『真一郎、御神の剣士となる』

第九話 「真一郎、再び霊障に遭遇する」

 

本日、真一郎は日直である。

しかし、相方はインフルエンザに罹り欠席している。

そんな日に限って、教師は真一郎に放課後、使わなくなった教材を旧校舎に運ぶ仕事を言いつけた。

それほど重いものというわけでもないが、1人ではどうしても2往復しなくてはならない。

そこで、真一郎は1日下僕になっているいづみに手伝わせることにした。

「……何故、他クラスの仕事の手伝いを……」

「約束は約束だぞ、御剣…」

「わかっていますよ、真一郎様!」

1日下僕なので、真一郎に対し、敬語で『様』付けのいづみであった。

「あれ、相川先輩に御剣先輩?」

「えっ、相川君と御剣さんかいるの?」

旧校舎に向かう途中、猫達と戯れていた小鳥とさくらと出会った。

「やあ、さくらちゃん」

「野々村、何していたんだ?」

旧校舎の近くで小鳥と出会ったいづみは、怪訝そうな顔で小鳥を見つめた。

「ああ、さくらちゃんと一緒にここに集まってくる野良にゃんこと遊んでいたんだよ」

野良の癖に妙にさくらに懐いている猫達を幸せそうに抱いている小鳥であった。

「先輩達はどうしたんですか」

「いや、うちの担任に使わなくなった教材を旧校舎に片付けて来いといわれてね」

「……だったらなんで御剣さんがいるの?御剣さんは唯子と同じクラスでしょ……」

真一郎は、ことの詳細を小鳥達に説明した。

「……相川君…あんまり御剣さんを苛めちゃ駄目だよ!」

「……野々村やさしいな……」

「約束は、約束。行くよ下僕君……」

 

 ★☆★

 

「何故付いてくる?」

「相川君が、御剣さんに酷い命令をしないか見張ってるんだよ」

さくらと共に真一郎達に付いて来た小鳥が言った。

「……なあ、野々村……どうして、私と居るときは相川の事を『相川君』って言うんだ?」

「えっ?」

「いや、唯子と3人で話しているときは、相川のことを『真くん』って呼んでいるじゃないか……でも、私が居ると『相川君』って呼ぶ……ちょっと、阻害されているように感じてしまうんだ……」

「はわわ!そんなつもりは……」

いづみの指摘にすっかり恐縮してしまう小鳥。

「……小鳥は顔見知りが強いからな……俺や唯子以外にはついそうなってしまうんだよ……小鳥、ここらで改めた方がいいんじゃないか……御剣だって大事な友達だろ……それに、御剣は俺達が幼馴染だってこと知っているんだし、普段どおりにしていいんじゃないか……」

「うん、そうだね真くん……ご免ね御剣さん……」

「いや、こっちも悪かったよ……変な事言って……」

「……で、ところでさくらちゃんはどうして付いてきたの?」

場の雰囲気を和らげようと、真一郎が話題を変えた。

「……私、旧校舎に入ったことありませんから、一人で入るのも抵抗がありますので、皆さんと一緒なら心強いと思いまして……」

そう答えたが、実際、真一郎といづみの仲が気になって付いて来たさくらであった。

 

 

「そういえば、旧校舎に関する怪談を聞いたことがある……」

教材を片付け、帰ろうとしたとき、小鳥が突然話し出した。

「真っ黒い服を着た女の人がいてね、話し掛けると質問されて、ちゃんと答えられないと…ずっと付き纏われて殺されちゃうんだって……とくに優等生や不良っぽい子が狙われるんだって」

