『真一郎、御神の剣士となる』

第一話 「真一郎、運命を受け入れる」

 

いつもと違う朝を迎えた私立風芽丘学園一年生(もう直ぐ二年生に進級)、相川真一郎は、混乱していた。

幸い今日は日曜日、学校は休みだ。気晴らしに遠出をして、夕方ごろに帰宅をした。

『高町恭也』の影響か、何故か深夜ごろに無性に鍛錬をしたくなり、短めの木刀を……遠出したときに購入した……を持って山のほうで鍛錬をした。

「だから、何でこんなことをしてしまうんだ……俺は…?」

鍛錬を終え、マンションに戻った真一郎はシャワーを浴びて、ベットにもぐりこんだ。

 

 ★☆★

 

「相川真一郎よ」

「誰だ!!そして、ここは何処だ?」

よくわからないところに真一郎は立っていた。

「ここは、汝の夢の世界」

「へぇ、ここは夢の中か、で……アンタは?」

「我は超越者」

「……は?」

「我は、汝の身に起こったことを説明しに、汝の夢の中に赴いたのだ」

超越者と名乗る存在から、自らに起こった事の説明を受けた真一郎は驚き半分、呆れ半分の複雑な心境になった。

「つまり、未来で死んだ『高町恭也』の魂を今の時代まで遡らせ、この時代の高町恭也に宿らすつもりだったのが、手違いで俺に宿った……ということ?」

超越者は頷いた。

「事情はわかった……って、ふざけんなぁ〜〜〜〜〜!さっさと元に戻せ!!」

「……嫌!!」

「…嫌!!…じゃねぇ〜〜〜!!」

「こっちの方が面白そうだから……」

「てめぇの娯楽の為かよ!!」

「うん!!」

余りにあっさりとほざく超越者に真一郎は絶句した。

「それに、別に汝が別の人間になる訳ではない。魂が融合した為、多少、『高町恭也』の性格に影響を受けるが、人格は汝だし、その力を使って何かを成せ……と言うつもりもない。その力をどう扱おうが汝の自由だ。我はそれを見物させてもらうだけだ……暇つぶしに…」

ようするに暇つぶしに、これからの真一郎の行動を見物させろと超越者は言っているのだ。

こいつに何を言っても無駄だと理解した真一郎は諦めた。

「わかったよ。俺の好きなようにすればいいんだな……」

「ああ、それに暇つぶしに付き合ってもらう訳だから、サービスに汝に特殊な能力を授ける」

そう言うと超越者の手が光り、真一郎はその光に包まれた。

「……特殊な能力?」

「うむ、汝が相手に見せようと思わぬ限りどのような達人、例えば巻島十蔵レベルの人間でも決して汝の実力は感じとれない。更に、HGS患者といえど、汝が未来の『高町恭也』の記憶と能力と経験を持っているということを読心することはできない……という能力だ」

何て、都合のいい能力だ……と真一郎は呆れた。

「じゃあ、我は二度と汝の前に現れることはない。さらばだ」

超越者は夢の中から姿を消した。

「……しょうがないな、成るように成れ……」

真一郎は己の運命を受け入れた。

 

 ★☆★

 

やりたいようにやる。

真一郎が最初にやろうと考えたのは、この時代の高町恭也についてであった。

本来、彼と真一郎はほとんど接点がない。未来において自分の幼馴染の鷹城唯子と顔見知りになる程度だ……。

しかし、事故に遭うと分かっているのに助けないのは嫌だった。超越者がやりたいようにやれと言った以上、歴史を変えるとか、そんなのに関係なく自分のやりたいようにやる。

完全に割り切ったようだ。

 

 

『高町恭也』はこの日のことは忘れていない、何時、何処で事故に遭ったか鮮明に覚えていた。その記憶を頼りに真一郎は現場で待つことにした。

そろそろ、刻限がせまったとき、1人の少年が歩いてきた。疲れているのか、周りをよく見ていない……。

少年に向かって、車が突っ込んできた。

 

小太刀二刀御神流、奥義之歩法 『神速』

 

