『時空を越えた黄金の闘士』

第三十六話 「罪と罰」

 

「……グレアム提督?」

フェイトは、突如現れた自分の保護監察官を見て戸惑っていた。

「……カノンさんが重症だとクロノ君から聞いてね……、無理をさせるのは悪いと思って、此方から来させた方がいいと思ってね…」

「確かに、本局に出向く手間が省けたな……」

苦笑していたカノンは、そう呟くと表情を改めた。

「……カノン…。私は席を外した方がいい?」

「……イヤ、別に構わん…」

退室しようとしたフェイトを制し、カノンはグレアムと向き合った。

 

 

 

「……さて、ギル・グレアム……。俺が聞きたいことは理解しているか?」

「……私が、『闇の書』をはやて君諸共、封印しようとしていた件について……だろう?」

「そうだ。お前は『闇の書』が起動するかなり前にはやてが次の主であることを知った筈……。にも拘らず何故、このような短絡な方法を取った?」

それほど早くに『闇の書』の転生先を突き止めておきながら、グレアムは管理局に報告せず、転生先であるはやてに父親の友人を語り、後見人となった。

その目的は、『闇の書』を完成させ、暴走が始まる直前に強力な凍結魔法を用い、はやて諸共、永久封印することであった。

そのため、使い魔のリーゼ姉妹を『仮面の男』に変身させ、守護騎士達の蒐集に協力し、アースラの捜査妨害などを行っていたのだ。

フェイトは、グレアム達が『仮面の男』として自分達の妨害をしていた事を知り、呆然となった。

「少なくとも、お前ら管理局が定める法に照らし合わせてもお前の行為は違法だ。管理外の世界の人間にもそれを強いる管理局員であるお前達こそがそれを最も守らねばならないのではないか?」

カノンは、クロノと初めて会った時のことを思い出していた。

あの時、クロノは管理局とまったく関わりのない……それどころか管理局が発見していない世界出身の自分に対しても、管理局が内輪で決めたルールを押し付けようとした。

今のクロノはその様な傲慢な行為を行わないが、それはカノンがクロノの魔導師としてのプライドを完膚なきまでに砕いたからであり、あの場にカノンが居なければ……、クロノは高圧的な態度のままだったかも知れない。

他者に自分達が決めた法を従わせようとするのなら、まず己自身がそれに従わなくてはならない。

グレアムも管理外世界の出身だが、もう何十年も管理局の水を飲んで生きてきた。

今更、自分は管理外世界の人間だから…というのは通用しない。

「……今でも後悔している。クライド……クロノの父の艦に何故、『闇の書』を積ませたのか…と…。本来なら、最高責任者である私の艦に積ませるべきだった。幼い息子が居るクライドよりも、独身で、しかも年長の私の方が犠牲になるべきだった……と。」

夫の訃報を聞き、涙を堪え気丈に振舞うリンディと、父の死に泣き崩れるクロノ。

2人の姿が、グレアムの目に焼きついていた。

リンディも管理局の人間であり、優秀な魔導師である。

『闇の書』がどれほど危険な物か理解していたし、局員としての考えから、グレアムを責めなかった。

いっそのこと罵ってくれれば……恨み言の一つも言われたほうが気が楽だった。

グレアムは、『闇の書』への復讐を誓った。

任務の合間に、独自に転生した『闇の書』を捜索し、何年か経ってそれを見つけた。

皮肉にも、転生先は自分の出身世界にある東洋の島国に住む一人の少女の下だった。

「彼女の身の上を知り身体を悪くしている彼女を見て良心は痛んだが―――運命だと思った。孤独な子であればそれだけ悲しむ人は少なくなる…」

「……はやての生活の援助をしていたのは?」

「……永遠の眠りにつく前くらい、せめて幸せにしてやりたかった……偽善だな…」

グレアムの返答を、カノンは鼻で笑った。

「フッ……幸せに……だと?何処かだ……」

「何!?」

「はやてを幸せにしたいのなら、援助などしない方が良かったのだ…」

「どういう意味だね?」

「はやては、お前の援助で生活が安定していたからこそ、アイオリアや守護騎士たちと暮らすことが出来た……。しかし、最後の最後でお前達ははやての幸せを踏みにじった。はやての前でシグナム達を『闇の書』に蒐集させ、はやてから奪った。ささやかな幸せの中にいたはやてを絶望に突き落とした……」

孤独だったはやては、アイオリアと守護騎士たちという家族を得た。

病魔が自分を蝕んでいても、はやては十分に幸せだった。

しかし、その家族が目の前で消滅していった……しかも、友達の手で……。

リーゼ達はなのはとフェイトの姿でシグナム達を消滅させたのだ。

ささやかとはいえ、やっと手に入れた幸せを奪われた絶望は、並大抵の物ではない。

「生活が苦しかったら、シグナム達の衣食住の世話など出来なかっただろう……。苦しければ苦しいほど…そこから逃れたくなる……。それなら、お前の計画は、はやてにとって苦しみからの救済になっていただろう……」

