『時空を越えた黄金の闘士』

第十五話 「獅子と魔導書」

 

車椅子の少女……八神はやては夕飯の支度をしていた。

以前は一人っきりの寂しい時間……しかし、今は一緒に居てくれる『兄』が出来ていた。

強くて優しくて、暖かい……はやてにとって、まさに理想の兄だった。

「ただいま、はやて」

「おかえり、リア兄……」

買い物に出掛けていた兄が帰ってきた。

「はやて、先程、石田医師に会ってな……。明日ははやての誕生日だろう……。検査の後、一緒に食事でもどうだ……とのことだ…」

「そっか……。楽しみやな…。あっ、もう食事の支度出来とるで……食べよう…」

「そうか……。はやての料理は美味いからな……。しかも飽きる事がない…。家庭料理というのはいいものだな…」

「そんなに褒めても何も出やへんよ…」

はやては照れながら、ご飯をよそった。

 

 ★☆★

 

時系列を遡り、『牡羊座』のムウが高町家に保護された頃と同時刻……八神宅の庭に一人の男が何もない空間から突然現れた。

突然現れた傷ついた男に、はやては驚き、119番を掛けようとしたとき、男は目を覚ました。

「大丈夫ですか?」

「………ここは……何処だ?」

目を覚ました男の横には、獅子のレリーフが彫られた黄金の箱が置かれていた。

 

 

 

 

 

男は、アイオリアと名乗った。

そして、様々なことを質問してきたが、よく解らないことを聞いてきた。

日食はどうなった……とか、グラード財団という財団はあるか……とか、である。

日食といわれても、日食なんて今年は周期ではないので見れないし、グラード財団なんてものは聞いたことがない。

アイオリアは、新聞を見て驚愕した。

西暦2004年。

アイオリアの記憶が確かなら今は1990年の筈……。

その後、様々なことを調べて、この世界が自分のいた世界とは違う世界である……ということを悟らざる得なかった。

「ほぇ〜〜〜。アイオリアさんは異世界の御人なんか?」

「……って、信じるのか……お譲さん?」

「そりゃ、何もないとこから、突然現れたんやし……ところで……行くところがないんなら、暫くウチに住みませんか?」

「……いいのか?ご両親とか……」

「ウチの両親は、前に事故で死んでしもうたから、ウチ一人暮らしなんですわ……」

「……そうか……君も……天涯孤独の身か…」

「君も…って、アイオリアさんもですか?」

「ああ……俺は両親の顔を知らんし……唯一の身内だった兄も、13年前に……な…」

アイオリアの兄、『射手座』のアイオロス。

黄金聖闘士の中でもその実力は、『双子座』のサガに並ぶ程の実力者であり、次期教皇にほぼ決定していたが、13年前、非業の死を遂げていた。

「……正直、この世界の事は右も左もわからない……とは言わないが……手持ちの金もないし、当てもない……。図々しいがよろしく頼むよ、お譲さん…」

「ウチの名前は、八神はやてと言います……。はやてって呼んでください……。それと……アイオリアさんのこと……リア兄って呼んでもいいですか……なんや、お兄さんが出来たみたいで……」

恥ずかしいのか、はやての声がどんどんと小さくなるが、アイオリアは快く了承した。

「ありがとう、リア兄!」

「此方こそよろしくな、はやて…」

こうして、はやてとアイオリアの同居生活が始まった。

 

 ★☆★

 

時系列は戻り、はやての誕生日前夜……。

「さて、はやて……本に夢中になって夜更かしせず、早く寝るんだぞ…」

「ははは……それは約束でけへんなぁ……」

はやてにとって睡眠前の読書は、何よりの楽しみである。

「読むなとは言わんさ……だが、余り遅くまで、熱中するな……ということさ…」

「それも……約束でけへんなぁ…」

本に夢中になれば、おのずと時間を忘れてしまうものである。

アイオリアは呆れ果てて、自室に戻った。

ベッドに腰掛け、これからの事を考える……。

「……アテナは……ハーデスとの聖戦はどうなったのだろう……。いや、星矢達なら必ず、アテナを救い、そしてハーデスを倒し……地上の愛と正義を護り抜いてくれたはず………」

