『時空を越えた黄金の闘士』

第五十四話 「双子座の迷宮」

 

―――聖域。

その中央には大きな神殿がある。

そこが、カノンと候補生達の生活の場である。

この神殿は、古代ギリシア建築の3つの主要な建築様式の1つであるドーリア式建造物である。

ドーリア式建造物で有名なのは、最高峰と言われる『パルテノン神殿』である。

その神殿の最奥にある候補生達は立ち入る事を許されない一画―――オリハルコン、ガマニオン、銀星砂などの希少金属と共に神の力を宿した様々な『神具』が納められた宝物庫に三人の候補生達が侵入していた。

彼らは管理局の……いや、『最高評議会』から送られた間諜であった。

彼らは、他の候補生達と違い、魔力量はAAランクに達していた。

年齢はなのは達と同年代で、評議会直属の部隊のエース級の魔導師である。なのは達には及ばないが………。

本人たちに自覚はないが、広告塔の役割を担わされているなのは達と違い、評議会直属部隊の為、一般局員には顔を知られておらず、人事部の責任者であるレティですら彼らの事は知らない。

だから、彼らは他の候補生達と同様、魔力資質がE〜Fレベルしかないと偽り、聖闘士候補生達の中に紛れ込んだのだ。

最もその為、聖闘士の修行を科せられる羽目になり、あまりにも過酷で地獄の修行ぶりに、この任務に付いたことを後悔しまくっていたのだが……。

カノン達の留守を好機にと、行動を起こしたのである。

「……これが…『神具』?」

「これを持ち帰ること…それが『評議会』からの命令だ…」

「…我らはここでの地獄の修行を経て、『小宇宙』に目覚めた」

「つまり、この『神具』を使用することが出来る……」

「やはり、これほどの『力』を持つ『ロストロギア』は管理局で管理しなければ……な」

「よし、黄金聖闘士達がアースラから戻ってくる前に……ここから脱出するぞ!」

「その後、顔を整形してしまえばバレることはあるまい……」

彼らは目に付いた神具……それぞれ豊穣神デメテル、鍛冶神ヘパイストス、酒神デュオニュソスの神具を持ち宝物庫を出た。

他の神具は何処にあるか分からないし、いつカノンたちが戻ってくるか分からない……のでやむを得ず置いていくことにした。

彼らは気付いていなかった。

リーゼ姉妹が自分たちを監視していたことを……。

 

 

 

通路を駆ける三人は奇妙な感覚に襲われていた。

「……な…なんだ!?」

「来たときとあたりの雰囲気が違う…」

「急に真っ暗になった……」

「と…とにかく脱出だ!」

彼らは出口に向かって駆けた。

「な…何なんだ…この感じは?」

「まるで…光と影が交互に襲ってくるような感覚は……?」

「…明かりが見える…出口か!?」

出口に駆け込むと……そこは!?

「こ…ここは!?」

「バ…馬鹿な…!?」

「宝物庫の……前!?」

何と…彼らはまた入口…つまり宝物庫に戻ってしまっていた。

「俺たちは道に迷ったのか?」

「いや、あの通路はそもそも一本道だった……」

「……早く脱出しないと……」

「どうする天井を魔法でぶち抜いて、空を飛んで逃げるか?」

一人がデバイスを展開する。

「やめろ。ここで派手な行動をすると、他の奴らに気付かれるぞ…」

自分たち以外の候補生達は、あのような地獄の修行を強いられているにもかかわらず、カノン達『黄金聖闘士』に心酔している者が数多い。

基本的に、彼らを直接指導するのはカノンであり、かなり扱かれるが、それでもその強さに敬意と畏怖を抱いている候補生は多い。

最も、候補生に人気があるのはアイオリアであり、彼のさりげない気遣いを受け、救われた者たちは数知れない。

童虎は、たまにしか聖域に訪れないが、彼の器量と偉大さは皆が知るところである。

自分たちの行為を彼らが知れば、間違いなく妨害してくるだろう。

もともと管理局の武装隊志望だったくせに、今ではすっかり聖闘士側になってしまっているのだから……。

いかに自分たちがAAランクも魔導師で、小宇宙に目覚めているとはいえ、他の候補生達も、小宇宙に目覚めている者は存在している。

取り囲まれれば、流石に数で劣る自分たちが取り押さえられてしまう。

「とにかく、もう一度突破を試みよう…」

三人は再び、通路を駆け抜けようとした。

 

 

 

「……おい、妙だぞ?」

「ああ。今度はいくら走っても出口が見えない……」

「もう、数十時間も走っている気がするが……」

「それでいて、まだ数分しか経っていない様な気もする…?」

走っている三人の時間感覚が狂っていた。

そして…走り続ける三人の前に人影が現れた。

 

フッフッフ……まんまと網にかかりおったな……愚か者共よ…!

