『時空を越えた黄金の闘士』

第十話 「鳳凰幻魔拳」

 

 

 

傀儡兵を倒したなのはとフェイトは、二手に別れることにした。

なのは、ユーノ、ムウの3人は予定通り駆動炉の封印に向かい、フェイトとアルフはプレシアの下に向かう。

お互いを励まし合い、二手に別れ、駆動炉に到着したなのは達はとてつもない攻撃的な気配を感じた。

「……な……何なんだい……これは……!?」

狼の姿になったアルフは尻尾を震わせていた。

「……ねえ、ユーノ君……これって『小宇宙』だよね……」

「うん。でも……発生源から結構離れているのに……こんなにもはっきり感知出来るなんて……」

駆動炉からプレシアの間まで、それなりの距離があるにも関らず、はっきりと感知できるのは……それだけ、この『小宇宙』が攻撃的な証拠なのであった。

「……まさか……この『小宇宙』は……一輝!?」

「お知り合いですか?」

なのはがムウに訊ねた。

 

 

 

『鳳凰星座(フェニックス)』一輝。

青銅最強と謳われる聖闘士。

その実力は青銅聖闘士でありながら、黄金聖闘士に匹敵する。

 

 

 

「青銅って……聖闘士の中で一番下の階級ですよね?」

「はい。ですが、彼を含める五人……天馬星座(ペガサス)、龍星座(ドラゴン)、白鳥星座(キグナス)、アンドロメダ星座、鳳凰星座の青銅聖闘士は別格です……彼らは、私達、黄金聖闘士ですら一目置いています。特にあの一輝は……その五人の中でも格上の実力を持っています……。私も、そしてカノンも……彼を相手に戦えば苦戦は免れません。……下手をすれば敗北を喫してしまうでしょう…」

ムウの説明を聞き、なのはとユーノは息を呑む。

ムウの強さも、カノンの強さも、彼女達からすれば想像を絶するのだ。

最下級の聖闘士が、最上級の聖闘士に匹敵する。

魔導師に置き換えるなら、Fランクの魔導師が、SSSランクの魔導師に匹敵ようなモノなのだ。

「しかし……彼が何故ここに……?」

 

 ★☆★

 

「……一輝…。お前……何故この世界に?……いや、そんなことよりも、アテナは……ハーデスとの戦いはどうなった!?」

「……フッ!心配するな。アテナはご無事だ。そして、ハーデスの肉体にとどめを刺すことに成功した。もう二度と、ハーデスとの間に聖戦は起きん!」

一輝の返答に、カノンは安堵した。

ラダマンティスに相打ちを仕掛けた時、カノンはアテナと聖闘士の勝利を確信していた。

しかし相手は、『天帝』ゼウス、『海皇』ポセイドンと並び称される神……冥界を統べる『冥王』ハーデス……。

どれだけ、信じていてもやはり不安はあったのだ。

「それよりも此方の方が訊きたいぞカノン。何故、お前が生きている?それどころかムウの『小宇宙』も感じる。ムウまで生きているのか?」

「……それは、俺にも解らん。何故、俺たちが生きて、この世界に来たのかは……」

カノンは、ラダマンティスに相打ちを仕掛け、そして、ムウは嘆きの壁を破壊する為に、他の黄金聖闘士と共に『太陽の光』を作り出し、その余波で消滅する筈だった。

なのに、カノンもムウも別の世界で生存しているのだ。

もしかしたら、他の黄金聖闘士も………。

「まあ、そのことは今はいい。それよりも……そこの女の件を片付けるのが先だな……」

一輝は、視線をプレシアに向けた。

「……話は大体把握している。……死んだ娘を生き返らせる等という、愚かしい事を考えた末に、数多くの者たちを犠牲にしようとしているそうだな…」

「いきなり出て来た部外者は引っ込んでいてほしいわね……」

プレシアは、一輝に反論するが……その体は微かに震えていた。

『小宇宙』の概念が解らずとも、感じるそれは、恐ろしい程に攻撃的なのだ。

大魔導師などと呼ばれていても、これ程までのモノは感じた事等ないだろう。

「……笑止!愚かな願いの為に、関係ない人たちに危害を加えようとしているのは貴様だろう!!」

「黙れ!何も知らないクセに……私の邪魔をすると言うのなら、容赦はしないわ!『フォトンランサー』!!」

プレシアは、デバイスを掲げ、攻撃魔法を一輝に放った。

その威力は、フェイトの比ではない……が、一輝からすればこの攻撃は余りにも……遅かった。

『フォトンランサー』をあっさりと躱した後、指先から閃光を放った。閃光は、プレシアの額から脳を貫いた。

「……な……何?……今のは……!?」

「……むうっ!……出たな、『鳳凰幻魔拳』!!」

「お前から感じるのは、憎悪と『偽り』の狂気……。他の者の目は誤魔化せても、この一輝には通じん!お前は狂気に走った振りをしているに過ぎない……。さあ、お前の過去を見せてもらうぞ…」