アイオリアは、部屋の隅に置かれている『獅子座《レオ》』の聖衣櫃を見つめた。

中にある聖衣自体は、完全に破壊されていた。

神話の時代より、ただの一度も破壊されたことのない黄金聖衣が、あそこまで破壊されているとは思いもよらなかったが……おそらく獅子座の聖衣を星矢達の中の誰かが……おそらくは一輝だろうが……纏ったが、ハーデスの2人の側近に破壊されたのだろう……。

老師から聞かされたハーデスの側近の2柱の『神』。

『眠り』のヒュプノスと『死』のタナトス。

この2人は神でありながら、ハーデスの側近となったという……。

黄金聖衣をあそこまで破壊する事など、原子を砕く力を持つ聖闘士と、それと同格の力を持つ冥闘士でも不可能。

しかし、『神』ならば……。

聖衣の修復を行えるのはムウただ一人……ムウには一人、弟子がいるがまだまだ未熟な為、聖衣の修復など行えないだろう。

自分が生きていたのだからムウももしかしたら、何処かで生存しているかも知れない……。

しかし、帰る方法など見当もつかない……。

アイオリアは、聖闘士のスタンダートの闘法を得意としているので、ムウやシャカとは違い、あまり異能に長けているわけではない。

簡単な念動力《サイコキネシス》くらいは使用できるが、世界を超えるほどの力は持っていなかった。

それに……はやてのこともある。

彼女と暮らして、はや一ヶ月を過ぎた。

自分を兄と慕ってくれる少女に、アイオリアはかなりの情がわいていた。

かつて、当時の星矢達、聖闘士候補生達のよき兄貴分として接してきたが……彼女のように護ってやりたいと思ったのは初めてだった。

この地で出来た大切な妹……。

しかも、はやては足が不自由である。

亡くなった彼女の父の友人が、その遺産を管理してくれていて、生活には困っていないようだが……、やはり、あんな幼子を一人で残しておくのは忍びなかった。

いや、それはただの言い訳に過ぎない。

自分が、これからもはやてと一緒に居たいのだ。

聖闘士として、命を掛けて戦ってきたが、ハーデスとの聖戦も終わった筈……ならば此処ではやてと静かに暮らすのも悪くはない…。

そう考えるようになっていた。

無論、アテナに再び危機迫りし時は、黄金聖闘士としてアテナを護り戦うことになんの躊躇もない。

しかし、帰る方法が見つかるまで……いや、見つかっても彼女の兄で居たいと願うようになっていた。

「………ッ!?はやて!!」

突如、はやての部屋から異変を感じた。

アイオリアははやての部屋に駆け出した。

 

 

 

 

 

はやての目の前には、跪いた4人の男女が居た。

「…『闇の書』の起動を確認しました」

「我ら、『闇の書』の蒐集を行い、主を護る『守護騎士』にございます……」

「夜天の主に集いし雲」

「ヴォルケンリッター……何なりと命令を!」

彼女達は、はやての言葉を待った………しかし、はやては余りのことに目を回して気絶していた。

そのことに気付いた4人は焦ったが、その時、部屋のドアが開いた。

「…はやて!?」

部屋に駆け込んだアイオリアは、気絶しているはやての傍で跪く3人と、はやてを覗き込んでいた1人を見て、警戒心を強めた。

「……貴様…何者だ!?」

跪いていた長髪を後ろに纏めた女性が、アイオリアを睨みながら問うてきた。

「……それは此方の台詞だ!こんな夜更けに幼子の部屋に侵入するなど……はやてに危害を加えるというのなら、このアイオリアが容赦はせんぞ!!」

アイオリアから発せられる威圧感に、守護騎士たちはひるんだ。

そして困惑した。目の前の男はどうやらリンカーコアを持ってるようで、それもかなり高ランクの魔力量だが、目覚めてはいない。

魔力に覚醒してもいない男の眼光に、自分たちがこれほど威圧されるとは思いも寄らなかった。

「……それは誤解です……。どうか我らの話を聞いてください……」

金髪の女性が、2人の間に入り、説明を始めた。

 