 

「な…何!?」

「お……お前は!?」

 

……お前たちは迷い込んでしまったのだ……『双子座』の迷宮にな……!!

 

三人の前に立ち塞がったのは、フル装着状態の『双子座』の黄金聖衣であった。

 

 ★☆★

 

「…ねぇリニス……カノンは何しに行ったの?」

「…さあ…私も聞いていませんから……」

席をはずしたカノンをいぶかしむフェイトだったが、リニスは本当に知らないようであった。

「…流石に料理の作りすぎで疲れたらしく、少し休むらしいぞ…」

アイオリアがフェイトにそう答える。

「……リーゼ達からの連絡って言うのは?」

「何かカノンが、留守の間仕事を頼んでいたらしくてな。それが終わったとの報告だ……」

【……泳がせていた奴等を処理するんですか?】

【……奴らが他の候補生達のように…聖闘士を目指す者としての自覚を持ってくれたなら、こんなことはしなくてもいいんだが……】

フェイトと話しながら、アイオリアはムウとテレパシーで話していた。

結局、奴等は掟を破ろうとしている。

奴等を見逃せば示しが付かないので、言い方は悪いが見せしめとして、掟通り奴等を処刑せざる得なくなった。

 

 

 

「ば…馬鹿な……、あんたは今、『アースラ』に行っているんじゃなかったのか?」

「フッ……俺たちが留守だと言えば、貴様らが行動を起こすと思ってな……」

「…クッ…嵌められたか……」

彼らは、カノン達が自分たちの正体に気付いていたことを知り、歯噛みした。

「……それにしても…秩序を護る『時空管理局』とやらが、空き巣紛いの事をするとは……同じ局員であるクロノやヴェロッサが知れば、嘆くだろうな……」

『双子座』は侮蔑のこもった声で糾弾する。

「このような『ロストロギア』は、管理局で管理しなければならないんだ!それがわからないのか!?」

流石、最高評議会の直属部隊である。

傲慢さも、他の管理局員の比ではなかった。

「フッ…。どの道、貴様らの行為は無意味だな…。そもそも大事な『神具』を貴様ら如きが、そう簡単に手に出来るような場所に置いておくと思うか?」

「な…なんだと!?」

彼らは、自分たちが手にしている神具を見る。

「それは、ムウが作った精巧な模造品……つまり…ブラフだ……」

『双子座』が、彼らをあざ笑う。

「本物は『霊血《イーコール》』で作った符によって封印してある」

カノンが持っていた『霊血』は、この聖域を見つけた時にムウが預かっていた。

ムウは、師である教皇シオンから、アテナの『霊血』を用いて『封印の護符』を作る方法を伝授されていたのだ。

「貴様ら管理局は、この場所を見つけておきながら、ここに張られたアテナの結界を破れず監視するに留めていた。そんな貴様らでは、あの封印を解くことは適わぬ……。残念だったな…」

アテナの『霊血』の効果は、二百数十年続く……。

その封印を途中で解くには、アテナの力を用いなければ不可能。

つまり、現在ムウが所持しているアテナの『霊血』を用いない限り、封印を破ることは出来ない。

「ちくしょう…。任務失敗か…」

「地獄に耐え、ようやくチャンスが巡ってきたと思ったら……」

「俺たちの経歴に傷がついてしまった……。俺の出世街道が……」

まんまとしてやられた三人は、持っていた神具の紛い物を地面に叩きつけ、悔しがった。

「フッ…。経歴も出世ももはや気にする必要はない……貴様らが聖域に来たときに宣言した筈だ…。脱走者に待っているのは『死』だと…。さらに貴様らは未遂とはいえ、『神具』を盗もうとした『逆賊』…。これから死ぬ貴様らが経歴や今後の出世を気にする事など無意味だ…」

カノンは、彼らが管理局の間諜だと気付いていたが、自分自身がかつて逆賊だった事もあり、チャンスを与えてきた。

行動を起こすまでは気付かぬ振りをし、アテナが、城戸沙織がどれほど素晴らしい女神かということを説明し、クロノやロッサ同様、彼らが『小宇宙』に目覚めた時にアテナの神具に込められたアテナの『小宇宙』に触れさせたりもした。

彼らにもアテナの雄大な小宇宙に触れさせることにより、愚行を思い留まらせようとしたのだ。

しかし結局、それは無駄であった。

彼らは、クロノ達の様に次元世界の平和を願い、管理局に入局したのではなかった。

ただ、己の栄達の為だけに管理局に属したに過ぎない。

昔のカノンも似たようなモノであるが、アテナの『愛』に触れ改心した。

カノンは、彼らにそれを期待したのだ…しかし……。

「もはや、お前たちにかける情けは持たぬ……。ここで『逆賊』として制裁する!」

『双子座』は一歩一歩、足を踏み出し…彼らに近づいていった。

「……こんな所で死んでたまるか…。AAランクの魔導師を舐めるなよ!セットアップ!!」

彼らのうちの一人が、インテリジェント・デバイスを起動させ、『防護服』を纏う。

「……普通の攻撃魔法では、黄金聖闘士には通じないが…これならどうだ…『フリーズキャノン』!!」

《Freeze Cannon》

クロノがよく使用していた『ブレイズキャノン』は『炎《ブレイズ》』の名の通り、熱量を伴う破壊魔法であるが、この魔法は『凍結《フリーズ》』の名の通り、相手を凍りつかせる凍結魔法である。