「よくある怪談だな……大体……」

そこで真一郎は言葉を止めた。

そんな危険な霊がいるなら、神咲先輩が放っておくわけがない……と続けようとしたが、薫が退魔師であることは、親しい友人以外に伏せていることを思い出したからだ。

すでに、ここにいるメンバーは薫と親しくなっているが、それでも本人の承諾なしに話すことではない。最も、『夜の一族』のさくらは知っているだろうが……。

「何、真くん?」

「いや、何でも……ん!?」

真一郎は視界の隅に動くものを見つけた。

それは、黒っぽいシルエットで、校舎の暗がりでに溶け込むように消えた……ように見えた。

長い髪が、なびいていたようにも……見えた。

「どうしたんだ、相川?」

「いや、あそこに誰か居たような……」

「えっ、もしかして例の女の人?」

小鳥が怯えた表情になった。

「………」

さくらの表情が引き締まった。何かを感じたようだ。

「確かこっちに……あれ、行き止まり?」

彼女の向かった方は机の山で行き止まりになっていた。

「君、何か用?」

突然声を掛けられ、真一郎は驚愕した。

『高町恭也』の察知能力を持つ真一郎がいつの間にか背後を取られていたからだ。

「なんか、探しているみたいだったから……」

その少女は、セーラーカラーは白だが、黒い上着にラインなしの真っ黒なスカートに黄色いリボン……校章ワッペンも着けておらず、学年が分からない。そもそも、このタイプの女子制服は見たことがなかった。

「相川!」

「真くん!」

「相川先輩!」

いづみ達が真一郎に駆け寄ってきた。

さくらは、彼女を見て心配そうな顔になっていた。

「あら、お友達と一緒だったの……ていうか、女の子ばっかり……君、もてるのね…」

「はわわ!わたしと真くんはそんな関係じゃ……」

女性の指摘に何故か慌てる小鳥。

「そんなことより、貴女はここで何をやっているんですか?」

学年色がない為、学年が分からないのでとりあえず敬語で話すいづみ。

「あたし、ここ好きなの……君たちはここに何しに来たのかな?」

「私達は、先生に言われて使わなくなった教材をここに片付けに来たんです」

いづみがここに来た目的を説明していた。

真一郎は、この女性の気配が普通の人間のものではないことを感じ取っていた。

「……君は……もしかして…実体化した幽霊……」

真一郎の呟きを聞いた小鳥が嗜めた。

「真くん。失礼だよ……大体まだお昼だし、幽霊さんなわけないじゃない…」

一般的に幽霊は夜に現れるものと考えられている、確かに夜のほうが出やすいが、実際はそうではない。

真一郎は『高町恭也』の記憶でその事を知っていた。

『高町恭也』の妹、なのはの友達の『アリサ・ローウェル』。

彼女と同じ幽霊であるアリサは、なのはと昼も会っている。

そのことを、なのはから聞いていた『高町恭也』の記憶により、真一郎はその事実を知っていた。

「……どうやら、君には少しだけど霊力があるみたいだね……それに、そっちの黄色の制服を着た子はかなり強い力を持っているようだし……」

女性は、真一郎とさくらを見てそう呟いた。

『夜の一族』であるさくらは、当然霊障に対応できる能力がある。

さくらは、退魔師の真似事もできるのだ。

そして、真一郎に霊力がある理由。それは………

真一郎は元々潜在的に霊力を持っていた。それが『高町恭也』の魂と融合し、超越者に特殊能力を与えられたとき、その副作用で霊力が覚醒したのだ。ちなみに霊力に関しては【実力を把握させない】能力の対象外である。

