元のフェイトに戻ってね…」

アルフは、『時の庭園』に乗り込もうとするカノンが言った言葉を信じていた。

カノンはこう言った。

【……今はこんな状態だが……直ぐにフェイトは立ち直る。……今までのフェイトは何も始まっていなかった……。プレシアに捨てられてしまったが……プレシアの言い成りでは無くなった今、これからがフェイトの本当の始まりだ!だから、それまでお前が傍にいてやれ。それがフェイトの使い魔のお前の務めだ!】

「フェイト……」

アルフは、フェイトの頬を撫でた。

 

 ★☆★

 

カノンたちの前に、傀儡兵と呼ばれる機械人形たちが立ちはだかっていた。

「クロノ君……この子たちって?」

「近くにいる相手を攻撃するだけの……ただの機械だよ…」

「そっか……なら安心だ」

なのはは、相手が人間……いや生き物ですらない機械と知り、攻撃に入ろうとするが、それをクロノが止めた。

「この程度の相手に無駄弾は必要ないよ」

そうして、クロノが前に出るが、更にそれをムウが止めた。

「無駄弾が必要ないのなら……貴方も下がって下さい……」

そう言うとムウが前に出た。

傀儡兵たちが一斉にムウに襲い掛かる……が、突如、その動きを止めた。

「えっ!?」

なのは達の目には、傀儡兵たちは見えない力で拘束されている様に見えていた。

そして、傀儡兵たちはお互いが次々と体当たりして、破壊していった。

ムウが念動力で傀儡兵達を拘束し、お互いを激突させたのだ。

アレだけの数を拘束し、動かすなど普通ならかなりの精神力を消耗するのだが、黄金聖闘士の中でも最も秀でた『念動力』の持ち主であるムウにとっては大した労力ではなかった。

「では、先に進みましょう」

涼しい顔で走り出すムウを見て、クロノたちは唖然としていた。

 

 

 

 

 

カノンたちが走っている床の裂け目から奇妙な空間が見えていた。

「この穴……黒い空間がある場所は気を付けて…」

「えっ!?」

「虚数空間。あらゆる魔法が一切発動しなくなる空間なんだ。飛行魔法もデリートされる」

「……もしも墜ちたら重力の底まで落下する…二度と上がってこれないよ」

クロノとユーノの説明になのははゾッとした。

「気をつける……」

等と話していると目の前に扉が現れた。

クロノがそれを蹴り空けると、其処にはまたもや傀儡兵たちがカノン達を待ち構えた。

「ここからは、二手に別れる。君達は駆動炉の封印を!」

「クロノ君は?」

「僕はカノンさんと一緒にプレシアの下に行く……。それが僕の仕事だからね……ムウさんはなのは達をお願いします」

「……解りました……行きましょうなのは、ユーノ!」

「今、道を作ります」

Blaze Cannon

クロノのデバイス、『S2U』から、ブレイズキャノンが放たれ、この場の傀儡兵を打ち抜く。

その間隙を貫いて、ムウたちは駆動炉を目指し、奥に向かった。

「クロノ君、カノンさん、気をつけてくださいね!」

なのはの激励に、カノンたちは微笑みで返した。

 

 ★☆★

 

「私も出ます。庭園内で『ディストーション・シールド』を展開して、次元震の進行を抑えます」

艦長席から立ち、リンディは転送ポートに向かった。

 

 

 

 

 

「フェイト……大丈夫かい?」

フェイトの意識が戻った。

「………母さんは……最後まで、私に微笑んでくれなかった……」

「何言ってんだい。アイツはフェイトの母親なんかじゃない。アイツ自身が言ったことじゃないか!」

「……私が生きていたいと思ったのは……母さんに認めてもらいたかったから……」

「フェイト……」

未だにプレシアのことを想うフェイトを、アルフは悲しげな目で見つめた。

「あんなにはっきり捨てられたのに……私、まだ母さんに縋りついてる……」

フェイトは起き上がり、アルフの手を握った。

「アルフは、ずっと一緒に居てくれたのに……言うことを聞かない私に……随分…悲しんだよね……」

「フェイト。アタシはフェイトの使い魔だから……フェイトの為ならば…どんなことだって耐えられるよ……」

アルフはフェイトの手を握り返した。

「……何度もぶつかった…真っ白い服の女の子……。初めて私と対等に、真っ直ぐ向き合ってくれた……」

医務室のモニターは、傀儡兵と戦うなのはの姿を映していた。

「……何度も、私の名前を呼んでくれた…」

「……そうだね。最初は甘ちゃんの女の子だって思ったけど……あの子も、フェイトの事を……ずっと気に掛けてくれたね……」

「生きていたいって思ったのは、母さんに認められたかったからだ。それ以外に生きる意味なんてないと思ってた。それが出来なきゃ、生きていけないんだと思ってた……」

「そんなこと……そんなことないよ!」

アルフは泣きながら、フェイトの言葉を否定する。

「うん。解ってる……。捨てればいいってわけじゃない。逃げればいいってわけじゃ……もっとない!」

ベッドから立ち上がり、握っていた待機状態の『バルディッシュ』を見つめる。

「……私の、私達の総ては……まだ始まってもいない……」

『バルディッシュ』が起動し、ヒビだらけだがデバイスモードに変化した。

「……そうだよね……『バルディッシュ』も、アルフと同じようにずっと傍にいてくれてたんだよね…。お前も……このまま終わるなんて、嫌だよね!」

《Yes sir!》

『バルディッシュ』を抱き締めながら、涙を流す。

「……そして……カノン…」

いつも自分に優しくしてくれた。

まるで、お父さんの様に、お兄さんの様に……。

別れてからも……自分の事を気遣ってくれた。

大好きな……人…。

「アルフ……そして、『バルディッシュ』……上手く出来るか解らないけど……一緒に頑張ろう!」

『バルディッシュ』は自己修復され、そして、フェイトは防護服を纏った。

「私達の総ては……まだ始まってもいない…本当の自分を始める為に……!」

「……うん!フェイト。始めよう、これから、本当の私達を!」

フェイトの復活に、アルフは歓喜した。

「今までの自分を……終わらせよう!」

フェイトたちの足元に魔方陣が現れ、『時の庭園』に転移した。

 

