『真一郎、御神の剣士となる』

第二十八話 「真一郎、山に行く」

 

私立風芽丘学園。

この学校は、今時珍しく週休二日制ではない。

しかし、その代わり『秋休み』があるのだ。

真一郎は、恭也と美由希と晶、いづみ……そして、都合が付かず、先日の出稽古に不参加だった唯子と瞳らと共にこの秋休みを利用して、稲神山に山篭りをすることにした。

無論、恭也たちが通う小学校には秋休みなど無い。

当然、桃子は恭也と美由希が参加することには反対していた……が、恭也の粘り強い『説得』に折れ、許可を出した。

しかし、流石に学生達だけで山篭りをするのは危ない……とのことなので、美沙斗と火影が保護者として引率することになった。

『高町恭也』の能力を持つ真一郎や、忍者のいづみ、幼い頃、父と共にサバイバル経験をした恭也等は特に問題ないが、他のメンバーはちゃんとしたキャンプ場以外での野営は経験が浅いからである。

「火影さん……結構暇なんですね?」

「まあ、俺たちのような稼業を生業とする者が忙しいのも問題だろう……と、いうより上からも休みを取れと五月蝿くてな……」

なんだかんだで働き者である火影に休みを取らすのは大変だ……と、後に上司が語る。

「弓華も連れてきたかったのが本音なんだが……流石に難色を示されてな……まだまだ皆に電話をすることも許されない状況だから……」

保護観察中の弓華は、まだまた旭川の御剣家から出ることは許されていない。

火影のもう一つの目的は、そんな弓華の近況を真一郎達に伝えることも入っていたようだ。

ちなみに小鳥とさくら、みなみは不参加である。

小鳥は、父の仕事が忙しくなりその世話をしなければならないし、料理の達人とはいえ、やはりアウトドアでの料理には慣れていないからである。

さくらは、忍と共に一族の集まりの方に参加しなければならず、今回は参加できないかった。

みなみと薫は部活がある為、翌日から参加することになっている。

護身道部は、秋休みの間は自主練習をすることになっているらしい。

 

 

 

稲神山の渓流地帯上流に到着した真一郎達は、さっそく準備にかかった。

真一郎と火影が慣れた手つきでテントを張り、食料と薪の調達をすることになった。

「しんいちろ……わざわざ現地調達するの?」

お米や缶詰等の日持ちする食料は持ってきている。

「あのな……そういうのはもしもの時の非常食だ…。この山はそれなりに山の幸が豊富だからな……第一、あれだけしかない缶詰……お前なら一日で食い尽くしてしまうだろうに……」

呆れた口調で答える真一郎に、唯子は頬を膨らませた。

「酷いなぁ〜〜〜!唯子だってそんなら食べないよ……」

「嘘付け!」

瞬間に火影か突っ込みを入れる。

以前、みなみと共に財布の中身の殆どを食い尽くされた苦い記憶が……。

他の皆もちっとも信用していなかった。

「みんな酷い……」

と、拗ねる唯子だった。

 

とりあえず分担として、薪を取りにいくのは火影、唯子、ななか。山菜や茸の採集は美沙斗、美由希、瞳。魚釣りは真一郎、恭也、いづみ、晶である。

魚釣りのメンバーがこの四人に決まったのは、淡水での釣りで使う餌は蚯蚓や川虫なので、女性は抵抗があるだろう。唯子などは触ることすら出来ないし………。

いづみや晶は、性格的に男に近く、釣りの経験もあるので問題ない。

山菜に関しては、知識の無い者だけだと毒草や毒茸などを間違って採ってしまい、食中毒の危険があるので、そういう知識のある美沙斗が中心に行うことになった。

薪に関しては、火影がいれば特に問題はない。唯子とななかはただ運ぶだけである。

 

 ★☆★

 

「美沙斗さん……茸の見分け方何ですけど、どういう基準で見分けることができるのでしょうか?」

幼い美由希は勿論のこと、瞳はあまり茸狩りの経験が無いので、サバイバルに慣れている美沙斗が頼りだった。

「茸の確実な見分け方なんてモノは存在しないよ……。『縦に割ける茸は食べられる』、『毒茸の色は派手で、地味な色で匂いの良い茸は食べられる』、『銀が変色しなければ食べられる』、『虫が食べる茸は人間も食べられる』、『茄子と一緒に食べれば中毒にはならない』、なんてのは何の根拠もない迷信だから……アテにしたら駄目だよ」

事実、猛毒を持つ虎列刺茸、毒笹子は縦に割け、地味な色である。

これらの俗説、迷信が広まったのは、明治時代に国の機関紙である官報に流布していた俗説を事実の誤認し掲載してしまったのが原因という説がある。

「とりあえず、日本で最も多い毒茸は紅天狗茸だけど、致死性が高いっていうのは誇張だよ。死亡例は2件……しかも北米でしか報告されていないからね……。だからといって食べるのはお勧めしないから、採らないようにね」