 

 ★☆★

 

プレシアの脳裏に、あの忌まわしき事故が蘇った。

新型の大型魔動駆動炉『ヒュードラ』の設計主任に選ばれたこと。

一からの設計ではなく、他者からの引継ぎという危険なプロジェクト。

前任者の杜撰な資料管理。

スタッフと共に悪戦苦闘と悲鳴の日々。

上層部からの無茶な要求、次々に入れ替わる指示や一方的な決定。

モノの解っていない主任補佐の安全基準を無視した効率化……。

起こるべくして起こった、稼動実験中の事故。

駆動炉が生じる莫大なエネルギーは、予想を遥かに上回る破壊力をもって、駆動炉を破壊した。

その時に発生した、目を開けていられないほどに眩い『金色の魔力光』。

そして、それに巻き込まれた愛娘の死。

事故の責任を押し付けられ、告訴するも勝ち目はなかった。

『ヒュードラ』の開発依頼をした企業の裏には『時空管理局』の幹部がいた。

この幹部は、例の主任補佐の身内であり、主任補佐が責任を負わされないように管理局の権限を使って手を回し、プレシアにすべての責任を擦り付けたのだ。

プレシアの主張は、書類上の『事実』によって封殺されてしまった。

告訴を取り下げれば、娘の不幸な被害の賠償金を支払うという、会社の意思に従うしかなかった。

 

 

 

中央から、地方に飛ばされたプレシアは、数年間様々なプロジェクトを成功させ、巨万の富を得た後、姿を消した。

プレシアが必要としていたのは、命の『創造』と『再生』の研究の為のノウハウと資金だったのだ。

命の創造と再生の研究は次々と成功したが、制限があった。

創造自体は、『使い魔』と大差なく、生み出されたのあくまで魔法生物であり、蘇生に関しても、死の直後で短時間であれば可能だったが、完全に『死亡』し終えたモノ蘇らせるのは不可能であった。

そこで、プレシアが次に研究したのは、広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティの考案した『プロジェクトF.A.T.E』であった。

アリシアの遺伝子から人造生命を作り出し、それにアリシアの『記憶』を転写すること。

そうして生まれたのが『フェイト・テスタロッサ』であった。

しかし、彼女は決して『アリシア・テスタロッサ』ではなかった。

まず、利き手が違う。

そして、忌まわしき『金色の魔力』を持っていた。

それでも、『アリシア』そのものなら問題はなかった。

しかし、記憶の転写に関しては失敗だった。

もはや、この『アリシアの作り物』は憎悪の対象でしかなかった。

 

 

 

完全なる『アリシア』の蘇生は、もはや伝説の『アルハザード』しかない。

御伽話だと思っていた『アルハザード』は間違いなく存在する。

何故なら、あの『ジェイル・スカリエッティ』こそ、『アルハザードの遺児』なのだから……。

『プロジェクトF.A.T.E』の研究途中に、そのことを知ったプレシアは、『アルハザード』の存在を確信したのだ。

『失敗作』を一流の魔導師に育てあげるため、飼っていた山猫の『リニス』を使い魔にして、育てさせた。

そして、『アルハザード』に行くための力として、輸送中の『ジュエルシード』に目を付け、輸送船を襲撃した。

『ジュエルシード』は管理外世界に散らばり、それをあの『失敗作』に集めさせ、そして、『次元断層』を引き起こし、『アルハザード』に向かう。

世界がどうなろうが知ったことか!

私から『アリシア』を奪った、優しくない世界など……。

 

 

 

 

 

 

 

「ついに辿りついた……『アルハザード』に………」

プレシアは歓喜に包まれた。

そして、望んだ死者復活の秘術が目の前にある。

「これで、アリシアは蘇る。私は過去を取り戻せる」

プレシアは、アリシアに秘術を使った。

生体ポットの中のアリシアが目を開けた。

「アリシア!」

愛娘を抱き締めようと駆け寄る………だが…。

 

………お母さぁん……

 

アリシアの皮膚が腐っていき、眼球が垂れる。

「……アリシア…!」

ゾンビと化したアリシアがプレシアに抱きつくと、プレシアの体も腐っていった。

「あ…熱い…!か…体が……腐っていく…こ…これは!?」

其処に存在するのは知性無き、ゾンビの母娘だった……。

 

 ★☆★

 

いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

プレシアの絶叫があたりに響いた。

「ハッ!?」

プレシアは、辺りを見回した。

ここは、『アルハザード』ではない。

『時の庭園』の最下層。

自分の傍らには、腐っていない『アリシア』が眠っている生体ポットがあった。

「……成程……そう言う訳だったのか…」

プレシアの前に立っている一輝が、そう呟いた。

「まさか……今までのは……幻覚?」

プレシアは戦慄した。

自分の皮膚が腐っていく感触を確かに感じたのだ。

魔導師の幻術では、こんなことは不可能だった。

「最後のは、制裁を兼ねたちょっとしたおまけだが……大体事情は理解出来た…」

 

『鳳凰幻魔拳』。

相手の心の中に潜んでいる恐怖心を増大させ、相手の精神にダメージを与え、幻覚や悪夢を見せて精神を破壊する技である。

威力を調整することにより、相手を操ったり、自白させることも可能。

今回も、威力を調節し、プレシアに自白させたのだ。

最後に、おまけを付けて……。

 

「最後にお前が見た悪夢は、お前の深層心理から生み出されたものだ。……死者の蘇生……それは、ただ死体を生きているかの様に動かすだけのモノに過ぎないのではないか。……という、お前の恐れから生まれたのだ」

「……つまり、プレシア自身も理解している……ということか……アリシアの蘇生など…『アルハザード』とやらに行っても成しえないことを……」

納得したカノンの言葉に、プレシアは俯いた。

そう、狂気に身を委ねても……完全には染まりきらなかったプレシアの冷静な部分が、アリシアの蘇生を否定していたのだ。

『神』為らぬ『人』の力で、死者の蘇生など不可能領域なのだということを……。

その時、今まで辺りを揺らしてた震動が収まった。

「……どうやら母さ……艦長が次元断層を抑えてくれたようですね……」

先程までの勢いを失っていたクロノがそう呟いた。

クロノはショックを受けていたのだ。

26年前のプレシアが起こした事故の真相を知って………。

そして、それに管理局員が係わっていたことに………。

クロノとて、そこまで子供ではない。

管理局の局員は、聖人君子ではない。

当然のことながら、権力争い等も存在している。

しかし……まさか管理局の権限を使って、プレシアに冤罪を押し付けていたとは思ってもいなかったのだ。

だからと言って、プレシアの行動を認めるわけにはいかないが……。

とにかく、次元断層がリンディに抑えられたことにより、当面の危機は去った。

後は、プレシアの逮捕だけである。

既にプレシアには戦える力は残っていない。

ただでさえ病んでいる上に、『鳳凰幻魔拳』を受けたのだ。

もはや、立つ気力も残っていないのか、膝を付いている。

カノンは、そんなプレシアを見ていたが、突然、何かに気付いたのか、プレシアの横を通り過ぎ、アリシアの前に立った。

「私のアリシアに近づかないで……」

プレシアは激昂したが、やはり先程の勢いはない……。

カノンはそんなプレシアを無視し、アリシアを見つめていた。

一輝が、そんなカノンを不思議そうな目で見ていたが、一輝も、ハッと気付いた。

それは、アリシアの周りから感じる微量な『小宇宙』。

「カノン……これは…!?」

「いや、確かにアリシアは死んでいる……この『小宇宙』は……恐らくは……」

カノンは、懐から小瓶を取り出した。

「それは!?」

「これは、アテナの血……『霊血』だ」

カノンは、小瓶から数滴の『霊血』を取り出し、その『小宇宙』が漂っている所に振り掛けた。

『霊血』に反応し、その『小宇宙』の力が強くなり、それは実体化した。

それは、その生体ポッドの中の少女と瓜二つであった。

「やはり、この『小宇宙』の正体は……君か……『アリシア・テスタロッサ』の…・・・『思念体』…」

カノンの呟きに、少女は頷いた。

 

〈第十話 了〉

 

 

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真一郎「また随分とえぐい物を……」

 

幻魔拳の幻像は、こんなものしか思いつかなかったからな……。まあ、幻魔拳の中のアリシアとプレシアの姿は、かつて一輝が氷河に掛けたときのMAMAの姿を掛け合せれば想像できるだろう…

 

ちなみに、最初はカノンがバルロンのルネに掛けた幻朧拳でこれを見せる予定だったんだが……

 

真一郎「幻朧拳を幻魔拳の代用にするよりは、幻魔拳そのモノにした方が良いと…」

 

そういうこと。それが一輝を登場させた理由の一つ。

 

真一郎「ところで、最後のアリシアは……」

 

ぶっちゃけ……残留思念だな……

 

では、これからも私の作品にお付き合いください

 

真一郎「お願いします」




一輝の登場により、プレシアは気力も尽きたって感じだな。
美姫 「あの幻は流石にちょっと可哀相な気もするけれどね」
それにしても、アリシアの残留思念か。
美姫 「一体何が語られるのかしらね」
そして、事件がどんな結末を迎えるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
待ってます。



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