生きる苦しみから解放され、『闇の書』の見せる幸せな夢の中で永遠に眠る……それが正しいか間違っているかは置いておいて、その方がどれほど……。

「…大切な存在を目の前で喪わせ、絶望に突き落とす必要性があったのか……?」

「………しかし、はやて君は今までの『闇の書』の主たちと違い、『闇の書』の絶大な力を望まなかった……。『闇の書』の起動に必要な願いを求めさせなければならなかった」

「……だから、生活の援助など要らないと言ったんだ……。生活が安定していなかったら、家族とのささやかな幸せすら望めない……。安定していたからこそ、はやては『闇の書』の力を求めなかったのではないか……。皆と幸せに暮らすために力が必要なら……はやても『闇の書』の力を望んだかもしれん……」

最も、アイオリアというイレギュラーが存在していたので、そう上手くはいかなかっただろう。

いくら、はやてを大切にしていても、アイオリアはアテナの聖闘士である。

まだ魔力を持った生物からの蒐集ならば『狩り』で済ませただろう。

人が生きて行く為に、他の生物を糧にするしかなく、それまで悪と断じてしまえば、人間は生きていられなくなる。

むしろ、命を奪わないので、糧を得るための『狩り』よりは穏便だろう。

しかし、人間相手にそれを行えばそれは『通り魔強盗』と同じだろう……。

今回、アイオリアは見て見ぬ振りをしたが……それはシグナム達がはやてにも内緒していたからであり、それを表立って行っていれば、アイオリアは止めざる得なかった……。

「あと、お前の計画自体に問題がある。お前の計画では永久に『闇の書』を封じることなど出来ない。いや……そもそも『永久』に封印など『神』でも不可能なのだ……」

たとえ凍結魔法で封印しても、いつか誰かが手にして使おうとする……『闇の書』の絶大な力を求めて……。

そして、誰も手を出さなくとも、いつかは凍結魔法の効力が失われて復活してしまうだろう……。

所詮、魔法は『人』の力に過ぎない。

前聖戦において、アテナは『百八の魔星』を封印した。

しかし、その封印は二百数十年で効力を失ってしまった。

『神』であるアテナの封印でさえ、永久に封じることは出来なかったのだ。

ましてや『人』の力で、『永久』に封印など不可能なのである。

最も、『神』であるハーデスの力である『百八の魔星』と『人間』である魔導師が作った『闇の書』とでは、モノのレベルが違うと言ってしまえばそれまでだが(『百八の魔星』と違い、『闇の書』程度なら、『神』の力なら永久封印が可能かも知れないが)……。 

「……お前の取った手段は、本来なら最後の手段にすべきだった。はやてを見つけてから今まで、時間がなかったとは言わさん……。現に俺たちは偶然とはいえ、『夜天の魔導書』を修復する手段を見つけたのだ……。お前の権限があれば無限書庫で主を殺さずに『闇の書』を何とかする方法を探せたはずだ……」

「…無限書庫は本来、探索のチームを組んで数年がかりで探さなければならない……その間に多くの犠牲者が……」

「行動も起こさず、推論だけでほざくな!」

グレアムの反論を、カノンは切り捨てた。

「どれだけ理屈を並べても、現に俺とユーノが見つけたのは事実……。可能性はゼロではなかった筈だ」

確かに、カノンとユーノが解決法を見つけたのは偶然だった。

もしくは遺跡発掘を生業にしているスクライア族のユーノと、空間を操る力を持つカノンの二人がそろっていたからこそ、見つけられたとも言えるかも知れない。

しかしそれならば、そのスクライア族に探索を依頼すれば見つかる可能性が高いだろう。

数人のスクライア族が探索すれば、カノンたちと同じ……いや、それ以上の確率で発見できたかもしれない。

グレアムの取った行動は、それでも見つけることが出来なかったときの為の最後の手段にするべきだった。

「お前は…身勝手な復讐心で何の力も持たない少女に、全てをなすりつけて殺そうとしたに過ぎない……」

カノンの痛烈な指摘に、グレアムは沈黙した。

「そして……お前のもう一つの罪は、クロノとリンディの信頼を裏切ったことだ…!」

グレアムはかつて、フェイトの保護監察官として言った。

「友達や、自分を信頼してくれる人の事は決して裏切ってはいけない」……と…。

「フェイトにそれを求めたクセに、お前自身が、クロノとリンディの信頼を裏切った……」

もはや、グレアムは何も言えなかった。

 

 

 