 

 

上空から襲い掛かる飛行兵を、なのはが『ディバインシューター』で打ち落とす。

ユーノは、『チェーンバインド』で傀儡兵と重斧兵を縛り付ける。

そして、ムウが必殺の一撃を放つ。

「…『スターダスト・レボリューション』!」

煌く星屑が、傀儡兵を纏めて粉砕する。

しかし、いかんせん数が多すぎる。

次から次へと沸いて出てくる傀儡兵を相手に、なのはもユーノも疲労が溜まっていた。

その時、ユーノが拘束していた重斧兵がバインドを引き千切り、なのはに戦斧を振り下ろす。

「なのは〜〜〜!」

その時、重斧兵に雷撃が襲い掛かった。

絶体絶命のなのはを救ったのは、『シーリングモード』のバルディッシュを構えたフェイトであった。

「…『サンダーレイジ』!!」

フェイトのサンダーレイジが、重斧兵を破壊する。

「フェイトちゃん、アルフさん!!」

なのはが歓喜の声を上げた。

見詰め合う、なのはとフェイト……。

その時、砲撃兵が壁から現れ、砲口を二人に向ける。

大型ゆえ、バリアも強い。

しかし、二人の力を合わせれば……。

フェイトの提案に、なのはは嬉しそうに何度も頷く。

「…『サンダースマッシャー』!!」

「…『ディバインバスター』!!」

魔力量AAAの二人の魔法を受け、砲撃兵はあっさりと破壊された。

そして、他の傀儡兵はムウによって一掃されていた。

 

 ★☆★

 

一方その頃、カノンとクロノは最下層に向かっていた。

「いちいち道なりに進んでいくのは面倒。一気に行くぞ!」

カノンはクロノを連れ、プレシアの気配がする所にテレポーテーションした。

「ッ!?」

プレシアは、突然現れたカノンとクロノに驚愕した。

転移魔法ではない、テレポーテーションには魔力反応が無い為、予想外だったのだ。

「プレシア・テスタロッサ!忘れられし都『アルハザード』とそこに眠る秘術は、存在するかも曖昧な、只の伝説だ!!」

「違うわ!『アルハザード』の入り口は次元の狭間にある。時間と空間が砕かれた時、その狭間にかくらくしていく輝き。道は確かに其処にある!」

「……随分と分の悪い賭けだな……しかし……本当に一度失われた命が、戻るとでも思っているのか?」

カノンは呆れた口調で、プレシアに問う。

「…『アルハザード』に眠る秘術……それは失った命をも呼び戻せる筈……」

「無理だな。例え魔法の力といえども、『神』ならぬ人間の力で、死者を蘇生させる等……絶対に不可能…。出来たとしても、仮初めの命を与えることくらいだ……それこそ……『人形』でしかないだろうな」

そう。魔法の力は所詮、『人』の力に過ぎない。

如何に大魔導師と呼ばれても、人を超え、『神』にはなれないのだから……。

「黙れ!魔導師でもないお前に何が解る。私は、『アルハザード』に行き、私とアリシアの過去と未来を取り戻すの!こんな筈じゃなかった世界の総てを!!」

「世界は……いつだってこんな筈じゃないことばっかりだよ!ずっと昔から、何時だって誰だって、そうなんだ!」

クロノが叫ぶ。

クロノとプレシアはお互いを睨み、一触即発の状態になっていた。

その時、この場の3人は攻撃的な気配を感じた。

いや、只の気配ではない。

これは『小宇宙』。

「何なの?この力は!?」

『小宇宙』の概念を知らないプレシアには理解できなかった。

「……これは『小宇宙』……。それにしても何て攻撃的なんだ…」

クロノは、ここまで攻撃的な『力」を発する事に戦慄した。

「……この『小宇宙』には覚えがある。いや、これほどの攻撃的な『小宇宙』を持つ者など……アイツしかいない!」

カノンは、この『小宇宙』の持ち主を悟り、戸惑っていた。

【……フッ!?何やら覚えのある『小宇宙』を感じたので来て見れば……やはりお前だったか……カノン!】

攻撃的な小宇宙が近づいてくる。

そして、その小宇宙がオーラとなり、形作る。

それは『不死鳥』!?

「……何者だ!」

プレシアが、『不死鳥』に向かって杖を向けた。

不死鳥のオーラから、一人の『聖闘士』が姿を現した。

「……フッ……やはり、おまえだったか……『鳳凰星座』一輝!」

時の庭園に……最強の男が降臨した。

 

〈第九話 了〉

 


真一郎「……何故、一輝が……」

それはね。プレシアを打ちのめすのはカノンじゃなく、一輝が相応しいと思ったから

真一郎「いやそうじゃなくて、何故一輝が、この世界に居るのか聞いているんだが……」

それは、この物語の謎の一つだから…明らかになるのはもっと先だよ

真一郎「むちゃくちゃな奴だな……」

では、これからも私の作品にお付き合いください

真一郎「……お願いします」




いや、まさかの展開だった。
美姫 「プレシアを追い詰めた所で、まさか一輝が登場するなんてね」
一体どうやってこの世界に来たんだろうか。
美姫 「色々と気になる所だけれど、次回を待っていますね」
待ってます。



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