破壊が無理なら凍結させようと考えたようである。

だが…。

「な…何ぃぃぃぃぃ!!」

『フリーズキャノン』はまったく効果がなかった。

「……この程度で『黄金聖衣』を凍結させることは出来ん」

すべての物には凍結点というものがある。

水が摂氏〇℃で凍るように、アルコールが零下114.5℃で凍結するように、聖衣にも凍結する温度がある。

『青銅聖衣』は、零下150℃以下で凍りつく。

たとえ、永久氷壁から生まれた氷の聖衣である『白鳥星座』でも例外ではない。

『白銀聖衣』は、零下200℃以下でその機能を停止させる。

だが、『黄金聖衣』を凍結させるには、零下273.15℃……つまり、すべての物質が凍結される『絶対零度』でなければならない。

しかし、いかに魔法でも『絶対零度』の凍結魔法などは存在しない。

クロノがグレアムから託された氷結の杖『デュランダル』にセットされたオーバーSランクの凍結魔法『エターナルコフィン』も、『絶対零度』には達していない。

氷の闘技を身につけた聖闘士といえど、『絶対零度』の凍気を作り出すことは難しい。

『絶対零度』に達した氷の聖闘士は『白鳥星座』の氷河以外、確認されていない。

氷河の師である『水瓶座』の黄金聖闘士カミュでさえも、『絶対零度』には僅かに及ばなかった。

その後、残り二人も次々と攻撃魔法を放つがそのすべてが無力化されてしまった。

「……気が済んだか……。ならば、異次元に跳んで行け『アナザーディメンション』!!」

異次元の入口がぽっかりと口を開ける。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「くそっ…脱出を…」

「だ…駄目だ…飛行魔法がデリートされた!す……吸い込まれる!!」

『アナザーディメンション』によって開けられた異次元空間は、魔導師たちにとって落ちたが最後、二度と出ることが不可能な『虚数空間』に等しい空間であり、すべての魔法がデリートされてしまう。

AMFは、対策次第でなんとかなるが、虚数空間は魔導師ではどうすることも出来ない。

それに等しい空間を操れる『アナザーディメンション』を持つカノンは、ある意味、魔導師の天敵と言えよう。

彼らはそのまま、異次元空間を漂うことになる。

時間感覚が狂い、自分たちがどれほどこの空間を漂っているかも知覚できず……その命が途絶えるまで……。

 

 

 

三人が異次元空間に跳ばされた後、通路は元の状態に戻り、『双子座』の聖衣は分解し、オプジェ形態に戻った。

そう、カノンはその場には居なかったのだ。

アースラの一室から、『双子座』の聖衣を遠隔操作で操っていたのだ。

かつて、サガが『教皇の間』から双児宮の『双子座』の聖衣を操り、星矢達を迎え撃った時のように……。

 

 ★☆★

 

瞑想を終えたカノンは、レクリエーションルームに戻った。

「……カノン。お帰り……大丈夫?」

「ああ。さすがにあれほどの料理を作るとなると、戦闘とは違う意味で疲れるものだな……」

出迎えたフェイトに笑顔で応える。

その後、カノンは何食わぬ顔で、パーティーを楽しんでいた。

 

 

翌日、候補生達に彼ら三人が脱走を試みた為、処刑された事が通達された。

 

〈第五十四話 了〉


 

間諜のあぶり出し

真一郎「けっこう、残酷だな」

正義とは、時に厳しく、残酷な物なのだ。

真一郎「沙織さんがいたら、彼らも許されたのだろうか?」

さあ、どうなんだろ……?彼らの態度次第じゃないのか?いくら沙織さんでも、改心していない者まで助けるとは思えないし……。

では、これからも私の作品にお付き合いください。

真一郎「お願いします」




評議会はやっぱりすんなりと諦める性質ではなかったか。
美姫 「ちゃっかりと直属の者を送り込んでいたのね」
とは言え、それさえも見抜かれているとは。
美姫 「見事罠に掛かってしまったわね」
しかし、この件の事実は公表しないのかな。
美姫 「脱走者として処理されたと候補生たちには伝えられたみたいだしね」
管理局の上にもなのかな。
美姫 「どうかしらね。どちらにせよ、警告にはなったでしょうね」
かな。次回もどうなるのか楽しみです。
美姫 「次回も待っていますね」



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