 ★☆★

 

はやてに活を入れ目を覚まさせたアイオリアは、はやてと共に闇の書の守護騎士『ヴォルケンリッター』と名乗った、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラの話を聞いていた。

「そうかぁ。この子が『闇の書』ってモンなんやね…」

はやてが生まれたときからあったという本。

それこそが『闇の書』と呼ばれる魔導書である。

彼女達、守護騎士『ヴォルケンリッター』は、主を護る事と、闇の書のページを埋めるため、魔力を蒐集し闇の書を完成させるために動くことを使命としていた。

「解った事がある。闇の書の主として、守護騎士みんなの居・食・住…きっちり面倒見なあかん……ということや…」

彼女達の服を買う為に、サイズを測りだすはやてに、アイオリアは苦笑し、守護騎士達は戸惑っていた。

「良かったなはやて。こんなにも家族が増えて……」

「うん。リア兄だけでも十分やって思っとったけど……家族は多いんに越した事はないなぁ…」

はやては、闇の書の完成を望まず、たとえ、完成したら不自由な足が治ると言われても、魔力の蒐集は人様に迷惑を掛けるから駄目といい、皆に望む事は家族として、共に過ごすことだけであった。

守護騎士たちもその考えに従い、戸惑いながらも平和の時を過ごすこととなった。

今までの主は、彼女らに対して高圧的に接するか、道具として利用するしか考えなかった。

彼女達もそれが当然だと思っていた。

しかし、はやてが皆を家族として接しているうちに、彼女らは『今』という時を、とても貴重に思うようになったいた。

一番早く、今の環境に慣れたのは『湖の騎士』シャマルであった。

次に、『烈火の将』シグナム、『盾の守護獣』ザフィーラも慣れ……最後まで、今の状況に最も抵抗を持っていた『鉄槌の騎士』ヴィータも、今でははやてとアイオリアに懐き、はやてと共にアイオリアに甘えるようになった。

アイオリアも表には出さなかったが、内心では彼女たちがいつ、はやてに危害を加えても対処出来るように警戒していたが、彼女たちのはやてに対する忠義…そして愛情は本物である事を悟り、受け入れていた。

はやてとアイオリアと守護騎士達の、穏やかで幸せに日々が続いたが………その幸せは、いつまでも続く事はなかった。

彼女達に衝撃の真実が知らされた事が、戦いから遠ざかろうとしていた、守護騎士達を再び、戦いに駆り立てる事となった。

 

〈第十五話 了〉

 


今回は、As編の主要キャラである『闇の書』側の人間達の話です

真一郎「アイオリアがはやての所に居るという事は、彼も蒐集を行うのかな?」

いや、アイオリアは聖闘士。例えはやてのためとはいえ、それは行わないでしょう。基本的にAs編はアニメに準ずる流れになりますから……

真一郎「じゃあアイオリアはどういう行動をとるんだ?」

それは今の段階ではまだ明かせません。しかし、彼のみは管理局の法に裁かれることはない……とだけ言っておきましょう。

真一郎「次からAs編の開始か?」

いや、まだまだ幕間は続きます。次回はまた、カノン達のサイドでの話です

では、これからも私の作品にお付き合い下さい

真一郎「お願いします」




はやての元にも聖闘士が。
美姫 「アイオリアが来たみたいね」
蒐集には参加しないみたいだけれど、どんな役割があるんだろうか。
美姫 「かなり気になるわね」
だな。まあ、その前に次回はカノン達の話みたいだけれど。
美姫 「こちらはこちらでどんな話になるかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」


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