『時空を越えた黄金の闘士』

第六十七話 「力を得る戦士達」

 

機動六課のFW陣は、今日も訓練に明け暮れていた。

今日は、個別スキルを上げる訓練を行っており、内容は今まで以上にハードなものになっていた。

フロントアタッカーのスバルはヴィータに、センターガードのティアナはなのはにそれぞれマンツーマンで指導を受けていた。

ちなみにガードウィングのエリオとフルバックのキャロも、攻撃回避の訓練を受けるところなのだが……はっきりいってそういう訓練は師である童虎に徹底的に仕込まれているので、今更、フェイトに教わるまでもなかった。

なので、2人はお互いで手合わせを行っていた。

 

 ★☆★

 

スカリエッティの研究所では、ついに完成した新デバイスのお披露目が行われていた。

「どうだい、ゼスト、クイント。『聖衣デバイス』……いや、『鋼鉄聖衣』のプロトタイプの感想は……?」

「……とてもデバイスをこの身に装着しているとは思えん程……軽い!」

ゼストが愛用している槍型アームドデバイスも、かつてクイントが愛用していた『リボルバーナックル』も、それなりの重量があった。

魔法で身体強化をしていたとはいえ、フィジカル面も鍛えていなければ、とてもではないが使用出来ない。

しかし、この『鋼鉄聖衣』は、機械が詰まっているとは思えない程の軽さである。

身体強化ではなく、魔力を全身に循環させただけで、重量が感じられなくなっていた。

「……防護力も凄いわ…。如何に手加減しているとはいえ、聖闘士の攻撃を受けても傷一つついていない……」

先ほど、青銅レベル程度に小宇宙を高めて放ったミロの攻撃を受けても『鋼鉄聖衣』は皹一つ入らなかった。

流石に白銀聖闘士級の全力攻撃には耐えられないだろうが、ある程度なら耐えられる防御力を誇っている。

原子破壊の阻害と魔力を流すことにより重量が軽くなる術式を組むのは、流石の天才科学者でも苦労したようだが、ゼストもクイントも、…充分満足して貰えた様だ。

「…これで、ルーテシアやナンバーズ用…更には量産型の『鋼鉄聖衣』の開発の目処がたったよ…」

スカリエッティも成果が出て、ホッとしたいた。

「……何れは、白銀や黄金聖闘士とも対抗できる『鋼鉄聖衣』も作れるようになれますか?」

「……いや、流石にそれは無理だろうね。基本的に『青銅』と『白銀』との実力差は懸け離れている。ミロやシャカさんが、以前に話してくれた『5人の青銅聖闘士』は例外だろうけどね…」

青銅でありながら、黄金級の実力に達した星矢達は、間違いなく特別な例外と言えよう。

最も、『天馬星座』の聖闘士に関しては、神話の時代から『戦女神』を補佐する教皇以上に『戦女神』と『冥王』にとって、特別な存在なのだが……。

「……後は…実戦テスト……だね」

そう、これが一番の難問だった。

鋼鉄聖衣を纏ったゼストとクイントによる模擬戦でのデータは得ているが、対『神の闘士』のデータはまだ得られていない。

これに関しては、ミロとシャカでは駄目だ。

青銅級に小宇宙を抑えてというのは、所詮、手加減しているデータでは完璧とはいかない。

手加減しながらの実戦は、模擬戦と大して変わらないからだ。

「……管理局に出向しているという聖闘士を相手にする訳にもいかないからね…」

以前の次元犯罪者『ジェイル・スカリエッティ』ならいざ知らず、今の現状で聖闘士に喧嘩を吹っかければ、後々の禍根になりかねない。

黄金聖闘士達に対しては、ミロとシャカの口利きでなんとかなるだろうが、現場の者たちとの禍根は、出来れば避けたい。

「……やはり危険だが……『レリック』を狙ってくる海闘士と戦うしかないな…」

ゼストの提案に、渋い顔になるスカリエッティ。

スカリエッティ自身、それしかないと思っているが、シャカやミロに接しているとはいえ、『神の闘士』の凄まじさは完全に理解しているとは云えない。

どのようなアクシデントが起こるか解らず、2人をそんな危険に晒したくはなかった。

以前ならば平気でデータ収集の為の捨て駒に出来ただろうが、今のスカリエッティにとってゼストとクイントは大事な家族なのだから……。

特に、クイントを母と慕う『娘』たち、ノーウェやチンク達の事を考えれば……。

「…スカリエッティ…。お前の気持ちは嬉しい……俺たちにとっても今やお前は掛け替えのない家族だ。だが、同時に共に海闘士の野望を打ち砕く為の同志だ。その礎の為ならば、多少の無理も行おう。お前の技術力と我らに対する想いを信じて……。だから、お前もシャカ殿が認めた自分の作品と我らを信じてくれないか…」