しかし真一郎の霊力は、同じように何かのきっかけで霊力が目覚めたさざなみ寮管理人、槙原耕介のように退魔師になれるほど強力なものではなかった。

一般人の霊力を1とすると、真一郎は25。忍が75。さくらが83。薫が94。耕介が100である。

50以上なければ退魔師にはなれない。故に真一郎の霊力は、多少強いというくらいである。

それでも、人と実体化する霊の区別はついたのだ。

「……じゃ、本物の幽霊さん!?」

小鳥の表情が怯えたものに変わった。

そんな小鳥を見て、寂しそうな顔になる女性。

「……小鳥、大丈夫だよ。この人は悪い霊じゃないよ……そうだよね、さくらちゃん」

「……ええ。でも、どうして私に聞くんですか、先輩?」

「……だって、さっきこの人がさくらちゃんかかなり強い力を持っているって言ってたから……」

真一郎は、そう誤魔化した。

本当は、さくらが『夜の一族』であることを知っているからなのだが、久しぶりに『高町恭也』スキル【真顔で嘘を吐く】を発動させ誤魔化す真一郎であった。

「俺の名前は相川真一郎。ねぇ、君……名前はなんて言うの?」

「あははっ!君、面白いね。幽霊の私を見て、そんなフレンドリーに話し掛けてくるなんて……。私の名前は『春原七瀬』よ。よろしくね」

「よろしく。で、あそこに居る男みたいな奴が御剣いづみで、ちっこいのが野々村小鳥、で、そっちの可愛い子が綺堂さくらちゃんだよ」

「待て、誰が男みたいな奴だ……」

余りに失礼な紹介をされたいづみが、真一郎に文句を言う。

「なにかな、下僕君?」

「ぐっ……」

しかし、本日いづみは真一郎の下僕である。強くは出れなかった。

真面目ないづみは約束を反故にすることはしないからである。

真一郎が、行き過ぎた命令(犯罪行為やスケベな事)をしない限りは、命令に従わざる得ないいづみであった。

「あはは。大丈夫だよ、いづみちゃん。私はいづみちゃんの事可愛い女の子だって認識してるから」

七瀬もかなりフレンドリーに接し始めた。

「……ありがとうございます春原さん」

いづみも彼女が悪人には見えず、対話し始めた。

「さっきは、ごめんなさい春原さん……」

小鳥が先程の態度を謝った。

「気にしなくていいよ。普通、幽霊に遭ったら怯えるのは当たり前だから。むしろ、真一郎君の態度が普通じゃないと思うよ」

「それは酷い」

笑いながら、拗ねた真似をする真一郎だった。

 

 ★☆★

 

春原七瀬は今から27年前に亡くなった風芽丘学園の生徒であった。

死因については話してもらえず不明のままである。

ずっと独りぼっちだったので寂しさが募り、たまたま旧校舎に訪れてた真一郎達の前に現れたのだ。

最初から、幽霊である事を見破られるとは思っていなかったようだが……もっとも、真一郎が気付かなくてもさくらが気付いたの筈だが……。

話し込んでいるうちに、真一郎と意気投合していった。

真一郎は、昔から気に入った相手に全然人見知りすることなく話しかける。

寂しい思いをしていた七瀬にとって、真一郎の性格は心地よい物だった。

七瀬がかなりの年上である事を知り、いづみ、小鳥、さくらの3人は『春原先輩』と呼ぶようなり敬語で話すが、真一郎はタメ口で話していた。

「じゃあ、また遊びに来るよ。約束だ…」

真一郎がそういうと七瀬は、少し悲しそうな顔で答えた。

「私、『約束』って嫌いなんだ……」

その表情を見て、真一郎は約束が彼女の禁句であることを悟り言い直した。

「じゃあ、七瀬と遊びたくなったら来るから、期待しないで待ってて」

「うん。待ってるから、気が向いたら会いに来てね」

七瀬は笑顔に戻り、真一郎達を見送った。

 

真一郎達は帰って行ったが、さくらだけがその場に残った。

「どうしたの、さくら?」

七瀬は、さくらのことも気に入ったのか、笑顔で問いかけてきた。

「春原先輩……先輩は純粋な思念体ですから、存在し続けるには大量の熱量が必要ですよね……」

「そうだね……でも、真一郎君たちから少しだけ貰えば、それでみんなと楽しむだけの時間くらいなら大丈夫だよ…」

「すいません。私は体が弱いので、先輩に生気を分けてあげる事ができなくて……」

『夜の一族』として、普通の人間より強いさくらだが、定期的に人間の血液を摂取していないため、貧血気味である。それゆえ、七瀬に生気を分けてあげられないのだ。

「気にしなくていいよ、さくら。健康を害さない程度に皆から少しずつ貰うからさ。それより、友達が一杯できて嬉しいんだ、私」

七瀬は、本当に楽しそうにしていた。

 

 ★☆★

 