他にも椎茸によく似ている月夜茸の幼菌には注意が必要である。

椎茸と間違って食べ、病院に搬送される例は珍しくない。

月夜茸は成菌は、むきたけ、平茸にも似ているのでこちらも注意が必要である。

特に『今昔物語』では、平茸と偽り月夜茸の汁物でもてなし、毒殺未遂の逸話が記載されている。

前述した虎列刺茸は、栗茸、楢茸、榎茸、滑子に類似しているのでこれも注意が必要である。

「とりあえず、山菜をメインにして採集を始めようか……あと、全部採りつくさないようにね」

「えっ、どうして…!?」

いっぱい採った方が楽しそうなのに……と、美由希が疑問に思い問うてきた。

「後から芽が生えてくるからといって全部採ってしまうと、周囲の雑草に負けて枯れてしまうからね……」

美沙斗が優しく、愛娘に理由を説明していた。

あと、山菜採りの注意事項としては、茸同様、山菜に似た毒を持った植物などがあること。

日本の山林は全て所有者がいるので勝手に山に入り山菜を採ることは窃盗になるので気をつけること(稲神山は所有者が一般に開放しており、真一郎達も許可を取っているので問題はない)。

食用に適さない大きさのものは採取せず、適した大きさのものでも枯れさせない為、一株に一本は残しておくこと。

先に誰かが採取した痕跡のある場所ではあえて残しておいたものまで採取してしまい、枯らしてしまう恐れかある為、採取せず場所を変えること。

遭難の危険がある為、注意すること。

季節によっては熊と遭遇する可能性がある為、鈴かラジオなどを持っていくことなどがある。

 

 

 

薪を採りに言っていたメンバーが戻って来て、釣りメンバーの方に視線を向けると……皆さんかなりヒートアップしていた。

「よし、これで6匹目だ!」

「甘いな恭也君。俺はこれで8匹目だ!」

「私はまだ4匹だ……真一郎様と恭也君は凄いね……」

「………まだ1匹…。ボウズよりはマシだけど……」

火影が覗いてみると、恭也は岩魚2匹に雨鱒2匹、虹鱒2匹。真一郎は山女魚4匹、岩魚3匹、虹鱒1匹。いづみは虹鱒3匹に岩魚1匹。晶は虹鱒1匹だった。

「ほう……ここの川はけっこう釣れるようだね……」

特に真一郎が釣っている山女魚は、岩魚や虹鱒に比べ警戒心が強く、釣る際には気配を感じさせないのが重要である。

しかし、『高町恭也』の能力を持っている真一郎にとって気殺は特に苦ではない。

釣りに関しては、真一郎と『高町恭也』の共通している趣味である為、今の真一郎の釣り技術は2人の技術が上手く融合して、『高町恭也』を上回っているくらいである。

美沙斗達山菜採りメンバーが戻ってくるまでにさらに増え、恭也が12匹、真一郎が16匹、いづみが8匹、晶が4匹を釣り上げた。

「ちぇっ、結局俺がビリか……」

一番釣れなかった晶が少し拗ねていたが……。

「俺はちょっと釣れすぎたかな……」

真一郎は、過去最高の釣れ具合に驚いていた。

 

 

真一郎達が釣った魚と、美沙斗達が採ってきた山菜を調理し、食事を始めた。

ちなみに恭也の釣った雨鱒は、焼くと味わいがなくなるので放している。雨鱒は焼くよりもバターと合わせてムニエルにした方がいいのだが、生憎パターは持ってきていないので、放したのだ。

「今日は大漁だったようだけど、明日も上手い具合に釣れるとは限らないんじゃないの?」

今日の量には満足しているが、明日も同じくらい釣れるのか心配する唯子が訪ねてきた。

「心配するな……明日、合流する予定の薫さんと岡本達ががカレーの材料を持ってきてくれる予定だから、明日はカレーだよ」

ちなみに明日来るメンバーは2人の他に、さざなみ寮の管理人である槙原耕介と、寮生である仁村知佳、陣内美緒、リスティ・C・クロフォードの3名も加わる予定であった。

「……そんなに大所帯で鍛錬になるのかい?」

「まあ、俺たちが実戦形式で鍛錬している時は、他の人たちは別の場所で遊んでもらいますけど……ね」

流石に素振りなどとは違い、御神流の野外での実戦形式はあまりにも危険すぎるので、あまり近寄ってもらっては困るのだ。

 

 

 

「そろそろ皆が寝る頃だね……、恭也の鍛錬に付き合ってくれるかい?」

夜も大分更け、そろそろ皆が寝静まる頃、美沙斗と真一郎は、恭也を伴い森に入る。

闇夜の見通しの悪い場所……、暗殺と護衛を請け負う『御神』の特性上、最も遭遇しやすい状況で鍛錬する。

この実戦的な考えこそ、古流として、そして実戦流派として今もなお最強と歌われる御神流の強さの秘密の一つであった。

 

〈第二十八話 了〉

 


後書き

恭也「久しぶりの更新だな」

そうだね……、今回は特に恋愛関係の話にはしなかったな。

恭也「と、いうよりうんちく話じゃないのか……今回?」

まあ、あくまで資料を基にして書いただけなので、間違っているかもしれないから……その手の突っ込みは止めて下さいね」

恭也「………確かに、おまえ自身は釣りも山菜採りもやらないからな……」

さて、やはり『時空を超えた黄金の闘士』を優先して執筆するので、次が何時になるかは分かりませんのであしからず……。

では、これからも私の作品にお付き合い下さい。

恭也「お願いします」




今回は山篭りだな。
美姫 「人数は恭也と美由希の時よりもかなり多いけれどね」
美由希よりも恭也を主に鍛えるみたいだし、師の役が二人もいるからかなり身にはなりそうだな。
美姫 「真一郎の介入で未来がどう変わり、そして恭也や美由希がどこまで成長するのか」
どちらも楽しみだな。
美姫 「本当よね。次回も待っていますね」
ではでは。



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