ゼストとクイントは信頼を込めた微笑をスカリエッティに向けた。

スカリエッティはそんな2人の気持ちを汲むのだった。

 

 ★☆★

 

はやてとリインフォースは、スバルの父親であるゲンヤ・ナカジマ陸上三佐が部隊長を務める陸士108部隊の隊舎を訪れていた。

『レリック』の密輸ルートの捜査を依頼する為である。

108部隊の主任務は密輸調査である。

他の遺失管理部の機動部隊や本局捜査部にも依頼しているが、やはり地上の事は地上部隊の方が動きやすい。

それにゲンヤはともかく、他の地上部隊は縄張り意識が強い。

地上の事で本局が動き回ることにいい顔をしないだろう。

地上部隊の責任者であるレジアスも、アイオリアとの付き合いで多少は態度を改めているとはいえ、まだまだ本局自体との確執が無くなっているわけではない。

だが、それとは別にはやてがゲンヤにこの事件の捜査協力を依頼したのには裏の事情もあった。

それについては、後に明らかになる。

108部隊の捜査主任はラッド・カルタス二等陸尉とスバルの姉のギンガ・ナカジマ陸曹が担当し、六課側からはフェイトが捜査主任に当たることとなっている。

はやては、カルタスとギンガ両名を知っているので、使い易いだろうというゲンヤの配慮だった。

この事をリインフォースから聞かされたギンガは、アイオリアと共に自分を救ってくれたフェイトと仕事が出来る事を喜び気合を入れていた。

「ああ。それから捜査協力にあたり、六課からギンガにデバイスを一機、贈ろう」

「デバイスを?」

「スバル用に作った物の同型機で、ちゃんとギンガ用に調整するからな……」

「そ…それは凄く……嬉しいんですが…いいんでしょうか?」

「大丈夫だ…。ちゃんとテスタロッサと共に走れる用に立派な機体を用意するから、期待するといい…!」

「…ありがとうございます。リインフォース一尉」

 

 ★☆★

 