真一郎は学校から帰った後も、下僕期間を引き延ばすため公園に行き、遅くまでいづみと一緒に居た。

「まだ、続くの?」

「当たり前だ。今日1日って約束だろ…これでも遠慮して、犯罪はさせてないだろ」

「考えにはあったのか……ですか?」

「あはは、んなわけないっしょ。もうちょっと付き合ってよ、御剣、バイト遅番なんでしょ?」

それからいろいろ命令をしていたら、いづみのバイトの時刻が近付いてきたので、最後に肩を揉んでもらうことにした。

「んっ……そこ…」

「気持ちいいですか?」

実際、いづみのマッサージは上手く、とても気持ちいいようだ。

「んー……っっ、あ、そこ…いい…っ!!」

「そんな色っぽい声出さないでください。周りに誤解されますので……」

まるで女性の喘ぎ声の様な真一郎の声に少し頬を染めながら、いづみが文句を言う。

真一郎の肩こりはすっかりと良くなった。

「あーっ気持ちよかった。じゃあ、俺も御剣を揉んであげよう」

「肩ならお願いする」

「ちっ!」

露骨に残念そうな顔になる真一郎。

「ちっ、ってなんだ、私の何処を揉もうとしてたんだ?」

「そりゃ、乳とか尻とか…」

「お前、そんな顔して意外とやらしいのな…」

素直に言う真一郎に、少し呆れるいづみであった。

いづみの肩を揉みながら、真一郎は内心どきどきしていた。

普段、いづみとは男友達のような関係で、よく、いづみの事を男扱いしているが、実はしっかりといづみを意識している真一郎だった。

今も、しなやかな筋肉が付いているが、それでも女の子らしく柔らかいいづみの身体をしっかり意識している。

真一郎はいづみに対し、かすかな好意を寄せている。

まだ、本人も気付いていない僅かな好意だが……確かに真一郎の胸の中に存在していた。

しかし、唯子や小鳥、さくらたちに対する好意も存在する為、いづみに対する思いがどれだけ強くなるかわ、まだ分からなかった。

「あ〜、スッキリした…」

10分間肩を揉み続けようやく終わった。

その後お互い、帰宅するため公園を出た。

「……相川…女の子だったら良かったのに……それとも、私が男だったら良かったのかな」

突然、そう呟いたいづみに対し、不思議そうな目で見つめる真一郎だった。

 

いづみもまた、真一郎を意識していた。

仲のいい異性の友達……綺麗な顔をした男。

喧嘩した後も、翌日になれはいつもどおりの関係に戻る。

そんな、関係。

だが、たまに真一郎を見て胸が締め付けられる感覚を味わうときがある。

いづみは、真一郎に対する好意を確かに感じていた。

しかし、いづみには目標がある。一人前の忍者になるという目標が……。

だから無意識に、そんな自分の気持ちに気付かぬフリをしていた。

 

さて、いづみの気持ちはこれからどうなるのであろうか?

 

 ★☆★

 

後日、真一郎達は唯子や瞳、みなみとななかと大輔を連れて旧校舎に連れて行き、七瀬に紹介した。薫は既に七瀬のことを知っていたし、七瀬に怖がられているので寂しそうな顔をしながら遠慮していたが……。

本来、怖がりのみなみだが、薫から悪い霊ではないと聞いているし、十六夜でなれているので特に怖がったりはしなかった。

七瀬は、唯子とななかと大輔とも仲良くなったが、瞳とは馬が合わないのかよく口げんかをする仲になったようだ。

 

〈第九話 了〉

 


後書き

 

はい、いかがだったでしょうか?

恭也「今回は、春原七瀬という幽霊との出会いか」

ああ、そういえばお前は知らない人だな、七瀬は。

恭也「ああ、薫さんやさくらさんは彼女の事を俺に話してはくれなかったからな…」

そうだな。ちなみにさくらが七瀬に生気を分け与えてもらえないのは、この時のさくらは本当に体が弱かったからである。原作では真一郎から血を提供を受けていたから、さくらの生気をもらえていたのだ。

恭也「なるほど」

では、これからも私の駄文にお付き合いください

恭也「お願いします」




七瀬の登場。
美姫 「こっそりと会うかと思ったけれど、意外というか」
お昼にばったりという出会い方だったもんな。
美姫 「全員が受け入れて、しかもかなりの人数と知り合いになったわね」
だな。これからの展開がどうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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