「……お前に聞きたいのは、その罪を償う気があるかどうか……だ…」

「………」

「どうなんだ?」

カノンの問いに、沈黙していたグレアムが口を開いた。

「……君の言うとおりだ……。はやて君に対する罪は…償うつもりだ……」

「ならば……自分が何をすべきかは理解しているだろう」

グレアムは頷いた。

「管理局は、はやて君に対しても罪を求めるだろう……。それを全て私が引き受ければ良いんだね……」

「そうだ……守護騎士たちの行動に関しては……流石に無理だが、はやてに関しては元々罪などないからな…」

カノン達からすれば納得いかないことだが、管理局はシグナム達守護騎士たちを人間とは見なさず、はやてのデバイスの『プログラム』に過ぎないとみなすだろう……。

つまり、守護騎士たちの行った行為はすべてはやてにある……と…。

しかし、自立していない9歳の少女に管理責任などある筈がないのだ。

はやては一人暮らしではあるが、自身で働いて生活していた訳ではなく、両親が残した財産で生活しており、その財産は後見人のグレアムが管理していた。

そして、『闇の書』の主とはいえ、覚醒前のはやてには何の力もなかった。

つまり……はやてに守護騎士たちを止める力などなかったのだ。

『闇の書』にしても、はやてが自分から手に入れたモノではなく、『闇の書』側が、ランダムにはやてを選んだに過ぎない。

むしろ、後見人であるグレアムが、全ての責任を負うべきだろう。

グレアムは、『闇の書』の危険性を熟知していたのだから……。

「……お前が本来、はやてに着せられる罪を肩代わりするのなら、俺はそれでいい……」

そう言うと、カノンは再びベッドに寝そべりシーツを被った。

「……それで良いのかね……。私は君に制裁を受けるモノと思っていたのだが……」

「……お前を裁く権利……それは俺にはない……。お前がすることは、はやてに謝罪し、はやての審判を仰げ……。はやてが赦せばそれで良かろう……」

再び体を起こしたカノンが、グレアムを見据え言った。

「……最も、はやてはきっとお前をあっさりと赦すだろうが……な…。だからこそ、はやてが被る罪をお前に被れと言ったわけだが……」

そう、おそらくはやては、それでもグレアムを赦すだろう……。

グレアムにどのような企みがあったにせよ、グレアムのお陰ではやては今まで生活できたのだから……。

「それに…、お前程度の小悪党など、俺に比べれば小さい小さい……」

『神』であるポセイドンを誑かし、アテナとポセイドンに代わり地上と海界を支配する『神』になろうとしたカノンに比べれば、グレアムの企みなど取るに足らないことである。

「だが……それでもさっき言ったように、お前に罪がないわけではない。はやて、クロノ、リンディ……この3人の信頼を裏切ったことは、赦されることではない。例え、はやて達がお前を赦しても……お前はその罪から逃げるな……。逃げるようなら…その時は俺がお前の首を落す!」

カノンも罪を背負う身である。

グレアムが、その罪を背負い償うのなら、カノンは手を出さない……。

しかし、グレアムがその罪を償うつもりもなく、自分を正当化し、罪から逃げるつもりなら……例え、管理局を敵に回してもグレアムに制裁を加えるつもりだった。

 

 ★☆★

 

グレアムがロッサに連れられ、医務室から退室した後、フェイトが口を開いた。

「……本当に…グレアム提督が罪を償おうとしなかったら……提督を殺すつもりだったの…?」

「……ああ」

自分に比べれば大したことではないとはいえ、グレアムの行為は当然、許せるものではない。

先程も言ったが、グレアムが取ろうとした行動は、手を尽くしてどうしようもなくなった時の、最後の手段である。

やるべき事もやらずに、ただ自分の復讐の為に、何の罪もないはやてになすりつけるなど……赦されることではないのだから……。

「奴は、管理局の中では『英雄』とまで呼ばれている……。今回、はやての罪を被っても今までの功績から鑑みて、そう大層な罪にはなるまい……。管理局としても、今まで英雄扱いしていた者が、大罪で裁かれては体面が悪くなるだろうからな……」

組織というものは、体面を気にするものである。

恐らく、今回の件は、グレアムに辞職させることで済ませるだろう。

何しろ、死人はただの一人も出ていないのだから……。

守護騎士たちが、はやての将来を考え、殺人を犯さなかったことがプラスになるだろう…。

「あの猫共は、アイオリアが制裁を加えたからな……。アレ以上は必要あるまい……。それとも、お前個人はまだ赦せないか……」

『仮面の男』に扮したリーゼに不意をつかれ、リンカーコアを奪われてしまったフェイトに、悪戯っぽく訊ねる。

「……アイオリアがあそこまでしたんだから……私ももういいよ……」

アイオリアの怒気と殺気は、自分に向けられてもいないのに、とても怖かった。

なのはと共に、肩を抱き合い震えていたあの時の状況を思い出し、背筋が冷えるフェイトだった。

 

〈第三十六話 了〉


 

真一郎「何だかんだ言いつつ、カノンはグレアムを余り責めなかったな…」

まあ、カノンも罪を背負う立場だから、罪を償おうとする人間を責められんだろう……。

真一郎「そろそろAs編も終わりそうだな……」

そうだね。やっと終わりそうだね…、それでも後2、3話あるけど……。

では、これからも私の作品にお付き合い下さい。

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」




グレアムの件もカノンが関わる部分では終わりだな。
美姫 「他の事に関しては、管理局内で落とし所をどうするかだものね」
まあ、はやては許す可能性が高いから、原作と似たような形になるかな。
美姫 「シグナムたちの対処も気になるところよね」
次回はどんな話になるんだろうか。
美姫 「次回も待ってますね〜」



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