『海龍』のアルファロメオの下に、一人の雑兵が呼ばれていた。

「……『海龍』様。お呼びでしょうか?」

「……久しぶりだな……アプローズ…今は私と君だけだ…普段どおりで構わん…」

「……では、アルファロメオさん…。お久しぶりです…」

このアプローズという名の雑兵は、かつてアルファロメオが本局所属の魔導師であり『レイティア』の艦長を務めていた時に、彼の補佐をしていたエッセ執務官の息子であった。

本局の次元航行部隊の武装隊に所属していた時の任務中にアルファロメオと再会した。

そして父親の死の真相を知り、海闘士となった男である。

偶然にも彼は、海闘士の資質を持っていた。

「それで…何用でしょうか?」

「うむ。君の実力は既に雑兵レベルを遥かに上回っている…。そこで君にこの『鱗衣』を与えよう…」

「こ…これは!?」

アルファロメオが指し示したのは、『海賊《パイレーツ》』の鱗衣であった。

「これをかつて纏っていた男は、君も知っての通り10年前に、『双子座』のカノンによって葬られた。修復を済ませたこれを受け継ぐ者がようやく現れた……。それが君だ!」

『海賊』の鱗衣が光を発すると、アプローズが纏っていた雑兵の鱗衣が吹き飛び、分解した『海賊』の鱗衣が装着された。

「君は、今日から『海賊』の海闘士となった…。そこで早速だが君に任務を与える…」

「…はい」

親しみの態度を改め、配下の海闘士の立場に戻ったアプローズは、その場で傅いた。

「……管理局に所属している君ならば、もうすぐ『ロストロギア』のオークションが行われることは知っているな?」

そう、アプローズは今、現在も管理局に籍を置いている、いわば海闘士の『スパイ』であった。

「はい。ホテル・アグスタで行われるヤツですね。管理局の出資者も多く参加するそうですね…」

基本的に『ロストロギア』は本局の遺失物管理部で保管されるのだが、安全な物に関しては一般での所持も認められている。

時空管理局も組織である以上、活動の為の資金は重要であり、資金を提供してくれる出資者の意向はある程度汲まなければならない。

要するに、出資者に対するご機嫌取りである。

「ですが、オークションに出展される『ロストロギア』に我々が必要なモノがあったのでしょうか?」

今のところ、海闘士が必要としているのは『レリック』くらいである。

しかもそれは、クアットロという女が必要性を訴えているだけで、アルファロメオ自身はそれ程期待しているわけではない代物である。

そして、間違いなく『レリック』はオークションに出品される様な『ロストロギア』ではない。

「いや、オークション品ではない……。そのオークションに出展側として参加する男が所有しているモノを手に入れて欲しいのだ…」

空間モニターに、その出展者の顔写真が展開される。

「……遺跡発掘を生業にしているスクライア一族の人間で、オークションの出品するモノとは別に、移送してきたモノを手に入れて欲しいのだ…」

「何の目的で移送してきたのですか?」

「オークションで、品物の紹介や鑑定を任されているミッドチルダ考古学会の学士に届ける為らしい…その学士も彼と同じくスクライア一族だ…」

「……ああ、無限書庫の司書長を務めている男ですか……しかし何故、そのような任務を私に…?」

正直、海闘士が動くような相手ではないように感じるアプローズ。

「その学士を甘く見るな…。彼奴は…白銀聖闘士だ」

「…!?」

「そのスクライア一族が移送してきたモノが聖闘士の手に渡ると少し面倒な事になるかも知れん……ただでさえ、奴等の戦力は侮りがたいモノになっている…これ以上奴等の戦力を増強させるたくはない。故に、彼奴の手に渡る前に奪取してもらいたいのだ…」

10年という歳月で海闘士達が戦力を整えた様に、聖闘士側も着々と戦力を整えている。

「しかし、無理はするな……。確かに面倒な事になるかも知れんが必ずしもそうなるとは限らん……。使いこなせる者がそう簡単に見つかるとも思えんからな……。それよりも正規の海闘士を一人失う方が痛手となるし…私自身、エッセ執務官に続き、その息子である君まで喪いたくはない。奪取が不可能と判断次第、撤退しろ……」

「……御意!…それでは、ミッドチルダに向かいます……」

 

 

 

「……『海龍』様…よろしいのですか…彼に任せて……」

ネリビックが不安そうに訊ねてきた。

「……確かにあの男の実力は認めますが……それでも経験が浅い…。代わりに私が…」

「良い。アプローズには海闘士としての経験を積ませなければならない……彼を喪いたくないというのは、私の個人的な感情に過ぎん…。我らの大儀の為には……場合よっては彼を切り捨てる選択をしなければならなくなるかも知れん。そうならない為にも、やはり彼には経験を積ませた方がいい……」

裏を返せば、ネリビックやジャックをも切り捨てる可能性があると言及している。

そして、彼らもその意を読み取っていた。

「……我らとしては、『海皇』様と我等を誑かし利用した『双子座』のカノンに対する復讐と、この次元世界を我ら海闘士が望む理想郷を築いてくださるならば、その礎となることに何の異論もありません…」

「……その言葉に二言はないな…?」

「御意!」

「……覚えておこう…」

 

 ★☆★

 

108部隊との打ち合わせを終えたはやてとリインフォースは、ナカジマ親子と共に『地球』の日本風の料理屋で夕食を取っていたそこに、フェイトから通信が入った。

何でも海闘士とは別の『ガジェット』を使う第三勢力の正体が判明したとのことだ。

Dr.『ジェイル・スカリエッティ』。

フェイトにとって因縁深き相手である。

はやてとリインフォースは対策会議を行う為、中座することした。

「それでは、ナカジマ三佐……私達はこれで失礼させて戴きます」

「…おう」

はやては、支払伝票を取ろうとしたが、それより先にゲンヤが手にとった。

「そんな!?」

「さっさと行ってやんな。部下がまってるんだろ?」

「…はい!ギンガはまた、私がフェイトちゃんから連絡するな!」

「はい。お待ちしています」

 

〈第六十七話 了〉


 

真一郎「今回、黄金聖闘士たちの出番無し」

新たなる海闘士の誕生。そして、スクライア族が移送してきた物とは!?

真一郎「それはともかく、今回は台詞部分が結構多いな」

今回は閑話みたいなモノだしね……では、これからも私の作品にお付き合いください。

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」




スカリエッティが遂に聖衣に似た物を作り上げたか。
美姫 「流石に天才というだけはあるわね」
いや、味方にいれば確かに心強いかもしれないな。
美姫 「改心した今だからこそよね。それとは逆に海闘士の方は十年の間に戦力を補強させていたんでしょうけれど」
流石に少々きついかな。聖闘士側も新しい聖闘士が出てきてるし、スカリエッティたちも相手にしないといけないし。
美姫 「その上での発言も考えると、今度のオークションで目を付けた品というのが何なのか気になるわね」
誰の手に渡るんだろうか。次回も楽しみです。
美姫 「待ってますね」



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