視界がモノクロになる。

真一郎は恭也の腰を抱かえて、車から離れた。

「…坊や、大丈夫?」

何が起こったのか理解できなかった恭也は自分を抱く人を不思議そうに見ていた。

「……ありがとう……ございます……」

ようやく、車に轢かれそうだったのを助けてもらったことを認識した恭也は真一郎に礼をした。

「気を付けないと……あれは完全に君の不注意だよ……とにかく、送ろう……」

「いえ……大丈夫です」

恭也は丁重に断ろうとしたが、真一郎は強引に送ることにした。

「不注意で車に轢かれそうになった人間の大丈夫は信用できない……せっかく助けたのに、その後、本当に轢かれましたじゃ意味がない」

恭也は真一郎をきつく睨んだ……しかし、直ぐに真顔に戻り、好意を受けることにした。悪意を感じなかったからだ。

「ありがとうございます、お姉さん……」

その台詞を聞いたとたん真一郎から殺気が放たれた。

「お兄さんだ!!!」

「!?すいません、お兄さん……」

真一郎の殺気に少し恐怖を感じた恭也はすぐさま謝った。

 

 ★☆★

 

「相川さん、ありがとうございます」

恭也を送った真一郎はちょうど夕食の支度に戻ってきた恭也の義母、高町桃子に感謝されていた。

「いえ、まさか坊やのお母さんが翠屋の店長さんだったとは………」

知っていた事だが、あえて知らないフリをする。

「ところで、あの坊やは何かあったんですか。俺が彼を見たとき何か疲れきっているようでしたが……」

その台詞に、桃子の顔が曇った。幾ら恭也の命の恩人とはいえ、そこまで話すのは憚られる。

「すみません、立ち入ったことを訊いてしまって……ところで、坊やの名前はなんて言うんですか?」

真一郎が引き下がったことにホッとした桃子は、恭也の名前を教えた。

「恭也…です。高町恭也」

「……恭也君……ですか」

「相川さん。恭也を助けてくれたお礼に夕飯をご馳走します。よかったら食べていってください」

「ありがとうございます。それじゃああつかましいですが、ご馳走になります」

 

 

恭也は道場で剣を振っていた。

「強く、もっと強くなるんだ……とーさんの変わりに俺が皆を……」

そこに真一郎が現れた。

「そんなことじゃ、本当の強さを身につけることはできないよ」

「相川さん……」

真一郎は道場に上がり、恭也の傍に寄ってきた。

「原因がわかったよ……自分の身体の限界を無視して鍛錬していれば、疲れきる筈だ。いつか身体を壊すよ……」

「助けてくれたことには感謝しますけど……何も知らないくせに、余計なことを言わないでください!!」

恭也は、怒気を孕んだ声で反論した。

「……どうやら、口で言ってもわからないようだ……」

真一郎は恭也がどう反論するか理解していた。この時の恭也は多分、こう言うだろう……と。持っていた鞄から、木刀を取り出した。

「だから、体に教えてあげるよ…自分が間違っていることを……。恭也君…俺と試合をしよう」

 

 

恭也は真一郎の試合の申し込みを受けた。

多少は強いのかもしれないが、必死に御神流を鍛錬してきた自分に、高校生程度の剣道家が勝てるはずが無い…と思っていた。

持っていた木刀の長さで、彼も小太刀を扱うことはわかった。

真一郎は一本を構え、もう一本を腰に差していた。

恭也は、二本の小太刀をそのまま、両手に持ち構えていた。

「それじゃあ、始めましょう」

恭也はそういうと、いきなり真一郎に詰め寄った。真一郎はすぐさま後方に下がる。次から次へと攻める恭也の斬撃を真一郎は難なく捌いていた。

(…俺の二本の小太刀の攻撃を小太刀一本で防いでいる……ならば!!)

恭也は次の一撃に『徹』を込めた。真一郎の木刀を折ろうと考えたのだ。しかし、真一郎の木刀は恭也の攻撃をすり抜けるように彼の眼前に迫っていて、慌てて避けた。

「…馬鹿な…今のは『貫』…?」

恭也は驚愕した。真一郎が御神の技を使ったのだ。

信じられない気持ちと、真一郎を甘く見たことを恥じた恭也は、『神速』の領域に入った。

恭也の視界がモノクロに変わる……そして、真一郎の動きがスローモーションの様に……ならない!!

真一郎も『神速』の領域に入っていた。真一郎は抜刀技の体勢に入っていた。

(!!……あの構えは…)

恭也は、自分が一番知っている技の構えに驚愕した。

 

小太刀二刀御神流 奥義之六 『薙旋』

 

抜刀からの四連撃。一撃目と二撃目で、恭也の木刀を跳ね飛ばし、三撃目を首筋に、四撃目をわき腹にそれぞれ寸止めされていた。

恭也の父、士郎、そして『高町恭也』が最も得意とした奥義を真一郎は放ったのだ。

「……勝負あったな……!」

「……相川さん……貴方は……御神の剣士!?」

真一郎は微笑みながら、頷いた。

恭也は信じられなかった。自分達以外に御神の剣士が生き残っていたことに……。

「俺は、御神の剣士だけど、御神と不破の血族という訳じゃない」

真一郎は語った。自分は昔、御神の剣士に師事していたこと。師匠は自分に名前は教えてくれなかったこと。そして、師匠もあのテロで命を落としたこと、御神の生き残りことを調べたこと。先程桃子に恭也の名前を訊き、恭也が小太刀二刀を鍛錬したいたことから、恭也がその生き残りであることを確信したことを話した。

全部嘘である。真一郎は『高町恭也』から受け継いだスキル【真顔で嘘を吐く】を発動させていた。

「…恭也君。御神流が最も力を発揮するのは、どんなときだい?」

真一郎の問いに恭也は直ぐに答えた。

「それは、護るべき人を護るとき……」

「君の護るべき人とは?」

「……かーさんと、妹の美由希となのは」

「じゃあ、もし君が今日、あの車に轢かれていたら、その人達がどれほど苦しむかわかるか……」

「!!」

「そして、そんなことになったら、君は亡くなったお父さんとの約束も果たせなくなるのではないのか……」

「……俺は……」

「急いで強くなる必要はないよ……ゆっくりと確実に強くなっていけばいい。このままだと何も成すこともできず、ただ悲しませるだけ…自分の生き様にも納得できずに終わるだけだ……」

真一郎は、未来の『高町恭也』の想いを感じとっていた。大切な家族を悲しませてしまった後悔。神咲那美とフィリス・矢沢と出会わなければずっと後悔し続けただろうことを……。

「……相川さん。ありがとうございます。俺はもう少しで取り返しの付かない過ちを犯すところでした」

恭也は真一郎に深々と頭を下げた。

 

 

「相川さん。本当にありがとうございます!!」

夕食の支度ができて、真一郎と恭也を呼びに来た桃子が再び真一郎に礼を言っていた。

「恭也の命を救ってくれたばかりか、恭也の無茶も止めてくれて……本当なら私が止めなくちゃいけなかったのに……」

真一郎は恐縮するばかりだった。

「相川さん。貴方が御神の剣士なら……俺に、御神流を教えて下さい!」

恭也の頼みに真一郎は困ってしまった。

「……恭也君。悪いけど俺は師匠には向いていないんだ……俺にはせいぜい修行方法を教える程度しか出来ない、一応俺、高校生だから学校の方もおろそかには出来ないんだ」

そう、真一郎は師匠には向かない……何故なら、真一郎は優しすぎるからだ。幼馴染に対してはいじめっ子になる真一郎だが、それはあくまで愛情表現に過ぎず、師匠として厳しくすることができないのだ。

「とりあえず、修行のやり方は明日にでもノートに纏めてあげる。体を休めてからそれを参考にしてくれ」

「それで、いいです。正直、とーさんか居なくなって、どう修行していいか分からなかったんです」

真一郎は恭也のために、鍛錬メニューを渡すことを約束した。これに関しては『高町恭也』の知識が役に立つ。恭也の体を壊れないように調整することが……。しかし、やはり師匠がいるのといないのでは違うだろう……。自分以外で恭也に御神流を教えられるのは、一人しかいない。

救いを求めている恭也の為に、命を掛ける気になっていた真一郎はある決意をした。

 

〈第一話 了〉

 


後書き

第一話いかがだったでしょうか

恭也「相川さんが過去の俺を救ってくれる……俺も事故の前にこういう人に出会っていれば……」

そうだね……

恭也「ところで、相川さんは子供の時の俺の為に何かしてくれようとしているみたいだけど」

真一郎の習性、『救いを求めている人のところに吸い寄せられる……行き着く先が炎でも…「別にいいよ」といってしまう』……それが、出てしまっているのです

恭也「大丈夫なのか」

一応、ご都合話なので、何とかなるよ…。では、これからも私の駄文にお付き合いください。

恭也「よろしくお願いします」




好きなようにと言われ、早速過去を変えるとは。
美姫 「過去を変えても問題ないみたいね」
みたいだな。そして、真一郎が何か決意していたみたいだけれど。
美姫 「うーん、それまでの言動からまさかとは思うけれど」
やっぱり、それかな。
美姫 「さてさて、どうなる事やら」
次回も待ってます。



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